2018.10.12
「いやー、あつし、急に来たねぇ」
と僕の額をしみじみ見ながら、友人が言う。
変に隠すのって嫌で、何なら見せつけてやろう、ぐらいのつもりでいたから、こうやってごうちゃんにいじってもらうのは、むしろ僕の望むところだった。
「えー、ほんまかー、全然来てないやろー」とか言いながら手で髪かきあげて、あえて局所をさらしてやる。
「うわ、ほんまにヤバいやんか!」ってごうちゃんが目をむいて驚く反応見て、僕はニヤニヤ笑っている。
遺伝的には、僕は間違いなく来るタイプだ。
父は二十代前半からすでに来ていたというし、母方の祖父も若くから丸ハゲだった。
血統的には、まず文句なしに、ハゲのサラブレッドと言っていいだろう。
だから、親父は不思議がってた。
「お前いまいくつや。38か。頭、全然来てへんなぁ。俺がお前の年のときには、もう隠しようもないほどやったぞ」
そう、それが不思議なのは僕にとっても同じで、なぜハゲないのか、僕自身にも理由がわからなかった。
仕事柄、栄養に気をつかっていて、自分なりにいろいろやっているから、それが髪にも何らかのプラスの影響を与えているんだろうな、とは漠然と思っていた。年の割に若く見られることが多くて、年齢をいうと驚かれるんだけど、それも栄養療法のおかげだと思っていた。
ただ、オーソモレキュラー療法の両巨頭、ポーリングやホッファーのことを思うと、幾分暗い気持ちにならなくもない。
ポーリングやホッファーの画像を検索してみてください。
両先生とも、自らオーソモレキュラー栄養療法を実践していて、90歳を超えてなお、クリアな思考を保った一流の学者であり続けた。しかしみなさん、彼らの髪の毛を見て、どうですか。
そう。残念な感じなんです。
ホッファーとソールの名著”Orthomolecular Medicine for Everyone”には、様々な症状に対していかに栄養が奏功するか、症例を交えて紹介されているが、「薄毛」の症例はない。
ただ、「ビタミンEは白髪に対して有効で、自分もホッファーもビタミンEのおかげで黒髪を保ってる」ってソール先生、書いてたけど、僕が東京でソール先生と会ったときには、彼、きれいな白髪の紳士って感じで、黒髪ではなかった。まぁ、ハゲてないだけマシか。
僕は毎日だいたい同じようなものを食べ、同じような生活スタイルで過ごしている。しかもストレスはほとんど感じていない。開業して自分のやりたいスタイルの医療を実践できて、こんなに幸せなことはない。
勤務医の頃は出したくもない薬を出さないといけないことが苦痛で、確かにストレスを抱えていたけど、別にだからといってストレスが髪の毛に来るということもなかった。
しかし、ここ数ヶ月で、急激に来た。
遺伝的には必発の家系なんだ、俺もいよいよ年貢の納め時か、という思いはいつもあるから、別段ショックではない。「男の魅力は髪型じゃない。ハゲてからが勝負よ」なんて強がってみるが、とはいえ、枕についた抜け毛を一本、二本と数えながら、あまりの多さに途中で数えるのにうんざりしてしまうぐらいの多さなんだ。
なぜだ。
原因は、絶対にあるはずだ。
思い当たることがいくつかある。
まず、筋トレを始めたことだ。
ほとんど毎日ジムに通っている。肉体改造を楽しむ、なんていう習慣は、今までの僕のライフスタイルにはないものだった。これが頭髪に影響していることは間違いないだろう。
生理学的な機序を考えても明らかだ。運動によって、テストステロンの血中濃度が上昇する。テストステロンは5α還元酵素の働きでジヒドロテストステロンになり、体に様々な影響を与える。筋肥大、意欲向上(集中力、食欲、性欲も含め)など、プラスの影響もあるが、過剰になっては頭髪や前立腺に好ましくない影響を与える可能性がある。
それからもう一つ。
僕は長らく習慣的に亜麻仁油を飲んでいたんだけど、あるとき、飲み切ってしまって、また買おうと思いつつも、何となくそのまま飲まないでいたのだ。飲むのをやめたのが、やはり数ヶ月前だった。
オメガ3系の油は現代人に不足しがちで、抗炎症作用がある。
病気とは何か。ざっくり「炎症のことだ」と言ってしまってもいいぐらいなもので、抗炎症作用のある亜麻仁油や荏胡麻油は、そういう意味で、どんな病気の人にもオススメできる。
筋トレするということは、負荷によって筋繊維を一旦壊して、再度タンパク質を組み込みつつ復活することで筋肥大させるということだから、このプロセスには必ず炎症を伴う。
つまり僕は、筋トレという炎症を起こす習慣を始めると同時に、亜麻仁油という炎症を鎮める習慣をやめていたわけだ。ハゲ地獄へのアクセルを踏み込み、かつ、ブレーキを踏むのをやめる形になっていたんだな。急激な抜け毛の原因はそこにあったのだと思う。
亜麻仁油が毛に有効というのは、エビデンスもあるよ。
https://www.researchgate.net/profile/Sihem_Halmi2/publication/283730350_Effects_of_Linum_usitatissimum_L_ingestion_and_oil_topical_application_on_hair_growth_in_rabbit/links/5645ede808aef646e6cd843d.pdf
動物実験なんだけど、亜麻仁油(局所塗布でも飲用でも)によって、有意な効果(毛の長さ、太さ、量)があったという論文。亜麻仁油に含まれるαリノール酸が5α還元酵素の働きを抑えるから効くんじゃないか、とのこと。
さらに、薄毛にはsaw palmetto(ノコギリヤシ)が有効だということもわかっている。(https://www.liebertpub.com/doi/abs/10.1089/107555302317371433)
これは動物実験じゃなくて、人を使ったRCTだから、エビデンスレベルはもっと高いよ。AGA(男性ホルモン型脱毛症)の人をノコギリヤシ投与群とプラセボ群に分けて実験したら、はっきり有意差が出た。機序としては、やはり、5α還元酵素を抑えることでジヒドロテストステロンの活性を抑えるという話。
作用機序としてはフィナステリドと同じだけど、薬には副作用も多いから、亜麻仁油やノコギリヤシ飲んで毛が生えてくるなら、そっちのほうが断然いいよね。
薄毛の原因は、ざっというと、血流、ホルモン、免疫、このどれかだ。
たとえば薄くなるにしても、生え際のMの部分とか頭頂から来る人がほとんどで、側頭部や後頭部から来る人はほとんどいない。これは、側頭部や後頭部には筋肉があるからで、筋肉は血流が豊富だからこのあたりの頭皮にも栄養が保たれて、ハゲないんだ。でも円形脱毛症は免疫が関与してるから、10円ハゲみたいなのは割と部分を問わずどこにでもできる。
薄毛には血流の改善が大事で、ホルモンの関与は比較的低いんじゃないかと思っていたけど、調べてみると意外にホルモンって大事なんだな。
筋トレは相変わらず継続しながらも、亜麻仁油を復活し、ノコギリヤシのサプリを摂り始めたら、抜け毛は見事に止まった。朝、枕に残る抜け毛もなくなった。
もう亜麻仁油はやめられへんなぁ。
2018.10.6
松下幸之助が現役バリバリの社長として辣腕をふるっていた頃、パナソニック入社希望者の最終面接で、彼が最後に必ず聞く質問があった。
「あなたは自分が運のいいほうだと思いますか。運のないほうだと思いますか」
みなさんならどう答えますか。
妙な謙遜から、「いや、頑張ってはいるのですが、正直ついてないほうだと思います」なんて答えようものなら、幸之助、その志望者を遠慮なく落とした。
本来最終面接というのはそこまで行った時点で9割方採用が決まっている。
社長への顔見せ、ご挨拶という儀式的意味合いが強いのだが、この『幸之助の質問』、肝を冷やす思いで聞いているのは採用人事の担当者である。
理系の優秀な若手技術者を引っ張ってきても、答えよう次第では本当に不採用になるのだ。
「この志望者、偏屈な性格だからやばいな」という人には、こっそり事前のレクチャーがあったとか笑
「自分は運がない」と答えた人を、なぜ落とすのか。
「日本に生まれ、親に育ててもらって、義務教育ばかりか大学まで行かせてもらっている。
自分がどれだけ恵まれているか、その幸運に気付くことも感謝することもできない。そんな傲慢な人間は、うちには要らない」
そういうことだと思っていたんだけど、ちょっと違うらしいんだ。
僕のいとこの一人がパナソニックに勤めてるんだけど、彼いわく、
「うーん、自分が運のいいことに気付き感謝する、っていう、そういう倫理的な意味合いとはちょっと違うんだな。
ささやかなことにも幸せを感じることができる、いわば「たるを知る人」を社員として欲しいわけじゃない。
幸之助が欲しいのは、誰が何と言おうとどんな状況だろうと「自分は強運なんだ」と信じられる人。こういう人こそ、パナソニックにふさわしいと考えた。
だって考えてもみなよ。
パナソニックには『幸之助の質問』をくぐり抜けて入社した人しかいない。つまり、自分の強運を信じる人の集団なわけだから、強運な会社になるに決まっている。
幸之助は何よりもまず、経営者であり、強い会社を作りたかった。『幸之助の質問』はその思いを実現する人材を選り分けるための質問なんだな」
なるほど。
ただ、感謝っていう要素も必要なんじゃないの?
自分の置かれた状況に感謝し、強運であることを喜ぶ。現状の肯定と同時に、さらなる飛躍への努力を重ねる。
そうやって自分の強運を信じて戦い続ける人にこそ、幸運の女神はほほえむ、ということだろう。
ここには人生の知恵があると思う。
しかし、これは怠惰な人にはちょっとした危険思想でもあるだろう。
「自分が運がいいと信じていれば、本当に運がよくなるんだ」と短絡的に考えて、当たる当たると信じながら宝くじ何枚買ったって、永遠に当たらないだろう笑
感謝すること、努力すること、信じること。
この三つの歯車がかみ合えば、人生はだいたいうまく行くような気がするな。
いや、別に僕の人生が成功している、とは言わないよ。まだまだ人生の道半ばで、日々何かしら戦っているような感じだ。
「根拠なんてなくていい。とにかく自分が強運なんだと信じるんだ」
僕はわりと理屈で考えるほうだから、こういう思い込みって、なかなか持てない。
パナソニックの採用試験を受けて、いきなり『幸之助の質問』に出くわしたら、多分、答え方をミスって不採用だと思う笑
2018.10.2
「読み、書き、そろばん」という。
義務教育で習得しておくべき教養のエッセンスだ。
読み、書きについては、日本語についてはもちろん、英語の読み、書きも求められる時代かもしれない。
そろばんについては、計算機の発達した今日、生活での実用性はほとんどない。
しかし、意外なことに、町のそろばん教室は近年むしろ盛況だという。
そろばんによる教育効果(暗算力、集中力など)を期待する親が、子供に習い事として勧めるのだ。
確かに、公文とか計算方法の暗記ばっかりのところに行かせるより、そろばんを通じて位取りの概念になじんだり10進記数法というものに対して意識的になることのほうが、理系的センスが育つと思う。
これにはすでに研究があって、そろばん経験のある子、そうでない子で算数の問題に対する正答率を比較したところ、そろばん経験のある子のほうが有意に高かった。
(http://ftp.recsam.edu.my/cosmed/cosmed05/AbstractsFullPapers2005/files%5Csubtheme1%5CCBL.pdf)
理系的センスは文系の人にも必須だと思う。
「自分は根っからの文系人間だから、理系的センスはいらない」と開き直っている人って、そもそも学問自体にあんまり向いてないような気がする。
学問って、どんな学問でもそうだと思うけど、論理の積み重ねでしょ。国語も歴史も経済も、みんな結局のところ、ロジックの体系だ。
だから、論理の運用に不慣れっていうのは、そもそも勉強に向いてないんじゃないかな。
でも、だからといって悲観することはない。そういう人は、芸術系とか感性の世界で自分を磨いて勝負すればいい。料理の腕を高めたり、理容師の技術を身につけたり、絵や音楽、映像で自分を表現したり。
自分のセンスを仕事にして、大成功している人も世の中にたくさんいる。
誰しもが当たり前みたいに大学に行って、当たり前みたいに就活して、っていう時代だけど、そもそも勉強に向いてない人、つまり大学に行ってもあんまり意味のない人って絶対いると思うんだよなぁ。
そういう多数派が行く無難そうな道よりも、専門学校とかで職業に直結した技術を身につけるほうが、人生の生き方としておもしろいんじゃないかな。
さて、そろばんの話。
そろばんって、幼い頃から長年やりこんでいると、頭の中にそろばんの玉がイメージできるようになるんだね。
将棋のプロ棋士は頭の中に将棋盤を再生して、棋譜をイメージできるっていうけど、そろばんの名人も頭の中のそろばんを使って、普通の人からすれば考えられないような複雑な計算を一瞬でできたりする。
足し算だけじゃなくて、加減乗除、全部そろばんでできちゃうし、もっと達人になると、開平法(2乗根)、開立法(3乗根)までできる。
しかも、下手すればその暗算のほうが計算機より早かったりするんだから、人間の能力って恐ろしいな。
1946年GHQの占領下にあった日本で、逓信省に勤務するそろばんの達人(松崎喜義)とアメリカの最新の電動機械式計算機とのあいだで計算勝負が行われ、4対1でそろばんが勝ったという。
敗戦国のそろばん名人が戦勝国の最新マシンに一矢報いた格好だ。
さらに、日本のそろばん名人とアメリカの戦いといえば、もう一つ。
みなさん、ファインマンって知ってますか。
量子電磁力学の大成者と言うべき人で、ノーベル物理学賞を受賞した天才なんだけど、この人、31歳のとき(1949年)にブラジルに旅行してて、そこで日本人のそろばん売りと出会った。
その人の名前は記録に残っていない。あちこちでそろばんの便利さを説いて、買ってもらうのが彼の仕事だった。
あるレストランで、店主に「いくつでも数字を言ってください。誰よりも早く計算しますよ」と言った。負けて面目をつぶされたくない店主は、たまたまレストランに居合わせたファインマンを示した。
「あの人と計算勝負してごらんなさい。なかなか手ごわい人ですよ」
第二次大戦後、地球の裏側のブラジルで、日本のそろばん名人とアメリカの誇る俊英ファインマンが、双方のプライドを賭けて戦うことになったわけ。
どちらが勝ったと思いますか。
足し算ではそろばん売りの圧勝だった。単純な加法ではさすがのファインマンも才能の発揮しようがなかった。
「掛け算でも勝負しよう」そろばん売りは勝利の余韻に興奮して言った。
ファインマン、掛け算でも負けた。しかし足し算ほどの完敗ではなく、いい勝負だった。
「今度は割り算だ」ここがそろばん売りの誤りだった。計算が複雑になるほどファインマンの勝機が大きくなることに、彼は気付いていなかった。
双方、必死で長い計算をしたが、結果はドローだった。
そろばんには絶対の自信のある男である。目の前の男が物理学の歴史に名を残すほどの天才であることを知らない彼には、ドローという結果は不本意極まりないものだった。
「三乗根で勝負だ!」復讐の念を込めて叫んだ。
彼は紙に無作為に数字を書いた。その数字をファインマンは克明に覚えている。1729.03。
ランダムに書いた数字だったが、この数字を選んだことが、そろばん売りの最大の敗因だった。
必死の形相でそろばんをはじく日本人を尻目に、ファインマンは紙にまず12と書き、しばらく考えて、12.002と書いた。
見事に正解。
店主は言った。「ほら、この人、そろばんなしであなたに勝っちゃったね。そろばん、買わないよ。帰ってね」
そろばん売りは屈辱をこらえながら、店を去っていった。
(https://www.ee.ryerson.ca/~elf/abacus/feynman.html)
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』から僕がテキトーに訳しました。
なぜファインマンはすぐに答えられたのか。
これはそろばん売りの数字のチョイスが不運だったとしか言いようがない。
アメリカ人ってフィートとインチをよく使うから、ファインマンは1立方フィートが1728立方インチであることを知っていた。だから、まず、ざっと12だろうと見当がついた。
さらに、「1よりわずかに大きい数の 立方根は, その超過分の 1/3 だけ 1 より大きい」(テーラー展開そのもの)ことを利用して、小数点以下の数字を計算した。
(ちなみに1728はラマヌジャンの「タクシー数」1729=1^3+12^3=9^3+10^3にも近くて、こういう偶然もおもしろい。)
ファインマンは原爆開発プロジェクト(マンハッタン計画)にも参加してて、日本人としてはちょっと複雑な心境になるんだけど、youtubeにあがってるこの人の動画を見ると、授業が学生から大人気だったっていうのがよく分かる。
頭のよさがずば抜けているのはもちろん、人間的にも魅力的な人なんだな。
その点、ノイマンなんかはとにかく頭のいい人だけど、人間的な魅力としてはパッとしない。それに彼、原爆投下の目標地点として京都を強く推した。「京都が日本国民にとって深い文化的意義をもっているからこそ殲滅すべきだ」と。頭がいい人だけに、敵国のいじめ方、心の折り方もよくわかっている。怖い人だね。
2018.10.1
ジムには「化け物」がたくさんいる。
つい、怖いもの見たさで、チラチラ見てしまう。その化け物たちにしたところで、見られることは歓迎で、肌の露出の多いランニングシャツなんか着て、重いバーベル挙げながら雄叫びをあげてたりする笑
憧れる?
いや、憧れはしないな。
「なるほど、人間の筋肉というものはこういうふうにつくのか」という医者としての目線が半分、「ああいう筋肉を身にまとって人生を生きるというのはどういう気分なのだろう」という好奇心が半分、といったところか。
全国大会で上位入賞経験があるとか、トップレベルのボディビルダーも珍しくない。
ほぼ毎日ジムに通っているものだから、何人か話す人もできた。
主に僕のほうから話しかける。
「すごい僧帽筋ですけど、背中にきかせるのに一番のトレーニングって何ですか」
「腕太いですねぇ。食事にも気を使われたりしてますか」
とか、何でもいいからさりげなく話しかけてみる。
みんな、自慢の肉体美を人に見せたくて仕方ない、できることならシャツも脱いで裸でトレーニングしたい、と思っているぐらいの人種だから笑、こういうふうに質問交えて話しかけると親切に答えてくれる。
「腕を太くしたいのなら、腕をトレーニングすればいい、って思うだろ?それはね、近道のようで遠回りなんだ。
たとえばバイセップ(上腕二頭筋)を鍛えるためにアーム・カールを高負荷で限界回数やりこんで、それを1日3セットとか繰り返す。
なるほど、それだけでも3か月も続ければずいぶん太くなるだろうが、能率が悪いと言わざるを得ないね。
そう、能率って大事だよ。僕らボディビルダーのこと、脳味噌まで筋肉でできてる筋肉バカって思ってる笑?
全国大会に出るようなボディビルダーはね、例外なくクレバーだよ。がむしゃらに頑張るんじゃない。
どのように筋肉を追い込めば、最も効率よく筋肉がつくのか。そのあたりの理論はすごく大事だ。トップレベルのボディビルダーに、理論を軽んじている人はいないはずだ。
上肢の筋肉をつけたいなら、下肢のトレーニングを怠ってはいけない。これ、鉄則だね。
バイセップのトレーニングの直前に、足のトレーニング、たとえばスクワットとかニー・エクステンション、レッグ・プレスをやっておく。
すると、その後でやるアーム・カールの効果が俄然違ってくる。
なぜなら、足のトレーニングによってテストステロンや成長ホルモンの分泌が急速に促進されるからだ。
筋肉は上肢よりも下肢のほうが総じて大きいだろう?下肢の筋肉を最初にある程度いじめておいて、血中のホルモン濃度を高めてから、きかせたい上肢のトレーニングに取り組む。
これが能率を重視した鍛え方だよ。
たとえばアーム・カールだけを1日3セットするのと、ニー・エクステンションを1セット、アーム・カールを1日2セットするのとでは、後者のほうがバイセップの筋肥大ははるかに大きいはずだ」
筋肉のことについては、学者よりもボディビルダーのほうが詳しい面があるかもしれない。
たとえばこんな論文。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/ijshs/2/0/2_0_111/_pdf)
著者に名を連ねている石井直方先生は東大の先生であり、かつ、日本選手権で優勝経験のあるボディビルダーでもある。
理屈だけこねまわしている学者よりも、筋肉の何たるかを身をもって知っている選手のほうが実感を伴った知識を持っているのはある意味当然で、そういう選手が学者になっちゃえば、話は早いね。
たとえばボディビルダーが好んで飲むサプリメントに、Dリボースとかクレアチンというのがあるんだけど、これ、最初に注目したのは学者じゃなくてボディビルダーらしいんだ。
ボディビルダーの間で筋肥大に効くと広まり、それを後追いする形で学者が検証して、その効果を裏付けるエビデンスが出た、という格好なんだ。
そういう具合に、ボディビル業界では実践と理論の相互作用が活発で、実践からのフィードバックを受けてトレーニング理論が年々進化している。
たとえば筋トレ後の糖質摂取の是非について、以前は「絶対摂るべき」とされていたが、最近では「たんぱく質の摂取で充分であって、糖質摂取は蛇足だ」という説が支持を集めつつある。
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27993175)
ちなみに、筋トレする以前から、ロディオラというハーブを飲んでて、患者に勧めることもけっこうあるんだけど、これが筋トレにも有効だという論文を見つけたよ。
(https://www.hindawi.com/journals/omcl/2017/8024857/)
ロディオラによって運動量の増加、ストレス耐性の増加が可能であることは先行する研究から分かっていたんだけど、その機序は不明だった。ネズミの実験によって、ロディオラの投与により有酸素運動時の運動量が増大し、骨格筋、心筋のストレスが改善することを確認した。本研究により、有酸素運動時のロディオラ摂取によって、マイトファジー(傷害を受けたミトコンドリアを細胞内から除去する仕組み)が起こり、骨格筋および心筋でのミトコンドリア合成が活性化することが示された。
ロディオラがなぜ効くのか。ミトコンドリアの数を増やすからだ、というのがこの研究の答えで、なかなか意味のある論文だね。
ジムに通っているけど、何か具体的に明確な目標があるわけじゃない。
「ボディビルの大会に出て、上位入賞を目指したい」なんてとても思わないし、「女の子にもてる体になりたい」とも別に思わない。
別段目標もないのに、この3か月、ジムに通い続けている。
目標がないのだから、能率を追及する必要もないんだよね、実際のところ。
ただ、変化を楽しんでいるんだ。
この3か月、確かに体が変わった。食事量が増えたし、足が太くなって履けないズボンが出てきた。
トレーニングによって向上するのは知能も同じはずだけど、知能の変化は目に見えない。
でも、体の変化はモロに現れて、はた目にはっきり分かる。
そういうのって、何とも言えない楽しさがあるよ。
2018.9.30
「台風の影響で、9月初旬に関空が運休したけど、それに続いて今日も関空は止まってる。前の台風では高潮による被害もあって、滑走路が冠水して復旧するのに大変だったけど、今回は大丈夫かな。
関空の建設前からずっと言われてたことなんだけど、あの空港、立地としてはかなりやばいんだ。地盤の脆弱さとか、津波の危険性とかね。
そもそも知ってるかな。関空って、陸の孤島なんだ。
泉州沖の、海岸から5キロのところに作られた人工島。
前回の台風では、本土と島を結ぶ唯一の連絡橋がダメになったせいで、600人以上の人が空港に取り残されて、何日もそこで過ごすことになった。
こういうことがあると思い出すよね。やっぱりあそこは陸の孤島なんだと。
大がかりな建設工事ならどの工事もそうだけど、着工前に地質調査をする。で、その調査で分かったことは、泉州沖一帯は、柔らかい泥が長年積み重なってできた地質なんだ。
こういう粘土層の上に、人工島という巨大な建築物を作ればどうなるか。
圧密っていう現象なんだけどね、地盤の上に荷重がかかって、粘土質のなかの間隙水が絞り出され、土の体積が収縮していく。
つまり、時間の経過とともに、どんどん地盤沈下していくってことだよ。実際、関空の周辺をちょっと散歩してみると、アスファルトのあちこちに亀裂が見られる。あの島は、本当に、沈みつつあるんだ。
様々なコンピューターのシミュレーションでも、そのことは示唆されている。今のスパコンのシミュレーションって、けっこう精度高いんだよ。
(ごうちゃん、えらい詳しいやんか)
そりゃ、俺はもともと工学系の仕事をしてたからね。地質調査やシミュレーションはお手のものだ。あつしのお手伝いだけが俺の仕事じゃないよ笑。
建設工事のずさんさも指摘されている。
工事期間が短かったけど、開港予定日(1994年9月4日)に間に合わせるために、ずいぶんひどいこともやった。たとえば、マンパワーが圧倒的に不足しているから、刑務所の受刑者をそこで働かせることさえした。陸の孤島だからね、逃亡の心配がないから、そういうことが可能なんだね。無理な労働のストレスのせいか、血の気が多い犯罪傾向のある人を労働力に使ったせいか、工事途中で殺人事件さえ起こった。
都市伝説だと思う?いや、俺、この話は関空の建設工事に直接携わった人から聞いたよ。俺が昔働いてたラーメン屋の店長なんだけど、その人、空港の建設工事で働いている人のためのレストラン街で働いていた。殺人とかさ、物騒なことが起これば嫌でも噂が聞こえてくるよね。
関空の問題点をあげれば他にもいっぱいある。たとえば関空から梅田まで行くのに1時間もかかる。不便すぎるでしょ。伊丹空港なら梅田まで30分。伊丹を上回るメリットがない、とかね。
しかしまぁ、今回の台風によって、前みたいにひどいことが起こらないことを願うばかりだよ」