2019.12.22
質問:バイオフィルムの分解によって子供たちの体内から有害金属が出てきたのはなぜでしょうか?
コーエン:こう考えてみてください。これらの有害ミネラルは皆カチオンで、正の電荷を帯びています。EDTAがこれらをキレートできたのは、これが理由です。水銀、銅、その他の重金属も正に帯電しています。なぜ細菌はカルシウムやマグネシウムを好んでバイオフィルムに利用するのでしょうか。使おうと思えば、正に帯電している金属なら何でも使えるはずなのに。この点こそが、私の長らく取り組んできたバイオフィルムに関する仕事の最もおもしろいところです。バイオフィルムの基質を分解し、細菌がフリーになると、有機酸の血中濃度が高くなる(ある子供では400にまで達しました)ばかりではありません。金属を腸に排出し始めるのです。
質問:ということは、金属も細菌も腸にいたということですか?
コーエン:その通り。去年5月にシカゴで行われた自閉症学会で、ある研究者が脳組織中のプロトン(陽子)を解析した結果をプレゼンしました。彼は自閉症児の脳に水銀があることを証明しようとしましたが、見つけられませんでした。しかし彼は、重金属曝露の結果として、ミクログリア(微小膠細胞;中枢神経系の免疫系で主に働くグリア細胞の一種)が活性化する証拠を発見しました。では、どこにこの重金属があるのでしょうか。それは、細菌とともにバイオフィルムのなかにあり、しかもそれは腸のなかにある、と私は主張しているのです。
逆に、バイオフィルムが一般的なミネラルとともに、重金属でできていないとすれば、なぜ突然、便のなかに大量の金属が検出されたのでしょうか?
質問:先生の治療法は具体的にどんな感じでしょうか?また、どんな手順で進めていくかも教えてください。
コーエン:まずはナットウキナーゼやルンブロキナーゼあたりの酵素から始めます。もっと強くフィブリン溶解効果を得るために、他の粘膜溶解酵素を併用することもあります。
ウスマン先生はレンサ球菌のバイオフィルムを分解するためにはナットウキナーゼが特に効くと感じておられます。レンサ球菌はバイオフィルムによって子供の健康に悪影響を与えていることが非常に多い印象を私は持っています。というのも、レンサ球菌の滴定を行うと、その値が高いことが頻繁にあるのです。
そして、こういう子供たちでは(もちろん大人でも、ですが)、レンサ球菌が神経症状の原因になっています。強迫性障害の傾向がしばしば見受けられ、ときにはほとんど精神病として出現することもあります。明らかな症状を伴った急性発症、という形で出現することはありません。
質問:何をどれくらい摂取するよう勧めますか?
コーエン:注意しておいて欲しいのは、こうした患者はごくごく子供だということです。なかにはほんの3、4歳という子供もいます。だから私は、カプセルの半量分を、1日2回服用するように勧めています。これは、ナットウキナーゼなら50mgカプセル1錠、ルンブロキナーゼなら20mgカプセル1錠です。
最初はこれらの酵素をEDTAと一緒に摂り、それから30分後に、”抗菌ブレンド”を投与します。
この抗菌ブレンドには、ベルベリン(黄檗や黄蓮に含まれる成分)、アルテミシニン(よもぎに含まれる成分)、柑橘類種子抽出物、黒クルミの外皮、よもぎ、エキナセア、ゴールデンシール(ヒドラスチスの成分)、ゲンチアナ(リンドウ)、ティーツリーオイル、カラクサケマン、ガルバナムオイル、オレガノオイル、ニームが含まれています。さらに、必要に応じて、バンコマイシン、ジフルカン、ゲンタマイシンなどの抗生剤も使います。毎日違うものを使います。それから1時間後、はがれたバイオフィルムや死菌などの残骸を掃除します。そこで使うのが、”吸収剤”です。具体的には、キトサン、柑橘類ペクチン、特製の重炭酸塩、有機ゲルマニウム、クロレラなどです。”緩衝剤”として徐放型ビタミンCなども使います。体内で細菌が破壊されると体液が酸性に傾くので、その影響を緩和するためです。ミネラル濃度を測り、必要があれば補わないといけません。経過を追うために、採血、尿検査、便検査を2か月ごとに行います。
質問:酵素、EDTA、抗菌ブレンド、吸収剤、緩衝剤を使うわけですね。効果のほどはどうでしょう?
コーエン:すばらしく効きます。バイオフィルムに対するアプローチこそが、ミッシング・リンクでした。
ある自閉症の少年がいました。彼の腸内はバイオフィルムまみれでしたが、いまやすっかり回復しています。当初は銅の血中濃度が極めて高く、毛髪の銅濃度は、銅そのもの、と言いたいくらいでした。回復後、毛髪の銅濃度はごく微量でした。この少年は毛髪に銅を排出することで回復したのではありません。ぶ厚いバイオフィルムを溶かしたことで銅が飛び散り、何か月もかけて便中に排泄されたのです。この男の子の場合は銅でしたが、水銀の排出に取り組んでいる子もいます。
質問:お話を聞いていると、このアプローチは慢性感染症がからんでいるどのような慢性症状にも効くような気がします。
コーエン:おっしゃる通りです。SLE、ライム病、多発性硬化症、その他、どのようなタイプの自己免疫疾患であれ、バイオフィルムによる慢性感染こそが、その背景にあると私は考えています。
注目すべきことは、なぜ免疫系が機能せずにこうした状態が持続しているのか、ということであり、また、どのようにして本来異物として認識されるはずの細菌が生き延びているのか、ということです。免疫系が機能不全に陥っているのか、あるいは、細菌が自身を変形させて免疫系の攻撃を回避しているのか、このどちらかです。答えは明らかでしょう。これがバイオフィルムの本質です。今日医学が取り組んでいる最大の問題のひとつであり、すでに解決法は見つかったものと考えています。
次回に続く。
2019.12.22
アメリカではかつて自閉症は数万人に1人という極めてまれな疾患だったが、今や数十人に1人、つまり、学校の1クラスに一人二人いても珍しくないくらいの頻度の疾患になった。
子供は国の未来そのものである。その子供たちに、何か大変なことが起こっている。これはほとんど国家的な危機である。
トランプ大統領も当然危機意識を持っている。彼にはわかっている。「ワクチンが原因だ」と。
「健康な子供が医者の所に行く→ワクチンを打つ→気分が悪くなる→ガラリと変わる。自閉症のできあがり。こんな事例の何と多いこと!」
「自閉症患者の増加が天井知らずだ。なぜオバマ政権はこの医療が作った自閉症に対して何もしなかったのか。失うものは何もないだろうに」
さて、ワクチンが原因だとしても、治療はどうすればいいのか?また、ワクチンが自閉症を引き起こす機序は?
そのヒントになる記事がある。ここに引用しよう。長い引用になるので、複数回に分けて紹介します。
『フィブリン溶解酵素でバイオフィルムを溶解する自閉症治療』
https://www.clinicaleducation.org/resources/reviews/dissolve-biofilms-with-fibrinolytic-enzymes-autism-support/
~自閉症スペクトラム障害における慢性感染症に対する新たなアプローチ~
ペータ・コーエン博士は小児自閉症の専門家で、栄養療法的なアプローチを研究している。
質問:先生は慢性的な細菌感染症やバイオフィルムに対して、極めて有効な治療戦略を考案されました。その治療戦略にはナットウキナーゼやルンブロキナーゼなどのフィブリン溶解酵素も含まれているといいます。
コーエン:数えきれないほどの子供の尿と便を分析し、治療効果を検証しました。ナットウキナーゼやルンブロキナーゼでおもしろいのは、そもそも「バイオフィルム感染とは何なのか」という本質が浮かび上がってきたことです。バイオフィルム、血小板凝集、フィブリノゲン、フィブリンについて、MEDLINEで検索してごらんなさい。すぐわかるでしょう。まず、細菌が複数集まってバイオフィルムを形成します。それから、自身の周囲のこの防御ネットを急速に増大させます。これは重合体基質で、糊のようにべたべたしています。内側にフィブリンを含んでいて、そのフィブリンのおかげで無傷な構造を保っています。細菌はフィブリノゲンを集めてフィブリンを作り、基質の一部に利用しているのです。この時点で、細菌のカタマリたちはフィブリンのガードで身を固めているため、自身の外膜を脱ぐことができます。細菌自身の外膜には抗原として認識されるタンパク質があって、免疫系のミサイルの標的になるからです。しかし、今や、彼らは守られています。宿主の免疫系の攻撃をかいくぐり隠れて生きる術を見事に作り出したのです。
質問:なぜ細菌たちは自分たちをそのように守るのでしょう?また、そういう細菌が私たちの健康にどのような影響を与えますか?
コーエン:確かに、この細菌たちは、急性期の活性化した感染に比べれば、代謝は低いといえます。しかし彼らはこの基質の防壁を作ることによって、まだ生きているし、発酵し、代謝しています。そして産生された毒物が血流に漏出します。産生したバイオフィルムのために、彼らは感染に対抗する因子や免疫系からの攻撃を逃れることができます。さらにいうと、このバイオフィルムは医者にとっても厄介で、便培養をしても、便中に感染を示す証拠が出てきません。有機酸検査や短鎖脂肪酸、患児の分泌する代謝物から、患児たちがこうした細菌に感染していることが分かりますが、便培養をしても、菌体そのものを見つけることはできませんでした。
質問:バイオフィルムを溶解すれば、菌体が出てきましたか?
コーエン:ええ、もちろん!しかしそれだけではありません。誰もが予期しなかったおもしろいものを見つけました。バイオフィルムが何からできているかを思い出してください。バイオフィルムの基質は立体の織物で、いわば水平の糸と垂直の糸から成ります。バイオフィルムはカルシウム、マグネシウム、鉄を捕まえて、その基質を作る材料にします。ミネラルがこのバイオフィルムに強度を与えているわけです。たとえば壁を作るときのことを考えてみてください。レンガだけで事足りますか?セメントも要りますよね?バイオフィルムも同様です。ミネラルのレンガとフィブリンのセメントで強固な壁ができているのです。
さて、この壁を壊すには、まずフィブリンを溶かすためにフィブリン分解酵素を使います。さらに、ミネラルを排出するために、EDTAを使います。ここからが問題です。この溶解したバイオフィルムから、何が見つかったと思いますか?
大量の有害金属です。なぜでしょうか?これに対する答えは、何か非常に大きいものを示唆していると思います。自閉症だけでなく、ライム病、多発性硬化症、SLE、さらには癌の治療に対するヒントもここにあると思います。
次回に続く。
2019.12.21
腸内細菌と病気の関連について近年ますます多くのことが明らかになっている。
前回、糞便由来の腸内細菌の移植について触れたが、この研究を初めて報告したのは以下の論文である。
『肥満に関連した腸内細菌はエネルギーの吸収能率を増加させる』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17183312
「肥満が世界的に問題になっているため、何が体内のエネルギーバランスに影響しているのかを特定しようとする研究が盛んである。遺伝的に太るマウスとやせるマウスの腸内細菌の比較、および肥満の被験者とやせた被験者の比較によって、肥満はおおまかに二つの支配的な細菌門(バクテロイデス門とファーミキューテス門)の豊富さに関係していることが明らかになった。
本研究で我々はメタゲノム解析および生化学的分析によって、これらの腸内細菌叢の変化がマウスの代謝に影響することを示した。これは、肥満をもたらす腸内細菌叢では、食事からエネルギーを吸収する能力が増加していることを意味している。さらに、この特性は「移す」ことができる。つまり、無菌マウスに「肥満腸叢」を移植すると、「やせ腸叢」を移植した場合よりも、全身の脂肪量増加が有意に大きかった。これらの結果は、腸内細菌叢が肥満の病態生理に影響する一因であることを示している」
2006年の論文で、腸内細菌叢の移植というアイデアが画期的だった。
その後同様の手法で世界中で研究が行われ、腸内細菌研究が加速することになった。シニアオーサーのジェフリー・ゴードンはそのうちノーベル賞をもらうかもしれないね。
この研究は一般の人にとってもおもしろいから(誰かの腸内細菌をおなかにいれるだけでやせたり太ったりするというのは、確かに衝撃的だ)、すでにマスコミなどで「やせ菌」「デブ菌」などという言葉を聞いたことがある人もいるだろう。
腸内細菌が関与しているのは、肥満とヤセだけではない。他の様々な病態にも腸内細菌が関与していることが明らかになっている。
そう、前回触れた統合失調症も例外ではない。
『薬物治療を受けていない統合失調症患者の腸内細菌叢をマウスに移植すると、統合失調症様の異常行動とキヌレニン代謝の異常が起きた』
https://www.nature.com/articles/s41380-019-0475-4
「腸内細菌叢が統合失調症の病理に対して、”腸内細菌-腸-脳相関”を経由して影響を与えているエビデンスが、近年ますます多くなっている。本研究では、薬物治療を受けていない統合失調症患者の糞便腸内細菌を無菌マウスに移植することで、統合失調症様の異常行動が見られるかどうかを調べた。
結果、統合失調症患者の糞便腸内細菌の移植を受けた無菌マウスでは、行動異常(不穏、焦燥など)、学習能力・記憶力の低下が見られた。また、これらのマウスでは健康な対照群から移植を受けたマウスと比較して、末梢神経および脳でトリプトファン分解のキヌレニン-キヌレン酸経路が亢進しており、前頭前皮質の基底細胞外ドーパミンと海馬の5-ヒドロキシトリプタミンも上昇していた。さらに、患者の糞便腸内細菌を移植されたマウスの結腸管腔濾液は、培養肝細胞に対して、キヌレン酸合成の促進とキヌレニンアミノ転移酵素II活性の亢進をもたらした。60種の糞便腸内細菌は患者由来と対照群由来とでは有意に違いがあり、その違いのために、トリプトファンの生合成機能など78の機能モジュールに影響していることがわかった。
腸内細菌叢の構成の異常は、トリプトファン-キヌレニン代謝が変化することで統合失調症の病因になっていることを我々の研究は示している」
前頭前皮質でドーパミン濃度が上昇していたというのは、従来のドーパミン仮説と矛盾する結果ではないのがおもしろい。
ただ、ドーパミンの上昇は明らかに腸内細菌叢の異常(ディスビオシス)によるものだから、抗精神病薬によってドーパミンD2受容体をブロックする試みは、明らかに本質的な治療になっていない。水道の蛇口から水が漏れているのを、タオルでぐるぐる巻きにしたって、水漏れは止まらない。ちゃんと蛇口を閉めないといけない。
では、蛇口の閉め方は?どうやって根本的な原因にアプローチできるのか?
答えは、もちろん、腸内細菌叢を改善することだ。それでは、その具体的なやり方は?
これについては次回に書きます。
2019.12.20
統合失調症の発症メカニズムは不明ということになっている。
仮説としては複数あって、ドーパミン仮説やグルタミン酸仮説などが提唱されてきたが、病態を十分に説明するものではない。
最近個人的におもしろいと思っているのは、キヌレン酸仮説である。これについて紹介しよう。
上図はトリプトファンの代謝カスケードである。
トリプトファンが酵素の代謝を受けてキヌレニンになり、ここからが岐路で、左に行けばキヌレン酸、右に行けば3-水酸化キヌレニンになる。
統合失調症患者では、血中のトリプトファン濃度が低く、かつ、キヌレニン、キヌレン酸の濃度が増加している。要するに、上図の岐路で左側への流れが優位で、右側の流れが滞っているわけだ。
そもそもトリプトファンという栄養素は、上手に代謝すれば、セロトニン、メラトニン、ナイアシンなど、体に有用な物質に変換されるが、その中間代謝物には毒性物質が多い。
キヌレニン、キヌレン酸もそうだし、上図で左下、NAD(ほぼナイアシン)になる手前のキノリン酸もそうである。これらはいずれも神経毒として作用する。
つまり、トリプトファンは人体に必須のアミノ酸でありながら、その処理を誤ったり滞ったりすれば、体内に危険な毒となって散らばることになる。上記のカスケードは、さながら爆弾トスゲームのようなものだ。
体質によるものか環境によるものかはともかく、不幸にもキノリン酸の蓄積によって何らかの症状(認知症、ハンチントン病、ALS、多発性硬化症、パーキンソン病など)が出ている場合、栄養療法的な方法で治せないだろうか。
この要望に応える論文がある。
『キノリン酸による興奮毒性に対する天然ポリフェノールの神経保護作用』
https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1742-4658.2009.07487.x
「キノリン酸の興奮毒性を仲介するのは細胞内のカルシウム濃度上昇と一酸化窒素を介した酸化ストレスであり、これらの結果、DNAの損傷、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼの活性化、NAD+の減少、そして細胞死が引き起こされる。
こうした変化を阻止するために、我々は一連のポリフェノール化合物(没食子酸エピガロカテキン(EPCG)、カテキン水和物、クルクミン、アピゲニン、ナリンゲニン、ガロタンニン)がヒト神経細胞培養物へのキノリン酸の毒性に対して抗酸化作用を発揮するかどうかを調べた。
その結果、EPCG、カテキン水和物、クルクミンには、アピゲニン、ナリンゲニン、ガロタンニンを大幅に上回るキノリン酸誘導毒性緩和作用があった。その機序は、EPCGとクルクミンの場合、これらによってキノリン酸誘導性のカルシウム流入が抑制され、かつ、神経細胞内での一酸化窒素合成酵素(nNOS)が抑制されることによる。しかしカテキン水和物の場合、これとは機序が異なり、カルシウム流入は抑制されていなかったが、nNOS活性が減少していた。これは恐らく、酵素が直接的に抑制されたことによるものである。
今回実験で使用したポリフェノールはすべて、一酸化窒素の増加による酸化作用を減少させ、結果、3-ニトロチロシンの生成とポリ(ADPリボース)ポリメラーゼ活性を抑え、NAD+の減少と細胞死を防いでいた。」
没食子酸エピガロカテキンもカテキン水和物も、要するにお茶、特に緑茶に多く含まれている。クルクミンといえば、やはりウコンだ。
「緑茶の消費量と神経難病の発症率には負の相関がある」みたいな疫学はないかなぁと検索していたら、こんなのがあった。
『緑茶摂取と認知症、アルツハイマー病、軽度認知機能障害〜系統的レビュー』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6567241/
緑茶で認知症が治る!なんてことは言えないが、少なくとも予防には有効だと言える。
他にも、こんな論文を見つけた。
『薬物治療を受けていない統合失調症患者の腸内細菌叢をマウス移植すると、統合失調症様の異常行動とキヌレニン代謝の異常が起きた』
https://www.nature.com/articles/s41380-019-0475-4
統合失調症患者の糞便由来の腸内細菌をマウスに移植すると、そのマウスが統合失調症のようになった、そしてそこにはキヌレニン代謝が関わっている、という論文。
糞便移植とか、最近の医学はえげつないことをするよね^^;
しかしこういう大胆な処置のおかげで、多くのことがわかってきた。統合失調症患者の糞便由来の腸内細菌叢を健康な人間に移植することは、人体実験そのものだから倫理的に許されないけど、仮にそういうことをすれば、その健常者が統合失調症を発症する可能性は高い。
これはすごい研究だ。ホッファーが古い喘息の薬(酸化したアドレナリン=アドレノクロム)を飲んで、自分自身で統合失調症の幻覚妄想状態を体験したように、腸内細菌移植によって、統合失調症は、いわば「作れる」ということだ。
「作れる」くらいなんだから、「治せる」はずだと思いませんか?
僕はそう思います。腸内細菌叢の異常がキヌレニン代謝の異常を起こし、結果、幻覚妄想を引き起こしたのだから、腸内細菌叢の改善によって症状が改善する可能性は充分ある。抗精神病薬の効く機序の一端に、腸内細菌も関与しているのではないか。クロールプロマジンはそもそも駆虫薬だったわけだから、この考えは決して突飛ではないと思う。
論文の詳しい紹介は、長くなりそうなので次回にします。
2019.12.18
「酒は百薬の長」という言葉の初出は『漢書』だという。酒の適量摂取が好ましいことは、すでに二千年前に指摘されていたわけだ。
しかしこれに対して真正面から異を唱えたのは、千年前の吉田兼好で、彼は徒然草のなかでこう言っている。
「酒は百薬の長といへど、よろづの病は酒よりこそおこれ」
酒は万病のもとでもあるぞ、との主張である。
それだけではなく、酒席でのアルハラ野郎に対する敵意、酒量が過ぎてみじめに崩れる泥酔者への嫌悪など、鋭い批判を展開している。
『徒然草 第百七十五段』
http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure150_199/turedure175.htm
これを読んで思うのは、千年前の人と現代人の変わらなさである。酒席でのバカ騒ぎ、二日酔いの苦しみなど、僕なんかは共感するところばかりで、日本人は千年前から1ミリも進歩していないのかもしれない^^;
「人の智恵を失ひ、善根を焼くこと火の如くして、悪を増し、万の戒を破りて、地獄に堕つべし(酒で理性が飛んで感情が燃え上がって、悪事をしでかして、禁忌を破る。もうね、こういう奴らはマジで地獄に落落ちたらええねん!)」
「地獄に落ちる」と細木数子のように警鐘を鳴らしてから、なんと、後段からは論調が一転して、酒の擁護が始まる。
「こんなふうに酒は嫌なところもあるけど、月夜とか雪の降ってる朝とか、桜の下とか、心のどかにしゃべりながらサカヅキを酌み交わすのって、最高に素敵やん?ぼんやりとした何でもない日に、急に予想外の友達が来て、ちょいと一杯、ってするのも、何かいい感じ。冬に狭いところで、火に当たりながら差し向いで熱燗をやるのもいいし、旅先で「何かつまみがあったらなぁ」なんていいながら飲むのも楽しい。上司みたいな偉いさんが「まぁもうちょっと行きなよ」と注いでくれるのもうれしい。お近づきになりたい人が酒好きで、一緒に飲んで仲良くなるのも、うれしいことだ。酒飲みっていうのは総じてアホなものだけど、罪のない愛すべき人種だよ」
完全に酒好きのおっさんやんか、っていう^^;中島らもが「酒に罪はない」って言ってたのと同じ空気を感じるな。
徒然草でいうところの酒は、当然日本酒のことを指している(古文で花と出てきたら桜だし、酒といえば日本酒だ)。
しかし現代日本ではピール、ウィスキー、バーボン、ウォッカ、ワイン、焼酎など、いろいろな酒がある。
医学的にいうと、酒には単位があって、純アルコールに換算して20g=1単位ということになっている。具体的には、ビール中瓶1本(500ml)=日本酒1合(180ml)=ウィスキーダブル1杯(60ml)=焼酎0.6合(110ml)=アルコール1単位(20g)という具合だ。アルコールに関する医学論文は皆、これに基づいて酒の量を計算している。
たとえば、横軸にアルコール摂取量、縦軸に全死亡率の相対危険度をとってグラフをかくと、上記のようなJカーブを描く。つまり、「適量摂取であれば死亡率が低下している」ということだ。
最も死亡率が低下している摂取量は1単位程度だから、晩酌にビールを1缶あけるくらいは全然飲まないよりもむしろメリットがある(ただし下戸の人は無理して飲んじゃダメだよ)。
「酒には強いほうだから、できるだけ毎日たくさん飲みたい。でも死亡率が高くなるのはイヤだ」という人が、毎日飲んでもいい上限は、上記グラフで信頼区間の幅も考慮すると、4単位程度ということになる。
これは、「とりあえず生で」から始めて、もう一杯おかわりして、次に焼酎を注文して、もう一杯おかわりして、それで終わり、ということだ。毎日飲むのなら、その程度で打ち止めにしないと、死亡率が上がってしまう。
純アルコール20gを1単位としたアルコール換算は便利だと思うけど、個人的には「本当かな」とちょっと疑っている。
酒好きはわかると思うけど、醸造酒(日本酒、ワインなど)と蒸留酒(ウィスキー、焼酎など)で酔いの感じが全然違う。理科の実験で使うような化学的に抽出した純エタノールと、酒蔵で杜氏が作った焼酎を、含まれているアルコールが何gでどうのこうのと、画一的に議論できるわけがない、というのがまず直感としてある。だいたい、焼酎を飲むといっても、大五郎とか樹氷とかジンロとか、プラスチックのボトルで格安で売ってる焼酎(甲類焼酎)と、鹿児島や宮崎で杜氏が精魂こめて作ったお高い焼酎(乙類焼酎)が、同じ土俵で議論できるのか。風味や酔い加減の違いは経験的に明らかで、だとすると健康への影響も当然違うのではないか。
こうした疑問に真正面から取り組んだ論文がある。ナットウキナーゼの発見者須見洋行とミミズ酵素ルンブロキナーゼの発見者美原恒の共著論文である。
『焼酎の飲用により誘導されるウロキナーゼ様フィブリン溶解酵素』
https://www.researchgate.net/publication/271612081_Urokinase-like_plasma_fibrinolytic_enzyme_induced_by_Shochu_drinking
学生被験者に協力してもらって(もちろん全員20歳以上だよ^^)、一人あたりアルコールとして30~60mlの酒量を10分間で飲み、1時間後に血栓溶解酵素の活性を調べた。飲んだ酒は、甲類焼酎、乙類焼酎、日本酒、ワイン、ビール、ウィスキーである。これらを、非飲酒群と比較した。すると、乙類焼酎を飲んだ群では酵素活性がダントツに(非飲酒群の2倍近く)高まっていた。このとき血中に増えた線溶酵素は、ウロキナーゼだった。乙類焼酎の持つ何らかの作用が血管の内皮細胞に働きかけたものと考えられる。
疫学的事実(適量飲酒者では死亡率が低い)とその理由(アルコールの血栓溶解作用、リラックス作用など)がわかったとしても、人間ほど個人差の大きい生物はいないというのもまた事実である。
僕は酒は好きだけど、量の調整が下手で、飲むとなれば記憶が飛ぶまで飲む、みたいな飲み方をけっこうしてしまう(酒の飲み方が20代から全然成長していない^^;)「毎日適量摂取」みたいなことが苦手だから、「基本的には断酒、たまに、特別なときにだけ飲む」みたいなスタイルにしている。
飲酒を肯定する医学的論理はあるけれど、くれぐれも酒には飲まれないようにね。