院長ブログ

運動の効用

2019.3.28

“SPARK the revolutionary new science of exercise and the brain” (John Ratey 著)の122ページに興味深い記述があったので、紹介しよう。
訳はけっこうテキトーです^^;
「運動することは、抗うつ剤が作用するのと同じ化学物質に作用しているということは、前々から知見としてはあったが、これをきっちり科学的に比較した人はいなかった。
そこで1999年、デューク大学の研究者が初めてこの研究を行った。これは記念碑的な大仕事で、愛称としてSMILE(Standard Medical Intervention and Long-term Exercise)と呼ばれている。
筆頭著者のジェームズ・ブルメンタールらは、運動群と抗うつ剤投与群(SSRIのセルトラリン。商品名はゾロフト)を設定した。156人の患者を無作為に3つの群(ゾロフト投与群、運動群、両者の組み合わせ群)に振り分けた。
運動群には、有酸素能力の70〜85%程度の負荷のウォーキング(あるいはジョギング)を週3回、各30分行うように指示した。ただしこの30分間に、10分のウォームアップ、5分のクールダウンは含まれていない。
結果はどうだったか?
3つの群すべてでうつ病スコアの有意な低下が見られた。また、各群でおよそ半数は寛解していた。その他の13%では十分な寛解は見られなかったが、症状がほぼ消失していた。
運動は投薬治療と同じ程度の効果がある、というのがブルメンタールの結論である。
「運動で脳の化学物質に変化が起こって、うつが良くなるなんて、信じられないな」という患者がいるものだから、私はこの研究論文のコピーを患者に見せるために置いている。信じられない気持ちもよくわかる。「運動でうつが軽快する」なんていう研究が正しいと認めたら、そもそも精神医学は必要なのかという話になってしまうわけだから。
この研究結果は、医学部で教わるべきだし、健康保険会社はこの事実を認識しておくべきだし、全国すべての病院の掲示板に貼り付けておくべきものだ。何と言っても、病院では5人に1人がうつ病にかかっているのだから。
「運動にはゾロフトと同じくらいの効果がある」この事実をみんなが知れば、うつ病患者は減少するはずだ。
しかし、運動がうつに対する医学的治療として、いまだに受け入れられてないのはなぜだろう。SMILE研究の行間を読めば、この難しい問題に突き当たるのである。
1997年にアンドレアス・ブルックスが運動群と抗不安薬(クロミプラミン)投与群の比較試験を行ったとき、両群の治療成績は同程度の改善であったものの、投薬群ではより速やかに効果を感じた。製薬会社は抗うつ薬が効き始めるには3週間ほどかかると添付文書に記載していることを考えると、ここには一見矛盾があるように思える。
しかし、こも3週間というのはあくまで統計であって、私は投薬で数日以内に改善する患者を無数に見ている。
逆に、一連の運動によって気分が改善するという研究はどうなのか。たとえば、2001年北アリゾナ大学の心理学科教授のシェリル・ハンセンは、健康な被験者ではたった10分運動するだけですぐに意欲や気分が改善することを証明した。しかし、仮にハンセン氏が運動から数時間後の気分を調査すれば、被験者らの気分はベースラインに戻っていることを見出すだろう。
なるほど、一連の運動によって気分が改善することを知っておくことは大切なことだが、1日1日の気分が安定的に改善するのにはもっと長くかかるのだということも知っておかねばならない。
ブルメンタールは運動前に週に1回気分を評価していたのだが、彼は一部の患者では運動後すぐに気分が軽快することに気付いた。しかしその軽快ぶりは、薬ほど劇的なものではなかった。
うつ病が治ったと本当の意味で言うためには、運動から5分後に好調であることはもちろん、5時間後にも、明日の朝にも安定していなくてはいけない。周期的な運動の効果をきちんと評価するには、もう少し長期の研究が必要だろう。
SMILE研究から6ヶ月後、ブルメンタールらは患者たちの予後について調査した。そして、長期間の研究では運動群が投薬群よりも好調であることを発見した。うつ状態に陥っている人は、運動群では約30%、投薬群では52%、両方行なっている群では55%だった。当初の研究で寛解した患者のうち、うつを再発したのは運動群で8%、投薬群では38%で、明らかな有意差があった。
4ヶ月にわたるSMILE研究の後、その後の治療をどうするかは被験者にゆだねられた。つまり、投薬群だった人が運動を始めることもあれば、運動群だった人が薬の服用を始めることもあったし、精神療法を始める人もいた。そのせいで変数が多くなり、結果の解釈が複雑になったのだが、ブルメンタールの研究チームは、気分改善に関する最も重要な予後予測因子は、運動量であることを発見した。
週に50分運動すると、うつ病の発症オッズが特異的に50%減少していたのだ。しかしブルメンタールは、運動によってうつ病が寛解するのだ、という結論は出さなかった。逆が真であるかもしれない。つまり、運動を継続した患者は、そもそもうつが軽度であったから寛解したのかもしれないからだ。
これは、卵が先か鶏が先か、という古典的な問題である。運動と気分の関係を調べる彼らも同じ問題に突き当たったのである。しかし、運動しているからうつがマシなのか、うつが軽度だから運動しているのか、これは本当に重要な問題だろうか。いずれにせよ、患者の調子はよいのだから。
しかし、運動と投薬を組み合わせた群で最も結果が思わしくなかったことは、どのように説明すればよいだろう。運動し、かつ、ゾロフトを飲んでいる群が最も良好な結果になるとブルメンタールは考えていたのである。しかし、彼らのうつ病の再発率は最も悪かった。
なぜだろうか。彼の推測はこうである。被験者らは治験に参加する契約を結ぶとき、『うつ病に対する運動の効果を見るための研究だ』という説明を受けていた。だから被験者の中には、抗うつ薬も併せて飲むと知って『話が違う』と感じた者もいた。治験中に、『薬のせいで運動の効果が落ちてしまう』とこぼす者もあった。生理学的な観点からは考えにくいことだが、心理的な面からは、薬を飲むということ自体が、運動がもたらす自己コントロール感を損なってしまったということは十分あり得ることである」

オーソモレキュラー療法が「慢性疾患は適切な栄養の不足から生じる」と考えるのと同じ感じで、上記の本の著者は、「不安障害、ADHD、ホルモン異常、老化、アルツハイマー病など、多くの慢性疾患は運動によって改善可能である」と唱えている。
上記引用部分では、うつ病に対して「運動は薬よりも有効」だということがデータの裏付けとともに述べられているわけだけど、他の疾患に対しても同様の主張が展開されている。
栄養と運動、共通するメリットは、ミトコンドリアの機能を適切化することではないだろうか。
仮に病気に他の原因(たとえば農薬や添加物、重金属の蓄積)があったとしても、ミトコンドリアの賦活化によってデトックス機能が強化され、結果、体調不良が改善してしまった、というのはありそうな話である。
『健康』という目的地に到達するための方法が一つではない、というのが、僕には興味深く感じられる。

腰痛

2019.3.27

「医者が癌になったとき、99%の医者は抗癌剤を使わない」という。
https://www.buzzfeed.com/jp/seiichirokuchiki/kenkobon-01
本当か?
ソースが気になるところだ。
非常にセンシティブなテーマだが、一体誰がどうやって、こんな統計をとったのだろう。
仮にそう思っている医者がいるとしても、よほど親しい人に対してでないと、こんな深い本音は出さないと思うんだけど。
ただ、99%というのは言い過ぎだとしても、自分が癌になったときに抗癌剤を使わない医者は、一般の人が思う以上に多い、というのは確かだと思う。
そりゃ、現場でたくさん見てるもんな。「この人、明らかに抗癌剤のせいで死期を早めたな」っていう症例を。
医者もバカじゃないから、さすがに現代医療の矛盾に気付いてるって。
抗癌剤はじめ、製薬会社の薬にまったく何の疑いを持ってない医者もいるにはいるだろうけど、むしろ少数派じゃないかな。

そう、医者が病気になったとき、本音が出る。
普段患者に提供している治療法と、自分が病気になったときに選ぶ治療法。
当然同じだろうと思われるかもしれないが、一致しないことは案外多いに違いない。
患者には平然と出す薬でも、自分が飲むかどうかとなったら絶対飲まない、なんて薬は、山ほどあるだろう。
「そんなダブルスタンダードが許されていいのか」と咎めることはできない。
愛社精神のあるサラリーマンだって、常に自社製品ばかり使っているわけではなく、競合他社の製品を使うことだってあるだろう。
「正直、こんな商品、俺なら買わないな」と思いながらも営業しないといけないのが、勤め人のつらさだろう。
医療だって同じことだ。
ビジネスなんだから、医者だけが経済的利益を度外視して、聖人君子であることを求められてはたまらない。
医者も経済活動に従事する一人の人間なんだから、医者の良識に期待なんてしちゃいけない。

医者がコモンな疾患、たとえば腰痛になったとして、すなおに病院を受診するだろうか。
整形外科を受診すればどういう診察の流れになるか、行く前からわかっている。
レントゲンなりMRIなりを撮って、「特に問題ありませんね」で、痛み止めを処方される。
単なる対症療法。根本的な原因にアプローチしてないのだから、こんな薬を飲み続けても一生治らない。
こんな「治療法」とも呼べない治療法しかないのが、西洋医学なんだ。
同業者だから、気持ちはよくわかる。別に商売の邪魔をするつもりはない。
しかし、自分が患者として、こんなバカバカしい『ごっこ』に付き合うのは、ごめんこうむりたい。
医者はこう考える。「いわゆる代替療法のほうが、まだしも希望が持てる」と。

たとえば整体。
ただのマッサージ、とバカにしてはいけない。
きちんとした治療哲学を持った整体サロンのほうが、痛み止めを処方するしか能がない病院よりも、はるかに根本的な改善策を提供してくれるものだ。
ミオンパシーという治療手技がある。https://www.uroom.jp/
腰をギューギュー押してもらうだけのマッサージだと思って施術を受ければ、ずいぶん意外な感じがするはずだ。
加圧と弛緩を繰り返す、いわゆるマッサージではなくて、一定の姿勢を把持することで組織への血流を回復させることを主眼に置いている。
腰痛の背景には、血流低下(およびそれに起因する組織の酸素不足・栄養不足)がある、というのが基本的な考えだから、偏った食生活やストレス過多の生活習慣の改善をも含めて、指導する。
すばらしい。
本来、この指導をするのは一般の医療であるべきだ。
しかし情けないことに、整形外科での治療は、痛み止めの処方に終始している。ロキソニンやリリカによって真の救いが得られるかどうか、考えればわかることだろう。
医療機関ではなくて整体サロンなので、一般の医療保険を使うことはできないが、やっていることは一般医療よりももっと医療らしい。
そう、医者が病気になったときこっそりお世話になるのは、こういう治療院だ。

もちろん、栄養療法に頼るのもいい。
栄養療法の魅力は、何と言っても、副作用の少なさだ。
単なるビタミンで治ればもうけもの。まず、一番最初に試すべき代替療法だろう。
腰痛に対しては、ビタミンDを補いたい。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC558660/
『ビタミンD欠乏が慢性腰痛に関与している可能性』
慢性腰痛をどう抑えていくかというのは医療従事者にとって難しい課題であり続けているが、ビタミンDの重要性をきちんと認識している人は少ない。
ビタミンD欠乏が多くの人に見られることは、多くの研究の示しているところである。
たとえば、ミネアポリスのクリニックに慢性の筋骨格系の疼痛で通院している150人の患者のうち、93%にビタミンD欠乏が見られた。
腰痛(6カ月以上特に誘因のない腰痛)のために6年以上神経内科に通っている患者のほとんど(83%)に、血中ビタミンDの異常低値が見られた。
ビタミンDのサプリを飲ませると、当初ビタミンDの濃度が低かった人の全員で、臨床症状の改善が見られた。
著者らは、腰痛患者では受診時の血中ビタミンDによるスクリーニングを義務化すべきだと結論付けている。
オーストラリアの医学雑誌に寄せられた報告によると、慢性腰痛で脊椎固定術を受けたものの手術が失敗した2例の患者において、重度のビタミンD欠乏があったという。
いずれの患者も、ビタミンDサプリの投与によって症状の好転が見られた。
「腰痛を診る外科医や内科医は、潜在的なビタミンD欠乏がある可能性に注意すべきである。なぜなら、ビタミンDを補うだけで症状が軽快する可能性のある患者が、治療による合併症(脊椎固定術の失敗、再手術や入院期間延長による費用の増加など)を避けることができる可能性があるからである」と著者らは強調している。
ガンコな筋骨格系の痛みを伴う患者はすべて、ビタミンD欠乏に気付かないまま放置している可能性が高い。
慢性腰痛を診る現行の臨床ガイドラインでは、ビタミンD(25ヒドロキシビタミンD濃度の測定による)の評価が含まれていないが、これを調べ、欠乏が見られた際にはビタミンDのサプリを補うよう助言すべきである。

この論文は、「長年悩んだ腰痛がビタミンDのサプリを飲むだけで、あっさり完治してしまう可能性がある」、と言っているわけだ。
腰痛があまりにもひどくて、手術さえする人がいる。こんな悲劇は、あってはいけない。
重度の腰痛の背景にはビタミンD欠乏があるということは、整形外科医なら当然知っているべきなんだけど、残念ながら一般の医者はこんなこと、まず知らない。
だから、一般の無知な整形外科に通ったところで、時間と労力のムダということだ。
自分でさっさと知識を仕入れて、ビタミンDを飲んで、自分で治しちゃうのが一番手っ取り早いよね。

ゲルマニウム

2019.3.26

周期表を見れば、ゲルマニウムは、炭素やケイ素と同じ第14族元素に属している。
ケイ素は最近健康への効果が注目されているが、それに比べて、ゲルマニウムはそれほど知られていない。
オーソモレキュラー栄養療法を創始したポーリングもホッファーも、特にゲルマニウムについて言及していない。
これは実にもったいないことだ。
ゲルマニウムの健康への効果は、すばらしいの一語に尽きる。
栄養療法で一般的に使うビタミンやミネラルと別段競合するわけではなく、併用しても何ら問題ないのだから、使わない手はないだろう。
個人的な経験としても有効性を実感している。
いくつか論文を紹介しよう。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/41/5/41_b17-00949/_html/-char/ja
『ゲルマニウム132(合成有機ゲルマニウム)の培養哺乳類細胞に対する抗酸化活性』
要約
ゲルマニウム132は合成の有機ゲルマニウムであり、食品サプリメントとして利用されている。
本研究では、ゲルマニウム132の培養哺乳類細胞に対する抗酸化活性を調べた。最初に、ゲルマニウム132の哺乳類培養細胞に対する細胞毒性を、乳酸脱水素酵素(LDH)濃度を計測することにより決定した。
ゲルマニウム132は3通りの細胞系に対して細胞毒性がなかった。次に、細胞全体のATP含有量および細胞数を計測することによって、ゲルマニウム132の細胞増殖作用を決定した。
チャイニーズハムスター卵巣(CHO-K1)とヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)の細胞をゲルマニウム132で処置すると、用量依存性に細胞増殖が促された。最後に、過酸化水素によって引き起こされる酸化ストレスに対するゲルマニウム132の抗酸化活性を、細胞内活性酸素種(ROS)とカルボニル化タンパク質の濃度の計測によって決定した。
CHO-K1とSH-SY5Yの細胞をゲルマニウム132で処置して培養すると、過酸化水素によって引き起こされる細胞内活性酸素種とカルボニル化タンパク質の濃度が抑制された。この研究の結果によって、ゲルマニウム132には過酸化水素によって引き起こされる酸化ストレスに対する抗酸化活性があることが示された。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3043151
『有機ゲルマニウムによる治療的効果』
要約
ゲルマニウムはすべての動植物に微小量で存在している。その治療的効果として、免疫賦活作用、酸素供給作用、フリーラジカル貪食作用、鎮痛作用、重金属デトックス作用などがある。
毒性学の研究によると、ゲルマニウムは体にすみやかに吸収・排出され、安全であることが示されている。
十年以上におよぶ臨床治験や私的な臨床経験では、ゲルマニウムは、癌、関節炎、骨粗鬆症など、様々な重度の疾患に対する有効性が示されている。
ゲルマニウムには、インターフェロン、マクロファージ、サプレッサーT細胞を誘導したり、ナチュラルキラー細胞を活性化するなど、抗ウィルス特性、免疫学的特性があり、AIDSの治療および予防に対する有効性が示唆されている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4034287/
『ラット盲腸の腸内細菌叢に対する有機ゲルマニウム(Ge132)とラフィノースサプリメントの効果』
要約
多価トランス[(2カルボキシエチル)ゲルマセスキオキサン](ゲルマニウム132)は最も一般的な有機ゲルマニウム化合物である。
ゲルマニウム132を摂取すると、胆汁分泌が促進される。
ゲルマニウム132およびある種のプレバイオティクスにより糞便の色が黄色くなることから、ゲルマニウム132とラフィノース(プレバイオティクスとして用いられるオリゴ糖)の投与によってラットの盲腸の特性がどのように変化するかを評価した。
また、これらの化合物の投与により盲腸の腸内細菌叢にどのような変化が起こるかも併せて比較した。
さらに、ゲルマニウム132とラフィノースの同時投与によって、βグルクロニダーゼ活性(大腸癌の関連因子として知られている)に対する影響を調べた。
オスのウィスターラット(3週齢)に以下の食事のうちの一つを与えた。(1)コントロール食(対照群)、(2)0.05%のゲルマニウム132を含む食事(Ge132群)、(3)5%のラフィノースを含む食事(RAF群)、(4)0.05%のゲルマニウム132と5%のラフィノースを含む食事(GeRAF群)。
ラフィノースを含有する食事によって、ビフィドロバクテリウム、乳酸桿菌および全腸内細菌量が有意に増加しており、ゲルマニウム132の投与によってこの増加が抑制されることはなかった。
ラフィノースの摂取によって盲腸での酢酸の産生量が有意に増加した。
盲腸内容物のβグルクロニダーゼ活性は、ゲルマニウム132の摂取により増加したが、ラフィノースの摂取により有意に減少した。
これらの結果は、ラフィノースとゲルマニウム132の同時摂取によっては、いずれの化合物も腸内での発酵や胆汁分泌を抑制することはない、ということを示している。
また、ゲルマニウム132の単体投与の場合には誘導されるβグルクロニダーゼ活性の増加は、ラフィノースとゲルマニウム132の同時摂取ではキャンセルされる。

『ゲルマニウムと私』(浅井一彦著 玄同社)に、喘息を訴える中学生の患者に対してゲルマニウムを投与していると、その中学生、やたら数学ができるようになって、教師からカンニングを疑われた、という話が出てくる。
ゲルマニウムは酸素運搬能を高め、記憶力、思考力、集中力など、脳機能の改善にも著効する。高血圧に対してゲルマニウムを飲んでいるうちに、囲碁が非常に強くなった、という話もある。
症状の改善を目指して飲んでいたら、思いもかけないうれしい副産物が得られるというのは、本物の治療法によくあることで、ゲルマニウムもそういう本物の一つだということだ。

リジン

2019.3.25

体を動かすと息が上がって心臓が痛くなる場合、労作性狭心症の可能性が高そうだ。
一般の病院を受診すれば、造影剤を入れる検査を行って血管の狭窄を確認し、ステントを入れる手術を受けることになりそうだ。
日帰りでできるくらいの簡単な手術だけど、患者としては一体この手術を受けるべきかどうか、悩ましいところだろう。
「狭心症の治療には、本当にこの方法しかないのか。
仮に手術を受けたとして、それで治療終了、というわけではなく、一生薬を飲み続けることになるのか」
こういう人には、まずは栄養療法をオススメしたい。
http://www.orthomolecular.org/library/jom/1991/pdf/1991-v06n03%2604-p144.pdf

『症例報告:リジン・アスコルビン酸による狭心症の改善』
要約
重度の冠動脈疾患のある人に高用量のLリジンとアスコルビン酸を使うことで、労作性狭心症の改善が見られたことを、このように世界で最初に報告できることは喜ばしいことである。
この治療計画は、血栓性動脈硬化症において、脂質タンパク程度の径の外因性LDL様分子(冠動脈疾患の独立したリスク因子)が、傷付いた動脈壁にあるフィブリンに結合してプラーク形成を開始する、という仮説に基づいている。
このメカニズムは、アポリポタンパクがプラスミノーゲンに非常によく似ていることや、低ビタミンC血症のモルモットや閉塞したバイパスの動脈硬化病変に脂質タンパクが蓄積していることと、関係している。
臨床家がこの一症例の劇的な改善を知り、刺激を受け、リジンとアスコルビン酸を狭心症に適用してすばらしい成果をあげることを期待している。

これはポーリングの論文だ。
要約だけ読んだのでは、何が何だか、よくわからないだろうから、本文の内容も踏まえて、説明しよう。
71歳の男性。初めて狭心症の発作に襲われたのは38歳のときで、以来、タバコは控え、適度に運動し、食事や体重にも気を使っている。
1978年に静脈グラフトの移植術を初めて受けたが、5か月後にすぐに2回目の手術を受けた。
伏在静脈がなくなったせいで、足にひどい浮腫が起こった。血栓、足の感染、両側の肺塞栓も起こった。
1987年再び狭心症の発作が起こったため、冠動脈形成術、投薬調整のために入院となった。
3回目の手術の後、服薬調整として、βブロッカー、カルシウム拮抗薬、ロスバスタチンは維持した。
アスピリン325㎎を投与していたが、眼内出血が起こり、末梢の視野欠損が生じたため、81㎎に減量した。
この処方に加えてビタミンの服用を開始した。
アスコルビン酸を6g、コエンザイムQ10を60㎎、マルチビタミン、マルチミネラル、ビタミンA、ビタミンE、レシチン、ナイアシンを加えた。
それでも、1日2マイルの歩行時には狭心症発作が起こった。そのときにはニトログリセリンを舌下投与することが必要だった。
もはや利用できる静脈グラフトがないため、4回目の手術というのは不可能だった。
ここで助言を求められたポーリングは、Lリジンを1日5g(6回に分けて)服用し、脂質タンパクの動脈硬化作用を抑制することを勧めた。
1991年5月にリジンを取り始めた。7月、彼のHDLは28 mg/dlと相変わらず低かった。 クレアチニンが0.9 mg/dlと高くないことから、必要とあればリジンを増やす余裕があった。
彼は今や、2マイルを歩いても、庭仕事をしても狭心症発作がでなくなった。 「リジンが奇跡のように効いている」と彼は手紙に書いた。
8月にはチェーンソーで木を切ったり、9月には自宅のペンキ塗りをできるまでに回復した。
9月後半、恐らく過労から再び狭心症の症状が出現したが、運動量を減らし、リジンを6gに増やすと、症状は再び消失した。

ビタミンCとリジンの併用によって、狭心症が劇的に改善した、というポーリングの症例報告。
ネットで調べてもらえればわかるけど、リジンのサプリはすごく安い。
「こんなに安物なのに、そんなに効くの?」って、逆にちょっと不安になるかもしれない^^;
病院から処方される薬は高いけど、効くどころが毒性があるものさえあるわけだから、薬理作用の優秀さと値段は関係ない。
リジンはアルギニンと拮抗してヘルペスを抑えるように働くから、疲れたときにヘルペスが出る体質の人にもリジンはオススメだ。

代筆

2019.3.24

睡眠薬に惑溺するようになって以後、文才は見る間に枯渇した。文壇の重鎮として周囲の畏敬を勝ち得てはいたものの、もはや新たな作品を生み出すことは到底できなかった。
そこで、大御所は一計を案じた。自分が文壇に引き上げてやった若い才能たちに作品を書かせ、それを自分の名前で以って世に出せばいい。評論家は「老作家の新境地」と新たな作風を持ち上げることだろう。名もない若手が一冊本を出したところで、誰も読まない。しかし、名前の書き換えひとつで、本の売り上げは跳ね上がり、出版社に莫大な利益をもたらすことだろう。そして代筆作品は、文豪の一作品として永遠に人々の心に記憶されることになる。これは、無名の若手にとってこの上なく名誉なことではないか。

以下、『三島由紀夫と一九七〇年』(板坂剛・編、鈴木邦男・対談 鹿砦社)の59ページからの引用です。
板坂…これは三島先生の奥さんが言ってるんですが、川端さんが受賞した対象になった作品は、『山の音』と『雪国』だけど、『山の音』のほうは実は三島先生が書いているんだと。
鈴木…ほんとかよ。
板坂…ほんとですよ、奥さんが言ったんです。フラメンコの先生に言ったんです。奥さんがフラメンコ習ってて。その奥さんが、ノーベル賞受賞作品としか言わなかったけど、あれはうちの主人が書いたのよって。
鈴木…じゃあ三島がノーベル賞を取ったようなもんじゃない?
板坂…だからその思いがあったから、ノーベル賞そのものもくだらねえと割り切れたんじゃないかな。
鈴木…言えばいいじゃん、あれは俺の作品だと。
司会…なんでまた川端の作品を三島が書くんですか?
板坂…特に晩年とかは、川端さんは睡眠薬中毒とノイローゼで作品なんか書ける状態じゃなかったらしいですよ。北条誠と沢野久雄という作家が川端の作品を書いてたっていうのは有名な話。北条誠の家の女中さんはね、北条が川端さんの原稿ばかり書かされて、自分のものは書けないからいやだってグチをこぼしていたって証言しています。沢野のほうも自伝に書いてますよ。しまいに、川端さんの原稿は直接自分のところに依頼が来るようになったって。
鈴木…本当?
板坂…沢野久雄の自伝にありますよ。どっちが書いているのかはわからないけど、ほとんど昭和三十年代の川端作品は、沢野か北条の手になるものらしいです。
鈴木…川端が書いた作品は?『伊豆の踊り子』くらい?『雪国』もかな?
板坂…『雪国』はさすがに自分で書いたんじゃないかと。あの辺から睡眠薬中毒で何も書けなくなった。でもあそこまで名声があるとなんとか書かなきゃいけないから他の作家に原稿依頼した。川端にも書かせたけど、書いてきたものは何がなんだかわからなかったって。だから他の作家に直させたそうですが、それがしまいには直接沢野久雄に依頼が来ちゃったって。このことでね、週刊誌が取材に来たことも、あったのよ、私のところに。でも記事にはならなかった。(中略)
安藤武さん、三島先生のことを書いている人だけど、あの人が『眠れる美女』の原稿を見て、これ川端さんの字じゃないと言ったそうです。すごくキレイな字で清書してある。
鈴木…じゃあ、だれ?
板坂…わからない。それでなんかどこかのパーティーで、川端さんと三島先生が同席して、三島先生は川端さんに対して、ノーベル賞受賞作品は、あれとあれだけど、一番の傑作は『眠れる美女』ですよねって三島先生が言ったら、川端さんは恥ずかしそうにじっと黙ったんだって。それで思うんだけど、もしかしたら三島先生が書いたんじゃないだろうか。だって『眠れる美女』ってほら、美を距離を置いて見てるでしょ。それって三島文学のテーマそのものじゃない?(中略)
いつも川端さんから原稿もらってた出版社の人間によれば、読めたもんじゃないと。川端さんの原稿はわけわかんないって。
鈴木…睡眠薬飲んでボーっとしてる時、夢遊病者のように書いてたって話だけど。

『眠れる美女』は確かに、一読して三島っぽいなという印象を持った。『禁色』に出てくる変態のおじいさんと同じようなキャラだと思った。文章も、川端的な「和文のやさしさ」みたいな感じじゃなくて、しっかりした「三島的エレガンス」を備えているようで、三島の代作だと言われれば非常に腑に落ちる。

作品を読んだときの「感じ」は大事で、たとえば源氏物語の宇治十帖は紫式部ではなくて別の作者によるものではないかという説が昔からあるのも、あの章だけ読んだ「感じ」がずいぶん違うからだ。
この「感じ」を、統計的に裏付けようとする試みがある。
ある語の使用頻度に着目し、多変量解析の手法を用いることで、「この作品では、他の作品に見られる作者の言葉遣いの傾向と明らかに異なる」ということを証明しようとしている。
以下は源氏物語の宇治十帖の分析で、この研究では別作者説は否定された。
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=82408&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1&page_id=13&block_id=8

以下は川端康成の『山の音』代筆疑惑を検証した研究。結論として、代筆は否定的となった。
http://www.anlp.jp/proceedings/annual_meeting/2015/pdf_dir/D6-2.pdf

宇治十帖はともかく、『山の音』に関しては編集者の証言など、状況証拠的には代筆に間違いない。
それなのに代筆だという結論が出ないのは、研究の手法(文体計量分析)自体がまだまだ未熟で発展途上ということだろう。