院長ブログ

納豆

2019.12.17

これは血液凝固のカスケードで、医学部の学生なら必ず勉強している。
「血液凝固因子のうち、ビタミンK依存性のものはどれか」みたいな問題が国家試験によく出るので、医学生は皆、「ビタミンK依存性の凝固因子は、肉納豆(Ⅱ、Ⅸ、Ⅶ、Ⅹ)」と語呂合わせで覚えている。
この語呂合わせはよくできているので、晴れて医者になって試験地獄から解放されて、血液内科の知識なんてごっそり忘れた後も(そう、自分の専門以外の知識は、すっかり忘却の彼方にあるのが普通の医者である)、何となく覚えている。
しかし、クックパッドを検索して驚いたんだけど、肉納豆という料理が本当にあるんだね^^;

この語呂がうまいのは、納豆という、ワーファリン服用者の禁忌食材を含んでいるところだ。
ワーファリンは抗凝固薬で、血栓をできにくくする。この作用は、肝臓でビタミンKと拮抗し、ビタミンK依存的な凝固因子(肉納豆)の活性を抑えることによって発揮される。一方、納豆にはビタミンKが多く含まれている。同時に、納豆が腸内細菌のビタミンK産生を促進する。つまり、ワーファリン服用者が納豆を食べては、ワーファリンの効果が弱まってしまう。

ということになっている。少なくとも、医学部ではそのように習う。
納豆は血栓を生じさせる危険な食材、といったイメージを持つかもしれない。
しかし一方で、こんな研究がある。
『大豆および納豆の摂取と心血管系疾患の死亡率~高山スタディ』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27927636
岐阜県高山市の住民約3万人を16年間追跡して、納豆、大豆タンパク質、大豆イソフラボンの摂取と循環器疾患による死亡の関係を調べた。かなり気合の入った研究だ。
結論をざっくり言うと、納豆を多く摂取する人では、虚血性脳卒中による死亡リスクが33%低下していた。こうした関係性は大豆タンパク質(豆腐、味噌、豆乳、油揚げなど)や大豆イソフラボンでは見出されなかった。
納豆の摂取が循環器疾患の死亡リスクを下げることを示した、世界で最初の研究ということになる。

そもそも、納豆には線溶系を活性化しフィブリンを溶解する作用がある。
「え、逆じゃないの?ワーファリンの作用を邪魔する危険な食材じゃなかったの?」
いや、逆ではない。納豆には抗血栓作用のある酵素ナットウキナーゼが含まれている。
『納豆に含まれる新しいフィブリン溶解酵素(ナットウキナーゼ)』
https://link.springer.com/article/10.1007/BF01956052
宮崎医大で美原恒のもとで助手をしていた須見洋行の発見によるものである。
学生を二つのグループに分け、一方に納豆を食べさせ、他方に煮豆(納豆のもと)を食べさせた。食べる前と食べた後、2時間ごとに採血して血中の線溶酵素の量を測ったところ、納豆群では2時間後に線溶活性が亢進し、4時間後にピークに達し、その後徐々に減少した。これに対し、煮豆群では何も変化は起こらなかった。

この研究は1980年代に行われた。それから三十余年が経過し、ナットウキナーゼの有効性を裏付ける研究報告は無数にある。
たとえばこんなレビュー(論文の論文。エビデンスレベルが最も高い)がある。
『ナットウキナーゼ~心血管系疾患の予防および治療における有望な選択肢』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6043915/
「心血管系疾患(CVD)は主要な死因の一つであるが、CVDによる死亡に対する予防する手段は限られている。納豆に含まれる活性成分ナットウキナーゼ(NK)には、心血管系に様々な効能があり、また、納豆を食べることでCVDによる死亡率が減少することが示されている。近年の研究では、NKの効能として、フィブリン溶解作用、降圧作用、抗動脈硬化作用、脂質低下作用、抗血小板作用、神経保護作用が証明されている。NKはCVDの予防および治療のための理想的な薬剤の候補だといえる」

日本人は千年以上前から納豆を食べてきた。千年以上食べている食材を「禁忌」にしてしまう薬剤って、どうなんだろう。
納豆よりもそういう薬のほうがはるかに怖い、というのが普通の人の感覚じゃないかな。

相撲

2019.12.16

ネットにこんな記事が上がっていた。そこで今日は、相撲について思うところを書こう。
『”平成の最強横綱”は白鵬なのか? 曙、貴乃花、朝青龍…名力士と比較した』
https://www.j-cast.com/2019/12/15374993.html?p=all

平成と一口に言っても30年以上あるわけだから、全盛期が平成初期の力士と平成末期の力士、どちらが強いか単純に比較することはできない。でも「時代の違う力士が直接対決したら」というのは相撲ファンには格好の妄想ネタだね^^;
子供の頃、相撲中継を見ていて、小錦がものすごく強かった記憶がある。圧倒的な体重で寄り切られると、筋肉のカタマリのような千代の富士さえも力を発揮できず、飲み込まれてしまう。
横綱に昇進してもいいかどうかは、横綱審議委員会(横審)が決める。昇進の基準は、大関で2場所連続優勝する力量と品格。
前者の基準は明瞭で、小錦は当然基準を満たしていたが、後者はどうとでも言える。
相撲はやはり日本の国技だから、外国人を横綱に据えることに対して横審は相当な抵抗感があったに違いない。「体重で押し出すだけの、技術も何もない相撲」「勝ち方に品がない。何というか、あの体格はほとんど”反則”だろう」なんだかんだと理屈をつけられて、小錦の横綱昇進はならなかった。
それでも小錦が結果を出し続ければ、横審も認めざるを得なかっただろうけど、膝を壊して以降、さっぱり勝てなくなった。故障がなければ横綱になれたんじゃないかな。
個人的には平成最強の力士は、膝を壊す前の小錦だと思っている。動ける200kgというのは、絶対に無敵でしょ。品格のある勝ち方かどうか、と言われると答えに窮するけどね。

この取り組みには小錦らしさがよく出ている。
自分のような巨漢と舞の海のような小兵の取り組みが、お客さんを沸かせることを理解していた。勝負一徹の力士なら、この取り組みのように、手を組み合ったりしない。勢いで潰して終わりだろう。でもそんな勝ち方をしても客は喜ばない。舞の海のリズムにあえて乗っていって、両手を組み合ったのは、サービス精神以外の何物でもない。後にタレントとして成功したのがよくわかる。

小錦は横綱になれなかったが、後に続く曙、武蔵丸らの外国人力士のために先鞭をつけた、ということは言えると思う。
外国人の曙が横綱の昇進条件を満たしたとき、横審は困惑した。曙は勝ち方も文句なくスマートだったから、小錦のときのように難癖をつけることができなかった。
大相撲では、同じ部屋に所属する力士同士は対戦しないことになっている(ただし、優勝決定戦だけは例外)。曙が大関の頃は二子山部屋の全盛期だった。若貴コンビだけでなく、貴ノ浪、安芸乃島、貴闘力など、実力派がそろっていた。一方、曙の所属する東関部屋には上位力士は一人もいない。つまり、同部屋対決回避のルールにより、二子山部屋所属の力士は圧倒的に有利だった。そういう逆風のなかで、曙は見事に結果を見せるものだから、横審もついに認めざるを得なかった。

曙以降、9人の横綱のうち6人が外国出身という状況となっている。国技で日本人がトップを張れないとはいかがなものか、と嘆く声も聞こえるが、必ずしも悪いことじゃないと思う。
僕の親戚が大阪で小さな鉄工所をやっていて、そこでモンゴル人の社員が働いているんだけど、彼の話を聞いていると、モンゴル人力士の活躍が彼の誇りになっている。日本の大相撲が外国からも注目されて、民族的なアイデンティティをさえ鼓舞してるというのは、すごいことだな。相撲がきっかけで日本語を勉強するようになって日本に留学、就職したのは、彼ばかりではないだろう。相撲おかげで多くのモンゴル人が日本のことを好きになってくれているんだ。こんなにすばらしいことってない。

モンゴル人初の横綱朝青龍は、確かに強かった。土俵外での問題行動のせいで追放されたけど、ああいうぶっ飛んだキャラがいたほうが相撲は絶対盛り上がる。
ヒール(悪役)の朝青龍とベビーフェイス(善役)の白鵬というツートップ時代がもっと続けばおもしろかったのにね。朝青龍を追い出したのは日本相撲協会の愚策だよ。絶対においておくべきだった。
だってこの取り組みを見てごらんよ。

見るたびに震える。何度でも見たい。相撲のおもしろさを凝縮したような一番だと思う。
2002年秋場所。横綱貴乃花はすでに満身創痍で、いよいよ引退するのではないかとささやかれていた(事実、この4か月後、2003年1月に引退を発表する)。
貴乃花の疲弊した表情。かろうじて横綱としてのプライドが、彼を支えている。
対するは大関朝青龍。破竹の勢いで昇進し、横綱になるのも間もなくのことと目されていた。昇進のペースに不服はないものの、朝青龍は気に入らない。去年貴乃花に完敗しているのだ。何としても一発返さねば気が済まぬ。
老いた老兵と登り竜の若手の対決。朝青龍の忙しい動きに対して、貴乃花の動きはどこか緩慢に見える。しかしやがて四つに組み合い、貴乃花の下手投げが決まった。
花道を引き揚げる朝青龍の「ちくしょう!」の叫び声。
いい。非常にいい。日本人力士なら、こんな叫び声は出さない。内なる感情を押し殺すのは、それはそれで日本らしい美徳だと思うけど、本当に悔しいときは出せばいいのにね。その点、朝青龍は素直で、悔しさが言葉になってほとばしり出た。100%ガチを示す、こんな雄弁な証拠ってない。
現役時代ガチンコを貫いてきた貴乃花には、引退後、相撲界にうっすらはびこる八百長の空気が許せなかったんだろうな。

虚血性疾患4

2019.12.15

心筋梗塞と脳梗塞は、血栓がどこに詰まるかの違いであって、根は同じ病気『血栓性虚血性疾患』である。
一般の医学では微小血栓が原因だとはまったく思われていない疾患のなかにも、実はこれに該当する疾患は相当多いはずだと僕は踏んでいる。
以前のブログに、「ハメマラ」について書いたが、細動脈のカタマリという意味では腎臓ももちろんそうである。実際、ルンブロキナーゼを飲むと最初に実感するのは、尿量の増加である。病的なレベルまでは行かないまでも、糸球体にフィブリン塊がつまっている人は多いのだろう。腎臓や腎盂の機能が高まって「おしっこをきちんと出すべきときに出す」ということができるようになると、夜におしっこのせいで起こされる、ということがなくなる。結果、睡眠の質が高まるだろう。
さらに、視力の改善を自覚する。「老眼のせいだろう」「PCのスクリーンから出るブルーライトのせいかな」と思っていた視力の不調が、いくらかマシになっていることに気付く。網膜動脈に微細な塞栓があったのが解消されて、血流がよくなって、結果、抗酸化力が高まったものと推測できる。ただし、ブルーライトの見つめすぎは絶対よくないから、「目が良くなった」と慢心してはダメだよ。ブルーライトの曝露は極力避けないと。
さらに、皮膚がきれいになる。ルンブロキナーゼの治験に参加した人のほとんど全員が、研究者の聞き取りに対して「なぜか肌の調子がいい」と答えた。手術後の瘢痕や古傷がルンブロキナーゼ服用後に「傷跡が薄くなった」という報告もあった。美肌効果を厳密に検証するには、ルンブロキナーゼ服用前と後で比較する研究が必要で、この研究はまだない。つまり、エビデンスはない。ただ、経験的には明らかに実感される効果のようだ。これはある意味当然で、皮膚に微小塞栓があってそれが改善すれば血流がよくなるだろうし、傷に対してフィブリンの壁で出血を阻止したその名残がスカーなのだから、フィブリンの溶解でスカーがきれいになっても不思議ではない。
『フィブリン糊と創傷治癒』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1631748

「ハメマラ」の諸症状が改善するのはもちろんである。歯周病は、ルンブロキナーゼで血流をよくしビタミンCで免疫を高めてやれば、だいたい治るし、マラのほうにも大層な効果がある。
【症例】48歳男性。糖尿病の治療のためにルンブロキナーゼを飲み始めたが、糖尿病が改善したのは予想通りだとして、本人が一番驚いたのは男性機能の高まりだった。飲み始めて15日ほどすると、これまで15年間、朝立ちなど一度もなかったのに毎朝元気になった。ずいぶんご無沙汰になっていた夜の営みが、急に激しくなり、女房から「もう勘弁して」と言われるほどになった(美原先生の本に挙げられていた症例)。

さらに、なんと、統合失調症患者が服用して症状の改善を見たという話もある。なぜ、微小血栓の解消が、統合失調症の改善につながったのか。その機序には非常に興味がある。
ひとつの仮説として、そもそもルンブロキナーゼが溶かすのは、本当にフィブリン塊だけなのか、という考えがある。つまり、ルンブロキナーゼはタンパク分解酵素のひとつである。だとすれば、たとえば腸壁に形成されるバイオフィルムをも溶解させるのではないか。以前のブログで、統合失調症とカンジダの関係について言及した。カンジダ菌の形成するしつこいバイオフィルムが、ルンブロキナーゼのタンパク分解作用により溶解し、カンジダが除菌された。その結果、症状が軽快したのではないか。この仮説を補強する事実として、ルンブロキナーゼを服用した直後に、統合失調症の症状が一瞬悪化して、しかしその後は着実に快方に向かう患者がいることが挙げられる。この一時的な悪化は、die-off現象、つまり、ルンブロキナーゼによりカンジダのバイオフィルムが崩壊し、生体内の免疫系がカンジダを直接攻撃することができるようになり、結果、死んだ菌体から大量の毒性成分が血中に流れ出たことによるのではないか。
おもしろい仮説だ。甘いものばかり食べて腸内のカンジダを延々養っているようではなかなか治らないだろうが、食事改善とルンブロキナーゼの服用を併用すれば、大幅な効果が認められるだろう。

血流が改善すれば、交感神経を興奮させて末梢まで無理に血液を送ろうと頑張らなくてもいい。つまり、相対的に副交感神経が優位になって、リラックスモードになる。
安保徹先生の「自律神経と免疫の法則」の考え方を援用すれば、ルンブロキナーゼの服用によって好中球過剰が軽減し、リンパ球の割合が増加して、免疫が適正になると思う。
職業柄、僕は比較的健康には気を遣っているほうだけど、そういう僕でも、ルンブロキナーゼを飲んで効果を実感した。たとえば右手の甲にある古傷(お灸が誤爆してやけどを負った)がルンブロキナーゼを飲みだして少し薄くなったし、時々痛む右上奥歯の根尖性歯周炎が完全になくなった。
健康なつもりの人がこれを飲むと、「もう一段上の健康ってのがあるんだな」と実感されることと思う。

虚血性疾患3

2019.12.15

たとえば、高血圧症。
原因はいろいろあるけど、まず大雑把に押さえておくべきは、「その必要があるからこそ、血圧が高い」ということである。
これは血圧だけでなく、人体の現象すべてに言えることだけど、人間の体はバカではない。人類が発生して400万年とも500万年とも言われるが、それだけ長い時間を生き抜いてきて、今、ここに生きているという、その事実自体が、人体のタフさと精妙さを実証している。
しかし西洋医学は、ここ数十年の間に身につけた浅知恵で「血圧が高いと循環器系疾患の発生率が増加する」からと、高血圧(140/90mmHg以上)を見たら目の色変えて下げよう下げようとする。500万年を生き抜いた精妙さを無視してこういう浅知恵で何かと介入することが、果たして本当に利益になるのかどうか、十分慎重になる必要がある。
西洋医学がもたらした恩恵もあるに違いないから、全否定はしないものの、ひとつ言えるのは、根本的な原因に目を向けない対症療法はむしろ有害無益であることが多い、ということだ。
高血圧の一番の原因は、末梢血管における血の詰まりである。血流障害を起こした組織が、血を呼び込もうとしてある種のシグナルを出し、それを感知した脳神経系(交感神経)および心臓が頑張って血圧をあげ、組織に血液を供給しようとする。これが高血圧の根本原因である。だから、当然のことながら、血流が改善すればもはや高血圧は不要となり、血圧は正常に復する。
ルンブロキナーゼはフィブリンに対して特異的に働き、溶解作用を示す。さらに、t-PA(線溶系亢進作用のあるタンパク分解酵素の一種)を増やす作用がある。脳梗塞の既往がある人はもちろん、高血圧の人はすでに全身の各所で微小塞栓による虚血が進んでいると見るべきで、塞栓解消のためにルンブロキナーゼを飲むといい。ある報告では、収縮期血圧190の50代男性が、2週間のルンブロキナーゼの服用で130にまで下がった。当然、何も副作用はない。
医薬品(ワーファリン、クロピドグレル、アスピリンなど)が出血傾向を来すのに対し、ルンブロキナーゼではそういう副作用がないのだから、ルンブロキナーゼは誰でも買えるサプリメントでありながら「薬よりも薬」だと言える。
実際、他の抗血栓薬とルンブロキナーゼの効果を比較したこういう論文がある。
『冠動脈血流改善のための新たな経口フィブリン溶解療法としてミミズ(ルンブリクス・ルベルス)から抽出・精製した経口ルンブロキナーゼ投与による心臓保護作用』
https://journals.lww.com/jhypertension/Abstract/2016/09001/PS_16_25_CARDIOPROTECTIVE_OF_ORAL_LUMBROKINASE.1385.aspx
メタ解析だからエビデンスレベルは高い。結論部分ではっきりこう述べられている。「ルンブロキナーゼは最小の出血リスクで著明な効果が得られる血栓溶解療法である」と。
こんな優れた成分が、なぜ、薬としての認可を受けていないのか。ルンブロキナーゼは韓国ではすでに1988年に薬として認可されている。効果を考えれば、当然のことだろう。しかし日本の医療行政では、別の力学が働く。ここには当然、製薬利権の闇が絡んでいる。一人の医者に過ぎない僕が語るにはあまりにも大きな話(そして、何ともやるせない話)なので、ここでは触れない。
ただ、ひとつ言えるのは「厚労省のお墨付きがある薬だから、ベストな治療法である」なんていうことはとても言えない、ということである。

虚血性疾患2

2019.12.15

神戸で暮らしている人にとって「しんだい」は当然神戸大学であり、それ以外の可能性なんて考えもしない。だから長野県の「しんだい」の学生になった当初は、ちょっとした違和感を持ったものだ。すぐ慣れたけどね。
同じ響きの言葉が、新潟在住の人にとっては新潟大学だし、神奈川在住の人にとっては神奈川大学ということになる。価値観の相対性を知る上でも県外生活は経験しておくべきだな。【追記】神奈川大学の略称は「しんだい」ではなく「じんだい」だと指摘を受けましたm(._.)m
神戸大学医学部出身であるということは、神戸近辺の病院では十分なネームバリューを持つ。患者のなかには医者の出身大学にこだわる人もいて、それなりの威光を放つ。
学生時代、夏休みに実家に帰省中、塾講師の短期バイトをしたことがある。そこで中学生の塾生にどこの大学に行っているのか聞かれて、「しんだい」と答えた。「おー、すごい」と尊敬の目で見られた。バイトの最終日に「実は、しんだいはしんだいでも、信州大学だけどね」というと、「うそつき!」と本気でののしられた。嘘ついた僕も悪いけど(必ずしも嘘じゃないけど)、その本気さは信州大学に対して失礼ちゃうかな^^;

神戸大学医学部が全国的にどのような位置づけにあるのか、よく知らない。ノーベル賞受賞者を一人輩出した実績があるが、客観的に見れば、それほど歴史があるわけでもない。旧帝大ではないし、あくまで戦後に新設された国立大学のひとつだ。
だから、1959年岡本彰祐が慶応大学医学部から当時の神戸医科大学に赴任することになったときは、ほとんど「都落ち」の感覚だったと思う。しかし弘法が筆を選ばないように、一流研究者は場所を選ばずとも成果をあげる。現在でも臨床でバンバン使われているε-アミノカプロン酸、トラネキサム酸、アルガトロバンを次々に開発し、血液学の世界をリードし、ついにはノーベル賞の候補にもあげられるまでになった。

1960年慶応大学生理学教室の医員だった美原恒は、医局から神戸大学への赴任を命ぜられた。ここで岡本に師事し、線溶酵素の研究に没頭することになったが、その研究成果が花開くのは20年以上経ってからのことである。
1974年新設の宮崎医科大学に教授として赴任した美原は、赴任早々、大学から畜産廃棄物処理を担当するよう依頼された。新設だけあって、教授にもいろいろな雑用がまわってくる。畜産廃棄物処理、といえばそれらしく聞こえるが、要するに、糞の処理である。しかも、時代は第一次オイルショックの頃で、廃棄物を燃やす重油代もろくに出ないという。大学当局は「予算のないところで何とか工夫して対処法を考えるのが研究者でしょうが」といわんばかりの様子だった。普通の医者なら、ここでキレる。「なめやがって。俺にクソの処理させようってのか。こんな田舎まで呼んどいて」と、神戸にまた戻ってきたことだろう。
しかし、美原は根っからの研究者だった。与えられた状況で、いかにして課題に対するベストな対応策を打ち出せるか。美原はそこにやりがいを見出し、畜糞の処理法に知恵を絞った。
ちょっとした思いつきで、赤ミミズ(ルンブリクス・ルベルス)に畜糞を食わせたところ、牛糞、豚糞なら2週間で、鶏糞なら4週間で跡形もなく糞が消えることを発見した。しかもこのミミズが産出する糞土は園芸用の肥料となり、この糞土には悪臭除去効果もあった。
この発見は、単に宮崎医大の予算削減に大幅に貢献しただけではなく、畜産廃棄物の清浄な処理という環境科学の分野での偉大な達成でもあった。
さらにミミズを研究していた美原は、あることに気付いた。乾燥して死んだミミズは黒く変色して干物のようになるが、湿り気のあるところで死ぬと跡形もなく溶けるのである。線溶作用の研究者である美原の心に、ふと閃くものがあった。これは、何らかのタンパク分解酵素の働きに違いない、と。

シャーレのなかにフィブリノーゲンを入れて、そこにトロンビンを加えるとフィブリンができる。いわば、人工の血栓である。ここに検体を滴下して、フィブリンが溶けるかどうかを調べる。溶解した面積が大きいほど、その検体の線溶活性が強いわけだ。この実験で、美原はミミズから抽出した酵素に強いフィブリン溶解作用があることを発見した。この線溶活性酵素の分子量、至適pH、至適温度、生体内での働きなど、様々な研究を重ね、ルンブロキナーゼと名付けた。
当時、線溶活性を亢進する薬剤として、欧米ではストレプトキナーゼが、日本ではウロキナーゼが用いられていた。しかし前者は連鎖球菌から抽出した酵素で、人によってはアナフィラキシーショックを起こしてしまうし、後者は人の尿からごくわずかに抽出される酵素であるため非常に高額であるという欠点があった。
しかしルンブロキナーゼは、ウロキナーゼよりも効果が強く(効き始めるのにウロキナーゼは10時間前後、ルンブロキナーゼは4時間ほど)、はるかに安価で(ウロキナーゼ20万単位は原価20万円、ルンブロキナーゼ1gは市価800円)、服用が安易だった(ウロキナーゼは静脈内投与、ルンブロキナーゼは経口投与)。しかもルンブロキナーゼは、ウロキナーゼに強く見られる出血傾向を、ほとんど起こさない。
つまり、ルンブロキナーゼは、効果、価格、安全性の点で、ウロキナーゼよりもはるかに優れた薬であることを、美原は証明したのだった。

『ミミズを用いる伝統的東洋医学から発見された新しい血栓溶解治療』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1298986
7人の健康な被験者(28~52歳)に120㎎のミミズ抽出物を毎食後(1日3回)経口にて17日間服用させた。投与開始後1,2,3,8,11,17日目に採血を行った。検査項目は、フィブリン分解産物(FDP)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)抗原の血中濃度およびt-PA活性を測定した。投与前にt-PA抗原の血中濃度は5.6 +/- 0.38 ng/mlだったが、17日目まで徐々に増加した。
FDPは投与後1,2日目には上昇したが、その後17日目までに減少し、正常に戻った。実験期間中、フィブリン溶解活性も増加傾向にあった。これらの結果は、ミミズ抽出物が経口の血栓溶解薬として有用であることを示している。

この研究で注目したいのは、被験者が皆健常者で、そういう健康な被験者にルンブロキナーゼを飲ませても、FDP(血栓が溶けた残りカス)が上がっているということだ。
健康な人でさえ、25歳を過ぎれば体のあちこちに微小血栓があって、それが内臓などの各器官の微小血流系にフィブリンが溜まり始めている、ということをこの研究は示している。
次回は具体的にどのような症状に効くのかについて、書いていこう。

参考:『ミミズ酵素のちから』(美原恒著)