院長ブログ

清原

2019.8.11

甲子園で高校球児たちが、暑い夏をさらに熱くする戦いを繰り広げている。
スポーツニュースで、「5季連続甲子園出場の3人が中心。智弁和歌山が挑む”負けられない夏”」というのを見た。
甲子園に5季連続出場、というのがどういうことか、わかりますか。
甲子園に出場するには、1年生、2年生の夏、春、3年生の夏と、合計5回のチャンスがあって、この5回全てに出場する。これが、5季連続出場、ということだ。

言うまでもなく、これは非常に難しいことだ。
まず、チームが強くないといけない。甲子園に出場するためには、都道府県代表になることが当然の必要条件だ。
さらに、1年生のときからチームのスタメンでないといけない。野球部員だけどスタンドで応援している、というのではもちろん出場としてカウントされない。
この、5季連続出場を成し遂げたことのある選手は、甲子園の歴史上、これまで9人いる。
その一人は、清原和博だ。

こういう、甲子園の歴代記録がからむ文脈になると、清原の名前がしょっちゅう出てくる。
たとえば高校時代に甲子園で打ったホームランの個人記録(春夏通算)。
1位は清原の13本、2位は桑田真澄の6本(同数で元木大介)、4位は香川伸行の5本、5位が松井秀喜の4本と続く。
13本というのは図抜けている。空前の記録であり、恐らく絶後だろう。

清原和博の『告白』を読んだ。
どんなふうにしてこの天才バッターが育ったのか、少年時代にまでさかのぼって、話が語られる。
子供の頃から体が大きく、すでに小学校の時点で才能の片鱗を見せていたし、地獄のように厳しいPL学園野球部で1年生からレギュラーだった。

そして天才のそばには、常に別の天才がいた。
清原の同級生に桑田がいて、巨人時代には松井がチームメイトだった。
『告白』のなかに、松井をどう見ていたのかの記述がある。

「きついトレーニングをして、パサパサのささみを食べて、いいと思うことは何でもやって。僕は何が欲しくてそれをやったのか。
やっぱり、ファンの声援だったと思う。
今でも覚えているのは2000年、その年も前半戦は下半身のケガでほとんど出れなくて、二軍生活を送っていました。7月7日、代打で復帰したんですが、その時にすごい拍手をもらいました。
高校時代に甲子園でも対戦した中山裕章からホームランを打ったんですが、あのときの割れんばかりの声援は今でも忘れません。巨人に来てよかった、と思いました。
巨人に来てからずっと勝負弱かった僕が、この年から勝負強さを取り戻せたんですけど、それはケガをしている間に考える時間があって、松井敬遠、清原勝負ということに対する気持ちを整理できたからだと思う。
それまでは松井が敬遠されるたびに、自分の感情をコントロールできなくて凡打していましたが、「松井を援護射撃するんだ」という気持ちになれました。
後から考えれば、それまで松井のことをライバルとして意識していましたし、どこかコンプレックスのようなものがあったのかもしれません。

松井は年々進化していましたし、技術もすごいんですけど、一番の僕との違いはメンタルの強さだったと思います。
いつも同じように球場に来て、同じように球場を去っていく。そういう姿に「こいつすごいな」と思っていました。
たとえば大チャンスに打てなくてチームが負けても、淡々としているんです。
松井とはロッカーが近かったのでわかったんですけど、あいつはホームランを打った日もまるっきり打てなかった日も、同じように淡々と着替えて、同じようにスパイクを磨いて帰っていくんです。感情を見せないんです。
僕なんかはチャンスで打てなかった日は、ベンチからロッカーに戻って、椅子に座ったまま30分は動けませんでした。
松井は悔しくなかったんじゃなくて、感情をうまくコントロールできる人間なんだと思います。僕とは根本的に違うんです。
だから松井は松井。年齢にかかわらず、彼には彼のすごさがあると自分の中で認めたんです。そしたら、それからはあまり意識しなくなったというか、解放されました。

イチローや松井というのは、球場にたとえお客さんが一人もいなくても同じパフォーマンスを出せるタイプの選手だと思います。
僕は逆に、ファンの人たちとの一体感がないと力を発揮できなかった」

18歳の夏、甲子園歴代最多の通算13本塁打目を放ったバットは、栄光の象徴として、甲子園歴史館に飾られていたが、2016年の事件を境に撤去された。
PLの4番、西武の4番、巨人の4番として活躍した天才が、他の天才、桑田や松井をどのような思いで見ていたのか。また、このスラッガーがどんなふうに身を持ち崩していったのか。
過去の栄光、家族、すべてを失った男が、インタビュワーの質問に、心の底から素直に答えているようだ。
マスコミに変に持ち上げられて、「番長」とか囃し立てられて、本人もサービス精神があるものだからそれに乗っかる。それが全国に放送されて、本人の実態と離れた虚像がますます拡散する。本当はものすごく繊細な人なのにね。
この人は、そういうサービス精神ゆえに、自滅してしまったんじゃないかな。
その点桑田は、サービス精神がない、といえば冷たいようだけど、変にマスコミ報道に惑わされず、淡々と自分の仕事をする。成功するべくして成功するタイプだ。
個人的には、ソツのない桑田よりも、清原みたいな破滅型の天才のほうに魅かれるんだよなぁ。

PQQ

2019.8.10

先月オーソモレキュラー学会に行くために久しぶりに新幹線乗ったら、降車時に運転手が英語でアナウンスしてた。いつから始まった習慣なのかね。しかし、その英語がびっくりするぐらいヘタクソだった。ああいう、全力のカタカナ英語風発音は久しぶりに聞いた。ついフフってなったけど、近くに座ってた外人も失笑してた。
日本人としては恥ずかしいけど、観光で来てる外人にとっては案外こういう英語は旅情を感じるポイントのひとつかもしれない。昔タイに旅行に行って飛行機から降りるとき、パイロットの英語がひどいタイ語なまりの英語で、そういうところに、僕はすごく「旅」を感じたから。

「学会で東京に行くんだけどさ、具体的には田町に行きたいんだけど、どう行くのが早い?新幹線で東京駅まで行って乗り換え?」と聞いたら、「いや、品川で山手線に乗り換え」と即座に返ってきた。さすが、東京在住だけあるなぁ。
「いや、その質問は超イージーだよ。あつしが電車のことわかってなさ過ぎるだけだね。山手線の内回りと外回りもわかってないでしょ」
あー、それ、確かにわからない。大阪にも環状線があって、内回りだ外回りだ言ってるけど、意味がわからない。
「まずね、日本では道路、鉄道、いずれも左側通行だってこと、わかる?」
あー、言われてみれば確かに!道路は知ってたけど、線路も左側通行やね。それは知らんかったわ。
「でね、次にその左側通行の道路なり線路なりが、輪っかを描いているところを想像してみなよ。外側を走ってる電車は時計回りに、内側を走ってる電車は反時計回りに動いていることがイメージできるでしょ」
あー、なるほど。よくわかった。それなりに長く生きてきたつもりだけど、こんな基本的なこと、今まで知らなかったとはなぁ。環状線の内回り外回り。義務教育で教えてもいいぐらいの話だね。
ところで、環状線の大阪駅から新今宮駅まで行くには、内回り、外回り、どっちが早い?
「うーん、微妙だね。それほど変わらないんじゃないかな。大阪のことは詳しくないから、ネットで調べてよ」

閑話休題。
オーソモレキュラー学会の話をしよう。とある演者が、PQQについて話していた。
PQQって聞いたことありますか?
「環太平洋パートナーシップ協定のこと?」それはTPPだね。
「バーベキューのこと?」それをいうならBBQだね。
「6Pチーズで有名な?」それはQBBだね。
そうではなくて、、、
PQQというのは、ピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone)の略称だ。
PQQについては、文献で何度か読んだことはあったけど、誰かの講演を聞くのは初めてのことだった。

PQQは細菌の脱水素酵素の研究中に、酸化還元反応に関与する補酵素として発見された。哺乳類では生合成されないが、ヒトやラットの各組織には微量のPQQが存在する。これは食事から摂取したPQQが全身に取り込まれるためだ。

ある栄養素が重要かどうかは、その栄養素を抜いた食事をとらせてみて、どういう影響が出るかを観察すればわかるものだ。
ラットでそれをやってみた。すると、PQQを抜いたエサを与えられたラットでは、成長障害、免疫異常、生殖障害など、様々な不調が現れた。
写真で比較すると、その影響は明らかだった。普通食のコントロール群に比べ、PQQ欠乏食のラットは、小柄で、毛並みの色ツヤが悪く、いかにも病弱な様子だった。

PQQの効用として、成長促進作用、抗糖尿病作用、抗酸化作用、神経保護作用などが確認されている。これらの効用の背景には、PQQがミトコンドリアの活性を高める可能性が言われている。

体内で生合成できず、食事性に摂取するしかない必須の微量栄養素。これはビタミンの定義だ。
そういう意味ではPQQはビタミンに他ならないのだが、現在のところ、学者間でのコンセンサスはない。しかし近いうちに、公式にビタミンの一種として認められる日が来るかもしれない。

講演を聞きながら漠然と思った。
成長促進作用があるということは、僕みたいに筋トレをしている人にとっては、筋トレの能率を高めてくれる可能性はないかな。
ミトコンドリアのエネルギー産生能率を高めるということは、アスリートの運動能力を高める可能性もあるな。
PQQのある食事とない食事で、あれだけマウスの色ツヤが違うということは、美容にかなり効く可能性があるな。
欠乏すると不妊になるということは、現在不妊症に悩むカップルにとって、有効な治療法となる可能性はないかな。

発見されて以後まだ歴史の浅い物質だけに、今後の実力は大部分未知数で、ひょっとしたらものすごい有効な栄養素かもしれない。
ナイアシンやビタミンCぐらい効くとすれば、栄養療法の世界にとっては、ちょっとした事件だろう。

そう思って、ネットでPQQをいくつか買ってみた。親しい人に手渡して「モニターになってよ。後で使った感想、教えて」
で、きのう、使用者本人から話を聞いた。
「すごいよ、これ。ほら、見て、私の肌。2週間前よりきれいになったと思わない?(う、うん、きれいになった、、かも)もうね、化粧の乗りが全然違う。明らかに肌のツヤがよくなった」
他の変化は?
「他は、ちょっとよくわからない。もともと別に病気もないし、元気だから。ただ、私が一番変化を感じたのは、肌の調子。これは本当に、劇的によくなったと思う」

女性にとって「肌がきれいになる」というのは、たとえば「風邪をひきにくくなる」とか「疲れにくくなる」なんかよりも、はるかにうれしいことだろう。
ちなみに、使ったのはこのメーカーのもの。

コエンザイムQ10やNAC、グルタチオンが入っているから、PQQ単独の効果とは言いにくい。他の栄養素がもたらす抗酸化作用やミトコンドリアの賦活作用などが、PQQの効果と相乗的に効いた可能性は、普通にあるだろう。
誰しもに効くとは限らないが、美肌を目指す人は一度試してみる価値はあるだろう。

スタチンと糖尿病

2019.8.9

会社の検診なんかでコレステロール高値を指摘され、病院受診を勧められた。
素直に病院に行き、コレステロール降下薬(スタチン)を処方された。以来、毎日飲み続けている。
みたいな経過で、スタチンを飲み始める人は多いと思う。

現代医学ではコレステロールは悪者ということになっているが、細胞膜やホルモン、ビタミンDなど構成材料であり、健康維持には不可欠だ。
生体は、食事に含まれているコレステロールを利用するのはもちろんだけど、それだけでは不十分で、自前でコレステロールを産生するメカニズムさえ備えている。コレステロール不足を何とか回避しようとしているのが、僕らの体なんだ。
ところが、現代医学の誤った前提に基づいて、コレステロールを薬で無理に下げるとどうなるか。
当然、様々な悪影響が現れることになる。神経系(気分、認知能力を含む)に対する影響については、以前にもブログで書いたことがあるから、今回は代謝系への影響について書こう。

『非糖尿病者の空腹時血糖に対するスタチンの影響』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6280428/
【背景】ますます多くのエビデンスが、スタチンの服用により糖尿病を発症することを示している。どのスタチン製剤を使うかによって、グルコース代謝に及ぼす影響は異なる可能性がある。国民健康スクリーニングデータを用いて、スタチンの服用が非糖尿病者の空腹時血糖をどのような影響を与えるか、経時的変化を調べた。
【結論】非糖尿病者において、スタチンを怠薬せずにきちんと飲んでいる人ほど、また、高用量で飲んでいる人ほど、空腹時血糖が有意に増加していた。
特にどのスタチンの影響が大きいか個別に分析したところ、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチンの服用は空腹時血糖の増加と有意に相関していた。プラバスタチン、ロバスタチン、フルバスタチンは空腹時血糖の増加に対して有意な傾向を示さなかった。本研究により、どのスタチンを用いるかで高血糖をもたらす影響が異なることが示された。

スタチンが糖尿病のリスク因子であることは、近年エビデンスがどんどん増えていて、もはや疑いの余地はない。
今や研究はもっと各論に、たとえば上記の論文のように、「具体的にどのスタチン製剤が血糖値への影響が大きいか」といった問題に進んでいる。
しかしスタチンが血糖値に影響を与えることを知らない医者はいまだに多い。

医者は無知で、患者は無邪気だ。
医者の言いつけをよく守る患者ほど(こういうのを、僕らは「コンプライアンスのいい患者」と言います)、スタチンを休まずしっかり飲み続け、結果、血糖値が高くなっている、というのが上記研究の示すところである。
で、こういう真面目な患者は、次に医者から「血糖値が高いですね。糖尿病のお薬も始めましょう」となれば、また律儀に薬を飲むだろう。
血糖値を薬によって調整するようになると、自前の血糖調節機能が障害されて、当初の薬剤性糖尿病がいよいよ本物の糖尿病になる。
「糖尿病は万病のもと」というのは一般の人もご存知だろう。
癌にもなりやすくなるし認知症にもなりやすくなる(スタチン自体、認知症のリスク因子でもある)。

最初は「コレステロールが高い」という、ただそれだけだった。十分な健康体で、何も問題はなかった。
それが、こんなふうに、薬が病気を作り、さらに薬が増えて、また新たな病気を作り、という悪循環に陥った。
健康が徹底的に損なわれ、本物の病人になってしまった。
患者はまさか、自分の「病気」を治してくれるはずの薬が、あらゆる病気の原因だったとは、思いもしない。
怖い話でしょう?
この暑い時期、下手な怪談よりはるかにゾッとさせてくれる話だと思う。
でも悲しいことに、「治療」と称するこんなデタラメが堂々と行われているのが、今の医療現場なんだね。

癌とビタミンB1

2019.8.7

癌とビタミンB1(チアミン)の関係を調べた研究は多い。
ざっと列挙してみよう。
(参考『癌におけるチアミンの役割』http://cgp.iiarjournals.org/content/10/4/169.full)

・高齢者において、カロテノイド、ビタミンD、チアミン、ナイアシン、ビタミンEの摂取量は膀胱癌のリスクと負の相関がある。
・症例対照研究において、ビタミンC、βカロテン、チアミン、ナイアシンの摂取量は、胃癌の発症リスクの減少と相関していた。
・食事から摂取するリボフラビンやチアミンの量は、子宮頚部の高悪性度扁平上皮内病変の発生率と逆相関を示していた。
・アルコールの消費量が多く、かつ、レチノール、チアミン、その他抗酸化作用のある栄養素の摂取量が少ないと、大腸癌の発生率が増加した。レチノールとチアミンの癌予防作用が示された。
・食事性にビタミンCとチアミンを多く摂ることで、前立腺癌の発症リスクが減少する。
・チアミン、リボフラビン、ビタミンA、C、鉄の摂取量が少ないと、癌リスクが増大する可能性がある。
・消化器系の癌患者の微量栄養素を調べると、特に癌による体重減少が見られる患者において、血中ビタミンC濃度と赤血球内のチアミン濃度が有意に低かった。また、癌で体重減少が見られる患者では、チアミンとビタミンCの摂取量が少なかった。
・急性白血病患者では、白血球内および血中のチアミン濃度が低かった。
・乳癌および気管支癌の患者では、チアミンピロリン酸(TPP)による刺激作用が強く、チアミンの尿中排泄が多かった。これは、これらの癌患者ではチアミン欠乏になる可能性があることを示している。
・トランスケトラーゼ(グルコース代謝に必須の酵素)は、癌細胞がグルコースを使って核酸リボースを産生する際に非常に重要である。癌細胞にオキシチアミン(トランスケトラーゼの阻害作用がある)を投与すると、癌細胞の増殖が劇的に減少した。
・癌のラットにチアミンとパントテン酸を高用量に投与すると、癌の増殖が止まり、 3エトキシ2オキソブチルアルデヒド・ビス(チオセミカルバゾン;KTS)の抗腫瘍活性が高まった。逆に、KTSで処理をしたラットにチアミンを加えると、用量依存性に体重減少を防ぐことができた。

要するに、チアミンを多く摂って血中チアミン濃度が高い人では、癌の人が少ない、ということだ。
チアミン欠乏の症状として脚気が有名だが、欠乏症を防ぐ程度のぎりぎり最低限の量では、日々の健康維持には心もとない。
しっかり摂取していれば癌になりにくいことがわかっているのだから、積極的に摂取するといい。

チアミンの分子構造を修飾したものとして、ベンフォチアミンというのがある。
製薬会社にとって、天然のビタミンは特許がとれないから、天然のビタミンに無理やり修飾を加えて、それでオリジナリティを主張して特許をとる、ということがしばしばある。
ベンフォチアミンもそういう合成ビタミンのひとつだ。
合成ビタミンは、多くの場合、自然の拙い模倣に終始していて、『天然ビタミンの劣化コピー』といったあたりが関の山だ。なかには発癌性が懸念されているものさえある。
ところがベンフォチアミンは例外的で、ある点では天然のチアミン以上の効果が期待できる。
糖尿病から来る神経障害に対して、ベンフォチアミンを使ったりする(ビタメジンでは弱いんだ)。
これは特に栄養療法というわけではなくて、ちゃんと勉強している糖尿病内科の先生ならやっていることだと思う(血糖値下げる薬を出すしか能のないアホがほとんどだけど)。
なぜベンフォチアミンはチアミンよりも効くのか。
ひとつには、チアミンが水溶性であるのに対し、ベンフォチアミンは脂溶性であることが関係しているのかもしれない。

ベンフォチアミンの抗癌作用を調べた研究もある。
『白血病細胞にベンフォチアミンを投与するとパラプトーシスによる細胞死を誘導できた』
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0120709

『がんの特効薬は発見済みだ』(岡崎公彦著)を読んだ。
本の内容は一行で要約できる。
「1985年日本人研究者によりベンズアルデヒド(アーモンド、アンズ、梅、桃、ビワなどの種に含まれる成分)が癌に効くことが発見されたが、この発見は製薬利権を守るため黙殺され、ベンズアルデヒドは今なお一般臨床では用いられていない」
エッセンスとしてはこれだけ。15分で通読できる。
そもそも本として上梓するだけの意味があるのかな、っていうぐらい内容の薄い本なんだけど^^;、個人的には以下の記述に度肝を抜かれた。
この記述のためだけにでも、この本を買う価値はあった、と思った。
「三共製薬のビオタミンと東和薬品のビオトーワは、どちらも同じ構造式のビタミンB1誘導体ですが、分子構造中にベンゾイル基(ベンズアルデヒドから水素原子が一個欠落したもの)を含んでいて、内服すると消化液で加水分解を受け、ベンゾイル基が遊離して吸収され、制癌作用を発揮します。
これはどのような種類の癌にも有効です。効きにくい癌種というものはありません」
ビオタミンもビオトーワも、一般名としてはベンフォチアミンである。
これ、どういうことか分かりますか?
ごく一般的な安価な処方薬によって、癌が治る可能性がある、とういことだ。
すごい話だよね。でも難点がある。
「ビオタミンまたはビオトーワの一日一錠の内服を三週間続け、四週目ごとに四~五割増量して、最終一日につき、三十錠を服用すると、軽度の進行癌も治療可能です」
一日三十錠なんて、薬局から疑義照会が来ることは確実で、さすがに出せないなぁ^^;
そうなると保険を使う処方薬じゃなくて、結局サプリを使うってところに落ち着くんだな。
あと、この理屈で言えば、キョウニン水も抗癌剤として使えるんじゃないかな。
キョウニン水というのは、アンズの種に由来する成分から作った咳止め薬。「メジコンとかカフコデよりもよく効くから」と好んで使う呼内の先生もいる。
しかしそういう先生も、まさか抗癌作用があるとは思ってないだろうな。

乗り物酔い

2019.8.6

今年もまた、神戸の花火を見ることができた。
去年と同様、陸地の混雑を避けて、船の上から眺めた。

ただ、去年は1万5千発だったのに比べ、今年はたったの6千5百発。
去年の半分以下のスケールということになるが、例年これが普通なんだ。
去年は兵庫県政150周年ということで神戸市も気合が入っていて、むしろ例外的だったんだ。
しかし去年の花火のすさまじさを知ってる自分としては、ショボくなったなという感想は否めない。
でも、打ち上げの数が減っただけで、花火の質は変わらない。
真っ暗な夜空に咲く一瞬の花は、恐ろしいくらい美しかった。

写真を撮ったところで実物よりも見劣りするのが普通だけど、夜の海が花火を反映して鮮やかに光って、まるで印象派の絵のようだ。
この写真には、逆に実際では見えない美しさがあると思う。
僕が撮ったんじゃないけどね^^;

相変わらずだったのは、花火の美しさだけではなく、船酔いする姉の姿も同じだった。
去年ひどく船酔いしている姉を見て気の毒に思ったものだけど、今年もまた同じようにぐったりしていた。

ただ、去年と違うことがある。
この一年間、僕は自分のクリニックの患者から、あるいは文献から、いろいろなことを学んできた。知識と経験の点で、去年の自分より優っているつもりだ。
船酔いへの対応となれば、去年はせいぜい一般的な処方薬を出すことぐらいしかできなかったが(そしてまったく効かなかったが)、今の僕には別の知識がある。
CBDオイルだ。船酔いに限らず、乗り物酔いに著効することには、エビデンスがある。
しかし去年と変わらないのは僕のうっかりな性格。
そういう船酔いの特効薬があることを知りながら、姉に事前に飲ませるのを忘れていたっていう^^;

『乗り物酔い、ストレス、内因性カンナビノイド系について』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2873996/
要約
陸路、空路、海路、いずれの道中であれ、乗り物酔いが原因の嘔気・嘔吐に困っている人は相当数いる。
乗り物酔いは非常にわずらわしいものではあるが、なぜ乗り物酔いが起こるのか、その神経学的な機序は未だ明らかではない。
内因性カンナビノイド系(ECS)は、ストレスおよび嘔気・嘔吐の調整に際し重要な役割を担っている。嘔気・嘔吐を抑制するECSの効果は、内因性カンナビノイド受容体の活性化が関与している。
ボランティア21人に放物線飛行操縦(PFs)を行ってもらい、その間のECSの活性具合を調べた。PFsの間、微小重力の状態がおよそ22秒生じ、それが大きな動的刺激となる。採血をPFsを行う前、10回、20回、30回行った後、PFsの終了直後および24時間後に、それぞれ行い、内因性カンナビノイド(アナンダマイドと2-アラキドノイルグリセロール; 2-AG)の血中濃度を測定した。
急性の乗り物酔いを発症した7人のボランティアでは、PFsの間、ストレススコアが有意に高く、かつ、内因性カンナビノイド濃度が有意に低かった。
PFsを20回した後では、乗り物酔いになったボランティアの血中アナンダマイド濃度が有意に低下していたが(from 0.39±0.40 to 0.22±0.25 ng/ml) 、症状のない人では上昇していて(from 0.43±0.23 to 0.60±0.38 ng/ml) 、血中アナンダマイド濃度は有意に高かった (p = 0.02)。
血中 2-AG 濃度は、乗り物酔いをする人では実験期間中、低いかほとんど変わらなかったが、乗り物酔いをしない人では著明に上昇していた。
また、乗り物酔いをするボランティアでは、実験から4時間経過した時点で白血球のカンナビノイド受容体1(CB1)のmRNAの発現量が、乗り物酔いしない人よりも有意に低下していた。
これらの発見は、ストレスと乗り物酔いの背景には内因性カンナビノイドの活性化障害があることを示している。
ECS伝達を高めることは、現在の乗り物酔い治療が効かない人に対して有効な治療手段となる可能性がある。

抗癌剤治療による吐き気に対してCBDオイルが著効することは有名だ。
抗癌剤によるものであれ乗り物酔いによるものであれ、そもそも吐き気という現象には内因性カンナビノイドの不具合があるのだと思う。

花火を終えて、船を走らせて船着き場に戻り陸に上がった後も、姉は回復せず、ぐったりしていた。
車に置いていた僕のカバンにCBDオイルがあったから、それを姉に見せて、「吐き気に効くやつ。今からでもいいから飲んで」と勧めた。胸がムッとするから要らない、と拒否する姉に、強いて飲ませた。
すると、、、
本当ね、びっくりしたんだけど、一瞬で効いた。表情がさっと晴れ渡って、すぐ元気になった。
CBDオイルはしばしば、こんなふうに劇的に効く。
船乗る前にこれを飲んどいたら、酔わずに花火をちゃんと楽しめたのになぁ。