院長ブログ

筋トレ1

2019.8.23

毎日ジムに行くようにしている。
できれば1日に2回、朝仕事前に行き、仕事を終えた夕方にもう一度。

ジムでは自分なりに決めたルーチンがある。
筋肉がきちんと「悲鳴をあげる」だけの負荷をかけ、かつ、オーバーワークにならない程度の運動量を、淡々とこなす。
ジムに長居はしない。鍛える実動時間はせいぜい30分ほど。

何のための筋トレか。
ボディービルの大会に出るとか、具体的な目標があるわけではない。
健康になるためでもなければ、やせるためでもない。
ただ、漠然とながら、「筋肉をつけたい」とは思っている。

やせるためのトレーニングと筋肉をつけるためのトレーニングでは、当然メニューが違ってくる。
やせるためには「低重量、高レップ(回数)」、筋肉をつけるためには「高重量、低レップ」が基本だ。
たとえばアームカール。10kgのダンベルで10回するのと、1kgで100回(あるいは100gで1000回)するのとでは、物理でいう仕事量としては同じでも、体への影響は相当に違う。
前者は筋肥大、後者は引き締めの効果があるとされる。
瞬発力が身上の白筋(速筋)、持久力が売りの赤筋(遅筋)。
どちらの筋肉を鍛えるのか、という話だ。
目的が筋肥大なら、軽いウェイトでダラダラ長くトレーニングを続けても仕方ない。
だから僕は、ジムにいるのは30分だけ。
さっさと筋肉をいじめて、さっさと帰る。

特に食事に気を遣っているわけでもない。
もちろん、仕事柄患者に食事改善や栄養指導をする立場だから、健康的な食事を心がける、という意味での気は遣っている。ただ、筋肥大にプライオリティを置いた食事では全然ない、ということだ。
鶏のササミや卵をたくさん食べて、プロテインをこまめ飲んで、カーボローディングして、みたいなことは全くしていない。

「健康のためにプロテインを」と説く先生がいる。プロテインがある種の病態改善に有効なときもあるだろう。しかし筋肥大への効果は疑わしい。たとえばこんな論文。
『栄養状態良好な閉経後女性が2年間ホエイプロテインを摂取したものの、筋肉量は増えなかったし身体機能も向上しなかった』
https://academic.oup.com/jn/article/145/11/2520/4585841
プロテインが筋肉の増量に、あるいは少なくとも筋肉の減少(サルコペニア)を防ぐのに有効なら、高齢者のQOL維持のためにはプロテインを奨励すべき、ということになる。でもこのRCTでは有意差が出なかった。プロテインの摂取は、無意味だったってこと。

「筋トレといえばプロテイン」と、連想ゲームのようにプロテインが浮かぶのは、業者の販売促進戦略のたまものだ。あんまり乗せられないようにしよう。
そもそも僕は、現代の畜産業で作られる牛乳は体に悪いと思っている。その牛乳から精製して作ったプロテインが体にいい理屈はない。よほど食事のバランスが崩れている人ならプラスになるだろうけど、普通に食事でタンパク質がとれるなら、あえてプロテインを補う必要はないんだよ。
しかし、アメリカ産牛肉を食べないように気をつけている人でも、アメリカ産プロテインとなれば何ら抵抗なく口にするあの心理って、一体何なんだ?
遺伝子組み換え飼料を食わされ抗生剤やホルモン剤を投与された牛のミルクも、パウダーにすれば毒性がチャラになるとでも?

筋トレの能率、なんていうのも全く考えていない。
たとえば、超回復を意識した部位別トレーニング、という筋トレがある。ボディービルの大会を目指してやり込んでいるような人なら必ず実践している方法だ。
筋トレとは何か?一言でいうと、筋線維にダメージを与えることだ。
ダメージを受けた筋線維は、休養と栄養補給によって回復する。このとき、以前の状態よりも少し太くなって回復する。これを超回復という。
超回復、、、ドラゴンボール的というか、中2っぽい響きがある言葉だな^^;

超回復は、筋トレをやってから48〜72時間の休養を経て起こると言われている。
だから、同じ部位を毎日コツコツと鍛えても、24時間の休憩では超回復が起こっていない(筋線維の回復が追いついていない)わけだから、筋トレの能率が悪いのはもちろん、過負荷による筋損傷のリスクさえある。
だから、能率を考えるのであれば、鍛える筋肉は部位別にローテートすることが望ましい。月曜に腕を鍛えたら、火曜は足を、水曜は胸を、木曜になってようやく再び腕を、という感じだ。

こういうトレーニング法があるのはわかっている。
わかっているが、採用していない。なぜか。
僕の筋トレには、具体的な目標がないからだ。能率という言葉が生きるのは、目標があってこそだろう。これといった目標のない筋トレなのだから、能率は度外視でいいんだな。

できるだけ毎日ジムに行く。能率より何より、まずこれが目標。
正直どうしても気乗りしないときはある。何となくしんどいなぁ、イヤやなぁって。
そういうときは「とりあえずベンチプレスだけやりに行こう」と考える。
ベンチ60kgを10回3セット。それだけでいい。他はしなくていいから、それだけをやりに行こうと考える。
気分がちょっと軽くなって、ジムに足が向かう。
ベンチをやる。すると、もう「スイッチ」が入っている。せっかくだからついでにデッドリフトもやっとこうかな、みたいになって、結局ルーチンをひと通りこなしている。
そんな具合に、自分をだましだまし1年間ジムに通い続けた。

熱が38度以上あるのにジムに行ったときには、ごうちゃんもさすがにあきれてた。
「頑張ってるというかさ、依存症なんじゃないの?」
そうかもしれない。
「それがなければ、落ち着かない」というのが依存の定義だとすると、「筋肉への刺激と適度な疲労感、そして今日もちゃんとジムに行ったんだという事実」、これなしでは落ち着かない僕は、もはや筋トレ依存なのかもしれない。

「すごい体だね」と言われる。いや、全然すごくないよ。
やるかやらないか、そして「やる」を毎日継続する。それだけのこと。
誰でもこんなふうになれる。

食べ物に気を遣わなくても、能率を考えなくても、この程度まではいけるということだ。
筋肉は鍛えれば外から目に見えるけど、外から見えない内面の能力を磨いてるもっとすごい人は、世の中にいっぱいいると思う。でも精神の練磨は、人の目に触れない。
そういう意味で筋肉を鍛えるのは、努力の結果がすぐに体に反映される分、なんというか、コスパがいいな。
筋トレ、皆さんも始めてみませんか。

進化論

2019.8.20

また朝が来てぼくは生きていた。夜の間の夢をすっかり忘れてぼくは見た。柿の木の裸の枝が風にゆれ、首輪のない犬が日だまりに寝そべっているのを。 
百年前ぼくはここにいなかった。百年後ぼくはここにいないだろう。あたり前なところのようでいて、地上はきっと思いがけない場所なんだ。 
いつだったか子宮の中で、ぼくは小さな小さな卵だった。それから小さな小さな魚になって、それから小さな小さな鳥になって、それからやっとぼくは人間になった。
十ヶ月を何千億年もかかって生きて、そんなこともぼくら復習しなきゃ。今まで予習ばっかりしすぎたから。 
今朝一滴の水のすきとおった冷たさが、ぼくに人間とは何かを教える。魚たちと鳥たちとそして、ぼくを殺すかもしれぬけものとすら、その水をわかちあいたい。

谷川俊太郎の『朝』。何回読んでも味わい尽くせないような魅力を感じる。
詩に対して、解説めいたことを言うのは不粋だ。
詩は、詩として、そのまま味わうのが正しい鑑賞の仕方だと思うけど、ここではあえてその不粋を犯して、野暮ったいことを言おう。

一読して分かるように、この詩はダーウィンの進化論を背景にしている。
特に、ダーウィンの影響を強く受けたヘッケルの反復説「個体発生は系統発生を繰り返す」をモチーフにしている。
小さな卵だった「ぼく」が、進化の過程で、魚になって、鳥になって、やがて人間になった。
百年前も百年後もこの世にいない「ぼく」だけど、子宮のなかで自分の由来を復習して、生まれてくる。
「何千億年」は地球の歴史が46億年であることを考えると、詩人独特の表現だろう。
最終節「ぼくを殺すかもしれぬけもの」というのは、ライオンや虎のような肉食獣を念頭に置いての表現だろう。
そういう獣さえ、「ぼく」に連なる進化の系譜のひとつであり、かつ、魚や鳥と同様、水を分かち合う仲間なんだ。

そう、進化論。
発表当時から学者の間のみならず、宗教者をも巻き込んで大論争を引き起こしたし、今なお議論がある。
進化論によって、整合的に説明できる事柄もある。
たとえば共生説。真核細胞のなかにあるミトコンドリアや葉緑体は、原核細胞が起源だとする考え方だ。
二重膜であること、宿主からある程度独立して増殖し内部に独自のDNAを持つこと、内部に原核細胞性の蛋白質合成系が存在することなど、共生説によってクリアに説明がつく。
原核生物が共生を通じて真核生物に、そして多細胞生物へと進化していくという理屈には、一定の説得力がある。

一方、批判もある。たとえばキリン。なぜあんなに首の長い、奇妙な生物が生まれたのか。ダーウィンは、厳しい環境がランダムに起こる突然変異を選別し(自然淘汰)、進化に方向性が与えられる、と説く。首が長いことが生存に有利な状況下で、その形質が次第に強まり、結果、現在の首の長いキリンが誕生した、というわけだ。しかし、現在のキリンへと繋がる中間形態の生物は、化石資料からは確認されていない。
進化論は理屈としては興味深いが、それを裏付ける根拠がほとんどない。

進化論にとって、さらに逆風の研究が現れた。

[特報]ダーウィンの進化論が崩壊 : かつてない大規模な生物種の遺伝子検査により「ヒトを含む地球の生物種の90%以上は、地上に現れたのがこの20万年以内」だと結論される。つまり、ほぼすべての生物は「進化してきていない」


人間を含む現在地球上に存在する生命種のうちの 10種のうち 9種が 10万〜 20万年前に出現したことが明らかになった、という。
学者の推測でもなければ、妄想でもない。
アメリカ政府が運営する遺伝子データバンクにある 10万種の生物種の DNA と500万の遺伝子断片( DNA バーコードと呼ばれるマーカー)を徹底的に調べた結果、この結論に至ったのだ。

衝撃的な研究だと思う。
進化論に決定的にとどめを刺す一撃であり、生物学のパラダイムを根底から変える研究だろう。
元論文はこれだろう。
https://phe.rockefeller.edu/docs/Stoeckle_Thaler%20Human%20Evo%20V33%202018%20final_1.pdf
冒頭にわざわざ、こんな断りがいれてある。
「本研究はダーウィンの進化論を強く支持するものである。つまり、すべての生物は数十億年にわたる共通の生物学的起源を持ち、進化してきた、という理解に基づいた研究である。『アダム』や『イブ』のような単一の生物起源を提唱していないし、聖書にある大洪水のようなカタストロフによる淘汰が起こった、などという主張もしていない」
なぜこんな、蛇足としか言いようのない言葉を冒頭に添えているのだろうか。
内容があまりにもセンセーショナルだから、著者らはこの論文が世の中に与える影響を懸念したのかもしれない。
しかし、幸か不幸か、その心配は杞憂だった。学会でまともに相手にされていないどころか、マスコミもまったく取り上げていない。

進化論が正しくないとすると、何が正しいのか。
ほとんどの生物は、20万年前から10万年前のあいだに、「突如として」地球上に現れた、ということになる。
どこから来たのだろう?宇宙人が運んできた?
どうしてもオカルトめいた話になってしまう。こういう話、僕は好きなんだけどね^^;

進化論が否定されるということは、ヘッケルの「個体発生は系統発生を繰り返す」も否定されるということだろう。
となると、先にあげた僕の好きな詩も、前提となる根拠を失うことになるんだけど。。
それにもかかわらず、やっぱりこの詩はそれ自身のなかで完結していて、美しいままだと思うんだな。

ローヤルゼリーと瘢痕

2019.8.19

暑い日が続いている。
レジャー日和だからと海や山などに遊びに行って楽しんだものの、肌が日焼けし過ぎて、ヒリヒリする痛みに苦しんでいる人もいるだろう。
そういうとき、みなさんならどうしますか?
市販のローションやクリームにもいい商品があるかもしれない。
民間療法だけど、アロエにも一定の効果があるだろう。
しかし、ローヤルゼリーが効くことは、あまり知られていないと思う。

『熱傷および日焼けに対するに蜂関連製品の潜在的治療特性』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584917304458
熱傷は皮膚組織に深刻なダメージを与え、その局所のみならず全身にも影響する。
ハチミツやプロポリスなどの蜂関連製品は、皮膚局所に塗布すると抗菌作用があり、治癒を促進することが知られている。
同様の治療効果を持つ蜂関連製品として、ローヤルゼリー、蜂の繭、蜜蝋の有効性を調べるために、64匹のマウス(SKH-1)を使って実験を行った。
半数のマウスに8 MEDの紫外線を照射し、重度の日焼けを起こした。残りの半数に対して、60℃に熱した金属棒を使って第2度の熱傷を起こした。
治療の効果を見るための評価項目として、皮膚の潤い、経皮的水分喪失、皮膚の弾性、皮膚の厚み、抗酸化力(アスコルビン酸、尿酸、グルタチオン)と酸化ストレスを調べ、さらに病理組織像も調べた。
結果、ローヤルゼリー、蜂の繭、蜜蝋のすべてが、熱傷の瘢痕組織の見た目を改善する作用があり、特にローヤルゼリーと蜂の繭には、有意な治療効果があった。

さらに、こんな論文もある。
『デフェンシン1(蜂由来の抗菌ペプチド)の再上皮化促進作用(in vitroおよびin vivo)』
https://www.nature.com/articles/s41598-017-07494-0

ローヤルゼリーは創傷治癒の治療薬として利用されている。ローヤルゼリーには、抗菌作用、抗炎症作用、免疫調整作用など様々な効果がある。ローヤルゼリーのなかに含まれるどの成分がどの作用を担っているのか、抗菌作用についてはわかっているものの、創傷治癒作用についてはわかっていない。
本研究において、角化細胞にローヤルゼリー抽出物を加えるとマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の産生が高まることを我々は示した。
さらに、ローヤルゼリーの存在下では、角化細胞の移動と創傷閉鎖の割合が有意に上昇した。MMP9の産生は、プロテアーゼKで処理をすると大幅に減少したが、加熱しても安定なままであった。このことは、活性化にかかわる因子にはタンパク質的な性質があることを示唆している。
MMP9産生を誘導する因子を特定するために、C18逆相高速液体クロマトグラフィー(C18 RP-HPLC)を使って、ローヤルゼリー抽出物を分画化した。刺激活性を示す部分に、デフェンシン1(蜂由来の抗菌ペプチド)が存在することを我々は突き止めた。
デフェンシン1が角化細胞からのMMP9分泌を刺激し、角化細胞の移動と創傷閉鎖を促進した。さらにデフェンシン1は、非感染性の創傷において、再上皮化と創傷閉鎖を促進した。これらのデータは、デフェンシン1が角化細胞の移動とMMP9分泌を促進することで創傷の閉鎖に貢献していることを示している。

百聞は一見にしかず、で、論文を長々読むよりも、論文のリンク先に載っている写真を見るといい。比較してみれば、ローヤルゼリーがいかに有効かわかる。

上記2つの論文から、ローヤルゼリーがネズミの日焼けや熱傷、創傷に対して有効だということがわかる。
しかし、このローヤルゼリー、人間にも効くのだろうか。
マウスで効いたのだから、おそらくは人間にも効くはず。しかし推測の域を出ない。
はっきり「人間にも効く」というためには、RCTをやるのが一番説得力がある。
しかし人間に無理にヤケドを負わせてローヤルゼリー群とプラセボ群とを比較して、という実験は、倫理的に許されない。
そこで、個人的な症例報告ということになるが、僕自身の話をしよう。

忘れもしない。
今年の正月のことだ。
実家に帰省した僕に、姉が「毎日の仕事で疲れているだろうから」とお灸をしてくれた。
手のツボで、合谷(ごうこく)というのを知っていますか?親指と人差し指の間にあるツボだ。
姉がここにお灸を据えてくれた。
市販のせんねん灸を使ったんだけど、あるミスがあった。もぐさと皮膚をさえぎるパットが外れていて、それに気付かず、皮膚ともぐさが直接に触れ合う形になった。
ムチャクチャに熱かったけど、「これがお灸というものだろう」と思って熱いのを我慢したせいで、大ヤケドを負うことになった。
受傷直後の写真は撮ってないんだけど、受傷から1週間経ったときの画像がこういう具合。

面積は狭いけど、表皮だけではなく真皮まで到達している。重症度で言えば、深遠性2度熱傷か、あるいは3度熱傷、といったところだろう。
一応救急医学の教科書的な知識では、治療期間としては、2度熱傷ならば3週間ほど、3度熱傷なら自然治癒せず拘縮瘢痕が残る、と言われている。

「深いヤケドだけど、狭いし、放っておいたら勝手に治るだろう」と楽観視していたから、患部に特に何を塗るでもなく、自然の経過に任せていた。
すると、表面の傷口はふさがったものの、傷が傷として残ったまま。
これは受傷から3ヶ月経ったときの写真。完全にスカーとして定着していることがわかるだろう。

きれいに治らず、瘢痕化するとは思っていなかった。見通しが甘かった。
こんなふうに瘢痕化したら、基本的にはもう戻らない。
若いときにヤンチャをしていて、手の甲なんかにタバコの火を押し付けた、いわゆる「根性焼き」のある人がいるものだけど、あの跡は消えない。
それと同じことだ。
3ヶ月だろうと3年だろうと、一生この瘢痕は残るだろう。

あえて形成外科に相談に行けば、リザベンの内服とかステロイド注射を勧められるだろうが、効果は限定的だ。最終手段として、手術でケロイド化した部分をごっそり切除して、表皮を上手に縫い合わせる、という方法もないわけではないけど、そんな荒療治はできれば避けたい。

ある文献で、ローヤルゼリーが熱傷に効果的、ということを知った。
自分のこの傷にも効くだろうか。
僕の傷は、もはや「熱傷」というには時間が経ち過ぎている。「熱傷の瘢痕化」あるいは「瘢痕化した熱傷」とでも言うべきで、こんな傷に有効かどうかはまったく未知数だけど、もう他に何も手段がないんだ。
何ら期待せず、ちょっとした人体実験のつもりで試してみた。

まず、塗る前に写真を撮った。受傷から6ヶ月が経っている。
上記の3ヶ月時点での写真と、大して変わっていない。
よーし、これを初期値として、どれだけ回復するか(あるいは回復しないか)、ひとつ、見極めてやろう。

ネットで生ローヤルゼリーを注文し、傷の箇所を覆うように塗った。
塗ると数十分で、乾く。ハチミツみたいにベタつくこともない。
こういうのを毎朝続けた。
塗り続けて1週間。
スカーのナマナマしいピンク色が、少し色あせた感じがする。

さらに根気よく塗り続けて、もう2週間。
表皮の引きつれが、何か良くなってる気がする。

さらに塗り続けて2週間。
瘢痕、というより、シミ、みたいな感じに近くなった。

自分の体でする実験だから、ひいき目にならないよう、客観視するように努めて、傷の変化を追ってきたけど、当初の写真と比較すれば効果は明らかだ。
ローヤルゼリー、僕には効いた。すばらしく効いた。

もちろん当然の反論として、「経時的な変化で自然軽快していた可能性は排除できないよ。放っておいたって治ったかもしれないでしょ。だから、ローヤルゼリーによってスカーが軽快したとは言えないはず」と言われれば、まったくその通り。
対照実験ではないのだから、このあたりがエンピリックな報告の限界でもある。
しかし、美容が専門の先生なら誰でも知っていることだけど、スカーの治療は形成外科医泣かせなんだ。つまり形成外科医は、スカーが「放っておいたら治る」なんてことがあり得ないことを知っている。

瘢痕化した傷に悩んでいる人は、ダメもとでローヤルゼリーを試してみませんか?
症状を完全にとるのは難しいとしても、僕のように軽快する可能性はゼロではないと思うよ。

タイフェア

2019.8.18

明石公園で行われた『タイフェア明石2019』に行ってきた。
タイ料理の屋台や雑貨屋が多く出店してるだけでなく、タイにちなんだ催し物が盛りだくさんのイベントだ。
なかでも目玉は、えび(僕の小学校の同級生で、元プロボクサー)とボクシングをしてダウンを奪えばタイ旅行をゲットできる、というイベントだ。
明石公園のど真ん中、明石城のふもとに、本物のリングが用意されている。

タイフェアの救護係として、また、ボクシングのリングドクターとして、本来なら土曜日勤務のところを休診にして、明石に来たのだ。

後述するようにボクシングが熱戦だったのはもちろんだが、うれしい誤算は、他のイベントも予想外におもしろかったことだ。
いや、より正確には、「催し物を受動的に楽しむのではなく、催し物に能動的に参加する側に回ることになり、結果、ものすごく楽しめた」という感じだ。
まず、会場に到着して早々、運営の人から「タイ・コスプレに参加しませんか?」と誘われた。こういう誘いには、ひとまず乗っかることにしている。二つ返事で引き受けた。
こうして、白衣ではなく、タイの警察服を着て救護テントに詰めるという、思いがけないスタートとなった。

ちゃっかりリングにも上がって、お披露目もしてきた。
「体格とか肌の焼け具合とか、白衣を着る職業には見えない。むしろ、タイ人警察官と言われたほうがしっくり来る」とのお褒めの言葉を頂いた。コップンカー(^人^)

退屈してるんじゃないかと気を遣ってくれたのか、えびが「ミット打ちのイベントに参加しなよ」と声をかけてくれた。
もうどんな誘いにでも乗ってやろうという気持ちだった。
ムエタイのミット打ちのため、今日2度目のリングに。

なんやかんやしてる間に、次第に日が傾き光に赤やオレンジの色合いが混じりだしたころ、本日のメインイベントが始まった。

もうね、無茶な企画なんだ。
4人の猛者が本気でえびを倒しにくる。1人あたり、3ラウンド(1ラウンド2分)を戦う。1人なら何とかなったとしても、それを4人もだよ?体力が持たないって。
「いや、去年は誰も俺からダウンを奪えなかった。今年もいける」
同級生だからわかるんだけど、もう僕らの年齢というのは、体力的には下り坂だ。
日々の健康維持とか体作りを心がけない限り、いや、心がけていたとしても、体力は衰えていく。肉体のピークはとっくに過ぎている。ほんまに大丈夫なん?
「まぁ今年ダウンとられたら、来年はちょっと考えるわ」
試合前、笑いながらそんなことを言っていた。


1人目。
体がでかい。リーチも長い。えびはスーパーフライ級で、階級としては軽いほうだから、両者を並べてみれば階級の差は明らかだ。
実際、苦しい試合になった。リーチの長さを生かして戦う挑戦者に、スピードと手数で勝負するタイプのえびはとてもやりにくそうだった。
かろうじてダウンは免れたものの、3ラウンドを戦って体力の消耗は大きかった。
この1人を抑えればいいんじゃない。あと3人を相手にしないといけないんだ。
さすがのえびも、今度ばかりはダメなんじゃないかと思った。

2人目、3人目。
試合巧者とはこういうことをいうのだろう。えびの上手さが出て、経験の浅い若手相手に、横綱相撲の風格があった。
2人目の挑戦者に対しては、KOすることもできただろうが、えびはそういう勝ち方はしない。「最後まで打ってこい」とばかりにむしろ相手のパンチを受けて、なおかつ、勝ちきる、という試合だった。
3人目に対しても、体格でまさる挑戦者に対して、むしろ相手の得意なボディの打ち合いで応じた。正統なボクシングスタイルで攻めれば、もっと楽に勝てただろうに。
こういうえびの試合展開を、僕はやきもきしながら見ていた。
挑戦者に敬意を表して、相手の全力を受け切って、勝っている。
勝ち方に性格が出ている。紳士そのものだ。しかし、それでは最後まで体力が持たない。

最後の4人目。
この人も元世界ランカーだ。階級はえびと同じだが、最高ランクはえびよりも上だ。
リングそばでスパーリングをしている様子を見た。動きのキレが、これまでの挑戦者と異次元だ。
体力の消耗が激しい今のえびが、果たしてこの人から逃げ切れるだろうか。いよいよKOされるのではないか。僕は、ほとんど胸が痛いような気持ちだった。

とんでもない試合になった。熱戦も熱戦。
双方とも、元世界ランカー。つまり今は現役を引いている。
しかし双方とも、かつては世界チャンピオンを狙う位置にいたし、第一線を退いた今なお、その誇りを失っていない。ハイレベルな2人が繰り広げる駆け引きと、ぶつかり合い。
意地と意地が、リング上で、激しく火花を散らしていた。
解説者が思わず見入ってしまい、言葉が出てこない場面さえあった。
会場全体が、熱狂を秘めた沈黙、といった雰囲気で、リング上の2人を見つめている。
僕は何かしゃべると泣いてしまいそうだったので、横で一緒に見ているごうちゃんに何も話せなかった。途中から「どっちが勝っても負けてもいい、とにかくすばらしい試合だ」という気持ちになって、そういう思いで試合の行方を見守った。

すべての試合が終わった。
誰もえびからダウンを奪えなかった。
つまり、どの挑戦者もタイ旅行をゲットできなかったわけだけど、そんなことはどうでもいい(挑戦者の誰一人として、「タイ旅行に行きたいから」という理由で戦っている人はいない)。
僕は感動した。プレーを通じて人を感動させることができる人のことをプロというのなら、えびはまだまだプロのボクサーだな。
また来年もこの企画をやるのは、僕の心臓に悪いから、もう勘弁してほしいんだけど、きっとまたやるんだろうなぁ^^;

CBDオイル

2019.8.12

きっとCBDオイルが効くだろう、と思われる患者に、現物の瓶を示しつつ、「これは大麻から抽出したオイルで、」なんて説明すると、
え、大麻?!、と血相を変える人がいる。
違法な薬物を扱っているんじゃないか、とでも言いたいようだ。

なるほど確かに、日本には大麻取締法という法律がある。
しかし1948年に制定されたこの法律が禁止しているのは、あくまで、花穂と葉の利用だけである。
具体的には、こうある。
「第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(Cannnabis sativa L.)及びその製品をいう。
ただし大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く」
条文を読めば、茎やタネはこの法律の守備範囲外、ということがわかるだろう。

実際、大麻由来の製品は、僕らの身近にありふれている。
七味唐辛子の「七つの味」の一つは、麻の実で、これはその名の通り、大麻の種そのものだ。
インコのエサにこだわる人にとって、麻の実はなじみ深いものだろう。
麻の実は漢方では麻子仁という。この言葉を聞いてピンときた人は、便秘で麻子仁丸を飲んだことがある人だ。
麻の茎は線維として非常に有用だ。麻紐(ジュート)としてそこらへんの百均に売っているし、丈夫な麻布は敷物(リネン)、服、バッグなどに加工されている。
さらに、麻は日本の文化にも密接にかかわっていて、たとえば神社の注連縄や神道の儀式にも使われている。

大麻は漢方薬に用いられる生薬の一つでもある。
神農本草経という古い中国の書物があって、365種類の薬物を上品(じょうほん)、中品(ちゅうほん)、下品(げほん)の三つに分類している。
上品は無毒で長期服用が可能な養命薬、中品は毒にもなり得る薬、下品は毒が強く長期服用が不可能な治療薬である。
大麻はこの三つのうち、どこに分類されていると思いますか。
なんと、上品です。毎日摂取してもまったく問題ない、というのが神農本草経の教えるところだ。
それどころか、「諸臓器の慢性病や障害を治し、内臓機能の働きを整える。血液循環をよくし体を温める。過量摂取すると狂ったように走り出す。長期服用によって脳の働きが良くなり、体が軽くなる」と記載されている。

日本で古来から使われてきた大麻草が、なぜ法律で取り締まられているのか。
1948年といえば、まだ日本がGHQの占領下にあった時代である。
日本の国草ともいえる大麻を禁止することで、日本の文化を破壊することを狙ったのだろうか(精神的な意味合い)。
あるいは、すでに戦前から様々な疾患に対する有用性が示されていた大麻を禁止して、代わりに西洋医学の薬を広めることが目的だったのか(製薬利権の確保)。
このあたりの事情については、深い考察をした良著がすでにたくさんあるので、僕はあえて踏み込まないようにしよう。
ただ、僕は現場の一臨床医として、目の前の患者をどう助けられるか、ということだけを考えている。
その治療手段が病態の根治をもたらすものであり(対症療法ではなく)、かつ、法律に違反するものではないのなら、使わない手はないと思う。
要するに僕は、「効くものなら何でも使いたい」。単純に現場主義なんだ。

大麻には大麻特有の成分として100種類以上の化合物が特定されているが、特に重要なのは、THC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)だ。
大麻の印象が悪いのは、大麻を吸ってラリってる人がいる、みたいなイメージがあるからだろう。
なるほど確かに、大麻には酩酊成分がある。THCがその本態だ。
一方、様々な薬効はCBDによるものだ。だからこそ、「CBDオイル」なわけだ。
このオイルに含まれているCBDは、茎あるいはタネから抽出したものだ。これなら法律に抵触しない。
THCは花穂、葉に多く含まれている(特に上方の枝ほど、先端部ほど多い)が、この部分の使用は法律で禁止されているため、徹底的に除去されている。
そうでないと、それこそ大麻取締法違反になってしまうわけだから、日本で購入可能などのメーカーのCBDオイルも、この点は厳格に守っている(と思う)。

さて、僕もCBDオイルを現場で使用し始めて以来、患者から様々な反応を得ている。
ある症例を報告しよう(プライバシーに関する詳細は変えてある)。

2歳時に自閉症の診断を受けた22歳男性。
「自傷行為を何とかして欲しい」という母親に連れられて来院した。
幼少時から自分のこぶしで自分の顔や頭を殴ってしまう。それも一回二回じゃない。延々殴り続ける。
母が本人の手を抑えていると、やむ。しかし外すと、再び始まる。
母がつきっきりで手を抑えていないといけないことになるが、これではとても日常生活が成り立たない。
そこで、肘関節が曲がらないよう、両腕は簡易着脱式のギプスで固定されている。
これをつけていれば、腕が曲がらない。だから当然、自分の顔を殴れない。
しかし母としては、我が子にこんなことをするのが申し訳ない。「何かの罪人じゃないんだから。少しでも長く、外してすごせる時間が増えれば」と思っている。
実際外してみて、大丈夫なときもある。食事や入浴などのときは、比較的落ち着いていることが多い。
しかし本人が強いストレスを感じたときや、母の気を引きたいときなど、強く自分の顔を叩く。
母と子は、ほぼ20年間、こういう生活を送ってきた。

母子家庭。親族の協力は得られない。
母としては、いいと言われることは何でもやった。
ABA(応用行動分析)法という、自閉症児などの異常行動を適正化する訓練を行った。
「自閉症の原因はワクチン接種による水銀だ」との説を聞いて、高額なサプリを買ったこともある。
どれもパッとしない。自傷は止まらない。
でも希望は捨てない。情報収集は怠らない。そういうなかで僕のブログを見たことを機に、来院した。

どうしたものだろうか。
僕を頼って来てくれたのはうれしいが、僕もこのような症例は初めてだ。答えはない。手探りでやっていくしかない。
自閉症の原因がワクチン由来の水銀だとすると、栄養療法的アプローチが奏功する可能性はあるはずだ。
食事指導とあわせて、ビタミンCの高用量摂取、亜鉛、セレンなどの有用ミネラルの供給によって、重金属のデトックスを促してみよう。
さらに、有機ゲルマニウムも併用しよう(自閉症児を対象とした研究で大幅に改善した症例があることは、過去のブログで紹介した)。
一か月後。「少しよくなったような気がします。外せる時間が少し、長くなりました」
確かに改善傾向ではある。しかし腕のギプスは相変わらず。
「あせることはない。一か月二か月ではなく、もっと長期的に見ていくことだ。あの研究でも有機ゲルマニウムを1年2年飲んで、改善したのだから」
そう思っていたが、CBDオイルのことを知り、この患者にも勧めた。
当てずっぽうに勧めたのではない。たとえばこの論文を読めば、自閉症患者にはぜひともCBDオイルを勧めたくなる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6287295/

一か月後。来院した母親の顔から、笑顔がこぼれている。
「先生、見てください。この子の腕。ギプスがないです」
これには驚いた。「もうなしでいけるんですか」
「ときどきは出ます。でも、止めればやめてくれるので、もうつけていません」
ビタミンCやマルチミネラル、有機ゲルマニウムを地道に摂り続けた成果がいよいよ出たのか、それともCBDオイルのおかげか。
前者か、後者か、あるいはその両方か。
これは研究ではなく、臨床だから、正確な答えは出ない。
しかし個人的には、CBDオイルが劇的な効果を発揮したのだと感じている。