2020.1.22
『ストロング系チューハイに薬物依存研究の第一人者がもの申す 「違法薬物でもこんなに乱れることはありません」』
松本俊彦氏
「ストロングZEROは「危険ドラッグ」として規制した方がよいのではないか。半ば本気でそう思うことがよくあります。私の臨床経験では、500mlを3本飲むと自分を失って暴れる人が少なくありません。大抵の違法薬物でさえも、使用者はここまで乱れません。
結局あれは「お酒」というよりも、単に人工甘味料を加えたエチルアルコール=薬物なのです。そして、ジュースのような飲みやすさのせいで、ふだんお酒を飲まない人や、「自分は飲めない」と思い込んでいる人でもグイグイいけます。そうした人たちが、ビールの倍近い濃度のアルコールをビール並みかそれ以上の早いペースで摂取すればどうなるのか。ただでさえ人類最古にして最悪の薬物といわれているアルコールですが、その害を最大限に引き出す危険な摂取法です。
お酒はお酒らしい味をしているべきであり、公衆衛生的アプローチを考えれば、本来、酒税は含有されるアルコール度数の上昇に伴って傾斜すべきです。それなのに、「税収ありき」の国の二転三転する方針にメーカーが追い詰められて、確実におかしな事態を引き起こしています」
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/strong-1
僕自身酒はときどき飲むほうなので、アルコール全般を「人類最古にして最悪の薬物」と切って捨てているところには同意しかねるけど^^;、この記事にはおおむね共感できる。
僕の患者にもストロングを飲んでいる人は多い。
どれくらい飲みますか?
「寝る前に、缶チューハイ2本くらいですね」
さらっと答えるものだから、別にそれほど多くないですね、なんてスルーしちゃいそうになるけど、ここでしっかり銘柄を聞かないといけない。
缶チューハイって、ストロングですか?
「ええ、そうです。よくわかりますね」
350ミリ?
「いえ、500です」
一般のチューハイか、ストロングかで、アルコールの意味が相当に変わってくる。
まず、アルコール度数の高さ。9%どころか、12%のものまで出てきた。
もうひとつは、アルコールと人工甘味料を一緒に飲むリスク。
アセスルファムカリウムやスクラロースの毒性については以前のブログで書いたから繰り返さない。
これらは単独で摂っても有害だが、アルコールと一緒に摂取することで、毒性の相乗作用が起こる。つまり、アルコールの害と人工甘味料の害の掛け算が起こる。
たとえば、こんな研究がある。
『人工甘味料入りアルコールは、砂糖などの通常の甘味料入りアルコールよりも、胃内容排出とアルコール吸収を促進する』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16945619
「オレンジ風味のウォッカ(600ml中エタノール30g含有)で、通常のショ糖で味付けしたものを飲んだ場合と、人工甘味料で味付けしたものを飲んだ場合で比較した。
エコーで半減期(胃内容物が半分になる時間)を比較すると、人工甘味料が有意に短かった。
血中のエタノール濃度のピークと、0~180分の血中エタノール濃度のAUC(グラフ面積)は、いずれも人工甘味料群が大きかった。」
人工甘味料入りの酒は、普通の甘味料入りの酒と比べて、吸収が早いということだ。
論文の著者は「この研究結果は、学校教育で教えるなり缶のラベルに表示するなりして、人々に周知させる必要があると思います。消費者はアルコール度や飲む量を気にすることはあっても、吸収速度までは意識しないでしょうから」
しかしこの研究の出るずっと前から、酒飲みはこの事実に気付いていた。
「そう、吸収が早い。そんなことはね、学者さんがどうこう言う前に、とっくの昔からわかっている。だからこそ、じゃないか。だからこそ、ストロングを飲むんだよ。手っ取り早く酔っぱらえるからね。ストロング1本で、生ビール3本分くらいの酔い心地だね」
飲料メーカーも商売だから、売れるものを作る。
そして今、ストロング系が売れに売れている。相対的に酒税も安いし、企業側としては実においしい商品だろう。
しかし、これを飲む人の健康はどうか。高いアルコール度と人工甘味料の弊害とその相乗作用とで、相当なリスクにさらされることになる。
甘いジュースのようだから、CMのようにごくごくと飲めてしまう。
リスクを知っててなお「手っ取り早く酔いたいから飲む」という人は、自己責任で好きにすればいいけど、そういうリスクを知らない人は気の毒だね。
2020.1.21
神戸の地震が起こってから25年が過ぎた。
25年といえば四半世紀。干支が二周まわって余りある時間は、決して短くはない。
地震当時中学生だった僕は、大学で県外に出て社会人として働き、そして再び、神戸に戻ってきた。
うれしいこと、つらいこと、挫折、成功、いろいろな経験を積んだ25年である。
個人が大きく変貌するように、町だって大きく変貌する。この神戸の町も例外ではない。
僕にとっての25年は、成長の時間だった。世間知らずの中学生が、クリニックを開業し、一応曲がりなりにも生計を立てる術を得るに至ったのだから。
しかし残念ながら、神戸にとっては衰退の一途の25年だった。
神戸といえば港町である。
主要な国際貿易港(五大港)のひとつとされ、1970年代から80年代にかけて、神戸はニューヨーク、ロッテルダムと並ぶ世界有数の貿易港だった。
ところが地震によって港が大きな被害を受け、アジア各地から集荷していたトランシップ貨物が他の国の港にシフトすることになった。かつて世界2位だった国際順位は2000年以降20位以下となり、アジアでは釜山港にハブ機能を譲り渡す格好となった。国内においても、貿易額ランキングで東京港、横浜港、名古屋港に次々と抜かれ、神戸がかつての勢いを取り戻すことはなかった。
人口の減少も止まらない。
神戸市は人口数でかつて政令指定都市の「五大市」だったが、2016年福岡市に抜かれた。さらに2019年には川崎市にも抜かれた。
人口数、出生数、生産年齢人口の減少と老年人口の増大、都市部(東京、大阪)への人口流出、女性の非婚化が著明に進んでいる。
かつて神戸市は「株式会社神戸市」といわれた。都市開発に大成功し、全国の自治体から見学者が来るほどだった。
しかし、神戸=都会、というイメージは、もはや正しくない。少子高齢化のあおりをモロに食らって衰えゆく町。それが神戸の実態だ。
なぜ、こんなに衰退しているのだろう?その原因は?
大阪への対抗意識、三宮中心主義の失敗など、いろいろと分析されている。
https://kansai-sanpo.com/kobe-1/
個人的な実感としては、単純に、住みにくいんじゃないかな。税金が高いし、家賃も高い。
神戸の人口は減っているけど、周辺の明石や西宮の人口が増加している理由はこのあたりにあるんじゃないかな。明石に住んでてても新快速一本ですぐ大阪に出られるし、何も神戸在住っていうブランドこだわるメリットが、もはやないのかもしれないね。
でも正直、どこに住もうが、日本に住んでいる限り、大差ないんだろうなとも思う。
神戸港が衰退していると言ったけど、じゃあ現在日本トップの貿易港(東京港)が国際的にどうなのかというと、箸にも棒にもかからない。
アジアでは中国や韓国の存在感が強くて、北米やヨーロッパとアジアを結ぶ基幹航路は、もはや日本を素通りしている。
神戸が失墜したんじゃない。世界の中で、日本自体が落ち目なんだ。
人口減少も同じことで、神戸の衰退というか、日本の衰退なんだと思う。
でも僕は、全然悲観的になっているわけじゃない。それどころか、一度しっかり落ちればいい、とさえ思っている。経済的成功が幸せに直結しないことをきちんと認識し、内面の豊かさこそ、幸せにつながる唯一の道なんだと気付くきっかけになればいい。
まぁどういう価値観で人生を送るにしても、「健康であること」は最初の前提条件だ。病気で伏せっていては、成功も挫折もあったもんじゃないからね。
健康管理のためには、どうぞ当院をご利用ください^^
2020.1.20
犬を飼っている人なら、散歩中に愛犬が土を食べるのを見て、驚いた経験があるだろう。
他にも、一緒に飼ってる猫のトイレの砂を食べたり、庭にある小さな砂利を食べたり、という犬もいる。
いきなり狂ったのではない。
動物は、人間のように言葉を使って思考しないけれども、決してバカではない。内なる本能の声を聞くことができて、彼らはその声に従って、土や砂を食べている。
自分の体内にミネラルが不足していることを、適切に察知しているのだ。
人間で同じことが起これば、異食症(pica)という診断がつく。
診断がつくからには「病的」だと思われるかもしれないが、人間も動物である。本能の声が、土を求めているのである。
妊婦が壁土を食べる、という話はあちこちで聞くし、実際ある患者は僕に「妊娠中やたらと土が食べたくて、何かおかしくなったんじゃないかと思った」と打ち明けてくれた。
土に限らず、髪、チョーク、線香、マッチ棒などに食欲を感じる人もいるし、氷を食べたくなる若年女性は全然珍しくない(特に氷食症という)。
土はミネラルのカタマリだということを、僕らの本能はきちんと察している。
ただ「土を食べる」という行為が、僕らの身につけた常識とあまりにも乖離していることから、多くの人はこの本能の声を聞こうとしない。
しかし世界は広いもので、土を食べる行為が文化として確立している国もある。
ケニアのスーパーマーケットでは、オドワという妊婦や若年女性が食べるための石が、当たり前に販売されている。
オドワ売りの男がいう。
「妊婦によく売れるよ。うちのかみさんは6人の子供を産んだけど、オドワを食べて養生したから妊娠中も健康そのものだった。スイーツやチョコレートなんかの甘いものを食べてる妊婦はダメだね。体がヤワになっちまう」
ベトナムには土を網で焼いて客に出す習慣のある地域があるし、ハイチには「テーレ」という土入りのビスケットがある。日本でもアイヌの人々がユリ根と一緒に土を煮て食べていた。
そう、土を食べることは本来病的症状でもなんでもなく、僕らの内なる声だったんだ。
土を食べたい衝動を感じたとしても、現代において、その衝動を実行することはなかなか難しいだろう。本能の声にきちんと従おう、と思い立ったとしても、農薬やら除草剤やらわけのわからないものが浸透している可能性がある日本の土を食べることは、別のリスクを抱えると思う。
そういう人には、シラジットを勧めたい。
シラジットはアダプトゲン特性が確認されているハーブのひとつである。(「アダプトゲンとは何か?」については以前のブログで書いたので繰り返さないけど、簡単にいうと「抗ストレス作用のあるハーブ」のこと)。
シラジットは、アーユルヴェーダ医学で長年使われてきた歴史があって、安全性については折り紙つき。実はシラジットは、平たくいうと「発酵した落ち葉」なんだ。
葉っぱが土の上に落ちる。様々な微生物がそれを分解し、砂や土が混じり合い、土が肥沃になっていく。その、葉っぱとも土とも微生物ともつかない、天然の腐植土と植物性有機物の混合物。これがシラジットの本態だ。
主成分はフルボ酸(fulvic acid)で、フルボ酸のサプリもあるが、同じ飲むのならシラジットのサプリを勧めたい。
ミネラルが不足しがちな妊婦や若年女性にオススメなのはもちろんだが、アルツハイマー病に対する効果も認められているから、認知能力の低下しはじめた高齢者も服用するといい。
シラジットの有効性を検証した研究は数多いが、たとえばこういう論文。
『シラジット~癌に対する万能の腐植物』
https://www.researchgate.net/publication/288142673_Shilajit_A_humic_matter_panacea_for_cancer
「癌は心血管系疾患に次いで主要な死因である。癌の主要な病因としては、炎症、遺伝子変異、毒素、フリーラジカル、重金属、糖分、ウィルス、放射線などがあって、これらによって癌の発症と進行が促進される。
シラジットは黒っぽい茶色の植物性ミネラルで、世界中の多くの山岳地域で産出し生薬として用いられている。
シラジットはその成分として60~80%のフルボ酸とフミン酸(humic acid)を含む腐植物である。シラジットの生物活性は、主にこれら二つの酸の化合物によるものである。本レビューでは、シラジットおよびフミン酸化合物の癌に対する予防作用および治療特性に焦点を当てた。
シラジットおよびフミン酸化合物には、抗炎症作用、抗酸化作用、抗変異作用、抗毒素作用、抗ウィルス作用、重金属キレート作用、抗腫瘍作用、アポトーシス作用、紫外線防御作用がある。
これらの特性によって、シラジットは癌の治療および予防に効果を発揮する。さらに、シラジットには副作用の報告がなく、栄養補充に用いることもできるし、加齢に伴う諸問題に対する若返りの生薬として用いることも可能である」
癌の発生機序となる要因のすべてに対して抑制的に働いている、というのはすばらしいと思いませんか?しかも副作用もないというのだから、使わない理由が見つからない。
若年女性の貧血に対して、どうしたものかなと長らく考えてきた。
単純に鉄剤を処方するのは、別に間違っていないとは思う。でも、鉄剤はフリーラジカルの発生源でもある。体の酸化が促進され、各種疾患にかかりやすくなる。
理想的には、ケニアのスーパーマーケットで売られているように、僕も石(オドワ)を売りたい。でもそんなことをすれば、狂った医者だと思われるに決まっている^^;
だから、次善策としてシラジットを勧めるようになった。文献的なエビデンスとしてはあまりないんだけど、臨床的な印象としては、よく効いていると思う。
鉄欠乏貧血の女性というのは、実は欠乏しているのは鉄だけではなくて、他のいろいろなミネラルが不足している。そういう女性に一番効くのは、オドワのような「ちゃんとした石」を食べることだけど、「落ち葉と土の混じったもの」であるシラジットでも充分効く。
でも、シラジットが何かということについては、患者が引いちゃうからあまり言いたくないんだけどね^^;
2020.1.19
あるとき、患者から「発酵食品が必ずしもよくない、場合によってはむしろ有害だって聞いて、納豆は食べないようになりました。もともとそんなに好きでもなかったから、仮に一生食べられなくなったとしても、別に構わないですけどね」
へー、それはどこで聞かれましたか?
尋ねると、ソースを教えてくれた。その本を取り寄せて、読んでみた。
『「おなかのカビ」が病気の原因だった ~日本人の腸はカビだらけ』(内山葉子著)
著者の主張を簡単にまとめると、慢性的な不調(便秘、下痢、腹痛、皮膚トラブル、頭痛、関節痛、抑うつ、生理前の不調、倦怠感、食後の眠気、甘いもの欲求など)は、すべて「おなかのカビ」つまり、腸の状態が悪化していることに起因している。その原因は三つあって、抗生剤の乱用、発酵食品の摂りすぎ、日本の気候と住居、である。
いい本だと思った。素直に、「なるほど」とうなずける本だった。
患者は納豆をすっかりやめてしまったというが、別に著者は発酵食品を全否定しているわけではない。人によっては「おなかのカビ」の増殖を促進してしまう、と指摘しているだけだ。適量(あるいは少量)摂取する分には、特に問題はないだろう。
小麦や牛乳をやめ、カビの生じやすいトウモロコシ、麦、ナッツ類は控えめにすること。
逆に、カビの抑制に有効なものとして、ローズマリー、オリーブリーフ、リンゴ酢、梅干し、重曹、活性炭などが挙げてあって、参考になった。
「おなかのカビ」という表現は医学的にはまったく不正確で、研修医が頭の固い指導医の前でこんな言葉を使えば「もう一回医学部1年からやり直してこい」と言われてもおかしくない^^;しかし、感覚的にはとてもわかりやすくて、一般ウケする表現だと思う。
いわゆる「カビ」は、カテゴリーとしては真菌のことだ。真菌には、酵母やキノコも含まれる。
「真菌と細菌、どちらも「菌」なんだから同じようなもんだろう」、と思われるかもしれないけど、分類的にはまったくの別物だ。
最大の違いは、核膜の有無。細菌は原始的で、遺伝情報を乗せた染色体DNAが細胞内にむき出しで存在するのに対して、真菌には染色体を包む核膜がある。この点で、真菌は人間と同じ真核生物だ。
だからこそ、抗生剤が問題になる。
抗生剤といえば、普通、「抗細菌剤」のことである。つまり、抗生剤の服用によって腸内細菌を含む全身の細菌叢が大ダメージを受けるが、真菌はまったくの無傷、ということになる。
様々な菌種が協調したり拮抗したりしているのが僕らの腸である。そこで、抗生剤によって腸内細菌が死に絶えると、抗生剤の効かない真菌の天下、という状況になる。
有名なのはCandida albicansである。これは本来、日和見菌(特に善玉でも悪玉でもなく、状況次第でどちらにもなり得る菌種)で、消化管、体表、女性の膣粘膜に普通に生息しているが、抗生剤の投与などによりバランスが崩れると、一気に増殖して、病原性を持つ。
一般の人が、カンジダ菌と聞いて思い浮かぶのは性感染症のほうの膣カンジダだろう。
しかしカンジダが存在するのは膣に限らず、おなかのなかにも肌にもいるし、そもそもカンジダ菌自体が病原菌であるというよりは、カンジダ菌に病原性を持たせてしまう習慣(乱れた食事、抗生剤の使用など)こそ、本当の問題なんだ。
もっと言えば、カンジダは食文化と切っても切り離せないものだ。
Candida etchellsiiやCandida versatilisなどは味噌や醤油の発酵に関係しているし、Candida stellataはワインの醸造に関係している。
日本酒はCandidaではなくて、Aspergillus(アスペルギルス)属のコウジカビの発酵を利用したものだが、両者とも真菌だ。
有名な造り酒屋の一人娘が、男と恋仲になり、結婚することになった。しかし娘の父は、その男の職業を知るやいなや、結婚に断固として反対した。なぜだと思いますか?
その男の仕事が納豆屋だったから、というのが答えです。
実話かフィクションかは知らない。ただ、話としてはおもしろい。
そう、納豆菌は酵母菌の大敵で、酵母の菌種のなかに混入すると、製品が全部だめになってしまうどころか、酒蔵自体、もうアウトかもしれない。
だから、どこの酒蔵も納豆に対しては大変な神経を使う。愛する娘の結婚となれば、父としてはうれしいが、納豆屋のせがれとの結婚となれば、酒屋家業が傾きかねない。父が反対するのはもっともなことだったのだ。
酒蔵見学に際しては、納豆を食べて行かない、というのが絶対のマナーだ。
1979年と古いけど、こういう研究がある。
『納豆菌(Bacillus natto)と大便連鎖球菌(Streptococcus faecalis)がカンジダ(Candida albicans)の成長に及ぼす拮抗作用』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/119897
「納豆菌と大便連鎖球菌にカンジダの成長を抑制する作用があるかどうかを調べた。納豆菌(Bacillus natto系)を長期間培養した濾液にカンジダ(C. albicans RIMD 0301020)の保存株を植え付けたところ、カンジダの生存能力が完全に失われた。一方、臨床現場で採取した別種のカンジダ(C. albicans RIMD 0301011)ではそうした現象は起こらなかった。
静置ではなく、循環液の流れのなかで納豆菌と混合培養すると、どちらのカンジダも成長が抑制された。
バッチで培養すると、納豆菌はカンジダの成長を抑制しなかった。多剤耐性の大便連鎖球菌BIO-4Rもカンジダ(C. albicans RIMD 0301011)の成長を抑制したが、循環液の流れのなかで培養すると納豆菌と共存した。
これらの発見は、ヒトの腸管内において納豆菌は大便連鎖球菌BIO-4Rと協調して、カンジダの成長を抑制している可能性を示唆するものである」
納豆菌は100度で煮沸しても死なず、真空においても死なず、胃酸によっても死なず腸まで届く。
むちゃくちゃにタフな細菌だから、味方につければこれほ心強い細菌はいないよ。
しかし酒屋の杜氏としては敵視せざるを得ないから、納豆は一生口にしないって決めてる杜氏さんも多いという。
日本酒も納豆も同じ日本の食文化だけど、こんなにも「水と油」なんだねぇ。
2020.1.18
人間の様々な身体機能は20代がピークで、その後次第に衰えていく。
30代40代のうちは、まだその衰えを自覚していないかもしれない。しかし検査をすれば、老いの兆候がはっきり現れる。
たとえば、聴力。
老人性難聴、という言葉があるくらいだから、聴力低下は老人になってから、と思われるかもしれない。
しかしモスキート音(17 Khz程度の可聴域ぎりぎりの超高音)は、10代の若者には聞こえるが、20代30代の若者には聞こえない(このことを利用して、コンビニの前でたむろする10代の不良を撃退するために、こっそりモスキート音を照射するコンビニがある。害虫を追っ払ってるみたいだね^^)。
つまり加齢性難聴は、すでに20代あたりから進行が始まっているのだ。
この特性を利用して、耳年齢を判定するアプリがあるし、こういう動画を見ても耳年齢を大まかに知ることができるだろう。
僕は15 kHzでギブアップ。なーんも聞こえません!老いを認めざるを得ない^^;
加齢に伴って次第に可聴域が低下して、会話や生活音(1~8 kHz程度)まで聞こえなくなると、ようやく「耳が遠くなったな」と症状として実感するようになる
加齢によって次第に高音域の聞き取り能力から低下していく傾向は、人間だけではなく、他の動物とも共通している。マウスでも5~6か月齢あたり(人間の20~30歳相当)から高音域の聴力が低下し始め、次第に低い音域も聞こえなくなっていく。人間と共通しているおかげで、マウスを使って加齢性難聴の発症メカニズムや予防法の研究をすることができる。
たとえばこういう論文。
『C57BL/6J系マウスの加齢性難聴はBak依存性のミトコンドリアのアポトーシス(細胞自死)を経由して起こっている』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19901338
「加齢性難聴は、哺乳類の老化に広く見られる現象であり、老化集団に最もよく見受けられる感覚障害である。ありふれた病態でありながら、その分子的な発症機序は不明であり、従って治療法も存在しない。
しかし、C57BL/6J系マウス(マウス実験で使われる超定番のマウス)のミトコンドリアにあるアポトーシス促進遺伝子Bakを除去すると、蝸牛にあるらせん神経節と有毛細胞の加齢性アポトーシス(細胞自死)が減少し、加齢性難聴が起こらなかった。
蝸牛細胞にあるBak遺伝子は酸化ストレスによって発現が促進されるが、Bak遺伝子が存在しないことにより細胞のアポトーシスが起こらない。さらに、ミトコンドリアを標的としたカタラーゼ導入遺伝子は、蝸牛のBak遺伝子の発現を抑制し、蝸牛の細胞死を減少させ、加齢性難聴を防いだ。
ミトコンドリアの抗酸化のために、経口でアルファリポ酸、コエンザイムQ10を経口投与によっても、Bak遺伝子の発現を抑制し、加齢性難聴を予防することができた。
つまり、加齢性難聴の発症機序には、酸化ストレスに対する応答としてBak依存性ミトコンドリアアポトーシスが関与していることが示された」
要するに、
加齢性難聴には酸化ストレスが関係しているから、酸化を防ぐことで加齢性難聴を予防したり進行を遅らせることができる、ということだ。
研究で使われたのは、アルファリポ酸とコエンザイムQ10のサプリだけど、他の抗酸化サプリ(たとえばNAC、ビタミンCとかEとか)でも同じような効果があるんじゃないかな。
乳酸菌の摂取によって加齢性難聴の発症を遅らせることができたという研究もある。
『熱処理乳酸菌(Lactococcus lactis H61)の摂取によって、C57BL/6J系マウスの加齢性難聴の発症を遅らせることができる』
https://www.nature.com/articles/srep23556
「加熱により死菌となった乳酸菌(Lactococcus lactis subsp. cremoris H61:strain H61)をマウス(C57BL/6J系)に投与して、その摂取による効果を調べた。
strain H61を0.05%含む食事を6か月間与えられた9か月齢のメスのマウスは、対照群のマウスよりも、聴性脳幹反応において有意に低い閾値を保っていた。
(聴性脳幹反応というのは、音刺激によって生じる脳波を調べる検査で、本人の意思と無関係に生じる。だから、本当は耳が聞こえるのに病気を装って障害者認定を受けようとするのは不可能だ。でもサムラゴーチさんみたいに、聞こえるのに障害者手帳を持っている人もいたり^^;)
これはつまり、加齢に伴って起こる蝸牛の神経細胞や有毛細胞の消失が、strain H61の摂取によって抑制されたということである。糞便を使った腸内細菌解析によると、strain H61の摂取によって乳酸桿菌が増加しており、この数と聴力に正の相関が見られた。さらに、血中脂肪酸濃度は聴力と負の相関を示していた。
まとめると、6か月間のstrain H61(死菌)の摂取により、腸内細菌叢が変化し、脂肪酸などの血中の代謝レベルが変化したことによって、加齢性難聴の発生が遅れたものと考えられる」
腸内細菌にはビタミン産生能のある菌が多いから、腸相のいい人は、おなかのなかにサプリメント製造工場があるようなものだ。わざわざサプリを摂取せずとも、菌のほうで勝手にビタミンを作ってくれるんだから、こんなにありがたい話はない。
たとえば、この研究で使われたLactococcus lactis やLactococcus brevisはビタミンK、GABA、共役リノール酸を作るし、Bifidobacterium(ビフィズス菌)はビタミンB1、B2、B6、B12、葉酸、ニコチン酸、ビオチンなどを作ることが知られている。
最近の耳鼻科学会では、腸脳相関ならぬ「腸・内耳相関」がよく演題に上がっている。
やっぱり、腸が大事、ということだな。