院長ブログ

不眠 

2019.7.9

なぜ眠れないのか。
そもそも、人間は朝に起きて、夜寝れるようになっている。
地平線の向こうからお日さんが昇りはじめ、だんだんと明るくなってくると、覚醒の時間。
交感神経が優位になって、「今日も一日頑張るぞ」と意欲がわいて、活動に備える。
そうして太陽の下、なんやかんやと活発に過ごし、やがて次第に日が傾き始める。
日が暮れると、交感神経から副交感神経優位に切り替わり、休息の時間。
食事をとって消化吸収につとめ、睡眠をとって明日への英気を養う。
眠り、そしてまた、日の出とともに目覚めて、、、
というのが人間に備わった生理的なリズムだ。

なぜ眠れないのか。
それは、このリズム、自律神経(交感神経と副交感神経)のスイッチがうまくいっていないからだ。
朝お日さんはすっかり高いのに、まだまだ眠い、寝足りないという人もいれば、逆に、夜休むべきときに目がランランと冴えて、眠気が来るまでゲームやネットで遊び続ける、という人もいる。

副交感神経はrest and digest(休息と消化)を司る神経である。
つまり、眠れないのは、休むべきときに副交感神経が優位になっていないからだ。
夜なのに交感神経優位、「まだまだ戦うぞ!」というモードであれば、眠れないのは当然だ。
ちなみに、こういう人は食欲不振を併発していることも多い。副交感神経が適切に機能していないのだから、restだけでなくdigestもうまくいかないのは筋が通っている。
ほら、逆に、昼ごはんを食べると眠くなったりするでしょう。あれは、消化管の活動に伴って副交感神経が働いて、日中にもかかわらず休息モードに傾いてしまうからだ。
昼食後の午睡、シエスタという習慣は、そういう人間の生理を踏まえたものだろう。

では、なぜ自律神経の切り替えがうまくいかないのか。
その原因は人により様々だ。
たとえば、ある種の食品が睡眠に影響することは間違いない。
カフェインが有名だけど、それだけではない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5015038/
論文中、「菓子や麺類を食べると睡眠の質に悪影響があり、逆に魚や野菜の摂取が睡眠の質を高める」旨の記述がある。
不眠を訴える患者には「ひとまず精製糖質の摂取は極力控えましょう。できれば小麦もいったんやめてみましょう」と指導するようにしている。
しかし、きちんとやめれる人はなかなかいない。糖質の依存性が、不眠の治りにくさに直結してるんよねぇ。

意外なところでは、重金属による神経毒性から不眠を来していることがある。
たとえば水銀。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10770863
『無機水銀中毒を呈する労働者における慢性不眠』
タイトルそのものが論文の要約になっているから、あえて詳述しない。
有害金属に限らず神経毒性のある物質はすべて、自律神経にも影響し、結果、睡眠にも影響すると考えていい。
化学調味料(味の素)とか人工甘味料(アスパルテームなど)はもちろん、電子レンジで加熱調理した食材も避けるべきだろう。

このように不眠の原因には、摂るべき栄養の不足、避けるべき有害物質への曝露など複数の要因が考えられて、原因を特定することは難しい。
ただ一つ、絶対的に言えることがある。
「不眠は、ベンゾジアゼピン系薬物の不足によるものではない」ということだ。
なるほど、ベンゾを飲めば、ひとまず眠れるだろう。しかしそれは、不眠が治ったということではない。
単なる対症療法にすぎず、根本の原因には何一つアプローチしていない。
こういう治療は必ず行き詰まる。
ベンゾの依存性と耐性に絡みとられて、最終的にどこかで破綻するだろう。

初手が大切。
症状を抑え込むのではなく、原因を見据えたアプローチを心がけよう。