2019.10.3
慢性的な痛みに対して、どのようにアプローチすればいいか。
最近経験した症例を紹介しよう(ただし詳細は変えてある)。
50代女性
「3年前に帯状疱疹を発症しました。
左側の太ももから股関節にかけて、かゆい湿疹がでて、皮膚科に行くとすぐに帯状疱疹だと言われました。
塗り薬と飲み薬を処方されて、皮膚症状は1週間くらいで治りました。
でも、痛みは治りませんでした。今も痛いです。波がありますが、ひどいときは歩くこともできません。
歯の痛みと頭痛もあって、最初歯医者に行ったら「初期の虫歯ですが、治しておきましょう」ということで治療を受けました。でも、相変わらす痛いまま。
おかしいと思って、神経内科に行ったら、帯状疱疹後神経痛だと言われました。
足の痛みはもちろん、虫歯だと思っていた痛みも、あと頭痛も、神経節に潜んだヘルペスウィルスが原因だろう、とのことでした。
処方されたリリカを飲んでも、あまり効きません。ペインクリニックで神経ブロックの注射を打てば楽になりますが、このまま一生注射を打ち続けるのかと思うと、暗い気持になります。
ビタミンやサプリで、痛みを少しでも軽減できれば、と思って、ここに来ました」
痛みといえば、CBDオイルか有機ゲルマニウムである。
特に神経系の痛みには、CBDオイルを使いたい。
大麻成分が神経痛に有効であることには多くのエビデンスがあるが、たとえば以下のようなレビューがある(レビューというのは、いわば「論文の論文」で、エビデンスレベルは非常に高い)。
「成人の慢性神経痛に対するカンナビス療法』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6494210/
【背景】
慢性神経痛に悩む人は、人口のおおよそ6〜10%いると推定される。
神経痛に対する一般の投薬治療は、有効性としては限定的で、ごく一部の人にしかメリットがない。しかも多くの場合、メリットより副作用の方が大きい。
慢性神経痛に対して、現行の治療選択肢とは異なる作用機序を持った薬を探し出す必要がある。
カンナビスは古来から痛みの軽減に用いられてきた。患者や医療関係者のなかにも、どのような慢性痛にも著効するとして、カンナビスを支持する声は根強い。
【目的】
カンナビス関連医薬品(ハーブそのもの、ハーブ由来抽出物、合成品)を、プラセボあるいは従来薬と比較し、成人慢性痛患者に対する有効性、忍容性、安全性を評価すること。
【方法】【選択基準】など、省略
【結論】
慢性神経痛患者に対するカンナビス関連医薬品のメリットは、デメリットを上回る可能性がある。
上記患者に、実際にCBDオイルを使ってみた。
使用したのは、臨床CBDオイル研究会(医師・歯科医師だけが入会できる研究会)で購入したオイル(CBD2700mg含有の『CBD pro2700』)である。
1週間後の来院時。
「すごくよく効きました。しかもすぐに、です。
飲んで1時間くらいして、みたいな悠長な効き方ではありません。飲んで数分で、痛みがすっかりなくなっていることに気がつきました。
信じられません。3年間悩み続けた痛みが、3分で消えたんです。こんなことってあるでしょうか。
感動しました。感動して、、、
先生、すいません。1日2回服用、と言われていたところ、初日は6回使ってしまいました。
だって、痛みがなくなるのが、本当にうれしかったので。
私は今まで何をやっていたのか、という気持ちになりました。一時的に紛らわせるだけの薬や注射ばかりに、お金と時間を費やして。もっと早く出会いたかったです」
1日6回服用した、とのカミングアウトには僕も苦笑いせざるを得なかったが、ともかく痛みが軽快したようで、よかった。
「CBDオイルというのは、大麻抽出物だろう。痛みがなくなったものの、今度はCBDオイルに依存してしまうのではないか」と思う人がいるかもしれない。
心配ご無用。
そもそもCBDオイルには酩酊成分(THC)が入っていないから依存性はないし、THCが入っている一般の大麻さえ、依存性は低い(酒、タバコ、砂糖、コーヒーなんかよりはるかに無害)。
CBDオイルは依存性物質であるどころか、アルコール依存症などの依存症に対する治療薬として使える可能性が示唆されている。
https://pdfs.semanticscholar.org/b8b6/d998b62ac9cd38e19c5e64679d1e4a0bbe28.pdf
頭痛、神経痛などの痛みの原因が、内因性カンナビノイドの欠乏によるものであった場合、CBDオイルがよく効く。
その効き方は、上記論文にある「メリットがデメリット上回る可能性がある」どころじゃない。文字通り、劇的に効く。
慢性的な痛みに悩んでいる人は、一度試してみる価値があると思う。
2019.10.1
マグネシウム(あるいはケイ素)の不足によって不眠になっている人がいるとすれば、これを補うことで不眠が治るのではないか。
当然の類推だろう。
しかし、不眠症にマグミットを処方する医師はいない。
やはりポイントは、ケイ素ではないか。
その線で文献を調べてみると、、、やはり、あった。
『公開特許公報(A)_二酸化ケイ素(SiO2)を含む不眠症治療用組成物』
https://biosciencedbc.jp/dbsearch/Patent/page/ipdl2_JPP_an_2009168810.html
日本語文献なので、誰でも読めるだろう。
地殻中に含まれる元素で最も多いのは酸素、次に多いのがケイ素である。
その上位ツートップがくっつたのが二酸化ケイ素で、当然のことながら地球上に極めてありふれた物質だ。
天然には白石英(クォーツ)として産出するが、人工的な合成も容易で、ガラス、乾燥剤(シリカゲル)など、日常生活にもなじみ深い。
しかし、二酸化ケイ素に不眠症改善作用があることを知る人は、あまり多くはないだろう。
マウスを使った動物実験。
二酸化ケイ素投与群、あと、比較のために酸棗仁湯(さんそうにんとう;不眠によく使われる漢方薬)投与群を設定し、睡眠時間を比べた。
結果、二酸化ケイ素は入眠させる効果は大きくはないが、いったん入眠すれば、その眠りを持続させる効果が非常に強かった(逆に、酸棗仁湯は入眠効果は大きいが、睡眠の持続効果はそれほどでもなかった)。
ということは、途中覚醒に悩む人にはうってつけだな。
さらに別の実験。
今度は人を使った研究で、被験者は50〜80歳の女性患者で、「5年以上不眠で、かつ、睡眠に関連する西洋薬、漢方薬及びその他健康機能食品を摂取していない」患者30人。よくこんな人たち30人も見つけたな^^;
このうち8人は、動悸および不安の症状があるが、その他22人は不眠の症状だけ。
さて、彼らに二酸化ケイ素を投与(1日3回、1回あたり3gずつ)し、20日間経過をフォローした。
結果、被験者全員で、熟眠できるようになった。日中は頭がクリアになって体が軽く、疲労感も改善した。
一般的な睡眠薬では、眠っても寝ていないような感覚があったり、日中の眠気、体のだるさがあったりするが、そういった副作用は観察されなかった。
さらに、動悸や不安を訴えていた8人の症状も、全員で改善した。
実に、すばらしい効果だね。
睡眠薬は、こういうふうに、疲労がしっかりなくなって、朝に「あー、よく寝た!今日も一日がんばろう!」っていう眠りをもたらしてくれるものでなくちゃいけない。
でも実際の臨床現場はどうか?
ベンゾ系睡眠薬を常用している患者の表情はどうか?
断言するけど、晴れ晴れした表情の人なんていない。
患者の声を聞いてみるといい。
「ロヒプノールね、よく眠れるんですけど、なんていうかな、眠りの穴に強制的に突き落とされるような感じがするんです」
「普通の眠りって、意識が徐々にフェードアウトしていく感じでしょう。でもベンゾ系の眠りは、パソコンの強制終了って感じです。画面が一瞬にしてブラックアウト、みたいな」
「眠った、という感じじゃないんですね。意識が落ちていた、といえば近いかな。すっきりなんてしませんよ。普通に眠れればそれが一番ですよ、もちろん。でも、ベンゾを飲まないと明日の仕事に差し支えるから、仕方なく飲んでいるんです」
ベンゾは、眠りの質がよくないだけじゃなく、依存性と耐性も怖い。
「結局効かなくなるし、しかもそれなしではやっていけなくなる」ってさ、怖すぎるでしょ。
薬としては完全に破綻してると思う。いわゆる「クスリ」「ヤク」っていう意味なら通るだろうけど。
本来こんなものが当たり前に処方されては、いけないんだ。
なんとか他の手段はないだろうか。多くの研究者が安全な不眠症治療薬を作ろうとしている。
ヒントは、足もとにあった。土のなかに最も多く存在する成分、二酸化ケイ素こそ、眠りの問題を解決するヒントだったとは、おもしろい。
ただし、上記文献は2010年の韓国のもので、その後二酸化ケイ素を使った睡眠薬が製薬として実際に開発、処方されているのか、そのあたりの事情はわからない。
また、二酸化ケイ素ではなく、一般に市販されているケイ素のサプリで不眠症が改善するのか、そのあたりはわからない。エビデンスのある論文を見つけることはできなかった。
ホメオパシーでは不眠のレメディにケイ素が使われるというけど、これにエビデンスがあるかといえば、ちょっとわからない。
不眠に悩んでいるからといって、乾燥剤のシリカゲルを食うわけにもいかない^^;
とりあえず、ケイ素が体にいいことには多くのエビデンスがあるから、「これで眠るんだ!」などとあまり強い期待はせず、おまじない程度の気持ちで飲めばいいと思います。
2019.9.30
生体内のミネラルは、大まかには二種類ある。
マクロミネラルとマイクロミネラルだ。
前者は体内に比較的大量に存在する。例としては、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなどがある。
後者は少量存在する。その重要性が「マイクロ」というわけではない。それどころか、欠乏すれば様々な不調を引き起こす。
例としては、鉄、亜鉛、セレン、銅、ケイ素などがある。
ミネラルの相互作用として、マグネシウムとカルシウムの関係がよく知られている。
たとえば筋肉において、カルシウムは収縮を、マグネシウムは弛緩を引き起こす。
収縮と弛緩。
真逆の作用を引き起こすという意味で、両者は拮抗関係にあるといえる。
しかし筋肉を動かす際には、収縮しっぱなし、あるいは弛緩しっぱなし、ではダメで、どちらも必要な作用である。
そういう意味では、「拮抗」というよりは「共同」というほうが適切かもしれない。
カルシウムは電源オンのボタンだとすると、マグネシウムはオフのボタンだ。
マグネシウムが欠乏すると、体は電源をオフにできなくなる。つまり、電源オンのままで、延々休まらない。
「夜、なかなか寝付けません。やっと寝れても、途中で何度か目が覚めます」
「寝てるときにこむらがえりがよく起こります」
「頭にモヤがかかっているようです。集中力とか記憶力が落ちました」
電源の落とし方がわからなくなっているんだ。
こういう患者を見れば、まずマグネシウム欠乏を疑う。
休めなくなると、体はどうなるか?
たとえば、体内の毒物をうまくデトックスできなくなる。
(ちなみに「デトックス」などという医学用語はない。「そんな不正確な表現を使うな」とオーベンに怒られる言葉だ。でも便利な言葉だから、僕は使うけどね)
蓄積した疲労物質がウォッシュアウトされず、朝起きた直後から体が疲れている、といったことが起こる。
カルシウムがエネルギー(ATP)を消費するミネラルだとすると、マグネシウムはエネルギーを作り出すミネラルだ。
ミトコンドリアがエネルギーを産生するにあたって、マグネシウムはそのプロセスで不可欠な栄養素のひとつだ。
つまり、マグネシウム欠乏は、エネルギー欠乏を引き起こす。
他にも、骨や歯の形成、血糖調整、インスリン感受性、アルコール代謝にも関わっている。
体内のマグネシウムが十分か不足しているかは、採血ではわからない。
なぜか?
マグネシウムの体内分布を考えればいい。骨に50%、筋肉に25%、残りが軟部組織に存在する。血中に存在するのはたったの1%だけ。
不足すればすぐに骨や筋肉から供給されるから、血中のマグネシウムを測定しても臨床的意義はあまりない。
逆に、マグネシウムの生体利用率が低下している場合、血中マグネシウムは正常なのに、骨や筋肉にマグネシウムがうまく取り込まれない可能性もある。
マグネシウムは、筋肉に入ってこそ、細胞の中に入ってこそ、弛緩作用が発揮される。
「症状からみてマグネシウム欠乏だと思い、マグネシウムのサプリを飲み始めました。でも正直、いまいち効果を実感していません」という人がいる。
こういう人は、恐らくマグネシウムの生体利用率が低下している。せっかく摂ったマグネシウムが、単に血管のなかを流れているだけで、細胞の中に入っていない。
どうすればいいか。
どうすれば、マグネシウムの生体利用率を高め、マグネシウムにしっかり仕事をさせることができるのか。
ケイ素、がポイントである。
ケイ素には、ミネラルの利用効率を高める作用がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7688524
論文中、「ケイ素を経口投与したマウスでは、血中マグネシウム濃度が低下、カルシウム濃度が上昇した。一方、組織中のカルシウム濃度が低下し、マグネシウム濃度が上昇した」とある。
どういうことかわかりますか?
組織のなかにしっかりマグネシウムを送り込むことができた、ということだ。
同時に、組織からカルシウムの沈着を抜くことができた、ということだ。たとえば動脈からカルシウムが抜けるということは、動脈硬化の改善そのものだ。
さらに、ケイ素はアルミをキレートする作用があるし、ケイ素自身、骨に入って骨質を強化する作用もある。
マグネシウム代謝には、セレンも重要という指摘がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8054261
なぜか流産してしまう女性が対象の研究。4か月間経口でマグネシウム(1日600㎎)を摂ってもらったが、赤血球中のマグネシウム濃度(RBC-Mg)が全然正常化しない。
なぜだろう、ということで、赤血球中のグルタチオン・ペルオキシダーゼ活性(RBC-GSH-Px)を調べたところ、対照群と比べ有意に低かった。
そこでセレン(セレノメチオニン200μg)とマグネシウムを2か月間同時に投与すると、全参加者でRBC-MgとRBC-GSH-Pxが正常化した。
これらの参加者は8か月以内に全員妊娠し、正常な赤ちゃんを産んだ。
メガビタミン療法はあり得ても、メガミネラル療法はあり得ない。
鉄や亜鉛などは、過剰摂取の害が報告されているから、漫然と長期摂取してはいけない。
しかしマグネシウムやケイ素に関しては、その点はほとんど心配ない。
マグネシウムを摂りすぎてもせいぜい下痢をするぐらいで、この副作用はむしろ便秘の人にとってはありがたい主作用だ。
Hofferの本を読んでいると、マグネシウムには多くのページが割かれているが、ケイ素については言及さえしていない。
そういうこともあって、僕も含めHofferで栄養療法を学んだ人は、ケイ素の重要性を見落としていると思う。
自戒の意味も込めて、ケイ素の重要性は声を大にして言いたいんだな。
2019.9.29
周期表ではケイ素の下に、ゲルマニウムがある。
ゲルマニウムについては以前のブログで何度も紹介したが、これも健康のためにオススメしたい元素だ。
化学的にケイ素とゲルマニウムがくっついたシリコン-ゲルマニウム合金は、IC(集積回路)に使われるなど、工学的に重要だ。
ゲルマニウムについても、RDIは確立していない。しかし、以下にあげる論文のように、ある種の骨の疾患にかかる人では、ゲルマニウムの血中濃度が低いことがわかっている。
『カシン・ベック病患者におけるセレン、ホウ素、ゲルマニウムについて』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11204461
カシン・ベック病(KBD)に罹患した幼児の毛髪、KBD頻発地域に住む健常児の毛髪、非KBD頻発地域に住む健常児の毛髪を採取し、そこに含まれるセレン、ホウ素、ゲルマニウムの濃度を測定した。
KBD 罹患児の毛髪中では、セレン、ホウ素、ゲルマニウムの平均濃度が低かった。
KBD頻発地域に住む健常児の毛髪では、セレン濃度は正常だったが、ホウ素とゲルマニウムが、KBDのない地域の健常児の毛髪よりも低かった。
毛髪中のホウ素、ゲルマニウムの濃度は、セレンのサプリを摂取しても影響しなかった。KBD発症の病因として、ホウ素とゲルマニウムの不足が関連している可能性がある。
マウスの食事にホウ素を入れるか入れないかで、骨の強度が全然違ってくる、という研究もある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27908411
骨の健康には、ホウ素やゲルマニウムも意識して摂るといいだろう。
ゲルマニウムの下の元素はスズ(tin)だ。
スズは、個人的には何となく有害ミネラルのイメージだったが、意外にも、これもやはり生体にとって必要なトレースミネラルだという。
https://www.healthknot.com/tin.html
副腎の働きをサポートしていることが知られていて、スズが不足すると副腎機能が低下し、結果、心機能が低下する。その他にも、喘息などの呼吸困難、疲労、うつ病との関連が指摘されている。
なんと、スズのサプリメントまで売られている。これには驚いたな。
https://phpure.com/angstrom-minerals-tin-100ppm-8-fl-oz
スズの下は、重金属として悪名高い鉛だ。
周期表を見てもらえばわかるように、鉛の近隣には水銀とかタリウムとか、いかにも毒っぽい金属がずらりと並んでいる。
鉛の毒性で有名なのは、知的障害だろう。鉛の曝露量が多いほど、IQが低いことがわかっている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1367853/
鉛はヘモグロビン合成を阻害する。赤血球の産生が停滞し、貧血の原因になる。
一般に、血流と神経はワンセットだ。この点は、水道管と電線が家の基本的インフラであるのと似ている。
血の巡りが悪いと、神経系も不調になるし、逆もまたしかりだ。
鉛の影響で知能が低下する背景には、鉛の血液毒性によるものだと考えても間違いではないだろう。
逆に、有機ゲルマニウムによって知的障害が改善することを以前のブログで紹介した。
これは、ひとつには、有機ゲルマニウムの造血促進作用による。古い赤血球を壊して、新しい赤血球を生み出す代謝プロセスが促進され、血流がよくなる。
もうひとつは、同族元素の競合による作用。ゲルマニウムは鉛と同じ14属元素である。ゲルマニウムの摂取によって、鉛が追い出されることになる。同様の作用はケイ素にもあり得るだろう。
2019.9.29
化学の授業で、周期表を見たことがあるだろう。
14属元素に注目すると、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、と続く。
同族元素は最外殻電子の数が同じで、化学的性質が似通っている、と学校で習う。
炭素は有機化学の花形で、水素や酸素とともに、生命を構成する中心的な元素だ。
一方、そのすぐ下にあるケイ素は、有機化学での扱いは軽い。
どちらかというと、鉱物や無機物を構成することが多い元素で、無機化学の登場キャラ、といった感じだ。
「炭素を生命の元素だとすると、ケイ素は死の元素だ」という人もいる。
どちらも手の数が同じ(最外殻電子の数が4個)なのに、一方は生命を司り、他方は死を司るという、真逆のイメージで語られている。
SFものの小説や映画では、炭素の代わりにケイ素からなる『ケイ素生物』がしばしば登場する。
しかしこういう生物は化学的にあり得ないと言われている。
炭素は手が4本あって、単結合だけではなくて二重結合とか三重結合とか、わりと自由に結合できるが、ケイ素は基本的には単結合しかとれない。
さらに炭素がグラファイト(黒鉛)、ダイヤモンドのような平面構造だけでなく、フラーレンのような球状構造までとるのに対し、ケイ素はせいぜいダイヤモンド構造をとるくらい。
炭水化物、脂質はもちろん、アミノ酸を作ることができるのも、炭素のある種の「身軽さ」のおかげで、そういう炭素に比べて、ケイ素はいかにも柔軟性がなさすぎるんだ。
ケイ素は地殻に含まれる分子のなかで、酸素に次いで2番目に多い元素である。つまり、地球は「酸素の星」であると同時に、「ケイ素の星」といっても過言ではない。
しかしこんなに豊富にある元素でありながら、生命を構成する要素としてはマイナーな印象だ。
せめて炭素のようにメインを張る元素でなくとも、鉄が赤血球に利用されるように、マグネシウムが葉緑体のクロロフィルに利用されているように、ケイ素が生体にもっと利用されてもいいところだが、ケイ素といえば何、とイメージが浮かぶ人はあまりいないだろう。
RDI(アメリカの栄養摂取基準)も定められていないケイ素だが、しかし、生体にとって必須の微小ミネラルだ。
それは、組織を分析してみればわかる。骨、腱、動脈、肝臓、腎臓など、ケイ素を含む臓器は数多い。体は、必要があるからこそ、ケイ素を取り込んでいる。
「君がいなくなって初めて、君が僕にとって大切な人なんだと気付いた」
何かのドラマにありそうなセリフだが^^;、一般にある物質が必要であるかどうかは、それを抜いてみてどうなるかを観察してみればいい。
不要なものなら、何ら問題は起こらないだろう。しかし必要なものであるなら、異常が現れる。
ケイ素欠乏食を与える研究では、頭蓋骨、四肢の骨の変形、関節形成不全、軟骨量、コラーゲン量の減少、大腿骨、脊椎のミネラルバランスの破綻といった症状が確認されている。
逆に、過剰に摂取させればどうなるか。現在のところ、水溶性ケイ素の過剰摂取による毒性の報告はない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17435951
「摂るメリットしかない栄養素」といっても過言ではないだろう。
特に骨への影響は大きい。骨粗鬆症予防には、カルシウムではなくケイ素(とマグネシウム)の摂取を心がけるべきだ。