院長ブログ

疲労とビタミンC

2019.3.3

「一晩寝るとすっかりが疲労が消えて、今日も一日頑張ろうという気持ちになれます」と言える人は、今の日本でどれくらいの割合でいるだろう。
「ずっと疲れています。寝ても疲れが取れず、朝からだるい感じです」という人がかなり多いと思う。
実臨床では、たとえ疲労が主訴でなくても、話を聞いていると疲労を認める人がほとんどだ。疲労感というのは、現代人の心身に通奏低音のように流れている。

意外に思われるかもしれないが、対症療法がお得意の西洋医学も、疲労や倦怠感に対しては無力だ。
昔は疲労に対してヒロポン(メタンフェタミン)が処方されていた。商品名の由来(疲労がポンととれるからヒロポン)を聞けば、なるほどと思うよね^^;
しかしこの薬には耐性と依存性があって、長く使い続けると薬なしでは正気を保てなくなって、やがて廃人になる。そういうわけで、今では覚醒剤取締法に抵触する禁止薬物ということになっている。
かつては薬として処方されていたものが、今では覚醒剤扱いって、考えてみればすごい話だ^^;
でも実は、現在普通に処方されているベンゾジアゼピン系の抗不安・睡眠薬も、依存性と耐性があって、結局同じようなもんなんだよなぁ。

さて、かつてはヒロポンという対症療法があったが、今ではそれも禁じ手になってしまい、西洋医学は疲労に対して打つ手がない。
副腎疲労(adrenal fatigue)や慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome)という疾患概念があって、よく勉強している医者はこういう病態を知っている。
しかし一般の医学部教育で教わるものではないし、保険適応のある病名ではない。つまり、「普通」の医者には認められていない。
“Adrenal Fatigue: The 21st Century Stress Syndrome”という名著があって、著者のJames Wilson博士は、疲労感に対して栄養状態の改善(サプリの使用も含め)によって、大きな治療成果をあげた。具体的な内容についてはここでは触れないが、Wilson博士が使用するサプリのひとつに、 ビタミンCがある。

そもそも疲労とは何か。
活性酸素による酸化ストレスで神経細胞が破壊される、そのときの体の悲鳴を、僕らは「疲労」として認識するのではないか、という説がある。
つまり、疲労の背景には酸化がある。
だからこそ、Wilson博士は抗酸化作用のあるビタミンCを治療に用いているわけだ。

疲労に対してビタミンCの有効性を示す研究は多い。
たとえば以下のような論文。https://pdfs.semanticscholar.org/81ba/bb973e4772df0e694622b8de397dd39be5bd.pdf
『ビタミンC投与後の労働者の疲労の変化』
要約すると、
目的:最近の研究では疲労の重要な因子は酸化ストレスだと考えられている。本研究の主な目的はビタミンCの投与によって労働者の疲労が変化するかどうかを調べることである。
方法:定期的に働く労働者44人を対象に、2週間にわたって毎日ビタミンC6gを経口投与した。その後、人口統計データと比較し、対象者らの疲労度(VAS、FSS)および血液検査(ビタミンC、HbA1c、CRP、AST、ALT、γGTP、コルチゾル)の変化を評価した。
結果:疲労について疲労についてVAS、FSSいずれもビタミンC投与後に改善していた(p<0.005)。血液検査では、HbA1c、CRP、AST、ALT、γGTP、コルチゾルはビタミンC投与後に減少した(p<0.005)
結論:ビタミンC投与によって労働者の疲労感および血液検査の数値が改善することが示された。

この研究はビタミンCの経口投与だけど、もちろん静脈から投与しても効果的だ。
静脈投与による効果を検証した論文を以下に紹介しよう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3273429/
『ビタミンCの静脈投与はサラリーマンの疲労を軽減する〜プラセボ対照二重盲検』
要約すると、
ビタミンCによる疲労の治療効果についての研究は、結果にばらつきがある。このばらつきの原因のひとつは、投与経路の違いかもしれない。そこで、我々はビタミンCの静脈投与による臨床治験を行なった。
サラリーマンの疲労に対する静脈内ビタミンCの効果を評価した。
20歳から49歳までの141人の健康なボランティアがこの無作為化二重盲検に参加した。治験群にはビタミンC10mgを生理食塩水とともに静脈から投与する。プラセボ群には生理食塩水のみを投与する。
ビタミンCは抗酸化物質として知られていることから、体内の酸化ストレスを計測した。疲労スコア、酸化ストレス、血中ビタミンC濃度を、投与前、投与2時間後、投与1日後に計測した。同時に副作用の有無も確認した。
結果、投与2時間後および1日後に計測した疲労スコアは、2群間で有意に差があった(p=0.004)。つまり、疲労スコアはビタミンC投与群で投与2時間後に減少しており、1日後も低いままだった。
ビタミンC投与群では、プラセボ群に比べて、血中ビタミンC濃度が高く、酸化ストレスが低かった。データ分析をより細かくし、もともとのビタミンC濃度が高かった群と低かった群で分けると、投与後2時間後および1日後の疲労の軽減はもともとビタミンC濃度が低かった群で観察された(p=0.004)が、もともとビタミンC濃度が高い群では観察されなかった(p=0.206)。
結論として、ビタミンCの静注は投与2時間後の疲労を軽減し、その効果は1日後も残存する。2群間で副作用の有意差はなかった。本研究において、高用量ビタミンCの静注は疲労に対して安全かつ効果的であることが示された。

ちなみに上記2つの論文は、いずれも韓国から出たもの。
最近の韓国はビタミンに関する研究が盛んで、良質な仕事を量産している。
この背景には、韓国人の国民性もあると思う。形成外科の手術件数でいうと日本とは比較にならないほど多いように、韓国は美容に対する関心が高い。
美容とビタミンはお互い相性のいい分野だから、そういう経済的動機が研究を後押ししている側面もあるだろう。
一方、日本の医学者は、韓国とは逆にビタミンを目の敵にしている始末だから、当然韓国の後塵を拝している。今後、この差はますます開くばかりだろう。
だから何、ということはない。韓国に負けたからどう、勝ったからどう、ということはないんだけどね。ただ、近年の日本の国力、科学技術力の低下を象徴的に示しているような気がして、何だか寂しいんだな。

韓国の話が出たついでに、在日韓国人の友人の話。
「祖母は在日二世なんだけど、祖母は私に通名を使わせたいと思っていた。でも父が本名で通せ、って。
あ、通名っていうのは、日本人ぽい名前ってことね。ほら、私の名前は、漢字こそ使ってるけど、読みが全然日本風じゃないでしょ。これが本名なの。韓国籍でお役所に登録されている名前ってこと。
お父さんは、『何もコソコソ通名を使うことはない。本名で堂々としていればいいんだ』って考え方の人で、私にもそういうふうに生きて欲しかったのね。で、私も小学校からずっと今に至るまで、本名を名乗ってる。在日であることはもちろん隠してないし、出自のことを聞かれれば普通に答えるよ。朝鮮人差別がどうのこうのって、ニュースで見たりするけど、私自身は特に差別なんて感じたことないよ。
高校を卒業して韓国の大学に行ったから韓国語を話せるようになったけど、それまではほとんど話せなかった。国籍こそ日本じゃないけど、日本語が母語で日本の学校に行って日本人の友達と青春を過ごして、ってなったらさ、気持ち的にはもちろん日本人だよ。韓国学校にでも通っていれば、また違う価値観になってたのかもしれないけど。
あ、韓国学校っていうのはね、ほら、以前朝鮮学校の授業料無償化がどうのこうのって問題になったでしょ?朝鮮学校っていうのは北朝鮮寄り、韓国学校は韓国寄りの学校。数としては、朝鮮学校のほうが比較にならないくらい多い。
在日、と聞けば、北朝鮮出身だろうが韓国出身だろうが同じようなもんで、ワンセットだと思っているでしょう?実は全然違うんだよ。思想から何から何までね。
私、本名で通してるからさ、けっこう話しかけられるの。『ひょっとして、在日の方ですか。実は私もなんです』みたいなふうに。そうすると、話の自然な流れとしてまずお互い聞くのが、北か南か、ってこと。そこで違えば、『そうですか、お互い頑張りましょうね』で話は終わり。でも同じ南だったら、話はさらに弾んで、昔の友達に出会ったような、なつかしい気持ちになる。
露骨な差別を受けた経験はないよ。でもさ、同じ在日だから分かり合える感情っていうのが確かにあるの。
東京で関西出身者に出会ったらなつかしいでしょ?あれ?大してなつかしくない?笑
そういう感情を十倍くらい強めた感じだよ」

赤の他人であっても、無言のうちに感情をシェアしあえる関係性って、うらやましいな。
マスコミ報道は日韓の対立を伝えるニュースばかりで、両国の関係は冷え切っている。実生活で露骨な差別はないかもしれないけど、ネットの掲示板とか見れば下品な書き込みがあふれていて、彼女もそういうのを知らないわけじゃない。
胸が痛むが、同時に、強く生きよう、とも思う。日本国籍をとることは簡単にできる。本名のままとることさえ可能だ。実際、彼女の弟はすでに日本国籍をとり、日本人の嫁さんをもらっている。でも在日であることは、もはや彼女の中で確固としたアイデンティティになっている。いまさら単なる一人の日本人になることは、これまでの自分の人生を切り捨ててしまうようで、とてもできない。
いろんな人がいて、いろんな思いを抱えていて、そういう違いを、差別するんじゃなくて楽しめるようになるというのが人間の成熟だと思うんだけど、ネットの書き込みとか見てると民度の低さにあきれてしまって、僕にはもう何も言えません。

ビタミンC

2019.2.9

薬かサプリか、の二択である必要はない。両方飲んじゃえばいい。
そういう端的な例として、こんな記事があるのでテキトーに訳しつつ紹介しよう。http://www.schizophrenia.com/sznews/archives/002402.html#

「統合失調症の病理にはフリーラジカルが関与している、というのは複数の研究者が指摘しているところである。
本研究の目的は、非定型抗精神病薬および経口ビタミンCが統合失調症患者の血中マロンジアルデヒド(MDA)濃度、アスコルビン酸濃度、簡易精神症状評価尺度(BPRS)に与える影響を調べることである。
方法:40人の統合失調症患者を対象に、前向きプラセボ対照二重盲検を8週間にわたって行った。統合失調症患者はプラセボ群とビタミンC群にそれぞれ20人ずつ無作為に割り振られた。
血中MDAおよびアスコルビン酸濃度はそれぞれ、ニシャル法、エイエ法により計測した。
結果:統合失調症患者では血中MDAが高く、アスコルビン酸濃度は低かったが、これらの値は、抗精神病薬+プラセボ治療群と比べて、抗精神病薬+ビタミンCによる治療群では8週間後に有意に逆転していた。
つまり、血中MDAが低下し、アスコルビン酸濃度が上昇していた。8週間後のBPRSはプラセボ群と比べてビタミンC群で統計的に有意に改善していた。
結論:非定型抗精神病薬服用中の統合失調症患者にビタミンCを経口投与すると、アスコルビン酸濃度が上昇し、酸化ストレスが減少し、BPRSが改善する。
それゆえ、薬とビタミンCを組み合わせて統合失調症の治療に用いることは有益である。」

記事中、研究内容が何かと批判されている。
「標本サイズが小さい(ビタミンC投与群がたったの20人)し、研究期間も短い(たったの8週間)ことが欠点で、標本サイズが小さいことは統計的に有意かどうかが疑わしい。
それに、この研究はインドで行われたものだ(インドの大学は、西洋のトップレベルの研究機関と同一の研究水準とは言い難い)。
『ビタミンCは統合失調症に有効である』というこの研究の結果は興味深いが、最終的な結論というにはさらなる研究が必要だろう。
ただ、その最終的な結論が出るまでの間に、推奨量のビタミンCを飲むことは誰にオススメしてもいいだろう。ビタミンCを食品から摂取するのなら、オレンジ、イチゴなど、果物や野菜から摂ることができる」

個人的には、ビタミンCは患者にとても使いやすいサプリだと思う。
ビタミンCを患者に勧めて、何か困ったことがあるかっていうと、全然ない(この点、特に使い始めに慎重さが要求されるナイアシンと対照的)。
特に効果を実感するのは、高齢者に使ったときだ。
そもそも老化というのは、酸化の進行のことだから、抗酸化物質のビタミンCが高齢者に著効するのは当たり前といえば当たり前のことだ。
特に何らかの病気の人に投与すると、ビタミンCだけで症状が軽快してしまうことも多い。
たとえば初期の認知症の人に僕が好んで処方する組み合わせは、以下のようだ。
人参養栄湯 9g 朝昼夕食前
シナール 3g 朝昼夕食後
プロマック 2錠 朝食後、就寝前
この組み合わせは保険適用の範囲内で処方可能だ。だから金銭的に厳しくて自費診療とか無理な人も、この処方で認知症とけっこう戦える。
人参養栄湯に含まれている遠志(おんじ)という成分が記憶力の改善に効果がある、というエビデンスがある。http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/pdf/070005.pdf
だから、遠志が含まれているなら別に人参養栄湯にこだわる必要は必ずしもなくて、たとえば帰脾湯とかでもいいし、何なら遠志の単剤が第3類医薬品(誰でも買える)で売ってるから、それを各自で試すのもいい。
シナールとプロマックの組み合わせは、要するにビタミンCと亜鉛のことで、抗酸化対策のベストコンビだ。認知症患者では亜鉛の血中濃度が低いから、それを補う意味もある。
今みたいな寒い季節には、このコンビは風邪予防にも効果がある。
何にせよ、効果がないとわかっている抗認知症薬を無意味に処方するより、シナールだけでも処方するほうがよほど有益だと思う。
やはりビタミンCは使い勝手がいい。