2019.3.31
カフェインは病院でも普通に処方されている、れっきとした薬だ。
眠気、倦怠感、頭痛(カフェイン禁断性頭痛など)に対して適用がある。
カフェインが気分、集中力、単純計算のパフォーマンスを高めることには複数の研究があって、エビデンスとしては固い。
たとえば以下のような研究。
https://link.springer.com/article/10.1007/BF00210835
『低用量カフェインの作業能率および気分に対する効果』
要約
カフェインは気分やパフォーマンスに対して刺激物質様の効果があると考えられている。しかし、食品やOTC薬品(ドラッグストアで誰でも買えるような薬)に含まれている程度の低用量カフェインの処方によって、どのような急性の影響が出るかを調べた研究はほとんどない。
そこで我々は、健康な20人の男性ボランティアに対して、様々な用量のカフェイン(32mg、64mg、128mg、256mg)を単回投与し、血中カフェイン濃度、様々なパフォーマンス項目、自己報告式の気分スコアを評価した。
結果、たったの32mgで(これはコーラ1杯に含まれているカフェインの量であり、コーヒー1杯やOTC薬品に含まれているカフェイン量よりも少ない。また、この量による血中カフェイン濃度の上昇は1μg/mlにも満たない)、聴覚および視覚の反応時間が有意に高まった。
他の投与量でも、これらのテスト項目のパフォーマンスが有意に高まった。
不安感の増大や運動パフォーマンスの低下など、行動面への悪影響は、最大用量の投与でも観察されなかった。
最近出たレビューで、カフェインがサッカー選手のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを調べたものがある。
https://res.mdpi.com/nutrients/nutrients-11-00440/article_deploy/nutrients-11-00440.pdf?filename=&attachment=1
『サッカー選手におけるカフェイン摂取と身体パフォーマンス、筋肉のダメージおよび疲労の知覚:系統的レビュー』
サッカーは複雑なチームスポーツであり、この競技における成功は、身体能力、選手の技術、チーム戦術など、様々な要因が左右している。過去数年、カフェインの摂取によってサッカーの身体パフォーマンスにどのような影響が出るかを調べた研究が複数あったが、これらの研究結果は適切にレビューされていない。このレビューの主な目的は、カフェインの適量摂取によるサッカーの身体パフォーマンスへの影響を適切に評価することである。
2007年1月から2018年11月までのMedline/PubMedおよびWeb of Scienceのデータベースにおける『系統的レビューとメタ分析のための選好報告項目』(PRISMA)のガイドラインに従って、文献検索を行なった。検索した文献には、カフェインの無作為化比較試験(カフェイン含有の飲料あるいは錠剤)が含まれている。サッカー選手のレベル、性別、年齢による調整は行なっていない。
このレビューは17本の論文を対象としており、このうち12本はカフェインのサッカー特有の能力に対する影響を、5本はカフェインの筋肉損傷に対する影響を、調査したものである。ジャンプ力、頻回ダッシュ能力、試合中の走行距離で、身体能力が高まっていた、というのがこのレビューの結論である。
カフェインによって筋肉の損傷を示す血中マーカーが増加することを見出した論文が1本あった。カフェインによってサッカー後の疲労感が減少したとする報告はなかった。結論として、サッカーをする5〜60分前のカフェイン単回適量投与は、サッカーの身体パフォーマンスに関連したある種の能力を高める可能性がある。しかし、筋肉損傷を示すマーカーの増加を引き起こす可能性は低いと思われる。
カフェインがどのようにして薬理作用を発揮しているのか。
この機序にアデノシン(催疲労物質・睡眠物質)の抑制が関与しているのではないか、という仮説を提唱しているのが以下の論文だ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12399249
『疲労に対するカフェインとアデノシンの影響』
カフェインは運動中の疲労を遅らせるが、この機序は不明である。
本研究は、カフェインの抗疲労効果は中枢神経系(CNS)のアデノシン受容体の阻害によるのではないか、という仮説を検証するものである。
まず、自発的歩行活動に対するカフェインおよびアデノシンA1/A2受容体作動薬5Nエチルカルボキサミドアデノシン(NECA)の効果を確認した。自発的活動あるいはトレッドミル・ランニングの30分前に、ラットにカフェイン、NECA、あるいはその両方(カフェインとNECA)を投与した。
結果、カフェインは自発的活動の増加、NECAは自発的活動の減少と関係していたが、カフェインとNECAの同時投与では、NECAにより誘導される活動減少が見られなかった。またカフェインは、コントロール群に比べて、疲れるまでの走行時間が60%伸び、NECAは疲れるまでの走行時間が68%短くなった。
この結果は、カフェインによるCNSを通じた疲労遅延作用の少なくとも一部には、アデノシン受容体の阻害が関与していることを示している。
高校で生物の授業をとった人は、生物はエネルギーの媒介物としてATP(アデノシン三リン酸)を利用している、と習っただろう。
ATPは暖炉にくべる薪で、アデノシンはその燃えカスのようなものだ。
上記の実験では、ラットにアデノシンを投与すると自発的運動が減少していたが、カフェインの同時投与でそれがキャンセルされた。
アデノシンは身体・精神活動の燃えカスで、その投与で自発的運動が減少するのは理にかなっている。疲れてグッタリするのだろう。そこにカフェインを入れると元気になるというのは、カフェインがアデノシンの作用に干渉するからだ。
コーヒーを飲みすぎると夜寝られなくなるのは多くの人が経験済みのことだが、その機序の一端が解明された格好だ。
休憩時間にコーヒーを1杯飲んで、さて、午後の仕事も頑張ろう、という人は多いと思う。ただ、上記の研究からわかるように、コーヒー(カフェイン)によって疲労物質(アデノシン)が消滅したわけではない。アデノシンはしっかり残っていて、カフェインはそれが受容体にくっつくのを邪魔しているだけのことだ。
カフェインはあくまで適量摂取にとどめて、夜にはしっかり休息することが大事だ。
2019.3.30
大学受験で医学部を受験することが特殊なのは、それが職業選択にそのまま直結している、ということだ。医学部医学科に合格するということは、ほぼそのまま、医者になるということを意味する(合格したものの、途中でドロップアウトしてしまう人や、医者以外の職業につく人も少数ながら存在するが)。
こんな学部は他にない。
法学部だから弁護士を目指すとか、理学部だから研究者を目指す、みたいに、学部によって将来の職種がやんわりと決まる学部もないわけではないが、それは本当に「やんわり」であって、法学部卒業でも弁護士じゃない人、理学部出身でも研究職じゃない人というのはたくさんいる。
将来の職業は、就職活動を通じて決める。これが普通の大学生の姿だ。
就活中の学生の話を聞いていると、ずいぶんしんどそうだ。
医学部はテストばかりで、大量の知識を頭に詰め込まないといけない大変さはある。でも、就職活動で自分を企業に売り込まないといけない、みたいな大変さはない。
何社も落ち続けてる学生が、こぼしている。
「就活してみて気付いたのは、意外に体育会系の運動部が優遇されていること。『営業は体力が資本だから、部活で体を鍛えたタフな学生が欲しい』と新卒採用の担当者が言っていた。
運動部は一般に上下関係が厳しいから、そういうなかで揉まれてきた学生のほうがコミュニケーション能力も高い、と思われているところもある。オタクっぽい文化系サークルに入っていても、採用担当者にはまったくアピールにならない。いまさらだけど、運動部に入っているべきだった」
こういう声を聞けば、文化系サークルに対する差別だなぁ、なんて以前は思っていたものだけど、今はそうは思わない。採用担当者が運動部出身の学生を優遇するのは、一理あると思っている。
これは確率の問題で、運動習慣のある人とない人で比較すれば、単純に、前者のほうが後者よりも優秀である可能性が高いんだ。
もっと言えば、前者のほうが後者よりも、活動的でポジティブなアイデアマンである可能性が高いし、風邪などの身体疾患の罹患率が低いし、うつ病含め精神疾患になりにくい(企業にとって社員がうつ病に罹患することは大きな損失)。
こういう統計があるから、企業としては少しでも有能な可能性の高い運動部出身者を採ろうとする。
企業はボランティア団体じゃなくて営利活動を目標とする集団だから、これは仕方ないと思う。
さらに言うと、運動する人は記憶力が高いというデータさえある。
これは、高校生の頃の同級生を思い出せば、みんな同意するんじゃないかな。
つまり、何も部活していない子のほうが勉強時間がある分、運動部の子よりも成績がいいかと思いきや、実際には運動部の子のほうがはるかに成績がいい、という例は、みんな見ているだろう。
https://core.ac.uk/download/pdf/85221708.pdf
『高齢ボランティアにおけるレジスタンス・トレーニングの健康および記憶力に対する効果』
目的:健常高齢者において、レジスタンス・トレーニングによる筋力、心理的幸福感、自己制御感、認識スピード、記憶力に対する短期的・長期的な効果を決定すること。
方法:46人の高齢者(平均73.2歳。女性18人、男性28人)をトレーニング群と対照群(各々23人ずつ)に無作為に振り分けた。トレーニング介入は8週にわたって行われたが、介入の1週間前に事前テストを、介入の1週間後に事後テストを行った。トレーニングは週に1回行い、10分間のウォームアップと、マシンを使った8種類のレジスタンス運動で構成されていた。
結果:トレーニング群において、最大筋力の有意な増加が見られた。このトレーニング効果は、自意識過剰の有意な減少と関連していた。これによって、心理的な幸福感が高まったものと考えられる。自己制御感については、有意な変化は見られなかった。
トレーニングの経過とともに、認識機能に対して適度な効果が見られた。認識のスピードについては変化しなかったが、トレーニング群では自由想起や認識力において、事前テストと事後テストの間で有意な変化があった。トレーニング群と対照群で事後テストを比較すると、認識力に軽度の効果があったが、自由想起については有意差はなかった。長期的な効果については、トレーニング群での筋力および記憶力(自由想起)が、1年後も有意に高かった。
結論:8週間のレジスタンス・トレーニング・プログラムによって、不安および自意識過剰が軽減し、筋力が向上した。
この研究がおもしろいのは、被験者が高齢者だということだ。
高齢者でさえ、筋トレによって脳の力が高まったんだよ。若い人が運動をして、プラスの効果が出ないはずがない。しかも、たった週1回だけで効果が出ている。
これはもう、今日からでも筋トレを始めるしかないでしょう!
2019.3.29
独身時代の福山雅治、あるインタビューで『結婚したい女の条件』を聞かれた。
それに対して、彼、どう答えたと思う?
「知らんよ。男前の考えてることなんてわからん」
ちょっとは予想してみなよ。
「うーん、やっぱり、美人?きれいな人が好きなんじゃない?自分と釣り合うだけのルックスを女性にも求める、みたいな」
遊びなら、ルックスだけでいいかもしれない。でも結婚となれば、外見は条件から外れるものだ。美しさなんて若いときだけの消耗品だから。
彼、見た目のことは何も言っていない。あえていくつかに絞るのなら、と前置きしながら、
・心身ともに健康であること
・感情の起伏が少ないこと
・料理が好きであること、この三つを挙げている。
「意外に普通だね」
そうかもしれない。しかし稀代のモテ男がたどり着いた究極の結論がこの三つなんだと思えば、なかなか深いものがあるじゃないか。
すごい美人だけど精神的に病んでる女とか、生理前に猛烈に不機嫌になる女とか、いろいろ見てきたはずで、そういう経験を踏まえての、心の健康とか感情の安定、なんだと思う。
料理が好きっていうのは、『あなたのために作ったの』みたいな妙に肩肘張った押しつけがましさではなくて、料理好きだから作ってるっていう、自然なスタンスで料理している人が好ましいということだ。
こういう自然体で料理に向き合える人は、結果的に料理上手でもあるだろう。
「確かに料理は重要だよね。毎日食べるものだから、料理が下手な嫁さんって他の面が満点でも、しんどいなぁ」
そう、食べ物は生きていく上での根本だ。俳優であれどんな職業の人であれ、毎日の食事をおろそかにして成功している人はいない。だから食事面できっちりバックアップしてくれる人は、伴侶として理想的だ。
「しかしまた、何の話?」
俺も伴侶の選択の際には、この『福山基準』を参考にしよう思って。
「まぁ、モテ男みたいなこと言うやんか!」
俺がモテるモテないの話じゃない。洗練された結論だから、俺みたいな素人にとっても参考になるところがあるはずだっていう、ただそれだけの話だよ。
「いや、君は最近調子に乗ってるところ、あると思う。
あのさ、誰も言ってくれないだろうから、俺が言ってあげよう。
君がモテてるんじゃないよ。モテてるのは君の医師免許だ。勘違いしちゃいけない」
勘違いするも何も、女が男の職業を見るのは当然だろう。素っ寒貧のニートに惚れる女がどこにいる。
「職業を見てあっちゃんに近付いてくるような女は、何とも認めがたいな。露骨だよ」
言ってることはわかる。わかるけど、そんなもんだろう。
逆に、伴侶の選択基準が愛情だけで、男の経済力を一切見ない女がいるとしたら、どれだけ幼いんだって思う。中学生の恋愛じゃないんだから。
医者の肩書きに釣られて寄ってきた?全然けっこうじゃないか。わかりやすくていい。むしろ、医者という仕事は今や俺のアイデンティティと不可分になっているから、そこを見ないで俺に近付いてきた女性に対しては、逆に警戒するところさえある。
「あっちゃん、朗報があるよ。
https://www.excite.co.jp/news/article/Ovo_1277168/
約8割の女性が「貧乏なイケメン」より「金持ちのハゲ」を結婚相手に選んだ。多くの女性にとって結婚相手選びで大切なのは、ルックスよりも経済力、とのことだ」
まだハゲてへんわい!しかし将来どうなるかは約束できないけど^^;
「しかし、女性を選ぶときに考えるのは、福山基準だけ?顔とかスタイルは見ないの?」
個人的な好みはさておき、男性が女性の容姿のどこを見ているのか、こんな研究がある。
『女性のウェスト・ヒップ比および胸のサイズに対する男性の選好の視線追跡研究』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19688590
要約
人間の身体的特徴と配偶者の選好の研究に際して、しばしば用いられるのは、参加者に写真の魅力度を格付けしてもらうアンケートである。女性のウェストとヒップの比率、胸のサイズ、顔の見た目はすべて、男性が女性の魅力を評価するときに関係していることがわかっている。
しかし、男性がそうした写真をどのようにしてきめ細かく評価するのか、詳しいことはほとんどわかっていない。
我々は『視線追跡法』を用いて、固視(visual fixation)の回数、視線の滞留時間、固視の変化(同じ女性の写真のウェスト・ヒップ比(0.7か0.9)と胸のサイズ(小、中、大)をコンピューター・モーフィングで連続的に変化させる)を測定した。また、男性はこれらの写真の魅力度を格付けした。
結果、最初の固視(毎回5秒のテストを行うが、その開始から200ミリ秒以内に起こる)には胸かウェストのいずれかが関与していることがわかった。これらの体の部位はいずれも、顔や下半身(恥部や脚部)よりも多くの固視を受けた。
男性はより高頻度に、かつ、より長時間、胸を見ていたが、これは写真のウェスト・ヒップ比と無関係だった。
しかし男性は、砂時計状の体型で、かつ、スリムなウェスト(ウェスト・ヒップ比が0.7)の写真を最も魅力的だと評価した。胸のサイズはこの評価に影響しなかった。
これらの結果は、男性が女性の写真の魅力度を判断している間に起こる目の動きに関する量的データを提供するものであり、男性は女性の砂時計型体型を非常にすばやく評価するということを示している。
男性も動物だからやっぱり生殖に適した体型が好みで、しかも理想的な体型を一瞬にして見抜く眼力が生得的に備わっているものらしいんだ。
しかし砂時計型体型(hourglass shape)って、すごい表現だ^^;
欧米の研究だからこそ出てくる表現で、こういうところにもお国柄が現れる。
2019.3.28
“SPARK the revolutionary new science of exercise and the brain” (John Ratey 著)の122ページに興味深い記述があったので、紹介しよう。
訳はけっこうテキトーです^^;
「運動することは、抗うつ剤が作用するのと同じ化学物質に作用しているということは、前々から知見としてはあったが、これをきっちり科学的に比較した人はいなかった。
そこで1999年、デューク大学の研究者が初めてこの研究を行った。これは記念碑的な大仕事で、愛称としてSMILE(Standard Medical Intervention and Long-term Exercise)と呼ばれている。
筆頭著者のジェームズ・ブルメンタールらは、運動群と抗うつ剤投与群(SSRIのセルトラリン。商品名はゾロフト)を設定した。156人の患者を無作為に3つの群(ゾロフト投与群、運動群、両者の組み合わせ群)に振り分けた。
運動群には、有酸素能力の70〜85%程度の負荷のウォーキング(あるいはジョギング)を週3回、各30分行うように指示した。ただしこの30分間に、10分のウォームアップ、5分のクールダウンは含まれていない。
結果はどうだったか?
3つの群すべてでうつ病スコアの有意な低下が見られた。また、各群でおよそ半数は寛解していた。その他の13%では十分な寛解は見られなかったが、症状がほぼ消失していた。
運動は投薬治療と同じ程度の効果がある、というのがブルメンタールの結論である。
「運動で脳の化学物質に変化が起こって、うつが良くなるなんて、信じられないな」という患者がいるものだから、私はこの研究論文のコピーを患者に見せるために置いている。信じられない気持ちもよくわかる。「運動でうつが軽快する」なんていう研究が正しいと認めたら、そもそも精神医学は必要なのかという話になってしまうわけだから。
この研究結果は、医学部で教わるべきだし、健康保険会社はこの事実を認識しておくべきだし、全国すべての病院の掲示板に貼り付けておくべきものだ。何と言っても、病院では5人に1人がうつ病にかかっているのだから。
「運動にはゾロフトと同じくらいの効果がある」この事実をみんなが知れば、うつ病患者は減少するはずだ。
しかし、運動がうつに対する医学的治療として、いまだに受け入れられてないのはなぜだろう。SMILE研究の行間を読めば、この難しい問題に突き当たるのである。
1997年にアンドレアス・ブルックスが運動群と抗不安薬(クロミプラミン)投与群の比較試験を行ったとき、両群の治療成績は同程度の改善であったものの、投薬群ではより速やかに効果を感じた。製薬会社は抗うつ薬が効き始めるには3週間ほどかかると添付文書に記載していることを考えると、ここには一見矛盾があるように思える。
しかし、こも3週間というのはあくまで統計であって、私は投薬で数日以内に改善する患者を無数に見ている。
逆に、一連の運動によって気分が改善するという研究はどうなのか。たとえば、2001年北アリゾナ大学の心理学科教授のシェリル・ハンセンは、健康な被験者ではたった10分運動するだけですぐに意欲や気分が改善することを証明した。しかし、仮にハンセン氏が運動から数時間後の気分を調査すれば、被験者らの気分はベースラインに戻っていることを見出すだろう。
なるほど、一連の運動によって気分が改善することを知っておくことは大切なことだが、1日1日の気分が安定的に改善するのにはもっと長くかかるのだということも知っておかねばならない。
ブルメンタールは運動前に週に1回気分を評価していたのだが、彼は一部の患者では運動後すぐに気分が軽快することに気付いた。しかしその軽快ぶりは、薬ほど劇的なものではなかった。
うつ病が治ったと本当の意味で言うためには、運動から5分後に好調であることはもちろん、5時間後にも、明日の朝にも安定していなくてはいけない。周期的な運動の効果をきちんと評価するには、もう少し長期の研究が必要だろう。
SMILE研究から6ヶ月後、ブルメンタールらは患者たちの予後について調査した。そして、長期間の研究では運動群が投薬群よりも好調であることを発見した。うつ状態に陥っている人は、運動群では約30%、投薬群では52%、両方行なっている群では55%だった。当初の研究で寛解した患者のうち、うつを再発したのは運動群で8%、投薬群では38%で、明らかな有意差があった。
4ヶ月にわたるSMILE研究の後、その後の治療をどうするかは被験者にゆだねられた。つまり、投薬群だった人が運動を始めることもあれば、運動群だった人が薬の服用を始めることもあったし、精神療法を始める人もいた。そのせいで変数が多くなり、結果の解釈が複雑になったのだが、ブルメンタールの研究チームは、気分改善に関する最も重要な予後予測因子は、運動量であることを発見した。
週に50分運動すると、うつ病の発症オッズが特異的に50%減少していたのだ。しかしブルメンタールは、運動によってうつ病が寛解するのだ、という結論は出さなかった。逆が真であるかもしれない。つまり、運動を継続した患者は、そもそもうつが軽度であったから寛解したのかもしれないからだ。
これは、卵が先か鶏が先か、という古典的な問題である。運動と気分の関係を調べる彼らも同じ問題に突き当たったのである。しかし、運動しているからうつがマシなのか、うつが軽度だから運動しているのか、これは本当に重要な問題だろうか。いずれにせよ、患者の調子はよいのだから。
しかし、運動と投薬を組み合わせた群で最も結果が思わしくなかったことは、どのように説明すればよいだろう。運動し、かつ、ゾロフトを飲んでいる群が最も良好な結果になるとブルメンタールは考えていたのである。しかし、彼らのうつ病の再発率は最も悪かった。
なぜだろうか。彼の推測はこうである。被験者らは治験に参加する契約を結ぶとき、『うつ病に対する運動の効果を見るための研究だ』という説明を受けていた。だから被験者の中には、抗うつ薬も併せて飲むと知って『話が違う』と感じた者もいた。治験中に、『薬のせいで運動の効果が落ちてしまう』とこぼす者もあった。生理学的な観点からは考えにくいことだが、心理的な面からは、薬を飲むということ自体が、運動がもたらす自己コントロール感を損なってしまったということは十分あり得ることである」
オーソモレキュラー療法が「慢性疾患は適切な栄養の不足から生じる」と考えるのと同じ感じで、上記の本の著者は、「不安障害、ADHD、ホルモン異常、老化、アルツハイマー病など、多くの慢性疾患は運動によって改善可能である」と唱えている。
上記引用部分では、うつ病に対して「運動は薬よりも有効」だということがデータの裏付けとともに述べられているわけだけど、他の疾患に対しても同様の主張が展開されている。
栄養と運動、共通するメリットは、ミトコンドリアの機能を適切化することではないだろうか。
仮に病気に他の原因(たとえば農薬や添加物、重金属の蓄積)があったとしても、ミトコンドリアの賦活化によってデトックス機能が強化され、結果、体調不良が改善してしまった、というのはありそうな話である。
『健康』という目的地に到達するための方法が一つではない、というのが、僕には興味深く感じられる。
2019.3.27
「医者が癌になったとき、99%の医者は抗癌剤を使わない」という。
https://www.buzzfeed.com/jp/seiichirokuchiki/kenkobon-01
本当か?
ソースが気になるところだ。
非常にセンシティブなテーマだが、一体誰がどうやって、こんな統計をとったのだろう。
仮にそう思っている医者がいるとしても、よほど親しい人に対してでないと、こんな深い本音は出さないと思うんだけど。
ただ、99%というのは言い過ぎだとしても、自分が癌になったときに抗癌剤を使わない医者は、一般の人が思う以上に多い、というのは確かだと思う。
そりゃ、現場でたくさん見てるもんな。「この人、明らかに抗癌剤のせいで死期を早めたな」っていう症例を。
医者もバカじゃないから、さすがに現代医療の矛盾に気付いてるって。
抗癌剤はじめ、製薬会社の薬にまったく何の疑いを持ってない医者もいるにはいるだろうけど、むしろ少数派じゃないかな。
そう、医者が病気になったとき、本音が出る。
普段患者に提供している治療法と、自分が病気になったときに選ぶ治療法。
当然同じだろうと思われるかもしれないが、一致しないことは案外多いに違いない。
患者には平然と出す薬でも、自分が飲むかどうかとなったら絶対飲まない、なんて薬は、山ほどあるだろう。
「そんなダブルスタンダードが許されていいのか」と咎めることはできない。
愛社精神のあるサラリーマンだって、常に自社製品ばかり使っているわけではなく、競合他社の製品を使うことだってあるだろう。
「正直、こんな商品、俺なら買わないな」と思いながらも営業しないといけないのが、勤め人のつらさだろう。
医療だって同じことだ。
ビジネスなんだから、医者だけが経済的利益を度外視して、聖人君子であることを求められてはたまらない。
医者も経済活動に従事する一人の人間なんだから、医者の良識に期待なんてしちゃいけない。
医者がコモンな疾患、たとえば腰痛になったとして、すなおに病院を受診するだろうか。
整形外科を受診すればどういう診察の流れになるか、行く前からわかっている。
レントゲンなりMRIなりを撮って、「特に問題ありませんね」で、痛み止めを処方される。
単なる対症療法。根本的な原因にアプローチしてないのだから、こんな薬を飲み続けても一生治らない。
こんな「治療法」とも呼べない治療法しかないのが、西洋医学なんだ。
同業者だから、気持ちはよくわかる。別に商売の邪魔をするつもりはない。
しかし、自分が患者として、こんなバカバカしい『ごっこ』に付き合うのは、ごめんこうむりたい。
医者はこう考える。「いわゆる代替療法のほうが、まだしも希望が持てる」と。
たとえば整体。
ただのマッサージ、とバカにしてはいけない。
きちんとした治療哲学を持った整体サロンのほうが、痛み止めを処方するしか能がない病院よりも、はるかに根本的な改善策を提供してくれるものだ。
ミオンパシーという治療手技がある。https://www.uroom.jp/
腰をギューギュー押してもらうだけのマッサージだと思って施術を受ければ、ずいぶん意外な感じがするはずだ。
加圧と弛緩を繰り返す、いわゆるマッサージではなくて、一定の姿勢を把持することで組織への血流を回復させることを主眼に置いている。
腰痛の背景には、血流低下(およびそれに起因する組織の酸素不足・栄養不足)がある、というのが基本的な考えだから、偏った食生活やストレス過多の生活習慣の改善をも含めて、指導する。
すばらしい。
本来、この指導をするのは一般の医療であるべきだ。
しかし情けないことに、整形外科での治療は、痛み止めの処方に終始している。ロキソニンやリリカによって真の救いが得られるかどうか、考えればわかることだろう。
医療機関ではなくて整体サロンなので、一般の医療保険を使うことはできないが、やっていることは一般医療よりももっと医療らしい。
そう、医者が病気になったときこっそりお世話になるのは、こういう治療院だ。
もちろん、栄養療法に頼るのもいい。
栄養療法の魅力は、何と言っても、副作用の少なさだ。
単なるビタミンで治ればもうけもの。まず、一番最初に試すべき代替療法だろう。
腰痛に対しては、ビタミンDを補いたい。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC558660/
『ビタミンD欠乏が慢性腰痛に関与している可能性』
慢性腰痛をどう抑えていくかというのは医療従事者にとって難しい課題であり続けているが、ビタミンDの重要性をきちんと認識している人は少ない。
ビタミンD欠乏が多くの人に見られることは、多くの研究の示しているところである。
たとえば、ミネアポリスのクリニックに慢性の筋骨格系の疼痛で通院している150人の患者のうち、93%にビタミンD欠乏が見られた。
腰痛(6カ月以上特に誘因のない腰痛)のために6年以上神経内科に通っている患者のほとんど(83%)に、血中ビタミンDの異常低値が見られた。
ビタミンDのサプリを飲ませると、当初ビタミンDの濃度が低かった人の全員で、臨床症状の改善が見られた。
著者らは、腰痛患者では受診時の血中ビタミンDによるスクリーニングを義務化すべきだと結論付けている。
オーストラリアの医学雑誌に寄せられた報告によると、慢性腰痛で脊椎固定術を受けたものの手術が失敗した2例の患者において、重度のビタミンD欠乏があったという。
いずれの患者も、ビタミンDサプリの投与によって症状の好転が見られた。
「腰痛を診る外科医や内科医は、潜在的なビタミンD欠乏がある可能性に注意すべきである。なぜなら、ビタミンDを補うだけで症状が軽快する可能性のある患者が、治療による合併症(脊椎固定術の失敗、再手術や入院期間延長による費用の増加など)を避けることができる可能性があるからである」と著者らは強調している。
ガンコな筋骨格系の痛みを伴う患者はすべて、ビタミンD欠乏に気付かないまま放置している可能性が高い。
慢性腰痛を診る現行の臨床ガイドラインでは、ビタミンD(25ヒドロキシビタミンD濃度の測定による)の評価が含まれていないが、これを調べ、欠乏が見られた際にはビタミンDのサプリを補うよう助言すべきである。
この論文は、「長年悩んだ腰痛がビタミンDのサプリを飲むだけで、あっさり完治してしまう可能性がある」、と言っているわけだ。
腰痛があまりにもひどくて、手術さえする人がいる。こんな悲劇は、あってはいけない。
重度の腰痛の背景にはビタミンD欠乏があるということは、整形外科医なら当然知っているべきなんだけど、残念ながら一般の医者はこんなこと、まず知らない。
だから、一般の無知な整形外科に通ったところで、時間と労力のムダということだ。
自分でさっさと知識を仕入れて、ビタミンDを飲んで、自分で治しちゃうのが一番手っ取り早いよね。