2020年3月

国語1

2020.3.7

飲み屋で隣り合った紳士。職場でかなりのストレスがたまっているようで、ビールをあおるピッチも早い。
「はっきり言うが、俺は大した学歴じゃないよ。一応四年制大学だが、誇って名前を出せるような大学じゃない。特に先生みたいなお医者さんの前ではね。
学歴のない俺だが、それでも、学歴は重要だと思う。
よく教育評論家みたいなのが言うだろう。『学歴ではない。企業側は人間の内容を見て採用すべきだ』とか。
違う。まったく現場をわかっていない暴論だよ。
うちの会社の人事にも、『人格重視。学歴は問わない』みたいなスタイルの人がいて、それで何度失敗したことか。一回採用してしまったら、たとえ無能な奴でもなかなか首にできないんだよ。
だから俺は人事には口を酸っぱくして言ってる。
『まず、Fラン大学ははずせ。産近甲龍も要注意。あとAO入試かどうか、入学の仕方もよく見ておけ。出身高校も注意。地元の二番手三番手の公立高校出身者はリスク因子。一見優秀そうな関関同立にも時々ハズレがあるから、注意しておけ』と。
立命館の教授に知り合いがいるんだが、嘆いていたよ。AO入試で入る学生がどんどん増えてきて、ついには6割もAO入試からとるようになった結果、学生の質が、もう、目も覆いたくなるくらいに低下した、と。ろくに勉強せずに大学に入って、大学でもフラフラ過ごし、立命館っていう学歴だけ笠に着て就職する。でも会社は、採用してからそいつの無能さに気付く。
あまりにもそういうバカ学生が多いものだから、企業側もついに懲りた。採用試験で『大学には普通の筆記試験で合格しましたか?AO入試で合格しましたか?』と聞くようになった。AOはずしだよ。

先生、いくつ?40?じゃあ、ゆとりじゃないだろ。
先生よりもっと下の世代はさ、ゆとり世代ど真ん中。大学全入時代で、たいした勉強もせずに大学に入学して、テキトーに学生生活を過ごしている。
びっくりするほど無能なのがいるんだよ、本当に。
ある新卒に指示したんだよ。『取引先が相場の2割引き以上で受注してくれるなら、その仕事、取ってこい』って。そしたら、そいつ、2割の意味が分からなかった。

え、信じられないって?そう。俺も最初、信じられなかった。2割の意味がわからないっていう、そのこと自体がよくわからなかった。
『分数ができない大学生』という本があるが、あれは本当だよ。漢字の読み書きが全然できなくて、契約書もろくに交わせない、っていう奴もいたな。

学歴社会を批判する人がよく言うだろう。『二次方程式の解の公式なんて世の中に出て使ったことは一回もない。因数分解なんて何の役にも立たない』とか。
なるほど、確かにそうだろう。うちの業界の営業職で、数学を使うことは少ないかもしれない。でも、算数は絶対に要る。
うちとしては、ときどき出くわすそういうジョーカーみたいな無能を引くリスクを抱えたくないんだ。『学歴よりも個性重視』みたいなのが世間の風潮だが、俺は断固として、学歴は重視したい。だから人事に必ず言っている。学歴は見ろ、と。
数学ができる奴なら、算数でつまづいていることはないだろう。入社試験でそれなりの文章が書ける奴なら、契約書も読めないなんてことはないだろう。そういう具合に、”最低限”の基本がある人間が欲しいんだ。多くは求めない。せめて、算数と国語ができる。それだけでいい。
もちろん優秀ならそれに越したことはないが、採用において一番大事なのは、”ジョーカー”をひかないこと。これに尽きる。
人事部はもっと責任感を持って選考して欲しい。新卒が入社後に”ジョーカー”だと判明したとするだろう。今ね、その新卒を採用した人事担当者を減給とか何らかのペナルティーを課せないか、真剣に考えている。当然その逆があってもいい。優秀な新卒を見出した担当者には、ボーナスにちょっと反映してやるとかね。

この試験を見てみなよ。君なら何点とれる?

数学というか、算数に毛の生えた程度の問題だ。1個2個の計算ミスは大目に見るが、基本、みんな満点をとる。
しかし今うちの現場で扱いに困っている社員は、この試験で、なんと、4点だった。
もうね、そういう学生は問答無用で不採用にしないといけない。無能な新人が来て一番割りを食うのは、現場なんだ。
数学とか国語ができるというのは、単にそれだけじゃない。頭がいいし、能力が高い、ということだと俺は思っている。学歴は、やはり、重要だ」

真菌、コレステロール、癌24

2020.3.7

以前載せた画像を再掲する。

この図の語るところは多い。
癌細胞は、スタチンのせいであれ何であれ、メバロン酸の合成経路が破綻している。メバロン酸が作れないから、以下のカスケードの産物(イソプレノイド、コレステロールなど)も作れない。
このような状況下では、細胞は健全な機能を維持するために、イソプレノイドを猛烈に求めている。イソプレノイドを得ようとして、リダクターゼを作りまくる。この作り過ぎたリダクターゼが細胞内のゴミとなって、細胞機能はますます異常をきたす。
つまり、「イソプレノイド飢餓」を解消しようとする試みが空回りし、「リダクターゼ毒性」にやられる、というのが根本にある病態生理である。
イソプレノイドを投与すると癌抑制効果があるというのは、だから要するに、フィードバックである。
たとえメバロン酸の供給がなくても、ひとまずイソプレノイドさえあれば、細胞は暴走(癌化あるいはアポトーシス)しない。

だから、「スタチンを飲むのなら、せめて毒消しとしてコエンザイムQ10(ユビキノン)も飲んでおけ」ということである。
そもそもスタチンを飲まないことが第一だけどね。

以前のブログで、この論文を紹介した。
『イソプレノイドを介したメバロン酸合成の抑制〜癌への応用の可能性』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10460692
論文中に、以下のような表がある。

様々な癌細胞に対して増殖を抑えるために、どのイソプレノイドをどれくらいの量使えばいいのか、ということを検証した結果をまとめたものである。
一番左の列に各癌細胞のタイプ、その隣の列には各種イソプレノイド。その隣はIC50(半数阻害濃度)、という具合に並んでいる。
上記のイソプレノイドをざっと列挙すると、、、
リモネン、ペリリン酸化合物(ぺリルアルデヒド、ペリリルアルコール、ペリリン酸メチルエステル)、シネオール、ピネン、メントール、ゲラニオール、β-イオノン、トコフェロール(α、γ、δ)。
いろいろあってややこしい、と思われるかもしれないが、それほどでもない。
これらは、「だいたい似たもの同士」と思ってもらってよい。
化学式を持ち出せば化学の苦手な人はウンザリするかもしれないが、構造式で見たほうが統一的に把握できる。

リモネン(柑橘類の果皮に含まれる)もピネン(松などの針葉樹に含まれる。松(pine)から発見されたからpineneなわけだ)もメントール(ハッカに含まれる)も、メンタンから生成される。
上記研究では挙げられていないが、カンファーにも抗癌作用があり、実際ガストン・ネサンの作った免疫強化剤714-Xはクスノキ由来の樟脳(カンファー)から生成されている。いわゆる”カンフル注射”(強心剤として用いられた)のカンフルは、カンファーが語源であることからわかるように、カンファーはかつて医療現場でも使われていた。
ペリリン酸はリモネンとピネンの中間代謝物。癌患者にリモネンを投与すれば、尿中にはペリリン酸として排出される。もちろん、ペリリン酸にも抗癌作用がある。
β-イオノンは、産業的には香料の原料としてよく用いられる。タバコ、茶、ヘナ(髪染めで有名)に多く含まれている。
ゲラニオールは、その名前から予想できるように、ゼラニウムから発見された。バラに似た芳香があり、香水として広く用いられている。

ざっと見て、「トコフェロール(ビタミンE)以外、どれも”いいにおい”じゃないか」ということに気付かれるだろう。
イソプレノイドが総じて”いいにおい”である、ということが、僕にはとてもおもしろい。

「癌細胞は特有のにおいを放っている」という話を聞いたことがありますか?
というか、そもそも、癌に限らず、病気には固有のにおいがある。歯周病が臭いのは当然だし、蓄膿症も特有のにおいがある。糖尿病患者が甘酸っぱい体臭を放つことは有名だろう。他には、肝臓病患者のネズミ臭、腎不全患者のアンモニア臭、痛風患者のビール臭が知られている。
東洋医学では嗅診(においによる病気診断)を行うように、ある種の病気に特徴的なにおいがあることは常識である。
では、癌のにおいとは?
癌が進行すれば、癌細胞の壊死による腐敗臭がするだろうが、初期の癌患者でも尿中に癌の代謝物が排出されている。嗅覚に優れた犬はそのにおいによって癌患者を識別できるという。
『犬は肺癌を嗅ぎ分けられるのか?肺癌疑い患者における呼気と尿を使った検証』
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.3109/0284186X.2013.819996
結果、感度99%で肺癌患者を嗅ぎ分けたというのだから、大したものだ。

癌を真菌感染症だとする立場に立てば、癌から腐敗臭がするのはむしろ当然である。
そして、その癌を抑制するイソプレノイドが総じて”いいにおい”であり、まるでその芳香によって腐敗臭に対抗している構図になっている。
イソプレノイドが、”毒消し”であり、同時に”におい消し”にもなっているところが、自然の妙というか、できすぎたくらいによくできた話だなと思う。

参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(James Yoseph著)

2020.3.7

犬が欲しい。
ふと気が付くと、ユーチューブで犬の動画を見ている。
『犬の遊ばせ方』とか『犬とのコミュニケーションのとり方』とか、まるで、すでに犬を飼っている目線で見ている。我ながらヤバいなぁ^^;

こういうときの僕は、多分、人に疲れている。
別に誰かに手ひどく裏切られたとか、ショックなことがあったとか、そういうわけじゃない。
ただ、何となく、犬のピュアさ、人間に対する、疑うことを一切知らない完全な忠実さに、ものすごく憧れたりする。
そういう関係性を、誰か(人でなくてもいい)と築けたら、どれほど素敵なことだろう。
そういう思いで、犬の動画を延々見ている。

現実的には、飼えない。
そもそも、今住んでるところがペット禁止っていうね´Д`
仮にペット可のところに引っ越したとしても、仕事が忙しい。勤務時間が終わっても、ブログだ何だと、いろいろ書いている。
勤務時間のほうは始まりと終わりがきっちり決まっているが、ブログだ何だのほうは、半ば趣味である。書くべきことは、ほとんど無限にある。それだけに、時間をどれだけつぎ込んでも終わりがない。
しかしそういうことに打ち込んでいては、犬の相手をする時間なんて、とてもない。
子犬を飼うとなれば、あちこちにおしっこするだろうから、掃除もしないとけない。散歩はもちろん、遊び相手にもなってあげないといけない。
犬のために時間をとられ、ブログの更新は停滞するだろう。
「時間をとられる」などと思っている時点で、僕には犬を飼う資格がないのだろう。
犬に限らず動物を飼うということは、その命に対して責任を持つということだから、そのときの気分だけで飼うことはできない。

子犬のうちはともかく、3才くらいになってある程度落ち着いてくれば、犬を診察室にいれてやるのもありかもしれない。
これは僕のアイデアではない。フロイトが実践していたことである。

フロイトが患者の診察に際して、愛犬(チャウチャウ犬の「ジョフィ」)を同席させていたことは有名である。
この事実で以て「フロイトは世界で初めて、犬をセラピードッグとして用いた」とする向きもあるが、意味合いがちょっと違う。
フロイトは「犬には人の気持ちを察する能力がある」と考えていた。診察時、ジョフィが患者のそばで座っているときは患者がリラックスしている合図、ジョフィが診察室の床に寝そべっているときは患者がナーバスになっている合図、診察を終わらせるタイミングはジョフィが伸びをするとき、という具合に、診察を進めるヒントとしてジョフィの仕草を参考にしていたという。
犬の賢さを実臨床でリアルに利用していたのであって、治療的な効果を意図していたわけではないようだ。
でも僕が患者の立場なら、診察室に犬がいたら、それだけで何だか気分がやわらぐ感じがすると思う。

そう、犬や猫などの動物と触れ合うことによって、何らかの”癒し”を感じる人は多い。
これは錯覚なのだろうか。それとも、医学的な裏付けがあるのだろうか。
AAT(animal assisted therapy;動物介在療法)の有効性については、すでに多くのエビデンスがある。
たとえばこういう論文。
『動物介在療法(AAT)~メタ分析』
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.2752/089279307X224773
AATの有効性を調べた250の論文のうち、質の高い49の研究を選び、メタ分析したところ、以下の4領域(自閉症スペクトラムの症状、医学で対処困難な症状、行動障害、情緒的健全性)において中程度の有効性があった、とのこと。
さらにこんな論文。
『動物介在療法~それは魔法なのか、医学なのか』
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022399900001835
動物介在療法が効くのかどうか、生理学的に客観的な指標で確認したい、ということで、人(n=18)と犬(n=18)の触れ合いの前後で、血圧低下に関連する神経化学物質を6種類測定した。結果、注意喚起に関連する神経化学物質が人、犬両方で有意に増加していた。
「注意喚起に関する神経化学物質(neurochemicals involved with attention-seeking)」というのが何なのか謎だけど^^、犬と遊んでいるときには人間も「かまってちゃん」になるのかもしれない。
他にも、血圧・心拍の低下、通院頻度の減少、コルチゾールの低下(ストレス軽減)、オキシトシン増加(情動安定)、ドーパミン増加(意欲増大)、副交感神経優位(リラックス作用)、うつ症状の軽減、喪の作業(mourning works;親しい人が亡くなった現実を受け入れる心理的過程)の負担軽減、といった効果が報告されている。

喪の作業の負担軽減、というのは非常によくわかる。
母が亡くなったとき、父の悲しみようは並大抵ではなかった。ひどい抑うつで、いっそ母の後を追いたい、という雰囲気さえあった。
そういう父を支えになっていたのは、二匹の飼い猫だったと思う。
猫は、何もしない。一日中寝ているばかり。たまに気まぐれに足元にすり寄り、エサをくれと甘える。
エサやトイレの世話があるから、父も悲しみにひたってばかりはいられない。手間のかかる生き物のおかげで、父はずいぶん救われたと思う。

動物によって癒やされるのは人間ばかりではなく、なんと、動物も癒やされるようなんだ。
今日、こんなニュースを見た。
『重病動物の横で添い寝する癒しの”ナース猫”』
https://www.epochtimes.jp/p/2020/03/52635.html

ゴリラや大型犬が猫をかわいがる動画を見たことがあるけど、猫をかわいいと思うのは人間だけじゃないんだな。
犬の話が、いつのまにか猫になってた(‘Д’)

右と左

2020.3.6

以下のリンク先動画は、先月韓国で行われた『四大陸フィギュアスケート選手権2020』に出場した羽生結弦の演技である。

ノーミスの演技で、世界最高得点を叩き出した。
フィギュアスケートという競技で成し得る美の究極形、と言っても過言ではない。

さて、今回のテーマは「羽生結弦のすごさ」ではなく、「右と左」である。
羽生選手がジャンプするときの、回転の方向に注目してみよう。左回転していることに気付くだろう。
そう、フィギュアスケートという競技は、総じて「左回転のスポーツ」である。
それぞれのジャンプ(アクセルもルッツもフリップも)は左回転で跳んでいるし、パフォーマンス自体が、リンクを左に回りながら進行する(陸上競技のトラックも左回りに走る)。
ただ、これはルールで決まっているわけではない。実際、右回転のジャンプで世界的な成績を残す選手も数多くいる。しかし多くの選手(特に日本ではほぼ全員)が左回転の演技をしている。

なぜ左回転が多いのか?
ふと、「反重力が関係しているのではないか?」と思った。
反重力については、以前のブログで紹介した。
早坂秀雄氏は「垂直方向に右回転しながら落下する物体では、上向きの力が加わる」ことを発見した。
これは現代物理学(ニュートン物理学もアインシュタイン物理学も含めて)の常識を根底から揺さぶる仕事であったが、当局から黙殺された。従って当然、今の学校教育でも早坂氏の業績が紹介されることはない。
しかし当局が反重力の存在を認めようが認めまいが、「あるものは、ある」のである。
それは、フィギュアスケートのように回転が関係する競技はもちろんだが、そもそも、万物は粒子から成り、粒子がスピン(回転運動)しているのだから、恐らく地球上に存在するすべての物質に、反重力が影響しているはずである。

フィギュアスケートの選手の場合、右回転のジャンプをすると、反重力による上向きの力が加わり、その分、滞空時間が長くなるから、右回転のほうが有利なように思える。
しかし、現状、左回転の選手のほうが多い。つまり、反重力では説明できないわけだ。
単純に、以下のような理由によるのかもしれない。
・指導者の都合・・・将来有望な子供が右回転ジャンプが得意だった場合でも、左回転に矯正する。左回転の選手が多いから、右回転の選手が彼らと衝突してケガをしても困る。アイスリンクの広さは、有限なのだ。
・軸足・・・多くの人は右利き(右手利き、右足利き)である。左足で踏み込み、左回転し、右足で着氷する動きのほうが自然。

指導者から矯正されようとしたが左回転にどうしてもなじめず、そのまま右回転のスタイルで貫き通して、結果、世界的な選手になった人も少なくない。
こういう選手は反重力をうまく使っているんじゃないかな。

こういうことを考えたきっかけは、岡澤美江子先生の『天の配慮』を読んだことがきっかけである。同著に、このような記述がある。
「自然は右回転が基本である。
人間の体のなかは、すべて右回りである。体のなかにすっぽり収まっている、全長10メートルにも及ぶ胃腸は右巻きである。
地球の自転は、地軸の北方向を正として右回りである。水のたまった桶の底に穴をあけ、水の落ちる様子を観察すれば、右回りの渦を作って流れていく。
ツル植物のほとんど(ツヅラフジ、アケビ、ヤマフジ、アサガオなど)は右回りのつるを巻く。これは生育場所(北半球、南半球)を問わない。種(DNA)に固有の性質である。
植物ばかりではなく、カタツムリの甲羅、サザエの貝殻なども右巻きの造形を示す。
自然界の「右回り好み」は流体にも見られる。
川を見よ。一見まっすぐに流れているように見えても、実は微妙に右回転しながら流れている。だから、自然と右側に蛇行していく。
この回転により水が適度に撹拌を受けることで、たとえば真夏でも水温が極端に上がることがない。水生生物の生存に好ましい環境を提供することになる。
我々の体内、血流だってそうである。血液は右回りのらせんを描きながら体内をめぐっている。果てはDNAの二重らせんさえ、右巻きである」

『天の配慮』の共著者大友慶孝先生は、これら「右と左」が歯科に及ぼす影響を考察した。
つまり、たとえば歯医者でインプラント(顎骨に埋め込む人工歯)固定術を受けるとき、そのインプラントは右回りの回転軸で埋め込まれる。
これは受け手側(患者側)にとっては、左回りの伝播となる回転軸であり、体にとって生理的ではない。体内の負荷を引き起こし、結果、体液のORP(酸化還元電位)が酸化側に傾くことになり、慢性疾患の背景となる。
このように、体内に「右と左」の齟齬を組み込まれた患者では、北半球に位置する日本列島において、高気圧(右回り気流)のときは体調に問題は出ないが、低気圧(左回り気流。台風、突風、竜巻など)は負担となり、体調不良を訴えることになる。

この指摘は実に新鮮だと思った。
僕の患者にも、天気の具合が体調にモロに影響する人が確かにいる。症状の出方は、頭痛、めまい、持病の関節痛の悪化など、人それぞれだが、皆共通して、低気圧のときの不調を訴える。なかには「今日は体調が悪いから、天気がこれから崩れるはず」と、体調から天気の変化を予想できる人さえいる。しかもその予想が、気象予報士よりはるかに精度が高かったりする^^;
インプラントを受けているわけではなくても、もともと「右と左」に起因する不調が背景にあって、それが低気圧によって表面化する、ということかもしれない。

動植物の「右と左」は、案外簡単に撹乱する。
たとえば、ツル植物は巻き付く対象物によってツルの右巻き左巻きが変化する。木々などの自然物に巻き付くときは右巻き、金属やナイロン紐には左巻きになることが多い。
胎児に無害とされるエコーであるが、中国で行われた人体実験によれば、胎児期のエコー曝露の時間が長いほど、出生後に左利きになる可能性が高くなることがわかっている。
「右と左」のキラリティを混乱させる何らかの因子があるのだろう。

「右と左」の齟齬が病気の原因になり得るのならば、逆に、この齟齬を是正するアプローチによって、症状が緩和するかもしれない。
岡澤先生も著書のなかで、「右回りのらせん回転動作によって、還元力が高まる可能性」を追求したいと書かれていた。
確かにおもしろいテーマだよね。

参考
・ここでいう右巻きは、いわゆるZ巻きのこと。このあたりはウィキペディアの「右巻き、左巻き」が詳しい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B3%E5%B7%BB%E3%81%8D%E3%80%81%E5%B7%A6%E5%B7%BB%E3%81%8D

AはZ巻き(左下から右上に向かうよう)、BはS巻き(右下から左上に向かうよう)。
・『天の配慮』(岡澤美江子、大友慶孝共著)

真菌、コレステロール、癌23

2020.3.5

タマネギにカビが生えたとして、そのカビの生え方を、よく見て欲しい。

オレンジ色の皮の部分は無傷で、白い可食部分にカビが生えている。
もちろん、タマネギの皮にはカビが生えない、というわけではない。真菌の繁殖条件(湿度、温度、pHなど)を整えてやれば、皮もきっちり分解する。「形あるもの(有機物)は、確実に葬り去り、次なる命への肥やしとする」これが真菌の仕事である。カビこそ真の、必殺仕事人、である。
真菌は、決して手抜きをしない。「この世向きでない有機物」があれば、それがどこにあろうとも(それがたとえ、生きている人間の体であろうとも)、土に還そうと試みる。
僕らはこの状態を、僕らの都合上、「病気」と呼んでいる。仕事熱心な真菌としては、実に心外な表現である。彼らは自分の仕事をしているに過ぎない。

しかし、なぜだろう?
なぜ、タマネギの皮はカビが生えにくいのだろうか?
誰に頼まれずとも黙々と仕事をこなすカビである。そのカビさえも、タマネギの皮の分解がやや苦手だというのは、よほどのことである。
これは皮に含まれるケルセチンの作用による。

ケルセチンには抗酸化作用がある。
カビは酸性環境下(アシドーシス)で働きが高まるから、酸化を抑制する成分に対しては、分解作業が難渋する。
ところでそもそも、生理学的な意味でいうところの酸化とは、「活性酸素の産生が抗酸化防御能を上回った状態」である。火消しの量よりも可燃物のほうが多くあるということで、酸化と炎症はおおむね同義語だと考えてよい。
慢性的な炎症が癌や動脈硬化のもととなり、動脈硬化は万病(たとえば高血圧)のもとになる。
さて、ここでケルセチンを投与するとどうなるか?火消しを投入するのだから、効果はお察しの通りである。
『食品中のポリフェノールが、アポリポタンパクEノックアウトマウスの動脈硬化に対して、炎症および血管内皮細胞の機能不全を緩和することにより、改善効果を示した』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20093625

要するに、抗酸化作用とは抗炎症作用であり、さらに網羅的に述べるなら、抗動脈硬化作用、抗脳疾患作用、降圧作用、抗腫瘍作用、血管弛緩作用などである。

ケルセチンは、分子としては、こういう形をしている。

ところで、ルチンやヘスペリジンという言葉を聞いたことがあるだろうか。
ルチンはソバに、ヘスペリジンは柑橘類の皮に含まれている成分として有名だ。
実はケルセチン、ルチン、ヘスペリジンは、いずれもビタミン様物質(厳密にはビタミンではないが、ビタミンのような働きをする物質)である。
ルチンもヘスペリジンも、分子的には、ケルセチンに配糖体がくっついた形をしている。
具体的には以下のようである。

ルチン↓

ヘスペリジン↓

ケルセチンに、オリオン座みたいな鼓形のやつが2つくっついて、ルチンやヘスペリジンができる。くっつく場所が違うだけだから、働きはおおむね同じ(根っこは抗酸化作用)だと思ってよろしい。(もちろん、サリドマイド(光学異性体)の例を考えれば、「形が似てれば、生理的作用もだいたい同じ」とは必ずしも言えないが。)

さらに、ケルセチンの摂取によって、血中グルタチオン濃度が上がったという報告もある。
『ケルセチンはヒト動脈血管内皮細胞におけるグルタチオン濃度と酸化還元反応に影響するが、これはケルセチン-グルタチオン結合体の細胞内輸送とグルタミン酸-システインリガーゼのアップレギュレーションによるものである』(長いタイトルやのぉ)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5011167/
グルタチオンというのは、要するに、解毒酵素である。これが体内で誘導されるということは、まず、吉兆である。

「なるほど、カビ毒にはケルセチン、ルチン、ヘスペリジンのサプリだな!」と飛びつかないこと。
もちろん、科学の導き出した興味深い知見であるから、それを実生活に生かそうとすることは、基本的に賢明な姿勢である。ただ同時に、どのようにしてその成分を摂るのか、という視点も持ちたい。
ビタミンCやナイアシン、有機ゲルマニウムを高用量で摂りたいときには、さすがに食品では無理があるから、上手にサプリを利用すればいい。
しかし、基本は食品からの摂取である。
玉ねぎを料理するとき、食べるのは実の部分ばかりで、皮は捨てているだろう。ミカンを食べるときも、皮は捨てるだろう。今回のブログは、要するに「ゴミが薬だった」という話である。
玉ねぎの皮や、乾燥させたミカンの皮を、ブレンダーで砕く。それを瓶に保存し、適量飲む(1日小さじ3杯とか)。成分を抽出・精製したサプリには含まれていない様々なバイオフラボノイドが生きていて、サプリ以上に有効だろう。
そんな手間は省きたい、という向きには、玉ねぎの皮の粉末が売っている。興味のある人は検索してみるといい。

カビ毒に効く栄養素の話は、次回にも続きます。

参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(James Yoseph著)