2019.12.9
『安心』という雑誌がある。

「くらしと健康に役立つ実用情報を提供する」ことを社是とするマキノ出版から出ている月刊誌だ。全国の書店で販売されているから、目にしたことがある人もいるだろう。
先月、この『安心』の編集者から直筆の手紙を頂いた。
「先生のブログを拝見し、なんておもしろいんだろう、なんて大切なことが、たくさん書いてあるんだろうと思いました。ぜひ一度お会いできないものか、連載をお願いできないだろうかと思い、ご連絡しました」
僕は机に突っ伏して、しばらく身動きができなかった。
ブログを書く僕の胸中は、矛盾した感情がせめぎ合っている。「僕の言ってることなんかどうせ誰もわからへんやろう」というニヒルと「僕の情報で救われる人がいるかもしれない」という希望。膨大な情報が行き交うネット空間に、ひとつ、僕の文章を投げ込んだところで、世界は何も変わらないだろうという諦念と、いや、そんなことはない、分かる人には分かるはず、という祈りにも似た思い。
僕はこの手紙を読んで、震えた。僕のメッセージが届いている、どころじゃない。「先生のメッセージをもっと多くの人に届けませんか」とオファーしてくれた格好で、僕としてはこんなに光栄なことはない。そして同時に、責任の重みも感じる。全国の書店で販売されているというのは、いわばメガホンである。多くの人に僕の声が届いて、それだけ救われる人も多いだろうが、なかには曲解したり反発したりする人もいるだろう。
今日、『安心』の編集者さんが東京から当院に来られ、お話した。
「先生のブログを参考にして、私もサプリを飲み始めました。ビタミンE、ナイアシンアミド、CBDオイルを試しましたが、とても調子がいいです。
子供を産んで以来、眠りがずっと浅かったのですが、CBDオイルを飲みだしてから深く寝れるようになりました。数日飲み続けてから、その後飲んでないのですが、体が眠り方を思い出したのか、飲まなくてもぐっすり寝れるようになっています」とサプリの効果をご自身で実感されたという。
「内因性カンナビノイド欠乏があって、そのせいで眠りの質が悪化していたところ、それが補充されたことで、改善したのだと思います」
「弊誌は高齢者を中心読者層とした健康雑誌で、セルフケアを中心にご紹介しています。先生のほうで、読者の皆さんにお勧めしたい健康法などあれば、ぜひお願いします。
できれば、あまりお金のかからない健康法が好ましいです。スーパーで普通に売っている食材にこういう効能がある、といった話でもいいですね。
弊誌は全国の書店で取り扱いがありますから、田舎を含め全国に読者がいます。田舎の高齢者の方々というのは、ネットで情報を仕入れるよりは、今でも弊誌のような雑誌媒体が主要な情報源ということが多いんです。
最近は薬の危険性ということが広く言われるようになり、田舎の高齢者の方々にも「症状を薬で治すのではなく、食事などの生活習慣の改善で治したい」という人が増えています。弊誌はそういう人たちの希望に沿った情報を提供したい、という思いもあります。
先生、ご存知ですか。田舎の高齢者が薬をやめるというのは、大変な覚悟がいることなんです。「医者が一人しかいない村」は全国にたくさんあります。そんな村で、医者の意向に反して「この薬は体に悪いって聞いたんだけど、やめれませんか」なんて、とても言えません。都会なら簡単に言えると思います。いろんなスタイルの先生がいて、それこそ、オーソモレキュラー医学をしている先生もたくさんいるでしょうから。しかし田舎で、主治医の不興を買うリスクを冒してまで「薬をやめたい」というのは、生半可な覚悟では言えないんです」
なるほど、おもしろい話だ。全国にはいろんな状況の人がいて、いろんな需要があるのだな。
しかし、高齢者ウケするネタとなれば、どうだろう。今までいろいろな情報をブログで発信してきたけど、特に高齢者を意識したものではなかった。
何がウケるかはわからない。しかし少なくとも、何がウケないか、となれば、性的な悩みは高齢者とは縁遠いものだろう。
と思いきや、『安心』掲載記事に、こんなのがあった。

AV男優のしみけんが寄稿しているという^^そっち系の情報もありなんだな。
そう、「高齢者の性」って世間的には何となくタブー視されてるけど、人間である限り、性欲は切っても切れないもので、そういう情報も当然大事だよね。
2019.12.5
きのうの夜、近所の居酒屋で飲んでた。
テレビのバラエティ番組が流れてて、ふと、横の人が「あ、真矢ミキ」と言った。
僕は芸能人とか全然詳しくなくて、「誰?」と聞くと、
「元タカラジェンヌ。花組のトップスターだよ」
ふーん。それって、すごい人なの?
「もうね、すごい人気だったよ。ヅカの革命児、って言われたくらいのスターだった。オスカルが本当にかっこよくて」
アライグマの?
「それはラスカル。オスカル、知らないの?あっちゃん、文学詳しいと思ってたんだけど」
いや、ボケてるんやんか。ベルばらやろ。
「そう、あのときの宝塚は本当に夢みたいに素敵だった。涼風真世、天海祐希、安寿ミラ、一路真輝。今でも宝塚は人気だけど、あの時代の宝塚には、何か特別な空気があったと思う」

70年代、宝塚歌劇団は存続の危機にあった。テレビが各家庭に普及し始めた時代である。テレビが娯楽の王様として台頭したことで、わざわざ劇場に足を運ぶ人は年々右肩下がりに減少していた。「阪急ブレーブスと宝塚歌劇団は阪急グループの二大お荷物」だと揶揄されていた。
もちろん、熱烈なファンはいた。ある東京在住の少女。たまたま宝塚歌劇団の東京公演を見たことがきっかけで、宝塚の世界に夢中になった。東京公演には欠かさず見に行くのはもちろん、ひいきのスターの出待ちをしてファンレターを渡したり、お小遣いで写真集を買って夢想にふけったりしていた。
ちょうどその頃、少女はもう一つ、自分を夢中にさせる新たな趣味を見つけた。『週刊マーガレット』に連載されている『ベルサイユのばら』である。男装の麗人オスカルとフランス王妃マリー・アントワネットらの人生を描いたマンガで、少女はその世界観の虜になった。
宝塚歌劇と『ベルサイユのばら』。少女の胸のなかで、この二つの趣味は奇妙に融合した。「宝塚の次の演目が『ベルサイユのばら』だったら、どんなに素晴らしいことだろう。『ベルサイユのばら』の持つ甘美な悲劇性が、華々しいあの宝塚の舞台上で再現されたなら、どんなに感動することだろう」と、少女の夢想は途方もなく膨らむのだった。
宝塚歌劇団で演出を担当する植田紳爾は、頭を抱えていた。次の演目をどうしたものか。先だって上演した『我が愛は山の彼方に』は幸い好評で、客の入りもまずまずだった。しかしこれまでの膨大な赤字を埋めるにはほど遠い。会社は劇部門を邪険に扱っている。社長の一存で、いつ「解散」を言い渡されても不思議ではない。劇団員も皆、危機感を持っている。ここでひとつ、世間の耳目を引くヒットを飛ばしたいところだが、、、
ふと、ファンレターが目にとまった。東京在住の少女からのもので、自分がどれほど宝塚歌劇の世界に憧れ、東京の定期公演を楽しみにしているか、拙い筆跡で綴られていた。ファンレターには少女マンガ雑誌が同封されていた。「植田さんは、マーガレットで連載中の『ベルサイユのばら』を知っていますか。私は、これが宝塚の舞台で上演されたら、とても素敵だと思います。植田さんも読んでみてください」
これが、植田と『ベルサイユのばら』の出会いである。一読した植田は膝を打った。「なるほど、おもしろい」植田は少女の夢想に共感した。「これが宝塚で演じられたなら、大ヒットするに違いない」と。
企画会議の席で、社員に提案してみたところ、激しい反対にあった。今でこそ、マンガは日本が世界に誇るクールジャパンの筆頭格だが、当時は違った。「マンガを読めばバカになる」と言われた時代である。「文学作品に取材するならともかく、一時の流行マンガに乗っかろうって魂胆が浅ましい」「フランス王朝の家紋はユリでしょう。それがバラだなんて、無知にもほどがある」
特に、脚本担当の長谷川一夫の反対は根強かった。「あり得ません。植田さん、このマンガが何をテーマにした話か、わかった上で勧めているのですか。女王が他国の男性と情を通じる不義密通がテーマですよ。宝塚歌劇のモットーをお忘れですか。『清く正しく美しく』です。宝塚では、絶対にダメです」
やはりダメか。想像以上に強い反発に出くわして、植田は意気消沈した。しかし、そんな植田を鼓舞するように、東京の少女から毎週『週刊マーガレット』が送られてくるのだった。『ベルサイユのばら』を読む。やはり、おもしろい。「そう、舞台にすれば、ヒットは間違いない。これくらいのことで、あきらめちゃいけないんだ」
植田は長谷川を懸命に説得した。「このマンガが描きたいのは、不義密通ではありません。美しい夢があった悲しい女性の物語なんです」
長谷川、ついに折れた。「これで行きましょう。行くからには、全力で脚本を書きます」
結果、140万人を動員する空前の大ヒット。『ベルばら』は社会現象になり、熱狂的な宝塚ファンを生み出した。
これ以後、宝塚歌劇団の行う公演は安定的にヒットするようになり、チケットは入手困難になった。倍率が増加したのは、チケットだけではない。これまで5倍程度だった宝塚音楽学校の入学倍率は、20倍に跳ね上がった。入試募集要項に応募資格として「容姿端麗であること」と記載のある学校はざらにないだろうが、単に美人なだけでは入学できなくなった。簡単には見れないし、簡単には入れない。『ベルばら』は宝塚がブランド化する起爆剤になった。
天海祐希、黒木瞳、涼風真世など、多くのスターが生まれた。特に天海祐希は宝塚音楽学校の作り出した最高傑作だと言われている。入学試験のときからすでに存在感があって、試験官の一人だった植田紳爾が「お母さん、よくぞ生んでくださった」と言ったことが語り草になっている。
そういえばさ、この前亡くなった八千草薫もタカラジェンヌだよね?
「らしいね。でも古すぎて、私そこまではフォローしてない」
あの人、若い頃はとんでもなく美人だったって、知ってる?
以前グレタガルボについて書いたけど、若いときに圧倒的に美しかった人というのは、老いを極度に恐れるものだ。その点、八千草薫は老いに対して恬淡としてた印象で、素敵な年のとり方だと思う。
50歳を超えた天海祐希は、どんなふうに年齢を重ね、どんな演技をするようになるだろうか。
参考:『宝塚百年を越えて: 植田紳爾に聞く』(植田紳爾著)
2019.12.4
ベンゾジアゼピン系の薬は、睡眠薬あるいは抗不安薬として臨床でよく用いられる。
この薬なしでは精神科臨床はほとんど成り立たない、といっても過言ではないくらい、日常的に処方されている。
依存性の強さから、患者のほうでも「この薬なしでは生きていけない」という人もいる。一度ハマってしまえば、やめるのはかなり難しい。
最初は、ものすごくよく効く。頑固な不眠症や、急にドキドキするパニック発作が、この薬1錠で劇的に改善する。「なんてすばらしい薬だろう」と思う。でも連用すると、段々効かなくなる。
この状態を薬理学の言葉で、「耐性」という。
耐性のない薬物もある。たとえばタバコ。
吸いたくなるけど、1本吸うと、きっちり満足できる。十年二十年吸ってる愛煙家でも「一気に2本か3本吸わないと満足できない」という人はいない。タバコには依存性はあるが、耐性はない、ということだ。
しかしベンゾはそうではない。最初はその1錠でしっかり効いても、段々効かなくなってきて「寝つけるけど、2時間で目が覚めてしまう」みたいなことになる。
諸外国ではベンゾの処方期間に上限があるけど、日本は基本的に野放しなので、ベンゾ依存症の患者が無数にいる。
これは、明らかに薬害だ。患者が副作用のことを同意の上で飲んでいるのならまだいい。でもほとんどの患者は、自分の処方されている薬に強い依存性や耐性があることなど、知らずに飲んでいる。
つまり、医師は患者にベンゾを処方するときに、副作用についてろくに説明してないわけだ。これは医療側の不作為で、仮に患者から「事前に知っておくべき重大な副作用の説明を受けなかったせいで依存症になってしまった」とか裁判を起こされでもしたら、お医者さんの側がけっこう危ういんじゃないかな。
ベンゾの危険性を警告する論文は多い。
たとえば、昔から言われてきたのは、ベンゾによる癌リスクの上昇。動物実験や細胞を使った試験では、発癌性が確認されていた。
人を対象とした疫学研究では有意差がでない研究もあって、見解が分かれていたんだけど、下に紹介したメタ解析(エビデンスレベルが最も高い)で、最終的な答えが出たと言っていいと思う。
こういう研究を踏まえて臨床をするのであれば、医者は患者にベンゾを処方するときに、依存性や耐性についての説明に加えて「この薬で癌になりやすくなりますからね。たとえば脳腫瘍に2.06倍、食道癌に1.55倍なりやすくなりますけど、大丈夫ですか?」と言わないといけない。
まぁこんなの言われたら、脅しみたいなもので、ほとんどの患者は飲まないよね^^;でもベンゾは、それぐらい危険な薬なんだ。
『ベンゾジアゼピン薬剤と癌リスク~前向きコホート研究のメタ解析』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5731963/
ベンゾと癌リスクの関連性については、必ずしも一貫していない。そこで我々は前向きコホート研究のメタ解析を行って、ベンゾの用量と癌リスクの関係性を評価した。
このメタ解析は、2017年7月までに発表された22本の論文をもとにしている。
我々の結果によると、ベンゾの使用と癌リスクの間には有意に高い相関性が見られた。具体的には以下の通りである。乳癌(RR:1.15; 95% CI, 1.05–1.26)、卵巣癌 (RR:1.17; 95% CI, 1.09–1.25)、大腸癌(RR:1.07; 95% CI, 1.02–1.13)、腎臓癌(RR:1.31; 95% CI, 1.15–1.49)、悪性メラノーマ(RR:1.10; 95% CI, 1.03–1.17)、脳腫瘍(RR:2.06; 95% CI, 1.76–2.43)、食道癌(RR:1.55; 95% CI, 1.30–1.85)、前立腺癌(RR:1.26; 95% CI, 1.16–1.37)、肝臓癌(RR:1.22; 95% CI, 1.13–1.31)、胃癌(RR:1.17; 95% CI, 1.03–1.32)、膵臓癌(RR:1.39; 95% CI, 1.17–1.64)、肺癌(RR:1.20; 95% CI, 1.12–1.28)。
さらに、ベンゾと癌リスクの間には有意な用量・反応性の関係が見られた(尤度比検定)。我々の結果は、年間服用量500㎎につき17%、初回使用以後5年につき4%、3種類のベンゾ処方につき16%、それぞれ癌リスクが増加することを示している。これらの結果を踏まえれば、ベンゾの増量は健康に有害である可能性がある。
では、なぜベンゾによって発癌リスクが増加するのか?その機序は?
論文の本文に記載がある。それを参考にして説明しよう。
ベンゾを服用すると、各種の炎症メディエーターが増加する。つまり、体内で炎症が起こる。この炎症がアポトーシス(細胞の自殺)を抑制し、かつ、腫瘍細胞の増殖を刺激する下地になる。同時に、ベンゾはミトコンドリア膜の脱分極に影響して、好中球のアポトーシスを抑制する。好中球のアポトーシスは免疫系のホメオスタシスを維持するうえで重要である。というのは、自死しない好中球が免疫異常を起こして自分の器官を攻撃してしまうためだ。
そもそもベンゾの薬理作用は、神経伝達物質(γアミノ酪酸(GABA))の作用を高めて塩素イオンチャネルに協調的に働くことによって発揮される。γアミノ酪酸は、抑制性神経伝達物質としての作用だけでなく、細胞の増殖や分化にも関与していると考えられている。ベンゾによって特に脳腫瘍が増大している理由はここにある。
要するに、
ベンゾ服用→炎症→アポトーシス低下→癌増殖と、好中球のアポトーシス低下に伴う免疫異常と、ベンゾ服用→GABAによる細胞増殖作用→癌増殖という機序がある。
アポトーシスは細胞の自殺で、細胞が自ら死ぬというのは、何となく良くないイメージだけど、必ずしもそうではない。
捨てるべきゴミは捨てないといけないように、忘れるべき記憶は忘れないといけないように、死ぬべき細胞は、死んでくれないといけない。
方丈記に「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」という有名な文がある。
人間の体もこの原則に沿っていて、この流れに反するような治療や投薬は、だいたいにおいて、失敗していると思う。
2019.12.4
「好炭素菌を寒天培地に散布し、恒温器内に数日置くと、培地上にコロニーを形成する。
ただし、培地にKClの1%溶液を加えると(これをストレス培地と呼ぼう)、コロニーはできない。
シャーレに張ったストレス培地の片側半分に炭の粉をまくと、炭の粉をまいた半分ではコロニーができたが、残り半分ではコロニーはできない。
驚くべきことに、この現象は、炭の粉が直接細菌に接していなくても起こる。
つまり、炭素をポリエチレンの袋に入れてストレス培地上に置くと、コロニーは炭素の入った袋の周囲から形成されていく。
しかし、シャーレをブリキの箱に入れたり、アルミ箔で覆うと、この現象は観察されない。
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/tanso1949/1998/184/1998_184_213/_pdf)
この現象を一体どう説明すればいいのか。
実験を行った松橋通生教授は、こう考えた。
炭素という生命を持たない物質が、何らかの外部エネルギー(たとえば太陽からの赤外線照射)を受けて、これを細菌の増殖シグナルに変えているのではないか、と。」
これは一年以上前に書いたブログの再掲なんだけど、含むところの多い実験だと思う。
炭素は人間の体の基本的な構成元素である。
上記の研究は、炭素と太陽光と細菌の間に相関があることを示唆しているが、ということは、炭素のカタマリである人間が太陽を浴びれば、腸内細菌にも何らかの変化が生じるのではないか。
当然の推測だろう。しかしこれまで、太陽光と腸内細菌の関係を示す研究はなかったが、最近ついにそういう論文が現れた。
『狭帯域紫外線(UVB)光への皮膚曝露は、ヒトの腸内細菌叢を調整する』
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2019.02410/full
近年、特発性の免疫性疾患や炎症性疾患(多発性硬化症や炎症性腸疾患など)が世界中で増加しているが、これはライフスタイルや環境の西洋化と関連している。
日光(UVB)を浴びる機会が減り、その結果ビタミンD産生が減少したし、腸内細菌叢が異常を起こしている(dysbiosis)と考えられる。
しかし、UVB光と腸内細菌叢に直接的な関連があるのかどうかは、明らかではない。
本研究では、血中ビタミンD濃度を増加させる狭帯域紫外線B(NB-UVB)への皮膚曝露が、腸内細菌叢の構成にも影響を与えるかどうかを調べた。
NB-UVB光の影響は健康な女性コホート(n=21)を使ったパイロット研究で調べた。参加者を、冬の間ビタミンDサプリを摂取した群(VDS(+))と、非摂取群(VDS(-))に分けた。
NB-UVB光を1週間に3回浴びた後、参加者の血中ビタミンD(25(OH)D)濃度は平均7.3 nmol/L増加した。
血液データへの反応性は、当初の25ヒドロキシビタミンD(25(OH)D)濃度と負の相関があった。(当初の25(OH)D濃度が低い人ほど、NB-UVB光の効果が大きかった)。
16s rRNAシークエンス解析を使って糞便中の腸内細菌叢の構成を分析したところ、VDS(-)群がNB-UVBに曝露するとアルファおよびベータの多様性が増加していた。VDS(+)群では変化していなかった。
VDS(-)群がUVBに曝露した後では、線形判別分析(LDA)でいくつかの科の菌種が増加していた。たとえば、以下のような菌種である。Lachnospiracheae、Rikenellaceae、Desulfobacteraceae、Clostridiales vadinBB60 group、 Clostridia Family XIII、Coriobacteriaceae、Marinifilaceae、Ruminococcus。
血中25(OH)D濃度はLachnospiraceae属(特にLachnopsira属とFusicatenibacter属)の多さと相関があった。
これは、血中25(OH)D濃度の低い人の腸内細菌叢が、NB-UVBの皮膚照射によって明確に変化することを示した最初の研究であり、皮膚腸相関の存在を示唆するものである。
この皮膚腸相関に働きかけることで、腸内の恒常性の維持および健康へのアプローチが可能かもしれない。
僕は日光浴が好きなんだけど、日光浴をしているときに便意を催してくることは経験的に知っていた。腸内細菌が関係していそうだなという予感は持っていたけど、その予感が上記論文で裏付けられた格好だ。
この論文の意義は、皮膚腸相関の関係が改めて示されたことにある。
腸内細菌のバランスが乱れている人に対して、これまではプロバイオティクスによる経口アプローチしかなかったところ、紫外線B波(本物の太陽光ではなく人工的な紫外線でもいい)を当てるという皮膚からのアプローチが有効だと示されたわけだ。
上記研究では、ビタミンDのサプリを摂っていない人で特に腸内細菌叢改善効果が大きかった。
サプリの嫌いな人は、せめて日光浴をするといい。腸の調子がよくなり、結果、様々な不調が改善するだろう。
2019.12.3
笑いとは何か、ということについて、ベルクソンやら桂枝雀やら、いろいろな人が分析している。
様々な笑いを分析して、共通する要素を抽出して、笑いを生み出す法則を見出したとしても、それで無敵のお笑い芸人になれるかというと、そんなことないと思う。
「笑いとは、緊張と緩和である」と枝雀がいう。これは極意かもしれない。でもこれを知ったところで、別にギャグセンスが備わるわけではない。こういう法則を知らなくても、おもしろい芸人はおもしろい。
笑いとは何かについて一番真剣に考えているのは、笑いを生み出す芸人よりは、お笑い番組を作る放送作家かもしれない。
高須光聖のTEDを見て、なるほど、と思った。
「笑いとは、共感と意外性である」というのがこの人の答え。
モノマネを見れば、確かに笑う。みなさんの同級生にもいたでしょう、モノマネのうまい人。級友や先生のモノマネをして、みんなを笑わせる。なぜおもしろいんだろう。不思議だ。
「それは彼のモノマネのなかに、共感する要素があるから。しかし似すぎているモノマネは、あんまりおもしろくない。似すぎたら、もはや、その人だから」
コージー富田のモノマネなんか見てると、確かにそう思う。うまいだけでは、別に笑えない。意外性の部分で笑っていると思う。
『エアトレイン佐藤卓夫の電車ものまね』
この動画を見て、笑うというより感心してしまった。
うますぎる芸は、強い共感を呼ぶ。でも意外性が消えてしまって、それで笑いも消えてしまうのかな。
別の動画で、この人、大阪の御堂筋線を完コピしてるんだけど、こっちは声出して笑った。車内アナウンス広告までマネしてて「そこまでマネるの?」っていう意外性があったからかもしれない。中川家礼二も爆笑してた。
純粋に技術だけでいえば、この人は礼二を超えている。礼二は車掌モノマネだけだから。
でも笑わせるのがうまいのは礼二のほうで、そこはさすが芸人だなと思う。
『高齢者のうつ病、認知、睡眠に対する笑い療法の効果』
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1447-0594.2010.00680.x
【目的】
高齢者のうつ病、認知機能、生活の質(QOL)、睡眠に対する笑い療法の効果を調べること。
【方法】
2007年7月から9月にかけて、65歳以上の109人の被験者を二つのグループに分けた。
48人は笑い療法群に、61人は対照群とした。
笑い療法群では、一か月に4回以上笑い療法を受けた。二群について、笑い療法の前後で、老年期うつ病評価尺度(GDS)、ミニ・メンタル・ステート検査(MMSE)、 Short‐Form健康調査‐36 (SF‐36)、 不眠症重篤度指数 (ISI)、ピッツバーグ睡眠の質指数(PSQI)を使ってどのように変化するかを比較した。
【結果】
ベースラインにおいて、二群の間に有意差はなかった。笑い療法の前には、笑い療法群、対照群でそれぞれ、GDSスコアは、7.98 ± 3.58 、 8.08 ± 3.96、MMSEのスコアは 23.81 ± 3.90、 22.74 ± 4.00、SF36のスコアは、54.77 ± 17.63 、52.54 ± 21.31、ISIのスコアは、8.00 ± 6.29 、8.36 ± 6.38、PSQIのスコアは 6.98 ± 3.41、 7.38 ± 3.70だったが、笑い療法実施後には、それぞれ、GDSスコアは 6.94 ± 3.19 (P = 0.027) 、8.43 ± 3.44 (P = 0.422)、MMSEスコアは24.63 ± 3.53 (P = 0.168) 、23.70 ± 3.85 (P = 0.068)、SF‐36のスコアは、52.24 ± 17.63 (P = 0.347)、50.32 ± 19.66 (P = 0.392)、ISIのスコアは 7.58 ± 5.38 (P = 0.327) 、9.31 ± 6.35 (P = 0.019)、PSQIのスコアは6.04 ± 2.35 (P = 0.019)、 7.30 ± 3.74 (P = 0.847) だった。
【結論】
笑い療法は、高齢者のうつ病、不眠症、睡眠の質改善に有効であり、安上がりで、しかもすぐ使える方法である。
健康を保つためには、栄養とか食事改善はもちろん大事だけど、一番安上がりで一番有効な健康法は、笑うという、ただそれだけのことだったりする。
高齢になるにつれ、人間は笑わなくなるというから、無理にでも笑うようにするといい。笑えないことばかりある世の中かもしれないけれど。
しかし、赤ちゃんの笑顔というのは不思議だ。あの笑いは、共感でも意外性でもないと思う。
生きて、ただこの世界にいるという、それだけで幸せが満ちあふれて、笑っている。
成長するにつれて、そういう笑顔は忘れちゃうんだよなぁ。