院長ブログ

歯周病

2019.2.14

3年ほど前、食事をすると右の奥歯が痛んだことがある。
じっとしていれば痛まないし、水を飲んでしみるということもない。虫歯ではない。
ただ、食事のとき、咀嚼をすると、痛む。
生きるためには食べないといけない。でも食事が、痛みのせいで不快で仕方ない。
噛むと痛い、という状況は、なかなかの生き地獄だった。

ネットで自分の症状を調べると、どうも「根尖性歯周炎」のようだとわかった。
歯周病のように歯茎に炎症が起こっているのではなく、歯の根っこで炎症が起こっているのが特徴で、原因は細菌感染だという。
虫歯が原因のことが多いというが、僕の場合は虫歯ではない。ただ、どういう経路でか、歯の根っこに菌が侵入し、咀嚼時の痛みを引き起こしているのだった。
治療は根管治療というかなり大がかりな処置を行う。歯髄の内部の感染巣にアプローチするために、歯髄を除去して細い針を通し、消毒液で洗浄する。
歯髄を除去するということは、血管も神経も丸ごと除去するということだ。神経がなくなるわけだから、痛みは感じなくなる。しかし同時に血管もなくなって、その部位に酸素も栄養分も供給できなくなる。血管という、いわば道路がなくなるから、細菌と戦う白血球を前線に送り込むことができない格好だ。
それに、痛みというのは確かに不快だけど、生体が「ここに注目!」と発している警戒信号であって、神経を除去するということは、そういうシグナルを受信できなくなることを意味する。
やばい治療だな、というのが直感。
で、調べてみると確かに、根管治療の成功率は低い、というデータがあった。http://www.yoshikawa-dc.com/drblog/膿が溜まっている歯を根管治療し3ヶ月のct画像%E3%80%80no2
根管治療の成功率は3割〜5割だという。成功率がこんな低い治療なんて、バクチみたいなものでしょ。
何とか他の治療法がないものだろうか。
調べているうちによさそうに思ったのが、エッセンシャルオイルの塗布。
根尖性歯周炎に効く、という記述はなかったが、歯周病に効くという情報は多かった。
効くとされるエッセンシャルオイルを一通り(クローブ、ペパーミント、ティーツリー、オレガノ、タイム、シナモン、バジル)購入した。
100均で買った小さなスプレーボトルに全種類、適量入れて、患部に噴霧。
本当に効いた。
不快な痛みが、見事になくなった。
複数のエッセンシャルオイルを混ぜて使ったから、具体的にどれが効いたのかわからない(痛みから早く解放されたくて、ひとつずつ試してみる余裕なんてなかったから)。
でも、とにかく効いた。もう噛んでも痛くない。
当たり前に食事ができるというのは、何という喜びだろうと思った。

これは本当の話だ。
でも、あくまで僕の個人的経験に過ぎない。サンプル数、1。それだけ。
ネット上にある、他の人のこういう「本当の話」をいくつ集めても、それは科学ではない。
「エッセンシャルオイルは歯周病にすごくいいよ。だって、俺の歯の痛みが治ったんだもの」と自分の経験談として強調しても、科学的事実として認めてもらえない。
皆に認めてもらうためには、RCT(無作為比較試験)によるエビデンスがないといけない。「俺が証拠だ」ではダメなんだ。
いわゆる民間療法には、エビデンスの裏付けがないものが多くある。そのなかには、本当に効果があるのにまだどの学者も研究していないものもあれば、RCTで否定されプラセボ以上の効果がないと実証されたものもある。
幸い、エッセンシャルオイルの歯周病菌に対する有効性は、多くの研究で示されている。RCTもあれば、試験管内で歯周病菌に対してどのエッセンシャルオイルがどの濃度で効くのか、という研究もある。
たとえばこんな研究。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4054083/
タイトルは『5種類のエッセンシャルオイルの口腔内微生物に対する抗菌作用』。
要約を訳す。
目的
この研究は、口腔内病原菌に対して、5種類のエッセンシャルオイルの最少発育阻止濃度(MIC)、最少殺菌濃度(MBC)、最少殺カビ濃度(MFC)を見つけ出すことである。
方法
5種類のエッセンシャルオイル(ティーツリーオイル、ラベンダーオイル、タイムオイル、ペパーミントオイル、オイゲノールオイル)によるMIC、MBC、MFCを検出することにより、4種類の一般的な口腔内病原菌に対する抗微生物活性を液体希釈法により調べた。
この研究に使った系統は、黄色ブドウ球菌ATCC25923、エンテロコッカス・フェカリスATCC29212、大腸菌ATCC25922、カンジダ・アルビカンスATCC90028である。
5種類のエッセンシャルオイルのうち、オイゲノールオイル、ペパーミントオイル、ティーツリーオイルは有意に発育抑制効果を示した。(平均MICはそれぞれ、0.62 ± 0.45, 9.00 ± 15.34, 17.12 ± 31.25 )
平均 MBC/MFC は、ティーツリーオイルで、17.12 ± 31.25、ラベンダーオイルで151.00 ± 241.82, タイムオイルで22.00 ± 12.00, ペパーミントオイルで9.75 ± 14.88 オイゲノールオイルで0.62 ± 0.45.だった。エンテロコッカス・フェカリスはどのエッセンシャルオイルにも感受性が比較的低かった。
結論
ペパーミント、ティーツリー、タイムは口腔内病原菌に対する効果的な根管抗菌溶液として使用することができる。

エッセンシャルオイルは確かに効くということだ。副作用のなさ、値段などを考えると、下手な抗生物質を使うよりもはるかに有効だと言える。
歯医者にかかって神経や血管を抜かれる前に、まずはエッセンシャルオイルを試してみよう。
ただし、メーカーや品質にはこだわったほうがいいし、本来飲用のものではないから、効果を焦ってたくさん使いすぎないことも大事だよ。
あと、甘いものは食べないこと。食事の改善は歯周病の治療に際しても大前提だ。