院長ブログ

シワとビタミンK2

2019.5.24

「顔のシワは年齢のせいだからしょうがないよね。
でもさ、シワが原因で死ぬわけじゃあるまいし、もう自分のなかで受け入れてるんだ。生きてる証の年輪みたいなものだよ」みたいに思っていませんか。
違う。
この言葉は、いろんな意味で間違っている。
老いを受け入れる恬淡とした精神には好感を持つが、シワが持つ医学的意味をまったく無視している。
シワは、れっきとした病気の予兆、警告症状そのものであって、「生きてる証の年輪」みたいな叙情的な表現で片付けるべきものではない。
老いに抗おうとして方向性の間違った努力(高い美容液を塗ったくる、形成外科でシワ取りのオペを受けるなど)をしている人は見ていて痛々しいが、適切な対策は必要だ。

皮膚のシワと、その人の健康状態(具体的には骨粗鬆症、心臓病、糖尿病、腎機能低下など)との間には明確な相関があるとする研究が、最近次々と出ている(ちなみにこれらの病気はすべて、ビタミンK2の低下と関連している)。
たとえばこんな研究。
『閉経初期の女性において、皮膚のシワと張りは、骨のミネラル濃度の予測因子である』
https://mavendoctors.io/osteoporosis/bone-health/skin-wrinkles-and-bone-density-m-deXLYhWkGroWgpN83iuA/#_edn1
40代後半から50代初期の閉経後女性114人(女性ホルモン療法や美容外科での施術を受けていない人のみ)を対象とした研究。
被験者の骨密度を測り、また、頬と額の皮膚の硬さ(張り)を計測した。
結果、顔のシワが多い女性ほど、骨密度が低かった。また、骨密度とシワの相関は、調査したすべての骨(股関節、背骨、踵)で成立した。しかもこの相関は、年齢、体脂肪率など、骨密度に影響することが知られているどの因子とも独立に成立していた。
研究者は、この相関はコラーゲン産生の低下による影響ではないかと推測している。
コラーゲンは、骨、皮膚、いずれにとっても不可欠なタンパク質で、この減少が、皮膚のたるみや骨密度の減少につながる可能性がある。
シワやたるみなど皮膚の状態を調べることで骨の状態をだいたい予測できるとすれば、骨粗鬆症のリスク判定が可能になる。侵襲的な検査をすることなしに簡単に予測できることは、大きな利点と言えるだろう。

この研究は、至極当然のことを言っているようにも思う。
皮膚は、単に外側を覆っているだけの皮ではない。皮膚がもたらす情報は極めて多い。
たとえば、顔が美しいというのは、単に顔が美しいだけではない。
美しさは、その人の健康状態の発露である。
人より優れた健全さは、生物種としての優越性そのものであり、そういう優越性を備えた人は異性に魅力的に映る。要するに、モテるということだ。
こんなことは、誰しも経験的に知っていることだろう。

ただ、上記研究で研究者は皮膚と骨の相関を説明する要因として、コラーゲンを挙げているが、僕としてはそれだけでは不満だ。
ビタミンK2が関与していないはずがない。

『腎機能低下の予測因子としての顔のシワ』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18771469
30歳以上の264人の被験者を対象に、「カラスの足跡」(目の下の頬のあたり)のシワを一定の方法でスコア化した。さらに、各被験者の腎機能をeGFR(糸球体濾過率)で、酸化ストレスの程度をLPO(脂質ヒドロペルオキシド)で測定した。
結果、eGFR低値とLPO高値はシワの重症度と相関していた。この相関は年齢、性別、その他の確立されたリスク因子と独立していた。つまり、顔のシワを、腎機能低下の予測マーカーとして利用できる可能性がある。

『腎機能と非カルボキシル化MGP(基質glaタンパク)の関係性』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19204017
この研究は、腎機能低下によって非活性型のMGPが増加することを証明したものだ。非活性型MGPの増加はビタミンK2不足を意味している。
これらの研究を踏まえて言えることは、顔に刻まれたシワはビタミンK2不足の証拠ということだ。

谷崎潤一郎が「白人の女は若いときはすごくキレイだけど、30歳過ぎたあたりでシミやシワが目立ち始めて急速に老けるようだ。その点日本の女のほうが断然いい」みたいなことを書いてた。
同じことは当の白人も思っているみたいで、日本人女性がなぜ比較的高齢になっても白人ほど醜い皮膚にならないのか、そこにフォーカスした研究がある。
“Your Skin, Younger”(Logan A et al著)に、以下のような記述がある。
疫学研究では、日本人女性は同年代の白人女性と比べて、顔のシワや皮膚のたるみが少ないことが示されている。食事を始めとする生活習慣がかなり違うわけだから、単純な比較は困難だろう。しかし、日本人女性を他のアジア人女性、たとえば上海やバンコクに住む女性と、年齢調整して比較しても、東京在住の女性は加齢の外見的徴候が最も軽度であった。

なぜ日本人女性は他の国の同世代の女性と比べて、シワやシミが少ないのか。Kate Bleue氏によれば、その理由は、納豆にあるという。(ほんまかいな^^;)
東京在住者は納豆を愛好する。それは毎日の朝食に欠かせないstaple(定番)である。
実際、東京在住者の血中メナキノン(ビタミンK2)濃度の高いことが、その証明になっている。
欧米人の通念に反して、実は日本人全員が納豆を愛好するわけではない。特に西日本では納豆を忌避する傾向が強い(その通り。俺のばあちゃん(京都出身)も毛嫌いしてたなぁ)が、納豆の消費量の寡多と骨粗鬆症の発生率の相関は複数の疫学研究が示すところである。

女性諸君、キレイになるためには、納豆だってさ!

プライス博士は世界中の原住民を観察を通じて、伝統的な食事を摂っている人々では、その老い方が、非常に優雅であることに気付いた。

この写真は、ポリネシアで撮影されたもの。
この女性は90歳近い年齢にもかかわらず、見事な歯とすばらしい体格をしていた。「彼女こそ、自然の供するものを自然に食べていれば、このように優雅な老年を迎えることができるという実例だ」と、プライスは記した。
一般的な90歳の女性を思い浮かべてみてください。自前の歯はほとんどなくて総入れ歯、背は曲がって車椅子、顔はシワくちゃ、髪は薄くて、頭は半分ボケている。そういうイメージではないですか。
90歳まで長生きしても、そんな状況になるのなら、生きる意味って一体何だろう、って考えてしまう。
そして、「それは仕方ない。老いとは、そういうものだ」と思っていませんか。
違います。
誰だって、もっと優雅に老いることができる。この写真の女性のように。
そのヒントが脂溶性ビタミンにあることを、プライスは発見した。
この大発見を参考にしないなんて、もったいな過ぎると思いませんか。