院長ブログ

スポーツとメンタル

2019.7.13

みなさんの身の回りで、人生の一時期、何かのスポーツに熱中してきた人(あるいは現在熱中している人)はいますか?
その人、どうですか?
人間的に、いい人だと思いませんか?
スポーツを通じて、心も体も鍛えられていると思いませんか?

僕の周りにいるスポーツ経験者は、みんなメンタルが強い印象だ。
だから、たとえば新卒の採用面接で、運動部出身者が優遇されるのは個人的にはありだと思う。
「4年間アニメ研究会に入っていました」という人と、「4年間ラグビー部で頑張ってきました」という人が並んだら、別にアニメを差別する気は全然ないけど、新卒採用担当者が後者をとりたくなるのは当然だと思う。
前者が採用担当者にアピールするには、何かよほど形になるもの(同人誌を企画・編集する能力とか、絵が超うまいとか)がないと難しいだろうな。

スポーツが人間のメンタル・タフネスに及ぼす影響を調べた研究。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0191886907004175
メンタル・タフネス(精神の強さ)という言葉は、何となく使われているが、この概念をしっかり理解するには、スポーツ経験者の観察が有用である。
677人の運動選手(男454人,女223人,年齢15〜58歳,平均年齢22.67歳,標準偏差7.2歳)に協力してもらい、
(a)メンタル・タフネスと困難への対処、(b)メンタル・タフネスと楽天性、(c)困難への対処と楽天性
各々の関係性について調べた。
メンタル・タフネスは10項目中8項目で困難への対処および楽天性と関連があった。
特に、メンタル・タフネスが高い人ほど、困難に対するアプローチ戦略(イメージトレーニング、克服への努力、思考のコントロール、論理的分析)を使おうとし、逆に、困難に対する退避戦略(距離を置く、気をそらす、あきらめる)を使う頻度が減少した。

どんなスポーツであれ、苦しい状況というものがある。
その状況をどう乗り越えるか。頭をフルに使って、窮地を脱しようとする。
見事ピンチを切り抜け、勝利することもあれば、残念ながら破れることもあるだろう。
スポーツをするということは、そういう状況に常に身を置く、ということである。
そしてスポーツで培ったそういう経験は、上記の研究で示されているように、実生活でも決してムダではない、ということだ。
スポーツを通じてメンタル・タフネスを鍛えた人は、日常生活の困難に際しても、逃げない。しっかり向かい合い、克服しようとする。

身近な人の例
・ごうちゃんは中学時代、テニスがうまかった。うますぎて、他の部員と差がありすぎて、まともな練習にならなかったほどだ。加古川市の大会では敵なし。優勝の常連。東播大会になると、チラホラ敵わない人がいて、それでもベスト8。県大会ではなかなか勝たせてもらえなかった。
・A氏は柔道の名門一家の生まれ。青春のすべてを柔道に捧げ、高校時代には兵庫県大会で優勝。大学は柔道推薦で進学した。全日本でも上位入賞し、ソウルオリンピックの強化選手に選ばれた。
A氏、練習試合でソウルに行ったことがある。韓国の選手と試合をした。練習試合とはいえ、お互い本気。特に向こうは日本人相手ということもあって、死ぬ気で勝ちに来る。「妙に強いなぁと思ってん。結局俺が勝ったけど。その人、ソウルオリンピックで金メダルとったわ」
しかし選手層の最も厚い階級だったこともあって、オリンピック出場はならなかった。(後の金メダリストに勝ったのにオリンピックに出れないっていう^^;)
・えびは僕の小学校の同級生。高校時代ボクシングに出会い、夢中になった。ミット打ち、スパーリング、走り込みなど、単調な練習を黙々とこなしていくなかで、自分の体を、そして心を、作っていくことを学んだ。
高校3年生でプロテストに合格。プロになってからも勝ち星を重ね、ついには世界ランカー(WBC世界ライトフライ級17位)にまで登りつめた。しかし人間は、勝ち続けることはできない。いつか負ける日が来る。そして引退を決意する日も。
4年前の試合を最後に引退し、今はバーテンダーとして第2の人生を歩む。

すごい人というのは、どこか遠くにいるんじゃなくて、案外身近にいるものだ。
ごうちゃんもA氏もえびも、分野はそれぞれ違うけど、共通するのは、皆、スポーツから人生を学んだ、ということだ。
勝つためにトレーニングする。いざ本番、戦略が奏功して勝つこともあれば、相手にしてやられて、窮地に追い込まれることもある。もがき、苦しむ。そのまま破れることもあれば、何とか勝利をおさめることもある。ただ、勝ち続けることはできない。いつか、必ず破れる。
そう、これは、ほとんど人生そのものだ。
何か一つのスポーツをやりこんだ人というのは、その競技を通じて、人生を学んでいる。その競技で学んだことは、その競技だけで閉じているんじゃない。人生にも応用が効く。人生で苦しい状況になれば、コートの上で、畳の上で、リングの上で、苦しかったときの経験が生きる。
スポーツ経験者のメンタルがタフなのは、至極当然のことだ。
そうやろ、ごうちゃん。

「あっちゃん、ちょっと待ってくれ。えびちゃんやA氏は知らんけど、俺は違う。
俺はセンスだけでやってた。自分でいうのも何だけど、運動神経抜群だから。野球でもゴルフでも、何やっても人並み以上にうまい。
テニスも、正直そんなに努力してない。別に誇って言ってるんじゃない。
筋トレが嫌いだった。強いショットを打つためには、筋力がいるのはわかる。でも単調な苦行みたいな筋トレが嫌いで、手を抜いてた。
1試合ずっと集中力を切らさないためには、その集中力を支える体力が必要で、そのためには走り込みが必要だっていうのはわかる。でもムダにしんどいことが嫌で、サボってた。
俺はそういう性格だから、県大会まで、なんだと思う。センスにあぐらをかいたプレーで行けるのはそこまで、っていうことだよ。全国大会に行くような人は、センスだけじゃなくて、血のにじむような努力をしていると思う。えびちゃんやA氏もそうだろう。
俺は努力が嫌いだった。強い相手に勝つためには、今の自分にどういうことが必要なのかわかる。でもそういう努力をしなかった。
俺にとって、テニスは中学まで。それ以降、一切やってない。
えびちゃんやA氏はそうじゃないだろう。一線を引いた今も、えびちゃんはアベマTVの企画で戦ったりしてるし、A氏も柔道教室で指導したりしてる。
もちろん、お遊びのテニスぐらいならやるよ。でも、真剣なテニスはもうゴメンだな。
実をいうと、テニスの試合を見ることもできない。錦織とか大坂なおみとかテレビでやってても、絶対見れない。それは、一つには、真剣に見入るとプレーヤーの気持ちがわかって、つらいから。『今苦しいだろうな』とかわかるから、片手間に見れない。見るとぐったり疲れてしまう。えびちゃんはそんなことはない。きのうもバーで普通に村田諒太の試合とか見てるでしょ。ああいうことができるのは、ある程度やりきった人だからだよ。
テニスの試合を見れないのはもう一つの理由がある。こちらのほうが大きいかもしれない。俺は思うんだけど、すべてを捧げなかった人は、それ以後むしろその競技を敬遠するようになるんじゃないかな。怠惰に流れて戦わなかった自分への後悔、磨けばもっと光ったかもしれない才能、あり得たかもしれない輝かしい未来。テニスから逃げたみたいでさ、そういうのがつらいんだ」

勝つ喜び、負ける悔しさなど、スポーツが教えてくれることは多い。
しかし、そのスポーツとの『別れ方』がこじれると、妙に尾をひくことになる。
そういうところは、女の子との別れ方に似てるねぇ^^;

自閉症

2019.7.11

自閉症は1960年代には数万人に1人の発症率で推移していた。「ものすごく稀な病気」だったわけだ。
しかし今や、数十人に1人、つまり学校の1クラスに1人はいる「どこにでもある病気」になった。
ざっと百倍の増加ということになる。

これだけ急激な増加なのだから、必ず原因がある。
しかし今なお、原因は不明のまま。
あり得ない。
こんな異常事態が、放置されていいわけがない。
国は何をやっている。
医学者は、統計学者は、何をやっているのか。無能も甚だしい。
子供は国の未来。
国は原因究明に向けて、早急に対策を打つ必要がある。

「無能ですって?とんでもない。厚労省としては、自閉症の原因がワクチンにあることはとっくの昔から把握しています。しかしそれを公言することはできないんです。国民の健康福祉よりも忖度せざるを得ない諸事情(アメリカの意向、製薬利権その他からの外圧)があって、その事実は一般には公表できません。
ワクチンには疾病の予防効果などほぼ皆無で、それどころか自閉症だけでなくアレルギー、膠原病など様々な疾患の発症リスクを上げることがわかっています。
アジュバントとして水銀とかアルミが入った溶液を、免疫系が未熟な子供の中に直接注入するんですよ。害がないわけないじゃないですか。そうと知っていながらも、厚労省としては非常に不本意なことですが、ワクチン推奨の姿勢を取らざるを得ないんです」
ふと、そんな推測がよぎったけど、僕の妄想に違いない笑

そう、自閉症の増加の原因は、いまだに謎、ということになっている。
医学も統計学も、なんて無力なんだろう。情けないね。
我が子が自閉症を発症したら、蔓延する現代の奇病に罹患した不運を嘆くしかない。

が、全くなす術がないかといえば、そんなことはない。
発症する可能性のある行為を受けないことがまず第一だけど、不本意ながら受けてしまい、かつ、自閉症になったとしたら、どうすればいいか。
こんな研究がある。
バーナード・リムランド博士は、190人の自閉症児に対して24週間に渡ってビタミンを服用させる研究を行った。
この研究を行うにあたって、まず、患児のご両親の許可をとった。さらに、主治医の許可も必要だが、リムランド博士、ここで強い反発に出くわした。「ビタミン?そんなもの、私は断じて認めない。そんな研究には協力できない」そういう先生が多くて、当初自閉症児を300人集めたにもかかわらず、結局研究に参加するのは190人だけとなった。
研究の最初の5週間は、導入期。ビタミンの錠剤を、ちょっとずつ増やしていく。
1日10錠を飲む期間を12週間続けたら、次の2週間は休薬期。サプリを飲むのをきっぱりやめる。その後再び、1日10錠のサプリを復活してもらう。
サプリの内訳は、以下の通り。
ビタミンC 1000mg、ナイアシンアミド(B3) 1000mg、ピリドキシン(B6) 150mg、チアミン(B1) 5mg、パントテン酸(B5) 50mg、葉酸 0.1mg、ビタミンB12 0.01mg、パラアミノ安息香酸 30mg、ビオチン 0.015mg、コリン 60mg、イノシトール 60mg、鉄 10mg。
ビタミンにかかる費用は1ヶ月あたり約10ドルだった。
期間中、ご両親と主治医にお願いして、定期的に患児の症状をレポートにまとめてもらった。自閉症の症状が、ビタミンの服用によってどれぐらい改善するか、また、休薬によってどれぐらい悪化するか、を報告してもらい、その程度を分析した。
全体的な結果として、190人のうち86人(45%)で大幅な改善、78人(41%)で適度な改善、20人(11%)で変化なし、6人(3%)で悪化となった。
つまり、栄養サプリの摂取によって自閉症児のおよそ4分の3に好ましい効果があり、逆効果だったのは3%だけだった。

一般に自閉症に対して、薬の適応はない。エビリファイやSSRIを使う医者もいるが、もちろん効かない(一桁年齢の子供に使う薬じゃないでしょうが)。
しかし上記のように、リムランド博士の研究によると、ビタミンの投与がかなり著効したというんだな。親や主治医の観察に基づく研究だからエビデンスレベルは高くはないけど、意味のある研究だと思う。

てんかんにビタミンB6の投与が著効することがある。つまり、何らかの機序で神経系を保護する働きがあるようだ。
この点に着目したリムランド博士、次なる研究を計画した。「前回の研究はすごく大変だったけど、RCTじゃないから説得力ないとか散々言われた。今度はぜひともプラセボ対照二重盲検でやりたい。さらにクロスオーバー形式にして、エビデンスレベルを高めよう」
https://europepmc.org/abstract/med/345827
15人の自閉症児を被験者として、実薬(ビタミンB6)群とプラセボ群に振り分けた。B6群には、各々の年齢や体重に応じて1日75〜800mg投与した。一定期間後、実薬群とプラセボ群を入れ替えた。結果、15人中10人でビタミンB6が有効、1人で不変、4人で悪化、となった。

リムランド博士が自閉症の研究に没頭したのは、純粋に科学者としての好奇心からではなく、実は多少、私情がからんでいる。自分の息子が自閉症だったのだ。
彼はMMRワクチン(三種混合ワクチン)が自閉症の原因だと考えた。アメリカ自閉症協会を立ち上げ、本の出版や講演を通じて、ワクチンの危険性を啓発した。
当然、巨大組織からにらまれ、様々な妨害にあうことになった。
それでも、晩年まで自説を主張し続けた。

「ワクチンを打たせてしまったがために、子供がこんなことに。私の無知のせいで」と自責の念を抱える親御さんがいる。済んだことは悔やんでも仕方ない。それよりも、前を向いて行かないといけない。つまり、「これからどうするか」のほうがはるかに重要だ。
しかし、ここでエビリファイやフルボキサミンに頼ってしまうようでは、子供の未来は明るくない(こういう親は、無知を悔いるのが妥当かもしれない)。
ビタミンは、一般の薬と違ってほとんど副作用はない。上記のビタミン以外にも、フォスファチジルセリンや有機ゲルマニウムなど、有効性が示唆される栄養素はほかにもある。まずはビタミンを試してみるべきだろう。

参考
“How to Live Longer and Feel Better”(Linus Pauling著)

ビタミンCと知能

2019.7.10

知能と血中ビタミンC濃度の関係について、Kubala and Katz(1960)がこんな報告をしている。
被験者は3都市にある四つの学校(幼稚園から大学まで)の学生351人である。
彼らを血中ビタミンC濃度測定の結果をもとに、高ビタミンC群(血液100mlあたり1.10㎎以上)と低ビタミンC群(100mlあたり1.10未満)に振り分けた。
さらに社会経済的な指標(家族の収入、両親の教育歴)をもとに調整してペアを作り、各群から72人を選んだ。
すると、高ビタミンC群の平均IQは低ビタミンC群よりも高かった。
具体的には、平均値で高ビタミンC群は113.22、低ビタミンC群は108.71と、4.51の差があった。
条件を均一に調整した両群でこれだけの差が生じる確率は、5%以下である。つまり、統計的な有意差を以て、IQの違いが確認されたということだ。

ここまでで、「血中ビタミンC濃度の高い人は、親の年収や学歴とは無関係に、IQが高い」ということが言えた。
この研究では、さらなる介入を行った。
両群の被験者に6カ月間オレンジジュースを飲んでもらい、その後、IQを再度測定した。
すると、高ビタミンC群ではIQの増加はごく軽微(+0.02)だったが、低ビタミンC群ではIQが3.54増加した。
偶然にこれだけの差が生じる確率はやはり5%以下で、統計的に有意な差である。

この結果を踏まえて、どういうことが言えるか?
「頭の良さは、作れる」ということである。
「まさか。単にオレンジジュースを飲むだけで、頭が良くなるとでもいうのか?」
そう、この研究は、そのまさか、が事実であることを示している。
ただし、同時に限界をも示していて、もともと血中ビタミンC濃度が高い人では、6カ月間毎日せっせとオレンジジュースを飲み続けても、IQの増加はごくわずかだった。
「血中ビタミンCが低いことが原因でIQが低い人」に対しては、IQを上げることが可能だよ、ということ。あくまで条件付きということだね。
ビタミンC欠乏性IQ低下症、とでも呼ぶべき人が存在するわけで、この研究はそういう人にとっては福音だと思う。
だって、単にオレンジジュース飲むだけで頭が良くなるんだから。

ところで、頭が良いからって、一体何の意味があるのか?
世の中には、おバカキャラゆえに愛される人もいる。
それに、頭の良さが幸せに直結するかといえば、必ずしもそうとは言えない。高い知性ゆえに、苦悩もまた増えるものだ。
『アルジャーノンに花束を』がそのあたりの事情を上手に描いていたよね。
しかしそれにもかかわらず、頭の良さは、あって損はないと僕は思う。頭の良い人はアホな振りができるけど、逆はできない。
学業、仕事はもちろん、人間関係でも優位に事を進められるだろうし、スポーツのように運動能力が求められる分野でも、知性がものをいう。
IQと収入に相関があることは、多くの研究が示しているところだ。
自分自身の社会的成功、あるいは我が子の幸福を願う人にとっては、ビタミンCの効用を使わない手はない。

上記の研究にはさらに続きがある。
人数をもう少し絞って、各群32ペア(合計64人)の被験者を、さらにもう1年追いかけた。
つまり、18カ月間、64人の被験者フォローし、この間4回の血中ビタミンC濃度測定と知能検査を行った。
その結果は以下のようである。

グラフを見てわかるように、血中ビタミンC濃度が50%上昇すると(血液100mlあたり1.03㎎から1.55㎎に増加すると)、IQが3.6上昇している。
この増加は、成人がビタミンCの摂取量を1日あたり50㎎増加させることで(1日100mgから150㎎に増加させることで)生じた変化である。

この研究を行ったKubala and Katzは以下のように結論している。
「知能検査によって算出されるIQのばらつきの一部は、そのときの栄養状態が反映されている。
少なくとも今回の研究で明らかになったのは、柑橘系、あるいはビタミンCを含むその他の栄養分がIQに影響している、ということである。
ビタミンCの摂取が減少することで、頭の切れや鋭さが低下する」
またこの研究では、血中ビタミンC濃度とIQに正の相関が見られたが、血中ビタミンC濃度が血液100mlあたり1.55㎎だったときに最も知的パフォーマンスが高かった。
この濃度は、70kgの成人が1日180mgのビタミンCを摂取することで達成できる。

この研究は1960年に行われたものだから、研究で使用されたオレンジジュースは、多分、ちゃんとしたオレンジジュースだったと思う。
ちゃんとした、という意味は、現代のスーパーで一般に売っているような濃縮還元のバッタもんジュースとは違う、ということだ。
だから、この研究を見習ってIQを高めるためにオレンジジュースを飲もうという人は、メーカーとか品質にはこだわったほうがいいよ。
ジュースではなくサプリでビタミンCを摂るのなら、180㎎といわず、もっと多めに摂るといい。
天然のビタミンCと合成のビタミンCではずいぶん吸収率が違うから、たとえばビタミンC(1錠1000㎎)のサプリを、毎日1錠摂るといい。
それだけで、メンタルパフォーマンスを高く保つ一助になるはずだ。

参考
How to Live Longer and Feel Better (Linus Pauling著)

不眠 

2019.7.9

なぜ眠れないのか。
そもそも、人間は朝に起きて、夜寝れるようになっている。
地平線の向こうからお日さんが昇りはじめ、だんだんと明るくなってくると、覚醒の時間。
交感神経が優位になって、「今日も一日頑張るぞ」と意欲がわいて、活動に備える。
そうして太陽の下、なんやかんやと活発に過ごし、やがて次第に日が傾き始める。
日が暮れると、交感神経から副交感神経優位に切り替わり、休息の時間。
食事をとって消化吸収につとめ、睡眠をとって明日への英気を養う。
眠り、そしてまた、日の出とともに目覚めて、、、
というのが人間に備わった生理的なリズムだ。

なぜ眠れないのか。
それは、このリズム、自律神経(交感神経と副交感神経)のスイッチがうまくいっていないからだ。
朝お日さんはすっかり高いのに、まだまだ眠い、寝足りないという人もいれば、逆に、夜休むべきときに目がランランと冴えて、眠気が来るまでゲームやネットで遊び続ける、という人もいる。

副交感神経はrest and digest(休息と消化)を司る神経である。
つまり、眠れないのは、休むべきときに副交感神経が優位になっていないからだ。
夜なのに交感神経優位、「まだまだ戦うぞ!」というモードであれば、眠れないのは当然だ。
ちなみに、こういう人は食欲不振を併発していることも多い。副交感神経が適切に機能していないのだから、restだけでなくdigestもうまくいかないのは筋が通っている。
ほら、逆に、昼ごはんを食べると眠くなったりするでしょう。あれは、消化管の活動に伴って副交感神経が働いて、日中にもかかわらず休息モードに傾いてしまうからだ。
昼食後の午睡、シエスタという習慣は、そういう人間の生理を踏まえたものだろう。

では、なぜ自律神経の切り替えがうまくいかないのか。
その原因は人により様々だ。
たとえば、ある種の食品が睡眠に影響することは間違いない。
カフェインが有名だけど、それだけではない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5015038/
論文中、「菓子や麺類を食べると睡眠の質に悪影響があり、逆に魚や野菜の摂取が睡眠の質を高める」旨の記述がある。
不眠を訴える患者には「ひとまず精製糖質の摂取は極力控えましょう。できれば小麦もいったんやめてみましょう」と指導するようにしている。
しかし、きちんとやめれる人はなかなかいない。糖質の依存性が、不眠の治りにくさに直結してるんよねぇ。

意外なところでは、重金属による神経毒性から不眠を来していることがある。
たとえば水銀。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10770863
『無機水銀中毒を呈する労働者における慢性不眠』
タイトルそのものが論文の要約になっているから、あえて詳述しない。
有害金属に限らず神経毒性のある物質はすべて、自律神経にも影響し、結果、睡眠にも影響すると考えていい。
化学調味料(味の素)とか人工甘味料(アスパルテームなど)はもちろん、電子レンジで加熱調理した食材も避けるべきだろう。

このように不眠の原因には、摂るべき栄養の不足、避けるべき有害物質への曝露など複数の要因が考えられて、原因を特定することは難しい。
ただ一つ、絶対的に言えることがある。
「不眠は、ベンゾジアゼピン系薬物の不足によるものではない」ということだ。
なるほど、ベンゾを飲めば、ひとまず眠れるだろう。しかしそれは、不眠が治ったということではない。
単なる対症療法にすぎず、根本の原因には何一つアプローチしていない。
こういう治療は必ず行き詰まる。
ベンゾの依存性と耐性に絡みとられて、最終的にどこかで破綻するだろう。

初手が大切。
症状を抑え込むのではなく、原因を見据えたアプローチを心がけよう。

ナイアシン

2019.7.7

「ナイアシンを飲み始めてから、明らかに肌がきれいになりました。そういう作用もあるのですか?」
うつなど精神的な症状の軽快を期待して飲み始めても、ビタミンにはこういう、予期せぬボーナスがあるものだ。
「ナイアシンには血管拡張作用がありますからね。お肌の血流がよくなって、きれいになったということだと思います」
と答えていたのだが、最近読んだ文献によると、どうもそれだけではないようだ。

『ニコチンアミドの経口投与により経皮的水分喪失(TEWL)が減少する』
https://www.mdedge.com/dermatology/article/105426/atopic-dermatitis/eadv-oral-nicotinamide-reduces-transepidermal-water
ニコチン酸(別名ナイアシン)は、血管を拡張させる作用がある。これが皮膚の著明な紅潮や頭痛などの副作用を引き起こす。しかしニコチンアミド(ビタミンB3のアミド型)は、まったく別物と思ってよい。血管拡張の副作用がなく、安全性は確立している。
チェン医師は、ニコチンアミドの経口投与によって日光角化症(皮膚癌の前癌病変)を減らすことができるか、プラセボ対照二重盲検を行なった。
過去5年以内に少なくとも2個以上の非メラノーマ型皮膚癌を生じた患者386人を、ニコチンアミド投与群(500mg錠を1日2回経口投与)とプラセボ群に振り分け、12ヶ月フォローした。
ニコチンアミド投与によって非メラノーマ型皮膚癌の発生率が確かに減少することが、この研究によって示された。 (N Engl J Med 2015;373:1618-26)
この研究のもう一つのエンドポイントは、ニコチンアミドが皮膚のバリア機能にどのような影響を与えるか、経皮的水分喪失量(TEWL)を測ることで評価することだった。
上記の研究に参加した患者のうち292人に対して、開始時と3ヶ月おきに、前額、左前腕、左脚のTEWLを標準TEWL測定法によって測定した。その結果、ニコチンアミド群では、すべての測定でプラセボ群よりもTEWLが有意に減少していた。
たとえば、前額のTEWLは、プラセボ群よりも3ヶ月、6ヶ月時に5%少なく、9ヶ月、12ヶ月時に6%少なかった。前腕や脚では、12ヶ月時に7%少なかった。副作用はまったく見られなかった。
12ヶ月の研究期間中、プラセボ群のTEWLについて、夏は冬より15%多かった。
TEWLは季節によって変動するが、ニコチンアミドによって、その季節のTEWLのおおよそ半分が減少する、とチェン医師は語った。

ナイアシンの美肌効果が、ホットフラッシュに見られるような血管拡張作用によるものだとすると、ホットフラッシュを起こさないナイアシンアミドには美肌効果がないということになる。
しかし上記の研究で示されたように、機序は不明ながら、ナイアシン(研究で使われたのはナイアシンアミドだが、ナイアシンを使っても同様の結果が出たはず)には皮膚からの水分喪失を減らす作用がある。
これは要するに、肌の保湿力が高まったということだろう。
ナイアシンの美肌効果は、このおかげかもしれない。
アトピー性皮膚炎の患者は、角質層が薄く角質細胞間脂質(セラミド)が少ないことが知られている。つまり、保湿力が弱いため、乾燥肌になりやすい。
ということは、アトピー性皮膚炎の治療にナイアシンが有望かもしれない、ということだ。

アトピーの治療といえば、ステロイドかプロトピックぐらいしかなかった。
どちらも対症療法に過ぎず、しかも副作用がひどい。ステロイドを慢性的に使い続けた患者では、アトピー性皮膚炎というよりはステロイド皮膚炎になっていて、これは薬害そのものだ。西洋医学におけるアトピー治療は、もはや治療の体をなしていない。

人間の臓器のうち、最も大きいものは何か?
一般には、「肝臓」というのが答え。
しかし、「皮膚」と考える先生もいる。
そう、皮膚は外と内を区切る防御壁であり、発汗や立毛筋の収縮による体温調整、汗や皮脂を通じた異物の排泄、逆に経皮吸収など、様々な働きをするれっきとした臓器だ。
皮膚疾患は多くの場合、皮膚そのものの病気というよりは、何らかの病態が皮膚に反映されただけのことだ。乾癬にせよアトピーにせよ、症状の現れた皮膚を標的にした治療を続けているようでは、病気の本態が捕まることは永遠にない。
食べるものを変え、栄養の改善に努めること。
遠回りのようだが、根治に至る方法はこれしかない。

上記の研究は、栄養の改善に際して特にどういう点に気を遣えばいいのか、大きなヒントになる。
ナイアシンが皮膚の保湿力を高めてくれるというのだから、ナイアシンを含む食品を意識的に摂取すればいいし、あるいはサプリメントとしてナイアシンを摂取するのもいいいだろう。
ただしナイアシンにはホットフラッシュの副作用があって、アトピーの人ではかゆみがひどくなる可能性もある。
そういう意味では、やはりナイアシンアミドが無難かもしれない。