2020.1.13
アミノ酸の樽理論(barrel theory of amino acids)、というのがある。
百聞は一見にしかず。この図を見ていただくと早いだろう。
アミノ酸はざっと20種類(体内で合成できない必須アミノ酸は9種類)知られているが、最も少ない摂取量の必須アミノ酸が、他のアミノ酸の利用効率を規定している、という考え方のことだ。
たとえば上の図でいうと、リシンやスレオニンの摂取量が低いため、他のアミノ酸、イソロイシンやバリンをいくら摂ったところで、利用されずに排出されてしまう。
たとえば、異性を選ぶとする。顔、スタイル、性格、知性、年収など、いろいろなチェックポイントがあるだろう。
樽理論にもとづいて異性を選ぶとすると、「あの人、頭がよくてルックスも素敵なんだけど、酒癖が悪くて」とか「かわいくてスタイルがよくても、頭の悪い女はダメなんだ」という具合に、「結局その人の、最も魅力に欠ける属性が、その人に対する最終評価」ということになる。
学校の定期テストでは、英語、数学、理科、社会など、いろいろな科目の試験を受けるけど、樽理論による評価だと、「苦手の数学が40点、他の教科は満点」の生徒の評価は40点、ということになる。
ずいぶん無駄が多いシステムのような気がしませんか?本当に生物は、アミノ酸の利用に際して、樽理論を使っているのかな?そもそもこの理論の初出は?文献で確かめられた事実なのか?
このあたりを調べてみた。
最初に言いだしたのは、農業学者のカール・シュプレンゲル(1840)である。彼は「生物の成長は利用可能な資源の総量によって規定されるのではなく、最も不足した資源(制限因子)によって規定される」と考えた。この理屈が「農業だけではなくて広く一般に成り立つのではないか」と考えたのがリービッヒで、『リービッヒの最少法則』として広く知られるようになった。
「鎖の強さは、結局一番弱い輪っかの強度でしかない」というふうに表現されることもある。
この性質、チームプレーをするスポーツでも成り立ちそうな気がする。一人だけ下手なプレーヤーがいれば、相手チームはその弱点を徹底して突くだろう。「その選手の下手さが、そのチームの強さ」なわけだ。
人間の栄養素にもこの最少法則が成り立つのではないか、と考えたのは、ウィリアム・ローズ(1931)である。ベジタリアンが必須アミノ酸を適切に補うために、様々な野菜から各種のタンパク質を補うことを彼は勧めた。
各種のアミノ酸を単離して、それが健全な成育のために「必須」か「非必須」かを検証していく。現在、必須アミノ酸といわれているものは、一応そういう研究の裏付けがあるものなんだけど、世界を見渡せば、そういう理屈に合わない現象は無数に観察されている。
たとえば、パプアニューギニアの原住民の食生活。彼らが食べているのは、基本的にタロイモとかヤムイモなどのデンプン質だけである。動物性タンパク質はほとんど摂取していない。それなのに、若者たちは筋骨隆々とした体をしている。なぜだ?理屈に合わない。なぜ彼らは健康を保つことができるのか。このあたりの研究はヒプスレーとクレメンツ(1950)に始まる。
一番不可解なのは、彼らがアミノ酸をどこから得ているのか、ということだ。
そもそもアミノ酸とは何か。
ざっくり説明すると、この図にN(窒素)が含まれているでしょう?これが炭水化物や脂肪にはない、アミノ酸(タンパク質)の特徴なんだ。
動物性タンパク質を食べていない人は、このNの供給を絶たれている状態。インがないのだから、アウトも存在しないに違いない。ところがパプアニューギニア原住民の糞便と尿に含まれる窒素量を調べてみると、窒素がしっかり排出されている。
この事実を説明する仮説としては、以下の二つが提唱されている。
・腸内細菌による窒素固定
・尿素の再利用
前者に関して、パプアニューギニア原住民の便を調べたところ、窒素固定する菌種が確かに見つかった。空気中には窒素が大量にある。これからNを吸収できれば、確かに能率的だ。
後者に関しても、やはり腸内細菌が関わっている。腸内細菌のなかにはウレアーゼ(尿素分解酵素)を持つものがいて、これによって、腸内に排出された尿素がアンモニアに分解され、このアンモニアが再びアミノ酸に変換される。つまり、排出されたゴミ(尿素)が、腸内細菌による処理(ウレアーゼ)によりよみがえり、再びアミノ酸として再利用されているわけだ。
このあたりは今も精力的に研究が行われている分野で、たとえばこんな論文がある。
『ヒト腸内細菌叢における窒素固定とnifH多様性』
https://www.nature.com/articles/srep31942
要約
「ヒトの腸内で窒素固定が起こっているという仮説があるが、腸内細菌に本当にこんなことができるかどうかはまだわかっていない。そこで我々は、ヒト糞便中の腸内細菌における窒素固定活性とニトロゲナーゼ還元酵素(nifH)遺伝子の多様性を調べた。なお被験者は、パプアニューギニア人と日本人であり、窒素摂取量は少ない者から多い者まで、様々である。
15N2取り込みアッセイ法により、個々人の窒素摂取量とは無関係に、すべての便標本中に15Nが有意に増加していた。これはアセチレン還元アッセイ法でも確認できた。固定された窒素は、ヒトでの標準的な窒素必要量の0.01%に相当していた(しかし実際のin vivo(生体の腸内)ではこの割合よりもっと高いものと思われる)。
nifH遺伝子をクローニングしてメタゲノム解析したところ、二つのクラスターに分類された。ひとつは、ほぼクレブシエラ属と同じシークエンスからなるものであり、もうひとつはクロストリジウム属のシークエンスに似たものである。これらの結果は、他のヒト集団を対象とした糞便メタゲノムのデータベース解析と一致するものである。
要するに、ヒトの腸内細菌叢には窒素固定を行う潜在能力があり、これはクレブシエラ属とクロストリジウム属が行っている可能性がある。しかし、こうした窒素固定活性が宿主の窒素バランスに貢献しているとするエビデンスは得られなかった。」
世の中には、「不食」を実践する人がいる。つまり、食べずに生きている人が、本当にいる。
VIDEO
ほとんど「びっくり人間」のレベルだから、皆さんが彼らを真に受けて、実践しちゃいけないよ(せえへんか^^;)。
ヒラ・ラタン・マネク氏の不食は、NASAの研究員が確認しているから、エビデンスとしては固い。
不食が可能である背景に、腸内細菌が関与しているのは間違いないと思う。
不食はさすがに極端だから一般的なムーブメントにはならないだろうけど、動物愛護の精神から肉食を極力控える、という思想には、個人的には共感できる。
「健康の維持には肉食は必須。特にビタミンB12は動物性食品以外から摂取することはできない」みたいなのが、一般の栄養学の教えるところである。つまり、この教えに従えば、僕らは動物を殺すことなしに生きることはできない、ということになる。
そうなのかもしれない。人間が原罪を背負って生きていくというのは、そういうことなのかもしれない。
しかし、そうじゃないことを示す反例もたくさんある。
僕の中にもまだ答えはない。
2020.1.12
【結論】どんな病気も、結局キャベツ食っときゃ治るんじゃね?、という話をします。
いろいろな食事法や栄養素の研究をしている人にとっては、身もふたもないような話です^^;
パスカルは「人間とは、考える葦である」と言ったが、医学的には「人間とは、一本のチューブである」。
口に始まり、お尻に終わる一本のチューブに、様々な物質を送り込む。噛み砕き、嚥下し、消化し、排泄する。そういう作業を70年80年ほどの間、毎日繰り返し、やがて機能が低下して、死ぬ。純粋に機能の観点だけから見れば、人生とは、このチューブの運用作業なんだ。
健康のためには、このチューブを大事にしないといけない。変なものを通過させて、負担をかけてはいけない。具合が良くないときには、適切なメンテナンスをしてやることだ。
そのメンテナンス法について、ソールがそのヒントを書いているので、紹介しよう。
『消化器症状について』
http://www.doctoryourself.com/colitis.html?fbclid=IwAR0Z7teqIwgoiJzUxQmjhjSV0DzmjX-CVY5SzyHQu8UO3-5nwcyTEcO_h-s
「消化管の長さは優に20フィートを超える。小腸を取り出し、切り開いて面積を考えれば、バスケットコートの半分ほどの広さになる。都心にあればちょっとした地価のつく不動産になるだろう^^
消化管の病気というのは、大腸炎、潰瘍、胃けいれん、過敏性腸症候群、クローン病など、山ほどあるが、結局、すべて「同じ問題が別の場所に現れている」だけのことだ。
その問題とは何か?これは二つある。
全身性毒血症(要するに、体の汚染)と、栄養不良。この二つである。
一方は「良からぬものを摂りすぎている」ということであり、もう一方は「摂るべきものが足りていない」ということである。
消化器系の病気の人は、胃腸に負担をかける習慣をやめないといけない。タバコ、アルコール、肉の食べ過ぎ、添加物、ストレス。まずはこういう負担をできるだけ取り除いてやることだ。もちろん、上等なワインを適量楽しむことや、天然の肉を適量摂る分にはかまわない。
胃腸にダメージを与えるようなこういう習慣をやめないままでは、どんなに有効な治療法に取り組んだところで、回復の望みは薄いだろう。
なぜ酒やタバコがダメなのか、わざわざ説明、要りますか?早い話、どちらも消化器系の癌の発生率に明らかに関与しているのだ。
医者のなかには、患者の生活習慣の改善を指導しない人もいる。「酒とタバコ?適量楽しむ分にはけっこうですよ」「肉?いくら食べてもかまいません」「添加物?そんなに神経質になる必要はありません」
これでは患者は治らない。植物ベースの食事に移行し、加工食品をやめる患者の努力は、必ず報われるものだ。
植物ベースの食事には大きなメリットがある。かさ(容量)が豊富で、ビタミンCやカロテンが豊富であることだ。
ベジタリアン食は安価だし、しかも体形もスリムになる。食器洗いも楽だろう。「食物繊維が多すぎるのではないか」と心配する向きには、ジューサーを勧めたい。
消化管の表面は上皮組織で覆われている。上皮組織を構成するのは、”皮膚”細胞である。つまり、”皮膚”は体表だけではなくて、体の内側の表面も覆っているのだ。
要は、チューブである。外側は防水加工のちょっと固めのゴムで、内側は柔らかめのゴムという違いはあるが、いずれも上皮細胞である。そして、上皮細胞の構造をしっかり保つためには、ビタミンAとCが必須である。果物や野菜が必要な理由はまさにここにあって、こうした生鮮食品にはこれらのビタミンが豊富なのだ。
さらに、ベジタリアン食はかさばる(体積が大きい)もので、このおかげで便が柔らかくなり、便通がよくなる。排便するときに力まなくてもいいおかげで、腸に不要なストレスがかからない。
度重なるストレスで腸が過敏になっている人は、一時的にでもいいから、生野菜をジューサーで砕いて、飲むといい。吸収能力が落ちている腸にはとても消化しやすいし、味も思いのほかおいしいことに驚くだろう。こういう野菜ジュースを飲んでいれば、カロテンを豊富に摂取できるから、あえてサプリメントのビタミンAをとる必要はない。
数年前に断食を勧めるハリー・ベンジャミン博士の著書を読んだ。彼の提唱する健康法は時の経過の試練に耐えている。つまり、”本物”ということだ。胃腸症状のある人は、断食するという、ただそれだけのことで、ずいぶん楽になる。消化のために働き通しの胃腸に”休息”を与えることで、腸の上皮細胞の修復が促される。腸上皮のターンオーバーは3~5日とされている。つまり、それだけの期間断食すれば、腸壁はすっかり修復される、ということだ。
下水道の修繕をするとなれば、まず、水の流れを止め、そして修繕作業を行い、再び水を流すものでしょ?体も同じこと。短期間の断食が体にいいのは、実に筋が通っている。
水だけを飲む断食で、うまくいく人もいるが、このやり方だと、だるくなったり頭痛がする人もいる。そういう人には、野菜ジュース断食を勧めたい。野菜によってビタミンCとA、ナトリウムやカリウムなどの電解質ミネラルを摂取できるし、微量ながら炭水化物も含まれているので血糖値も安定するので、ずいぶん楽にできるだろう。しかも効果は水断食と比べても遜色ない。
野菜ジュースは一体、どれほど効果があるのだろうか。ガーネット・チェニー博士の報告を紹介しよう。100人の胃潰瘍患者に、1クォート(0.946リットル)の生キャベツジュースを毎日飲むように指導した。
効果は劇的だった。胃痛がなくなり、レントゲン所見でも回復スピードが明らかに早いことが確認された。食事は他に何も変えてないし、薬物治療も行っていない。ただ、生キャベツジュースを加えただけだ。
患者の81%は、1週間以内に症状が消失した。患者の3分の2以上は、たったの4日で効果を実感した。なお、一般的な病院で行われる標準治療により回復に要する期間は、平均1か月以上である。(Cheney, G: “Vitamin U Therapy of Peptic Ulcer,” California Medicine, vol. 77, number 4, October, 1952)
「なぜこんなに効くのだろうか。何らかの成分が効いているに違いない。しかし、その成分をさす言葉はまだ存在しない」そこでチェニー博士は、仮にその成分を、ビタミンU(Ulcer:潰瘍のU)と呼んだ。
今日、キャベツ科(アブラナ科)の植物(スプラウト、カリフラワー、ケール、ブロッコリなど)には抗癌作用があることが認められている。
チェニー博士のこの生キャベツジュースの症例報告は、70年近く前に行われたものである。70年前に効いたのだから、今効かないと考える理由はない。わざわざ病院に行って、胃潰瘍の診断を受けて処方箋もらって、薬を飲んで1か月間効果が出るのを待って、とする必要、ありますか?生キャベツジュース飲んどけばいいやんか!
直腸から原因不明の出血に悩んでいた人がいる。食事の改善を思い立ち、断食と同時にベジタリアン食に変えて、キャベツジュースを始めたところ、あっさり治ってしまった。主治医がその回復ぶりに驚いて、一体何をしたのか、と尋ねた。キャベツジュースのことを話したところ、彼は言下に答えた。「キャベツで治るなんて、そんなことはあり得ません」
医学は一体、70年前よりも進歩しているのかな?
2020.1.11
カール・ルイスはオリンピックで通算10個のメダル(金メダル9個、銀メダル1個)を獲得した。ことさら言うまでもなく、極めて優れた身体能力のアスリートだった。
才能によるものだろうか。環境によるものだろうか。
そう、才能はあった。両親は元陸上選手で、兄はサッカーの元アメリカ代表選手、妹も走幅跳びの選手でメダリスト。身体能力に遺伝性があることは間違いない。
才能のある人が血のにじむような努力をすると、金メダルを9個もとるような超人が生まれるわけだ。
彼はどんな努力をしたと思いますか?
一流のトレーナーをつけて、フォーム(姿勢、腕のふり、膝のあげ方など)を研究し、日々練習に明け暮れた。
さらに、食事にもこだわった。世界で勝てる体を作るには、何を食べればいいだろうか。
ジョコビッチがグルテンフリー食に変えることで無敵のテニスプレーヤーになったように、食事こそがライバルから頭ひとつ抜き出るための秘訣だということを、一流のアスリートは知っている。
カール・ルイスのたどり着いた結論は、なんと、ベジタリアン(菜食主義)だった。
ベジタリアンと一口に言っても、いくつかの種類があって、たとえば獣肉は食べないが魚や卵、乳製品は食べるペスコ・ベジタリアン、乳製品だけはオッケーとするラクト・ベジタリアン、動物由来のものは一切摂らないビーガンまで、程度に差があるが、ルイスが選択したのは、ビーガンだった。
低糖質高タンパク食こそが健康への道、と説く医者が聞けば、卒倒するような話である。「動物性タンパク質の摂取を一切断つとなれば、アスリートとしてのパフォーマンスを高めるどころか、健康を維持することさえできないだろう」ルイスの周辺の多くの人が心配して親身な助言をしたが、彼の決意は固かった。
「菜食主義で世界レベルのプレーができるのか。皆、疑問に思うだろう。しかし僕は、アスリートとして成功するために、動物性のタンパク質は必要ないということを実証した。
実際、僕の陸上競技人生で最高の年は、ビーガン食を始めたその年だった。ビーガン食を継続することで、体重は今も変わらない。食事は楽しいし、気分もいい。ビーガン食で何ら不調はないよ。
肉が好きだった父の影響で、僕も昔は普通に肉を食べていた。
ヒューストン大学にいた頃には、食事をしょっちゅう抜いていた。
重いものを持っていては、速く走れないし、遠くに跳べないだろう?体の軽さこそ、一番大切なことだと思って、いかに体重を落とすかを考えていたんだ。
朝食は食べない。昼に食べるのは、週に2回ほど。夜はしっかり食べる。寝る直前とかに。今思えばひどい食事だった。まったく間違っていた。まず、食事の絶対量が足りない。それに食事の消化には4時間ほどかかるから、寝る直前に食べちゃダメだ。
これではいけない、何か方法がないものか、と思って、情報を模索していた。そんなとき、僕の価値観を変える人物二人に出会った。
一人目は、”ジュースマン”として有名なジェイ・コーディッチ。ヒューストンのラジオ番組に、果物や野菜を砕くジューサーの宣伝に来ていたんだ。「毎日16オンスの新鮮なしぼりたてのジュースを飲めば、エネルギーや活力がみるみる湧いてきて、免疫も強くなるし、どんな病気にもかからないよ」と彼から聞いた。
その数週間後、ジョン・マクドゥガル博士に出会った。栄養と健康について書いた最新著書の宣伝に来ていた博士と話す機会があって、彼からベジタリアン食のすばらしさを聞いた。
1990年7月、ビーガンになろうと決意した。あのときのことは今でもはっきり覚えているよ。ちょうどヨーロッパの大会に参加しているときで、土曜の夜にスペインソーセージ食べた。僕が食べた肉は、それが最後だ。その翌日から、完全なビーガン食に切り替えた。「食事を抜く」スタイルから「一日中食べる」スタイルになったわけで、最初はかなりきつかった。塩っけが欲しかったけど、風味付けにはレモンを使って、我慢した。
1991年の春、ビーガン食を始めて8か月後、体がだるくて、やっぱり動物性タンパクが要るんじゃないかなって感じていた。でも、マクドゥガル博士は、「そのだるさはカロリー不足によるものだ。1日に何時間もトレーニングしてるわけだから、当然のことだ。動物性タンパク質が不足しているせいでだるくなっているんじゃない」って説明してくれた。そのアドバイスに従って、カロリーの摂取量を増やしたら、博士の言う通り、エネルギーが戻ってきたよ。1日に24~32オンスほどのジュースを飲んでいた。乳製品は一切摂らない。で、その年は僕のアスリート人生のなかで、最高の一年になった。
何を食べるかというのは、自分で完全にコントロールできる。タイムや距離が思うようにいかなくても、何を食べるかは僕の思うがままだ。
世間一般の人は、ベジタリアン食、特にビーガン食は、あれも食べれないしこれも食べれない、とてもつらいものだと思っている。でもそんなことはない。単調でつまらないということは決してないし、飽きないよ」
そこらへんの屁理屈だけの学者が言っているのではなく、金メダル9個という見事な結果を出している人が言っているのだから、軽く流すわけにはいかない。
プロテインを推す人は「肉は体を作るためのブロックであり、健康維持に絶対必要なものだ」というけれども、たとえば象は草食動物である。基本、葉っぱしか食べていない生物なのに、あの巨体である。あの巨体を構成する筋肉と骨は、一体どこから来たのか。「葉っぱから来た」と考えるしかない。生の野菜には、一般の栄養学者が考える以上のパワーがあるということだろう。
ルイスはビーガンになったきっかけとして、ジェイ・コーディッチ(1923~2017) のことに触れている。この人は20歳で癌にかかったが、ゲルソン療法(人参やリンゴのジュースを大量に飲むことで様々な疾患を治す治療法のこと)によって癌を克服した。これに深い感銘を受けた彼は、その後の人生をジュース療法の普及のために捧げた。彼によると、ジュース療法により、あらゆる疾患(癌、糖尿病、貧血、関節炎、胆石、不安神経症、勃起不全、心疾患など)が治癒するという。
肉が体に合わない人というのは、確かに一定数いると思う。それは、現代の畜肉(遺伝子組み換え飼料を食べ、病気予防のために抗生剤を打たれ、肉量増加のためにホルモン剤を打たれている動物)が合わないのであって、ジビエ(天然の肉)ならいけるのかもしれないし、それともどんな肉であれ体が受け付けないのかもしれない。
酒を飲める人もいれば、飲めない人もいる。
個人差が大きいのが人間の特徴だから、低糖質高タンパク食を万病を治す印籠のように振りかざす昨今の風潮は、ちょっと違うと思うんだな。
参考
Juiceman’s Power of Juicing (Jay Kordich著)
2020.1.11
甲状腺機能亢進症によって精神錯乱のような症状が出ることがある、ぐらいの知識は、どの医者も持っている。
しかし、この逆、甲状腺機能の低下が精神症状(統合失調症、躁うつ、うつ、不安)の原因になっている可能性については、僕も含め、ほとんどの医者が認識していない。この場合、治療は当然、精神症状そのものに対してではなく、甲状腺機能の改善に対して向けられるべきである。しかしそもそもの難関は、「甲状腺機能が乱れていますよ」と診断してもらえるかどうかだ。
一般の医者は精神疾患の背景に甲状腺異常があるとは思わないから、わざわざ採血しない。仮に採血するにしても、せいぜいTSH、FT3、FT4をはかるくらいだろう。
Dr. Thomas Geraciotiは「精神疾患は、視床下部・下垂体・甲状腺軸(HPTアクシス)の内分泌異常」であると指摘している。
「精神疾患は脳の病気」という従来の認識に対して、近年の腸内細菌研究の進展は「精神疾患は腸の病気」という新たな概念を提出した。さらにここに来て、第3の新説「精神疾患はホルモンの病気」という可能性が出てきたわけで、諸説入り乱れて、実におもしろいと思う。
ホルモンの病気であるからには、もう少し詳細な検査をすべきである。Geracioti博士は、甲状腺ホルモンの日内変動(夜にピーク)を配慮して、採血検査は午前9時前に行うべきだと主張している。「そうでないと、サブクリニカル(亜臨床)甲状腺機能低下症を見逃してしまう」と。
さらに、検査項目としては、以下のものを含むべきとしている。TSH、T3、T4、抗甲状腺抗体、血清コレステロール、プロラクチン
甲状腺機能低下症のメカニズムは複雑である。根本的な問題はどこにあるのか。視床下部か、下垂体か、甲状腺か、あるいは甲状腺ホルモンに対するフィードバックに異常があるのか。
また、甲状腺ホルモンに対する感受性は臓器ごとに異なるものであり、また、患者の年齢によってもその影響が異なる。子供で甲状腺ホルモンの働きに異常があれば、低身長、学習障害、ADHDの原因になり得る。
「サブクリニカル甲状腺機能低下症を伴う精神疾患患者(特に投薬治療に反応性が乏しい患者)は、甲状腺ホルモンで治療すべきだ。チロキシンやTSHの血中濃度が正常であってもFT3の血中濃度が正常範囲内の下位20%以下である場合は、甲状腺ホルモンの低さが精神症状の原因である。うつ状態の患者で、甲状腺関連のマーカーがまったく正常だったが、甲状腺ホルモンの投与で気分が大幅に改善した症例もある」
甲状腺ホルモンの重要性は、人間以外の動物にとっても同様である。
熊の冬眠、羊の換毛、渡り鳥の渡りなど、動物が季節の変化を察知してとる行動には、日照時間の長短や血中甲状腺ホルモン濃度が関わっていることが知られている。しかしその詳細なメカニズムについてはわかっていなかった。
この背景に甲状腺刺激ホルモン(TSH)が関与していることを突き止めた研究がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25437536
甲状腺刺激ホルモン(TSH)には2種類ある。
下垂体前葉由来TSH(pars distalis-derived TSH;PD-TSH)と下垂体隆起葉由来TSH(pars tuberalis-derived TSH;PT-TSH)である。
普通、TSHといえば前者のことを指す。後者の働きは、「動物に春を教えること」(春告げホルモン)である。
PD-TSHがTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)によって制御されているのに対して、PT-TSHはTRHの制御を受けず、夜に松果体から分泌されるメラトニンによって制御されている。
血中のTSHには、PD-TSHとPT-TSHが混在しているが、PT-TSHには生理活性がなく、甲状腺を刺激しない。なぜか?
両者とも、タンパク質の構造自体には何も違いはないが、TSHに結合する糖鎖構造(翻訳後修飾)に違いがあるからだ。PD-TSHには硫酸基がついた二本鎖のN結合型糖鎖が結合していたのに対して、PT-TSHにはシアル酸がついた三本鎖あるいは四本鎖の糖鎖が結合していることが明らかになった。
PD-TSHは半減期が短く、肝臓ですぐに代謝されるが、PT-TSHは免疫グロブリンやアルブミンと結合してマクロTSH複合体になる。PT-TSHに生理活性がないのはこれが理由である。
この論文の意義は何だと思いますか?
TSHには2種類あることを示したこと?それもあるけど、全然それだけじゃない。
そもそも、ゲノム情報は有限なんだ。この有限な資源を、できるだけ有効に使わないといけない。そこで、生物は一つのホルモンに二つの役割を与えた。しかし、体のなかで一つの分子が二つの異なる役割を演じるには、情報の混線を防ぐ必要がある。この研究は、糖鎖修飾と免疫グロブリンがこの混線予防に一役買っているという新しい概念を提出し、生物の巧みな生存戦略の一端を明らかにした。この点こそ、この論文の真骨頂なんだ。
マクロTSHの血中濃度が、甲状腺機能だけでなく、睡眠の質にも影響するという研究がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28287185
統合失調症を発症する前には、たいていの患者に睡眠障害(入眠困難、睡眠維持困難)があると思う。
何らかの免疫系の異常によってPT-TSH(春告げホルモン)の代謝に齟齬をきたし、結果、睡眠周期が崩れたり、精神症状が出ているのかもしれない。免疫系の異常の背景には、たいていの場合、腸の異常があるものである。
「精神疾患は脳の病気」
「精神疾患は腸の病気」
「精神疾患はホルモンの病気」
この三つ命題が、PT-TSHを中心につながったように思える。
パズルのピースが出そろい、精神疾患の発症機序を説明できるようになったとして、「さて、治療は?」となると、まだ僕にも答えはない^^;
とりあえずは、腸の炎症を鎮めること、つまり、食事の改善からだな。
2020.1.9
そもそも、甲状腺ホルモンとは何か?
これは簡単に言うと、「元気ホルモン」のことである。代謝を促進し、エネルギーの産生量を増加させる働きがある。
人間だけではなくて魚類や両生類、鳥類にとっても重要なホルモンで、甲状腺ホルモンが不足していると、オタマジャクシはカエルになる(変態)ことができないし、鳥は羽の生え変わり(換羽)ができなくなる。
熊などの冬眠する生物では、冬眠中は甲状腺ホルモンの血中濃度が低下している。代謝を落とすことでエネルギーのロスを防ぎ、食べ物の豊富な春まで寝て過ごす、というのが冬眠戦略の要点なのだから、代謝促進ホルモンの低下は理にかなっている。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」が生命の本質で、僕らの体を構成する細胞は日々入れ替わっている、ということは過去のブログで何度か書いたけど、この比喩を援用すれば、甲状腺ホルモンは、「ゆく河の流れを早くする」ホルモンだ。
逆に、甲状腺ホルモンが低下すると、河の流れが淀む。
美容的な面でいうと、皮脂や汗の分泌が減少し、乾燥肌になる。水分の流れが滞って、体のあちこちがむくむ。
熱産生が低下して、寒がりになる。「夏でもクーラーの効いた部屋にいるのが苦痛で、ひざ掛け毛布がいる」みたいな女性は、甲状腺ホルモンが低下しているかもしれない。
食欲が低下して、あまり食べられなくなる。かといって、特にやせるわけでもない。むしろ便秘がひどくて、体重が増えたりする。inが減っているのだからoutも少ないのは、ある意味当然だろう。
特に病気でもないのに、美容目的のために甲状腺ホルモンを飲む女性が後を絶たない。なぜ甲状腺ホルモンを飲むときれいになるのか。それは、不足の逆を考えればいい。
代謝が亢進し、皮脂や汗の分泌が活発になり、肌が美しくうるおう。血流が改善して顔色がよくなり、頬が少女のように赤らむ。食欲が出てきて、好き放題スイーツを食べたりしても、全然太らない。便通も快便。むくみがなくなって顔が細くなり、腫れぼったい目元がすっきりして、いつもより目が大きく見える。つまり、甲状腺ホルモンを飲むことで、女性としての魅力がアップして、モテるようになる。
どうですか、女性諸君。「そんなにいいのなら、私も飲もうかな」と思いますか。
しかし、「クスリはリスク」でもある。胸が動悸で苦しくなったり、手が変にふるえたり、ひどい下痢をしたり、という副作用もあり得るから、薬で安易にきれいになろうとは思わないことだ。
前回のブログで、甲状腺ホルモンと統合失調症の関係について言及した。PubMedで”schizophrenia thyroid”で検索すると、両者の関係性を示唆する文献が数多くヒットする。
今回は、”Brain Protection in Schizophrenia, Mood and Cognitive Disorders”(Michael Ritsner著)という本を参考にしつつ、興味深い知見を紹介しよう。
「甲状腺ホルモンは、中枢神経系の発達や機能を調整するために不可欠である。甲状腺ホルモンの異常が精神症状に影響することにはエビデンスがある。実際、甲状腺疾患の家族歴のある人では、統合失調症の発症率が高い。甲状腺ホルモン受容体の変異や甲状腺ホルモン結合タンパク(トランスサイレチン)の変異と精神症状の相関については未だ明らかではないが、甲状腺ホルモンの異常(過剰あるいは欠乏)が様々な精神症状と関連していることは間違いない。
粘液水腫精神病(Myxedema Madness)は甲状腺機能低下によってせん妄や幻覚を起こす特徴的な症状である。一見矛盾するようではあるが、甲状腺機能亢進という真逆の状態になっても、せん妄や幻覚は起こり得る。
核内受容体に作用する他のリガンド(たとえばレチノイン酸)も脳機能に影響するように、リガンドは過剰になっても欠乏しても、脳機能の破綻につながるようである。甲状腺ホルモンの過剰による症状と欠乏による症状が似通っているのは、このあたりの事情によると考えられる。
統合失調症患者の19%ではfT3とfT4が増加しているとする報告(MacSweeney et al.)や、甲状腺ホルモンの値を正常化することで精神症状が軽減したという研究(Baumgartner et al.)、甲状腺ホルモンの数値が異常であればあるほど、精神症状の重症度も高かったとする研究もある。
また、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が高いほど治療への反応が悪いという研究、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)に対してTSHの反応性が低いほど治療への反応性がいいという研究もある。逆に、Baumgartner et alでは、TSHやT3に変化はなかったが、T4の高さが統合失調症の重症度と相関しており、さらに治療反応性とも相関していたとしている。
統合失調症と甲状腺機能の異常の相関の頻度については、研究により値がばらばらである。ある研究ではたったの9%としているが、36%としている研究もある。Othman et alは統合失調症と甲状腺異常の間には相関の頻度が高いとしているが、甲状腺異常と一口に言ってもその異常は様々であることから、「統合失調症は視床下部・下垂体・甲状腺軸(HPTアクシス)の調節異常である」と結論している。
多くの抗精神病薬が甲状腺のホメオスタシスを変化させることが知られているが、投薬治療を受けていない統合失調症患者でも甲状腺ホルモンが低いこともあり、甲状腺ホルモン濃度に影響を与える要因は薬だけではない。
TRHは視床下部から分泌され、下垂体に作用してTSHの分泌を促す。そしてTSHが甲状腺に作用し、甲状腺ホルモンが分泌される。
統合失調症患者ではTRHの受容体に異常があるとする研究がある。フェンサイクリジン(麻酔薬。俗に”エンジェルダスト”と呼ばれ、幻覚剤として乱用されたりする)という薬があって、これを服用すると統合失調症と同じ症状が出現するが、フェンサイクリジンを投与したラットでは前頭前皮質の遺伝子に変化が見られ、TRH受容体の転写が活性化していた。放射線で標識したTRHを使った受容体の研究でも、統合失調症患者の歯状回ではTRH受容体が増加していることが明らかになった(逆に偏桃体では減少していた)。TRH受容体が発現しているのは、視床下部だけではないことからわかるように、TRH受容体の役割はTSHの放出だけではない。実際のところ、TRHは脳の多くの箇所で発現しており、中枢神経系以外のところでさえ、発現している。神経機能の調節(neuromodulator)として、また、神経伝達物質として作用している可能性もある」
専門的な内容なので、難しすぎるかもしれない^^;
盛りだくさんな内容だけど、核心部分は「統合失調症は視床下部・下垂体・甲状腺軸(HPTアクシス)の調節異常である」というところ。
甲状腺異常を是正するつもりでアプローチすれば、統合失調症の改善につながる可能性があるということだ。
数学において、別解の存在が数学を楽しくしているように、真理(治癒)に至る道がひとつではない、というあたりに、すごくおもしろいものを感じるんだな。