2020.1.8
幻覚・妄想症状のある患者を見れば、まず、統合失調症を疑い、抗精神病薬の投与を開始する。
精神科医なら誰もがやっていることだ。しかし、投薬によってほとんど(あるいはまったく)改善しない症例がある。
複数の抗精神病薬を十分量、十分な期間投与しても改善しないとき、こういう症例を、治療抵抗性の統合失調症、という。精神科医なら誰でも経験している。
こういうときにどうするか。
ひと昔前なら、患者は医者の言いなりだった。薬をどんどん増やされることになる。一般の精神科医には、薬しか武器がないんだから、仕方ない。
なるほど、薬の効果というべきか、確かに幻覚、妄想は治まったようだ。ただ、ずっと無気力状態で、廃人のようだ。もはや、かつての「その人」ではない。人間をこんな状態にしておいて、果たしてこれが、治療、と言えるのか。
今はインターネットがある。もはや、知識は医者の専有物ではない。患者は必死である。他ならぬ自分の病気のことだから、医者よりも熱心にネットで勉強している。
そこで、一般の医者が知らない情報にたどりつく。「オーソモレキュラー療法?統合失調症にはビタミンCやナイアシンなどのビタミンが効く?よし、やってみよう」こうして劇的に改善する人がいる。統合失調症を医者に治してもらったのではなく、自分で(あるいは情報で)治したんだ。
もっとも、この場合「統合失調症にナイアシンが効いた」というよりも、そもそも統合失調症というよりは、ペラグラ(ナイアシン欠乏)による精神錯乱だった、というべきかもしれない。
とにかく、統合失調症と診断される患者のなかに、ナイアシンが著効する一群があるというのは、エイブラム・ホッファーの偉大な発見だった。
さて、期待しながらビタミンを飲んでみたが、それでもなお改善しない、相変わらず幻覚やら妄想に悩まされる、という人がいる。
こういう場合、どうすればいいだろうか。
僕のところに来る患者は、たいていの場合「もう一通りはやっている」。藤川徳美先生の本を買って、プロテインを飲んで低糖質高タンパクを心がけてるし、鉄も飲んでいるし、ビタミンもいろいろと買いそろえて試している。「それでもよくならない」という患者が来る。
だから、なかなか手ごわいんだ。僕にも、確たる「答え」があるわけじゃない。患者の話を知恵を絞りつつ聞きながら、治療法を提案している。あまり一般的ではない栄養素を勧めたり、ハーブや漢方を勧めたり。提案が当たって見事に改善、ということもあれば、残念ながら僕に愛想を尽かして去って行った人もいる。
45歳男性
一年ほど前に、母親とともに当院初診。本人が言葉をしゃべることはほとんどない。
20年ほど前に統合失調症を発症し、投薬治療を開始した。よくなったり悪くなったり。何度か入院したこともある。
薬で精神症状が落ち着いてもジスキネジア(不随意運動)が出て、減薬する。今度は精神症状が再燃して、と、なかなか症状が安定しない。
お母さんは、息子の変化をよく観察していて、日記もつけている。どの薬を飲めばどういう変化があるか、医者よりもはるかに把握している。
インターネットでの情報収集も欠かさない。投薬治療で統合失調症の完治など望むべくもないことは、もうとっくにわかっている。問題は、「じゃあ、どうすればいいのか」だ。
そういう情報収集の中で栄養療法の存在に気付いたし、僕のブログを読むようにもなった。食事には徹底して気を遣い、様々なビタミンやハーブ(僕の勧めるものも含め)を試した。
ビタミンの投与量を調整して、翌日の調子を観察したり、ビタミンのメーカーの違いでどのような変化があるかを調べたりした(以前のブログに書いたけど「ナウ社のナイアシンよりもソラレー社のナイアシンのほうが効きがいい」と僕に教えてくれたのは、実はこのお母さんだ)。
ある種のビタミンが劇的に効いたことがある。しかし服用を続けるにつれて、まったく効かなくなる。それどころか、服用以前よりも悪化したりする。一般には効果があるとされているもので逆に悪化してしまうものだから、僕も困ってしまった。
症状の変化を観察していくうちに、母は息子に「薬剤過敏」があるのではないか、と思った。たとえば、薬にせよビタミンにせよ、一般の推奨量を飲むと、本人には作用が強く出すぎるのだった。
また、定期的に行う採血データと症状の変動に注目したところ、どうも、甲状腺ホルモンの値と精神症状の変動に相関があるように思った。つまり、甲状腺ホルモン(FT3、FT4)がやや高めのとき(TSHが低めのとき)には調子がよく、低めのとき(TSHが高めのとき)には調子が悪いことに気付いた。
「甲状腺ホルモンの不足のせいで、精神症状が出ているのではないか」
この点に思い至り、甲状腺を専門にするクリニックを受診した。精神症状が甲状腺の異常に起因している可能性を尋ねたところ、「確かにその可能性はあります」との返答を得た。「一度、甲状腺ホルモンの投与をしてみましょうか」と勧められたとき、「お願いします。ただ、ごく少量にしてください」と注文することを忘れなかった。「そんな微量では効果がないですよ」と言われたが、慎重に慎重を期した。
チラージン粉末0.125gを飲み始めて10日ほど経ったとき、素晴らしい変化が起こった。寝起きがよくなったし、どこか一点を見つめてぼうっとしていたり、粗暴になって声を上げることがなくなった。こんなに「普通」になった息子を見たのは、久しぶりのことだった。
一か月ほど飲み続けると、やや不穏が見られるようになった。採血すると、FT4がやや高め(TSHが低め)だったので、服用量を半減(0.0635g)すると、また落ち着いた。
「まだ完全に治ったわけではありません。独り言はあります。ただ、多動や常同行動は劇的に改善しました。以前は多動で一日中動き回っていましたから」
統合失調症の症状に甲状腺ホルモンが関係しているのではないかという報告は、確かにある。
『幻覚妄想状態を呈した甲状腺機能低下症の1例』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/53/12/53_KJ00008989553/_pdf/-char/ja
甲状腺ホルモンの投与で劇的に症状が改善した事例。
こういうふうに症例報告が書けるくらいだから、精神科医にとっても一般的な知識ではない。
この論文の症例のように、あからさまな甲状腺ホルモン低値があればともかく、この患者の甲状腺ホルモン値は正常範囲内低め、くらいであったから、まさかチラージンが著効するとは夢にも思わなかった。
僕はこの患者に対して、何もできなかった。ただただ、学ばせてもらった。
こういう苦い経験とともに、ひとつひとつ、知識を得ていくのだね。
2020.1.8
人間はいつから火を使い始めたのか。
これには諸説あって、170万年前とする人もいれば、20万年前とする人もいる。12万5千年前の遺跡から火を使用した痕跡が見つかっていることから、少なくとも10万年前には火を使っていたのは間違いない。
人類が発生したのが500万年前、火を使い始めたのが10万年前だとすると、人類は490万年のあいだ、口にするものは生ものばかりだった、ということである。草食動物が生の葉を食べ、肉食動物が生の肉を食べるように、雑食の人間は植物や動物を生で食べていたはずで、それが人間本来の食性だった。
しかし火の使用は状況を一変させた。
加熱によって食材が柔らかくなり、風味が増す一方、ある種のビタミンや酵素は加熱により変性し失活する。また、生で食べるのと加熱して食べるのとでは、栄養素の吸収率や消化器系への負担がかなり異なる。
つまり、食材の加熱にはメリット、デメリットが混在していて、一概にどちらが優れているというのは言いにくいが、生のものも加熱したものも様々に食べるようになったことで、食卓のバラエティが非常に豊かになった。
ただ、現代人の食卓に並ぶのは加熱調理した食材が大半である。肉であれ野菜であれ、「生で食べるのは粗野で、加熱調理こそ洗練された食べ方」というのが一般的なイメージだろう。
だから、日本に初めてきた西洋人が日本の食文化を初めて見たとき、彼らは身震いした。何しろ、生の魚を薄くスライスし、それを加熱もせずにそのままソイソースに漬けたのを二本の棒で器用につまんで食べたり、握って固めた米の上にそのスライスを乗せて手づかみで食べるのだから、野蛮この上ない。今ではsashimiやsushiとして一応の市民権を得たこの食文化も、当初は非常に奇妙に映った。
今や日本もすっかり西洋化されて、刺身や寿司のような例外は除き、「熱によって病原菌や寄生虫を殺し、清潔になってこそ、食用に適する」という考え方がすっかり浸透した。
しかしこの清潔文化を推し進めた結果、アレルギーや喘息など、慢性病患者の大群を作り出すことになった。
「何か間違っているのではないか。人間が490万年間続けてきた本来の食性に戻ることで、人間は再び健康になれるのではないか」
行き過ぎた清潔思想への反省から、生肉を食べる人が次第に増えているという。清潔化を推し進めていた本場の西洋でこういう運動が広がっているのがおもしろいと思う。
動画のこの人は、ほとんど生肉しか口にしていない。
英語が分からない人でも動画を見れば何となく意味は分かると思うけど、一応、ざっと翻訳しておこう(かなりテキトーです^^;)
ケンタッキー州レキシントンに住むデレク・ナンス氏。
「食事の9割は羊の肉。羊のはらわたをね、こういう具合にスムージーにして飲む。
この9年食べているのは生肉ばかりだよ。でも体調は、これまでの人生の中で一番いい。
これは羊の精巣。ちょっとしょっぱい味がする。赤身肉というか、海の幸って感じ。
昔は普通のアメリカの食事を食べていたよ。で、アレルギー体質で、頭痛持ちで、喘息もあって。
さらに、ある種の食べ物に過敏で、食べるとすごく体調が悪くなるんだ。
肉をね、こんな具合に噛む。そう、本当、ガムみたいに一日噛んでいる。ついでに歯磨きにもなっていると思う。
こういう食事をしだしたきっかけは、ウェストン・プライス財団を知ったことだ。原住民がどんな食物を食べているのか、という研究が行われていてね。
そこで肉をベースにした食事スタイルがあることを知って、それでやってみようと。
ちょうど体調が悪いときで、何を食べても消化がうまくできないときだったんだけど、生肉なら食べられそうな気がしてさ。
では、はらわたのスムージーの作り方をお目にかけよう。
これ、小腸ね。他にもいろんな腸の部位がある。こんな具合に、ぜーんぶスムージーに入れる。「羊の腸内の細菌が怖くないか」って言われるけど、全然。
というかむしろ、プロバイオティクスとして、僕の腸にいいと思う。
妻から「あなたのブレンダーはこれって決めてね。私のブレンダーは使わないで。羊の腸のにおいがうつるから」って言われたけど。
生肉に含まれる栄養というのは、もう、本当に素晴らしいと思う。なぜかといって、生肉には調理プロセスで抜けてしまう栄養素が丸ごと入ってるから。
テーブルに座って、この骨を15分とか20分、がしがし噛む。こうやって、犬みたいにね。
で、さらに、こうやって骨を砕いて、なかの骨髄もすする。
スーパーとかに行って、ラベルの貼られたパック詰めの肉を買うより、僕はもっと直球で行きたい。つまり、牧場に行くんだ。
それで、動物を買って、僕のトラックに乗せて、それで家の裏庭でさばく。楽しいよ。
肉は、ホールで頂く。肉から内臓から、もう、全部。いろいろな部位があってさ、食事がバラエティ豊かになるよ。
これ、腎臓。栄養満点だよ。食事のメインだね。
4人の子供がいる。妻はもともとベジタリアンだった。
妻「デレクに出会わなければ、私はずっとベジタリアンだったと思います。デレクの肉の頂き方は、スーパーで肉を買うよりもはるかに倫理的だと思います」
動物の大きさにもよるけど、大人の羊だと一頭だいたい175ポンドで、値段は200ドル。これで1か月は持つ。僕の食べ物の90%はこういう肉だよ。
子供にも小さいときからこういう食事をさせている。
子供「絶対みんな変って言うだろうね」
卵とってきてよ。
子供「見つけたら生で食べていい?」
食べたいならね。
子供「お父さんが肉以外のものを食べてるのって、見たことない。
もう慣れてるよ。友達からは「変だ」って言われる。で、僕も「そう、変だね」って答える」
私のことを問題視した教師がいた。「子供の前で肉をさばいているとは何事か」と。だから、ソーシャルワーカーに説明した。説明したら、ちゃんとわかってくれて解決したよ。
でも、子供はきついかもしれない。「お前のおやじは狂ってる」って言われたり。
なぜ世間一般の子供が生肉を食べちゃダメってことになっているのか、理解できない。ちゃんとした環境で育った動物の肉なら、何も問題はない。
もうね、はっきり教育がまずいと思う。「細菌こそが万病のもと」ってパラダイムでしょ。で、全部消毒して清潔にしましょう、と。
僕は、生命をきちんと頂こう、と決めたんだ。
ここには骨を埋めてる。いい肥料ができるよ。で、これを分解しようとしてわいてくる、このうじ虫ね。これも食べれるよ。こんな具合に。
このうじ虫の体内に含まれる酵素が、私の胃腸の消化を助けてくれる。
誰にもこういうスタイルを勧めようとは思わないよ。
ほら、二か月ほど寝かせたレバー。いい感じに発酵している。ほら、ここにカビが生えている。
これがいいんだ。プロバイオティクスになってね、こんな具合に食べる。
体調には何も問題ない。
冷蔵庫に1週間放置した古いチキンを食べて下痢をしたことがあるくらいかな。
もう10年このスタイルを続けているけど、やめるつもりはないよ。」
そう、プライス博士が世界中で見たのは、原住民たちが生肉をいかに尊ぶか、ということだった。
イヌイットはアザラシを、アフリカ原住民は牛を、感謝とともにさばき、血の一滴も無駄にしないように、まるごと頂く。人間の食事は本来こうあるべきなんだろうね。
ただ上記の動画のような生肉食事法は、国土が広く庭も広いアメリカだからこそ実行しやすいのであって、日本人がこれをやるのは難しいと思う。
個人的には、たまに羊肉を生で食べたりしている。ユッケみたいでおいしい。特におなかを壊したこともない。
でも食中毒のリスクを考えれば、医師としては積極的には推奨しにくいな。自己責任でどうぞ!^^