院長ブログ

ナイアシン

2019.7.7

「ナイアシンを飲み始めてから、明らかに肌がきれいになりました。そういう作用もあるのですか?」
うつなど精神的な症状の軽快を期待して飲み始めても、ビタミンにはこういう、予期せぬボーナスがあるものだ。
「ナイアシンには血管拡張作用がありますからね。お肌の血流がよくなって、きれいになったということだと思います」
と答えていたのだが、最近読んだ文献によると、どうもそれだけではないようだ。

『ニコチンアミドの経口投与により経皮的水分喪失(TEWL)が減少する』
https://www.mdedge.com/dermatology/article/105426/atopic-dermatitis/eadv-oral-nicotinamide-reduces-transepidermal-water
ニコチン酸(別名ナイアシン)は、血管を拡張させる作用がある。これが皮膚の著明な紅潮や頭痛などの副作用を引き起こす。しかしニコチンアミド(ビタミンB3のアミド型)は、まったく別物と思ってよい。血管拡張の副作用がなく、安全性は確立している。
チェン医師は、ニコチンアミドの経口投与によって日光角化症(皮膚癌の前癌病変)を減らすことができるか、プラセボ対照二重盲検を行なった。
過去5年以内に少なくとも2個以上の非メラノーマ型皮膚癌を生じた患者386人を、ニコチンアミド投与群(500mg錠を1日2回経口投与)とプラセボ群に振り分け、12ヶ月フォローした。
ニコチンアミド投与によって非メラノーマ型皮膚癌の発生率が確かに減少することが、この研究によって示された。 (N Engl J Med 2015;373:1618-26)
この研究のもう一つのエンドポイントは、ニコチンアミドが皮膚のバリア機能にどのような影響を与えるか、経皮的水分喪失量(TEWL)を測ることで評価することだった。
上記の研究に参加した患者のうち292人に対して、開始時と3ヶ月おきに、前額、左前腕、左脚のTEWLを標準TEWL測定法によって測定した。その結果、ニコチンアミド群では、すべての測定でプラセボ群よりもTEWLが有意に減少していた。
たとえば、前額のTEWLは、プラセボ群よりも3ヶ月、6ヶ月時に5%少なく、9ヶ月、12ヶ月時に6%少なかった。前腕や脚では、12ヶ月時に7%少なかった。副作用はまったく見られなかった。
12ヶ月の研究期間中、プラセボ群のTEWLについて、夏は冬より15%多かった。
TEWLは季節によって変動するが、ニコチンアミドによって、その季節のTEWLのおおよそ半分が減少する、とチェン医師は語った。

ナイアシンの美肌効果が、ホットフラッシュに見られるような血管拡張作用によるものだとすると、ホットフラッシュを起こさないナイアシンアミドには美肌効果がないということになる。
しかし上記の研究で示されたように、機序は不明ながら、ナイアシン(研究で使われたのはナイアシンアミドだが、ナイアシンを使っても同様の結果が出たはず)には皮膚からの水分喪失を減らす作用がある。
これは要するに、肌の保湿力が高まったということだろう。
ナイアシンの美肌効果は、このおかげかもしれない。
アトピー性皮膚炎の患者は、角質層が薄く角質細胞間脂質(セラミド)が少ないことが知られている。つまり、保湿力が弱いため、乾燥肌になりやすい。
ということは、アトピー性皮膚炎の治療にナイアシンが有望かもしれない、ということだ。

アトピーの治療といえば、ステロイドかプロトピックぐらいしかなかった。
どちらも対症療法に過ぎず、しかも副作用がひどい。ステロイドを慢性的に使い続けた患者では、アトピー性皮膚炎というよりはステロイド皮膚炎になっていて、これは薬害そのものだ。西洋医学におけるアトピー治療は、もはや治療の体をなしていない。

人間の臓器のうち、最も大きいものは何か?
一般には、「肝臓」というのが答え。
しかし、「皮膚」と考える先生もいる。
そう、皮膚は外と内を区切る防御壁であり、発汗や立毛筋の収縮による体温調整、汗や皮脂を通じた異物の排泄、逆に経皮吸収など、様々な働きをするれっきとした臓器だ。
皮膚疾患は多くの場合、皮膚そのものの病気というよりは、何らかの病態が皮膚に反映されただけのことだ。乾癬にせよアトピーにせよ、症状の現れた皮膚を標的にした治療を続けているようでは、病気の本態が捕まることは永遠にない。
食べるものを変え、栄養の改善に努めること。
遠回りのようだが、根治に至る方法はこれしかない。

上記の研究は、栄養の改善に際して特にどういう点に気を遣えばいいのか、大きなヒントになる。
ナイアシンが皮膚の保湿力を高めてくれるというのだから、ナイアシンを含む食品を意識的に摂取すればいいし、あるいはサプリメントとしてナイアシンを摂取するのもいいいだろう。
ただしナイアシンにはホットフラッシュの副作用があって、アトピーの人ではかゆみがひどくなる可能性もある。
そういう意味では、やはりナイアシンアミドが無難かもしれない。

ナイアシン

2019.1.15

「先生、ナイアシンを飲み始めて2週間ほど経つんですけど、いい感じです。
冬のこの時期、毎年決まって、膝のこのあたりがカサカサになるんですけど、今、それがないんです。特に保湿しているわけでもないのに、潤ってます。
あと、私、夜寝ているときにトイレに起きちゃうんですけど、ナイアシンを飲み始めてから、それがなくなりました。
ナイアシンは睡眠の質を高めてくれる、って先生が言ってたから、そのおかげかな、って思います。確かに眠りの質もよくなりました。
あと、肩こりも何だか楽になりました」
連休明けの勤務。事務員から開口一番、このような喜びの声をもらった。
彼女は別段持病があるというわけでもないんだけど、ここで働くようになってからナイアシンのことを知り、試しに自分でも飲み始めてみたのだ。
文献から知識を得ることも大事だが、何よりも、こういうナマの声に接することが一番参考になる。
1日どれくらいの量を飲んでいるの?
「ソラレー社のナイアシン100㎎を1日3回です。
でね、先生、私、興味を持っていろいろインターネットでナイアシンのことを調べてみたら、怖い記述も見つけちゃって。
ナイアシンは肝臓によくない、っていうのを読んだんだけど、どうでしょうか。
私としてはお肌がきれいになったし、睡眠もよくなったから、続けたいと思っているんですけど」

そう、確かに、ナイアシンによって肝数値(AST、ALT)が軽度上昇することは普通に起こり得る。
しかし結論から言って、この軽度上昇を恐れてナイアシンを忌避するとすれば、それはまったくナンセンスだ。
心配ない。飲み続けてもらっていい。効果を実感しているなら、なおさらだ。
ナイアシンの肝臓への影響については、すでに十分な研究が行われている。
ここでオーソモレキュラー栄養療法の第一人者、ホッファーの論文を引用し、彼がナイアシンの肝臓への影響についてどのように考えていたのか、紹介しよう。
http://orthomolecular.org/library/jom/2003/pdf/2003-v18n0304-p144.pdf

肝機能検査に対するナイアシンの影響
ナイアシンやナイアシンアミドは、メチル基と結合する。つまり、体内で数少ないメチル基受容体として働いている。
従って、このビタミンの大量投与によって、メチル基欠乏が起こるというのは、筋の通った話だ。
別のメチル基受容体としては、ノルアドレナリンが挙げられる。ノルアドレナリンがメチル化すると、アドレナリンになる。
我々としては、ノルアドレナリンからアドレナリンの産生を抑えることによって、アドレノクロム(催幻覚物質)の産生を減らし、統合失調症の改善につなげたいと考えていた。
しかし、脂肪肝を生じる可能性を、我々は懸念していた。1942年、動物実験でナイアシンが肝臓にダメージを与えるという報告があったのだ。
しかしアルトシュールがこの動物実験を実際にやってみたところ、肝毒性は見られなかった。組織学的に調べても化学的に調べても、肝臓は至って正常だった。
我々はナイアシン治療を受けた患者に一連の検査を行ったが、肝臓へのダメージは存在しなかった。
ごくまれに、閉塞性黄疸を生じる患者があった。そういうときに私は、黄疸が軽快するまでナイアシンの投与を中止した。
中止したため、患者の一人では精神症状がぶり返したため、ナイアシンを再開したが、再び黄疸が生じることはなかった。
黄疸が生じることは極めてまれであり、私はこの20年、一例も見ていない。
しかし肝機能検査を行うと、ナイアシンやナイアシンアミドを服用している患者の一部で、数値の上昇が見られることがある。
これを見て、ほとんどの医師が「肝障害が進んでいる。ナイアシンは危険だ」と考えた。
パーソンズもそのように懸念していた医師の一人だったが、長らく研究と観察を続けた結果、最終的に「肝数値の上昇は、肝病変があることを意味しない」という結論に至った。
彼の結論は「ナイアシンには肝毒性はない」というものである。彼の考えは、1966年から1974年に行われたthe Coronary Drug Projectの結果を見て、確信に変わった。
この研究はナイアシンを服用する1100人を5年から8年追跡したものである。主席研究員のポール・カナーは、パーソンズに「ナイアシンに起因する異常は見られなかった」と語った。
パーソンズは以下のように結論した。
「肝数値の上昇は、上限値の2倍から3倍を超えているときにのみ、肝臓の異常を示している。肝機能を反映する酵素の軽度上昇は、ナイアシン治療の正常な反応であって、治療を中断する理由にはならない」
上昇した肝数値は、ナイアシンを継続して飲み続けていても正常値に戻るものだが、ただし徐放型ナイアシンを服用している場合は、肝数値の上昇はさらに大きくなる傾向がある、とパーソンズは指摘した。
私は肝炎のある患者に対しては、ナイアシンを高用量で投与しない。その理由は、それが有害だから、ではなく、もし何かが起こった場合にナイアシンのせいにされることが分かっているからだ。
カプッチは数十年にわたりナイアシンの研究を続けてきた。彼はレシチン1.2gを1日2回与えた患者では、肝数値の上昇がまったく見られないことを発見した。
マッカーティーはナイアシンによって生じるメチル基欠乏は、血中Sアデノシルメチオニン濃度を減らし、そのためにホモシステイン産生の増大につながるのではないかと唱えた。
この事態を避けるためには、ナイアシンと一緒にベタインのサプリを摂るといい、と彼は勧めた。
レシチンは安価で、手に入りやすい。レシチン、ベタイン、いずれもメチル基の供与体である。

徐放型ナイアシン(ナイアシンアミド、フラッシュフリーナイアシン)のほうが肝数値上昇への影響が大きい、というのは興味深い。
会社の健康診断などで、肝数値が高いと困る、ということであれば、健康診断の数日前からナイアシンの服用をいったん中止すればいいだろう。そうすれば数字はすぐに正常化する。
メーカー間の差異について、最近また「ナウのよりソラレーのナイアシンのほうがいいと思う」という声を聞いた。そろそろ切り替え時かなぁ。

ナイアシン

2019.1.7

仕事始めで、あけましておめでとうございます、とか紋切り型のあいさつをして、事務員と雑談しているときに、こんな質問を受けた。
「先生、ナイアシンってアレルギーにもいいんですよね。
私の兄がアレルギーで、ナイアシンに興味持ってるんです。でも痛風もあって、お薬飲んでます。
で、ネットで調べてみたら、ナイアシンは痛風にはあまりよくないって書いてあるんですけど、先生、どう思いますか。ナイアシン、飲んでも問題ないですか」
結論から言うと、問題ない。飲んでもらってオッケー。ただ、尿酸値は上がるよ。
「どういうことですか。尿酸を下げるための薬を飲んでるのに、尿酸が上がったらよくないんじゃないですか」

当然の疑問だろう。
これに対しては、大御所ホッファー先生の言葉をお借りして答えよう。
http://orthomolecular.org/library/jom/2003/pdf/2003-v18n0304-p144.pdf
この論文は、ホッファーがナイアシンの副作用に真正面から向き合ったものだ。
ホッファーは誰もが認めるナイアシンの第一人者である。ナイアシンが統合失調症、アルコール依存症にいかに効果的であるかをエビデンスで以って証明し、また、なぜ効果的なのかそのメカニズムを解き明かした人だ。
その彼が、ナイアシンの副作用をメインテーマに据えて書いた論文である。
栄養療法を実践する人なら、まず読んでおきたい論文だろう。
この論文のなかに、ナイアシンと痛風の関係性についての一項目がある。
ざっと要約しよう。
「痛風に対するナイアシンの効用
ナイアシンによって尿酸値が軽度の上昇を示すことは分かっていたが、これがためにナイアシン療法を忌避すべきではない、ということもはっきりしている。
疫学研究(the Coronary Drug Project)では、この介入研究に入る前の尿酸値は平均6.75だったが、ナイアシンを5年継続した後では平均6.80だった。
ナイアシンを服用した人々では、8.0を超える尿酸値だった。
しかしこれは、痛風の症状(尿酸結石の増加、急性痛風関節炎)がまったく増加していないことを考えれば、大したことではない。これは私の結論でもある。
私はナイアシンを痛風の危険因子とは考えていない。私の義父は関節炎と痛風の両方に罹患していたが、それらの疾患の間に関連性はなかった。
ナイアシンを摂るようになると、彼の関節炎は消失したものの、痛風発作には以前と変わらず苦しんでいた。
ナイアシンは、痛風エピソードを増やしも減らしもしない。
血中尿酸値の軽度上昇は、好ましい副作用だとさえ言えるかもしれない。
McCrackenによると、尿酸は中枢に対する刺激物質であり、尿酸の活性化(2000万年前に起こった遺伝子変異による)はこの点でむしろ有益だった。
大学教授(知的職業に従事する人)では、そうではない対照群と比べて、尿酸値が高い。
尿酸は抗酸化物質でもあり、これは体にとって、当然、非常に有益である。
従って、痛風が怖いからといって、ナイアシンの使用を控えるというのはナンセンスである。
万が一痛風が発症したとしても、その治療は極めて簡単である」

そもそも尿酸値は、現代医学では悪者ということになっている。
それは痛風発作、痛風結石を引き起こす憎むべき悪であり、数字が高ければすぐに下げねばならない、と。
コレステロールや血圧と同じ扱いだ。
コレステロールが高い?危険だ!動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞になるぞ。すぐに下げろ!
高血圧?危険だ!心血管系への負担が極めて大きく、やはり脳梗塞や心筋梗塞の発症リスクが上がるだろう。すぐに下げろ!
なぜ、コレステロールが血中にあるのか、なぜ血圧が高いのか。その必要性には一切目もくれず、とにかく下げろ下げろの大合唱。
もういい加減、こういう医療はやめときなよ。
クリニックをやり始めてからつくづく分かったんだけど、薬の売り上げって、経営的にすごく大きいんだよね。
医者も商売、やっぱりお客さんが欲しいから、「とりあえず薬を出しますね」、ということになりがちだ。
実際、一般的な内科の先生にとって、薬を出す以外にやってあげられることって、実質何もないんだよね。
医者であるからには、何かやってあげたい、と思う。
患者も、何かしてもらおう、という気持ちで来院している。
両者の思惑が合致して、一生続く投薬治療が始まる、というのが、病院の日常風景だ。
尿酸もそういうヒール役を引き受けていて、「高ければ下げろ!」的な立ち位置に置かれている。

ホッファーの論文にあるように、尿酸は本来抗酸化物質だ。
ビタミンCの体内合成ができなくなった人間にとっての、抗酸化力を保つ代替手段。それが尿酸だった。
だから、ナイアシンの服用によって尿酸が上がるということは、抗酸化力の上昇ということであり(ナイアシン自体、抗酸化ビタミンである)、本当は歓迎すべきこと、喜ぶべきことであるはず。
ところが事態はあべこべなんだ。
「尿酸が高いことは悪いこと」だと医者は学校で学んで信じているし、患者もしっかり洗脳されている。
でも、事実は違う。
単に尿酸が高いだけでは痛風発作の原因にはならない。
本当の原因は、もっと別のところにある。
そのあたりの真相をお見せしましょう。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken1952/24/5/24_5_271/_pdf
1971年と古い論文だけど、いまだに説得力を失っていない。
要約部分をざっと訳すと、、、
MSG(グルタミン酸ナトリウム。要するに、味の素のこと)のナトリウム毒性を証明するために、塩化ナトリウムへの感受性が高いことで知られるヒヨコを実験動物として選んだ。
MSG、塩化ナトリウム、グルタミン酸カリウム(それぞれ、ほぼ等張液)を飲み水の唯一の供給源として、ヒヨコに自由に飲ませた。
MSGを与えられた二日齢のヒヨコは痛風のため数日後に死んだ。生理食塩水を与えられたヒヨコよりも高い死亡率を示し、病変部の症状が重かった。
一方、グルタミン酸カリウムを与えたヒヨコでは死亡や衰弱する個体はなかった。
MSGを与えたことによる二つの主な特徴は、腎臓病の急性発症と大量の尿酸塩の蓄積であり、主な組織学的変化としては、腎尿細管の変性と集合管の結石による閉塞だった。
半分の濃度で実験しても、MSGの投与によって、腎葉の萎縮が見られ、痛風で死亡する個体もあった。
ナトリウム毒性のみならず、グルタミン酸も尿酸形成に何らかの影響を及ぼしていると思われる。

プリン体を避けるよりも、まずは味の素を避ける。
このほうがはるかに実際的で効果的だと思う。
そのためには、外食も極力控えたほうがいい。食事は、加工食品ではなく、自分で作って食べよう。
家で使っている調味料とかも案外盲点で、まず、裏の原材料表示を見よう。
「調味料(アミノ酸等)」というのは、要するに、「毒が入っています」というのの婉曲表現だよ笑
味の素社も、もっと自社商品に自信があるのなら、こんな遠回しな表現をやめて、しっかり「味の素」って表記すればいい。
なぜそれができないか。
自社商品が体に悪いってことは、とっくの昔から彼らにも分かってるんだよね。

ナイアシン

2018.12.19

ナイアシンの作用に驚く人は多い。
驚く、というのは、長年悩んでいた不安症状がやわらいだ、とか、不眠が軽減した、とか、関節痛がマシになった、とか、甘いものを食べたい欲求が減ったとか、その治療効果に驚いた、という意味と、あともう一つ。
ホットフラッシュ(紅潮)に驚いた、という人。
ナイアシンを勧める前に、フラッシュがあり得ることについては説明している。
それでも、驚く。
人によっては、「ひどいフラッシュが出た。熱いような、かゆいような感じが気持ち悪いので、飲みたくない」となってしまう。

ほとんどの人は問題なく服用している。「本当に救われた。奇跡のサプリメントだ」と絶賛する人もいる笑
しかし最初に経験したフラッシュがあまりにも不快だったせいで、ナイアシンに拭い難い嫌悪感を持ってしまう人も、確かにいる。
最初の不快感にめげずに服用を続ければ、やがてフラッシュは起こらなく(あるいは起こりにくく)なる。初めてが一番強く出るんだ。
だから、頑張って継続してくれればいいのだけど、もう飲む気になれない。
こういう症例を何人か経験したこともあって、僕はナイアシンの使用には非常に慎重になった。
100人に使って、95人に問題がなかったとしても、5人に問題があったとすれば、気を使わざるを得ない。

長年苦しんだ慢性症状を軽減してくれるサプリにせっかく出会ったのに、嫌悪感を抱いて二度と飲みたくないとなっては、患者にとって不幸だし、僕も悲しい。
だから僕は、まず、フラッシュフリーナイアシンで開始するか、500㎎錠ではなく100㎎錠で開始するか、するようにしている。

『ナイアシンによるフラッシュの機序と緩和法』という論文があるので、ざっとかいつまんで説明する。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2779993/
ナイアシンによってフラッシュが起こるメカニズムは、まず、皮膚にあるランゲルハンス細胞において、Gタンパク共役受容体109A(GPR109A)の活性化が起こる。
それによってアラキドン酸とプロスタグランジン(PGD2、PGE2)が増加する。結果、毛細血管でプロスタグランジンD2受容体(DP1)、プロスタグランジンE2受容体(EP2)、プロスタグランジンE4受容体(EP4)の活性化が起こり、皮膚の血管拡張が起こる。
この作用機序を踏まえれば、ホットフラッシュを抑える対策として、以下の方法が考えられる。
1.ナイアシンの吸収速度を遅らせる。
2.プロスタグランジンの産生を抑制する。
3.プロスタグランジンの各受容体(DP1、EP2、EP4)をブロックする。

1.のやり方としては、ナイアシンの徐放剤を使うことだ。これにより、フラッシュの発生(持続時間、強度)を軽減できる。
2.の方法でいくなら、ナイアシンの服用30分前に、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs。たとえばアスピリン)をとればいい。
3.でいくなら、DP1受容体に対するアンタゴニストであるラロピプラント(アテローム性動脈硬化治療薬)を服用すればよい。
もっとも、ナイアシンフラッシュは1,2時間もすれば自然に軽快するので、大きな心配はいらない。
結論:ナイアシンは脂質異常症患者に対する有効な治療選択肢である。ナイアシンによるフラッシュへの耐性はすぐに形成される。
治療者はナイアシンフラッシュについて事前に患者に伝えておくことが大事だ。

2009年の論文だけど、別段の新味はない。
ホッファーが大昔から言っていることを、作用機序などを多少系統立てて説明しているだけだ。
多くの患者は、薬を減らしたい、何とか他にやり方がないものだろうか、という思いで、ナイアシン(および栄養療法)にたどり着いた。
だから、ナイアシンによるフラッシュを抑えるために、また薬(NSAIDs、ラロピプラント)を飲まなきゃいけない、となっては、眉をひそめるんじゃないかな。
となれば、フラッシュが嫌な人にとっては、フラッシュフリーナイアシン(あるいはナイアシンアミド)でやっていこう、となる。

ホッファーが他の方法を挙げている。
フラッシュは末梢血管の拡張時に放出されるヒスタミンの過剰によるものだから、ヒスタミンに拮抗する物質として、事前にビタミンCをある程度高用量で飲んでおく。
高用量、というのがどれぐらいか、一概に言うのは難しいけど、朝昼夕食後、それぞれ2000㎎ずつ飲んで、ビタミンCの血中濃度をある程度高めておいて、それからナイアシンを飲むといい。
また、ナイアシンを空腹時に飲むと吸収速度がはやいので、食後に飲むようにする。

ところで、ナイアシンと一概に言っても、様々なメーカーが作っている。どのメーカーの製品がいいか、と聞かれることがある。
これはなかなか答えにくい質問だ。
まず、総じて、国産のサプリよりアメリカのサプリのほうが高品質なものが多い、ということは言えるだろう。
アメリカは保険制度が実質機能していないので、「病気になったら、破産する」というお国柄。そういう国だけに、人々の病気に対する予防意識は高い。
「サプリメントで未病を」という人が多く、それだけ、サプリ市場も成熟している。
近所のドラッグストアにあるメーカーのサプリしか買えない、と思い込む必要はない。ネットで誰でも海外サプリを買える時代だ。
「そんなことは分かっている。で、アメリカの、どのメーカーがオススメなんだ?」と重ねて聞かれる。
どのメーカーのサプリが良品質か、比較したEBMがあればいいんだけど、わからない。(どこかにあれば教えてください)
サプリ販売サイトのレビューを見たところで、比較はできないしなぁ。
ただ、僕が接する患者の声としては、「NOW社のナイアシンよりSolaray社のほうが深く効く気がする」「よく眠れる気がする」とチラホラ聞こえている。
利き水、ならぬ、「利きサプリ」のデータを蓄積できれば、よりよい助言ができると思うんだけど、このあたりのデータ収集は難しいね。