院長ブログ

真菌、コレステロール、癌

2020.2.4

医師国家試験にこんな問題が出る。みなさん、解けますか?
【問】地上における死体の腐敗速度を 1とした場合、土中での腐敗速度として正しいのはどれか。(平成26年第108回医師国家試験E-25より)
a 1/8 
b 1/2 
c 1 
d 2 
e 8 

法医学の問題。
まず、地面に置いた死体と土中に埋めた死体。どちらの分解速度が速いと思いますか?
「土のなかのほうが微生物とかミミズとか多そうで、分解も速そう。だから正解は、dかeだろう。しかし8倍速いというのはいくらなんでも速すぎる気がする。だから、dかな。
ブッブー×
違います。それでは医者になれません^^
法医学の授業で、カスパーの法則(Casper’s Law of decomposition)というのを習う。
それは「死体を土中、水中、地上に放置したとき、その腐敗速度の比は、1:2:8である」というものだ。
土の中のほうがはるかに分解速度が遅いなんて、一見意外な感じがするね。でも、以下の解説を見れば納得するだろう。
「死体の分解速度を左右する要因は、主に4つある。
最も重要なのは温度だ。温度が10℃上がるごとに、死体の化学反応の速度は2倍になる。30℃の環境下の分解速度は、0℃のときより8倍速い、という具合だ。
さらに、環境中の湿度の影響も大きい。水がある(湿度が高い)と、分解速度は遅くなる。
また、環境中の㏗(酸性かアルカリ性か)も影響する。極端な酸性、アルカリ性の状況では、酸素による生体分子の分解が速まるが、やはり水の有無によってこの影響も緩和されたりする。
最後に、環境中の酸素濃度。土の中や水の中、あるいは高地では、酸素濃度が低いため、分解が遅い。
これら4つの要因次第で、死体が白骨化するまでわずか2週間ということもあれば、2年以上かかることもある」

どうですか。温度、湿度、㏗、酸素濃度がポイントであることに気付けば、正答できるわけです^^そういう意味で、医学というか、むしろ科学の問題だね。
個人的には、これらの4要因に加えて、もうひとつ、真菌による分解、という作用もかなり大きな影響力があると思う。
真菌の働きがもっとも活発なのは、土の中ではなくて、地表なんだ。地面に穴を掘ってみたら、土の中でカビがわいていた、という状況は見たことがないでしょう?土の中に生えているキノコ、なんて見たことがないでしょう?つまり、土の中というのは、真菌にとってはむしろ住みにくくて、酸素のほどよくある地表が生育に適しているわけだ。
このあたりは、人間との相似を感じる。
人間の体表(および腸内の体表である腸粘膜)には無数の微生物が住んでいる。しかし、その少し下は、免疫部隊が厳重に見張っていて、菌はほとんどいない。菌が侵入しているのは、癌(真菌)か敗血症(細菌)などの異常事態のときぐらいだ。

そう、癌が真菌(カビ)によって起こることを示す研究は複数あって、科学的な裏付けは充分にある。カビの産生する毒が、どのように癌を発生させるのか、その機序も明らかになっている。
ただ、こういう知識は医学部では教わらないため、医者にとって一般的な知識ではない(死体の分解速度より、はるかに本質的な知識のはずだけどね^^;)。

正常な細胞内では、リダクターゼ(HMG-CoA reductase)によってHMG-CoAからメバロン酸が作られている。
メバロン酸をもとにして、イソプレノイド(tPNA、コエンザイムQ10(ユビキノン)、その他、シグナル伝達に関与するタンパク質)やコレステロールなど、生体に必須の分子が作られる。

しかしここにある種の真菌毒(アフラトキシンなど)を投与すると、リダクターゼと結合して、その働きがブロックされる。つまり、メバロン酸の産生が停止する。結果、イソプレノイドやコレステロールの産生も停止する。
体にとってこれは一大事である。細胞は小胞体でリダクターゼをより多く作ることで、この異常事態に対応しようとする。
ここからが運命の岐路で、もしこの細胞が膜表面にLDL受容体を発現していれば、細胞内にLDLコレステロールが流入する(結果、血中コレステロール濃度は下がる)。細胞内で産生できなかったコレステロールを細胞外から取り込むことに成功したわけだが、他の代謝も滞っているため、その先のカスケードが進まず、細胞は死ぬことになる(コレステロール毒性)。
一方、この細胞が膜表面にLDL受容体を発現していなかった場合、コレステロールの細胞内流入は起こらない。しかし、メバロン酸の産生停止により、細胞周期を調節するイソプレノイドが不足しているため、細胞は癌化することになる。
「細胞死(アポトーシス)するぐらいなら、癌化してでも生き延びてやる」という、細胞の”意地”だとも思える。しかしアポトーシスも癌も、できれば避けたいものだ。

一体、僕が何の話をしているのか、わかりますか?
コレステロール降下薬の代表格、スタチン系薬剤の作用機序を念頭に置いて話しています。スタチンは、はっきり言って、カビ毒(mycotoxin)そのものだ。カビ毒が有機物(死体も生体も含めて)を分解・腐敗させようとする機序そのものを、「薬効」と称している。カビ毒が流入して機能が破綻しそうになった細胞が、生きようとして必死になって細胞内にコレステロールを取り込む。その結果、「ほら、血中コレステロールが下がって、よかったね」と言っている。
もうね、いい加減こんな茶番はやめにしない?^^;

スタチンの副作用をざっと挙げると、糖尿病、横紋筋融解症、認知症、癌がある。
なぜ、糖尿病が起こるのか?
膵臓のβ細胞は、細胞膜表面にLDL受容体を発現している。つまり、スタチンによって細胞内へのコレステロール流入が起こり(おかげで血中コレステロールは下がるのだが)、β細胞が死ぬ。結果、インスリンが出せなくなって糖尿病になる、という具合だ。
横紋筋融解症や認知症の発症機転も同様だ。筋肉やニューロンにLDL受容体が発現しているせいで、コレステロールの流入により細胞機能が破綻してしまう。
スタチンを取り込んだ細胞が、LDL受容体が細胞膜表面に発現していない(あるいは少ない)場合には、細胞周期の破綻により、癌細胞になる。
副作用として、他にも、体重減少、筋緊張低下、ふらつき、震顫などがある。

当然、製薬会社は研究段階でこういう副作用に気付いていた。
実際、三共は、犬への投与で腸内で血液癌(リンパ腫)が生じたことを報告し、スタチン系薬剤の開発中止を表明した。かつては良心的だったんだね。今ではジェネリックをしれっと売ってるけど。
スタチンの開発には日本人の遠藤章の尽力が大きくて、他の2名(BrownとGoldstein)は1985年にノーベル賞を受賞していることから、遠藤さんのノーベル賞受賞が期待されている。
たとえばこんな記事。
『ノーベル賞候補・遠藤章さん 10年間笑顔で待ち続ける秋田の実家』
https://mainichi.jp/articles/20191018/k00/00m/040/310000c

遠藤さんはスタチンの開発者だから、当然、その毒性についても精通している。
海外メディア(『ウォールストリートジャーナル』)相手だから気が緩んだのか、遠藤さん、こういう発言をしている。
「2004年に受けた検診で、LDLが155だった。スタチンを飲んでもおかしくない数値だけど、薬は飲まずに、頑張って運動して130まで減らしたよ」
「なぜスタチン開発者のあなたが、自分の発明品を飲まないのですか?」という記者の質問に対して、
「日本には、紺屋の白袴という言葉があるんだよ」

自分では絶対飲まないような薬を市場に流通させておいて、それでノーベル賞候補だなんてさ、何かの悪い冗談でしょう?

参考
“PROOF FOR THE CANCER-FUNGUS CONNNECTION”(JAMES YOSEPH著)