院長ブログ

ひまし油

2019.3.8

「ひまし油の塗布で薄毛が改善した」という声がネット上に散見される。
本当に効くのだろうか。
薄毛を恐れる一人として、当方も関心を持たざるを得ない^^;
こういう個々の体験談というのは、自分を実験台にした症例報告としての意味合いはあっても、科学的なエビデンスとしては認められない。
強い説得力を持つには、実薬群(ひまし油塗布群)とプラセボ群を設定した無作為化比較試験(RCT)を行なって発毛の具合に有意差があることを示したいところだ。
しかし残念ながら、僕が調べた限りでは、ひまし油を使ったRCTは見当たらなかった。
しかし、ひまし油は民間療法として数千年にわたって使われてきた歴史がある。その安全性についてはFDAも認めるところだ。経験的に有効とされるのは、薄毛、シミ消し、イボ取り、水虫、関節痛、筋肉痛、頭痛、てんかん、神経炎、肝障害、便秘、虫垂炎、大腸炎、胆嚢炎など、ほとんど『万能薬』と言いたくなるほどだ。

薄毛に効くというエビデンスはないが、ひまし油に含まれるリシノール酸の抗炎症作用については、研究室レベルでのエビデンスがある。
薄毛も含め多くの病気の背景には炎症があることから、ひまし油の薬効はこの抗炎症作用に由来しているのかもしれない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?cmd=search&term=11200362
タイトルは『急性炎症・亜慢性炎症の実験モデルにおけるリシノール酸の効果』。
要約を訳す。
ひまし油の主成分であるリシノール酸の局所投与には著明な鎮痛・抗炎症作用があることが、観察研究によって示されている。薬理学的特性としては、リシノール酸の作用はカプサイシン(唐辛子の主成分)の作用と類似性があることが示されているが、このことから、リシノール酸は感覚性の神経ペプチドを介した神経原性炎症に作用している可能性がある。
本研究の目的は、急性炎症および亜慢性炎症のいくつかのモデルに対するリシノール酸の抗炎症作用を、カプサイシンとの比較から評価することである。急性炎症モデルは、マウスにカラギーナンを皮内注射するか、モルモットのまぶたにヒスタミンを投与することで作成した。いずれの実験においても、浮腫の厚みの程度を計測した。
亜慢性浮腫モデルは、マウスの右足腹側にフロイントアジュバント注射を行うことで作成した。カラギーナンの投与実験では、放射免疫測定によって組織中のP物質(痛覚物質)を測定した。
リシノール酸(1マウスあたり0.9mg)あるいはカプサイシン(1マウスあたり0.09mg)の局所投与によって、カラギーナンによって起こしたマウスの足の浮腫が有意に増大したが、同用量のリシノール酸あるいはカプサイシンの局所投与を8日間繰り返すと、組織中のP物質の減少とともに、カラギーナンによる足の浮腫が著明に抑制された。同様の効果は、モルモットのまぶたにヒスタミンで起こした浮腫に対してリシノール酸あるいはカプサイシンを投与した後にも確認された。フロイントアジュバントによって引き起こされた浮腫(亜慢性炎症のモデル)に対してリシノール酸およびカプサイシンを1〜3週間にわたって投与すると、症状が軽減した(特に皮内に投与すると効果が大きかった)。カプサイシンの投与によって、マウスの足、モルモットのまぶたには、軽度の充血および行動反応(まぶたを掻くなど)が見られたが、リシノール酸ではこのような反応は見られなかった。
本研究の結果に基づけば、リシノール酸は、カプサイシン様の抗炎症作用を持ちながら、同時にカプサイシンのような刺激性のない新たな作用物質として使用できる可能性がある。

ただ、長く人類に使われてきたものだとはいえ、有害事象の報告がないわけではない。ひまし油を髪に塗ったところ、ひどい巻き毛になったという症例報告がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5596646/
極めて稀な症例で、だからこそ報告されているわけで、こんなレアな症状を恐れる必要はないけれども、「数千年に渡って使われてきたものだから、絶対に安全」というテーゼの反例にはなっていると思う。

ビタミンCとコレステロール

2019.3.8

なぜコレステロールが高くなるのか。
「コレステロールから胆汁酸が作られる流れが滞っているせいかもしれない。そしてそれは、ビタミンC不足が原因かもしれない」という説がある。
40年以上前の古い論文だけど、紹介しよう。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1060410
『コレステロールおよび胆汁酸の代謝におけるアスコルビン酸(ビタミンC)』
要約
モルモットの潜在性慢性アスコルビン酸欠乏は、肝臓での代謝障害を引き起こし、コレステロールを異化し胆汁酸を生成するプロセスがうまくいかなくなる。
この代謝異常によって、高コレステロール血症および肝臓でのコレステロール貯留が生じ、コレステロールを排出する循環が滞ってしまう。
アスコルビン酸は、コレステロール核の7αヒドロキシル化の段階で胆汁酸を生合成する反応に関与している。
高用量のアスコルビン酸によってコレステロールから胆汁酸への移行が順調に進み、血中のコレステロールが減少する。

ビタミンCによるLDLコレステロール低下作用はメタ分析でも示されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2682928/
『ビタミンCサプリは血中LDLコレステロールおよび中性脂肪を減少させる〜13の無作為化比較試験(RCT)のメタ分析』というタイトル。結論だけ紹介しよう。
最低4週間、少なくとも1日500mgのビタミンCサプリを摂取することで、血中LDLコレステロールおよび中性脂肪が有意に減少した。しかし、HDLコレステロールの上昇に関しては有意差が出なかった。

メタ分析というのは、複数のRCTを総まとめにした研究で、エビデンスレベルとしては一番高いとされている。
つまり、ビタミンCのLDLコレステロール低下作用は、動物実験でもメタ分析でも示された格好で、まず間違いないと言えそうだ。
しかし実臨床ではどうですか?
コレステロール高値を見てシナールを処方する医者がいるとすれば、エビデンスに基づいたすばらしい医療で、こういう先生になら僕がかかりたいくらいだけど笑、そんな医者はまずいない。脂質異常症の診断で、スタチンを処方するに決まっている。
なぜか。
この理由は、まず一つには、医者の金儲けのため。
脂質異常症は特定疾患療養管理料が算定できるし、薬価の高いスタチンを売ることができる。慢性疾患だから、いったん患者になれば、一生通院し薬を飲み続けてくれる。病院の経営的には固定資産のようなもので、こんなありがたい上得意はない。
もう一つには、単純に医者が無知だから。
エビデンスレベルの極めて高い事柄であっても、医学部で教わらなければ、それは存在しないに等しい。よく勉強している良心的な医者が『高脂血症にはビタミンCが有効』と知って、スタチンの代わりにシナールを処方するなど、一般的ではない処方をするようになればどうなるか。彼は医局内で異端視されて、非常に肩身の狭い思いをするだろう。(僕も勤務医時代はきつかった)。
こうして患者が飲むのは、副作用のない安価なビタミンCではなく、副作用の多い高価な薬ということになる。
患者は金と健康を失う。
笑うのは医者と製薬会社だけ。
こんなデタラメが当たり前に行われているのが、今の日本の医療現場だ。
そりゃ保険診療制度が破綻の危機に瀕するわけだよなぁ。

ロディオラと性欲

2019.3.8

「醜い大きな鼻を恥じて、シラノは自分の容姿にまったく自信が持てない。
しかし天賦の文才は稀有のもので、彼の感性を経て紡ぎ出された言葉は、すべてきらびやかな詩になるのだった。
彼もまた人間。美しい女ロクサーヌに人知れず恋心を抱いていた。
あるとき、ロクサーヌに呼び出されたシラノは、彼女が美男クリスチャンに恋をしていると告げられた。クリスチャンも、ロクサーヌに一目惚れをしていた。
男シラノ、嫉妬にかられて取り乱したりはしない。
やはりロクサーヌは、醜い容姿の自分には手の届かない高嶺の花なのだと、思った。
しかし同時に、愛する女の幸せを願い、この美男美女の恋を成就させてやろうと決めた。寅さんみたいやなぁ^^
ある夜、クリスチャン、ついにロクサーヌに恋心を打ち明けた。しかし彼の口からは凡庸な言葉しか出てこない。
彼女は、もっと情熱的な言葉が欲しかった。いかに自分を愛し、欲しているか、巧みに口説いて欲しかった。
彼女が幻滅を感じ始めたとき、茂みに隠れていたシラノ、クリスチャンにカンペを出す。
美しい修辞に彩られた愛の言葉に彼女は陶酔し、ついにクリスチャンに口づけを許した。
これを知ったド・ギッシュ伯爵、彼もまた密かにロクサーヌを思っていた一人。
この権力者は嫉妬に狂って、シラノとクリスチャンを戦場に送ってしまった。
戦場でもシラノはクリスチャンになり代わって、ロクサーヌに恋文を送り続けた。恋文は彼女を動かした。ロクサーヌ、危険を顧みず戦場に慰問に来た。
『私が愛しているのは、いまやあなたの美しい容姿ではありません。あなたのラブレターからにじみ出る、あなたの人間性、精神性そのものです』と彼女は語った。
ロクサーヌのこの言葉は、彼を喜ばせるどころか、打ちのめした。
好きな女の心を得たものの、それがゴーストライターのおかげだということが、潔白な彼には耐えられなかったんだな。いい男だ。
あわれ、捨て鉢のクリスチャン、前線に飛び出し戦死してしまった」
「あのさ、途中でさえぎるようだけど、何の話?」
「ロスタンの戯曲でね、『シラノ・ド・ベルジュラック』っていう。話はこの後、愛する男に死なれたロクサーヌが修道院でひっそりと暮らすようになって、」
「もういいって。長いよ」
「うん、要するに何が言いたいかっていうとね、僕は君のシラノでありたいって思うんだ。僕のルックスはパッとしない。でも、君を思う気持ちは誰にも負けないし、君の魅力を謳う詩を捧げたい」
「そういうライン、ときどき送ってくるけど、気持ち悪いからやめてくれない?」
「君の美は時とともに失われても、僕の詩の中に書き留めた君は、永遠の美をたたえている」
「どうでもいいけど、鼻毛出てるよ」

恋愛とは何か。
これは昔から哲学者や文学者が取り組んできたテーマだ。
老いも若きも、男も女も、誰しもが恋愛をする。でも恋愛遍歴は人それぞれで、各人各様の恋愛観があるだろう。
芥川龍之介が「恋愛はただ性欲の詩的表現をうけたものである」なんて言ってる。
ずいぶん寒々しいことを言うなぁって、昔は何となく反発を感じたんだけど、今思うと、やっぱり本質を突いてるとも思う。

人間には三大欲求というものがある。食欲、睡眠欲、性欲、この三つだ。
健康であるためには、この三つが過不足なく満ち足りていることが必要だ。
恋愛という心の動きは、その根源に性欲があってこそなんだけど、性欲については社会的に何となくタブー視されがちだ。
ドラマや映画の主題が恋愛であったとしても、成就した恋愛の行き着く先の領域は描かれていない。描かれても、せいぜいキスまで。そこから先は『20歳未満お断り』の封鎖線が張られているようだ。
一般的な『性』以上に、さらにタブー視されているのが、『高齢者の性』だろう。
高齢者も人間。当然、性欲がある。しかし世の中は、何となく「ないもの」として扱ってきた。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/55607
この記事は「高齢夫婦間での性欲ギャップ」「高齢男性で風俗店に通う男性が増えている」といった現状を真正面から見据えていて、おもしろかった。

高齢になっても夫の性欲がそれほど衰えておらず、かつ、妻の側で比較的低下している場合、すれ違いが起こることになる。「夫の求めに答えてあげたい」という思いがある一方で、肉体的に受け入れることができない場合、妻としてはつらいだろうと思う。
そういうときには、アダプトゲン、特にロディオラを勧めたい。
https://www.jsm.jsexmed.org/article/S1743-6095(16)00555-5/abstract
『げっ歯類およびヒトにおけるストレス誘発性の性機能低下〜ロディオラ・ロゼア抽出物の臨床的有用性』というタイトルの論文。
要約をさらに噛み砕いて説明すると、
ラットに急性、慢性のストレスを与えた。すると、ラットは抑うつ状態になったりして、エッチどころではなくなって交尾の頻度が減るんだけど、そこでロディオラを含むエサを与える。すると交尾の回数が増えた、という研究。あともう一つ、性欲が低下した患者にロディオラ抽出物を1日2回、4週間にわたって与えたところ、ストレススコアが減少し性交回数も増えた、という研究。

ロディオラは男性だけでなくて女性にも効果があるよ。
他の栄養素としては、亜鉛(テストステロンの増強と、テストステロンがエストロゲンに変換されるのを防ぐために)、マグネシウム、ビタミンCあたりもオススメしたい。
恋愛というのは、心の余裕だと思う。だって、病に臥せっている人が恋愛なんてできないでしょう?誰かに恋心を抱くというのは、それだけ健康で心身に余裕があるということだ。
でも、逆に誰かに恋することで病気から立ち直るエネルギーが沸く、なんてこともあるから、人間って不思議なものだね。

あ、最後に一つ注意。
ロディオラは抗ストレス作用を通じて、性欲を回復させる働きがあるけど、惚れ薬ではないから、振り向かせたい人にこっそり盛っても効きません^^;
個人的な苦い経験で知ってるんだけど、いっぺん気持ちが離れてしまった女の子をもう一回振り向かせることは、どんな上手なラブレターを書いても無理なんだよなぁ^^;

電子レンジ

2019.3.7

電子レンジの安全性(あるいは危険性)について、以下のサイトから興味深い箇所をピックアップして、訳しました。https://articles.mercola.com/sites/articles/archive/2010/05/18/microwave-hazards.aspx

電子レンジによる調理によって、食品中に毒性物質が生じる。
『電磁波と健康〜電磁場および無線周波数の影響とその対策』(ケース・アダムス著)に以下の記載がある。
「カリフォルニアのローレンス・リバーモア研究所の研究によると、電子レンジによって食品中に複素環芳香族アミン(HCA)と多環芳香族炭化水素(PAH)が生じるとの結論が出ている。両者とも、発癌性が疑われている。PAHは肉を揚げることによっても生じる」
リタ・リー博士は1989年の著書『電磁波と電子レンジ』のなかで、オレゴンのアトランティス・ライジング教育センターの研究を引用しながら、「HCAとPAHがタンパク質に生じる一方、炭水化物(およびタンパク質)にはAGEs(最終糖化産物)が生じる」と述べている。同研究は、電子レンジによってほとんどすべての食品中に発癌物質が生じることを示したものである。
HCAやPAHとは別に、肉を電子レンジで調理することによって、d-ニトロソジエタノールアミンが生じるが、これも発癌物質である。
牛乳や穀物を電子レンジにかけると、食材中に含まれるアミノ酸が発癌性化合物に変化する。凍った果物を電子レンジにかけるだけでも、果物に含まれるグルコシドやガラクトシドが発癌性化合物に変化する。
同じことは植物性の食品にも言える。植物性食品に含まれるアルカロイドが発癌物質とフリーラジカルに変化する。話はそこで終わらない。
『電磁波と健康』によると、
・ランセットに1989年に掲載された研究によると、乳児用ミルクを電子レンジにかけると、トランスアミノ酸がシス同位体に変化するが、これには神経毒性および腎毒性がある。つまり、電子レンジにかけた乳児用ミルクを飲めば、神経系および腎臓に悪影響があるということである。
・スイスの科学者ハンス・ヘルテル医師は、1991年の論文で、電子レンジで調理した食品によって、血中に発癌作用が生じることを報告した。
この研究はボランティア8人による小規模なものである。ボランティアを生の牛乳、調理した牛乳、殺菌した牛乳、電子レンジにかけた牛乳を飲む群に分け、さらに彼らを、有機栽培の生野菜、一般栽培で(電子レンジを使わず)調理された野菜、凍結後に電子レンジで解凍した有機栽培および一般栽培の野菜、電子レンジで十分に加熱調理した有機栽培および一般栽培の野菜を食べる群に分けた。
食事を食べる前と後に、血液検査を行なった。
結果、電子レンジをかけた牛乳あるいは野菜を摂取した群では、血中ヘモグロビン、白血球(リンパ球)、赤血球が減少し、コレステロールが増加していた。リンパ球の減少は感染症や組織損傷のリスクを増大させる。
この研究は、被験者数が少ないことなど欠点があるものの、電子レンジの安全性について大きな問題提議を含むものである。
ヘルテルはまた、電子レンジによって食品の分子変形すると、放射線による分解による化合物が生成することを発見した。その後の研究によって、この物質も発癌性を持つことが示唆されている。

日本で電子レンジのない家庭はほとんどないだろう。外食産業においても、電子レンジは、それなしでは業務が回らないほど普及しているに違いない。
健康意識が高くて自宅で電子レンジを使わない人も、外食をすればまず間違いなく、電子レンジで加熱調理した食品を口にしているだろう。
そういう意味で、上記記事の意味するところは非常に大きいと思う。

妊婦あるいは授乳中の女性が、電子レンジで加熱調理した食品を摂取した場合、胎盤や母乳経由で発癌性物質が移行する可能性はないだろうか。電子レンジを、ただ単に『食べ物を温める機械』としか認識していないお母さんが、乳児用ミルクを電子レンジでチンして、子供に飲ませる、ということはあり得ることだと思う。というか、健康意識の高いお母さんででもない限り、普通にやっていることだろう。
原因不明とされる小児癌が、実は電子レンジによって生成した発癌物質が原因である可能性はないだろうか。

上記ヘルテルの実験を踏まえれば、僕ら医者は電子レンジの危険性を知っておく必要がある。たとえば、患者の採血結果で『ヘモグロビン、赤血球低値、コレステロール高値』のような異常値があった場合、「ひょっとして電子レンジで温めたものを毎日たくさん食べていませんか?」と聞けるかどうか。知識がない限り、『電子レンジの過剰使用』の可能性を鑑別に挙げることはできない(ちなみに、コレステロール高値を見てビタミンC欠乏を疑うことも大事だ)。
これだけ電子レンジが普及した世の中なんだから、電子レンジに起因する血液検査異常というのは、存在するに違いない。
医者のみならず、一般の人も電子レンジの危険性は絶対に知っておくべきで、学校教育で教わってもいいぐらいに重要なことだと思う。食品添加物の危険性を家庭科の授業で習った記憶がある。そういうのとワンセットで、電子レンジの危険性も教えるといい。
知った上で、使うか使わないかは、もう本人の自由だと思う。とても便利な文明の利器であることは確かで、一律に使用を禁じることはできないだろう。
でもその使用は、危険性を承知の上での使用であるべきだ。

疲労とビタミンC

2019.3.3

「一晩寝るとすっかりが疲労が消えて、今日も一日頑張ろうという気持ちになれます」と言える人は、今の日本でどれくらいの割合でいるだろう。
「ずっと疲れています。寝ても疲れが取れず、朝からだるい感じです」という人がかなり多いと思う。
実臨床では、たとえ疲労が主訴でなくても、話を聞いていると疲労を認める人がほとんどだ。疲労感というのは、現代人の心身に通奏低音のように流れている。

意外に思われるかもしれないが、対症療法がお得意の西洋医学も、疲労や倦怠感に対しては無力だ。
昔は疲労に対してヒロポン(メタンフェタミン)が処方されていた。商品名の由来(疲労がポンととれるからヒロポン)を聞けば、なるほどと思うよね^^;
しかしこの薬には耐性と依存性があって、長く使い続けると薬なしでは正気を保てなくなって、やがて廃人になる。そういうわけで、今では覚醒剤取締法に抵触する禁止薬物ということになっている。
かつては薬として処方されていたものが、今では覚醒剤扱いって、考えてみればすごい話だ^^;
でも実は、現在普通に処方されているベンゾジアゼピン系の抗不安・睡眠薬も、依存性と耐性があって、結局同じようなもんなんだよなぁ。

さて、かつてはヒロポンという対症療法があったが、今ではそれも禁じ手になってしまい、西洋医学は疲労に対して打つ手がない。
副腎疲労(adrenal fatigue)や慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)という疾患概念があって、よく勉強している医者はこういう病態を知っている。
しかし一般の医学部教育で教わるものではないし、保険適応のある病名ではない。つまり、「普通」の医者には認められていない。
“Adrenal Fatigue: The 21st Century Stress Syndrome”という名著があって、著者のJames Wilson博士は、疲労感に対して栄養状態の改善(サプリの使用も含め)によって、大きな治療成果をあげた。具体的な内容についてはここでは触れないが、Wilson博士が使用するサプリのひとつに、 ビタミンCがある。

そもそも疲労とは何か。
活性酸素による酸化ストレスで神経細胞が破壊される、そのときの体の悲鳴を、僕らは「疲労」として認識するのではないか、という説がある。
つまり、疲労の背景には酸化がある。
だからこそ、Wilson博士は抗酸化作用のあるビタミンCを治療に用いているわけだ。

疲労に対してビタミンCの有効性を示す研究は多い。
たとえば以下のような論文。https://pdfs.semanticscholar.org/81ba/bb973e4772df0e694622b8de397dd39be5bd.pdf
『ビタミンC投与後の労働者の疲労の変化』
要約すると、
目的:最近の研究では疲労の重要な因子は酸化ストレスだと考えられている。本研究の主な目的はビタミンCの投与によって労働者の疲労が変化するかどうかを調べることである。
方法:定期的に働く労働者44人を対象に、2週間にわたって毎日ビタミンC6gを経口投与した。その後、人口統計データと比較し、対象者らの疲労度(VAS、FSS)および血液検査(ビタミンC、HbA1c、CRP、AST、ALT、γGTP、コルチゾル)の変化を評価した。
結果:疲労について疲労についてVAS、FSSいずれもビタミンC投与後に改善していた(p<0.005)。血液検査では、HbA1c、CRP、AST、ALT、γGTP、コルチゾルはビタミンC投与後に減少した(p<0.005)
結論:ビタミンC投与によって労働者の疲労感および血液検査の数値が改善することが示された。

この研究はビタミンCの経口投与だけど、もちろん静脈から投与しても効果的だ。
静脈投与による効果を検証した論文を以下に紹介しよう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3273429/
『ビタミンCの静脈投与はサラリーマンの疲労を軽減する〜プラセボ対照二重盲検』
要約すると、
ビタミンCによる疲労の治療効果についての研究は、結果にばらつきがある。このばらつきの原因のひとつは、投与経路の違いかもしれない。そこで、我々はビタミンCの静脈投与による臨床治験を行なった。
サラリーマンの疲労に対する静脈内ビタミンCの効果を評価した。
20歳から49歳までの141人の健康なボランティアがこの無作為化二重盲検に参加した。治験群にはビタミンC10mgを生理食塩水とともに静脈から投与する。プラセボ群には生理食塩水のみを投与する。
ビタミンCは抗酸化物質として知られていることから、体内の酸化ストレスを計測した。疲労スコア、酸化ストレス、血中ビタミンC濃度を、投与前、投与2時間後、投与1日後に計測した。同時に副作用の有無も確認した。
結果、投与2時間後および1日後に計測した疲労スコアは、2群間で有意に差があった(p=0.004)。つまり、疲労スコアはビタミンC投与群で投与2時間後に減少しており、1日後も低いままだった。
ビタミンC投与群では、プラセボ群に比べて、血中ビタミンC濃度が高く、酸化ストレスが低かった。データ分析をより細かくし、もともとのビタミンC濃度が高かった群と低かった群で分けると、投与後2時間後および1日後の疲労の軽減はもともとビタミンC濃度が低かった群で観察された(p=0.004)が、もともとビタミンC濃度が高い群では観察されなかった(p=0.206)。
結論として、ビタミンCの静注は投与2時間後の疲労を軽減し、その効果は1日後も残存する。2群間で副作用の有意差はなかった。本研究において、高用量ビタミンCの静注は疲労に対して安全かつ効果的であることが示された。

ちなみに上記2つの論文は、いずれも韓国から出たもの。
最近の韓国はビタミンに関する研究が盛んで、良質な仕事を量産している。
この背景には、韓国人の国民性もあると思う。形成外科の手術件数でいうと日本とは比較にならないほど多いように、韓国は美容に対する関心が高い。
美容とビタミンはお互い相性のいい分野だから、そういう経済的動機が研究を後押ししている側面もあるだろう。
一方、日本の医学者は、韓国とは逆にビタミンを目の敵にしている始末だから、当然韓国の後塵を拝している。今後、この差はますます開くばかりだろう。
だから何、ということはない。韓国に負けたからどう、勝ったからどう、ということはないんだけどね。ただ、近年の日本の国力、科学技術力の低下を象徴的に示しているような気がして、何だか寂しいんだな。

韓国の話が出たついでに、在日韓国人の友人の話。
「祖母は在日二世なんだけど、祖母は私に通名を使わせたいと思っていた。でも父が本名で通せ、って。
あ、通名っていうのは、日本人ぽい名前ってことね。ほら、私の名前は、漢字こそ使ってるけど、読みが全然日本風じゃないでしょ。これが本名なの。韓国籍でお役所に登録されている名前ってこと。
お父さんは、『何もコソコソ通名を使うことはない。本名で堂々としていればいいんだ』って考え方の人で、私にもそういうふうに生きて欲しかったのね。で、私も小学校からずっと今に至るまで、本名を名乗ってる。在日であることはもちろん隠してないし、出自のことを聞かれれば普通に答えるよ。朝鮮人差別がどうのこうのって、ニュースで見たりするけど、私自身は特に差別なんて感じたことないよ。
高校を卒業して韓国の大学に行ったから韓国語を話せるようになったけど、それまではほとんど話せなかった。国籍こそ日本じゃないけど、日本語が母語で日本の学校に行って日本人の友達と青春を過ごして、ってなったらさ、気持ち的にはもちろん日本人だよ。韓国学校にでも通っていれば、また違う価値観になってたのかもしれないけど。
あ、韓国学校っていうのはね、ほら、以前朝鮮学校の授業料無償化がどうのこうのって問題になったでしょ?朝鮮学校っていうのは北朝鮮寄り、韓国学校は韓国寄りの学校。数としては、朝鮮学校のほうが比較にならないくらい多い。
在日、と聞けば、北朝鮮出身だろうが韓国出身だろうが同じようなもんで、ワンセットだと思っているでしょう?実は全然違うんだよ。思想から何から何までね。
私、本名で通してるからさ、けっこう話しかけられるの。『ひょっとして、在日の方ですか。実は私もなんです』みたいなふうに。そうすると、話の自然な流れとしてまずお互い聞くのが、北か南か、ってこと。そこで違えば、『そうですか、お互い頑張りましょうね』で話は終わり。でも同じ南だったら、話はさらに弾んで、昔の友達に出会ったような、なつかしい気持ちになる。
露骨な差別を受けた経験はないよ。でもさ、同じ在日だから分かり合える感情っていうのが確かにあるの。
東京で関西出身者に出会ったらなつかしいでしょ?あれ?大してなつかしくない?笑
そういう感情を十倍くらい強めた感じだよ」

赤の他人であっても、無言のうちに感情をシェアしあえる関係性って、うらやましいな。
マスコミ報道は日韓の対立を伝えるニュースばかりで、両国の関係は冷え切っている。実生活で露骨な差別はないかもしれないけど、ネットの掲示板とか見れば下品な書き込みがあふれていて、彼女もそういうのを知らないわけじゃない。
胸が痛むが、同時に、強く生きよう、とも思う。日本国籍をとることは簡単にできる。本名のままとることさえ可能だ。実際、彼女の弟はすでに日本国籍をとり、日本人の嫁さんをもらっている。でも在日であることは、もはや彼女の中で確固としたアイデンティティになっている。いまさら単なる一人の日本人になることは、これまでの自分の人生を切り捨ててしまうようで、とてもできない。
いろんな人がいて、いろんな思いを抱えていて、そういう違いを、差別するんじゃなくて楽しめるようになるというのが人間の成熟だと思うんだけど、ネットの書き込みとか見てると民度の低さにあきれてしまって、僕にはもう何も言えません。