2019.2.19
「いつまでも、延々と食べ続けます。止められないんです。今朝何を食べたか、言いましょうか?
両親と同居しているので、まずは普通の朝食です。ごはん、みそ汁、魚、卵、おひたし、みたいな。で、それで満足できずに、むしろそこから過食のスイッチが入ります。
自分の部屋にこもって、パン一斤から始まって、板チョコ3枚、ロールケーキ、肉まん、プリン。それからコーンフレーク一袋を牛乳500mlで全部食べて。
さらにアイスクリーム食べて、蒸しパン、ワッフル、スタバのシフォンケーキ、チョコレートムース、ピザまん食べて。
ジャンクフードだということはわかっています。でも、そういうのが欲しくてたまらなくなります。
ついに胃が満タンになって、これ以上食べ物を受け付けない感じになります。食欲のブレーキがかかったのではありません。
衝動としては、もっと食べたい、もっともっと、って思ってるんですけど、物理的にもう入らない、という感じです。
私の場合、吐かないです。限界まで詰め込んでも、戻そうとは思わないんです。
それに、食べれればなんでもいい、っていうわけではなくて、一応味にもこだわってて、私が食べたいものを食べています。お気に入りのお菓子とか新商品のコンビニスィーツとか。
でも満足なんて感じません。
食べ過ぎて苦しいのに、お腹が満腹になる、っていう感覚がわからないんです。脳がバカになっているんでしょうか。
またやってしまった、っていう後悔と情けなさで、涙がでます。罪悪感でひどく落ち込みます。
家族も私の過食のことはうすうす気付いていますけど、特に何も言わない。どうしたらいいかわからないんだと思う。
今はこうやって過食になっていますけど、実は以前は拒食でした。あまりにも食べられないので、入院したこともあります」
過食も拒食も、要するに摂食障害ということで、症状としては正反対だけど、病態の根っことしては似通ったところがあるからね。
どちらの場合も腸内細菌叢が乱れているし、ホルモンの異常(コルチゾル、グレリン増加、レプチン減少)がある。このアンバランスを治す栄養素としt
「先生、そういう話もいいんですけど、とにかくきついんです。精神的に。
食事の大事さを説く先生の考えもわかるんですけど、まず、この滅入った気持ちを薬で何とか楽にしてもらえませんか」
まず、傾聴しないといけない。
急に栄養がどうのこうの、とか言い出すべきじゃなかった。
拒食症や過食症の背景には、栄養的な問題だけでなく、精神的な問題が隠れているものだ。
自己嫌悪、醜形恐怖、現実拒否などのマイナス感情が、本人も自覚しない心の深いところで根を張っていて、それが衝動的な過食という形で噴出しているのかもしれない。
だとすれば過食は、彼女にとって『表現』である。
内面の問題に目を向けず、症状だけに注目して治そうとすれば、彼女は抵抗するだろう。「私から表現手段を奪わないでください」と。
つまり、精神的な問題の表出としての過食であった場合、栄養の是正だけではなかなか治らないだろう。
さりとて、摂食障害が純粋に心だけの問題かというとそんなことはない。
糖代謝を始めとする内分泌、腸内細菌叢、血中ビタミン、ミネラルのアンバランスなど、内科的問題は当然関係している。
たとえばこんな論文。『神経性食思不振症(拒食症)と副腎皮質機能亢進症』。30年以上前の論文だけど、参考になるところが多い。
http://www.orthomolecular.org/library/jom/1985/pdf/1985-v14n01-p013.pdf
本文内容を補いつつ要約すると、
1.血中コルチゾルの上昇は、コルチゾルの高くなる慢性疾患の原因ではあるが、その逆ではない。
つまり、すべての慢性疾患において、血中コルチゾルの上昇があるが、慢性疾患だからコルチゾルが上昇しているのではない。
2.拒食症ではコルチゾル濃度が上昇しているが、回復すると低下する。
ステロイド療法を受けている人や、拒食症、うつ病、アルコール依存症、クッシング病の患者では血中コルチゾル濃度が高いままだが、これが原因で、潰瘍、高血圧(左室肥大)、認知症(脳萎縮)といった慢性疾患になる。
これらの症状は、ステロイド療法が原因であればやめれば元通りに治るし、適切な投薬によっても治るものである。
3.慢性疾患の治療に際して、コルチゾル低下作用のある薬剤、あるいはコルチゾルのアンタゴニストとして作用する薬剤は、ときには驚くほどの有効な治療となる。
具体的には、フェニトイン(抗てんかん薬)、プロカイン(麻酔薬)、ビタミンC(コルチゾル抑制作用があり、血中サリチル酸塩の濃度を上昇させる)、サリチル酸(アスピリンなど。脾臓や血小板からのプロスタグランジン放出を抑制する。プロスタグランジンE1、F1は副腎に作用してコルチゾルを上昇させる働きがある)、リドカイン(麻酔薬)である。
それらの慢性疾患は、一見ばらばらの疾患のようだが、すべてに共通するのは、副腎皮質亢進症(高コルチゾル血症)を伴っていることである。
ステロイド療法を受けて血中コルチゾルが上昇している人(外因性)と、内因性にコルチゾルが上昇している慢性疾患の患者は、実質見分けがつかない。これは、コルチゾル高値が疾患の原因であり、結果ではないことを示している。
拒食症患者のなかには、当初ステロイド療法を受けていてその後に拒食症を発症した人がいるが、この事実も示唆的である。
本稿は、コルチゾル高値が拒食症の原因であり、コルチゾルのアンタゴニストとして作用する薬剤が治療に用いられれば、すばらしい臨床成績が得られるという仮説を提出するものである。
コルチゾル低下作用のある薬剤がいろいろ挙げられているけど、このなかで断トツ使いやすいのは、ビタミンCだ。
これは処方薬というよりも栄養素で、誰でもネットとかで買えるし、他の薬剤にあるきつい副作用がないので。
アスピリン服用者では認知症が少ないんじゃないかという話もある。https://link.springer.com/article/10.1007/s00228-003-0618-y
アスピリンの抗炎症作用とそれに付随するコルチゾル低下作用がその機序なのかもしれない。
摂食障害と腸内細菌の関係について、こんなレビューがあった。
『摂食障害と腸内細菌~エネルギーのホメオスタシスと行動への影響』というタイトルで、2017年に出たレビュー。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5881382/
要約としては、
摂食障害における腸内細菌の役割を研究した近年の論文をレビューし、評価を行った。
最近、腸内細菌は宿主のエネルギー恒常性および行動の両面に影響を与える因子であることが証明された。摂食障害患者では、エネルギー恒常性、行動の両方が破綻していることが多い。
これまでのところ、摂食障害患者の腸内細菌研究は拒食症(AN)にだけ焦点が当たっている。
当初の研究によると、健康な対照群に比べて、拒食症患者は非特異的な腸内細菌の構成になっているとの報告がある。しかし、ANに関連した腸内細菌叢が宿主の代謝および行動にどのように影響を与えるのかは、未だ知られていない。
AN患者で判明した興味深い事実は、今後、摂食障害患者の腸内細菌叢の研究への手がかりを与えるものだ。
これらの腸内細菌叢の特異的な役割を解明することは、臨床治療へ応用(体重増加を促進したり、消化器系への負担を減らしたり、さらには精神的症状をも軽減させる)できる新しいアイデアにつながるかもしれない。
拒食症と腸内細菌の関係についてはそれなりに研究されているけど、過食症と腸内細菌については手付かず、という状況のようだ。
しかし、腸内細菌が摂食障害の病態に関係しているとして、この面から具体的にどのようにアプローチすればいいのか。
このあたりはまだ研究途中だけど、腸内細菌叢の改善に寄与する食材として、エビデンスがあるものとしては、以下のようなものがある。
発酵食品https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3904694/
ウコンhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6083746/
トリファラhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6052535/
摂食障害から回復した人の体験談を読んだ。
「素敵な男性と出会って、その人がありのままの私を受け入れてくれた。その人と付き合っていくなかで、女子力を高める意識を常に持って、毎日楽しく暮らしている間に、いつのまにか摂食障害が治っていた」みたいな話。
恋愛は栄養にも発酵食品にも勝る治療薬ということだね。
2019.2.18
不妊に悩む人は、まず、歯磨きを変えよう。
なぜかって?
以下のような論文がある。https://academic.oup.com/jn/article-abstract/103/9/1319/4777152?redirectedFrom=fulltext
タイトルは『フッ化物摂取がマウスの生殖系へ及ぼす影響』。要約を訳す。
メスのマウスに低濃度(0.1~0.3 ppm)のフッ化物を含む食事と、フッ化ナトリウムを含む飲み水(0,50,100,200 ppm)を与えた。
フッ化物の毒性作用は、100 ppm群と200 ppm群のマウスにおいて、成長遅延と生殖障害として出現した。高濃度の投与群ほど、致死率が高かった(5週間で50%が死亡した)。
低濃度のフッ化物摂取群において、2世代にわたって進行性の不妊を発症した。
成長率、胎子の大きさは、低濃度フッ化物摂取によって影響されなかったが、50 ppmを摂取しているマウスよりも胎子を産むマウスの割合が低下し、最初の出産齢が高くなる傾向が見られた。
要するに、フッ素というのは猛毒で、高濃度摂取では死んでしまう。しかし低濃度であっても、不妊など生殖系への影響が出る、ということだ。
では、その機序は?フッ素はどのような機序で生殖系に悪影響を与えているのか。
それを調べたのが、次の研究だ。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23459146
タイトルは『メスラットの生殖機能に対するフッ化ナトリウムの作用』。要約を訳す。
本研究の目的は、フッ化ナトリウム(NaF)がメスの生殖器に及ぼす作用を調べ、Nafに曝露したラットの卵巣や子宮の形態を研究することである。
80匹のSprague-Dawley(SD)ラットを無作為に20匹の四つのグループに分ける。第1群はコントロール群で、他の三つはNaFを投与した群である。三つのNaF投与群には、それぞれ100、150、200 ppmのNaFが飲み水経由で6カ月にわたり与えられた。コントロール群には蒸留水を与えた。
卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、テストステロン(T)、プロゲステロン(P)、エストラジオール(E2)の血中濃度を酵素結合免疫吸着法(ELISA)を使って測定した。
ヘマトキシリン・エオジン法と免疫組織化学法で染色した後に、子宮と卵巣の病理形態学的評価を行った。
NaFを投与した群の妊娠成功率はNaFの投与量が多いほど減少した。生殖系ホルモンの濃度は、三つのNaF投与群で有意に低かった。子宮内膜に損傷が見られ、卵胞の成熟が抑制されていた。
さらに、NaF投与群では全例で卵胞の全体数が有意に少なくなっていた。これらの結果は、NaFへの曝露によって女性の生殖機能が抑制され、卵巣や子宮の構造的損傷が引き起こされることを示唆している。
このようにして、NaFはメスラットの妊孕性を有意に減少させる可能性が示された。
フッ素が女性器(卵巣、子宮)にダメージを与え、かつ、性ホルモンを狂わせることで妊娠できなくなるという、メカニズムまで判明したわけだ。
「どっちもマウスの実験でしょ?人では問題ないんじゃないの」という方に、次の論文を供覧します。http://www.fluorideresearch.org/503/files/FJ2017_v50_n3_p343-353_sfs.pdf
タイトルは、『飲み水のフッ化物とその妊娠、不妊、流産への影響について~西アゼルバイジャンにおける疫学研究』。要約を訳す。
動物実験を含め各種の研究によって、フッ化物イオンが哺乳類の生殖系に悪影響を与えることが示されている。
しかし、この関係性にまつわる遺伝子・環境の相互作用の機序はいまだ明らかではない。
本研究の目的は、イランのポルダシュト郡の二つの地域における飲用水中のフッ化物濃度を測定し(低い地域では平均1.90 mg/L、高い地域では平均8.10 mg/L)、飲用水中のフッ化物濃度と当該地域に住む女性の(1)妊娠、(2)原因不明の不妊、(3)原因不明の流産の関係を調べた。
フッ化物濃度の低濃度地域、高濃度地域の女性を比較すると、それぞれの割合は以下のようになった。
(1)妊娠 105/1993 5.3% ; 70/1224 0.5%
(2)不妊 17/1993 0.9% ; 24/1224 2.0%
(3)流産 6/105 5.7% ; 11/70 10.0%
これらの生殖系のパラメーターについて、フッ化物の低濃度地域、高濃度地域の間で、女性を5歳階級でわけると統計的有意差は出なかったが、データをまとめて全年齢階級(10~49歳)を一つの群と考えると、低濃度地域の女性はより妊娠しやすく、不妊率も流産率も有意に低かった。
フッ素の生殖系への悪影響は、動物実験だけじゃなくて、疫学研究でも確かめられているということだ。
それでも、フッ素の使用は野放し状態になっている。
歯医者で普通に使われているし、歯磨きのテレビCMなんかでも『フッ素配合』っていうのがむしろ宣伝文句になっている。
フッ素の毒性を知れば、『猛毒入り』って言葉に等しいのにね。
不思議でしょ。科学的に毒性が明らかな物質が、まったく規制されないままだなんて。
規制どころか、今後TPPの影響で水道会社が民営化されて外資が参入し、飲用水にもフッ素が添加されるようになるだろう。
この流れは、止められない。
だってこの国は、敗戦国だからね。
地球の人口を是が非でも減らしたい一部勢力からいろいろと仕掛けられて、日本人の健康が徐々にむしばまれている。
こういうのをソフトキリングと言います。激しいドンパチだけが戦争じゃないんだよ。
僕は政治には失望しているから(というかもともと冷淡だから)、政治には期待していない。
ただ一介の医者として、不妊に悩む人がいれば、自分が知っている限りの知識で相談に乗る(歯磨きやシャンプーはどんなの使ってますか、とか、ビタミンEいいですよ、とか)。
僕にできることは、目の前の一人一人の悩みに向かい合うことだけだ。
2019.2.17
精製糖質が体にいいかどうか、ということはもはや議論にならない。しかし精製糖質を含むより広いカテゴリーの『糖質』全般についてはどうか。
ここはいまだ議論があるところである。
米やパンなど、主食を食べるべきかやめるべきか、という話になってくるわけで、これは非常に大きなテーマである。
「糖質制限のおかげで健康になった」という人が確かにいる一方で、批判の声もある。
たとえばこんな論文。https://link.springer.com/article/10.1007/s10522-018-9777-1
タイトルは『炭水化物制限食はマウスの肌の老化を促進する』。要約を訳す。
本研究は老化加速傾向マウス(SAMP8)を用いて炭水化物制限食の加齢および皮膚の老化に対する影響を調べ、長期間の炭水化物制限が老化プロセスにどのような影響を与えるのかを究明することが目的である。
3週齢のオスのSAMP8マウスを1週間事前の餌を与えた後、3つのグループに分けた。第1群にはコントロール群としての食事、第2群には高脂肪食、第3群には炭水化物制限食を与えた。
マウスが50週齢に達するまで、不断給餌(好き放題に食べれる)とした。実験期間終了前に、評価テストを用いてマウスの可視的老化を評価した。実験期間終了後、マウスの血清および皮膚の標本を作成し、分析にかけた。結果、評価テストにおいて可視的老化は炭水化物制限食群で有意に進行しており、生存率も低かった。
皮膚の組織学的検査によると、炭水化物制限食群では上皮および真皮が他の群より菲薄化していた。この現象のメカニズムとしては、血中インターロイキン6の増加、肌老化の増悪、皮膚自食(skin autophagy)の抑制、皮膚mTORの活性化があることが示された。つまり本研究は、炭水化物制限食が老化加速傾向マウスの皮膚の老化を促進することを証明するものである。
炭水化物制限食のマウスは平均寿命より20〜25%短命だった。さらに、炭水化物制限食のマウスでは背骨の曲がりや脱毛がひどく、通常食に比べ老化が30%進んでいた。
炭水化物制限食のマウスでは内臓脂肪が少なく体重も減り、ヘモグロビンA1cも上がらなかった。しかし人間で60歳に相当する月齢に達する頃から毛の色つやが悪くなって脱毛が進み、背骨が曲がり始めた。80歳にあたる月齢になると老化の進み具合はさらに差がつき、炭水化物制限食マウスはどんどん死んでいった。
上記研究者の考察。
「糖質摂取を減らすとタンパク質や脂質の割合が増える。摂取したタンパク質はアミノ酸に分解され、筋肉などに再合成されるが、実は一定の割合で、いわば『不良品のタンパク質』ができており、その蓄積が老化を促進している。若いうちは筋肉の代謝が盛んで不良品が出にくく、それを分解するオートファジー(自食)能力も高いが、加齢につれて不良品が増え、分解能も落ちる。
特にアミノ酸の摂取が多いとオートファジーが抑制され、不良品のタンパク質がたまりやすいことがわかっている。我々はこのメカニズムは人間にも当てはまるのではないかと考えている。
糖質制限の効用を全否定するわけではないが、高齢になると血糖値が高いことよりも低栄養のほうが問題になる。壮年期は肥満や糖尿病予防のために糖質制限に一定のメリットがあるだろうが、高齢者はむしろ炭水化物をたくさん摂ったほうがいいのではないか」
センテナリアン(百歳越えの老人)の研究、沖縄の長寿者の研究でも、炭水化物摂取量と長寿の相関が指摘されている。
僕の患者を診ていても、糖質制限を始めたことで体調の改善は自覚しつつも、同時に肌が荒れたり髪がパサつくようになったりした人は確かに多いように思う。
炭水化物制限によって、なぜ肌が荒れるのか。
上記の研究では、インターロイキン6の増加、オートファジーの抑制などで説明していたが、全く別の視点、「腸内細菌が絡んでいるのではないか」と示唆する論文は多い。
『ヒト腸内細菌における炭水化物活性酵素の豊富さと多様性』https://www.nature.com/articles/nrmicro3050
『腸内細菌が利用可能な炭水化物を制限した食事の腸および免疫系ホメオスタシスへの悪影響〜総説』https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5427073/
糖質制限をしたことがある人は、オナラが臭くなったり体臭がきつくなった経験があるだろう。
これは炭水化物を好む腸内細菌叢(いわゆる善玉菌)の減少に加えて、タンパク質摂取の増加に伴ってある種の菌叢(いわゆる悪玉菌)が増加したことによるものだ。
糖質の摂取を減らし、タンパク質の摂取を励行(普通に肉、魚、卵を食べるだけでなく、プロテインまで勧めて)することが、果たして患者に利益のあることなのか。
上記の論文は、近年流行の食事法に疑問を呈する内容になっている。
「で、結局どうすればいいの?
最近はやりの低炭水化物・高タンパク質を勧める食事法は間違いで、従来の日本人の食事、高炭水化物・低タンパク質がやっぱり正しいってこと?」
結論をあせらないでほしい。
僕は、自分の直接見聞きした症例、目にした文献、つまりファクトの断片を、こうやってブログで皆さんに供覧し、知識をシェアしているだけで、何か結論めいたことを皆さんに押し付けることは基本的に控えたい。
特に上記のような、いまだcontroversial なテーマについてはなおさらだ。
ただ、一般的な注意としては、マウスで観察された事象が人間にもそのまま当てはまるかどうかは疑問だし、人間の個人差というものも考慮すべきだと思う。
たとえば、病気の背景にグルテン不耐症が隠れている人は案外多いと思う。そういう人が、一念発起して糖質制限食を開始したとする。体調はきっと改善するだろう。
しかしこの人の場合、実は糖質全般を抜く必要はなかった。小麦(パン、麺類)を抜けば十分で、米は食べてて全然オッケーだった、という可能性がある。もっと言えば、近年の品種改良(遺伝子組み換えも含め)が進んだ小麦がダメなのであって、昔のヨーロッパ人が食べていたような黒パンなら食べても大丈夫、という可能性もある。
あるいは、プロテインが体にいいと勧められて利用を始めたものの、急激に体調を崩す人がいる。カゼインに対するアレルギーがあることを知らなかったわけだ。こういう人は、カゼインフリーのホエイプロテインでも全然飲めなかったりする。
そう、個人差というものがあるんだ。
万人に通じる絶対の食事法というのがあれば楽なんだけど、残念ながらそういうのはなさそうだ(少食とビタミンCはけっこういい線いってると思うけどね^^)。
いろんな情報を参考にしつつも、結局、各自が自分で自分なりのベストを模索していくしかないんだよね。
2019.2.15
「肝臓癌の既往がある、とのことですが、いつ頃のことですか」
「10年ほど前にたまたま見つかって。手術して治りました。その後特に再発はありません」
「ご職業は?」
「今は無職です。以前はしがない肉体労働ですよ」
「もう少し詳しく。どういったところにお勤めでしたか」
「プラスチックのパイプなんかを作る工場で作業員をしていました」
「お酒は飲まれますか」
「それなりに。毎日の晩酌を。でもそんなにたくさん飲むわけではありません。量で言えば、ビールを2缶ぐらいかな」
「B型肝炎やC型肝炎だと言われたことは?」
「それはありません」
肝臓というのはデトックス器官で、体に入ったよからぬものを解毒してくれる非常にありがたい臓器だ。
そのデトックス器官自体に癌ができてしまう、というのは、これは余程のことだ。
アルコールの多飲によって脂肪肝になり、肝硬変に進展し、ついには肝臓癌を発症する、という流れも確かにあるけど、実はアルコールが直接的な原因になっている肝臓癌は、肝臓癌全体の1割くらいではないかと言われている。
肝臓癌のほとんど(9割方)は、肝炎ウィルスの慢性感染によるものであり、慢性感染者に飲酒習慣がある場合、肝臓癌の発症率が相乗的に上昇する、というのが疫学の示すところである。発癌のメカニズムの背景には、アルコールによる免疫抑制、酸化ストレス増加、肝細胞死増加、肝炎ウィルス遺伝子の突然変異の蓄積、鉄過剰などがあるようだ。
しかし、上記の患者は肝炎ウィルスのキャリアーではない。お酒も適量飲酒を守れている。こういう人が、なぜ肝臓癌になるのか。問診のなかに大きなヒントがあった。
プラスチックを作る工場の労働者。
「塩化ビニールは肝血管肉腫の原因になる可能性がある」これは、内科の授業よりは産業医学の授業で一般の学生も教わることである。
塩化ビニールへの曝露が原因で腫瘍を生じていながら、『肝血管肉腫』という限定的な診断ではなくて、アバウトに『肝臓癌』という診断を受けている人は、想像以上に多いのではないか。
「肝炎でもない、酒も大して飲まないのに、なんで肝臓癌になんてなったのかな」
こういう人には、職業曝露を疑って職歴を聞かないといけない。
『塩化ビニール取扱労働者における肝細胞肉腫と肝硬変の増加リスク〜職業曝露とアルコール摂取による相乗作用』という論文があった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1247480/
ざっと訳してみよう。
肝細胞肉腫(HCC)と肝硬変(LC)は、塩化ビニールモノマー(VCM)が引き起こす疾患ではないかと言われているが、因果関係は充分には確立されていない。
我々の目的は、HCCとLCの病因において、VCM、アルコール摂取、ウィルス性肝炎感染およびこれらの相互作用の影響を評価することである。
HCCの13症例、LCの40症例を、慢性的な肝疾患や肝癌のない139人の対照群(1658人のVCM労働者をコホートとした症例対照研究として)とそれぞれ比較した。
オッズ比と95%信頼区間は一般的な方法とロジスティック回帰調整モデルによって評価した。相互作用の評価に際してはロスマン相乗指数(S)を用いた。ロジスティック回帰分析において交絡因子を一定に保ち、それぞれの追加増分(1000ppm×VCMの蓄積曝露年数)はHCCで71%のリスク増加(OR = 1.71; 95% CI, 1.28–2.44)、LCで37%のリスク増加(OR = 1.37; 95% CI, 1.13–1.69)だった。
VCM曝露(2500ppm×年数以上)およびアルコール摂取(1日あたり60g以上)の影響が加わると、オッズ比はHCCで409倍(95% CI, 19.6–8,553) 、LCで752倍(95% CI, 55.3–10,248) になった。両者とも、S指数は相乗的であることを示していた。VCM曝露(2500ppm×年数以上)とウィルス感染の影響が加わると、HCCは210倍(95% CI, 7.13–6,203) 、LCは 80.5倍(95% CI, 3.67–1,763)となった。両者とも、S指数は相加的であることを示していた。
結論として、VCM曝露はHCCおよびLCの独立したリスク因子であり、アルコール摂取とは相乗的に、ウィルス感染とは相加的に作用することで、これらの罹患リスクを増大させるということがわかった。
塩化ビニールを使った製品は僕らの身の回りにあふれていて、この便利な現代文明を支えている。そして塩化ビニールを作る工場の人たちは、その便利さと引き換えに、自分たちの健康を危険にさらしている。
彼らの健康を守るために上記の研究を生かすなら、たとえば、「塩化ビニール製造会社は、製造ラインなど最も曝露量が多い部署には、肝炎感染者を働かせない」とか「曝露量が多い部署に勤務する人は、酒を極力控える」などのルールがあってもいいと思う。
ちなみに、もし僕がそういう会社の産業医なら、社員全員にビタミンCの服用(たとえば1日3000mgとか)を義務付けるつもりだ。ビタミンCが肝細胞癌に著効するということは、たとえばこの研究でも示されている。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5871898/
社長の注意義務違反か産業医の怠慢か、自分が健康リスクのある物質を触っているんだという意識のない労働者がたくさんいて、このせいで多くの不幸が起こっていると思う。
2019.2.14
3年ほど前、食事をすると右の奥歯が痛んだことがある。
じっとしていれば痛まないし、水を飲んでしみるということもない。虫歯ではない。
ただ、食事のとき、咀嚼をすると、痛む。
生きるためには食べないといけない。でも食事が、痛みのせいで不快で仕方ない。
噛むと痛い、という状況は、なかなかの生き地獄だった。
ネットで自分の症状を調べると、どうも「根尖性歯周炎」のようだとわかった。
歯周病のように歯茎に炎症が起こっているのではなく、歯の根っこで炎症が起こっているのが特徴で、原因は細菌感染だという。
虫歯が原因のことが多いというが、僕の場合は虫歯ではない。ただ、どういう経路でか、歯の根っこに菌が侵入し、咀嚼時の痛みを引き起こしているのだった。
治療は根管治療というかなり大がかりな処置を行う。歯髄の内部の感染巣にアプローチするために、歯髄を除去して細い針を通し、消毒液で洗浄する。
歯髄を除去するということは、血管も神経も丸ごと除去するということだ。神経がなくなるわけだから、痛みは感じなくなる。しかし同時に血管もなくなって、その部位に酸素も栄養分も供給できなくなる。血管という、いわば道路がなくなるから、細菌と戦う白血球を前線に送り込むことができない格好だ。
それに、痛みというのは確かに不快だけど、生体が「ここに注目!」と発している警戒信号であって、神経を除去するということは、そういうシグナルを受信できなくなることを意味する。
やばい治療だな、というのが直感。
で、調べてみると確かに、根管治療の成功率は低い、というデータがあった。http://www.yoshikawa-dc.com/drblog/膿が溜まっている歯を根管治療し3ヶ月のct画像%E3%80%80no2
根管治療の成功率は3割〜5割だという。成功率がこんな低い治療なんて、バクチみたいなものでしょ。
何とか他の治療法がないものだろうか。
調べているうちによさそうに思ったのが、エッセンシャルオイルの塗布。
根尖性歯周炎に効く、という記述はなかったが、歯周病に効くという情報は多かった。
効くとされるエッセンシャルオイルを一通り(クローブ、ペパーミント、ティーツリー、オレガノ、タイム、シナモン、バジル)購入した。
100均で買った小さなスプレーボトルに全種類、適量入れて、患部に噴霧。
本当に効いた。
不快な痛みが、見事になくなった。
複数のエッセンシャルオイルを混ぜて使ったから、具体的にどれが効いたのかわからない(痛みから早く解放されたくて、ひとつずつ試してみる余裕なんてなかったから)。
でも、とにかく効いた。もう噛んでも痛くない。
当たり前に食事ができるというのは、何という喜びだろうと思った。
これは本当の話だ。
でも、あくまで僕の個人的経験に過ぎない。サンプル数、1。それだけ。
ネット上にある、他の人のこういう「本当の話」をいくつ集めても、それは科学ではない。
「エッセンシャルオイルは歯周病にすごくいいよ。だって、俺の歯の痛みが治ったんだもの」と自分の経験談として強調しても、科学的事実として認めてもらえない。
皆に認めてもらうためには、RCT(無作為比較試験)によるエビデンスがないといけない。「俺が証拠だ」ではダメなんだ。
いわゆる民間療法には、エビデンスの裏付けがないものが多くある。そのなかには、本当に効果があるのにまだどの学者も研究していないものもあれば、RCTで否定されプラセボ以上の効果がないと実証されたものもある。
幸い、エッセンシャルオイルの歯周病菌に対する有効性は、多くの研究で示されている。RCTもあれば、試験管内で歯周病菌に対してどのエッセンシャルオイルがどの濃度で効くのか、という研究もある。
たとえばこんな研究。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4054083/
タイトルは『5種類のエッセンシャルオイルの口腔内微生物に対する抗菌作用』。
要約を訳す。
目的
この研究は、口腔内病原菌に対して、5種類のエッセンシャルオイルの最少発育阻止濃度(MIC)、最少殺菌濃度(MBC)、最少殺カビ濃度(MFC)を見つけ出すことである。
方法
5種類のエッセンシャルオイル(ティーツリーオイル、ラベンダーオイル、タイムオイル、ペパーミントオイル、オイゲノールオイル)によるMIC、MBC、MFCを検出することにより、4種類の一般的な口腔内病原菌に対する抗微生物活性を液体希釈法により調べた。
この研究に使った系統は、黄色ブドウ球菌ATCC25923、エンテロコッカス・フェカリスATCC29212、大腸菌ATCC25922、カンジダ・アルビカンスATCC90028である。
5種類のエッセンシャルオイルのうち、オイゲノールオイル、ペパーミントオイル、ティーツリーオイルは有意に発育抑制効果を示した。(平均MICはそれぞれ、0.62 ± 0.45, 9.00 ± 15.34, 17.12 ± 31.25 )
平均 MBC/MFC は、ティーツリーオイルで、17.12 ± 31.25、ラベンダーオイルで151.00 ± 241.82, タイムオイルで22.00 ± 12.00, ペパーミントオイルで9.75 ± 14.88 オイゲノールオイルで0.62 ± 0.45.だった。エンテロコッカス・フェカリスはどのエッセンシャルオイルにも感受性が比較的低かった。
結論
ペパーミント、ティーツリー、タイムは口腔内病原菌に対する効果的な根管抗菌溶液として使用することができる。
エッセンシャルオイルは確かに効くということだ。副作用のなさ、値段などを考えると、下手な抗生物質を使うよりもはるかに有効だと言える。
歯医者にかかって神経や血管を抜かれる前に、まずはエッセンシャルオイルを試してみよう。
ただし、メーカーや品質にはこだわったほうがいいし、本来飲用のものではないから、効果を焦ってたくさん使いすぎないことも大事だよ。
あと、甘いものは食べないこと。食事の改善は歯周病の治療に際しても大前提だ。