ナカムラクリニック

阪神・JR元町駅から徒歩5分の内科クリニックです

2019年

鶴の恩返し

2019.2.22

湖のほとりに、翼に傷を負って飛べない鶴がいた。哀れに思った若い男、その鶴に手当てをし、助けてやった。
後日、男が一人で貧しく暮らす家に、美しい女が来た。一緒に暮らすようになり、やがて二人は夫婦になった。
炊事、洗濯など家事をよくする女で、男はありがたく思ったが、女にはひとつ、奇妙な習慣があった。
離れの小屋にこもり、決して中をのぞいてはならない、と言う。その後、小屋から出てくるときには、きらびやかな布を手にしているのだった。布は大変な高値で売れた。そういうことが何度かあった。
「一体、離れの小屋の中で、何をしているのだろう」
好奇心を抑えきれなくなった男は、あるとき、小屋の中をのぞいた。
なかには鶴がいて、自らの羽を犠牲にして機織りをしているのだった。
ああ、女はあのときに俺が助けた鶴であったか。人に姿を変え、恩返しに来てくれたのか。
姿を見られたことに気付いた女は、もはや男と一緒にいることはできないと、男のいる村を飛び去って行った。

『鶴の恩返し』である。
この話自体が、美しい比喩だと思われる。
惚れた男と一緒になったものの、貧困で生活が立ち行かない。 少しでも生活が楽になればと、離れの小屋で春をひさいだ。それはやがて男の知るところとなった。女の裏切りに、男は怒りで震えた。しかし同時に、その裏切りは自分への愛ゆえだということも、男にはわかった。情けない。こんなことをさせてしまうなんて、俺はなんて情けない男だ。一方、女は、羞恥と申し訳なさで、顔をあげることもできない。私の恥を知られては、もはやこれまで。こうして夫婦の仲は折り合わなくなり、女は男のもとを去った。

「いきなり何?何の話?」
「いや、だからね、子供の頃に聞いたおとぎ話とか童謡の類って、裏の意味があるんだよ、っていう。
『マッチ売りの少女』も、マッチの灯っている間だけスカートの中をのぞかせますよ、っていう、本来下世話な話だし。
絵本の『鶴の恩返し』は5歳の子供に安心して読ませられるけど、こういう裏の意味を知るのは、せめてもう10年人生経験を積んでからのほうがいいだろう。
しかし婦人科に勤めていれば、こんな話は山のようにあるよ。
多分STDだから抗生剤出してくれ、って患者が言う。思い当たる行為はありますかって聞くんだけど、
『そんなの、ありすぎてわからない。フーゾクで働いてるから。旦那も子供ももちろん知らない。飲食店で勤めてることになってる。
仮に旦那が知ったところで、何も言えないんじゃないかな。食費、光熱費、家のローン、子供の学費。それに、ときには外食したり旅行に行ったり、ちょっとした贅沢もしたい。でもあの人の収入だけじゃ、そんなの絶対無理。まったく家計が回らない』
日本が一億総中流社会だったのは、もはや昔の話だよ。生活保護をもらっている貧困家庭が増えていることは、君も臨床現場でひしひしと感じているだろう。
一握りの富裕層と、それ以外の貧困層への二極化は、今後ますます進んでいくはずだ。
となれば、どうなる?
夫に隠れて(あるいは夫の公認のもとで)、我が身を張って家計を助ける『鶴の恩返し』的女性も、今後増えていくと思わないか。
しかし、俺は思うんだけど、事実を知ったときの子供はきっとショックだろうなぁ。
なるほどお札に名前は書いてないよ。どんな経緯で入手しようが、金は金だ。
でもさ、母ちゃんが訳の分からん男に抱かれて貯めた金のおかげで塾に行けてるのかって思うと、子供は何ともやるせないと思うだろうなぁ」

現代日本では、女の正体に気付いたとて、『俺は全然いいからさ、もう一反、布を頼むよ』と開き直る男もたくさんいるだろう。
女を働かせて情けない、という美学を保つだけの余裕がないんだ。皆、生活苦で追い込まれている。日本もいよいよそういう時代に突入したということだな。
現実は、おとぎ話みたいにきれいにいかない。

口内炎

2019.2.21

口内炎はうっとうしい。耐え難いほどきつい、というほどでもないけど、食べるときや話すときに痛んで、何とも言えず不愉快だ。
なぜこんなやっかいなデキモノができるのか?
実は口内炎の発症メカニズムは、ほとんど解明されていない。
意外ではないですか?
病気とも呼べないような、健康な人にもたまにできるくらい非常にcommonな症状なのに、どんなふうにできるか、わかっていないなんて。

ただ、まったく何一つわかっていない、というわけでもない。
原因を見つけようとして複数の疫学研究が行われた。感染症ではないか、キスなどの性行為でうつるのではないか。いろいろな可能性が検討されたけど、結局どれも立証できなかった。
単一のこれという原因ではなく、免疫や栄養など複数の因子が重なって発症するのではないか。今のところこのあたりの結論に落ち着いている。
口内炎というのは口腔内の粘膜破壊であり、これは免疫の観点からみれば、T細胞が関与している。インターロイキンやTNFα(腫瘍壊死因子α)が分泌され、肥満細胞やマクロファージもずいぶん暴れている。
生じて間もない口内炎を生検すると、組織には激しい炎症があり、T細胞の浸潤が見られる。また、口内炎のある人では、血中にHSP(ヒートショックタンパク質)と反応するリンパ球があり、CD4/CD8比が減少している。SLEのような自己免疫疾患や炎症性腸疾患の患者では口内炎ができやすいことがわかっているが、口内炎を起こす特異的な抗体は見つかっていない。
口内炎の発生にT細胞が関与していることは間違いない。しかし何がT細胞の興奮を引き起こすのか、わかっていない。
疫学的には、比較的若年者で発症率が高く、高齢になるにつれなりにくくなる。
治療法は特にない。放っておけば勝手に治る。
なぜ生じるのかよくわからないのと同様、なぜ治るのかもよくわからない。

ビタミン欠乏など栄養状態のアンバランスが関与しているのではないか、と長らく言われていたが、これを否定する研究もある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3880249/
口内炎の既往のある人を2群に分け、一方にマルチビタミンのサプリを、もう一方にプラセボを投与し一年間追跡する二重盲検RCTを行なったところ、有意差が出なかった。
つまり、サプリをとってようがいまいが、口内炎ができるときはできるし、できないときはできないという、何とも色気のない結論が出てしまった。

わからないことばっかり。
もうちょっと、確かなことが言えないものか。
普通の医者が聞けば眉をしかめるような話ではあるが、実は一つ、統計的に確かに言えることがある。
なんと、喫煙者では口内炎の発生率が低いのだ。
タバコをあらゆる病気の『諸悪の根源』としたい医者には、何とも不都合な事実に違いない。
禁煙すると口内炎ができる、というのは喫煙者の間では比較的よく知られた話ではあったが、禁煙と同時に始める禁煙補助薬の副作用ではないかと言われてきた。
しかしこの推測は研究で否定された。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15370162

喫煙者で口内炎の発生率が低いという観察は昔からあった。
そこから、タバコには口腔内に限らず、消化管粘膜全般の潰瘍を抑制する作用があるのではないか、とも予想されていた。
口腔は消化管の入り口であり、そこに口内炎ができるということは、他の消化管粘膜にも同様の炎症が起きているのではないか、というのは当然の類推であり、逆に、喫煙により口内炎ができにくいということは、その他の消化管の炎症をも抑制するのではないか、というのも自然な予想である。
この予想は、疫学研究(喫煙者では潰瘍性大腸炎の発生率が低い)の結果が出たことで、実証される形になった。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2014383/

60年近く前の古い論文を紹介しよう。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1578433/?page=1
口内炎は口腔粘膜や舌にできる病変で自然治癒するが、しばしば再発し、ときには難治性である。患者は苦痛を感じ、医師も治療に難渋する。
再発性口内炎の原因ははっきりしない。ウィルス感染、食物アレルギー、ホルモン(月経に伴い悪化する)、弱い有機酸による外傷など、いくつかの可能性が言われているが、どれが単一の原因かという証明は未だなされていない。抗生剤(局所あるいは全身投与)、ステロイド、天然痘ワクチンなど、様々な治療法が試されてきたが、広い有効性を証明する報告は皆無である。
こうした状況下、困惑するような観察ではあるが、口内炎の原因および治療に一筋の光明となるかもしれない報告がある。以下の4つの症例報告につき、患者らは喫煙によって口内炎の劇的な改善を見たのである。
タバコによる口内炎の治癒は、2症例においては全く偶然に見出され、その他2症例においてはこの観察に基づいて意図的に喫煙を勧めることで見出されたものである。
症例1
58歳男性。18年間吸ってきたタバコをやめたその1週間以内に多発性の口内炎を生じた。痛みを伴う大きな病変が複数(10箇所や12箇所も)生じ、食べたり話したりするのにさえ支障を来した。2週間ほどで病勢は衰え、3、4日ほど比較的楽になるのだが、その後また病勢がぶり返す。そういうサイクルの繰り返しだった。病勢がぶり返すまではせいぜい月に1個、小さい単発性の病変があるだけだった。
数ヶ月後、ひどい病変が再発したとき、患者は喫煙を再開した。すると、24時間以内に痛みが軽快し、3日以内に口内炎が消失した。その後、タバコを吸っている限り、小さい単発性の病変が1個できるだけだった。
また何度か禁煙をしたが、そのたびに数日以内にひどい口内炎ができ、タバコを再開するとまた治る。その繰り返しだった。彼は言う。「タバコの銘柄は関係ないようです。ヘビースモーカーなので、最低何本吸えば症状が治まるかはわかりません」
患者にアレルギーの既往はない。問診によって口内炎の増悪因子を見出すことはできなかった。
症例2
53歳男性。複数個の大きな癒合性の潰瘍が舌および口腔内前方に生じた。これらの病変は1954年に禁煙して、その2週間後に生じたのである。痛みのために食事や会話に困難をきたすほどだった。
1956年8月、患者がタバコを再開したところ、2、3日以内に潰瘍は消失した。その後、時々小さな単発性の潰瘍を生じることはあったが、2、3日で消えた。以来、彼は禁煙することはなかった。
彼はフィルター付きのタバコを吸っていた。「銘柄は絶対関係ないです。デキモノを抑えるために最低何本吸えばいいか?それはわかりません」
彼にアレルギーの症状はなく、また、ひどい口内炎に悩んでいた2年間、増悪因子は特になかった。
(以下略)

長いのでこの辺にしておこう。
ただひとつ言い添えておくと、症例3、症例4の口内炎患者は、タバコを1日4、5本吸うことで病変の発生を抑えることができた。一箱とか、大量に吸う必要はない。潰瘍性大腸炎もこれぐらいの本数で抑えられると思う。
以前のブログに書いたけど、植物としてのタバコ(ナス科タバコ属)には、現代医学がいうような毒性(発癌性、依存性など)はない。ネイティブアメリカンのなかには、タバコ葉の煮汁を飲む部族がいたぐらいだ。
タバコが有害なのは、タバコそれ自身よりもそれに加えられる添加物だ。タバコ葉自体には、むしろ人間に好ましい薬理作用さえある。上記の論文が示唆するように、添加物満載の現代のタバコさえ、口内炎を抑えるメリットがある。
「だから口内炎の人はタバコを吸いましょう」と言っているわけではないよ。さすがに今の添加物過多のタバコは、トータルで見ればデメリットのほうが多いと思う。
ただ、個人的には近年の行き過ぎたタバコ狩りにはすごく違和感がある。
自分の判断で、人に迷惑かけないように好きで吸ってるだけなんだから、自由に吸わせてあげたらいいじゃないの。

心と栄養

2019.2.20

以下、Mark Hymanの著書”The Ultra Mind Solution”の一節(p80)からの引用です。訳はかなりテキトーです^^;

ジョーは自分では特に病気ではないと思っていた42歳の男性だが、4種類の精神科的投薬を受けていた。
うつっぽい気分だということでレクサプロ、集中力が続かないということでコンサータ、不安に対してザナックス(アルプラゾラム)、寝るためにアンビエン(ゾルピデム)を飲んでいた。
初診から数年のうちに、一つまた一つと種類が増えていったのだ。また彼は、喘息の薬と抗生剤の処方も受けていた。彼の身体症状としては、乾癬、胃酸逆流、過敏性腸症候群、慢性後鼻漏があった。
性欲は低下していて、いつも肛門周りがかゆかった。ある種の食べ物を食べると、舌が腫れて痛くなった。甘いものへの衝動が強く、食べてしばらくすると力が抜け、ひどい低血糖症状に襲われるのだった。
彼は標準体重よりもおよそ25ポンド(11キロ)太りすぎで、彼の中性脂肪は500を超えていた(正常値は100以下)。脂肪肝があり、糖尿病の前駆症状、メタボリック症候群も見られた。
ジョーの食事は理想的とは言い難いものだった。朝食にはコーヒーを飲みつつ、ベーグルとプロテイン・バーを食べた。昼は、チーズをたっぷりはさんだターキー・ラップ(鶏肉のサンドイッチみたいなの)、ダイエットコーク、チップス。夜は多少マシだったが、パン、パスタ、じゃがいもをたくさん食べ、食後には思いのままにスィーツをむさぼった。睡眠時間は5,6時間だった。
1日にワインをグラスに二杯、コーヒー三杯、それに数えきれないほどのダイエットコークを飲んだ。
彼の腸には炎症があり、数年の抗生剤使用の影響で寄生虫やカンジダ菌の過剰増殖を来していた。これが原因で、小麦やライ麦(グルテンを含む主要な穀物)に対する過敏症を起こしていた。
欠けている栄養素としては、ビタミンB12、葉酸、ビタミンD、クロム、オメガ3脂肪酸である。これらはみな、気分に影響するし、代謝を健全に維持するのに欠かせないものだ。
私がしたことは、彼の病気や問題のひとつひとつに対症療法をするのではなく、彼の生活のアンバランスを立て直すサポートである。
まず、取り組んだのは、食事の改善である。精製した炭水化物や砂糖の摂取を止め、食物繊維やオメガ3脂肪酸を食べるよう勧めた。さらに、彼の腸に炎症を起こす原因になるグルテンや乳製品をやめさせた。
コーヒーも極力控え、ワインはやめた。運動を始め、もう少し長く寝るようにした。
マルチビタミン(クロムを多く含むもの)、フィッシュオイル、プロバイオティックス(健康な腸内細菌叢のために)を彼に投与した。
遺伝的に多く必要だと考え、葉酸とビタミンB12を高用量で追加した。さらに、気分と免疫系の改善のため、ビタミンDを高用量で与えた。寄生虫とカンジダの増殖に対しては、短期間の投薬で治療した。
3か月後、彼は25ポンドやせていた。中性脂肪は597から80に低下し、コレステロールは275から198に低下した。葉酸とビタミンB12は正常値になった。
空腹時血糖は101から84に低下し、血中インスリン濃度は正常値に戻った。脂肪肝は治癒していた。そして彼の気分は?
胃酸逆流を抑える薬はもういらなくなっていたし、喘息の薬の吸入も不要になった。身体症状は自然と軽快していた。
私が指示したわけではないのだが、彼は4種類の精神科的投薬すべてをやめていた(むしろ私は、一気にやめないようにと言っていた)。
「もう寝れますし、特に不安や抑うつを感じることもありません。仕事にも集中して取り組めるので、もう薬は要らないと思ったので、やめました」
喘息や胃酸逆流は、治らない病気ではない。これらには原因がある。
たとえばグルテンや乳製品などに対する過敏性が原因のこともあれば、腸内細菌叢のアンバランス、あるいは粗悪な食生活が原因のこともある。
うつ(および不安、不眠、集中困難などの精神症状)の発症には栄養が関係している。
食物アレルギーや腸内細菌のみならず、食事に含まれる砂糖、栄養欠乏(葉酸、ビタミンB12、ビタミンD、オメガ3脂肪酸など)が問題であって、レクサプロの欠乏が問題の根幹では決してない。
よからぬものを取り除き、バランスを取り戻すものを与える。これだけのことなのだ。
これだけのことで、患者は目を見張るような回復をする。ジョーの治療経験を通じて私は再度そのことを確認した。

マーク・ハイマンという人は、特にオーソモレキュラーという看板を掲げている人ではないけど、やっていることは要するに栄養療法だ。
著作以外にフェイスブックなどでも積極的に情報発信している人で、僕も勉強になるので彼をフォローしている。
「うつ、不安、記憶力低下、ブレイン・フォグ(頭のなかが霧がかった感じ)、ADHD、自閉症など、脳の機能障害は多くの名前で呼ばれているが、それらは症状の表出の多様性にすぎず、結局根本の問題は同じ」
これが彼の主張で、僕も確かにそうだと思う。
でも、一般の医療はそういうふうに考えない。症状に応じて細かく病名を付け、それぞれに対し各製薬メーカーが薬を作っている。
しかしそうした薬はあくまで症状を抑えるだけのもので、根本の原因に目を向けたものではないから、当然治らない。そればかりか、結局病態を複雑化させることにしかならない。
心の病気を治すことは、そんなに大変なものなのだろうか。
ハイマン氏はこう考える。
「よからぬものを取り除き、バランスを取り戻すものを与える。これだけのことなのだ」
そう、たったこれだけのことで、不調は改善する。
人間の体は、もっとシンプルなものなんだよ。

摂食障害

2019.2.19

「いつまでも、延々と食べ続けます。止められないんです。今朝何を食べたか、言いましょうか?
両親と同居しているので、まずは普通の朝食です。ごはん、みそ汁、魚、卵、おひたし、みたいな。で、それで満足できずに、むしろそこから過食のスイッチが入ります。
自分の部屋にこもって、パン一斤から始まって、板チョコ3枚、ロールケーキ、肉まん、プリン。それからコーンフレーク一袋を牛乳500mlで全部食べて。
さらにアイスクリーム食べて、蒸しパン、ワッフル、スタバのシフォンケーキ、チョコレートムース、ピザまん食べて。
ジャンクフードだということはわかっています。でも、そういうのが欲しくてたまらなくなります。
ついに胃が満タンになって、これ以上食べ物を受け付けない感じになります。食欲のブレーキがかかったのではありません。
衝動としては、もっと食べたい、もっともっと、って思ってるんですけど、物理的にもう入らない、という感じです。
私の場合、吐かないです。限界まで詰め込んでも、戻そうとは思わないんです。
それに、食べれればなんでもいい、っていうわけではなくて、一応味にもこだわってて、私が食べたいものを食べています。お気に入りのお菓子とか新商品のコンビニスィーツとか。
でも満足なんて感じません。
食べ過ぎて苦しいのに、お腹が満腹になる、っていう感覚がわからないんです。脳がバカになっているんでしょうか。
またやってしまった、っていう後悔と情けなさで、涙がでます。罪悪感でひどく落ち込みます。
家族も私の過食のことはうすうす気付いていますけど、特に何も言わない。どうしたらいいかわからないんだと思う。
今はこうやって過食になっていますけど、実は以前は拒食でした。あまりにも食べられないので、入院したこともあります」
過食も拒食も、要するに摂食障害ということで、症状としては正反対だけど、病態の根っことしては似通ったところがあるからね。
どちらの場合も腸内細菌叢が乱れているし、ホルモンの異常(コルチゾル、グレリン増加、レプチン減少)がある。このアンバランスを治す栄養素としt
「先生、そういう話もいいんですけど、とにかくきついんです。精神的に。
食事の大事さを説く先生の考えもわかるんですけど、まず、この滅入った気持ちを薬で何とか楽にしてもらえませんか」

まず、傾聴しないといけない。
急に栄養がどうのこうの、とか言い出すべきじゃなかった。
拒食症や過食症の背景には、栄養的な問題だけでなく、精神的な問題が隠れているものだ。
自己嫌悪、醜形恐怖、現実拒否などのマイナス感情が、本人も自覚しない心の深いところで根を張っていて、それが衝動的な過食という形で噴出しているのかもしれない。
だとすれば過食は、彼女にとって『表現』である。
内面の問題に目を向けず、症状だけに注目して治そうとすれば、彼女は抵抗するだろう。「私から表現手段を奪わないでください」と。
つまり、精神的な問題の表出としての過食であった場合、栄養の是正だけではなかなか治らないだろう。

さりとて、摂食障害が純粋に心だけの問題かというとそんなことはない。
糖代謝を始めとする内分泌、腸内細菌叢、血中ビタミン、ミネラルのアンバランスなど、内科的問題は当然関係している。
たとえばこんな論文。『神経性食思不振症(拒食症)と副腎皮質機能亢進症』。30年以上前の論文だけど、参考になるところが多い。
http://www.orthomolecular.org/library/jom/1985/pdf/1985-v14n01-p013.pdf
本文内容を補いつつ要約すると、
1.血中コルチゾルの上昇は、コルチゾルの高くなる慢性疾患の原因ではあるが、その逆ではない。
つまり、すべての慢性疾患において、血中コルチゾルの上昇があるが、慢性疾患だからコルチゾルが上昇しているのではない。
2.拒食症ではコルチゾル濃度が上昇しているが、回復すると低下する。
ステロイド療法を受けている人や、拒食症、うつ病、アルコール依存症、クッシング病の患者では血中コルチゾル濃度が高いままだが、これが原因で、潰瘍、高血圧(左室肥大)、認知症(脳萎縮)といった慢性疾患になる。
これらの症状は、ステロイド療法が原因であればやめれば元通りに治るし、適切な投薬によっても治るものである。
3.慢性疾患の治療に際して、コルチゾル低下作用のある薬剤、あるいはコルチゾルのアンタゴニストとして作用する薬剤は、ときには驚くほどの有効な治療となる。
具体的には、フェニトイン(抗てんかん薬)、プロカイン(麻酔薬)、ビタミンC(コルチゾル抑制作用があり、血中サリチル酸塩の濃度を上昇させる)、サリチル酸(アスピリンなど。脾臓や血小板からのプロスタグランジン放出を抑制する。プロスタグランジンE1、F1は副腎に作用してコルチゾルを上昇させる働きがある)、リドカイン(麻酔薬)である。
それらの慢性疾患は、一見ばらばらの疾患のようだが、すべてに共通するのは、副腎皮質亢進症(高コルチゾル血症)を伴っていることである。
ステロイド療法を受けて血中コルチゾルが上昇している人(外因性)と、内因性にコルチゾルが上昇している慢性疾患の患者は、実質見分けがつかない。これは、コルチゾル高値が疾患の原因であり、結果ではないことを示している。
拒食症患者のなかには、当初ステロイド療法を受けていてその後に拒食症を発症した人がいるが、この事実も示唆的である。
本稿は、コルチゾル高値が拒食症の原因であり、コルチゾルのアンタゴニストとして作用する薬剤が治療に用いられれば、すばらしい臨床成績が得られるという仮説を提出するものである。

コルチゾル低下作用のある薬剤がいろいろ挙げられているけど、このなかで断トツ使いやすいのは、ビタミンCだ。
これは処方薬というよりも栄養素で、誰でもネットとかで買えるし、他の薬剤にあるきつい副作用がないので。
アスピリン服用者では認知症が少ないんじゃないかという話もある。https://link.springer.com/article/10.1007/s00228-003-0618-y
アスピリンの抗炎症作用とそれに付随するコルチゾル低下作用がその機序なのかもしれない。

摂食障害と腸内細菌の関係について、こんなレビューがあった。
『摂食障害と腸内細菌~エネルギーのホメオスタシスと行動への影響』というタイトルで、2017年に出たレビュー。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5881382/
要約としては、
摂食障害における腸内細菌の役割を研究した近年の論文をレビューし、評価を行った。
最近、腸内細菌は宿主のエネルギー恒常性および行動の両面に影響を与える因子であることが証明された。摂食障害患者では、エネルギー恒常性、行動の両方が破綻していることが多い。
これまでのところ、摂食障害患者の腸内細菌研究は拒食症(AN)にだけ焦点が当たっている。
当初の研究によると、健康な対照群に比べて、拒食症患者は非特異的な腸内細菌の構成になっているとの報告がある。しかし、ANに関連した腸内細菌叢が宿主の代謝および行動にどのように影響を与えるのかは、未だ知られていない。
AN患者で判明した興味深い事実は、今後、摂食障害患者の腸内細菌叢の研究への手がかりを与えるものだ。
これらの腸内細菌叢の特異的な役割を解明することは、臨床治療へ応用(体重増加を促進したり、消化器系への負担を減らしたり、さらには精神的症状をも軽減させる)できる新しいアイデアにつながるかもしれない。

拒食症と腸内細菌の関係についてはそれなりに研究されているけど、過食症と腸内細菌については手付かず、という状況のようだ。
しかし、腸内細菌が摂食障害の病態に関係しているとして、この面から具体的にどのようにアプローチすればいいのか。
このあたりはまだ研究途中だけど、腸内細菌叢の改善に寄与する食材として、エビデンスがあるものとしては、以下のようなものがある。
発酵食品https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3904694/
ウコンhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6083746/
トリファラhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6052535/

摂食障害から回復した人の体験談を読んだ。
「素敵な男性と出会って、その人がありのままの私を受け入れてくれた。その人と付き合っていくなかで、女子力を高める意識を常に持って、毎日楽しく暮らしている間に、いつのまにか摂食障害が治っていた」みたいな話。
恋愛は栄養にも発酵食品にも勝る治療薬ということだね。

不妊

2019.2.18

不妊に悩む人は、まず、歯磨きを変えよう。
なぜかって?
以下のような論文がある。https://academic.oup.com/jn/article-abstract/103/9/1319/4777152?redirectedFrom=fulltext
タイトルは『フッ化物摂取がマウスの生殖系へ及ぼす影響』。要約を訳す。
メスのマウスに低濃度(0.1~0.3 ppm)のフッ化物を含む食事と、フッ化ナトリウムを含む飲み水(0,50,100,200 ppm)を与えた。
フッ化物の毒性作用は、100 ppm群と200 ppm群のマウスにおいて、成長遅延と生殖障害として出現した。高濃度の投与群ほど、致死率が高かった(5週間で50%が死亡した)。
低濃度のフッ化物摂取群において、2世代にわたって進行性の不妊を発症した。
成長率、胎子の大きさは、低濃度フッ化物摂取によって影響されなかったが、50 ppmを摂取しているマウスよりも胎子を産むマウスの割合が低下し、最初の出産齢が高くなる傾向が見られた。

要するに、フッ素というのは猛毒で、高濃度摂取では死んでしまう。しかし低濃度であっても、不妊など生殖系への影響が出る、ということだ。
では、その機序は?フッ素はどのような機序で生殖系に悪影響を与えているのか。
それを調べたのが、次の研究だ。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23459146
タイトルは『メスラットの生殖機能に対するフッ化ナトリウムの作用』。要約を訳す。
本研究の目的は、フッ化ナトリウム(NaF)がメスの生殖器に及ぼす作用を調べ、Nafに曝露したラットの卵巣や子宮の形態を研究することである。
80匹のSprague-Dawley(SD)ラットを無作為に20匹の四つのグループに分ける。第1群はコントロール群で、他の三つはNaFを投与した群である。三つのNaF投与群には、それぞれ100、150、200 ppmのNaFが飲み水経由で6カ月にわたり与えられた。コントロール群には蒸留水を与えた。
卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体化ホルモン(LH)、テストステロン(T)、プロゲステロン(P)、エストラジオール(E2)の血中濃度を酵素結合免疫吸着法(ELISA)を使って測定した。
ヘマトキシリン・エオジン法と免疫組織化学法で染色した後に、子宮と卵巣の病理形態学的評価を行った。
NaFを投与した群の妊娠成功率はNaFの投与量が多いほど減少した。生殖系ホルモンの濃度は、三つのNaF投与群で有意に低かった。子宮内膜に損傷が見られ、卵胞の成熟が抑制されていた。
さらに、NaF投与群では全例で卵胞の全体数が有意に少なくなっていた。これらの結果は、NaFへの曝露によって女性の生殖機能が抑制され、卵巣や子宮の構造的損傷が引き起こされることを示唆している。
このようにして、NaFはメスラットの妊孕性を有意に減少させる可能性が示された。

フッ素が女性器(卵巣、子宮)にダメージを与え、かつ、性ホルモンを狂わせることで妊娠できなくなるという、メカニズムまで判明したわけだ。
「どっちもマウスの実験でしょ?人では問題ないんじゃないの」という方に、次の論文を供覧します。http://www.fluorideresearch.org/503/files/FJ2017_v50_n3_p343-353_sfs.pdf
タイトルは、『飲み水のフッ化物とその妊娠、不妊、流産への影響について~西アゼルバイジャンにおける疫学研究』。要約を訳す。
動物実験を含め各種の研究によって、フッ化物イオンが哺乳類の生殖系に悪影響を与えることが示されている。
しかし、この関係性にまつわる遺伝子・環境の相互作用の機序はいまだ明らかではない。
本研究の目的は、イランのポルダシュト郡の二つの地域における飲用水中のフッ化物濃度を測定し(低い地域では平均1.90 mg/L、高い地域では平均8.10 mg/L)、飲用水中のフッ化物濃度と当該地域に住む女性の(1)妊娠、(2)原因不明の不妊、(3)原因不明の流産の関係を調べた。
フッ化物濃度の低濃度地域、高濃度地域の女性を比較すると、それぞれの割合は以下のようになった。
(1)妊娠 105/1993 5.3% ; 70/1224 0.5%
(2)不妊 17/1993 0.9% ; 24/1224 2.0%
(3)流産 6/105 5.7% ; 11/70 10.0%
これらの生殖系のパラメーターについて、フッ化物の低濃度地域、高濃度地域の間で、女性を5歳階級でわけると統計的有意差は出なかったが、データをまとめて全年齢階級(10~49歳)を一つの群と考えると、低濃度地域の女性はより妊娠しやすく、不妊率も流産率も有意に低かった。

フッ素の生殖系への悪影響は、動物実験だけじゃなくて、疫学研究でも確かめられているということだ。
それでも、フッ素の使用は野放し状態になっている。
歯医者で普通に使われているし、歯磨きのテレビCMなんかでも『フッ素配合』っていうのがむしろ宣伝文句になっている。
フッ素の毒性を知れば、『猛毒入り』って言葉に等しいのにね。
不思議でしょ。科学的に毒性が明らかな物質が、まったく規制されないままだなんて。
規制どころか、今後TPPの影響で水道会社が民営化されて外資が参入し、飲用水にもフッ素が添加されるようになるだろう。
この流れは、止められない。
だってこの国は、敗戦国だからね。
地球の人口を是が非でも減らしたい一部勢力からいろいろと仕掛けられて、日本人の健康が徐々にむしばまれている。
こういうのをソフトキリングと言います。激しいドンパチだけが戦争じゃないんだよ。
僕は政治には失望しているから(というかもともと冷淡だから)、政治には期待していない。
ただ一介の医者として、不妊に悩む人がいれば、自分が知っている限りの知識で相談に乗る(歯磨きやシャンプーはどんなの使ってますか、とか、ビタミンEいいですよ、とか)。
僕にできることは、目の前の一人一人の悩みに向かい合うことだけだ。