ナカムラクリニック

阪神・JR元町駅から徒歩5分の内科クリニックです

2018年

アルコール

2018.7.19

アルコール依存症の人というのは、世間の人が想像している以上に多い。
厚労省の統計によると、ICD-10診断基準によるアルコール依存症者は109万人、アルコール依存症予備軍(AUDIT15点以上)が294万人、多量飲酒者(飲酒する日には純アルコール60g以上)が980万人、リスクの高い飲酒者(1日平均男性で40g以上、女性で20g以上)が1039万人である。

つまり、「診断上、明らかにアルコール依存症ですよ」と言われた人は、ざっと100人に1人。
アルコール依存症になるリスクのある人というのは、2000万人以上、おおよそ6人に1人もいるということだ。

6人に1人ってすごいと思いませんか。家族や親戚の顔を思い浮かべてください。6人ぐらいすぐ思い浮かぶでしょ。そのうち誰かがアルコール依存症になるかも、ってことです。
世間一般の人は「精神的に弱い人とか自制心のない人がなる病気だ」と思っているかもしれないけど、アルコール依存症は決して特殊な病気じゃない。
お酒は全くダメで、一滴も飲まない、という人はさすがにならないけど、そうでもない限り、基本的には僕らの誰しもがなりうる可能性のある病気だ、ということは認識しておくべきだろう。

個人的には、アルコール依存症に対して精神療法やAA(断酒会)はあまり意味がないと思っている。意味が全くない、とは言わない。特に断酒会の場で、自分と同じような症状で苦しんでいる人の言葉は、本人にとって重く響くことだろう。
しかし、「お酒飲んじゃダメですよ」「うん、わかった。頑張ります」的な、ただの言葉で治るほどこの病気は甘くない。
ダメと分かっていても飲んでしまう。仕事を失い、家族がバラバラになり、金銭的にも破滅する、そういうことが分かっていてなおやめられない。
それがこの病気の恐ろしいところなんだ。
酒をやめるためには、意思の力はもちろん要るが、それだけでは治らない。
一時的に我慢できたとしても、いつかスリップ(飲酒再開)するだろう。

アルコール依存症は精神疾患ではなく、内科的疾患だ。(というか、すべての精神疾患は内科的疾患だ。)
だから、AAに通い続けてどんなに内省を深めたところで、栄養状態の改善に取り組まなければ、根本的な回復は見込めない。
「アルコール依存症というのは、ペラグラ(ビタミンB3欠乏症)のことだ」と指摘している論文もある。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24627570)
アルコール依存症にはナイアシン(ビタミンB3)が著効する。これは、プラセボを使った比較試験がたくさんあって、科学的なエビデンスは十分に確立している。

ホッファー先生によると、ナイアシンのサプリがアルコール依存症に有効であることは、患者の臨床経過を見ていれば明らかだった。
しかし、「私がナイアシンを投与した患者は皆、アルコール依存症から見事に回復した」とどれだけ主張したところで、反対派は納得しない。「そんなものはただの症例報告であって、科学ではない」というわけだ。
だから、反対派を黙らせるには、実薬とプラセボを使った比較試験というのがどうしても必要になる。
「実薬(ナイアシン)投与群の何人中何人が回復し、プラセボ投与群の何人中何人が回復した。だから、明らかに実薬が有効でしょ」という具合に証明しないといけない。
ここで、ホッファー先生、頭を抱えた。なぜって、ナイアシンには、ホットフラッシュの副作用があるから。
ナイアシンを初めて飲んだ患者の多くは、顔や首もとがポッと赤くなってしまう。これはナイアシンが末梢でヒスタミンの遊離を促し、血管が拡張することによるもので、実害は特にないんだけど、初めてこれを経験した人は事前にこの副作用が起こり得ることを知らないと、びっくりする。半減期は90分くらいだから、数時間もたてば消えるし、初めて使った時が一番強く出て、その後は段々出なくなる。
そういうわけだから、ナイアシンの有効性を示すためにプラセボ対照二重盲検を行いたいんだけど、実薬(ナイアシン)群にはホットフラッシュの副作用が出るから、患者にも観察者にも、誰がどっちを投与されているのかがばれてしまう。これでは対照試験の意味がない。
悩んでいたホッファー先生のもとに、新しいニュースが入ってきた。ナイアシンアミドのサプリメントが大量生産できるようになった、という知らせだ。
ナイアシンアミドは、ナイアシンの副作用であるホットフラッシュが出ないように修飾されている。これなら二重盲検が可能だということで、ようやく実薬群の有効性を確認できた。

ナイアシンアミドは、ナイアシンの唯一の副作用であるホットフラッシュが出ないのがメリットだけど、ナイアシンより全般的に優れているかというと、実はそうではない。(そうでなければ、ナイアシンのサプリは市場から淘汰され、かわりにナイアシンアミド一色になっているだろう。)
たとえばナイアシンにはコレステロールを適正化する作用があるが、この作用はナイアシンアミドにはない。
コレステロールとか中性脂肪が高い患者には、副作用の多いスタチンよりも、断然ナイアシンがおすすめだ。ナイアシンには副作用どころか、メリットしかない、と言ってもいいぐらいだからね。(ホッファー先生は、ナイアシンの副作用は「長生きしてしまうところ」と言っている。)
それに、ナイアシンのすごいところは、コレステロールが病的に低い人に対しては、コレステロールをむしろ上昇させるところだ。スタチンみたいに、下げる一方、というんじゃないんだ。だから、健康のためにナイアシンをとり続けたとしても、コレステロールが下がりすぎて困る、ということはない。適正値に落ち着くはずだ。

「アルコール依存症に効くことが明らか?じゃあ、何で私は、ナイアシンのことを他の先生から聞いたことがないの?」というのは、当然の疑問だろう。
1973年、APA(アメリカ精神医学会)は、ホッファーの提出したデータを棄却し、精神疾患(アルコール依存症、統合失調症含め)に対するナイアシンによる治療法は承認しない、と表明した。むしろ肝臓への毒性がある、と。
ホッファーは当然反論したが、まともに取り合ってもらえなかった。

有効性を示すエビデンスは無数にある。(google scholarで「niacin schizophrenia」とか「niacin alcoholism treatment」で検索すると、山ほど文献が出てきます。)
でも、公的な治療としては認められていない。
ひどい話だと思いませんか。
ビタミンで病気が治っては困る人たちがいて、彼らは、患者を真に救う治療法は認めない。もちろん背景には、抗精神病薬を売りたい、コレステロール降下薬を売りたい、っていう経済的動機がある。
これってね、患者の皆さん、怒っていいレベルの話なんですよ。
ベターチョイスがあるにもかかわらず、それを使っていないという、医療の不作為なわけだから。

そもそも医者は学校教育でナイアシンが統合失調症やアルコール依存症に効くということを教わっていない。仮に患者から集団訴訟みたいなのを起こされても、悪意による不作為ではないから医者側が負けることはないだろうけど、医者は自分の無知を恥じるべきだとは思う。ネットのあるこの時代、医者よりも患者のほうが自分の病気のことをよく調べてて、医者よりもはるかにビタミンのことに詳しいことも多い。
いい加減、医者のほうが自分で気付かないといけないと思う。自分たちの受けてきた教育は、本当に正しいのか。本当に患者のためになっているのか。
でないと、患者に置いて行かれると思う。

物理

2018.7.18

「子供の頃は物理学者になりたかった。
わけのわからない現象に満ちた世界が、物理の公式を使えば実にクリアに説明できるところが、何とも言えず美しくてね。
物理の問題集って、あれは実に、麻薬だよ。本当にハマっていた。
何が魅力って、万能感だよ。
問題文を読み、問題のエッセンスを図示する。式を作り、論理を進め、結論を導く。
僕の右手のなかに論理がしっかりと握られていて、ペン先を通じて、紙の上に世界を紡ぎだしているような感じだ。
論理の翼に乗っていけば、どこまででも行けるような、すべてを解明してしまえるような気さえした。
微積分法を創始したニュートンは、自分のことを神のように思っていたって読んだことがあるけど、その気持ちはすごくわかるよ。
どこかの誰かが作った問題集を解いているだけの僕でさえこんなにハイになれるんだから、自分が作り出した微積分で、自分で問題設定して、自然現象の法則をどんどん解明していく喜びは、途方もないものだっただろう。

でも、『物理学者になりたい』なんて、親にはとても言い出せなかった。
うちは代々の医者家系なんだ。祖父も父も医者だったし、叔父やいとこにも医者が多い。『医者になって当然』という空気のなかで育ったから、医学部じゃなくて理学部を受験したいなんて、とても言えやしない。
で、当然のように医学部を受験して、当然のように受かった。自分で言うのも何やけど、優秀やから笑
親元を離れて、一人暮らしの大学生活が始まった。
勉強したり部活したり、恋愛したり、で、すごく楽しくて充実していた。物理が嫌いになったというわけではもちろんないんだけど、物理の問題を解くこともなくなって、いつのまにか物理学者になりたいなんて夢があったことも忘れていた。
やがて医師国家試験をパスし、医者になった。結婚し、子供ができた。長い月日が流れた。
高校生になった子供が、あるとき、「お父さん、昔、物理得意だって言ってたでしょ。この問題、わかる?」と参考書を示しながら、僕に聞いた。
力学のちょっとした応用問題だった。「ちょっと、紙と鉛筆貸して」
問題のポイントを図示して、少し考えると、解けた。子供に要点をかいつまんで説明した。
そのとき、僕の心のどこかに、火が付いた。「どれ、他の問題も見せてみ」
子供を尻目に、むしろ僕が夢中になって、問題を次々解き始めた。
物理少年だったときの昔の気持ちがよみがえった。
手の中に論理がある、この感じ。そう、僕は物理学者になりたかったんだ。

その日をきっかけに、子供と一緒に勉強をするようになった。
そして、自分のなかで、ある野心が芽生えたことに僕は気付いた。
今からでも遅くない。今度こそ、理学部に入ろう。もはや、親や周囲が反対することはない。
自分の生きたいように生きる、自分がやりたいことをする、最後のチャンスだ」

なんとこの先生、こういう具合に子供と一緒に受験勉強をして、有名国立大学の理学部に見事に合格してしまった。
学生と医者の二足のわらじをはくってのもすごいけど、18歳の新入生のなかに混じってまで勉強したいっていう、気持ちの若さがすごいな。

ちなみに、医学部と理学部、偏差値的には医学部のほうが高いけど、本当に才能のある人は、理学部に行くべきだと思う。
数学オリンピックとか物理オリンピックでメダルとるような天才は、行こうと思ったら医学部にも楽々行けるだろうけど、絶対理学部に行くべきだと思う。
仮に医学部に行ったとしても、研究に行くべきだ。臨床なんて行っちゃダメだよ。(臨床というのは、要するに、病院勤めの普通の医者、ということです。)
臨床なんて、ガイドラインに基づいて製薬会社の使ってほしい薬を使うだけの雑務みたいなもんだから、本当に頭がいい人がそんなところに行っては、国家的損失だと思う。
理系学問は世界を変える力があるものだけど、医学部の臨床だけは例外で、あそこは、有害無益だとすでに分かっているような治療が延々行われていたり、患者を真に救うはずの治療法が用いられてなかったり、ということがざらにある世界で、そんな世界に本当に才能のある人が行っても単に消耗するだけで、クリエイティビティの発揮のしようがない。
悲しいことだけど、医学は学問ではなく、利権なんだ。
「天才は育てるもんやなくて、育つもん」って森毅先生が言ってて、その通りだと思うけど、育つ場所は選ぶべきだよ。

CA

2018.7.17

「国内線のCAとして働いて来ました。大学を卒業してから、十年近くずっと。
CAの仕事を通じて、接客のマナーとか航空会社のシステムとか、会社で働くことの意味、お客様に喜んでもらう喜びなど、様々なことを学びました。
でも、もういいかな、と思いました。長く続ける仕事じゃないな、と。
いえ、仕事が激務だから、というわけではありません。確かに大変な仕事でしたけど、やりがいもありましたから。
私の場合は国内線だから、フライトが長時間だったり変則的だったり、っていう負担はそれほどありませんでした。多いときで、1日3フライトというときもありましたけど、国際線のCAに比べれば全然楽なほうだと思います。
それに、会社は過重労働にならないよう配慮してくれているように感じました。フライト中にもレストがあって、それは権利というか、むしろ義務でした。「何時間働いたら、何分休憩しないといけない」っていうのが、労務管理としてあるんだと思います。
そういう点は問題ありませんでした。
問題は、飛行機に日常的に乗ることから来る健康への影響で、こればかりはこの仕事を選んだからには避けられないものでした。
気圧の高い低いの繰り返しとか、機内の乾燥した空気、放射線への被爆とか、やっぱり心配だと思って。
あと、クルーミールって、お客さんにお出しするものと基本的には同じなんです。できあいの加工食品そのもので、それをアルミに包んでオーブンであたためて、食べます。
濃い味付けで、栄養のバランスなんてあったものじゃない。毎日食べ続ける食事ではありません。自分でお弁当を作って持って来ている同僚も珍しくありませんでした。
小さい頃から、車や電車、飛行機とか、乗り物が好きでした。その気持ちがあったから、CAになりました。CAをやめた今でも、車の運転とか、好きです。
でも今の車ってすごいんですよ。私のじゃなくて親のだけど、家がベンツのEクラスに乗ってて、オートパイロット機能で勝手に運転してくれるんです。飛行機の運転も離着陸を除けば、ほぼ自動化されているんだけど、まさか車で運転の自動化ができるなんて思いませんでした。先生はどんな車に乗られてるんですか」
「軽です」
「(うわ、だっさ)軽も素敵ですよね」

職業として飛行機に長く乗り続ける人の健康がどうなるのかについては、昔から研究されていることではあった。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK219002/)
ごく最近、かなり気合の入った論文が出てきたので紹介する。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5865289/)
この研究によると、一般の人に比べて、CAが婦人科系の癌にかかる確率は1.66倍、部位を問わず何らかの癌にかかる確率は2.15倍であり、睡眠障害、疲労、うつ病にかかる確率は、1.98倍から5.57倍高かった。
逆に、心血管系、呼吸器系疾患にかかる確率は低くなっていた。
職歴が長いほど、睡眠障害、不安・うつ病、アルコール依存、癌、末梢動脈疾患、副鼻腔炎、下肢手術、不妊、周産期疾患にかかる確率が増加した。

上空何千メートルという空の上が職場なわけで、こういう環境はやっぱり人間が過ごすには不自然なのだということが、病気の発生率の増加に表れていると思う。
だから上記の女性が、せっかく子供の頃からの憧れのCAになったのにもかかわらず、自分の健康を気遣って職を辞める決断をしたのも、賢明な判断だというべきだろう。
今後AIが進歩すれば、CAは不要という時代は来るだろうか。
それはわからないが、こういうエビデンスが出てなお、航空会社としてはCAを廃止するわけにはいかないし、CAのほうでも健康リスクを承知の上で「働き続けたい」と希望する人も多いだろう。
そういう場合に、栄養療法的にお手伝いできることがある。
国際線のCAには、睡眠障害はほぼ必発で、狂った睡眠リズムを整えるためにベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使っている人も多いと思われるが、そういう人には、ベンゾではなくメラトニンを勧めたい。
ベンゾの長期使用は癌の発生率を増加させるが、メラトニンには睡眠リズムの適正化に加えて、むしろ抗癌作用が期待できる。
CAをしていることでなぜ婦人科系の癌が増加するのか、詳細は不明だが、ホルモンの分泌不全が病態の根本にあるのではないか。だとすれば、婦人科疾患の女性によく用いるビタミンB6と亜鉛の服用もプラスの作用が期待できそうだ。
過酷な機内環境であるから、抗ストレス作用を期待して、アダプトゲン(特にロディオラ、睡眠障害のある人にはアシュワガンダ)を使ってもきっと効果があるだろう。

車好きの女の子というのは確かにいて、乗ってる車が軽ではそういう子にまったくアピールしない、ということを、相手の表情で如実に知りました泣

カルシウム

2018.7.16

アメリカの成人男性の3人に1人が何らかの心臓血管系の疾患を抱えている。
原因としては、食生活の偏りや、肥満による代謝障害が指摘されている。

治療としては、一般の病院では、バイパス手術をするとか投薬による症状のコントロールがメインだけど、栄養療法の立場としては、当然食生活の改善やサプリの投与が中心だ。
ただし、サプリメントによる悪影響も指摘されている。
「過度のカルシウムサプリメントの摂取は男性の心疾患リスクの増加に関連する。National Cancer Institute研究者グループが、50歳から71歳の男女38万8229人(Health-AARP Diet and Health Study)のデータを分析したところ、カルシウムサプリメントを、1日に1000mg超えて摂ると、心血管系疾患による死亡リスクが20%増加すると考えられるとしている。この関連性は男性にのみ認められ、女性には見られなかった。」

やみくもに「サプリを飲め」とすすめているのが栄養療法ではないからね。
飲むべきサプリ、飲んではいけないサプリ、というのがはっきりある。
カルシウムは飲んではいけないサプリの代表的なものだ。

たとえば象を見てごらん。
あんなにどでかい巨体で、骨格も当然大きくて、骨には大量のカルシウムが貯蔵されているわけだけど、彼ら、カルシウムのサプリを飲んでいるか?もちろん飲んでいない。
じゃ、何を食べているか。基本、草食動物だから、緑の葉っぱばっかり食べている。ただの葉っぱで、あの巨体を維持できているわけ。不思議だと思いませんか。

そもそも葉っぱはなぜ緑なのか。葉緑素が含まれているからで、葉緑素の主な構成要素はマグネシウムだ。これは、人間の血液のメインの構成要素はヘモグロビンで、その活性中心に鉄があるのとパラレルな関係だ。
つまり、植物の血液と人間の血液の違いは、構造の中心にマグネシウムがあるか、鉄があるかの違いだけだ。
生野菜を意識して毎日食べている人ならともかく、加工食品ばかり食べている現代人にはマグネシウムが不足しがちだから、マグネシウムをサプリメントとして補うのは理にかなっている。

鉄に関しては、鉄欠乏性貧血ででもない限り、あえてサプリでとる必要はない。というか、ケルブランの原子転換でいうなら、マグネシウムは結局体内で鉄に転換されるので、マグネシウムとっていれば貧血にならない。鉄鋼スラグみたいな粗悪な原料由来の鉄サプリ飲むくらいなら、ちょっとお高めのちゃんとしたマグネシウムサプリを使うか、料理ににがりをちょっと使うようにするといいよ。

あるいは、マンガンも鉄に転換されるとケルブランは言っているけど、これは、統合失調症者が抗精神病薬でなぜジスキネジアを発症するのか、その機序を整合的に説明するのに役立つと思う。
「統合失調症(および精神疾患罹患者)には鉄欠乏性貧血が有意に多い」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3680022/)
「抗精神病薬は代謝のプロセスで血中マンガン濃度を減少させる」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3989508/)
この二つはいろいろな研究者がすでに確認している事実だけど、ケルブランの説はこれらの事実をつなぐ橋渡しになっている。

リーマスが躁に効くメカニズムは精神医学の教科書によると「不明」とされているんだけど、これもケルブランの原子転換で話をうまく説明できる。
つまり、躁病の人も血中の鉄濃度(あるいは鉄代謝)に異常があるんだけど、リチウム(リーマス)は体内でケイ素と結合して鉄になる、とケルブランは説いている。
リーマスを飲むということは、間接的に血中鉄濃度の安定化に寄与しているわけだ。
でも、この機序を考えれば明らかなように、その過程でケイ素がどんどん消耗されているから、リーマス飲んでいる人はシリカのサプリをとるとか、スギナのお茶を飲むといいよ。

ケルブランの話をもっとしたいところだけど、きりがないから、カルシウムの話に戻る。
人間は、腸管から必要なカルシウムを吸収し、体の中で不要になったカルシウムは尿から排出してバランスをとっているわけだけど、一般的に、加齢にともなって、体内にはカルシウムがたまりがちになる。
骨粗鬆症になっている人というのは、カルシウムが不足しているのではなくて、カルシウムをきちんと骨にアンカーできていないことが根本的な病態であって、むしろこういう人の動脈内壁や関節内にはカルシウムが沈着している。
カルシウムの不足が問題なのではない。偏在が問題なのだ。
そして偏在しているところでは、まず間違いなく、炎症が起こっている。炎症のあるところ、カルシウムあり、で、カルシウムのあるところ、炎症あり、だ。
要するに、骨粗鬆症の治療とか予防のためにカルシウムをとっている人がいるけど、ああいうのはむしろ有害無益。骨の強化に役立っているどころか、炎症を助長し、活性酸素の発生を促し、動脈硬化を増悪させるだけだ。
栄養療法的な治療としては、生野菜を食べることを勧めたり、あるいはにがりとかマグネシウムのサプリを勧める。
あと、不必要に日光を避けないこと。むしろ太陽に適度に当たって肌でビタミンDを作っていれば、健全な骨を作るお助けになるよ。

治療のつもりでやっていることが、実は体に悪いことだった、って、精神的にダメージ、でかくないですか。
途中で気付いて引き返せればまだしもマシだけど、全然気付かないで、体にいいことをやっていると信じて、そのまま突っ走ってお亡くなり、という悲劇が、この世界からちょっとでも減ればいいんだけどね。
僕の母は大腸癌の診断を受けて、手術と抗癌剤こそが治療への道、と信じて突っ走り、どこか、この世ではないところに消えてしまいました。
何よりやりきれないのは、母が大腸癌の診断を受けたとき、僕はすでに医者だったということだ。
「医者でありながら、他ならぬ自分の母を説得できず、正しい治療の道へ導けなかった」
医者である限り僕は、この後悔をずっと心の隅に抱えて生きていくことになるだろう。
そして、縁あって僕のクリニックに来られた患者には、同じ不幸な目にあわせまい、と思っている。

2018.7.15

今日大阪に行ったら、駅前の広場でベンツの展示会やってた。

2000万円の車かぁ、お姉ちゃん一人2万円とすれば1000回できるんかぁ、とか下品な単位換算してしまう小市民なんだけど笑、この車が破格の200万円だったとしても、僕は買わないんじゃないかな。

車に全く興味がない、っていうわけでもないんだけどね。
子供の頃はミニカーとか好きで、集めたりしてたし。
今でもカッコいい車を見れば、カッコいいなと思う。
でもそれだけなんだな。
自分がそれを所有して、乗り回したい、とまでは思わない。

学生時代はトヨタのハリアーに乗ってた。自分で買ったわけではもちろんない。
友達が車を乗り換えるってことで、僕に譲ってくれたんだ。
「もう10万キロ以上走ってるしさ、あちこちガタが来てるんだよね。でも君がよければ、あげるよ」と。もちろん、ありがたく頂戴した。(しかし車くれるってすげぇ話だな。今考えてみても。)
ハリアーは車高が高くて、周囲の車を見下ろすような優越感があった。それに、加速がすばらしくて、運転するたびにちょっとした胸のときめきがあった。
「なるほど、いい車って、いいものだな」と、僕もこのとき初めて実感として思ったよ。

その後数年間乗って、いよいよ寿命が来て、買い替えとなった。
僕が次に買ったのは、軽自動車だった。
「医者になって車のグレードがダウンした奴って、他におらへんぞ」って同期が笑ってた。
今もその軽に乗っている。

もういいかな、と思ってさ。
ハリアーはすばらしい車で、いい車がどういうものか、教えてくれた。
でも、もう充分満喫したかな、と。
20万円、200万円、2000万円の車があったとして、車としての魅力も10倍ずつ増えているかというと、全然そんなことないと思うんだな。
時速100キロで1時間走るとか人間にはできないことだけど、車ならそういうことは可能で、それが可能な時点で、どんな車だろうが、もう充分だと思って。
それに、何か疲れちゃったんだよね。
医者仲間どうしの会話のなかで、乗ってる車で相手のステータスを推し量るような、暗黙の駆け引きとか。車のブランドとかこだわってさ、バカみたい。そういうの、俺、もう降りるわ、と。
もうね、「車は足」と割り切ってるんだ。それ以外の意味はまったくない。
軽でもう充分なんだ。

もっと自分の心理を分析すると、おそらく僕は、自分以外に大事なものを持ちたくないのだと思う。
今は自分のことで手いっぱいなんだ。
大枚はたいて車買ったとすれば、まさか野ざらしで放置しておくわけにはいかない。車内をきれいに掃除したり、ときどき洗車したり、って具合に、きちんと管理しないといけない。
車は単なるモノじゃないくて、ある意味ペットと同じだ。ちゃんと愛情かけて育てていくものだし、そうして愛情かければかけるほど、もっと大切にしよう、って思えるんだ。
僕はハマれば凝り性だから、きっと大切にするだろうと思う。
でも、今の僕にはそれだけの余裕がない。
開業して大変だし、ヒマがあれば一本でも多く論文を読みたい。自分を成長させるのに忙しいんだ。
今の僕には、自分以外の存在に愛情を注ぐことは、何だかすごく億劫だ。
結婚に踏み込めない心理も根は同じかもしれない。

「言ってることはわからないでもないが、独身貴族の発想だね。まぁ今はそれでいいだろう。
でも、君にも嫁ができて、子供ができれば、いつまでもそういう軽に乗ってるわけにはいかないよ。
20万円、200万円、2000万円の車があれば、車としての魅力も10倍増しとは言い難い、高い車はコスパが悪い、と君は言う。
しかし俺に言わせれば、とんでもない話だ。生じている価値は10倍以上だよ。
2000万円の車は俺も乗ったことがないから偉そうには言えないが、少なくとも200万円以上の車に乗ること、これは医者の君にとっては、ほぼ義務といっていい。結婚して家庭を持てば、なおさらだ。
ステータスとかそういう低レベルな話じゃない。君の命、そして君の家族の命を守るためだよ。
天候や路面状況に左右されない、ベンツの走行時の安定感。ハリアーに乗っていたことがあるのなら、高級車の運転のしやすさは体感として知っているだろう。ベンツに乗っている時点で、事故を起こす確率が減っているんだ。
それに、万一事故を起こしたときの、車体の装甲性。高速で事故を起こしても、軽ならばペシャンコに潰れてしまうところ、ベンツなら見事に君の命を、家族の命を守ってくれるだろう。命が金で買えるとしたら、これほど安い買い物はないと思わないか。ヤクザが乗ってる車というイメージもあるかもしれないが、彼らとてステータスだからという理由だけでベンツに乗ってるわけじゃない。命への投資なんだよ」

先輩医師が言ってくれた、親身な意見。
これは胸に来たな。自分の意見を幼く感じたよ。
俺もいつかはいい車に乗らんとあかんなって思った。自分以外に守るべき大切なものができたらね。

体験乗車までさせてくれた。
45度の傾斜って、すごいよ。運転席から見れば、体感としては、ほとんど壁に突進しているような錯覚を感じるほどだし、降りるときには、崖にダイブするように感じる。
前後の傾斜だけではなく、左右の傾きにも強い。
タイヤが地面を噛む力というのか、こんなに安定感のある車もなかなかないだろう。
しかし2000万かぁ。
「メルセデス・マイバッハは8800万円からお買い求めいただけますが、それに比べればリーズナブルかと思います」
って、売り子さん、言うてはったけど、いやいや、ビルゲイツにでも営業しておいで笑。
俺にはやっぱ無理。5、600万円くらいのランクルとかならまだしも現実的かなって思う。