院長ブログ

シラジット

2020.1.20

犬を飼っている人なら、散歩中に愛犬が土を食べるのを見て、驚いた経験があるだろう。
他にも、一緒に飼ってる猫のトイレの砂を食べたり、庭にある小さな砂利を食べたり、という犬もいる。
いきなり狂ったのではない。
動物は、人間のように言葉を使って思考しないけれども、決してバカではない。内なる本能の声を聞くことができて、彼らはその声に従って、土や砂を食べている。
自分の体内にミネラルが不足していることを、適切に察知しているのだ。

人間で同じことが起これば、異食症(pica)という診断がつく。
診断がつくからには「病的」だと思われるかもしれないが、人間も動物である。本能の声が、土を求めているのである。
妊婦が壁土を食べる、という話はあちこちで聞くし、実際ある患者は僕に「妊娠中やたらと土が食べたくて、何かおかしくなったんじゃないかと思った」と打ち明けてくれた。
土に限らず、髪、チョーク、線香、マッチ棒などに食欲を感じる人もいるし、氷を食べたくなる若年女性は全然珍しくない(特に氷食症という)。

土はミネラルのカタマリだということを、僕らの本能はきちんと察している。
ただ「土を食べる」という行為が、僕らの身につけた常識とあまりにも乖離していることから、多くの人はこの本能の声を聞こうとしない。
しかし世界は広いもので、土を食べる行為が文化として確立している国もある。
ケニアのスーパーマーケットでは、オドワという妊婦や若年女性が食べるための石が、当たり前に販売されている。

オドワ売りの男がいう。
「妊婦によく売れるよ。うちのかみさんは6人の子供を産んだけど、オドワを食べて養生したから妊娠中も健康そのものだった。スイーツやチョコレートなんかの甘いものを食べてる妊婦はダメだね。体がヤワになっちまう」
ベトナムには土を網で焼いて客に出す習慣のある地域があるし、ハイチには「テーレ」という土入りのビスケットがある。日本でもアイヌの人々がユリ根と一緒に土を煮て食べていた。
そう、土を食べることは本来病的症状でもなんでもなく、僕らの内なる声だったんだ。

土を食べたい衝動を感じたとしても、現代において、その衝動を実行することはなかなか難しいだろう。本能の声にきちんと従おう、と思い立ったとしても、農薬やら除草剤やらわけのわからないものが浸透している可能性がある日本の土を食べることは、別のリスクを抱えると思う。
そういう人には、シラジットを勧めたい。

シラジットはアダプトゲン特性が確認されているハーブのひとつである。(「アダプトゲンとは何か?」については以前のブログで書いたので繰り返さないけど、簡単にいうと「抗ストレス作用のあるハーブ」のこと)。
シラジットは、アーユルヴェーダ医学で長年使われてきた歴史があって、安全性については折り紙つき。実はシラジットは、平たくいうと「発酵した落ち葉」なんだ。
葉っぱが土の上に落ちる。様々な微生物がそれを分解し、砂や土が混じり合い、土が肥沃になっていく。その、葉っぱとも土とも微生物ともつかない、天然の腐植土と植物性有機物の混合物。これがシラジットの本態だ。
主成分はフルボ酸(fulvic acid)で、フルボ酸のサプリもあるが、同じ飲むのならシラジットのサプリを勧めたい。

ミネラルが不足しがちな妊婦や若年女性にオススメなのはもちろんだが、アルツハイマー病に対する効果も認められているから、認知能力の低下しはじめた高齢者も服用するといい。
シラジットの有効性を検証した研究は数多いが、たとえばこういう論文。
『シラジット~癌に対する万能の腐植物』
https://www.researchgate.net/publication/288142673_Shilajit_A_humic_matter_panacea_for_cancer
「癌は心血管系疾患に次いで主要な死因である。癌の主要な病因としては、炎症、遺伝子変異、毒素、フリーラジカル、重金属、糖分、ウィルス、放射線などがあって、これらによって癌の発症と進行が促進される。
シラジットは黒っぽい茶色の植物性ミネラルで、世界中の多くの山岳地域で産出し生薬として用いられている。
シラジットはその成分として60~80%のフルボ酸とフミン酸(humic acid)を含む腐植物である。シラジットの生物活性は、主にこれら二つの酸の化合物によるものである。本レビューでは、シラジットおよびフミン酸化合物の癌に対する予防作用および治療特性に焦点を当てた。
シラジットおよびフミン酸化合物には、抗炎症作用、抗酸化作用、抗変異作用、抗毒素作用、抗ウィルス作用、重金属キレート作用、抗腫瘍作用、アポトーシス作用、紫外線防御作用がある。
これらの特性によって、シラジットは癌の治療および予防に効果を発揮する。さらに、シラジットには副作用の報告がなく、栄養補充に用いることもできるし、加齢に伴う諸問題に対する若返りの生薬として用いることも可能である」

癌の発生機序となる要因のすべてに対して抑制的に働いている、というのはすばらしいと思いませんか?しかも副作用もないというのだから、使わない理由が見つからない。

若年女性の貧血に対して、どうしたものかなと長らく考えてきた。
単純に鉄剤を処方するのは、別に間違っていないとは思う。でも、鉄剤はフリーラジカルの発生源でもある。体の酸化が促進され、各種疾患にかかりやすくなる。
理想的には、ケニアのスーパーマーケットで売られているように、僕も石(オドワ)を売りたい。でもそんなことをすれば、狂った医者だと思われるに決まっている^^;
だから、次善策としてシラジットを勧めるようになった。文献的なエビデンスとしてはあまりないんだけど、臨床的な印象としては、よく効いていると思う。
鉄欠乏貧血の女性というのは、実は欠乏しているのは鉄だけではなくて、他のいろいろなミネラルが不足している。そういう女性に一番効くのは、オドワのような「ちゃんとした石」を食べることだけど、「落ち葉と土の混じったもの」であるシラジットでも充分効く。
でも、シラジットが何かということについては、患者が引いちゃうからあまり言いたくないんだけどね^^;