院長ブログ

幻滅の錯覚

2019.6.5

中学だか高校だったか、国語の教科書に外山滋比古の『幻滅の錯覚』という文章があって、最近ふと、無性にそれをもう一度読みたくなった。
教科書に載ってるぐらいの文章だから、多分有名な作品だろうから、検索したら出てくると思ったけど、著作権の関係からか、原文をあげたサイトは見当たらない。
見当たらないが、検索して分かったことは、『幻滅の錯覚』は、外山氏の『修辞的残像』という本のなかの一小節だということ。
だからこの文章を読むには、『修辞的残像』という本を探す必要がある。
わざわざアマゾンで買ったり、図書館に探しに行くのもちょっとな、という感じになって、再読の思いはあきらめた。

どういう内容の文章か。
一言でいうと、「思い出は常に美しい」ということ。
ある絵を見て、深く感動した男がいる。その絵は男の脳裏に、一生消えないほどの強烈な印象を残した。
「あの絵はすばらしかった。叶うならば、もう一度あの絵が見てみたい」
その思いを心の底に常に抱えて、男はその後の人生を生きることになった。長い年月が流れた。
あるとき、思いがけず、男はその絵を再び見る機会を得た。
感動の再会、のはずだった。しかしどうしたことだろう。何だかぱっとしない。
「俺があんなに感動した絵は、果たしてこんなだっただろうか」
男は言いようのない幻滅を感じた。
こういうあらすじの芥川(だったかな?)の小品を例としてひいて、著者の外山氏は、人間のなかにある、思い出補正(および美化)機能を指摘する。
だいたいそういう内容だったと思うんだけど、細部は当然忘れてるから、もう一回読みたいんだよなぁ。

この文章は学校の授業で読んだから、僕はそのとき十代だった。
今、それから二十年が経って、絵に失望した男の気持ちが、十代のときよりもっとわかる気がするんだな。
十代二十代で、いろいろな小説や音楽、映画なんかの芸術に触れた。ふとした機会に、そうした作品に再会することがある。
「うん、やっぱりすばらしい」とまた感動できることもあれば、「あれ?こんなにつまらなかったっけ」となることも案外多い。
人生は、幻滅の連続なんだということ。年をとってみて初めてわかる人生の味というのがあるね。
初恋の人には絶対会っちゃダメだな^^;

数年前に東京で医者をしている友人のところに遊びに行った。
久しぶりの再会だったから、彼、気を遣って、ちょっとお高い料亭に連れて行ってくれた。
昔の話、今の話を織り交ぜた雑談をしながら、酒を飲んでいた。
酒の種類が豊富で、どれもおいしそうに見えるから、メニューの端から順番に注文するような飲み方をしていた。
ある酒が来て、それを口に含んだ。とりとめのない雑談を、いったんさえぎって、
「あのさ、この酒、おいしくない?」
「俺も思った。おいしいな」
「いや、ちょっとおいしいな、どころじゃないよね。めちゃくちゃおいしくない?」
「うん、わかる。めちゃくちゃうまいと思う」
そう、僕らはこの焼酎にはまった。その後は他の酒を注文するのはやめて、この焼酎だけを飲んだ。何度口をつけても、確かにおいしかった。こんなにうまい焼酎があるのかと思った。

魔王や森伊蔵のような有名どころではなく、宮崎の焼酎だった。
僕は酒に詳しいほうではないけど、そんなに一般的な知名度はないと思う。少なくとも、僕はこのとき飲むまで知らなかった。
かといって、こういう東京の料亭に置いてあるくらいだから、すごくマイナーというわけでもない。
この焼酎の味は、僕のなかに強い印象を残した。
「あの澄んだ、透明な味。涼しい甘さ、とでもいうべき味は、他のどの酒にも似ていない。すばらしい酒だった」

あの酒は、なぜあんなにおいしかったのだろう。
酒のおいしさを構成する要素って、いろいろあると思う。
誰とどういう状況で飲むか、そのときの自分の体調はどうか、一杯目か何杯目か、つまみに何を食べるか、とか。
酒の味は、酒の味だけじゃない。味を決める変数は無数にあるんだな。
苫米地英人がこんな意味のことを言ってた。
「仕事で海外に行くことも多いが、どこのホテルに泊まるのであれ、バーで飲む酒はラフロイグと決めている。
どこの国であれ高級なバーなら、まず間違いなく置いてるし、その味をどう感じるかで、自分の体調のよしあしがつかめるから」
なるほど、これはちょっとした男のおしゃれだな。

ネットで簡単にものが買える時代である。
しようと思えば、あの焼酎を買うこともできるだろう。それも今すぐ、ワンタッチで。
しかし、買っていない。
なぜか。
僕は一人では酒を飲まない。誰かと一緒にいるときだけ、外に飲みに行ったときだけ、飲むことにしている。
だから、ネットで酒を買うというのは、自分のスタイルに反している。
というのが、自分のなかでの一応の理由なんだけど、本当のところは、「幻滅の錯覚」が怖いんだと思う^^;
やっぱ、幻滅って、決して気持ちのいいものじゃないからね。

ビタミンAと繁殖

2019.6.4

動物園で飼育されているネコ科動物(ライオン、トラ、ヒョウなど)は、つがいで飼っても繁殖しない。
なぜだろう。野生では普通に繁殖するのに、飼育下ではなぜ繁殖しないのだろう。
欧米の動物園関係者の誰しもがこの問題に悩んでいた。
ライオンは百獣の王、動物園の花形だ。病気や高齢で亡くなったり、動物園を新規開業するとなれば、次のライオンを補充しないといけない。
そうなれば、繁殖できないのだから、野生からわざわざ仕入れてこないといけない。
しかし野生のライオンをアフリカで生け捕りにし、ヨーロッパやアメリカまで運ぶのは、相当な手間と費用がかかる。
ネコ科動物をなんとか自前で繁殖できないものか。これは動物園関係者の長年の悲願だった。

ロンドン動物園に勤務するある動物研究者が、この問題に本気で取り組んだ。
なぜ飼育下では繁殖しないのか。狭いケージに閉じ込められ、思うように運動できないストレス、無数の人間の目にさらされるストレスなど、ストレスによる要因は大きいだろう。
しかしそれ以上に、給餌に問題があるのではないか、というのがこの研究者の直感だった。
そこでアフリカに向かい、野生のライオンの狩りの様子を詳細に調べた。
かみ殺されて横たわったシマウマに対して、ライオンはまず、腹部をかっさばく。そして最初に口にするのは、右側腹部の臓器、つまり肝臓である。
それからしばらく好みの臓器を選り分けつつ食べた後は、もう残りはいらない。食べ残しに砂をかけ、現場を去る。
この食べ残しは、ジャッカルやハイエナにとってのごちそうになる。
ライオンが現場を立ち去った後、研究者はジャッカルを追い払いつつ、すばやくシマウマの死体に駆け寄った。ライオンがどの臓器を好んで食べたかを調べるためである。
この研究こそが、世界中の動物園の歴史を変えた。つまり、ネコ科動物の繁殖に何が必要であるかを、解き明かすことになった。
動物園で飼育されているネコ科動物に、従来のように四肢の肉だけではなく、モツ(臓物)も与えるようにしたところ、見事、繁殖させることに成功した。
動物園で生まれた仔も、モツを与えることで適切に成長し、繁殖することがわかった。
この研究者のおかげで、ライオンの価格は大幅に低下し、動物園にライオンを提供することが比較的容易になった。
プライス博士はこの研究者から直接話を聞きながら、思った。
「なるほど、興味深い研究だ。しかし、我々に身近なネコを見ていても、同じことは観察されるようだ。
ネコが小鳥やネズミを殺す様子を観察するといい。ネコがまず食べるのは小動物のはらわたで、手足の筋肉を進んで食べることはないだろう。
彼らは本能で、何を食べるべきかを知っている」

研究者の話に触発されて、プライスはこんな実験をした。
身動きできぬよう固定したウサギのいるケージに、数匹のラットを入れる。ラットに餌は与えない。一晩たてばどうなるか。
哀れ、ウサギはラットにかじられることになる。プライスが注目したのは、ラットが特にウサギのどの部分を好んで食べたかである。
ラットは特に、ウサギの目と脳を食べ、血液を吸っていた。
この結果は、ラットがこれらの組織によって供給される栄養素を選り好んで食べていることを示していた。

動物は本能の声を聞くことができる。
しかし言葉を獲得した人間は、その知恵や理性が邪魔をして、もはや本能の声を聞くことができない。
でも赤ちゃんは別のようだ。かつて、こんな実験が行われた。
1920年代、ある小児科医が経営する孤児院で行われた実験。
対象は、離乳直後で、それまで食事をしたことのない赤ちゃん15人である。
子供は施設内で適切に育てられていたが、唯一風変わりなのが食事である。
食事の時間になると、子供たちには34品目の食事が供された。それぞれの食品は皿に盛りつけられており、いくつかのスプーンも用意された。
子供たちは幼すぎて何もわかっておらず、どれが食べ物かを理解する前であったため、皿やスプーンをかじる者さえあった。
飲み物は、水、牛乳、酸乳、オレンジジュース。野菜はビート、えんどう豆、人参、ほうれん草など。炭水化物は大麦、コーンミール、ライ麦パン。
たんぱく源として、内臓肉、鶏肉、牛肉、骨髄、脳、魚などが与えられた。
子供たちは、食べたいものを好きに選んで食べることができる。子供の食事の様子(食べたもの、残したもの)を保育士が詳細に記録した。
さて、子供に一番人気の食材は何か?
それは骨髄だった。脳もかなりの人気だった。
逆に不人気だったのは、野菜や果物である。
好き嫌いのままに食べさせては、栄養が偏ってしまうと思われるが、子供たちは健康に成長した。
この小児科医の研究により、本能的に求める食材さえあれば、子供はそれぞれの好みに従っていても、きちんと成長することが証明された形となった。
ただ、この研究は非常に強い反発を招いた。
人が栄養源として本能的に求めるものが、動物の骨髄や脳であるということは、人間の感情として受け入れ難いものがあったためだ。
この実験は1920年代に行われたもので、現在では人権の問題もあって、同様の実験を行うことはもはやできない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1626509/
子供が野菜を嫌うのは、至極生理にかなったことなのだろう。
無理に食べさせるのはよくないのかもしれない。

出生前および出生後の成長プロセスでビタミンAが重要な役割を果たしていることを示すデータは無数にある。
体の形成期にビタミンAが欠乏すると損傷を受ける組織の一つは、目である。
このため、ビタミンB1が脚気ビタミン、ビタミンCが壊血病ビタミンと呼ばれるのと同様に、ビタミンAは眼球乾燥症ビタミン、と呼ばれていたほどである。
このビタミンは特に目に貯蔵され、眼組織のビタミンA濃度は哺乳類でおおよそ一定である。
眼組織(網膜、色素上皮、脈絡膜)の抽出物をビタミンA欠乏ラットに投与すると、著明な治療効果を発揮する。
ビタミンAは生殖にも重要だ。
これは男女ともに言えることで、男性ではレチノールは精子の産生に不可欠で、女性ではビタミンAがエストロゲン、プロゲステロンなどの生殖に直接的にかかわるホルモンの産生にかかわっている。
ビタミンAが重度に欠乏している女性ではそもそも妊娠しないが、軽度に欠乏している女性では、胎盤剥離や産後の乳汁分泌量低下のリスクが高いことがわかっている。

不妊に悩むカップルは、食生活を見直してみませんか。
かつて動物園で飼われ繁殖しなかったライオンと同じ食生活になっているとすれば、いつまでも子供に恵まれないだろう。

参考
“Nutrition and Physical Degeneration”(Weston Price著)

貧血とビタミンA

2019.6.3

鉄剤の投与によって精神疾患を含む様々な症状が見事に改善、という記事を読む。
改善した患者のことを、フェイスブックに投稿したり一般向けの書籍で紹介するのは、悪いことではないと思う(もちろん、個人が特定されるような書き方をしちゃダメだけど)。
そうした情報によって、救われる人もきっといるはずだから。
それに、同じ医者としてわかるんだけど、「自分が治した患者は、自分の最高傑作」ぐらいの誇らしい気持ちになって、いろんなところに自慢したくなるんだよね^^

でもこういう先生方も、打率10割、どんな患者もばっちり治せる、というわけではない。
というのは、以前、こういう先生方の治療方針を参考にして、僕も自分の患者に試してみたことがあるが、全員がきれいに治ったわけではなかったから。
その先生のもとに新幹線でわざわざ通院したものの改善せず、僕のクリニックに来た患者もいる。

名医でも力及ばす、治せなかった患者、治らなかった患者がいるはずなんだ。
もちろん、僕にだっている。
というか、医者なら誰だってこういう苦い経験をしている。
でもその苦さをバネにして、医者は成長していく。臨床経験を積んだり知識をいろいろ吸収しながら、ふとしたときに、失敗した患者のことを思い出す。
「今ならもっとうまく治療してあげられるのに。もう一回チャンスが欲しい」とか思う。
こういうふうに思えるのは医者として成長している証だろう。
しかし、来てくれなくなった患者が再び来院することは、通常あり得ない。

SNSに投稿するなら、失敗例をシェアするほうが本当は教訓的なんだろうな。
成功例は、それ自体で閉じている。「はいそうですか」とお説を拝聴するしかない。
でも、失敗例は開いている。多くの医療関係者の意見を募るなどすれば、未来の可能性がずいぶん広がるだろう。
治せなかった患者こそ、最高の教科書に違いない。
でもその教科書の味は苦い。公表するどころか、誰の目にも触れないところに隠しておきたいのが人情なんだな。

こういうことを思うのは、僕自身、患者に鉄剤を使って、失敗したことがあるから。
もちろん、うまくいったこともあるが、鉄剤に反応しない症例も確かにある。この違いは何なのか。
失敗症例は誰しも隠す。そこらへんのSNSに都合よく落ちていない。自分の失敗から考察し、文献を渉猟し、学んでいくしかない。

自分なりに勉強していくなかで一つ思ったのは、貧血の治療をいう先生方のなかに、ビタミンAに言及する先生がいないことだ。
ビタミンAは過剰摂取の害が言われすぎて、その有効性(および必須性)が軽視されているようだ。
最初期に発見されアルファベットの一番最初の文字を与えられたビタミンでありながら、大きな盲点になっているのではないか。

『ビタミンA欠乏性貧血~疫学と病因』
https://www.nature.com/articles/1601320
ビタミンA欠乏によって貧血が起こることは認められているが、「ビタミンA欠乏性貧血」とはっきり言えるほどの明確な臨床的特徴なり定義なりがあるわけではない。
ビタミンA欠乏が貧血に関与する機序には複数ある。ビタミンAは、赤血球の前駆細胞の成長と分化を促進する。
また、感染に対する免疫力を高める。これによって、感染に起因する貧血を減らすことができる。さらに、各組織に貯蔵されている鉄の可動性を高めるのもビタミンAの働きである。
疫学調査では、貧血の頻度が高い地域ほど、ビタミンA欠乏が多いということが示されており、また、ビタミンAの改善によって、貧血が減少することも示されている。

すでに19世紀には、夜盲と貧血の関係が指摘されていた(Nozeran, 1865; Parinaud, 1881; Saltini, 1881; Lecoeuvre, 1896)。
こういう患者に対して、当時の医者はタラの肝油(ビタミンAおよびDの豊富な供給源)を処方して、患者の治療にあたっていたものである(Thompson, 1855; Greene, 1877; McArdle, 1896)。
20世紀初期になると、動物実験およびヒトの研究によって、ビタミンA欠乏によって、赤血球産生および鉄代謝に異常が起こることが示された。
ビタミンAの欠乏したラットでは、骨髄のゼラチン質の変性が起こっており(Findlay & Mackenzie, 1922) 、骨髄での造血細胞が減少していた (Wolbach & Howe, 1925)。
ビタミンA欠乏の小児の死後解剖で、肝臓および脾臓に血鉄症(ヘモジデローシス)が確認された(Blackfan & Wolbach, 1933)。
つまり、貧血とは、鉄の不足ではなく、ビタミンA不足に起因する鉄の利用障害ということが示唆された。

1920年代には、感染症への罹患率と小児の死亡率の間には、ビタミンA欠乏が関与していることが指摘され(Bloch, 1924)、事実、ビタミンAの投与により小児の死亡率が低下した(Blegvad, 1924)。
1924年、Widmarkが以下のように指摘している。「眼球乾燥症は、ビタミンAが欠乏した人にはるかに多い。ビタミンA欠乏によって、感染症への抵抗力が落ちていることが原因だ」
1920年から1940年まで、小児の死亡率を下げるために少なくとも30の臨床治験が行われ、ビタミンAの「抗感染症ビタミン」としての有効性の評価はゆるぎないものとなった。
この間、ビタミンAによるヘモグロビン濃度の改善や貧血の減少が示された(Berglund et al, 1929; Abbott et al, 1939)。

これ、すべて戦前の話なんだよね。
僕らの祖父母世代の医者のほうが、貧血の背景にはビタミンAがあることをしっかり認識していたっていう。
タラの肝油を処方された百年前の患者のほうが、現代の患者より不幸だったと誰が言えようか。
プライス博士の主要な仕事も皆、1930年代になされたものだ。脂溶性ビタミンの研究は戦前がピークだったんじゃないかな。
時代が進むにつれて、知識も進歩していくと僕らは思っている。
でもそうじゃない。
知識は、退歩する。
実際、貧血治療でビタミンA投与を考える医者を、少なくとも僕は知らない。

「貧血とは、鉄の不足ではなく、ビタミンA不足に起因する鉄の利用障害である」。
これは非常に興味深い指摘で、追及する価値がある。
鉄剤を投与してそれで万事オッケー、心身ともに回復したという患者は、本当に単純に鉄不足だったということだろう。
しかし、そういう簡単な患者ばかりじゃない。
ビタミンA不足のせいで鉄を使えない患者に鉄剤を投与しては、ヘモジデローシスに拍車をかける。余剰な鉄は活性酸素をまき散らし、生体に様々な悪影響を与える。
フェリチンの上昇が回復の目安?とんでもない。こういう人にとっては、炎症の目安以外の何物でもない。
治療になっていない。はっきりいうと、加害行為だ。
僕は、失敗した患者に、それをやっていたわけだ。
よかれと思ってした治療が、むしろ患者に不利益を与えたかと思うと、なんともやりきれない。
「もう一回チャンスを」と思う。でもそういう患者は、二度と来ない。
苦い経験を教訓にして、次の患者で同じ失敗をしないように、生かしていくしかないんだよなぁ。

ビタミンK2、骨、筋肉

2019.6.2

骨を強くするにはどうすればいいか。
カルシウムを摂る?
そう、かつてはそう言われていた。カルシウムは骨に欠かせないミネラルだから、積極的に摂取して骨を強くしましょう、と。
しかし、カルシウムの摂取量が多い地域(フィンランドやスウェーデン)では骨粗鬆症の発症率が高いという疫学研究が出たことで、『カルシウム善玉説』が崩れ始めた。
学者の間で激しい議論が交わされた。「なるほど、カルシウムの単独摂取では骨にむしろ悪影響が出るかもしれない。しかしビタミンDとの併用で、健康効果が高まるのではないか」
カルシウムの摂取量だけではなく、ビタミンDサプリの使用の有無も含めた疫学研究が行われた。結果は衝撃的だった。
骨粗鬆症予防のためにカルシウムのサプリを摂っている女性では、そうでない女性に比べて、動脈硬化が進行しているリスクが高く、また、心筋梗塞や脳卒中のリスクも高かった。ビタミンD摂取の有無はこの相関と無関係だった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21505219
骨のためによかれと思って摂取したカルシウムのせいで、心筋梗塞や脳卒中になってしまっては困る。
なぜこんなことになったのか。
ビタミンDは腸管でのカルシウム吸収を促進する。しかし血中のカルシウム濃度が上がったところで、それが肝心の骨に届いてくれなかったら、意味がない。それどころか、カルシウムが動脈や皮膚などの軟組織に沈着しては、無益どころか有害だ。
血中に増加したカルシウムを、いかに骨に届けるか。そのカギこそ、ビタミンK2だ。
カルシウムとビタミンD3だけでは逆効果だったが、そこにビタミンK2が加わることで、骨密度が上昇する。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3154347/
D3とK2は車の両輪だ。併せて摂るようにしよう。

他に骨を強くする方法は?
当然、運動も効果的だ。体を動かすことによる機械的刺激が、骨を強くする。
逆の場合を考えてみるといい。
老人が寝たきりになると、骨量の減少が急速に進むことはよく知られている。これは若い人でも同じだ。
宇宙飛行士を対象にした研究がある。宇宙に滞在する1ヶ月あたり平均1〜2%の骨量の減少があり、特に下半身(腰椎、脚)での減少が著しかった。逆に、血中のカルシウム濃度が増加していた。これは腎結石のリスク因子でもある。
https://science.nasa.gov/science-news/science-at-nasa/2001/ast01oct_1

ストロンチウムのサプリメントもいい。
ストロンチウムと聞けば、放射性物質をイメージする人が多いだろう。確かに、ストロンチウム89や90は放射性物質だが、クエン酸ストロンチウム(サプリとして普通に売っている)やラネル酸ストロンチウム(骨粗鬆症治療薬)は放射性物質ではない。
周期表を見ればわかるように、ストロンチウムはマグネシウムやカルシウムと同じ第2族元素だ。
同族元素は性質が似ているもので、ストロンチウムも、マグネシウムやカルシウム同様、骨に取り込まれ、その強度を保つ役割を果たしている。
骨形成(類骨形成)の促進、骨吸収の抑制(破骨細胞の成熟遅延)といった作用が示されている。

何か新しいサプリメントを患者に勧めるとき、僕自身が自分で試してみることにしている。
ビタミンK2とストロンチウムのサプリを飲み始めたのが同じ時期だったせいで、どっちの効果かはわからないんだけど、筋トレの効果が高まった実感があった。
僕はこの一年ほど、ほぼ毎日ジムで筋トレをしている。
2ヶ月ほど前にビタミンK2とストロンチウムのサプリを飲みだして以後、明らかに筋肉のつきかたが向上した。パンプアップしたときの筋肉の張りが大きくなった。
rep数も上がった。以前は10回で限界だったのが、あっさり12回できるようになったりして、自分でも驚いた。
「なぜだろう。なぜこんなに筋力が上がったのか。最近始めたこととしては、ビタミンK2とストロンチウムしか考えられない」
そこで、これらの栄養素に筋力増強作用があるか、論文検索してみた。
ビンゴ!
予想通りだった。ビタミンK2、ストロンチウム、どちらにも筋力増強作用がある。
『ビタミンK2は牛の骨格筋の細胞の増殖および移動を促進する』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5884547/
『卵巣切除ラットの筋肉および椎骨に対するラネル酸ストロンチウムの効果』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29242963
どちらも人を相手にしたものではないけど、非常に示唆的な研究で、人で成り立つ可能性は十分あるだろう。
骨粗鬆症の人がビタミンK2を飲み始めると骨折の発生率が下がることがわかっている。これはビタミンK2による骨密度の強化によるものだと研究者は考えているけど、別の機序として、ビタミンK2によって筋力がついて、結果、転倒リスクが軽減すると同時に骨折も減った、という可能性もあるんじゃないかな。
骨粗鬆症とサルコペニア(筋減少症)はしばしば合併することが知られている。骨の減少と筋肉の減少に相関があるということは、興味深い。理学療法士は、筋トレは「骨トレ」でもあるということを、経験的に感じていると思う。
そもそも、発生を考えれば、骨、筋肉、関節は皆、中胚葉由来。要するに、共通のご先祖様を持つ親戚同士なんだ。骨にいいものは筋肉にもいい、筋肉にいいものは関節にもいい、というのは発生学的に筋の通った類推だと思いませんか?

有機ゲルマニウムと脳障害

2019.6.1

ある薬剤の効果を評価するときには、ダブルブラインドの無作為化比較試験(RCT)をやって、有意差が出せれば一番いい。
エビデンスレベルが高いことが何よりの強みで、薬剤を売り出す際にも、大きなセールスポイントになるだろう。
しかしこの試験の欠点は、手間(金、時間など)がかかることだ。
製薬会社がバックにいれば、豊富な資金力によって、そうした問題はクリアできるだろう。
しかし、たとえばサプリを売り込みたい中小企業にとって、わざわざRCTを行うのはかなり大変なことだ。
in vitro(試験管)での研究や動物相手の研究は比較的簡単にできても、人間相手の研究は何かと倫理的な配慮が必要だし、制約も多い。
そういう面もあって、実は有機ゲルマニウムを使ったRCTはそれほど多くは行われていない。

癌、膠原病、関節痛、高血圧、うつ病など、有機ゲルマニウムの有効性が示唆されている疾病や症状は、多くが症例報告に基づくものだ。
症例報告というのは、無意味では決してないけど、エビデンスレベルとしては一段格下に見られちゃうんだな。
しかし有機ゲルマニウムで癌のRCTをやろうと思ったら、大変なことだ。まず、患者を集め、同意をとらないといけない。
「有機ゲルマニウムは癌に有効だと言われています。参加者の半数に有機ゲルマニウムを、もう半数にはプラセボ(ニセモノの薬)を投与して、有効性を確認させてください」
皆さんが癌患者だったとして、こんな誘いに乗りますか?
「私がそれに参加したとして、自分がちゃんと有機ゲルマニウムを飲ませてもらえるのか、プラセボを飲まされるのか、わからないってことですよね?
私、癌なんですよ。癌が日に日に大きくなったり転移したり、徐々に死に近づいていく病気です。
本物を飲んでいたならまだしも、ニセモノを飲んでて悪化して手遅れになりました、となれば、その責任はどうとってくれるんですか?」
こんなふうに言われたら、患者に強く参加を強いることなんてできない。
患者は実験動物じゃない。尊厳を持った人間だ。だからこそ、RCTを行うことには、困難が伴う。

それでも、有機ゲルマニウムに関して、こんな研究報告がある。
(背景)
横浜市立大学名誉教授の梅沢先生は「のうけん療育会」を主催し、そこの会員(脳障害児)に、ドーマン訓練法による治療を行っていた。
これはパターニング、マスキング、でんぐり返りなどを主体とし、そこに視覚、聴覚、触覚などの知覚面での刺激訓練から構成されている。
たまたま浅井ゲルマニウムGe-132の存在を知り、ある小児に投与したところ、難治性の脳障害が劇的に回復したのを見て、先生は感服した。
「ドーマン訓練法は末梢的後遺症状にのみ捕らわれていて、障害の根源である脳にはほとんど目を向けていない。そのせいでほとんど効果のない障害児も多い。
しかし、Ge-132はその生理的な作用により、脳細胞に直接作用しているようだ。これは多くの患者の希望になるに違いない」
先生はそう確信し、RCTの実施を思い立った。
しかし、同意をとるのは困難だった。
「のうけん療育会」の会員は、もともとドーマン訓練法に回復への希望を持って入会してきた子供たちなので、Ge-132の有効性を確認するために、一時的にドーマン訓練法を中止してもらうわけにはいかなかった。
半数に実薬を、半数にプラセボを、ということは、さらにできなかった。ドーマン訓練法、Ge-132投与を併用せざるを得ず、しかも患児の両親の承諾を得なければならなかった。
こんな具合に、臨床で厳密なRCTを行うことはとても難しいことだ。
(研究対象)
本会会員1歳から10歳までの脳障害児95人
(研究方法)
脳障害児とひとくちにいっても、その障害の程度および部位によって、その呈する症状は様々であり、しかもその症状がまったく同じ患者は一人としていない。
そこで、症状を以下の4群に大別した。
中枢性運動機能障害(Cp)、てんかん症候群(Ep)、知恵遅れ群(MR)、自閉症群(Aut)
(Ge-132の投与方法)
顆粒およびカプセルの内服。
投与量は児の年齢、体重、症状によって一様ではないが、おおよそ体重1kgあたり20から30mgを1日三回に分けて、食前または食間に服用。
(評価方法)
一般状態への影響として、食欲、睡眠、便通、寝起を、精神機能への影響として、意欲(積極性、自己主張)、集中力、記憶力および表情を取り上げた。
その影響の有無の判定は、両親の観察・判断に基づいて行った。大いに改善(++;3~4点)、改善(+;1~2点)、変化なし(±)、悪化(-)とした。
また、ドーマン・デラカトの成長プロフィールにより、頭脳年齢/暦年齢=成長率を評価した。
この値が1以上ならば普通児あるいは優良児であり、1以下の場合は脳障害児あるいは脳神経発育不良児である。
(結果)
研究対象95例中、Ge-132投与および訓練期間が12カ月未満のものを除いた67症例(その内訳は、Cp群28例、Ep群11例、MR群14例、Aut群14例)を評価した。
Ge投与によって、2,3の症例を除いたすべての例において、一般状態および精神機能面での向上が認められた。特にMRおよびAut群でこの傾向が著しかった。
(考察)
まず、Ge-132の投与により、患児らの健康増進効果が示された。ほとんどの症例において、食欲、睡眠、便通および寝起で改善が認められた。
その査証として、ほとんどの児がGe-132服用以後風邪をひかなくなったり、ひいたとしても発熱が低く、罹患期間が短くかつ元気であるといった点など、母親が等しく認めている。
次に、記憶力の増強、表情の豊かさ、意欲、集中力の増強といった精神機能面での向上が認められた。なかでも意欲の高揚は感覚、運動といった脳神経機能面の発達に大きな影響を与える。
具体的な症例を供覧しよう。
第1例
(M.T)男児。診断はCp、推定原因は1400gの未熟児。ドーマン訓練法を施行すると同時にGe-132を1年間、総量324gを服用した。
初診時(暦齢86カ月)の成長率は60%で終診時(98カ月)のそれは85%。Ge服用後は精神機能の発達がめざましく、集中力が高まり、算数の勉強やピアノの練習などそれぞれ1時間くらい続けてやるようになった。
たまたま一時Geの服用を中止したところ、その途端に算数やピアノをなまけるようになった。あわててGeの服用を再開すると、また熱心に取り組むようになった。
第2例
(T.K)男児。診断はMR、推定原因は不明。Ge服用量は二年間で525g。初診時の暦齢は93カ月、成長率値81%、終診時の暦齢は117カ月、成長率は87%。母親によると、Ge服用により表情、気力が全く変わったという。
第3例
(A.M)女児。診断はMR、推定原因は仮死。初診時(67カ月)の成長率値は53%、終診時(103カ月)の成長率値は92%。Ge服用量は306gである。
Ge服用後の精神面の進歩発達は顕著で、何でも一人でやるようになった。しかしGe服用を中止すると、体の調子が悪く気力も衰えるが、再び服用すると途端に回復した。
第4例
(S.T)男児。診断はCp(アテトーゼ)、推定原因は母児血液型不適合。Ge服用量は2年間で72g。Ge服用後、風邪をひきにくくなり、熟睡するようになった。また、睡眠時間が短くても済むようになった。
便秘がなくなり、食欲が極めて良好となった。アテトーゼが軽減し、手の機能が改善した。しかしGe服用を忘れるとアテトーゼが増強した。なおアテトーゼの軽減はこれまで一度も見られなかったことである。
書字が正確になり、漢字などの細かい字も書けるようになった。長年ドーマン訓練法をやってきてもこうした変化は見られなかったことである。
また食事もほとんど自分ひとりでできるようになった。足の運びも大幅に改善した。
言語、構音がよくなり、発音が聞き取りやすくなった。かなり長い文章を話せるようになり、学校でも進んで発言するようになった。
理解力、記憶力がよくなり、記憶力のよさは周囲も驚くほどである。学校での成績は体育を除いて優秀で、クラス委員に選ばれるようにさえなった。

すばらしい報告だと思う。
一応、世の中的には、エビデンスレベルとして、RCT>症例報告、ということになっている。
しかし、大手製薬会社の降圧薬の有効性が不正に改ざんされていたことがニュースになったように、RCTで有効と認められたからといって、それが間違いないかといったら、全然そんなことない。むしろ、n数は少なくても、上記のような報告のほうがはるかに信頼できるんじゃないかな。
上記報告は、母親が観察した子供の変化に基づいている。こんなのは正式な論文としては、ほとんど相手にされない可能性がある。「客観性として、まったく科学の体をなしていない」と。しかし、母親ほど子供の変化に敏感な存在はいないというのも、また事実だろう。

自閉症、知的障害などは、一般には回復困難とされている。しかし上記の報告は、有機ゲルマニウムの服用によって、劇的に回復したことを示している。
患者を子供に持つ親御さんにとって、回復への希望がないよりもあるほうが絶対にいい。
一般の製薬会社の薬と違って別段の副作用もないのだから、有機ゲルマニウムを試してみないのは損だと思う。

ちなみに、特に脳障害のない普通児が飲んでも知的発育に好ましい効果がある。
・ぜんそくにいいから、ということで有機ゲルマニウムを飲み始めた14歳男子。思いがけず、急に数学の成績がよくなった。あまりにも急激によくなったせいで、教師からカンニングを疑われた。
・健康にいいらしい、ということで有機ゲルマニウムを飲み始めた中年男性。囲碁が趣味だったが、手が深く読めるようになった。まったく期待していない効果だった。
こういう例が浅井一彦著『ゲルマニウムと私』に出てくる。
生徒に有機ゲルマニウムの服用を勧め、多くの生徒を大学合格に導いた井藤正勝さんという河合塾の講師もいる。
成績が伸び悩んでる受験生が飲んでも、おまじない以上の効果が期待できるはずだ。