2019.9.14
かつてアメリカにドクター・セイビー(本名Alfredo Bowman 1933~2016)という人がいた。
「ドクター」という呼称ではあるが、正式な医学教育を受けたわけではない。
ハーブの効用などを独自に研究して自らの治療哲学を打ち立て、多くの患者を病気から救った。
たとえば癌や膠原病、エイズなど、現代医学では治癒が困難とされる難病さえ治したという。
地元の人に細々と健康アドバイスをしていた彼だが、実際に治癒した患者やその家族から口コミで評判が広まった。
1980年代にはニューヨークで「知る人ぞ知る」といった存在になった。
彼の治療哲学を簡単にまとめると、以下のようになる。
・すべての病気は、粘液(mucus)より生じる。
たとえば粘液が蓄積したのが肺であれば肺炎に、膵臓に蓄積すれば糖尿病になる、といった具合。
・体内をアルカリに保つことができれば粘液は生じず、従って病気にならない。
つまり、病気は体が酸性に傾くことによって生じるのであって、アルカリ環境下では存在し得ない。
この二点がドクター・セイビーの基本テーマである。
現代の病気の多くは、食のゆがみから生じる。
動物性食品や人工的に精製した植物、加工食品などが体を酸性にし、粘液の蓄積を促し、体を病気にする。
病気の治療や予防のための食事として、ドクター・セイビーは次のような食事指針を示している。
1.以下の表に記載された食物をのみ食べること。
2.毎日1ガロン(3.8リットル)の水を飲むこと。
3.薬を飲む人は服用1時間前に「ドクター・セイビーのサプリメント」を飲むこと。
4.動物性食品は摂らないこと。
5.アルコールは禁止。
6.小麦の摂取は避け、表に記載された「自然に育った穀物」のみを食べること。
7.電子レンジは食品を「殺す」ため、使用を避けること。
8.缶詰および種無し果物を避けること。
一般的な医者がこの食事指針を見れば、特に2.と3.に対して、相当な拒否反応を示すはずだ。
西洋医学を実践する医者からだけでなく、栄養療法を実践する医者からさえ、批判の声が出てきそうだ。
「水を1日4リットル近くも飲めだって?あきらかに飲みすぎだ」「東洋医学的に言っても、過剰な水の摂取は水毒となって体を冷やす」
「動物性食品がダメってさ、ただのビーガンじゃないの」「肉や魚などが含む動物性タンパク質やビタミンの効用を軽視している」
3.に対しても、「自社製のサプリを売り込もうってのか。なかなかの商売人だね」
いろいろな批判があるだろう。
実際、ドクター・セイビーの理論の正しさを科学的に検証した研究は存在しない。
しかし理屈はともかく、彼の食事指針を守ることで、エイズ、鎌状赤血球貧血、白血病、SLEなどの多くの難病患者が病気から回復し、健康を取り戻してきたことも事実だ。
「表に記載の食品のみを食べ、かつ、私の配合したサプリメントを摂取することだ。これによって、体内をアルカリに保って粘液を減らし、結果、病気を治すことができる」
実際に治療実績のある人の言葉だけに、傾聴する意味はあると思う。
そう、ドクター・セイビーは多くの患者を救ってきた。
しかし妙な話だけど、「結果を出している医療だけに、その存在が許せない」という一部勢力がいる。
1987年ニューヨーク州医学委員会は、彼を「医師免許なしに医療行為を行った」として訴えた。
これに対して立ち上がったのは、彼によって救われた患者たちである。
「ドクター・セイビーは医療を実践しているのではない。我々に精神的助言を与え、食事法を示唆しているだけだ」
結果、検察は彼を有罪にすることができず、無罪放免となった。しかし何としても彼を陥れたい一部勢力は、あきらめない。
今度はニューヨーク弁護士会が彼を「消費者に対する詐欺罪」で訴えた。
原告の訴えが通り、サプリの販売に際して、治療効果を記載することが禁止された。
こうした裁判が起これば、「インチキ療法を実践するニセ医者が訴えられた」と新聞が大々的に取り上げる。
一部勢力に牛耳られたマスコミは、彼が無罪放免になったことは報道しない。
ドクター・セイビーにとっては大きなイメージダウンになったが、それでも、「本物」であるだけに、患者の好意的な口コミは止めようがない。
評判が評判を呼び、ついには、リサ・ロペス、スティーブン・セガール、ジョン・トラボルタ、エディー・マーフィー、マイケル・ジャクソンなど、多くの著名人が彼のもとを訪れて助言を求めるまでになった。
「こんな危ない男を、もはや放ってはおけない」一部勢力の危機感はピークに達した。
2016年彼はマネーロンダリングの罪で逮捕され、刑務所で拘留中に死亡した。
多くの人が彼の死に疑問を持った。
「彼の実践する医療が広まることを、不都合に感じる人たちがいる。そういう一部勢力にはめられ、殺されたに違いない」
しかしただの憶測だ。何も証拠はない。
彼の死から三年が経った。彼を慕う声はいまだに絶えない。
「ドクター・セイビーの功績を、広く世界に、そして後世に、知らしめるべきだ」という有志が集まって、彼のドキュメンタリー映画を作ろうという動きが進んでいた。
グラミー賞にノミネートされたこともあるラッパー、ニプシー・ハッスル(Nipsey Hussle)もその一人だ。
彼はドクター・セイビーの健康法の実践者であり、ドクター・セイビーの死は他殺だと確信していた。
彼の曲にこんなライムがある。”They killed Dr.Sebi. He was teaching health.”
ドキュメンタリー映画の作成にも積極的に協力していて、映画でナレーターを担当する予定だった。
一部勢力にとってよほど目障りだったのか、2019年4月銃殺された。
見せしめとしての効果は十分だった。映画化の動きは頓挫した。
しかし、、ほんまに殺してまうんやから怖いなぁ( ゚Д゚)
さて、個人的には、陰謀論に興味はない。
「こういう説もあるよ」ということで紹介したまでだ。
ただ、医療者として、ドクター・セイビーが実践してきた医療には興味がある。
僕の患者にも有効な治療法があるのなら、ぜひ取り入れたい。
「Dr.Sebi’s cell food」で検索すると、彼の意志を継ぐ人が運営するサプリ販売サイトが出てくる。
まず思ったのは、値段がけっこう高い、ということ。普及を願うなら、もうちょっと安くしたほうがいいんじゃないの?^^;
しかし、ものは試しで、サプリをいくつか買ってみた。
実際に自分で飲んでみたんだけど、、、
もともとが健康なせいか、たいして効果は感じなかった。
ただ、ドクター・セイビーが誠実だなと思うのは、サプリに配合しているハーブを、企業機密にせずに、ぜんぶオープンにしているところ。
どのハーブがどういう症状に有効か、著書で解説してて、その本も買ったけど、なかなか勉強になる。
一番賢いのは、自分の症状によさそうなハーブを、Dr.Sebi’s cell foodのサイトから買うのではなく(やたらに高額)、iHerbとかの別のサイトで買うことじゃないかな。
2019.9.13
須磨学、といえば40歳以上の世代にとっては、女子校で、かつ、勉強にそんなに力を入れてない学校、というイメージだろう。少なくとも僕はそうだった。
20年前は定員割れの「誰でも入れる学校」だった。
生徒は無気力で、ただ「親に高校に行けと言われてるから、通っている」といった様子だった。
卒業生は出身校を名乗ることを恥じた。「勉強のできない子が行くところだな」と神戸に住む人ならすぐわかったし、生徒自身、その通りだと思っていた。母校に誇りなんて、持ちようがなかった。
「ここは勉強を頑張ろうと思っている子が来る学校じゃない。そういう子は、もっと優秀な学校に行く」と思っていたのは生徒ばかりではなく、教師の側も同じだった。生徒の無気力が教師にも伝染し、そういう無気力が長年続いた結果、センター試験の問題さえ解けない教師もいた。
「このままではいけない」と立ち上がった人がいた。須磨学園の理事長である。
共学化し、中高一貫校にするなど、次々と教育改革に取り組んだ。教育の質を高めるため、教師の意識改革も行なった。
徐々に、かつ、着実に、その成果が出始めた。
改革から20年が経った今年度、東大に4人、京大に24人、医学科に56人を送り込んだ。
昔のことを思うと信じられないほどの進学実績で、教育改革は大成功したと言えるだろう。
その須磨学園が行っている取り組みのひとつに、制携帯(制スマホ)がある。
制服が学校から支給されるように、スマホを学校から支給するという、全国でも珍しい取り組みだ。
林修先生が何かの番組で言っていた。
「いつの時代にも、できる生徒、できない生徒がいたものだが、ネット以前と以後で、あるいはスマホ以前と以後で、中高生の学力はどのように変化したか。
上位層はますます伸びている。逆に、下位層は相変わらず下位のまま」
それはそうだろうなと思う。
ネット上にはよくできたサイトがたくさんあって、知識や情報が見事に整理されている。YouTubeにわかりやすい動画がアップされてて存分に自学自習できるし、わからないことがあれば掲示板に書き込んで質問すればいい。
できる生徒は、ネットという武器を上手に使いこなして、ますます伸びるだろう。
20年前のトップレベルの受験生と今のトップレベルの受験生、両者の学力を比べれば、前者は後者にかなわない。
それは前者が後者よりバカだ、ということではない。ネットの登場によって知識の整理が進んだことや、学習の方法や能率が洗練されたことによるものだ。
一方、できない生徒は、ネットがあろうがなかろうが大して関係ない。というか、ゲームにハマったり、よからぬサイトでよからぬことをしたり、ネットがもたらす負の側面をモロに受けてしまうのが、下位層の生徒なんじゃないかと思う。
だから、須磨学園が生徒に制スマホを支給することは、かなりの冒険に違いない。
スマホを勉強にうまく使えば、これほど心強い味方はない。しかし情報の泥沼に足を取られてしまう生徒にとっては、有害無益ということにもなりかねない。
制スマホの支給は、生徒の性善説を信じての判断ということだろう。
子供の頃、わからないことがあれば父に質問していた。父が答えに窮するような質問だと、「辞書ひき」とか「辞典調べり」って言われたものだ。
辞書や辞典を調べてもわからないことも多々あって、わからないことをずっと胸にしまっておく、なんていうことがあったものだ。しかし今や、そういうことはなくなった。
その場で検索すればいい。すぐに答えが出てくる。
知識のあり方が、根底から変わったと思う。
「映画でたまたま耳にした音楽が、すごくよかった。でも、曲名がわからない」
昔なら、それまで、だった。その曲名は、もう一生わからない。でも今は違う。その映画のタイトルで検索すれば、使われていた音楽もすぐわかるし、曲の動画もあるかもしれない。
「寿司屋の大将がウンチクをたれている。本当かな」
昔なら、大将の言うがままだった。でも今は違う。検索すれば、大将の言ってることが間違いだとわかる。いちいち指摘するのも野暮だから黙って聞いてるけどね。
「将棋のある局面の最善手。複雑で、どれだけ考えてもわからない」
昔なら、プロの答えこそが真理だった。でも今は違う。名人さえソフトの前に膝を屈した。局面の最善手を知るには、スマホのアプリでチェックすればいい。
スマホが、父も寿司屋の大将もプロ棋士も全部まとめて、ハリボテにしてしまったようだ。
こういう流れは今後もますます進むだろう。もはや知の権威は、人ではなくAIが握る時代なんだ。
何だかさびしくもあるな。
そう、スマホのおかげで情報伝達の能率は飛躍的に進歩した。でも僕ら、それで大満足かっていうと、そうじゃない。こういう状況は、何だかさびしいんだ。
「どれだけAIが進歩しても、ひとつ絶対になくならない仕事がある。それは、人に謝る仕事だ」という記事をどこかで読んだことがある。
これはすごくわかる気がする。AIに謝られたって、僕らの気持ちは晴れない。
人間の表情を精巧に真似たロボットが、人間心理を徹底的にプログラムされて最上級の謝罪の言葉を述べたとしても、僕らは「謝罪しているのがAIである」という理由だけで、絶対に納得できないだろう。「まぁええからとりあえず生身の人間呼んでこい。話はそれからだ」となるはずだ。
そう、人間って妙なもので、正確なネット情報が得られる環境にありながら、たとえデタラメであっても寿司屋の大将のウンチクに魅力を感じたりするんよねぇ。
2019.9.12
「ルパンの娘」が「あなたの番です」に視聴率で負けている、なんていうネットニュースを見ても、個人的にはドラマは見ないからどうでもいいんだけど(そもそも家にテレビがないんだけど)、「ルパンの娘」っていうタイトルはいいね。
何だか、「カリオストロの城」を思い出す。
「ルパンめ!まんまと盗みおって」と警部が憎々しげにつぶやく。
それをそばで聞いていた姫、「いいえ、あの方は何も盗らなかったわ」とルパンを弁護する。
警部は振り返って、姫の顔をまっすぐ見据えて、言った。
「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」
「心を盗む」なかなかシャレたセリフだ。
このセリフによって、銭形がルパンを追いかける理由に、ポエムな色彩が加わったようだ。
しかし、ルパンに限らず窃盗などの知能犯は、多くの場合、人をあっと言わせるような大胆な方法で「心を盗んで」いるものである(もちろん心だけではなく、金銭も)。
ヴィクトル・ルスティヒという詐欺師がいた。
彼の犯罪のなかで最も有名なのは、「エッフェル塔詐欺」である。
1925年パリにいた彼は、「フランス当局はエッフェル塔の維持費を捻出するのに大いに困っている」旨の新聞記事を目にした。
「これは使える」と直感した彼は、周到な詐欺計画を練った。
高級ホテルの一室を借り、「秘密会議」と称して複数のスクラップ業者を招待した。彼らの前で、ルスティヒはこんな演説を打った。
「自分はフランス郵政省の副長官である。実は当局は、エッフェル塔の維持費をどうしたものかと頭を抱えている。
実はフランス政府は、エッフェル塔をスクラップにし売却することを内密に計画している。
しかしこの計画が途中で一般市民に露見したらどうなるか。「パリの象徴を壊すな」という反対運動が起こるのは目に見えている。
そこで皆さんには、この計画が後戻りできない段階まで進むまでは、他言無用で願いたい。皆さんの紳士としての良心に期待している」
各業者と話をしながら、ルスティヒは誰をカモにしようかと注意深く物色し、アンドレ・ポワソンという男に目をつけた。ビッグビジネスを射止めたい、パリの社交界で何とか成り上がりたいという野心のある男だった。
ポワソンとの面談の場を設け、ルスティヒは彼にこんな打ち明け話をした。「ここだけの話だが、自分は役人として腐敗している。お役所勤めのしがない給料では、自分の望む裕福な生活はできない」ポワソンは、ルスティヒの言外の意図をすぐに察した。「この男は、ワイロを要求している。エッフェル塔の所有権を得てパリの社交界で一躍注目を浴びる存在になる代わりに、ワイロをよこせ、と。悪くない条件だ」ポワソンは同意し、ワイロとエッフェル塔入札の手付金をルスティヒに手渡した。
こうしてまんまと金をせしめたルスティヒは、すぐさまオーストリアに逃亡した。
ルスティヒは「ダマされたことに気付いても、プライドの高いポワソンのことだ、恥ずかしさのあまり、そのことを口外しないだろう」と踏んでいた。オーストリア滞在中も新聞報道をチェックしていたが、予想通り、エッフェル塔の一件は記事になっていなかった。そこでルスティヒはパリに再び戻って、もう一回同様の詐欺を企てた。
別の業者を招待し、エッフェル塔をスクラップにする話があることを持ち出した。しかしすぐに、場内の違和感に気付いた。詐欺の通報を受けた警察が張り込んでいたのだ。逮捕を免れようとして、ルスティヒはアメリカに逃亡することになった。
詐欺師を意味する英語には、swindler、imposter、crook、quackとか複数あるんだけど、絶対日本語にない表現だなと思うのが、con artist。「ダマしの芸術家(artist)」ということで、微妙に賞賛のニュアンスを含んでいるようだ。
ルスティヒはまさに、con artistと呼ぶにふさわしい詐欺師だと思う。
頭の回転がずば抜けて早く、人間心理に精通していて、うまくダマすための準備には決して手を抜かない。その才能を生かせばビジネスで普通に成功することもできただろうに、そこは生まれついての悲しい性だろう、裏社会で生きていくことしかできないのだった。
さて、アメリカに渡ったルスティヒは、相変わらず詐欺師の本領を発揮していた。
「ルーマニアボックス」という金を無尽蔵に印刷できる機械(もちろんウソ)を言葉巧みに売りつけて、人々から大金を巻き上げたりした。
心に闇を抱えた人間は、互いに引かれあうものである。ルスティヒは当時のアメリカマフィアを牛耳る大ボス、アル・カポネと付き合うようになり、なんと、彼と親しい友達になった。詐欺師だからある意味当然だけど、やっぱり人の心をつかむのが天才的にうまいんだな。
ルスティヒの恐ろしいところは、彼はこのマフィアの親分からさえ、金をダマしとった。ヤクザから金を巻き上げるとか、バレたら百%殺されるわけで、頭どうかしてるよね^^;
その手口はこうである。
ちょうど世界恐慌でアメリカが大不況の時期だったこともあって、ルスティヒは困っていた。詐欺をするにも、そのための資金がいるのだ。そこでルスティヒは、カポネに頼むことをした。「アル、次のシゴトをするタネ銭の工面に困ってるんだ。よかったら5千万円ほど貸してくれないか。うまくいけば色をつけて返すからさ」
不況のあおりもあって、5千万円はカポネにとっても安くはない額である。しかし、エッフェル塔詐欺、ルーマニアボックス詐欺など、歴史に残る鮮やかな詐欺をしてきた伝説の詐欺師であり、友人である。その彼の頼みを聞いてやることは、むしろ喜びでもあった。カポネは承諾し、金を貸した。
さて、ルスティヒはその金をどうしたのか。
何もしなかった。一切手をつけず、ただ金庫に寝かせておいた。
2ヶ月後、ルスティヒはカポネに、申し訳なさそうに言った。「実はミスってしまったんだ。すまない。変に期待だけさせてしまって。でも借りた分の金はきっちり返すよ。何とか都合をつけてきたんだ」
言いながら、5千万円をそのまま返した。
カポネは心を打たれた。「なんて正直な奴だろう。失敗はしたものの、何としてでも金は返す。その心意気、気に入った」
シゴトに失敗したということは、この不況下、普通に生活をするだけの金にも困っているに違いない。カポネは「これで何とか急場をしのげよ」とポンと5百万円をルスティヒに渡した。「返さなくていい。天才詐欺師だって失敗することもあるだろう。それより俺は、お前が気に入ったよ」
こうして、まんまとカポネから金をちょうだいすることに成功した。すべて計画通りだった。
心を盗む、とはこういう詐欺のことをいうんだね。
参考
ウィキペディア
“Victor Lustig”
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Victor_Lustig
2019.9.12
「手かざし」に頼る池江璃花子に「治療の遅れ」心配する声
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190910-00000011-pseven-ent
「科学的根拠のない治療の犠牲になって、かわいそうに」という声がある。
一方、科学的根拠があるとされる抗癌剤治療を行ったために、放っておけばもっと長生きできたところ、さっさと死んでいく人もいる。
池江さんの場合、すでに抗癌剤治療を受けていて、その上で「手かざし」療法も受けている。
仮にすっかり回復してオリンピックに出場するとなれば、抗癌剤治療擁護派、手かざし療法擁護派、双方が「彼女が病気から回復したのはうちの治療のおかげだ」と、自分の功績を主張するだろう。
逆に、仮に病状が悪化すれば、双方が批判しあうだろう。
「若い体に抗癌剤など投与しては、選手生命どころか、生きることさえ危険にさらすことになるのは、事前にわかりきっていた。最初から手かざし療法のみに専念していれば、今頃は健康体に戻っていただろうに」という批判があがる一方、
「手かざし療法などというエビデンスのない治療法に惑わされて、標準治療がおろそかになったことが、病状悪化の最大の原因。21世紀のこの時代に、呪術レベルの『治療』が跋扈しているのは、恐ろしいことだ」と、批判の応酬が繰り広げられる。
真実はどこにある?
個人的には、どちらにも分があると思う。
人間は、いろんな治り方をするものなんだ。
化学療法に絶対の信頼を置いているなら化学療法で治ることもあるかもしれないし、手かざし療法についても同様のことが言える。
プラセボを飲んでたって治るときは治るんだから、人間の信じる力(思い込みの力)こそ、何よりの治療なんだな。
アフリカの一部地域では、今もシャーマンがいて、西洋医学の医者よりも強い影響力を持っている。
その地域では、病気は恨みをかった人から『呪い』をかけられることによって起こる。そこで、呪術師のところに行って『呪い返し』をしてもらう。すると病気が治り、今度は『呪い返し』を受けた人が病気になる。
『呪い』ということの威力をみんなが信じている社会では、こういうことが本当に起こるんだ。
人間というのは、体と心の半分半分。精神の影響は、決して軽くない。
さらに、個人の思いだけでなく、その地域のみんなが信じているとなれば、現実的な力は絶大だ。
そういう意味では、お金も一種の呪いだね。紙幣と呼ばれるあの紙切れの力をみんなが信じているから、本当に力を持つことになるんだな。
呪うことで病気になる、という現象は、かつての日本にも当たり前に存在していた。
北野天満宮は菅原道真の呪いを鎮めるために建立されたし、安倍晴明のような陰陽師が政治的な力さえ持つほど信用されていた。
源氏物語には、嫉妬に狂う六条御息所の生き霊が、夕顔や葵の上を呪い殺す描写がある(しかし『呪い殺す』ってすげえ表現だよな^^;)。
千年前の日本人は皆、「人を呪う」ことの影響を信じていたし、その力を恐れていた。
やがて時代が進み、明治以降、科学万能の社会になった。
目に見えない非科学的なことは、もはや誰も信じなくなった。
それでも、僕ら現代人も心のどこかには、呪術的なことを恐れる気持ちが残っていると思う。
小学生のとき、『エクソシスト』を見てトラウマになりそうなど怖かった。スプラッターもののホラーは、「怖い」というか単に「びっくりする」だけで、どうってことはない。でも『エクソシスト』の悪魔祓いというテーマは、かつての日本人が普通に持っていた呪いを恐れる感覚を刺激するところがあるのだと思う。何とも言えない不気味さがあったな。
「頭の中で声が聞こえます」という30代男性。
「僕の先祖には比叡山で修行を積んだ行者がいて、僕にもそういうシャーマンの気質が流れているんだと思います。
頭の中の声は、最初は神様の声でした。僕はとてもうれしかった。いよいよ僕も神託が聞こえるようになったか、と思いました。
でもその声は、やがて神様のものではなくなりました。悪魔とも何とも言えない、とにかく不愉快な声になりました。
何かに取り憑かれたのかもしれない、と思いました。
ネットで探して、除霊のできる有名な気功師に連絡をとりました。名前、生年月日、住所さえわかれば、気をとばすことで施術できるということなので、遠隔で除霊をしてもらうことになりました。
その方の遠視によると、先祖が人から強い恨みをかったため、その怨念が僕の家に取り憑いていて、僕の心身の不調もそのせいだとのことでした。
気を送って除霊をしてもらっているとき、電話越しにですが、何か非常に、ビリビリとしてものを感じました。これが気か、と思いました。劇的に効いたわけではありませんが、少し効果があったように感じました。
それで、そうやって何度か電話で遠隔治療を受けましたが、効果はいまいちパッとしません。治療費が高額だったこともあって、結局途中でやめてしまいしました。
その後もネットを検索していて、有名な霊媒師を見つけました。その人も遠隔で霊視や除霊ができる、とのことでした。とても人気のある霊媒師で、2ヶ月待ちということでしたが予約をいれました。
その人に遠隔で霊視をしてもらったところ、電話越しに、こう言われました。『あなたの症状は呪いによるものでもなければ、霊障でもありません。単純に病気です。おそらく統合失調症です。家にもあなたにも、霊は取り憑いていません。いいですか、まずあなたがするべきことは、病院に行き、適切な医師の診察を受けることです』
それがきっかけで、自分が病気である可能性を考えるようになり、こうやってここのクリニックに受診することにつながりました」
この話には、なかなかの含みがある。
まず最初の気功師の遠隔施術で、症状が確かに軽快したように感じたこと(かつ、寛解までには至らなかったこと)。
信心深い人が高額な費用を払っていることもあって、プラセボ効果が生じる下地は十分整っているけど、それだけではないようにも思う。
個人的には、気は実在すると思っている。送られた気をビリビリと感じる感覚は、僕にも経験がある。霊がどうのこうのの理屈は僕には理解できないけど、気功師としての実力は一応本物だったんじゃないかな。しかし、やはり統合失調症を気功(あるいは除霊)で治すことは困難だったようだ。
興味をそそられるのは、2ヶ月も順番待ちの人気霊媒師の話。商売っ気だけの人なら「病気だから病院行け」なんて、客を逃すようなことは言わない。
本物の霊媒師っていうのもいるのかな。
2019.9.6
頭痛を訴える患者。
問診で、毎日コーヒーを飲んでいることがわかった。
「コーヒーをやめてみませんか」と勧めた。
鎮痛薬や頭痛薬の処方よりは、そちらが根本だろう。足し算よりも引き算で治るのなら、それに越したことはない。
「いやぁ、正直それは難しいですね。仕事の合間のコーヒーが、すっかり習慣になっていますので。それに、コーヒーを飲めば頭痛がラクになる感じもありますし」
そう、『カフェインは頭痛の原因か、治療薬か』という問題は、研究者の間でも議論がある。
カフェインは、それ自体に痛みを抑える作用があるし、市販の鎮痛薬と併用すれば鎮痛作用が相乗的に高まる可能性が示唆されている。
カフェインが効くのは緊張性頭痛と片頭痛であって、それ以外のタイプの頭痛に効くエビデンスはない、ともある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29067618
一方、カフェインこそ頭痛の原因だ、とする説もある。
たとえば、メイヨークリニックのこんな研究。
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/nutrition-and-healthy-eating/in-depth/caffeine/art-20045678
カフェインの過剰摂取(400mg以上。だいたいコーヒー4杯くらい)によって頭痛が起こる可能性を指摘している。
頭痛の発生機序には不明な点も多いが、カフェインの利尿作用が関係している可能性がある。つまり、コーヒーを飲めば脱水が促され、脱水のせいで頭痛が起こっているのではないか、ということだ。
さらに、カフェインの離脱症状によって頭痛が起こることも指摘されている。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0213485315000158?via%3Dihub
カフェインで頭痛を抑えている人が、カフェインをやめれば頭痛に苦しむことになるというのは、ある意味当然の話だろう。
困ったな。
カフェインは頭痛の味方なのか敵なのか、学者の間でも意見が割れている。
目の前の患者に、どうアドバイスしたものだろう。
こういう場合は、ゼロか百かではなく、とりあえず穏当に「完全にコーヒー断ちすることはないですけど、控えめでいきましょう。1日2杯までにしときましょうか」
鎮痛薬や頭痛薬も必要なら使えばいい。でも、痛み止めはあくまでその場しのぎであって根本治療ではないことも併せて伝えておく。
「あと、コーヒーを我慢するというか、別の飲み物、たとえばハーブティーに切り替える、というのも手かもしれません。フィバーフュー(ナツシロギク)のお茶なんて頭痛にすごくいいですよ」
さて、痛みに対するアプローチとして、個人的に注目しているのは有機ゲルマニウムとCBDオイルだ。
虫歯やヤケドなどの局所的な痛みなら、そこに有機ゲルマニウムを直接塗布するといい。
癌性疼痛に対しては、CBDオイルが効く。アセトアミノフェンでは全然効かないが、かといってモルヒネは便秘などの副作用が厄介だ。そういうとき、CBDオイルが非常に使い勝手がいい。ほとんど副作用がないから安心して使えるし、それどころか、抗癌作用、食欲改善作用などのプラスの効果さえ期待できる。
CBDオイルは頭痛に対しても有効だ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30883435
痛みという現象は脳で知覚されるわけだが、このプロセスには脳内の内因性カンナビノイド受容体が関与している。
アナンダマイド(内因性カンナビノイドのひとつ)は、トリプタン製剤(頭痛薬)と同じ痛覚伝達経路に作用して、抗炎症・鎮痛作用を発揮することが示されている。
頭痛薬と同じような作用機序で効くのなら、CBDオイルを使えばいい。副作用の多い頭痛薬をあえて使う理由はない。
そこで、患者にCBDオイルの併用を勧めた。
後日、来院した患者がいう。
「効きました。頭痛のせいで眠れなかったり、寝ても頭痛で起きてしまうぐらいなんだけど、寝る前にCBDオイルを5滴くらい飲むようにしたら、そういうことがなくなりました。
あと、不眠が改善しました。
以前、先生に勧められてアシュワガンダを飲んでて、よく眠れてたんですけど、飲みきって以後、飲むのをやめてたんです。
すると頭痛がひどくなって、眠れなくなりました。アシュワガンダが頭痛を抑えてくれてたのかな。
アシュワガンダは飲み始めて15分くらいで効き始めて、マイルドに眠りに落ちる感じです。
CBDオイルは、飲んですぐ、1、2分で効き始めます。急激に寝落ちする感じです」
頭痛を訴える患者のなかには、『内因性カンナビノイド欠乏性頭痛』とでも呼ぶべき患者がいて、そういう人にはCBDオイルが著効するのかもしれない。
さらに、コーヒーは何らかの機序で内因性カンナビノイドを消耗させるのかもしれない。
患者の体験談は、教科書や文献よりも多くのことを教えてくれるものだね。