2020.2.9
8種類の異なるタイプの癌すべてで、血中コレステロールが低下している(逆に組織内部のコレステロールは増加している)ことを確認したSipersteinは、これを初期癌のスクリーニングに使えないかと考えた。
つまり、血中コレステロールが高い人は癌にかかっているはずがないし、逆に低い人に対しては「黄色信号ですよ!」と警告できるのではないか、と。
ところが現代の医療は、Sipersteinの発想と真逆の方向に突っ走っている。幸いにもコレステロールが高い人に対して、スタチン(発癌物質)を使って無理やり下げて癌体質に誘導している。こんなデタラメをしているんだから、医療費の高騰が止まらないのも当然だよね^^;
以前のブログの繰り返しになるようだけど、確認しておくと、
ある種のカビ毒(スタチンも含めて)は、LDL受容体のある細胞に対してコレステロールの流入を引き起こし、結果、血中コレステロールが低下する。
Sipersteinは癌細胞と正常細胞の比較から、次のような結論にたどり着いた。
・正常細胞では、食事由来のコレステロールを吸収すると、細胞内のリダクターゼが減少し、コレステロール産生が減少する。
・癌細胞では、食事由来のコレステロールを吸収すると、リダクターゼが増加し、細胞内のコレステロール濃度が高まる(血中コレステロールは低下する)。
・スタチンを投与した細胞では、食事由来のコレステロールを吸収すると、リダクターゼが増加し、細胞内のコレステロール濃度が高まる(血中コレステロールは低下する)。
スタチンの投与によって、正常細胞がまるで癌細胞のようにふるまう。カビ毒によって癌が生じるのだから、スタチンを投与された細胞は、いわば、”カビ毒に当たった”ような状態である。
スタチンの投与と癌の関係について、以前のブログで紹介したのは動物実験レベルの研究が多かったと思う。
それだけではなくて、大規模疫学研究(PROSPER、SEAS、Chang et al.2011(台湾の前立腺癌研究)、CARE(乳癌研究)など)でもこの関係性は示されている。
PROSPER研究では、スタチンを4年以上服用すると癌の発症率が25%増加していた。
CARE研究では、スタチン投与群のうち12人の女性が乳癌を発症した(プラセボ投与群の発癌は1人だけだった)。
Chang et al.2011では、男性のスタチン服用者では前立腺癌の発症率が有意に高かった。
なぜ、スタチンによって癌を発症するのか。これには2つの機序がある。
やはり繰り返しになるが、まとめると、
・間接的には、スタチンは細胞内のリダクターゼの増加を誘導することで、癌細胞様状態を作り出す。
・直接的には、スタチンは他の発癌性カビ毒と同様の機序(rasタンパクの機能をかく乱させる)で癌を誘導する。
癌細胞の内部ではリダクターゼの濃度が上昇しているが、これは癌の結果であり、また、原因でもある。
癌細胞はターンオーバー(代謝回転)のスピードが速くなっているから、リダクターゼが増加しているのは当然のことだ。
さらに問題を追及しよう。
なぜ、スタチンの投与でリダクターゼが増加するのか。
いよいよ核心部分である。
この問いに対する答えこそ、癌の発生メカニズムの根本である。この秘密を解明すれば、世界から癌を根絶することさえ夢物語ではない。
実は科学者は、すでにこの答えを知っている。
ノーベル賞をもらったBrownとGoldsteinはもちろん、ノーベル賞候補のEndoも知っているし、製薬会社のMerckも知っている。
しかし、この知識は科学者の頭脳にとどまっているだけで、残念ながら一般の癌治療に生かされていない。
答えはこうである。
スタチン投与によるリダクターゼの増加は、イソプレノイドの枯渇(isoprenoid starvation)によるものである。
リダクターゼの増加が、癌の単なる症状ではなく、癌の根本的な原因であるならば、イソプレノイドの投与によって細胞の癌化を防いだり、癌を正常細胞に戻すことも可能なのではないか?
この仮説を検証してみたところ、実際その通りだった。
『食事由来のイソプレノイドによるメバロン酸経路活性の抑制~癌および心血管疾患における予防的役割』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7782923
単純にコレステロールを投与しても、癌細胞の暴走は止まらない。しかし、植物性イソプレノイド(モノテルペン、セスキテルペン、カロテノイド、トコトリエノール)の投与によって、HMG-CoAレダクターゼの活性が抑制され、結果、癌を抑制することに成功した。
この知見を実用にどのように生かすことができるだろうか?何らかのサプリで癌を予防したり治療したりできるのだろうか。
このあたりについては、また稿を改めてお伝えするようにしよう。
参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(James Yoseph)
2020.2.8
カビ(真菌)と癌の関係性を示すデータは多い。ざっと列挙すると、
・パツリン(ペニシリウム属、アスペルギルス属の産生するマイコトキシン(カビ毒))をマウスに投与したところ、乳房腺腫が生じた(Dickens and Jones 1965, 1967)。
・腐敗した米から抽出したカビ毒をマウスに投与すると乳癌が生じた(Saito 1971、Corrado 1971)。ちなみに遠藤先生が最初に作ったスタチンも米にわいたカビが原材料である。
・T-2トキシン(カビの一種であるフザリウムが産生するマイコトキシン)をラットに投与すると乳癌が生じた(Schoental 1979)。
・メスのマウスにオクラトキシン(アオカビ属、コウジカビ属の産生するカビ毒)を経口投与すると、半数以上に乳房線維腺腫が生じた(Boorman 1988)。乳房線維腺腫はヒトにおいて乳癌のリスクを増加させることがわかっている(Dupont 1994)。
なるほど、癌は近年増加中で、今や2人に一人が癌に罹患し、3人に一人が癌で死亡する、とも言われている。
しかし、たとえば江戸時代とか明治時代に癌の患者がいなかったかというと、そうではない。
たとえば華岡青洲が1804年世界で初めて全身麻酔下の外科手術を行ったが、これは乳癌に対して行ったものである。
これは僕の推測だけど、食品添加物も原子力発電所(人為的放射線)もない時代の癌患者というのは、ほとんどがカビ毒に起因する発癌だったんじゃないかな。
カビのはえたナッツをエサとして与えられていた七面鳥が肝臓癌にかかり大量死した事件については、以前のブログで書いた。集団大量死の原因が呼吸器感染症などではなく、意外にも癌であったことが、世間にショックを与えた。
カビ毒が原因の集団癌発生は、鳥だけに起こるものではないし、過去のものでもない。
2004年にスウェーデンの高校で教員20人が癌を発症した。2006年アメリカのウィスコンシン州の小学校で、102人の職員のうち28人が、さらに生徒2人が、癌の診断を受けた。いずれのケースも、カビが繁殖したままで使用されたエアコンのフィルターが原因であったと見られる。
これらの事件をきっかけに、シックビルディング症候群(sick building syndrome)という疾患概念が提出され、カビと癌の関係が一時注目された。
しかし今ではほとんど忘れられているようだ。肺癌の原因として、タバコやアスペスト、PM2.5などの大気汚染物質が挙げられることがあっても、カビ毒はほとんど見過ごされている。
カビ毒(スタチンも含め)が毒性を発揮するメカニズムは複数あるが、ひとつには、免疫抑制である。
シクロスポリンという薬がある。
これはもともとは、抗生剤である。真菌と細菌、と聞けば「どちらも同じようなバイ菌だろう」と思われるかもしれないが、全然別物だ。細菌は原核生物だが、真菌は真核生物である。
つまり、細菌はその内部に染色体DNAがむき出しで存在するが、真菌はその内部に核、ミトコンドリア、小胞体などの細胞内小器官を備えている。真菌は細菌よりも、格段に進歩した生物だ。
シクロスポリンは、この高等な真菌の武器である。シクロスポリンを注入して細菌を殺し、エサとして頂くわけだ。
フレミングがアオカビのマイコトキシンから作った抗生剤(ペニシリン)と、基本的には同じようなものである。
ただ若干の分子構造や作用の違いから、免疫抑制剤として使われたり、コレステロール降下薬(スタチン)として使われたりする。ただ根本は同じで、「カビ毒による細胞機能のかく乱」である。
これはすごい話だと思いませんか?
抗生剤、免疫抑制剤、コレステロール降下薬。
どれもまったく別の薬だと思いきや、どれも要するに、カビ毒だという。
カビは、まったく、製薬会社にとってカビ様(神様)だね^^
このカビ毒の製品化でどれほど莫大な利益をあげ、かつ、どれほど多くの人命を奪ったことか。
さて、シクロスポリンの話である。事実上、抗生剤ではあるが、医学部では免疫抑制剤だと教わる。
たとえば臓器移植を受けた患者の免疫系を抑制するために、シクロスポリンが長期間投与されたりする。
ただ、もともとの素性は結局カビ毒である。長期間こんな薬を服用して、体に異常が起こらないはずがない。
そもそもこの薬は、免疫を抑制しているというか、カビ毒で細胞機能が破綻して免疫が適切に機能しなくなっている、というだけのことなんだ。
臓器移植後にシクロスポリン投与を受けた患者88人中87人が癌を発症したという報告がある(First and Penn 1986)。具体的には、ほとんどの癌が、乳癌、卵巣癌、精巣癌だった。
なぜだと思いますか?
乳房、卵巣、精巣、これらはいずれも、ホルモンの産生器官だ。つまり、コレステロール代謝が活発だからカビ毒の影響を受けやすく、だからこそ、癌化のリスクも高いんだな。
シクロスポリンのせいで癌になったのではないか、という報告は他にも、Vogt(1990)、Escribano-Patino(1995)など数多い。
特にHarrison(1993)は乳癌患者の標本中にアフラトキシンのDNAを見出した。
ついでに、悲しいお知らせをしてもいいですか?
フランスの研究(Le 1986)によると、乳癌の発生率と青カビチーズの消費量には正の相関がある。「青カビチーズを食べれば食べるほど、乳癌のリスクが増えますよ」ということだ。
チーズ好きにはショッキングな話だね( ゚Д゚)でもこういう疫学研究は上手に活用することが大事で、結論だけ見て「今後チーズは一切食べません!」と極端に振り切るのはよくないよ^^;
人類は大昔から発酵という現象を利用してきた。デメリットだけではなくて、きっとメリットもあると思うんだよね。
たとえば日本の食文化と切っても切り離せない酒と醤油。これ、どちらもAspergillus flavusという、アフラトキシンを産生するカビによって作られていますから^^;でも「明日から酒と醤油を使うのはやめよう」とはならないよね。
学問が提供するのはあくまで”一面の事実”に過ぎないことが多いもので、あまり右往左往するもんじゃないよ。
「納豆がいい!」となれば納豆ばかり食べたり、「肉がいい!」となれば肉ばかり食べたり、世間には情報にブンブン振り回される人がいるものだ。
「一番大事なのは、バランス」っていうセンスが、ごっそり抜け落ちてるよねぇ^^;
参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(Jamaes Yoseph)
2020.2.7
「すべての発癌物質は、ラクトン構造を含む」
これこそが遠藤章の成し遂げた発見であって、彼がノーベル賞を贈られるとすれば、この功績に対してであるべきだと思う。
授賞理由が「コレステロールの産生機序の解明とコレステロール降下薬(スタチン)の開発」ということであれば、ノーベル賞選考委員会はまったく何もわかっていないと言わざるを得ない。
コレステロール降下薬(スタチン)を開発しようという努力自体はすばらしく、その途中過程で得られた知見は、人類の健康福祉に貢献するものだった。しかしその努力の結果商品化されたスタチンは真菌毒そのもので、人類の福祉に貢献するどころか、むしろ人々の健康にとって有害無益だったと僕は考えている(高コレステロール血症の遠藤先生自身、スタチンを飲まないんだよ^^;)。そんな具合に、遠藤先生の仕事には、光と影が、功と罪が、相半ばしていると思う。
具体的にどういうことか、説明していこう。
高校で生物を習った人は、グルコースからピルビン酸ができ、ピルビン酸がアセチルCoAになってクエン酸回路(クレブス回路)に入る、と勉強しただろう。
このアセチルCoAは生命にとって絶対的に必須のもので、ここから様々なもの(コレステロール、中性脂肪、ステロイド、アミノ酸など)が作られる。
たとえば、細胞がコレステロール(およびその他のイソプレノイド)が必要なときには、まずアセチルCoAの2分子がくっついてHMG-CoAとなり、HMG-CoAにリダクターゼ(還元酵素)が作用してメバロン酸ができる。
メバロン酸がコレステロールをはじめとして、様々なイソプレノイドを作り出すもとになる。
この図で特に重要なのは、後半、HMG-CoAからメバロン酸が生成されるところである。
分子構造も含めて書くと、以下のようである。
注目したいのは赤い丸で囲ったところで、これは化学的にはラクトンと呼ばれる構造である。スタチンにもラクトン構造が含まれていて、しかもスタチンは、リダクターゼとの親和性が、HMG-CoAよりも1万倍高い。
どういうことか、わかりますか?
スタチンはHMG-CoAを押しのけてリダクターゼと結合し、結果、メバロン酸の産生が停止するということだ。この点こそが、スタチンの作用機序の核心(HMG-CoArリダクターゼ阻害)であり、スタチンの毒たるゆえんなんだ。
遠藤先生は真菌の一種であるPenicillium citrinumを使って、スタチンの研究をしていた。Penicillumという名前から見当がつくように、これはアオカビの一種である。フレミングはここから抗菌薬(ペニシリン)を作ったが、遠藤先生はスタチンを作った。いや、正確には、Penicillum citrinumから精製したスタチン(citrinin)は医薬品にはならなかった。毒性が強すぎたためだ。
初めて医薬品として承認されたのは、Aspergillus terreusの産生するカビ毒から作ったロバスタチン(“love a statin”)である。
citrinin、ロバスタチン、いずれもラクトン環構造を持っている。というか、ラクトン環構造は真菌類全般が普遍的に持っていて、彼らにとって有機物を腐敗させる強力な武器になっている。
そもそも単細胞生物であれ多細胞生物であれ、すべての生命体はHMG-CoAやリダクターゼを利用してエネルギー産生を行っている。細胞は進化の歴史の中で、HMG-CoAを含む物質を「おいしい」と感じるようになったが、真菌はここに付け込んだ。リダクターゼと結合する”ニセHMG-CoA”(ラクトン環)を他の有機物に送り込み、細胞機能をかく乱させ、ひいては生命機能を破綻に追い込む。そうして、有機物を自身の栄養物として頂く。これが、”擬態(mimicry)”と呼ばれる真菌の生存戦略である。
スタチンの添付文書をみれば、うんざりするほどたくさんの副作用が挙げられているが、これらは決して”副作用”ではない。
カビは、ものを腐らせる。同様に、スタチンは体を腐らせる。
作用機序を考えれば、”副作用”と言われているものは、カビ毒によって起こる当然の主作用なんだ。
ただ製薬会社としては、薬として販売するにあたって、あまり露骨に毒性が現れては(つまり、薬の服用と体調の悪化という因果関係があからさまに現れては)、さすがに市場に流せない(Cerivastatinのように、市場に堂々と出ておきながら、その後の有害事象報告(横紋筋融解症と腎不全による死者52人)で撤退になったスタチンもあるんだけど^^;)。
薬としての認可を得るには、毒を毒だとわからないよう、上手に加工することが必要である。
ポイントは二つある。まず、カビ毒がリダクターゼをどれぐらい阻害するのか、ということ。もうひとつは、阻害が可逆的であるか否か、である。
この二点が、細胞の致死性と発癌性を左右している。
遠藤先生が熱心に研究していたPenicillum由来のcitrininというスタチンはは実用化されなかったが、これは阻害が不可逆で、作用が強すぎたためだ。
バイエル社から売り出されたCerivastatinは、可逆的であったものの、リダクターゼの阻害作用が強すぎた。スタチンを処方された患者がすぐにバタバタ死んでしまうものだから、こんなに因果関係が露骨ではさすがの製薬会社も反論できず、やむなく撤退となった。
遠藤先生の論文。
『HMG-CoAリダクターゼ阻害薬の発見と開発』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1464741
論文中にこのような一節がある。
「ある種の微生物は、その他の生物(成長にステロールやその他のイソプレノイドを必要とする生命体)に対して、武器となる化合物を産生するのではないか。そうであるならば、HMG-CoAリダクターゼの阻害は、こうした生物にとって致命的な作用をもたらすだろう」
遠藤先生のこの推測は当たっていた。
イソプレノイドのなかでも、ドリコール(dolichol)は細胞膜の構造維持に、コエンザイムQ10はエネルギー産生に、イソペンテニル・アデニンは細胞周期の促進に、メッセンジャータンパク(たとえばRas)は細胞周期の抑制に、それぞれ必須のものだった。
リダクターゼを阻害することは、同時にイソプレノイドの阻害でもあり、結果起こることは、これらの必須栄養素の欠乏である。
具体的な症状としては、
・細胞が形態を維持できなくなり、”球体化”する(ドリコール欠乏)
・細胞分裂の停止(イソペンテニル・アデニン欠乏)
・エネルギー欠乏、易疲労性(コエンザイムQ10欠乏)
・細胞増殖の暴走、癌化(メッセンジャータンパクの欠乏)
こうした知見は、逆用すれば癌の予防(および治療)に利用することも可能で、遠藤先生の研究成果はこういうふうに使ってこそ、初めてノーベル賞級の仕事だと言えると思う。スタチンみたいな毒物を医薬品として垂れ流しておいて、それでノーベル賞をもらうだなんて、そんなデタラメはさすがにないでしょ。
ノーベル賞は存命中の人にのみ贈られるから、「ノーベル賞をもらう秘訣は、長生きすることだ」と言われたりもする。遠藤章先生は、現在86歳。平均寿命的には、そろそろタイムリミットを意識する年齢である。
先生がノーベル賞をもらうとしたら、同じ日本人として喜ばしいことだけど、もらい方(授賞理由)も大事だと思うんだな。
参考
“Proof for the cancer-fungus connection”(Jamaes Yoseph)
2020.2.6
スタチンはカビ毒そのもので、その毒性は恐ろしいものだけど、スタチンの開発プロセスで、癌や糖尿病などの発生機序の一端が解明されたこと自体は、とても有意義なことだった。これらの疾患に大きく関与していることが明らかになったのは、コレステロールである。
生化学の研究により、コレステロールが細胞膜や各種ホルモン、ビタミンDの構成材料であることが知られていた。疫学的には、癌患者でコレステロール値が低いことや、コレステロール値が低い患者で癌の発症率が高いことがわかっていたが、スタチンの研究はこの理由を解き明かすことに貢献することになった。
前回のブログと内容的にやや重複するかもしれないが、この点について、少し角度を変えて見てみよう。
理科の授業で、「”何とか”アーゼ、というのは”何とか”を分解する酵素のことだ」と習っただろう。たとえばアミラーゼというのはアミロース(でんぷん)を分解する唾液中の酵素だし、リパーゼというのはリピッド(脂質)を分解する膵液中の酵素のことだ。
上図は、酵素が基質に作用して、基質を分解する模式図。
酵素と基質は、カギとカギ穴の関係にたとえられる。ばっちりハマる相手に対してのみ、作用するということだ。そして、反応の前後で酵素は変化しないが、基質が変化して、新たな物質が生じる。
反応を定式化して書くと、
酵素 (E) + 基質 (S) → 酵素基質複合体 (ES) → 酵素 (E) + 生産物 (P)
大学で生化学を勉強するとうんざりするほどたくさんの酵素が出てきて、その名前を覚えることになるが、小学校や中学校の理科で習ったこの反応式が基本であることは変わらない。
たとえば、リダクターゼ(還元酵素)という酵素がある。医学部で習うのは、せいぜい
5αリダクターゼ(前立腺肥大、男性型脱毛症に関連)とHMG-CoAリダクターゼの二つである。
後者はコレステロールを含むメバロン酸代謝のプロセスで超重要な酵素だが、扱いは軽い。
生命にとってメバロン酸経路がどれほど重要であるかを医学生に教えてしまうと、スタチンを投与することがどれほど体に悪いかが、みんなにバレてしまうから、あえて教えないようにしているのではないか、と個人的には思っている。
メバロン酸は、HMG-CoAから作られる。
上図でいうと、HMG-CoA(基質)に対して、酵素HMG-CoAリダクターゼが作用することで、メバロン酸(生産物)が作られる、という流れだ。このメバロン酸からコレステロールやイソプレノイドが作られていく経路を、メバロン酸経路(mevalonate pathway)という。
Sipersteinによると、彼が調べたすべての癌細胞では、例外なく、メバロン酸経路(およびコレステロール代謝)が破綻していた。
三共が犬を使った実験で、腸に癌(リンパ腫)が発生することを報告したが、スタチンを経口で投与した場合、消化されたスタチンがまず吸収されるのが腸であることを考えれば、この理屈がわかる。
腸は免疫の最前線で、白血球が密集している。スタチンを貪食した白血球は、メバロン酸経路が破綻し、リダクターゼが増加する。ここで細胞表面にLDL受容体が多く発現していればコレステロールの取り込みが亢進してアポトーシスを起こすところだが、LDL受容体の発現が乏しい白血球では癌化する。これが血液癌の発生機序である。
いわゆる発癌物質は、細胞内に取り込まれて発癌を起こす前に、まずメバロン酸経路を破綻させているのではないか。これがすべての癌の根本原因ではないか。これがSipersteinの考えた仮説である。
1960年、イギリスで養鶏場で飼われていた数万匹の七面鳥が一気に死ぬ騒動があった。この事件は世界中に報道され、人々を不安に陥れた。原因は何だろうか?細菌か、ウイルスか?自然発生した病原菌によるものか、生物兵器によるテロか?世界中の科学者が、原因究明に乗り出した。
結果は、驚くべきことに、カビによるものだった。七面鳥のエサとして与えられていたピーナッツに、真菌の一種アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)がわいており、この真菌が産生するカビ毒によって七面鳥たちは中毒死したのだった。このカビ毒はAflatoxin(AはAspergillusから、flaはflavusから)と名付けられ、多くの研究者がその毒性を調べたが、Sipersteinもその一人だった。
正常な細胞にアフラトキシンを与えると、1週間以内にメバロン酸経路が破綻し、その後癌化することを、彼は報告した。
『正常細胞および癌細胞におけるコレステロール合成の調整』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B9780121528027500098
メバロン酸経路こそ、癌とコレステロールを結ぶミッシングリンクであることを、彼は証明したのだった。メバロン酸経路は細胞の分裂周期を調整する中枢であり、また、コレステロール(およびその他のイソプレノイド)の産生に中心的な役割を果たしている。癌細胞ではメバロン酸経路が破綻しており、リダクターゼの産生が高まっているが、スタチンはこれと同様の状況を作り出す。
癌はスタチンの副作用ではない。作用機序を考えれば、むしろ主作用である。
利にさとい製薬会社である。スタチンのこういう性質は当然知っていて、当初はスタチンを、なんと、抗癌剤として売り出そうという話さえあった。”スタチンが細胞周期をかき乱すのならば、癌細胞に投与してやればいい”というアイデアである。
腫瘍の退縮どころか、正常細胞の癌化を促進してしまうことから、研究段階で頓挫したものの、スタチンの何たるかを端的に示すエピソードだと思う。
もっとも、一般の病院で行われている抗癌剤による化学療法もスタチンと大同小異で、最終的には癌の促進にしか働かないのだけれど。
参考
“Proof for the cancer-fungus connection” (James Yoseph著)
2020.2.4
医師国家試験にこんな問題が出る。みなさん、解けますか?
【問】地上における死体の腐敗速度を 1とした場合、土中での腐敗速度として正しいのはどれか。(平成26年第108回医師国家試験E-25より)
a 1/8
b 1/2
c 1
d 2
e 8
法医学の問題。
まず、地面に置いた死体と土中に埋めた死体。どちらの分解速度が速いと思いますか?
「土のなかのほうが微生物とかミミズとか多そうで、分解も速そう。だから正解は、dかeだろう。しかし8倍速いというのはいくらなんでも速すぎる気がする。だから、dかな。
ブッブー×
違います。それでは医者になれません^^
法医学の授業で、カスパーの法則(Casper’s Law of decomposition)というのを習う。
それは「死体を土中、水中、地上に放置したとき、その腐敗速度の比は、1:2:8である」というものだ。
土の中のほうがはるかに分解速度が遅いなんて、一見意外な感じがするね。でも、以下の解説を見れば納得するだろう。
「死体の分解速度を左右する要因は、主に4つある。
最も重要なのは温度だ。温度が10℃上がるごとに、死体の化学反応の速度は2倍になる。30℃の環境下の分解速度は、0℃のときより8倍速い、という具合だ。
さらに、環境中の湿度の影響も大きい。水がある(湿度が高い)と、分解速度は遅くなる。
また、環境中の㏗(酸性かアルカリ性か)も影響する。極端な酸性、アルカリ性の状況では、酸素による生体分子の分解が速まるが、やはり水の有無によってこの影響も緩和されたりする。
最後に、環境中の酸素濃度。土の中や水の中、あるいは高地では、酸素濃度が低いため、分解が遅い。
これら4つの要因次第で、死体が白骨化するまでわずか2週間ということもあれば、2年以上かかることもある」
どうですか。温度、湿度、㏗、酸素濃度がポイントであることに気付けば、正答できるわけです^^そういう意味で、医学というか、むしろ科学の問題だね。
個人的には、これらの4要因に加えて、もうひとつ、真菌による分解、という作用もかなり大きな影響力があると思う。
真菌の働きがもっとも活発なのは、土の中ではなくて、地表なんだ。地面に穴を掘ってみたら、土の中でカビがわいていた、という状況は見たことがないでしょう?土の中に生えているキノコ、なんて見たことがないでしょう?つまり、土の中というのは、真菌にとってはむしろ住みにくくて、酸素のほどよくある地表が生育に適しているわけだ。
このあたりは、人間との相似を感じる。
人間の体表(および腸内の体表である腸粘膜)には無数の微生物が住んでいる。しかし、その少し下は、免疫部隊が厳重に見張っていて、菌はほとんどいない。菌が侵入しているのは、癌(真菌)か敗血症(細菌)などの異常事態のときぐらいだ。
そう、癌が真菌(カビ)によって起こることを示す研究は複数あって、科学的な裏付けは充分にある。カビの産生する毒が、どのように癌を発生させるのか、その機序も明らかになっている。
ただ、こういう知識は医学部では教わらないため、医者にとって一般的な知識ではない(死体の分解速度より、はるかに本質的な知識のはずだけどね^^;)。
正常な細胞内では、リダクターゼ(HMG-CoA reductase)によってHMG-CoAからメバロン酸が作られている。
メバロン酸をもとにして、イソプレノイド(tPNA、コエンザイムQ10(ユビキノン)、その他、シグナル伝達に関与するタンパク質)やコレステロールなど、生体に必須の分子が作られる。
しかしここにある種の真菌毒(アフラトキシンなど)を投与すると、リダクターゼと結合して、その働きがブロックされる。つまり、メバロン酸の産生が停止する。結果、イソプレノイドやコレステロールの産生も停止する。
体にとってこれは一大事である。細胞は小胞体でリダクターゼをより多く作ることで、この異常事態に対応しようとする。
ここからが運命の岐路で、もしこの細胞が膜表面にLDL受容体を発現していれば、細胞内にLDLコレステロールが流入する(結果、血中コレステロール濃度は下がる)。細胞内で産生できなかったコレステロールを細胞外から取り込むことに成功したわけだが、他の代謝も滞っているため、その先のカスケードが進まず、細胞は死ぬことになる(コレステロール毒性)。
一方、この細胞が膜表面にLDL受容体を発現していなかった場合、コレステロールの細胞内流入は起こらない。しかし、メバロン酸の産生停止により、細胞周期を調節するイソプレノイドが不足しているため、細胞は癌化することになる。
「細胞死(アポトーシス)するぐらいなら、癌化してでも生き延びてやる」という、細胞の”意地”だとも思える。しかしアポトーシスも癌も、できれば避けたいものだ。
一体、僕が何の話をしているのか、わかりますか?
コレステロール降下薬の代表格、スタチン系薬剤の作用機序を念頭に置いて話しています。スタチンは、はっきり言って、カビ毒(mycotoxin)そのものだ。カビ毒が有機物(死体も生体も含めて)を分解・腐敗させようとする機序そのものを、「薬効」と称している。カビ毒が流入して機能が破綻しそうになった細胞が、生きようとして必死になって細胞内にコレステロールを取り込む。その結果、「ほら、血中コレステロールが下がって、よかったね」と言っている。
もうね、いい加減こんな茶番はやめにしない?^^;
スタチンの副作用をざっと挙げると、糖尿病、横紋筋融解症、認知症、癌がある。
なぜ、糖尿病が起こるのか?
膵臓のβ細胞は、細胞膜表面にLDL受容体を発現している。つまり、スタチンによって細胞内へのコレステロール流入が起こり(おかげで血中コレステロールは下がるのだが)、β細胞が死ぬ。結果、インスリンが出せなくなって糖尿病になる、という具合だ。
横紋筋融解症や認知症の発症機転も同様だ。筋肉やニューロンにLDL受容体が発現しているせいで、コレステロールの流入により細胞機能が破綻してしまう。
スタチンを取り込んだ細胞が、LDL受容体が細胞膜表面に発現していない(あるいは少ない)場合には、細胞周期の破綻により、癌細胞になる。
副作用として、他にも、体重減少、筋緊張低下、ふらつき、震顫などがある。
当然、製薬会社は研究段階でこういう副作用に気付いていた。
実際、三共は、犬への投与で腸内で血液癌(リンパ腫)が生じたことを報告し、スタチン系薬剤の開発中止を表明した。かつては良心的だったんだね。今ではジェネリックをしれっと売ってるけど。
スタチンの開発には日本人の遠藤章の尽力が大きくて、他の2名(BrownとGoldstein)は1985年にノーベル賞を受賞していることから、遠藤さんのノーベル賞受賞が期待されている。
たとえばこんな記事。
『ノーベル賞候補・遠藤章さん 10年間笑顔で待ち続ける秋田の実家』
https://mainichi.jp/articles/20191018/k00/00m/040/310000c
遠藤さんはスタチンの開発者だから、当然、その毒性についても精通している。
海外メディア(『ウォールストリートジャーナル』)相手だから気が緩んだのか、遠藤さん、こういう発言をしている。
「2004年に受けた検診で、LDLが155だった。スタチンを飲んでもおかしくない数値だけど、薬は飲まずに、頑張って運動して130まで減らしたよ」
「なぜスタチン開発者のあなたが、自分の発明品を飲まないのですか?」という記者の質問に対して、
「日本には、紺屋の白袴という言葉があるんだよ」
自分では絶対飲まないような薬を市場に流通させておいて、それでノーベル賞候補だなんてさ、何かの悪い冗談でしょう?
参考
“PROOF FOR THE CANCER-FUNGUS CONNNECTION”(JAMES YOSEPH著)