2019.3.26
周期表を見れば、ゲルマニウムは、炭素やケイ素と同じ第14族元素に属している。
ケイ素は最近健康への効果が注目されているが、それに比べて、ゲルマニウムはそれほど知られていない。
オーソモレキュラー栄養療法を創始したポーリングもホッファーも、特にゲルマニウムについて言及していない。
これは実にもったいないことだ。
ゲルマニウムの健康への効果は、すばらしいの一語に尽きる。
栄養療法で一般的に使うビタミンやミネラルと別段競合するわけではなく、併用しても何ら問題ないのだから、使わない手はないだろう。
個人的な経験としても有効性を実感している。
いくつか論文を紹介しよう。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bpb/41/5/41_b17-00949/_html/-char/ja
『ゲルマニウム132(合成有機ゲルマニウム)の培養哺乳類細胞に対する抗酸化活性』
要約
ゲルマニウム132は合成の有機ゲルマニウムであり、食品サプリメントとして利用されている。
本研究では、ゲルマニウム132の培養哺乳類細胞に対する抗酸化活性を調べた。最初に、ゲルマニウム132の哺乳類培養細胞に対する細胞毒性を、乳酸脱水素酵素(LDH)濃度を計測することにより決定した。
ゲルマニウム132は3通りの細胞系に対して細胞毒性がなかった。次に、細胞全体のATP含有量および細胞数を計測することによって、ゲルマニウム132の細胞増殖作用を決定した。
チャイニーズハムスター卵巣(CHO-K1)とヒト神経芽細胞腫(SH-SY5Y)の細胞をゲルマニウム132で処置すると、用量依存性に細胞増殖が促された。最後に、過酸化水素によって引き起こされる酸化ストレスに対するゲルマニウム132の抗酸化活性を、細胞内活性酸素種(ROS)とカルボニル化タンパク質の濃度の計測によって決定した。
CHO-K1とSH-SY5Yの細胞をゲルマニウム132で処置して培養すると、過酸化水素によって引き起こされる細胞内活性酸素種とカルボニル化タンパク質の濃度が抑制された。この研究の結果によって、ゲルマニウム132には過酸化水素によって引き起こされる酸化ストレスに対する抗酸化活性があることが示された。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3043151
『有機ゲルマニウムによる治療的効果』
要約
ゲルマニウムはすべての動植物に微小量で存在している。その治療的効果として、免疫賦活作用、酸素供給作用、フリーラジカル貪食作用、鎮痛作用、重金属デトックス作用などがある。
毒性学の研究によると、ゲルマニウムは体にすみやかに吸収・排出され、安全であることが示されている。
十年以上におよぶ臨床治験や私的な臨床経験では、ゲルマニウムは、癌、関節炎、骨粗鬆症など、様々な重度の疾患に対する有効性が示されている。
ゲルマニウムには、インターフェロン、マクロファージ、サプレッサーT細胞を誘導したり、ナチュラルキラー細胞を活性化するなど、抗ウィルス特性、免疫学的特性があり、AIDSの治療および予防に対する有効性が示唆されている。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4034287/
『ラット盲腸の腸内細菌叢に対する有機ゲルマニウム(Ge132)とラフィノースサプリメントの効果』
要約
多価トランス[(2カルボキシエチル)ゲルマセスキオキサン](ゲルマニウム132)は最も一般的な有機ゲルマニウム化合物である。
ゲルマニウム132を摂取すると、胆汁分泌が促進される。
ゲルマニウム132およびある種のプレバイオティクスにより糞便の色が黄色くなることから、ゲルマニウム132とラフィノース(プレバイオティクスとして用いられるオリゴ糖)の投与によってラットの盲腸の特性がどのように変化するかを評価した。
また、これらの化合物の投与により盲腸の腸内細菌叢にどのような変化が起こるかも併せて比較した。
さらに、ゲルマニウム132とラフィノースの同時投与によって、βグルクロニダーゼ活性(大腸癌の関連因子として知られている)に対する影響を調べた。
オスのウィスターラット(3週齢)に以下の食事のうちの一つを与えた。(1)コントロール食(対照群)、(2)0.05%のゲルマニウム132を含む食事(Ge132群)、(3)5%のラフィノースを含む食事(RAF群)、(4)0.05%のゲルマニウム132と5%のラフィノースを含む食事(GeRAF群)。
ラフィノースを含有する食事によって、ビフィドロバクテリウム、乳酸桿菌および全腸内細菌量が有意に増加しており、ゲルマニウム132の投与によってこの増加が抑制されることはなかった。
ラフィノースの摂取によって盲腸での酢酸の産生量が有意に増加した。
盲腸内容物のβグルクロニダーゼ活性は、ゲルマニウム132の摂取により増加したが、ラフィノースの摂取により有意に減少した。
これらの結果は、ラフィノースとゲルマニウム132の同時摂取によっては、いずれの化合物も腸内での発酵や胆汁分泌を抑制することはない、ということを示している。
また、ゲルマニウム132の単体投与の場合には誘導されるβグルクロニダーゼ活性の増加は、ラフィノースとゲルマニウム132の同時摂取ではキャンセルされる。
『ゲルマニウムと私』(浅井一彦著 玄同社)に、喘息を訴える中学生の患者に対してゲルマニウムを投与していると、その中学生、やたら数学ができるようになって、教師からカンニングを疑われた、という話が出てくる。
ゲルマニウムは酸素運搬能を高め、記憶力、思考力、集中力など、脳機能の改善にも著効する。高血圧に対してゲルマニウムを飲んでいるうちに、囲碁が非常に強くなった、という話もある。
症状の改善を目指して飲んでいたら、思いもかけないうれしい副産物が得られるというのは、本物の治療法によくあることで、ゲルマニウムもそういう本物の一つだということだ。
2019.3.25
体を動かすと息が上がって心臓が痛くなる場合、労作性狭心症の可能性が高そうだ。
一般の病院を受診すれば、造影剤を入れる検査を行って血管の狭窄を確認し、ステントを入れる手術を受けることになりそうだ。
日帰りでできるくらいの簡単な手術だけど、患者としては一体この手術を受けるべきかどうか、悩ましいところだろう。
「狭心症の治療には、本当にこの方法しかないのか。
仮に手術を受けたとして、それで治療終了、というわけではなく、一生薬を飲み続けることになるのか」
こういう人には、まずは栄養療法をオススメしたい。
http://www.orthomolecular.org/library/jom/1991/pdf/1991-v06n03%2604-p144.pdf
『症例報告:リジン・アスコルビン酸による狭心症の改善』
要約
重度の冠動脈疾患のある人に高用量のLリジンとアスコルビン酸を使うことで、労作性狭心症の改善が見られたことを、このように世界で最初に報告できることは喜ばしいことである。
この治療計画は、血栓性動脈硬化症において、脂質タンパク程度の径の外因性LDL様分子(冠動脈疾患の独立したリスク因子)が、傷付いた動脈壁にあるフィブリンに結合してプラーク形成を開始する、という仮説に基づいている。
このメカニズムは、アポリポタンパクがプラスミノーゲンに非常によく似ていることや、低ビタミンC血症のモルモットや閉塞したバイパスの動脈硬化病変に脂質タンパクが蓄積していることと、関係している。
臨床家がこの一症例の劇的な改善を知り、刺激を受け、リジンとアスコルビン酸を狭心症に適用してすばらしい成果をあげることを期待している。
これはポーリングの論文だ。
要約だけ読んだのでは、何が何だか、よくわからないだろうから、本文の内容も踏まえて、説明しよう。
71歳の男性。初めて狭心症の発作に襲われたのは38歳のときで、以来、タバコは控え、適度に運動し、食事や体重にも気を使っている。
1978年に静脈グラフトの移植術を初めて受けたが、5か月後にすぐに2回目の手術を受けた。
伏在静脈がなくなったせいで、足にひどい浮腫が起こった。血栓、足の感染、両側の肺塞栓も起こった。
1987年再び狭心症の発作が起こったため、冠動脈形成術、投薬調整のために入院となった。
3回目の手術の後、服薬調整として、βブロッカー、カルシウム拮抗薬、ロスバスタチンは維持した。
アスピリン325㎎を投与していたが、眼内出血が起こり、末梢の視野欠損が生じたため、81㎎に減量した。
この処方に加えてビタミンの服用を開始した。
アスコルビン酸を6g、コエンザイムQ10を60㎎、マルチビタミン、マルチミネラル、ビタミンA、ビタミンE、レシチン、ナイアシンを加えた。
それでも、1日2マイルの歩行時には狭心症発作が起こった。そのときにはニトログリセリンを舌下投与することが必要だった。
もはや利用できる静脈グラフトがないため、4回目の手術というのは不可能だった。
ここで助言を求められたポーリングは、Lリジンを1日5g(6回に分けて)服用し、脂質タンパクの動脈硬化作用を抑制することを勧めた。
1991年5月にリジンを取り始めた。7月、彼のHDLは28 mg/dlと相変わらず低かった。 クレアチニンが0.9 mg/dlと高くないことから、必要とあればリジンを増やす余裕があった。
彼は今や、2マイルを歩いても、庭仕事をしても狭心症発作がでなくなった。 「リジンが奇跡のように効いている」と彼は手紙に書いた。
8月にはチェーンソーで木を切ったり、9月には自宅のペンキ塗りをできるまでに回復した。
9月後半、恐らく過労から再び狭心症の症状が出現したが、運動量を減らし、リジンを6gに増やすと、症状は再び消失した。
ビタミンCとリジンの併用によって、狭心症が劇的に改善した、というポーリングの症例報告。
ネットで調べてもらえればわかるけど、リジンのサプリはすごく安い。
「こんなに安物なのに、そんなに効くの?」って、逆にちょっと不安になるかもしれない^^;
病院から処方される薬は高いけど、効くどころが毒性があるものさえあるわけだから、薬理作用の優秀さと値段は関係ない。
リジンはアルギニンと拮抗してヘルペスを抑えるように働くから、疲れたときにヘルペスが出る体質の人にもリジンはオススメだ。
2019.3.24
睡眠薬に惑溺するようになって以後、文才は見る間に枯渇した。文壇の重鎮として周囲の畏敬を勝ち得てはいたものの、もはや新たな作品を生み出すことは到底できなかった。
そこで、大御所は一計を案じた。自分が文壇に引き上げてやった若い才能たちに作品を書かせ、それを自分の名前で以って世に出せばいい。評論家は「老作家の新境地」と新たな作風を持ち上げることだろう。名もない若手が一冊本を出したところで、誰も読まない。しかし、名前の書き換えひとつで、本の売り上げは跳ね上がり、出版社に莫大な利益をもたらすことだろう。そして代筆作品は、文豪の一作品として永遠に人々の心に記憶されることになる。これは、無名の若手にとってこの上なく名誉なことではないか。
以下、『三島由紀夫と一九七〇年』(板坂剛・編、鈴木邦男・対談 鹿砦社)の59ページからの引用です。
板坂…これは三島先生の奥さんが言ってるんですが、川端さんが受賞した対象になった作品は、『山の音』と『雪国』だけど、『山の音』のほうは実は三島先生が書いているんだと。
鈴木…ほんとかよ。
板坂…ほんとですよ、奥さんが言ったんです。フラメンコの先生に言ったんです。奥さんがフラメンコ習ってて。その奥さんが、ノーベル賞受賞作品としか言わなかったけど、あれはうちの主人が書いたのよって。
鈴木…じゃあ三島がノーベル賞を取ったようなもんじゃない?
板坂…だからその思いがあったから、ノーベル賞そのものもくだらねえと割り切れたんじゃないかな。
鈴木…言えばいいじゃん、あれは俺の作品だと。
司会…なんでまた川端の作品を三島が書くんですか?
板坂…特に晩年とかは、川端さんは睡眠薬中毒とノイローゼで作品なんか書ける状態じゃなかったらしいですよ。北条誠と沢野久雄という作家が川端の作品を書いてたっていうのは有名な話。北条誠の家の女中さんはね、北条が川端さんの原稿ばかり書かされて、自分のものは書けないからいやだってグチをこぼしていたって証言しています。沢野のほうも自伝に書いてますよ。しまいに、川端さんの原稿は直接自分のところに依頼が来るようになったって。
鈴木…本当?
板坂…沢野久雄の自伝にありますよ。どっちが書いているのかはわからないけど、ほとんど昭和三十年代の川端作品は、沢野か北条の手になるものらしいです。
鈴木…川端が書いた作品は?『伊豆の踊り子』くらい?『雪国』もかな?
板坂…『雪国』はさすがに自分で書いたんじゃないかと。あの辺から睡眠薬中毒で何も書けなくなった。でもあそこまで名声があるとなんとか書かなきゃいけないから他の作家に原稿依頼した。川端にも書かせたけど、書いてきたものは何がなんだかわからなかったって。だから他の作家に直させたそうですが、それがしまいには直接沢野久雄に依頼が来ちゃったって。このことでね、週刊誌が取材に来たことも、あったのよ、私のところに。でも記事にはならなかった。(中略)
安藤武さん、三島先生のことを書いている人だけど、あの人が『眠れる美女』の原稿を見て、これ川端さんの字じゃないと言ったそうです。すごくキレイな字で清書してある。
鈴木…じゃあ、だれ?
板坂…わからない。それでなんかどこかのパーティーで、川端さんと三島先生が同席して、三島先生は川端さんに対して、ノーベル賞受賞作品は、あれとあれだけど、一番の傑作は『眠れる美女』ですよねって三島先生が言ったら、川端さんは恥ずかしそうにじっと黙ったんだって。それで思うんだけど、もしかしたら三島先生が書いたんじゃないだろうか。だって『眠れる美女』ってほら、美を距離を置いて見てるでしょ。それって三島文学のテーマそのものじゃない?(中略)
いつも川端さんから原稿もらってた出版社の人間によれば、読めたもんじゃないと。川端さんの原稿はわけわかんないって。
鈴木…睡眠薬飲んでボーっとしてる時、夢遊病者のように書いてたって話だけど。
『眠れる美女』は確かに、一読して三島っぽいなという印象を持った。『禁色』に出てくる変態のおじいさんと同じようなキャラだと思った。文章も、川端的な「和文のやさしさ」みたいな感じじゃなくて、しっかりした「三島的エレガンス」を備えているようで、三島の代作だと言われれば非常に腑に落ちる。
作品を読んだときの「感じ」は大事で、たとえば源氏物語の宇治十帖は紫式部ではなくて別の作者によるものではないかという説が昔からあるのも、あの章だけ読んだ「感じ」がずいぶん違うからだ。
この「感じ」を、統計的に裏付けようとする試みがある。
ある語の使用頻度に着目し、多変量解析の手法を用いることで、「この作品では、他の作品に見られる作者の言葉遣いの傾向と明らかに異なる」ということを証明しようとしている。
以下は源氏物語の宇治十帖の分析で、この研究では別作者説は否定された。
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=82408&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1&page_id=13&block_id=8
以下は川端康成の『山の音』代筆疑惑を検証した研究。結論として、代筆は否定的となった。
http://www.anlp.jp/proceedings/annual_meeting/2015/pdf_dir/D6-2.pdf
宇治十帖はともかく、『山の音』に関しては編集者の証言など、状況証拠的には代筆に間違いない。
それなのに代筆だという結論が出ないのは、研究の手法(文体計量分析)自体がまだまだ未熟で発展途上ということだろう。
2019.3.23
いつの『すべらない話』だったかけっこう初期の頃だったと思うんだけど、トークを始める前に出演者がまっちゃんに自己紹介していくところで、ある芸人が「緊張しすぎて、逆に何か眠くなってきました」って言ってて、「ああ、それわかるわー」って思った。
緊張も、行き過ぎて一周回ると、眠気に近いような感じになる。これは多くの人が経験のあるところだと思う。
この現象は生理学でちゃんと調べられている。最初にこの研究を行ったのはパブロフだ。
犬に餌をやる前に、ベルの音を聞かせる。これを繰り返すと、ベルの音を聞いただけで犬はヨダレを流すようになる。
これが有名な条件反射で、知っている人も多いだろう。
しかし、この研究の続きを知っている人は、そんなにいない。
ベルの音が鳴り続け餌への期待が高まるものの、肝心の餌が延々出てこない、となると犬はどうなるのか。
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4939-1236-0_6
条件付け後、刺激(聴覚刺激、痛覚刺激など)を強めていくと、当初は生理的な反応(α波の減少、ガルバニック皮膚反応、瞳孔拡大、末梢血管収縮)が次第に増加し、やがて最高潮に達するが、その反応は次第に減少していく。
パブロフはこの減少パターンを、神経系への過剰な刺激に対して神経系が自らを守るために行う防御反応だと考え、これを防御制止と呼んだ。
パブロフのこの先駆的な仕事(1955年)によって、防御制止の考え方は様々な精神生理学的現象の説明に適応されるようになった。
たとえば激しい運動後の疲労、活発な精神活動後の集中力低下、覚醒・睡眠リズムなど、様々な現象の背景にこの働きが関与していると考えられた。
ひとしきりの身体的・知的活動によって、適切な疲労を感じることが必要だ(アデノシンの蓄積が疲労に関与していると言われている)。
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4614-3903-5_25
強い刺激が、いつまでも継続しては神経系に悪影響が出るので、体にはその刺激をちゃんと弱めるための仕組みがある、ということだ。
楽しみにしていた講演会。
いざ講演が始まって、全然つまらなかったら、どうなるか。
期待が高くて神経が興奮していた分、それをバランスするために防御制止が働く。
こうして講演会の会場は、眠気が支配することになる。
人間の生理的メカニズムなのだから、演者も主催者もお客さんをとがめることはできません^^;
ところで、1950年代のパブロフの研究は一世を風靡して、『条件反射』という言葉は学者だけでなく、一般の人にまで広く知られるようになった。
パブロフの研究は犬を使ったものだったが、実はパブロフの実験以前に、人を対象にして、同様の実験が行われていた。
アメリカの心理学者ジョン・ワトソンとロザリー・レイナーが、9カ月の幼児を相手に実験(後に『アルバートちゃん実験』と言われる)を行った。
幼児に白いモルモットを見せる。最初は、当然、何の反応も見せない。しかし白いモルモットを見せると同時に、大きな騒音を流す、ということを繰り返す。
すると、白いモルモットを見るとすぐに、反対の方向を向きハイハイしてそこから遠ざかろうとする反応を示すようになった。
さらに、『刺激の一般化』ということが起こって、レイナーの白い毛皮のコートや、白ひげをつけてサンタクロースに扮するワトソンに対しても恐怖を抱くようになった。
この研究は現在では批判されている。その理由は、第一に、研究デザインが非常にテキトーであること。
幼児に条件付けをするとして、その後の幼児の反応の計測が、何ら客観的ではなく、観察者の主観に頼り切りだった。
第二に、倫理的な問題。
実験してそれで終わり、じゃない。
『白いふわふわしたもの』に恐怖を感じるように条件付けされたアルバートちゃんは、その後どうなったのか?
https://www.verywellmind.com/the-little-albert-experiment-2794994
ワトソンとレイナーは、この男児の条件付けによる恐怖を取り除くことができなかった。この男児が引っ越してしまったためだ。
しかし最近、アルバートちゃんとして知られる男児のその後が判明した。『アメリカン・サイコロジスト』誌に、心理学者ハル・ベックによる7年の研究によってその後のことが明らかになった。
当時の研究や男児の母親を追跡したところ、アルバートちゃんの本名はダグラス・メリットだった。
しかしこの話はハッピーエンドで終わらない。
ダグラスは1925年5月10日、6歳のときに水頭症で死亡していた。「7年間彼を追いかけてきましたが、彼の人生はそれより短かったわけです」とベックはこの発見のことを語った。
2012年、ベックとアラン・フリッドランドは著書のなかで、「ダグラス・メリットはワトソンが1920年の実験で説明していたような”健康で正常な男児”ではなかった。それどころか、メリットは生まれついての水頭症で、ワトソンもそのことを知っていたが、子供の健康状態について捏造をしていた」との発見を公表した。
この発見はワトソンの研究業績に影を落とすものであり、研究の倫理・道徳の問題に一石を投じている。
2014年、ベックとフリッドランドの発見に疑いの目が向けられることになった。別の研究者が、ウィリアム・バージャーという名前の少年こそが、本物のアルバートちゃんだという証拠を提出したのだ。
バージャーは、ダグラス・メリットと同じ日に生まれており、生まれたのはメリットの母が働いていた病院だった。彼のファーストネームはウィリアムだが、ミドルネームはアルバートで、こちらのほうで呼ばれていた。
このように、アルバートちゃんをめぐって専門家たちもいまだに議論を続けているが、アルバートちゃんが心理学の歴史に消えない足跡を残したのが間違いない。
僕は心理学っていまいち好きじゃないんだけど、なぜといって、心理学の実験って捏造がすごく多いんだ。
しかも、ある実験を再現しようにも、結果を再現できないことはしょっちゅうある。
再現性というのは科学を構成する不可欠な柱のひとつだけど、心理学はその辺りからしてすごい不安定な印象だ。
そういう具合だから、そもそも心理学は科学を名乗る資格があるのかどうかも微妙だと思う。
2019.3.22
ホッファーもソールもビタミンKについてはほとんど言及していないけれども、最近の研究でビタミンKの抗酸化作用が注目されている。
『ヒト膀胱癌に対するビタミンCとK3の相乗的抗腫瘍作用について』という論文があるので、紹介します。https://pdfs.semanticscholar.org/33c8/2ef088a98b37ab9df5eb7f779ff878e5ee46.pdf
指数関数的に増大するヒト膀胱腫瘍細胞(RT4およびT24)の培養物を、5日間にわたって、ビタミンC単独、ビタミンK3単独、ビタミンCとK3の組合せ、によってそれぞれ処置した。また、ビタミンCとK3で1時間処置し、その後リン酸緩衝生理食塩水で洗い、5日間培養器のなかで培養した。
ビタミンの併用処置群において、抗腫瘍活性は、RT4系癌細胞では12~24倍、T24系癌細胞では6~41倍に、それぞれ高まっていた。ビタミンで処置したRT4系癌細胞をフローサイトメトリーにかけると、成長が停止している一群や細胞死している一群が見出された。
成長の停止した細胞はG0/G1-S期の間期で止まっていた。細胞死の原因は自己解離によるものだった。カタラーゼで処置するとこれらの細胞周期の停止および細胞死、いずれもがなくなったことから、これらの現象の背景には過酸化水素(H2O2)が関与していると考えられる。
過酸化水素の産生によって、脂質過酸化反応の軽度増加と細胞内のチオール濃度の減少が見られた。細胞のATP濃度を分析すると、ビタミンC単独処置群、ビタミンCとK3の組合せ処置群では、ATP産生の一過的な増加が見られたが、ビタミンK3単独処置群ではATP濃度が減少していた。
ビタミンCとK3の組合せ処置群において、脂質過酸化反応、チオールの減少、ATP濃度の調整は、いずれのビタミンの単独処置の場合よりも、17倍低い濃度でも起こった。これらの結果を踏まえると、ビタミンCとK3の組合せ処置による腫瘍細胞への毒性の増大は、酸化還元反応と酸化ストレス増大によるものと考えられる。
ビタミンCの単独投与よりも、ビタミンK3を併用すると抗腫瘍効果がさらに高まった、というのが上記論文の主旨だ。
本文の内容も踏まえつつ、作用機序についてもう少し説明しよう。
ビタミンCの『殺腫瘍作用』は、以前にも触れたが、酸化剤として作用するところにある。
具体的には、ビタミンCは細胞内での過酸化水素濃度およびその他の活性酸素種(ROS)の濃度を上昇させる。するとグルタチオンを始めとする細胞内のチオール濃度が減少し、細胞膜の脂質過酸化が起こり、細胞膜の脆弱化が起こる。
そこでビタミンK3を投与すると、細胞内のNAD、ATPが減少し、酸化を一層能率よく進めることができる。また、ビタミンK3はスルフヒドリル基(細胞骨格を形成するタンパク質)を酸化させることで細胞膜の弱体化に働く。さらに、DNA崩壊の誘導にも関わっている。
「健康のためには抗酸化、抗酸化、って言ってきたのに、まるで逆じゃないの。癌に対しては、体を酸化させないといけないってこと?」と思われるかもしれない。
実は全然矛盾していない。癌細胞に細胞死(アポトーシスであれネクローシスであれ)を起こすには酸化させないといけない、というだけであって、しかもそのためにわざわざ酸化剤(たとえば一般の抗癌剤は究極の酸化剤)をとる必要はない。
むしろ必要なのは適切な抗酸化剤だ。酸化・還元というのは電子の受け渡しのことで、電子の最終的な収支が、癌細胞に対する酸化、という形であればいいんだ。
上記論文では、ビタミンCとK3を100対1で投与したとき、最も能率のよく過酸化酸素が生じ、抗癌作用も強かった。
ビタミン併用によって単体投与時よりも17倍少ない量で同じ効果を得たというのは、重要な指摘だ。ビタミン投与量の節約になって、患者のコンプライアンス向上、経済負担の軽減にもつながるだろう。
実は生体のなかでは、こういう1+1が5にも10にもなる変化というのはザラに起こっているはずで、この相乗作用は臨床でも有用に違いない。
たとえば、癌治療を意図したビタミンC点滴でαリポ酸を加えるのも、この相乗作用を利用したものだ。知識のある医者はとっくに実践しているだろう。