院長ブログ

虫歯とビタミンK2

2019.5.22

虫歯の原因菌には、ざっと大別して二つの系統がある。
連鎖球菌(ストレプトコッカス)と好酸性乳酸桿菌(ラクトバチルス・アシドフィルス)だ。
後者はいわゆる乳酸菌のこと。
乳酸菌は善玉菌の一種として有名で、腸内で未消化物の消化吸収を助けたり、腸内環境を弱酸性に保ち免疫系を元気にしてくれることは皆さんもご存知だろう。
健康維持のために、プロバイオティクスとして、ヨーグルトや漬物を食べたり乳酸菌のサプリをとったりしている人もいるかもしれない。
その乳酸菌が、口腔内では虫歯の原因になるというのだから、なかなか物騒な話だ。

腸ではいい仕事をしてくれる乳酸菌が、なぜ口では迷惑な存在になるのか。
当の乳酸菌としては、口であれ腸であれ、やっていることは何ら変わらない。
口の中の未消化な糖質をもとにしてエネルギー産生を行い、酸を分泌する。これが歯のエナメルに慢性的に付着すると、いわゆる虫歯が発生することになる。
だから、糖質を食べたときにはきちんと歯を磨けばいい。口腔内を清潔に保つことで虫歯の可能性を減らすことができる。

というのが、現在の虫歯予防についての一般的な考え方だ。
しかし、現実にはどうですか?
糖質制限を徹底し、毎日歯ブラシとフロスによる清掃を欠かさず、定期的に歯医者で歯石の除去までしてもらっているのに、それでも虫歯にかかる人がいる。
日本人は、世界でもトップレベルに歯磨きを徹底している民族だ。1歳以上の人の9割以上が毎日歯を磨き、毎日2回以上磨く人も8割近い、という統計がある。
それなのに、日本人の虫歯の有病率はざっと8割。歯周病の割合もおおよそ8割だ。
現実が理論を否定している、と思いませんか。
つまり、これだけせっせと歯磨きをしているのに、虫歯も歯周病も減っていないということは、「酸腐食による虫歯発生説」は一体正しいのだろうか、あるいは少なくとも、この理屈だけで虫歯を説明するのは無理があるのではないか、という疑問が当然わいてくるだろう。

そもそも、歯磨きによって口腔内の細菌数をゼロにすることなんて不可能なんだ。
プライスはこう言っている。
「原住民族の多くはデンプン質の食べ物を食べて歯を汚し、しかも歯磨きで歯を清潔にする努力などまったく行っていないが、それでも彼らには虫歯が皆無である」
一体なぜ、彼らは虫歯にならないのか。
その核心こそ、ビタミンK2である。

プライスは、ひどい虫歯の患者の唾液中には、好酸性乳酸桿菌が高濃度に含まれていることを観察した。平均して、唾液1ミリリットルあたりに32万3千個だった。
そうした患者に対して、グラスフェッドバターから作ったプライス特製のオイル(つまりビタミンK2含有オイル)を用いて治療すると、細菌数は平均1万5千個に減少した。
実に、95%の減少ということになる。なかには、細菌数が実質ゼロになった患者もいた。

ビタミンK2の摂取により唾液の性質がどのように変わるのかを、別の切り口から検証した研究がある。
ひどい虫歯の患者から採取した唾液と、骨片を触れ合わせると、骨片に含まれるミネラルが唾液中に移行した。
しかし、これらの患者をビタミンK2で治療した後に同様の実験を行うと、今度は逆に、唾液中のミネラルが骨片に移行したという。
実は唾液腺は、人間の体にある臓器のなかでビタミンK2の濃度が二番目に高い部位である(一番高いのは膵臓)。
ビタミンK2が、歯牙へのミネラル移行にどのように関与しているのか。

まず、歯の解剖を見てみよう。歯は表層のエナメル質、その下の象牙質、さらに内部の歯髄からなる。
エナメル質はすでに母体にいる胎児期に大半が形成されるが、象牙質は一生形成され続ける。
象牙質は骨と同じようなものだ。骨には骨芽細胞があり、骨形成と骨吸収を繰り返すように、象牙質にも象牙質細胞があって、形成と吸収を繰り返している。
また、骨、象牙質、いずれにおいても、ビタミンK2依存性タンパク質(オステオカルシンとMGP(基質glaタンパク))が産生されている。
ビタミンK2の摂取によってオステオカルシンやMGPが活性化し、これがカルシウムなどのミネラルを歯に呼び込む働きをした。これがミネラル沈着の核心だ。

まとめると、ビタミンK2が虫歯を抑制するメカニズムとして、二つの機序を考えることができそうだ。
つまり、虫歯の原因菌の数自体を減少させる作用と、脱灰防止およびミネラル沈着作用である。

脂溶性ビタミン(A、D3、K2)の有効性を認識しそれを自分の患者に使い始めて以後、プライスはドリルや歯科金属をほとんど必要としなくなった。
具体的には、今のようにお手頃なサプリのない時代だったから、ビタミンAやD3の供給源としてはタラの肝油を、ビタミンK2の供給源としてはグラスフェッドバターを使っていた(日本人なら納豆もぜひ食べよう)。
これによって、患者の虫歯の進行が止まっただけではない。象牙質の成長とミネラル沈着が促進され、かつては虫歯の穴があいていたところに新たなミネラルの覆いが形成され始めた。
つまり、虫歯の治癒が可能であることを、彼は多くの患者で観察した。

歯と骨というのは相同の器官で、歯は、いわば、見える骨だ。
歯にいいことは、当然骨にもいい。
実際、虫歯治療を目的に来院した少年に対して食事指導を行ったところ、虫歯の治癒ばかりか、なかなか治癒しなかった骨折さえ治ったことを、プライスは報告している。
骨粗鬆症の治療にもビタミンK2は当然有効だ。

栄養療法をしていれば、こういうことはしばしばある。
つまり、ある病気の治癒を目的に栄養療法を行ったところ、その病気が治ったことはもちろん、プラスアルファで別の不快な症状も一緒に治ったりする。
対症療法にこんな「おまけ」はあり得ない。せいぜい、副作用という別のおまけがついてくるのが関の山だ。
虫歯に対して、削って金属でフタをして、という今の標準的な治療こそ、野蛮で非文明的に見える。
原住民の知恵のほうが、はるかに洗練されていることを、プライスは知っていたんだな。

参考
Vitamin K2 and the Calcium Paradox (Kate Bleue著)

プライス博士とビタミンK2

2019.5.19

ウェストン・プライス博士は二十代で歯科医院を開業した。
虫歯や歯周病に苦しむ人々がひっきりなしに博士の医院を訪れ、彼の前で口を開いて見せた。
経営はすこぶる順調だった。しかし博士はこの状況を喜ばなかった。
「患者が多すぎる。一体人間というものは、生来こんなに簡単に虫歯になるものなのか。
我々の現代文明には、何か大きな間違いがあるのではないだろうか」

1925年、プライス博士は思い立って、妻とともに世界一周の旅に出た。
無論、観光のためではない。現代文明と接点を持たない原住民族の歯の健康を調べることが、彼の目的だった。
訪れる村々で、彼は原住民の歯の美しさに圧倒された。
虫歯の一切ない輝かしい歯列は、アメリカではまず目にすることのないものだった。
部族社会には歯磨き習慣も歯医者も存在しない。それなのに、彼らは見事な歯を保っているのだった。
さらに彼は、原住民のすばらしい健康ぶりにも息を飲んだ。
男はがっしりとした体躯、女は女性らしい丸みを備えた体をしており、皆、病気ひとつしなかった。
同時に彼らは性格も温和だった。異邦人のプライス博士を各部族の儀礼に従って、快くもてなすのだった。彼はそこに、現代文明が失った深い精神性と知性を感じた。


メラネシアにて。


フィジーにて。見事な歯列弓。男性のがっしりした顎、太い首、大きな鼻孔にも注目。不正咬合や口呼吸は存在しない。
上のメラネシアの写真もそうだけど、伝統的な食習慣に従う部族民の犬歯に注目。あまり尖ってなくて、むしろ四角に近いと思いませんか。栄養的に満ち足りた食事を摂ると、犬歯は本来こういうふうになる。

一方1920年代は、西洋文明の波がそうした未開部族にも容赦なく押し寄せ、飲み込もうとしている時代だった。部族で代々受け継がれた伝統的生活様式と、合理性と利便性を旨とする西洋文明がせめぎ合う、ちょうどその端境期だった。
この時期に世界を旅したプライス博士は、伝統的な習慣を捨て西洋文明を採り入れた原住民の健康が、いかに容易に失われるかをも観察することになった。

ベルギー領コンゴにて。白人がコーヒー栽培のプランテーションを始め、そこで働いている人たち。伝統的な食事をとることをやめ、配給される白小麦、砂糖、缶詰などを食べるようになったところ、虫歯、歯周病をはじめ、様々な全身性疾患にかかるようになった。


フィジーにて。基本的に南洋の人は自殺しないが、自殺の唯一の理由は、虫歯の耐え難い痛みによるもの。下段は、欧米の食事を食べるようになった親世代に生まれた子供。叢生歯、犬歯の先鋭化、顔面の未発達(顎の狭小化、鼻孔の狭小化など)が見られる。精製糖質の摂取に伴い免疫力が低下し、鼻孔の狭小化による口呼吸と相まって、呼吸器感染症などにもかかりやすくなる。


上段はアボリジニーの兄弟。上段左の兄が生まれた当時、その両親は伝統的な部族社会のなかで生活していた(兄は藪で生まれた)。その後、オーストラリア政府はアボリジニーを居留地に強制移住させ、食習慣をはじめ伝統的な部族生活を禁じた。食事は政府から配給される白小麦、砂糖、缶詰を主体としたものになった。上段右はその後に生まれた弟。叢生歯が見られる。
下段は同様のエピソードを持つ姉妹。妹の下顎幅の狭小化、不正咬合(前開咬)が特徴的。
現在の歯学では、不正咬合は幼少期の指吸が原因ということになっているが、プライスはこれを否定している。「原住民の小児にも指吸は見られるが、不正咬合は存在しない」と。

10年におよぶ世界の旅を終え、アメリカに帰国したプライス博士には、するべき仕事が山積していた。旅先から本国に送った1万枚を超えるフィルムの整理、本や論文の執筆など、時間はいくらあってもたりないほどだった。
しかし、何よりもまず、彼が真っ先に取り組みたい仕事があった。それは「仮設の検証」である。
世界中の原住民族、および西洋文明を採り入れた部族の観察をしていくなかで、彼は歯の健康に関するひとつの仮説を立てた。
彼は原住民が伝統的に食べているものを細かく観察し、さらにその食材を科学的に分析することで、原住民食には現代アメリカの典型的な食事と比べて、水溶性ビタミンが4倍以上、脂溶性ビタミンが10倍以上含まれていることに気付いた。「健康な歯を保つには、脂溶性ビタミンこそがポイントではないか」というのが彼の直感である。
プライス博士は当時一流の生化学者でもあって、ビタミンAやDの発見の経緯も実地に追いかけていたし、発見者とも直接的な交流があった。グラスフェッドバターやタラの肝油のなかに、ビタミンAでもDでもない、未だ発見されていない脂溶性ビタミンがあることを彼は見出した。彼はこれをactivator X(活性因子X)と名付け、この効用を動物実験、あるいは自分のクリニックの患者への投与で確認した。
その効果は驚くべきものだった。
彼は、もはや虫歯を削るドリルや穴を埋める歯科金属を必要としなくなった。原住民の食事を参考にした食生活の指導と、プライス自家製のオイルによって、彼はついに、虫歯を治すことに成功したのだった。
虫歯の治癒ばかりではない。
食生活の改善とこのオイルの使用によって、彼は様々な現代病(感染症、心血管障害、骨粗鬆症、糖尿病、不妊症など)が改善することを観察し、症例を報告した。
以下はその一例である。

左は姉、右は妹である。
姉の歯列弓の乱れ、鼻孔の狭小化(pinched nostrils;つまんだような鼻)に比べ、妹の歯列弓はきれいで、鼻孔も発達している。姉が神経質な性格で、口呼吸をし、病気がちである一方、妹は穏やかな性格で、鼻呼吸をし、病気ひとつしない健康体だった。
姉と妹でなぜこんなにも違うのか。
その理由は、この姉妹の母親の妊娠中の食生活にある。
第一子(姉)を身ごもったとき、母は食生活に特に気を配ることなく、いつも通りの食事(典型的な現代の洋食)を食べていた。お産は53時間に及ぶ大変な難産となり、産後、普通の生活ができるまで数ヶ月もの間ベッドの上で過ごさねばならなかった。
「こんな大変な思いをするのならもう二度と妊娠なんてするものか」と思う一方、やはりもう一人子供が欲しいという思いも捨てきれない。そこで、母は近所で名医として評判の高いプライス博士のもとを訪れ、助言を求めたのだった。
精白小麦、砂糖などの精製糖質の摂取を控え、全粒穀物、緑色野菜、海産物、グラスフェッドバター、タラの肝油を積極的に摂取するよう勧めた。また、プライス博士特性のオイルも併せて勧めた。
結果、第二子(妹)のお産はわずか3時間の安産となった。一般に第二子のお産は第一子の時よりも短時間に済むものだが、それを差し引いてもすばらしい安産である。
また妹は姉より成長が早く、性格も利発で頭もよく、子育てにほとんど手がかからなかった。この点も「伝統的な部族社会では、子供は無駄泣きしない」というプライスの観察と一致するものだった。

プライス博士は言う。「原住民から学べ」と。当時の白人は(今の白人もだけど)西洋の文化こそが優秀で、野蛮な未開部族を啓蒙してやろう、という態度で原住民と接していたのだから、プライスのこの言葉は相当挑発的に響いたに違いない。
とにかく、彼は観察事実を重んじる人であり、つまり真に「科学の人」だったわけだが、現在の歯学はプライスの学説をまったく踏まえていない。
虫歯の原因は不十分な歯磨きによる口腔内の不衛生であり、叢生歯は遺伝によって起こり、不正咬合は指吸が原因で、虫歯が自然治癒することは決してない、ということが定説として歯学部で教えられている。
ぜーんぶ、ウソだっていうね。歯学部の学生さん、ごくろうさま^^;

さて、活性因子Xという物質が具体的に一体何なのかということについては、学者の間で長い議論があった。必須脂肪酸ではないかという者もあれば、エイコサペンタエン酸(EPA)ではないかという者もあり、決定的な説の出ないまま、プライスの提唱から70年の時が流れた。
その本態が特定されたのは、2007年と比較的最近のことである。それはビタミンK2だった(Chris Masterjohn著 Wise Traditions 2007)。

最近僕も臨床でビタミンK2やタラの肝油を使い始めたところ、ナイアシンやビタミンCではイマイチよくならなかった患者たちが、次々と改善し始めた。ビタミンK2は、ホッファーやポーリングが見落としていた栄養療法における最後の盲点だと言えるかもしれない。
納豆が体にいいのも、納豆菌が腸内細菌叢に働きかけるから、という機序以外に、そのビタミンK2含有量の豊富さの影響もあるに違いない。あたたかいご飯の上にグラスフェッドバターをひとかけら乗せて、さらに納豆も併せて食べれば、いい感じでビタミンK2を補給できるはずだ。
ビタミンD3を使うときには、ぜひともビタミンK2を併せて(必要に応じてビタミンAも)使いたい。脂溶性ビタミンは協調して働くものだから。ただしビタミンEについてはK2と効果を相殺してしまうのではないかという説もあって、このあたりは慎重に。
ビタミンK2には主にMK4とMK7があって、その生理作用の違いも興味深いところだが、また長文になってしまったので、稿を改めて書こう。

参考
Vitamin K2 and the Calcium Paradox (Kate Rheaume Bleue 著)
Nutrition and Physical Degeneration (Weston Price著 ネットで無料で読めます→ http://gutenberg.net.au/ebooks02/0200251h.html)

白血病とビタミンK2

2019.5.16

『白血病新薬キムリアを保険適用 1回当たりの価格は約3350万円』
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190515/k10011916561000.html

「中医協では、1回当たりの薬の価格を3349万円と決めました。
厚生労働省によりますと、現在、国内で保険が適用されている薬では最も高くなるということです。
患者が医療費として払う額には上限が設けられ、超えた部分は保険料と税金などで賄われるため、専門家などからは、高額な医薬品への保険適用が相次げば、医療保険財政に影響を与えかねないと懸念も出ています」

正気の沙汰じゃない。厚労省の役人は何を考えているのか。
こんな超高額な新薬が次々に出てくれば、保険料や税金からの補填では間に合わず、いずれ公的医療保険制度の崩壊は免れないだろう。
患者団体がこのニュースを歓迎するのはわかる。
しかし保険システム自体が崩壊して困るのは、患者団体も同じはずだ。

アメリカで骨折したら、治療費に2000万円請求された、という話。
対岸の火事じゃないよ。日本でも早晩こういう状況が訪れることだろう。

なぜこんなことになるのか。
僕らが払う保険料や税金の行き先は?
そのあたりに思いをめぐらせば、誰が一人勝ちで笑っているのか、だいたい予想がつく。
超高額な薬でボロ儲けできる人たちにとって、ビタミンによる栄養療法の存在はさぞ不都合なことだろう。ビタミンで治ってもらっては、せっかくの金ヅルを逃してしまうから。そこで彼らは、ビタミンの副作用を誇張して不安を煽り徹底的に弾圧し、効きもしない薬の「有効性」を示す論文を捏造し、影響力のある医者に金を掴ませて薬の宣伝をさせる。
多くの医者も、そういう影響下にあって、薬屋の片棒を担いでいる。大学教育自体が製薬会社の支配下にあって、医学生は大学6年を通じて、教育という名の洗脳を受ける。
こういう具合だから、本当に人を救う医療は、なかなか表に出てこない。

白血病に対して、国家予算を圧迫しかねないほど超高額な治療薬しかないかというと全然そんなことなくて、安価なビタミンで治ってしまう、という報告はすでに1990年代からある。
たとえばこんな論文。
『ビタミンK2およびその派生物が白血病細胞のアポトーシス(細胞の自死)を誘導し、オールトランスレチノイン酸の効果を高める』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9177427
おおまかな内容は、
・ビタミンK2とビタミンAの合わせ技がそれぞれ単剤で投与するときより効く。
・ビタミンK1はどの白血病細胞にもまったく効かなかった(だから、Kを飲むならK2でないと意味がないよ)。
・K2はこの研究ではMK3、MK4、MK5を使ったけど、どれも効いた。

『ビタミンK2と1α25ジヒドロキシビタミンD3の併用による白血病治療は、細胞質p21CIP1の誘導によるアポトーシス抵抗性を伴う単球分化を促進する』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16142303
ビタミンK2とビタミンD3を一緒に使うことで、白血病や骨髄異形成症候(MDS;造血幹細胞がアポトーシスを起こして、白血球、赤血球、血小板が減少する病気)によく効く、という話。
癌細胞というのは、要するに、細胞の成熟能力が損なわれている。
細胞が何らかの機能に特化して、組織の一部になることを「分化」というんだけど、それができなくなっているわけだ。
ただ、分化のできなさには程度があって、本当に全然できないものを特に、未分化癌という。これはすぐにあちこちに転移や浸潤して、非常に悪性度が高い癌として恐れられている。
逆に、分化度が高い癌ほど、悪性度としては低いと言える。
ビタミンK2は白血病細胞に対して、分化するかアポトーシスするかの二択を迫ることで治療効果を発揮するというのがこの研究の要点だ。

症例報告(“Vitamin K2 and the Calcium Paradox” Kate Bleue著の135ページより)
・骨髄異形成症候群の80歳女性に対して、K2(MK4で)を1日45mg経口で投与を開始した。14か月後、症状は軽快し、白血球数が改善したため、輸血が必要なくなった。
・急性白血病の診断を受けている72歳女性に対して標準治療(化学療法)を行い、症状は寛解したが、8か月後に再発した。
ビタミンK2(MK4として)を経口で1日20mg投与開始したところ、2か月後には癌細胞が完全に消失した。骨髄の生検にて寛解が確認された。
・前白血病状態が白血病に進行した65歳男性に対して、MK4を1日90mg経口で投与を開始した。6週間で異常細胞が有意に減少し、正常細胞が増加した。
10か月後には服用量を半分にしたが特に悪影響はなく、その後も標準的な化学療法なしに健康を維持できている。

東京オリンピックでメダルを期待されている池江璃花子氏が白血病を発症した、というニュースがしばらく前に流れたが、その後池江さんはどうしているのだろう。
化学療法には副作用が多いし、寛解(症状の消失)ではなく本当の治癒が得られるかどうか、個人的には疑問に思っている。
若い女性でもあるのだから、まずは副作用の可能性の少ないビタミンK2(D3、Aも併用)による治療をするべきだ(ビタミンで完治すれば、こんなめっけものはないでしょ)。
それで効果がなければ、化学療法を試せばいい。それからでも遅くないだろう。
しかしまぁ、もう化学療法をやっちゃってる可能性が高いだろうなぁ。

栄養と知能~講演会2

2019.5.8

保護者からの質問
・間食や夜食について、どうしても体に悪いお菓子になりがちなので、チョコなどどのくらいまでならいいですか。
また、おすすめの間食や夜食があれば教えてください。

カカオ100%のチョコって食べたことありますか?あれ、食べた人はわかると思うんですけど、全然おいしくないでしょ。
チョコレートのおいしさって、砂糖のおいしさなんだなって、逆にわかりますよね。
お菓子のチョイスとしては、チョコレートというのはベターだとは思います。
同じ砂糖の含有量のお菓子でも、チョコレートのほうが、まんじゅうとかケーキとかより虫歯になりにくい、っていう研究があります。
この理由としては、カカオに含まれているCBH(カカオ豆の殻成分)には抗菌作用があること、カカオ由来のマグネシウムなどの微量ミネラルの効果、カカオに含まれるテオブロミンの抗酸化作用など、いくつかの要因があります。
ただ、カカオの苦みと調和するだけの甘みをつけるために、大量の砂糖が使われているわけですから、チョコをどのくらいまでなら食べていい、とは言えません。
精製した白砂糖の理想の摂取量は、ゼロです。とらないのであれば、それに越したことはありません。
間食や夜食でおすすめということであれば、ナッツや、ジャコのような小魚をつまんでいればいい。
でも一番のおすすめは、夜食を必要とするような勉強スタイルをやめることです。夜には、遅くても10時には寝ましょう。
深夜まで勉強しているというのは、いかにも「勉強している」感があって、本人はそのこと自体に悦に入っていたり、はた目にはいかにも頑張っているように見えますけど、単に日中の勉強能率が悪いだけ、ということがけっこう多いです。
日中の能率を高めることを考えましょう。

・魚料理をあまり作らないのですが、何か学習に影響はありますか。

今日の講演にからめて言うと、魚をよく食べる原住民は多いです。
ポリネシアの原住民は魚、カニ、タコを上手に捕まえます。エスキモーにとって鮭は不可欠な食材です。
ただ、魚を食べない原住民もいます。
山岳民族とか、アフリカの内陸部に暮らす部族では、魚を食べません。というか、現代のように輸送・冷却保存の技術がない時代には、魚を食べる機会がありませんでした。
でもそういう部族も、しっかり健康を保っています。
そういう意味で、魚が健康に必須である、とは言えません。
ただ、やはり今日皆さんに紹介したように、「少なくとも週に一回魚を食べる子供はそうでない子供と比べて7歳時点でのIQが有意に高い」ということが研究で分かっています。
せっかく島国に住んでいて、良質な魚が手に入る環境にいるのですから、魚を食べないのはもったいない、とは思います。
なぜ魚料理をあまり作らないのですか。直接伺いたいところですが、何か理由があるのだと思います。魚をさばくのが苦手だ、とか。
「魚、特に遠海を泳ぐ大型魚(マグロ、太刀魚、さわらなど)には水銀が高濃度に含まれているから、子供の知能に悪影響がある」との懸念から、魚を控えている人がいるかもしれません。
これについては、後の論文で否定されています。
『魚由来の水銀は子供のIQを低下させない」(Joel Scwartz 2006)
魚をさばくのが苦手でないのであれば、遠慮なく魚を食べてください。

・ケトン食で頭脳のパフォーマンスを高める、という考え方についてはどのように思われますか。

これについては、学者の見解は割れています。
肯定的な研究としては、
『ケトン食は認知機能を高め、海馬とは別に前頭前皮質に生化学的効果がある』(A.Hernandez et al 2018)
『ケトン食は自閉症マウスの腸内細菌叢を改善する』(C.Newell et al 2016)
などがあります。一方、逆に否定的な研究としては、
『ケトン食はビオチン欠乏を引き起こす』(M.Yuasa et al 2013)
とか、他にもセンテナリアン(百寿者)や沖縄長寿者の研究では「長寿者ほど炭水化物をよく摂っている」というデータがあります。

個人的には、健康な子供に厳格な糖質制限をやらせるのは行き過ぎじゃないかなと思います。
砂糖菓子は論外として、「小麦は控える、お米はオッケー」、ぐらいのスタンスでいいんじゃないでしょうか。
というのは、患者の話を聞いていると、厳しい糖質制限をして、「最初は調子がいいけど、長期的にはあんまりよくない」、っていう人が多い印象です。
日本人の腸内細菌には、乳酸菌とか米のでんぷん質が好物の菌がいて、これが体に有用なビタミン(ビオチンなど)を作ってくれているようです。厳しい糖質制限をして、肌がガサガサになったのは、腸内細菌叢の変化によるビオチン産生の低下が関係している可能性があります。

・テストや入試などの前にとる食事のおすすめを教えてください。

記念日にこだわる人っているでしょ。特に女性で。誕生日とかクリスマスとか。
個人的には、僕そういうのイヤなんですね。
イヤっていうのは、僕が相手にやってあげることは問題ないんだけど、相手が記念日だけ大事にして、その他、何でもない364日をおろそかにするのは、どうなのかなっていう。
「今日は特別な日だから、特別上等な栄養肥料をあげよう」ではなく、毎日水をかえてあげるほうが、植物も喜ぶと思いませんか。
スペシャルな日に何かをしてあげる、ではない。何でもない毎日のなかで、コツコツと小さな愛情を注いであげる。
本当の成長は、そのようにしてもたらされると思います。
子供の食事には、そういう気の配り方をしましょう。
具体的にどのように食事に配慮してあげればいいか、そのヒントは今日の話のなかにあったと思います。参考にしてください。

何を食べるべきで、何を食べるべきでないか。
今日はいろいろとお話ししてきました。
今日の話、ちょっと重いのは、お母さんがもし、甘いものが大好きだった場合ですね。
子供って、親が言うことよりも親がすることを見て学ぶものですから、お母さんが口先では「甘いものはダメ」って言って、自分はムシャムシャ食べてたら、子供は「何だそれ」って思いますよね。
だから、今日の話って、重いと思います。
食事を変えるというのは、子供に食べさせるものを変えるだけじゃありません。
お母さんも含め、家族全員が変わることを求められます。きっと大変なことだと思います。
でもそれだけの価値は十二分にあります。
食べ物が変わると、体が変わります。
体が変わると、心が変わります。
心が変わると、人生が変わります。
「成績アップ」とか「IQアップ」とか、せこい話です。
そんな小さなことじゃない。人生が変わるんです。食べ物を変えるのは、それぐらいの大きな話です。
今日の話を参考に、ちょっとずつ変えてみてください。得るものはきっと大きいですよ。

栄養と知能~講演会1

2019.5.8

浜学園という塾がある。有名中学校への進学率の高さでもって鳴る塾で、関西では知らない人はいない。
たとえば灘中学校の定員は180人で、例年浜学園出身者が90人前後を占める。去年度に至っては102人と、過去最高の合格者数を記録した。
灘中生の半分は浜学園を経由しているわけで、驚異的な進学実績だ。
灘に合格するということは、そこらへんの私立中学に合格するということとはずいぶん意味が違う。
12歳時点では日本のトップレベルの頭のよさだといえるし、そのまま順調に成長すれば、国の科学技術や行政司法の中枢を担うエリートになる可能性も高い。

もっとも、蛇足ながら付け加えておくと、浜学園の全員が灘に行くようなエリートの卵かというと、そうではないけどね^^;
パッとしない成績の子ももちろんいる。
でも総じて、どの保護者さんも教育熱心で、子供の将来に強い期待をかけて、この塾に通わせている。

大変名誉なことに、縁あって小医がこの塾の保護者相手に、『栄養と知能』をテーマに講演することになった。
そして今、講演を無事終了し、自分のクリニックに帰ってきて、こうやって久々のブログの記事を書いている。
今回僕が話してきたことは簡単で、一行に要約できる。
「僕らの体は、食べたものからなる」
これだけ。
この単純な事実を、様々な科学的データをもとに、いろいろな表現で、手を変え品を変え、お伝えしてきた。

まず、ウェストン・プライス博士の『食生活と身体の退化』を紹介した。
原住民がいかに見事な歯をしていたか。それが、西洋文明の影響を受け、精製した砂糖や加工食品を食べるようになったせいで、あっという間に虫歯だらけになった。
プライスの残した写真には、圧倒的な説得力がある。「現代の食事には、何らかの間違いがある」ということを、見る者に雄弁に語りかける。
そして、食事の変化によって失われたのは、すばらしい歯だけではない。
彼らの健やかな肉体は病気がちになり、穏やかな性格は神経質になった。かつての平和だった村には、病人と犯罪が急増した。
逆の事例も示した。すっかり損なわれた健康も、食事の改善によって回復できること、また、栄養の改善が知能の向上に好影響を与えることを、プライスの臨床症例をもとに示した。

ルース・ハレル博士の研究を紹介した。
「知的障害児16人(IQ=17~70)にサプリ(8種類のミネラルと11種類のビタミン)あるいはプラセボを8か月にわたり投与した二重盲検。
最初の前半4カ月でサプリ投与群は平均IQで5.0~9.6の上昇を示した。
4カ月経過時点で、プラセボ群にもサプリを投与したところ、後半終了時には同群で平均IQが少なくとも10.2上昇していた。
前半・後半を通じてサプリ投与を受けた群では、後半4カ月でさらにIQが上昇していた。
知的障害児のなかにはダウン症児が4人いたが、うち3人でIQが10~25上昇した。
また、被験者のなかには、IQの向上のみならず、視力の回復や成長率の増加が見られた者もあった」
この研究を示し、なぜ効いたのか、その理由として、遺伝栄養性疾患(genetotrophic disease)の概念について説明した。

ビタミンがビタミンとしての活性を発揮するためには活性型になる必要があるけど、そこには酵素の働きが関与していることが多い。
そして酵素の働きは、遺伝の影響を強く受ける。
たとえばお酒を飲めない人は、アルコール分解酵素の働きが弱い人だ。
ある種の薬剤に対して少量で著効する人もいれば、大量に投与しても反応しない人もいる。ここにも酵素の働きの違いが関わっている。
ある種の栄養素(ビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸など)に関して、酵素の働きが弱いため、正常な代謝のためにはその栄養素が多めに必要なのに、その供給が少ないせいで欠乏症をきたす。
これが遺伝栄養性疾患だ。
そして、ハレル博士の研究が示唆しているのは、知的障害は遺伝栄養性疾患ではないか、ということだ。
「サプリでIQが上昇する」
教育熱心なお母さんには、なかなか聞き捨てならないセリフだろう^^

サプリが成果を挙げた事例として、アメリカの刑務所で行われた研究を紹介した。
サプリの投与によって、刑務所の受刑者の反社会的行動(ケンカ、暴力など)が減少するかどうかを2週間にわたって調べた研究。
サプリ投与群ではプラセボ投与群に比べて、規律違反が35.1%減少した。
この研究を、学級崩壊や家庭内不和とからめて話した。
学級崩壊に対しては、問題児のカウンセリングを行うなど、話し合いによってその問題児の気持ちを理解しよう、というアプローチがとられるのが一般的だろう。
しかし成果は上がっているのだろうか?
カウンセリングがムダとは言わないけど、本質ではないと個人的には思う。
栄養面からのアプローチこそ、問題の核心を突く唯一の方法ではないか。
健康な食事をして、心身ともに満ち足りた人が、授業中にバカみたいに騒ぐというのは、考えにくいはずだ。

以前この院長ブログでも紹介した、ご飯食とパン食のどちらがよいのかを調べた研究『健康な小児における朝の主食のタイプが灰白質および認知機能に影響する』(Y.Taki et al 2010)を紹介した。
朝食にご飯を食べる子供では、パン食の子供に比べて、灰白質比が大きくIQも高かった、というのが概要だ。
その原因として論文の著者は、GI(グリセミック指数)の違いを挙げている。
ご飯はパンよりもGIが低いため血糖値の変動を起こしにくく、そのために認知機能に好影響を与えているのではないか、というのが著者の考えだ。
しかしそれだけではないのではないか、と僕は指摘した。
大手メーカーが製造するパンの原材料を見てみるといい。砂糖、ブドウ糖果糖液糖、植物油脂など、体に好ましくない成分が多く入っている。
精製した小麦だけでなく、過剰な糖質を摂取することになり、そのために代謝プロセスでビタミンB群が失われる。
ミトコンドリアでのエネルギー産生は、大幅に低下することになる。
つまり、パンは栄養になるどころか、マイナス栄養ではないか。
あともう一つ、朝食にパンを出すかご飯を出すか、というところに、お母さんの子供に対する姿勢が表れていることを指摘した。
朝食にご飯を炊くということは、それだけでは済まない。おかずを作らないといけない。「白米だけ食っとけ」ってテーブルに置かれたら、きついよね^^;
でもパンの場合は、目の前にパンだけ置かれて、「焼いてジャムつけて食っとけ」で案外成立してしまう。
つまり、毎日子供にご飯を炊いているお母さんというのは、おかずを作る手間をも惜しまないお母さんだ。
こういうお母さんは、食事面だけしっかりしているのではなく、他の面でも子育てに熱心な可能性が高い。
逆に、食事で手を抜くお母さんというのは、食事面でだけテキトーなのではなく、他の面でも子供に無関心な可能性が高い。
こういうお母さんの姿勢が、子供のIQに影響しているのではないか。

最後に、「頭を良くするもの、悪くするもの」をエビデンスを交えつつ紹介した。
頭を良くするものとしては、ビタミンD3、オメガ3系脂肪酸、ヨード、フォスフォチジルセリン、有機ゲルマニウム、イチョウを挙げた。
頭を悪くするものとして、フッ素、有害金属(鉛、水銀、ヒ素など)、人工甘味料(アスパルテーム等)、トランス脂肪酸を挙げた。

1時間の講演にしては盛り沢山の内容で、最後は駆け足になってしまった。
保護者から事前に頂いていた質問にも、答える時間がなかった。
稿を改めて、保護者からの質問に答えることにしよう。