2019.7.10
知能と血中ビタミンC濃度の関係について、Kubala and Katz(1960)がこんな報告をしている。
被験者は3都市にある四つの学校(幼稚園から大学まで)の学生351人である。
彼らを血中ビタミンC濃度測定の結果をもとに、高ビタミンC群(血液100mlあたり1.10㎎以上)と低ビタミンC群(100mlあたり1.10未満)に振り分けた。
さらに社会経済的な指標(家族の収入、両親の教育歴)をもとに調整してペアを作り、各群から72人を選んだ。
すると、高ビタミンC群の平均IQは低ビタミンC群よりも高かった。
具体的には、平均値で高ビタミンC群は113.22、低ビタミンC群は108.71と、4.51の差があった。
条件を均一に調整した両群でこれだけの差が生じる確率は、5%以下である。つまり、統計的な有意差を以て、IQの違いが確認されたということだ。
ここまでで、「血中ビタミンC濃度の高い人は、親の年収や学歴とは無関係に、IQが高い」ということが言えた。
この研究では、さらなる介入を行った。
両群の被験者に6カ月間オレンジジュースを飲んでもらい、その後、IQを再度測定した。
すると、高ビタミンC群ではIQの増加はごく軽微(+0.02)だったが、低ビタミンC群ではIQが3.54増加した。
偶然にこれだけの差が生じる確率はやはり5%以下で、統計的に有意な差である。
この結果を踏まえて、どういうことが言えるか?
「頭の良さは、作れる」ということである。
「まさか。単にオレンジジュースを飲むだけで、頭が良くなるとでもいうのか?」
そう、この研究は、そのまさか、が事実であることを示している。
ただし、同時に限界をも示していて、もともと血中ビタミンC濃度が高い人では、6カ月間毎日せっせとオレンジジュースを飲み続けても、IQの増加はごくわずかだった。
「血中ビタミンCが低いことが原因でIQが低い人」に対しては、IQを上げることが可能だよ、ということ。あくまで条件付きということだね。
ビタミンC欠乏性IQ低下症、とでも呼ぶべき人が存在するわけで、この研究はそういう人にとっては福音だと思う。
だって、単にオレンジジュース飲むだけで頭が良くなるんだから。
ところで、頭が良いからって、一体何の意味があるのか?
世の中には、おバカキャラゆえに愛される人もいる。
それに、頭の良さが幸せに直結するかといえば、必ずしもそうとは言えない。高い知性ゆえに、苦悩もまた増えるものだ。
『アルジャーノンに花束を』がそのあたりの事情を上手に描いていたよね。
しかしそれにもかかわらず、頭の良さは、あって損はないと僕は思う。頭の良い人はアホな振りができるけど、逆はできない。
学業、仕事はもちろん、人間関係でも優位に事を進められるだろうし、スポーツのように運動能力が求められる分野でも、知性がものをいう。
IQと収入に相関があることは、多くの研究が示しているところだ。
自分自身の社会的成功、あるいは我が子の幸福を願う人にとっては、ビタミンCの効用を使わない手はない。
上記の研究にはさらに続きがある。
人数をもう少し絞って、各群32ペア(合計64人)の被験者を、さらにもう1年追いかけた。
つまり、18カ月間、64人の被験者フォローし、この間4回の血中ビタミンC濃度測定と知能検査を行った。
その結果は以下のようである。
グラフを見てわかるように、血中ビタミンC濃度が50%上昇すると(血液100mlあたり1.03㎎から1.55㎎に増加すると)、IQが3.6上昇している。
この増加は、成人がビタミンCの摂取量を1日あたり50㎎増加させることで(1日100mgから150㎎に増加させることで)生じた変化である。
この研究を行ったKubala and Katzは以下のように結論している。
「知能検査によって算出されるIQのばらつきの一部は、そのときの栄養状態が反映されている。
少なくとも今回の研究で明らかになったのは、柑橘系、あるいはビタミンCを含むその他の栄養分がIQに影響している、ということである。
ビタミンCの摂取が減少することで、頭の切れや鋭さが低下する」
またこの研究では、血中ビタミンC濃度とIQに正の相関が見られたが、血中ビタミンC濃度が血液100mlあたり1.55㎎だったときに最も知的パフォーマンスが高かった。
この濃度は、70kgの成人が1日180mgのビタミンCを摂取することで達成できる。
この研究は1960年に行われたものだから、研究で使用されたオレンジジュースは、多分、ちゃんとしたオレンジジュースだったと思う。
ちゃんとした、という意味は、現代のスーパーで一般に売っているような濃縮還元のバッタもんジュースとは違う、ということだ。
だから、この研究を見習ってIQを高めるためにオレンジジュースを飲もうという人は、メーカーとか品質にはこだわったほうがいいよ。
ジュースではなくサプリでビタミンCを摂るのなら、180㎎といわず、もっと多めに摂るといい。
天然のビタミンCと合成のビタミンCではずいぶん吸収率が違うから、たとえばビタミンC(1錠1000㎎)のサプリを、毎日1錠摂るといい。
それだけで、メンタルパフォーマンスを高く保つ一助になるはずだ。
参考
How to Live Longer and Feel Better (Linus Pauling著)
2019.4.6
「いやぁ、先生、この前50gのビタミンC点滴を受けたんだけどね。受けた直後は、特に何もなかった。
でもその日の夕食のとき、普段はけっこう少食なほうなんだけど、食欲がすごくてね。いつもより多く食べれた。
あれはきっとビタミンCの効果だと思うんだけど、そういうこと、ある?」
壊血病(ビタミンC不足の成れの果て)になると、食欲不振になることは昔から知られていた。拒食症とビタミンC不足の関係も指摘されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27502755
ビタミンCが食欲に作用する、というのはあり得ることだ。
ひとつの機序として、まずビタミンCは免疫系に作用する。
具体的には、血中ビタミンC濃度の上昇に伴って、白血球の遊走能、貪食能が高まる。
file:///C:/Users/user/Downloads/nutrients-09-01211-v2.pdf
いわば、体の中の掃除屋が活性化する格好だ。
不健康な細胞にアポトーシスを起こして体の中からご退場頂くなど、いわゆるデトックが促される。
こうして異化(組織を壊すこと)が亢進すると、同時に同化(組織を作ること)も亢進する。
スクラップ・アンド・ビルド(破壊と再生)は、町の工事現場で起こっているだけではなく、僕らの体の中でも起こっているのだ。
新たにビルドするには、新たな材料が必要になる。こうして食欲が亢進するわけだ。
「ということは、ビタミンCをとれば食欲が亢進して太ってしまう、ということか」と思われるかもしれない。
しかし矛盾するようだけど、以下のような論文がある。
『非喫煙者の成人において、血中ビタミンC濃度は体格指数(BMI)とウェストサイズと逆相関の関係にあるが、血中アディポネクチン濃度とは相関がない』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17585027
タイトルが内容を簡潔に示している。要するに、血中ビタミンC濃度が高いほど、スリムな体型をしているということだ。
アディポネクチンというのは脂肪から分泌される生理活性物質。インスリン感受性に関わっていて抗糖尿病作用があるが、奇妙な振る舞いをする。つまりアディポネクチンは、血中グルコース濃度の低いとき(空腹時)には食欲を抑制し、高いとき(満腹時)には食欲を亢進させる。同じ物質が、状況次第で真逆の働きをするわけだ。さらに奇妙なことに、アディポネクチンは脂肪から分泌されるのにもかかわらず、肥満の人では分泌量が少ない。
http://www.jichi.ac.jp/openlab/newsletter/h56_spletter.pdf
体感としてちょっとわかるのは、空腹感もある程度時間が経つと慣れてくるし、逆に、飲み会なんかで延々ダラダラと食べ続けることもできたりする。
臨床的には、拒食症患者の6、7割は過食症も併発する。
こういう背景には、アディポネクチンの両義的な性質が関与しているのかもしれない。
もうひとつのメカニズムとして、糖代謝が関与している可能性がある。
https://academic.oup.com/ajcn/article-abstract/60/5/735/4732022?redirectedFrom=PDF
『血糖値の正常な成人にビタミンCを大量投与すると、グルコース負荷に対するインスリン分泌が遅延する』という論文。
要約
アスコルビン酸の大量投与が経口グルコース負荷試験(OGTT)後のグルコース代謝およびインスリン分泌にどのような影響を与えるかは知られていない。
プラセボ対照二重盲検によって、血糖値の正常な健康な被験者(22±1歳)に、最初の2週間をウォッシュアウト期間として全員にプラセボを服用させ、その後の2週間、アスコルビン酸(1日あたり2g)あるいはプラセボを服用させた。そして一晩絶食させた後、OGTTを行った。
この4週間の研究を、クロスオーバー方式(実薬群とプラセボ群で、投与薬を入れ替えること)で再び繰り返した。
結果、食後1時間後の血糖値は、ビタミンC服用群がプラセボ群に比べて有意に上昇していた。
血中インスリン分泌曲線は、ビタミンC服用群ではベースラインよりも右方移動していた。血中インスリン濃度は、食後30分では有意に減少していたが、食後2時間では有意に増加していた。血糖値の正常な成人において、血中アスコルビン酸濃度が高いと、グルコース負荷に対するインスリン分泌が遅くなり、そのことで食後の高血糖が延長する、というのがこのデータの意味するところである。
なぜこのような影響が見られるのか。グルコースが膵臓のβ細胞に輸送される際に、血中を循環するアスコルビン酸濃度が高いと、グルコース輸送の競合的抑制が起こることが機序の一端であると考えられる。
ビタミンCとグルコースの分子式を見比べると、とてもよく似ている。
細胞が内部にグルコースを取り込むところ、血中に大量のビタミンC(グルコースと似て非なるもの)があると、グルコース代謝やインスリン分泌に影響が出るということだ。
食欲には他にもグレリン(食欲亢進ホルモン)やレプチン(食欲抑制ホルモン)が関わっていて、現状、研究はまだまだ発展途上で、食欲の全貌解明には時間がかかるだろう。
2019.4.5
毎日筋トレをしているけど、ステロイドを使おうなんて全然思わない。
でも筋トレをしているアメリカ人で、ナチュラルにこだわる人はむしろ少数派だ。
彼ら、簡単にストロイドに手を出す。「そのほうが能率がいいじゃないか」と。確かにそれはそうなんだけどね。
アメリカ人って、すごく頭のいい知的エリートもいれば、即物的でテキトーな人もいて、両極端な印象だ。移民とその子孫の国だから、本当、あの国は十人十色だな。
「テキトー派」は、簡単に薬を使う。気分が低ければ抗うつ薬や抗不安薬を使うし、眠れなければ睡眠薬を使う。こういう人たちが製薬会社の売り上げを支える上得意になっている。
知的に低いせいか、あるいは単純に副作用に無知なのか。
あるいは、国民性によるものか。善かれ悪しかれ、プラグマティズムが思考の根っこにあって、そのせいで薬に抵抗感がないのかもしれない。
たとえば、肥満を薬で治そう、っていう発想がすごい。
これは日本からはなかなか出ないアイデアだろう。生活習慣(食事、運動)を改善すれば治るし、それしかないって思ってるから。
日本で使える抗肥満薬としては、マジンドールとセチリスタットがある。
いつも思うんだけど、マジンドールってすごい名前だな^^;
ノバルティスの作った薬だけど、副作用(依存性、肺高血圧など)のために本家の欧米では販売中止になっていて、先進国で堂々と承認されてるのは日本くらい。
セチリスタットは日本で販売されてるけど保険収載されていない。買うなら自費、ということだ。オルリスタットという同じような薬があって、欧米ではこれが販売されている。
抗肥満薬の開発は1970年代に始まって、いろんな薬が現れては副作用のために消えていった。
たとえば、かつてフェンフルラミンという薬があった。食欲を見事に抑えてくれるということで、アメリカで一大ブームとなった。1973年に承認されてから20年以上にわたって、何百万人ものアメリカ人がこの薬を使った。しかし、肺高血圧や心臓弁の異常を引き起こすことが分かり、1997年に販売中止になった。
「危険な薬が市場から撤廃された。よかったよかった」で話は終わらない。
2002年にはフェンフルラミンを含むダイエット用健康食品で死亡事故が起こった。
フェンフルラミンと甲状腺ホルモンが入っていたという。フェンフルラミンで食欲を抑え甲状腺ホルモンで代謝をアップさせるという合わせ技を狙った商品で、確かにやせ薬としては効きそうだ。でも、やせるよりも先に死んじゃったら悲しいよね^^;
フェンフルラミンは、正規の販売ルートが閉ざされた今でも、「健康リスクをとってでも、何としてもやせたい」という人から根強い需要があって、ネット上でこっそりやりとりされていたりする。
『食欲低下薬とビタミンC:モルモットの食欲と脳中アスコルビン酸の役割』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7319724
要約
モルモットに食欲低下薬(フェンフルラミン、マジンドール、ジエチルプロピオン)を毎日投与する。その際、ビタミンCのサプリと一緒に投与する場合としない場合で、食欲や脳中アスコルビン酸濃度にどのような影響が見られるかを調べた。24日間の実験で、その期間中モルモットに与えるエサはビタミンCを含まないものである。
モルモットは壊血病を発症し、食欲低下薬の投与で食事摂取量が減少した。ただし、フェンフルラミン投与群やマジンドール投与群ではジエチルプロピオン投与群ほどの大きな減少は見られなかった。ビタミンCサプリの同時投与によって、これらの薬の食欲低下作用が有意に抑制された。
壊血病をきたしたモルモットの脳中アスコルビン酸濃度は、フェンフルラミン投与によって有意に減少した。しかしマジンドールやジエチルプロピオンの投与は、そのような減少を起こさなかった。
ビタミンCを投与すれば脳中アスコルビン酸濃度が上昇するのが普通だが、3種類いずれの食欲低下薬の投与によっても、この上昇が阻害された。
ジエチルプロピオンおよびマジンドールによって引き起こされる拒食状態において、脳中のアスコルビン酸濃度が代謝の調整に関与していると考えられるが、フェンフルラミンの投与ではそうではないと思われる。
「肥満は万病のもとだから、抗肥満薬を飲んででも肥満を解消すべし」というのが、抗肥満薬を処方する大義名分なんだけど、上記の実験によると、抗肥満薬とビタミンCの相性は悪いようだ。ビタミンCを飲んでいると薬の食欲低下作用が減少したということだから、抗肥満薬を飲んでる意味がなくなってしまう。
この結論を素直に読めば、「だから抗肥満薬を飲む人は、薬の効きをよくするため、ビタミンCの摂取を極力控えましょう」ということになりかねない。でも直感的には、こんな結論、間違っている。
抗肥満薬の服用によって脳内のビタミンC濃度の上昇が抑制された、というのも恐ろしい。脳内のビタミンC濃度は、血中ビタミンC濃度の10倍高い。脳はそれだけ大量のビタミンCを必要とするということだ。
そして脳内にビタミンCを取り込むのは、グルコース・トランスポーターだということがわかっている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9389750
ビタミンC、グルコース、食欲。
三者の間に相互作用があるに違いないのに、食欲低下だけをターゲットにしぼって投薬治療を行っては、そのバランスが崩れてしまう。このあたりが対症療法の限界ということだろう。
2019.3.10
特に病気のない人が、毎日の健康維持のためにビタミンCを摂るということであれば、サプリの経口摂取で充分だろう。たとえば1錠1000㎎を朝昼夕食後に摂るとか。
しかし、すでにある何らかの症状(疲労感や風邪から癌まで)に対する効果を期待してビタミンCを摂るのであれば、経口よりも点滴が効率的だ。
たとえばこんな文献がある。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15068981
『ビタミンCの薬物動態~経口投与および静脈投与の影響』というタイトル。
要約
高濃度ビタミンCは試験管内で癌細胞に対する毒性が示されている。末期癌患者に対するビタミンCの臨床研究は、当初、臨床的有用性が示されていたが、その後に行われた2件のプラセボ対照二重盲検では有効性が示されなかった。
しかしこれらの研究では、当初の研究とビタミンCの投与経路が異なっていた。
血中ビタミンC濃度が投与経路の違いによって変動するかどうかを見極めるために、17人の健康なボランティアを対象に研究を行った。
ビタミンC(用量は0.015~1.25g)を経口あるいは静脈から投与し、その後のビタミンCの血中および尿中の濃度を計測した。また、1~100gのビタミンC投与により血中濃度がどう変化するかを計算した。
結果、経口よりも静脈注射のほうがビタミンCの血中ピーク濃度が高かった。その差は投与量が増えるにつれて大きくなった。
ビタミンC1.25gの投与によって、平均の血中ピーク濃度は、経口では134.8 +/- 20.6 micromol/Lとなり、静脈注射では、885 +/- 201.2 micromol/Lとなった(+/-は標準偏差)。
薬物動態モデルでは、4時間おきに3gを経口投与(最大許容量)すると、ビタミンCの血中ピーク濃度は220 micromol/L、50gの静脈注射では13400 micromol/Lになる予測であった。また、薬物動態モデルによる予測では、静脈注射したときのビタミンCの尿中ピーク濃度は、経口で最大用量を投与したときの尿中ピーク濃度の140倍高かった。
結論としては、ビタミンCの経口投与では、血中濃度は厳密にコントロールされている。ビタミンCの静脈投与の場合にだけ、血中および尿中のビタミンC濃度が高かった。これによって抗腫瘍効果が生じている可能性がある。
ビタミンC治療の有効性は、経口投与だけを行った臨床研究では判断することはできない。癌治療に対するビタミンCの効能は再評価されるべきである。
経口よりも静脈から入れたほうが血中濃度が上がるという、当たり前といえば当たり前の話なんだけど、こういうことをデータできっちり示しておくのは意味のあることだ。
これを当たり前だとは思っていない医者がいるからだ。
1979年ポーリングとキャメロンがビタミンCの抗癌作用を明確に示したが、すぐにこれを否定する研究が出た。
この研究はびっくりするほどデタラメだった。
ポーリングの研究はビタミンCの静脈投与なのに、経口で投与していたり(同じ10gなら静注でも経口でも効果は同じ、とでも思ったか)、すでに抗癌剤も効かなくなったような末期癌患者を意図的に入れていたり、プラセボ群がこっそりビタミンCを飲んでいたりした。
これはネズミ相手の研究と人間相手の研究は当然違う。ネズミは無口だが、患者には口がある。「ビタミンCが癌に効くらしい」というウワサが広まるのを、研究者は止められない。末期癌患者も生きようとして必死だから、効くものは何でも試す。
こんな具合に、ほとんどRCTの体をなしてない研究だった。当然ポーリングたちも反論した。
しかし医学界はこの研究を有効として、ポーリングのビタミンCに関する仕事は闇に葬られることになった。
どういう方面から手が回ったのか、おおよそ予想がつく。安いビタミンCで癌が治っては、困ってしまう人たちがいる。抗癌剤という高価な毒物を売って儲けている人たちだ。
こういう現状には気が滅入る。でも僕の仕事は世直しじゃない。
医者として目の前の患者に向き合い、必要に応じてビタミンを使っていくだけだ。
2019.3.8
なぜコレステロールが高くなるのか。
「コレステロールから胆汁酸が作られる流れが滞っているせいかもしれない。そしてそれは、ビタミンC不足が原因かもしれない」という説がある。
40年以上前の古い論文だけど、紹介しよう。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1060410
『コレステロールおよび胆汁酸の代謝におけるアスコルビン酸(ビタミンC)』
要約
モルモットの潜在性慢性アスコルビン酸欠乏は、肝臓での代謝障害を引き起こし、コレステロールを異化し胆汁酸を生成するプロセスがうまくいかなくなる。
この代謝異常によって、高コレステロール血症および肝臓でのコレステロール貯留が生じ、コレステロールを排出する循環が滞ってしまう。
アスコルビン酸は、コレステロール核の7αヒドロキシル化の段階で胆汁酸を生合成する反応に関与している。
高用量のアスコルビン酸によってコレステロールから胆汁酸への移行が順調に進み、血中のコレステロールが減少する。
ビタミンCによるLDLコレステロール低下作用はメタ分析でも示されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2682928/
『ビタミンCサプリは血中LDLコレステロールおよび中性脂肪を減少させる〜13の無作為化比較試験(RCT)のメタ分析』というタイトル。結論だけ紹介しよう。
最低4週間、少なくとも1日500mgのビタミンCサプリを摂取することで、血中LDLコレステロールおよび中性脂肪が有意に減少した。しかし、HDLコレステロールの上昇に関しては有意差が出なかった。
メタ分析というのは、複数のRCTを総まとめにした研究で、エビデンスレベルとしては一番高いとされている。
つまり、ビタミンCのLDLコレステロール低下作用は、動物実験でもメタ分析でも示された格好で、まず間違いないと言えそうだ。
しかし実臨床ではどうですか?
コレステロール高値を見てシナールを処方する医者がいるとすれば、エビデンスに基づいたすばらしい医療で、こういう先生になら僕がかかりたいくらいだけど笑、そんな医者はまずいない。脂質異常症の診断で、スタチンを処方するに決まっている。
なぜか。
この理由は、まず一つには、医者の金儲けのため。
脂質異常症は特定疾患療養管理料が算定できるし、薬価の高いスタチンを売ることができる。慢性疾患だから、いったん患者になれば、一生通院し薬を飲み続けてくれる。病院の経営的には固定資産のようなもので、こんなありがたい上得意はない。
もう一つには、単純に医者が無知だから。
エビデンスレベルの極めて高い事柄であっても、医学部で教わらなければ、それは存在しないに等しい。よく勉強している良心的な医者が『高脂血症にはビタミンCが有効』と知って、スタチンの代わりにシナールを処方するなど、一般的ではない処方をするようになればどうなるか。彼は医局内で異端視されて、非常に肩身の狭い思いをするだろう。(僕も勤務医時代はきつかった)。
こうして患者が飲むのは、副作用のない安価なビタミンCではなく、副作用の多い高価な薬ということになる。
患者は金と健康を失う。
笑うのは医者と製薬会社だけ。
こんなデタラメが当たり前に行われているのが、今の日本の医療現場だ。
そりゃ保険診療制度が破綻の危機に瀕するわけだよなぁ。