院長ブログ

癌治療4

2019.3.22

ホッファーもソールもビタミンKについてはほとんど言及していないけれども、最近の研究でビタミンKの抗酸化作用が注目されている。
『ヒト膀胱癌に対するビタミンCとK3の相乗的抗腫瘍作用について』という論文があるので、紹介します。https://pdfs.semanticscholar.org/33c8/2ef088a98b37ab9df5eb7f779ff878e5ee46.pdf

指数関数的に増大するヒト膀胱腫瘍細胞(RT4およびT24)の培養物を、5日間にわたって、ビタミンC単独、ビタミンK3単独、ビタミンCとK3の組合せ、によってそれぞれ処置した。また、ビタミンCとK3で1時間処置し、その後リン酸緩衝生理食塩水で洗い、5日間培養器のなかで培養した。
ビタミンの併用処置群において、抗腫瘍活性は、RT4系癌細胞では12~24倍、T24系癌細胞では6~41倍に、それぞれ高まっていた。ビタミンで処置したRT4系癌細胞をフローサイトメトリーにかけると、成長が停止している一群や細胞死している一群が見出された。
成長の停止した細胞はG0/G1-S期の間期で止まっていた。細胞死の原因は自己解離によるものだった。カタラーゼで処置するとこれらの細胞周期の停止および細胞死、いずれもがなくなったことから、これらの現象の背景には過酸化水素(H2O2)が関与していると考えられる。
過酸化水素の産生によって、脂質過酸化反応の軽度増加と細胞内のチオール濃度の減少が見られた。細胞のATP濃度を分析すると、ビタミンC単独処置群、ビタミンCとK3の組合せ処置群では、ATP産生の一過的な増加が見られたが、ビタミンK3単独処置群ではATP濃度が減少していた。
ビタミンCとK3の組合せ処置群において、脂質過酸化反応、チオールの減少、ATP濃度の調整は、いずれのビタミンの単独処置の場合よりも、17倍低い濃度でも起こった。これらの結果を踏まえると、ビタミンCとK3の組合せ処置による腫瘍細胞への毒性の増大は、酸化還元反応と酸化ストレス増大によるものと考えられる。

ビタミンCの単独投与よりも、ビタミンK3を併用すると抗腫瘍効果がさらに高まった、というのが上記論文の主旨だ。
本文の内容も踏まえつつ、作用機序についてもう少し説明しよう。
ビタミンCの『殺腫瘍作用』は、以前にも触れたが、酸化剤として作用するところにある。
具体的には、ビタミンCは細胞内での過酸化水素濃度およびその他の活性酸素種(ROS)の濃度を上昇させる。するとグルタチオンを始めとする細胞内のチオール濃度が減少し、細胞膜の脂質過酸化が起こり、細胞膜の脆弱化が起こる。
そこでビタミンK3を投与すると、細胞内のNAD、ATPが減少し、酸化を一層能率よく進めることができる。また、ビタミンK3はスルフヒドリル基(細胞骨格を形成するタンパク質)を酸化させることで細胞膜の弱体化に働く。さらに、DNA崩壊の誘導にも関わっている。

「健康のためには抗酸化、抗酸化、って言ってきたのに、まるで逆じゃないの。癌に対しては、体を酸化させないといけないってこと?」と思われるかもしれない。
実は全然矛盾していない。癌細胞に細胞死(アポトーシスであれネクローシスであれ)を起こすには酸化させないといけない、というだけであって、しかもそのためにわざわざ酸化剤(たとえば一般の抗癌剤は究極の酸化剤)をとる必要はない。
むしろ必要なのは適切な抗酸化剤だ。酸化・還元というのは電子の受け渡しのことで、電子の最終的な収支が、癌細胞に対する酸化、という形であればいいんだ。

上記論文では、ビタミンCとK3を100対1で投与したとき、最も能率のよく過酸化酸素が生じ、抗癌作用も強かった。
ビタミン併用によって単体投与時よりも17倍少ない量で同じ効果を得たというのは、重要な指摘だ。ビタミン投与量の節約になって、患者のコンプライアンス向上、経済負担の軽減にもつながるだろう。
実は生体のなかでは、こういう1+1が5にも10にもなる変化というのはザラに起こっているはずで、この相乗作用は臨床でも有用に違いない。
たとえば、癌治療を意図したビタミンC点滴でαリポ酸を加えるのも、この相乗作用を利用したものだ。知識のある医者はとっくに実践しているだろう。