院長ブログ

ローヤルゼリーと瘢痕

2019.8.19

暑い日が続いている。
レジャー日和だからと海や山などに遊びに行って楽しんだものの、肌が日焼けし過ぎて、ヒリヒリする痛みに苦しんでいる人もいるだろう。
そういうとき、みなさんならどうしますか?
市販のローションやクリームにもいい商品があるかもしれない。
民間療法だけど、アロエにも一定の効果があるだろう。
しかし、ローヤルゼリーが効くことは、あまり知られていないと思う。

『熱傷および日焼けに対するに蜂関連製品の潜在的治療特性』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584917304458
熱傷は皮膚組織に深刻なダメージを与え、その局所のみならず全身にも影響する。
ハチミツやプロポリスなどの蜂関連製品は、皮膚局所に塗布すると抗菌作用があり、治癒を促進することが知られている。
同様の治療効果を持つ蜂関連製品として、ローヤルゼリー、蜂の繭、蜜蝋の有効性を調べるために、64匹のマウス(SKH-1)を使って実験を行った。
半数のマウスに8 MEDの紫外線を照射し、重度の日焼けを起こした。残りの半数に対して、60℃に熱した金属棒を使って第2度の熱傷を起こした。
治療の効果を見るための評価項目として、皮膚の潤い、経皮的水分喪失、皮膚の弾性、皮膚の厚み、抗酸化力(アスコルビン酸、尿酸、グルタチオン)と酸化ストレスを調べ、さらに病理組織像も調べた。
結果、ローヤルゼリー、蜂の繭、蜜蝋のすべてが、熱傷の瘢痕組織の見た目を改善する作用があり、特にローヤルゼリーと蜂の繭には、有意な治療効果があった。

さらに、こんな論文もある。
『デフェンシン1(蜂由来の抗菌ペプチド)の再上皮化促進作用(in vitroおよびin vivo)』
https://www.nature.com/articles/s41598-017-07494-0

ローヤルゼリーは創傷治癒の治療薬として利用されている。ローヤルゼリーには、抗菌作用、抗炎症作用、免疫調整作用など様々な効果がある。ローヤルゼリーのなかに含まれるどの成分がどの作用を担っているのか、抗菌作用についてはわかっているものの、創傷治癒作用についてはわかっていない。
本研究において、角化細胞にローヤルゼリー抽出物を加えるとマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の産生が高まることを我々は示した。
さらに、ローヤルゼリーの存在下では、角化細胞の移動と創傷閉鎖の割合が有意に上昇した。MMP9の産生は、プロテアーゼKで処理をすると大幅に減少したが、加熱しても安定なままであった。このことは、活性化にかかわる因子にはタンパク質的な性質があることを示唆している。
MMP9産生を誘導する因子を特定するために、C18逆相高速液体クロマトグラフィー(C18 RP-HPLC)を使って、ローヤルゼリー抽出物を分画化した。刺激活性を示す部分に、デフェンシン1(蜂由来の抗菌ペプチド)が存在することを我々は突き止めた。
デフェンシン1が角化細胞からのMMP9分泌を刺激し、角化細胞の移動と創傷閉鎖を促進した。さらにデフェンシン1は、非感染性の創傷において、再上皮化と創傷閉鎖を促進した。これらのデータは、デフェンシン1が角化細胞の移動とMMP9分泌を促進することで創傷の閉鎖に貢献していることを示している。

百聞は一見にしかず、で、論文を長々読むよりも、論文のリンク先に載っている写真を見るといい。比較してみれば、ローヤルゼリーがいかに有効かわかる。

上記2つの論文から、ローヤルゼリーがネズミの日焼けや熱傷、創傷に対して有効だということがわかる。
しかし、このローヤルゼリー、人間にも効くのだろうか。
マウスで効いたのだから、おそらくは人間にも効くはず。しかし推測の域を出ない。
はっきり「人間にも効く」というためには、RCTをやるのが一番説得力がある。
しかし人間に無理にヤケドを負わせてローヤルゼリー群とプラセボ群とを比較して、という実験は、倫理的に許されない。
そこで、個人的な症例報告ということになるが、僕自身の話をしよう。

忘れもしない。
今年の正月のことだ。
実家に帰省した僕に、姉が「毎日の仕事で疲れているだろうから」とお灸をしてくれた。
手のツボで、合谷(ごうこく)というのを知っていますか?親指と人差し指の間にあるツボだ。
姉がここにお灸を据えてくれた。
市販のせんねん灸を使ったんだけど、あるミスがあった。もぐさと皮膚をさえぎるパットが外れていて、それに気付かず、皮膚ともぐさが直接に触れ合う形になった。
ムチャクチャに熱かったけど、「これがお灸というものだろう」と思って熱いのを我慢したせいで、大ヤケドを負うことになった。
受傷直後の写真は撮ってないんだけど、受傷から1週間経ったときの画像がこういう具合。

面積は狭いけど、表皮だけではなく真皮まで到達している。重症度で言えば、深遠性2度熱傷か、あるいは3度熱傷、といったところだろう。
一応救急医学の教科書的な知識では、治療期間としては、2度熱傷ならば3週間ほど、3度熱傷なら自然治癒せず拘縮瘢痕が残る、と言われている。

「深いヤケドだけど、狭いし、放っておいたら勝手に治るだろう」と楽観視していたから、患部に特に何を塗るでもなく、自然の経過に任せていた。
すると、表面の傷口はふさがったものの、傷が傷として残ったまま。
これは受傷から3ヶ月経ったときの写真。完全にスカーとして定着していることがわかるだろう。

きれいに治らず、瘢痕化するとは思っていなかった。見通しが甘かった。
こんなふうに瘢痕化したら、基本的にはもう戻らない。
若いときにヤンチャをしていて、手の甲なんかにタバコの火を押し付けた、いわゆる「根性焼き」のある人がいるものだけど、あの跡は消えない。
それと同じことだ。
3ヶ月だろうと3年だろうと、一生この瘢痕は残るだろう。

あえて形成外科に相談に行けば、リザベンの内服とかステロイド注射を勧められるだろうが、効果は限定的だ。最終手段として、手術でケロイド化した部分をごっそり切除して、表皮を上手に縫い合わせる、という方法もないわけではないけど、そんな荒療治はできれば避けたい。

ある文献で、ローヤルゼリーが熱傷に効果的、ということを知った。
自分のこの傷にも効くだろうか。
僕の傷は、もはや「熱傷」というには時間が経ち過ぎている。「熱傷の瘢痕化」あるいは「瘢痕化した熱傷」とでも言うべきで、こんな傷に有効かどうかはまったく未知数だけど、もう他に何も手段がないんだ。
何ら期待せず、ちょっとした人体実験のつもりで試してみた。

まず、塗る前に写真を撮った。受傷から6ヶ月が経っている。
上記の3ヶ月時点での写真と、大して変わっていない。
よーし、これを初期値として、どれだけ回復するか(あるいは回復しないか)、ひとつ、見極めてやろう。

ネットで生ローヤルゼリーを注文し、傷の箇所を覆うように塗った。
塗ると数十分で、乾く。ハチミツみたいにベタつくこともない。
こういうのを毎朝続けた。
塗り続けて1週間。
スカーのナマナマしいピンク色が、少し色あせた感じがする。

さらに根気よく塗り続けて、もう2週間。
表皮の引きつれが、何か良くなってる気がする。

さらに塗り続けて2週間。
瘢痕、というより、シミ、みたいな感じに近くなった。

自分の体でする実験だから、ひいき目にならないよう、客観視するように努めて、傷の変化を追ってきたけど、当初の写真と比較すれば効果は明らかだ。
ローヤルゼリー、僕には効いた。すばらしく効いた。

もちろん当然の反論として、「経時的な変化で自然軽快していた可能性は排除できないよ。放っておいたって治ったかもしれないでしょ。だから、ローヤルゼリーによってスカーが軽快したとは言えないはず」と言われれば、まったくその通り。
対照実験ではないのだから、このあたりがエンピリックな報告の限界でもある。
しかし、美容が専門の先生なら誰でも知っていることだけど、スカーの治療は形成外科医泣かせなんだ。つまり形成外科医は、スカーが「放っておいたら治る」なんてことがあり得ないことを知っている。

瘢痕化した傷に悩んでいる人は、ダメもとでローヤルゼリーを試してみませんか?
症状を完全にとるのは難しいとしても、僕のように軽快する可能性はゼロではないと思うよ。