2019.6.9
人間はいろいろな死に方をする。
最近の統計によると、死因の上位10位は、癌、心疾患、肺炎、脳血管疾患、老衰、事故、自殺、腎不全、慢性閉塞性肺疾患、肝疾患と続いている。
原因がなんであれ、肉体(および精神)の機能停止という結果は同じで、ただ、そこに至る過程が違うということだ。
山に登るとき、登頂ルートは複数ありえる。しかし山頂に近付くにつれ、山道は次第に合流していくだろう。
同様に、死に至る道順は、最初はけっこう多様性があるが、症状が深刻化するにつれどの患者も徐々に似通ってくる。結局のところ、心肺機能が停止することを死と呼ぶのだから、どんな経過をたどるのであれ、死に際しては循環と呼吸の低下が必ず伴う。
だから死亡診断書には「死因の欄に心不全とか呼吸不全と書くのはやめてくれ」とわざわざ断りが入っている。全員が経る通過点としての症状を死因とされては、死亡統計をとることができないからだ。
同様に、ある病気を発症するにしても、その発症機転が一つとは限らない。
たとえばうつ病の原因は複数あるが、以下のようにまとめられるという。

画像はhttps://www.cocoro-h.jp/untreated/overview/etiology.htmlからお借りした。
さすが、製薬会社のホームページだけあって、栄養のことにひとことも言及がない^^;
しかし身体的要因の欄に「・降圧薬、経口避妊薬などの服用」とあって、製薬会社さえ薬剤性のうつがあることを認めているのはおもしろい。ちゃんとわかってるんやね。
この画像が言っているのは、「うつ病は、遺伝的要因を背景として、環境的、身体的ストレスが蓄積したとき、発症に至る」、ということだ。
比較的まともな食事をしている人でも、ブラック企業に勤務していて、むちゃくちゃな労働形態や対人関係のストレスでメンタルをやられてしまう、ということはあり得るだろうし、仕事は悠々自適の自営業だが、食生活の乱れから来る身体的ストレスがきっかけで、抑うつ状態になることもあり得るだろう。
ただ、どういう経過であれ、うつ病を発症した人に共通しているのは、体内(特に脳、腸)で慢性的な炎症があるということである。
『うつと炎症~複雑かつ多面的な関連性を解きほぐす』
http://www.jneuropsychiatry.org/peer-review/depression-and-inflammation-disentangling-a-clear-yet-complex-and-multifaceted-link.html
要約
うつ病は主要な『炎症性』疾患である、などというとデタラメに聞こえるかもしれないが、うつ病と炎症が密接な関係にあることを示すエビデンスがどんどん出てきている。
具体的には、(1)炎症性疾患の患者はうつ病の罹患率が高い、(2)多くの(約三分の一の)うつ病患者では、特に何の病気にかかっていなくても、末梢の炎症マーカーが高い、(3)サイトカインで治療を受けた患者(たとえば慢性肝炎など)ではうつ病を発症するリスクが高まる、といったことが挙げられる。
実際、炎症性メディエイターによって、グルタミン酸やモノアミンの神経伝達や、糖質コルチコイド受容体の抵抗性、海馬の神経新生に変化が見られることが確認されている。
また、炎症は脳におけるシグナル伝達のパターンを変え、認知に影響し、うつ病特有の病態像を作り出す原因になっている。さらに、炎症によって症状が複雑化しかつ重症になるなることが、ますます明らかになっている。
発症の仕方にいろいろあるように、治り方(治し方)もいろいろある。ただ、 共通しているのは、うつ病患者は皆、体内の炎症が沈静化して快方に向かう。その際、炎症の抑え方は一つではない、ということだ。
個人的には、最近うつ病に対するアプローチを少し変えている。
食事の改善を指導するのは昔も今も同じだけど、以前は水溶性ビタミン(B群、Cなど)、ミネラルをメインに使っていたところ、脂溶性ビタミンを主体に、ときどき必要に応じて有機ゲルマニウムを使う、というスタイルに移りつつある。
ナイアシンやCもちろん有効だ。特にアルコール依存症が背景にある抑うつ症状には、今でもこれらをメインに使う。でも一般的なうつ症状に対する脂溶性ビタミンの有効性は、もっと注目されてもいい。
『ビタミンKの抗炎症作用』
https://www.intechopen.com/books/vitamin-k2-vital-for-health-and-wellbeing/anti-inflammatory-actions-of-vitamin-k
「ビタミンKの抗炎症作用は、NFκβの細胞シグナルを抑制することによるものだ」という話。
症例(詳細は変えてある)
40代男性
職場のストレスを主訴に来院。「もう限界。会社に行きたくない」という。確かに、非常に憔悴した様子。どんなふうにきついですか、と聞くが、返事はいまいち要領を得ない。それって会社なら普通じゃないの?みたいな印象を受ける。食生活について聞くと、朝は食べない(食べる時間がないし、食欲もない)、昼は菓子パンとコーラ、夜はスーパーの惣菜が多いが、最近は食欲がなくて食べないことも多い。
ああ、なるほど、そこか、と当たりがついた。低栄養状態(および糖質摂取過剰)による抑うつ状態。会社のストレスの有無にかかわらず、そんな食事を続けて体調を崩さないほうが不思議だ。
さて、治療はどうしたものか。
一番やってはいけないのは、一般的な抗うつ薬の投与だ。単なる栄養失調だったはずが、薬によって本物のうつ病になるだろう。
食事の改善さえすればすぐにでも治るだろうが、そもそも食欲がない。詳しく聞いてみると、腹部やみぞおちのあたりに張った感じがあって、口の中が苦いという。漢方がハマりそうな印象を持ったので、小柴胡湯を勧めた。サプリは、AとD3の合剤、MK4の2種類を勧めた。
「飲めと言われれば何でも飲みますが、本当にそんなので治るんですかね。治るイメージが持てないんですけど。会社に行くのは絶対無理です」
2ヶ月の休養を指示する診断書を渡した。
1週間後に再び来院したとき、全く別人になっていた。笑顔があふれて、仕草のひとつひとつに活気があった。「先生、日焼けしすぎ」と僕をいじる余裕さえあった。本来こういう饒舌な人なんだな。
「言われたように、食事の改善をして出された薬を飲んで、おかげさまで回復しました。今日来たのは、2ヶ月の休養ってことでしたけど、あれ、長すぎます。仕事しないほうが逆にストレスなんで、もうすっかり回復した旨の診断書お願いできますか」
ナイアシンやビタミンCを全く使わずにこれだけ回復したのは、僕にとっても初めての症例だった。「漢方が効いたんだよ」って突っ込まれそうだけど^^;
脂溶性ビタミンによって水溶性ビタミンやミネラルの利用効率が高まることがわかっている。一般に、生化学のカスケードのより上流を抑える方が根本的だから、サプリを補うなら脂溶性ビタミンのほうが治療の本質に近いかもしれない。
2019.6.7
ビタミンKの働きを生理学的に見た場合、その作用はひとつだけ。
ビタミンK依存性タンパクをカルボキシル化すること、これだけだ。
カルボキシル化されるタンパクにはいろいろあって、それに応じて様々な作用があるが、ビタミンKの摂取量が十分かどうかを調べるには、そうしたビタミンK依存性タンパクの活性化の具合を調べてやればいい。
実験的に、人にビタミンKが不足した食事を与え続けると、カルボキシル化されていないオステオカルシンが増える。さらに数週間後には、カルボキシル化されていない凝固因子が増える。
ビタミンKは骨の健康(K2)だけでなく、血液の凝固(K1)にも関わっているが、この実験からわかることは、体は、骨の健康よりもまず先に、凝固系の健康を優先するということだ。
なけなしのビタミンKを凝固能の維持にまわし、骨の健康は次第に蝕まれていくわけで、これはトリアージ理論の例証になっている。
凝固系に異常が現れるようになれば、ビタミンK不足が猛烈に進行しているということだ。一方、軽いビタミンK不足が慢性的に続くなら、凝固系は維持されるものの、骨粗鬆症や動脈硬化が着々と進行することになる。
「長期間のビタミンK2欠乏は、加齢による変性疾患(骨粗鬆症、動脈硬化、結石、癌を含む)の独立したリスク因子である」というのが、現在の学者の結論だ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21427421
「独立したリスク因子って何だ?独り立ちせずに親元で暮らしているリスク因子ってのもあるのか」とか思いますか^^;
ある病気のリスク因子には、年齢、性別、タバコ、酒、遺伝などいろいろあるんだけど、リスク因子の相関が結果に影響している可能性がある。「ある要因が単独で、結果にモロに影響している」と言えるとき、それを、独立したリスク因子という。
たとえば、「BMI25以上であることは癌の独立したリスク因子である」とか「睡眠障害は糖尿病の独立したリスク因子である」みたいに言います。
裏を返せば、やせれば癌リスクが低下するし、ちゃんと眠れると糖尿病のリスクが低下するということだ。
「ビタミンK2欠乏は慢性疾患の独立したリスク因子である」なんて聞くと、一瞬恐ろしい感じがするけど、要するに、K2をきちんと補えば慢性疾患のリスクが低下しますよ、と前向きに解釈することもできる。
老化のトリアージ理論は、別名、栄養必要量のトリアージ理論、ともいう。この考え方に照らせば、国の決めた栄養の1日推奨量(RDI)はいかにもデタラメだとわかる。RDIは、急性(短期間の)欠乏症を防ぐのに必要な最低限の量に基づいて設定されている。
トリアージ理論によれば、どんな栄養素であれ摂取量が最適量に満たない場合、長期的には代償を支払うことになる。ビタミンK2が不足していても一見健康そうな人はいるが、支払いを後回しにしているだけのこと。そういう人のところにも、いつか必ずツケの回収屋が来るはずだ。
具体的に、ビタミンK2をどれくらい摂取すればいいのか。
K2の有効性を確認する臨床治験では、骨粗鬆症の場合は180μg、動脈硬化の場合は360μgで行われることが多いから、このあたりを目安にすればいいだろう。
食品からではなく、サプリで摂るのなら、できればビタミンD3とAも併せて摂りたい。なぜか。
D3とAは、オステオカルシンやMGP(基質glaタンパク)の産生を促進する。それらのタンパクを活性化させるのがK2の仕事だ。K2抜きで、D3(あるいはA)だけを摂っても、タンパクの作りっぱなしで、肝心の活性化が行われない。非カルボキシル化オステオカルシンなどの非活性型タンパクは、骨に行かず、血管内壁や皮膚などの軟組織に沈着して、むしろ体の老化を促進する要因になる。
だからこそ、この3つをセットで摂るのが理想的なんだ。

ビタミンK2とD3とA、これらが三位一体であることを説明するために、Kate Bleue氏はこの写真を示す。
左端にいるこっち目線の男は、ビタミンD3。力が一番求められそうなポジションで、いかにもカナメって感じがする。近年D3の重要性はあちこちで言われているから、まさにこのイメージだろう。
左の男の股間に顔を埋めている格好の男がビタミンA。手を支えられて水平状に浮かんで、何をしているのかよくわからない^^;実際のビタミンAのイメージもそんな感じで、最近はひどく誤解され有害性が強調されている。しかし、この三者のピラミッドで、Aがなかったらどうなるか。たちまちのうちに崩れてしまうだろう。
D3のサプリを服用する人は増えている。しかしAを補う人は少ない。これではピラミッドが成り立たない。
トップで逆立ちしているのがビタミンK2だ。D3とAなしではK2は転落してしまう。
逆に、K2が華々しい仕事ができるのも、D3とAがあってこそだ。
もう少し、D3やAの作用機序にまで踏み込んで話をしよう。これらのビタミンの効き方は、B群やCなどの水溶性ビタミンやミネラルの効き方とは相当異質だ。
水溶性ビタミンやミネラルが、体内のタンパク質(たいていの場合酵素)の補因子として働くのに対して、D3やAは、いわば、もっと「根っこ」のところ、細胞の核内にある受容体に直接作用する。具体的には、DNA情報がmRNAに転写され、tRNAが固有のアミノ酸を運んできて、タンパク質が産生される、というセントラルドグマに則って作用を発現する。これがD3やAの効き方だ。
こうして産生されたタンパク質に対して、補助因子として働くのが水溶性ビタミンやミネラルであり、活性化するのがK2の役割だ。
「脂溶性ビタミンがない状態では、水溶性ビタミンやミネラルの効果が半減する」とプライス博士は1930年代に指摘していた。D3やAが核内受容体を介して作用発現することなど、当時は知られていなかったわけだから、時代がようやくプライスに追いついた格好だ。
参考
“Vitamin K2 and the Calcium Paradox”(Kate Bleue著)
2019.6.6
なぜ、僕らは老化するのだろう。
なぜ高齢になるにつれシワが増え、骨粗鬆症、心疾患、アルツハイマー病、静脈瘤などの慢性疾患にかかりやすくなるのか。
老化には多くの要因がからんでいるが、最終的には、遺伝子(DNA)にダメージが蓄積し、ミトコンドリア(細胞のエネルギー産生の中心)の機能が低下するという、この2点に帰着する。この結果、細胞死が起こり、体が老け込んでいく。これが老化の本態だ。
実はDNAに傷がつくこと自体は、若いときから一貫して起こっている。しかし、通常はその傷を修復するメカニズムが備わっていて、細胞機能に異常が生じることはない。修復がきちんと行われ、細胞機能が適切に維持されていれば、身体機能の低下や老化を抑えることができるはずだ。従って問題は、なぜDNAの修復が行われなくなるのか、ということだ。
これを説明するために提唱された説として、「老化のトリアージ理論」がある。
まず、トリアージという言葉を知っていますか。
野戦病院を思い浮かべてください。次々に傷ついた兵士が運び込まれてくる。しかし、資源(人的資源、医療資源、時間など)には限りがあって、すべての兵士に完全なケアをほどこすことはできない。こういう状況では、順位付けが必要だ。どの患者を優先して治療すべきかを判断しないといけない。
すでに呼吸停止している患者に注力しても仕方ないし、ちょっとしたかすり傷程度の患者の処置も後でいい。この病院に「最近何となく腰が痛くてねぇ」と茶飲み話感覚でおばあさんが来院したら、医者から「後にしてくれ!」って怒鳴られても文句は言えない^^;死ぬか生きるかの境目にいる患者を、いかに救えるか。それが野戦病院の存在意義だ。
そういう救急の現場で、患者の重症度に応じて治療の優先度を決めることを、トリアージという。
救急隊員や救急で勤務する歴戦のナースは皆、必ずトリアージをしている。救急現場は、患者の運ばれて来た順番に見るんじゃない。一刻一秒を争う患者か、待てる患者か。トリアージは非常に重要な判断だ。
救急現場でナースがトリアージをするように、体もトリアージをしているのではないか、というのが「老化のトリアージ理論」だ。
摂取できる栄養量には限りがある。特に、栄養的に貧相な現代食(精製した穀物、砂糖、加工食品)を常食していれば、なおさらだ。
しかし体は、その乏しい栄養量で何とかやりくりしていかないといけない。
「利用できる微量栄養素が不十分なときには、その微量栄養素は喫緊の生存に必要な機能に優先して利用される。それが長期的に欠乏するとある種の機能が損なわれ、たとえば老化に関連する疾患にかかりやすくなるとしても、まず体は短期的生存に必要な分を確保しようとする」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19692494
要するに、ビタミンやミネラルの供給が十分ではないときには、これらの栄養素は、優先度の高いところに配分されるということだ。
具体的には、恒常性の維持(まず生きる)と生殖(次世代も残しときたい)が優先されて、DNA修復機能とか長生きとか美容とかは後回しということだ。
DNA修復機能がダメになったからといって、人間はすぐに死ぬわけではない。ダメになれば、長期的には老化が促進され慢性疾患にかかりやすくなり早死にする可能性が高くなるが、生きるか死ぬかの状況で優先するべき機能じゃない。
この理論を唱えたのはブルース・エイムス博士だ。博士は、様々なビタミンやミネラルの欠乏によって、短期的には別段悪影響がないのに長期的にはDNAの損傷が起こることを観察した。
栄養素がギリギリ最低限しかない状況では、長生きしなくてもいいし年をとってからシミとかシワができてもいいから、短期的生存と生殖に優先してまわす。これは生物種として生存確率を上げるために戦略で、理にかなっている。
エイムス博士は、ビタミンKがこのトリアージ理論を見事に満たすことを動物実験で証明した。
博士がビタミンKに注目したのは、ビタミンKの作用がただ一つ、ビタミンK依存性タンパク(オステオカルシン、基質glaタンパク)をカルボキシル化することだけで、研究しやすいと考えたからだ。
続く(かも)
参考
“Vitamin K2 and the Calcium Paradox” (Kate Bleue著)
2019.6.5
中学だか高校だったか、国語の教科書に外山滋比古の『幻滅の錯覚』という文章があって、最近ふと、無性にそれをもう一度読みたくなった。
教科書に載ってるぐらいの文章だから、多分有名な作品だろうから、検索したら出てくると思ったけど、著作権の関係からか、原文をあげたサイトは見当たらない。
見当たらないが、検索して分かったことは、『幻滅の錯覚』は、外山氏の『修辞的残像』という本のなかの一小節だということ。
だからこの文章を読むには、『修辞的残像』という本を探す必要がある。
わざわざアマゾンで買ったり、図書館に探しに行くのもちょっとな、という感じになって、再読の思いはあきらめた。
どういう内容の文章か。
一言でいうと、「思い出は常に美しい」ということ。
ある絵を見て、深く感動した男がいる。その絵は男の脳裏に、一生消えないほどの強烈な印象を残した。
「あの絵はすばらしかった。叶うならば、もう一度あの絵が見てみたい」
その思いを心の底に常に抱えて、男はその後の人生を生きることになった。長い年月が流れた。
あるとき、思いがけず、男はその絵を再び見る機会を得た。
感動の再会、のはずだった。しかしどうしたことだろう。何だかぱっとしない。
「俺があんなに感動した絵は、果たしてこんなだっただろうか」
男は言いようのない幻滅を感じた。
こういうあらすじの芥川(だったかな?)の小品を例としてひいて、著者の外山氏は、人間のなかにある、思い出補正(および美化)機能を指摘する。
だいたいそういう内容だったと思うんだけど、細部は当然忘れてるから、もう一回読みたいんだよなぁ。
この文章は学校の授業で読んだから、僕はそのとき十代だった。
今、それから二十年が経って、絵に失望した男の気持ちが、十代のときよりもっとわかる気がするんだな。
十代二十代で、いろいろな小説や音楽、映画なんかの芸術に触れた。ふとした機会に、そうした作品に再会することがある。
「うん、やっぱりすばらしい」とまた感動できることもあれば、「あれ?こんなにつまらなかったっけ」となることも案外多い。
人生は、幻滅の連続なんだということ。年をとってみて初めてわかる人生の味というのがあるね。
初恋の人には絶対会っちゃダメだな^^;
数年前に東京で医者をしている友人のところに遊びに行った。
久しぶりの再会だったから、彼、気を遣って、ちょっとお高い料亭に連れて行ってくれた。
昔の話、今の話を織り交ぜた雑談をしながら、酒を飲んでいた。
酒の種類が豊富で、どれもおいしそうに見えるから、メニューの端から順番に注文するような飲み方をしていた。
ある酒が来て、それを口に含んだ。とりとめのない雑談を、いったんさえぎって、
「あのさ、この酒、おいしくない?」
「俺も思った。おいしいな」
「いや、ちょっとおいしいな、どころじゃないよね。めちゃくちゃおいしくない?」
「うん、わかる。めちゃくちゃうまいと思う」
そう、僕らはこの焼酎にはまった。その後は他の酒を注文するのはやめて、この焼酎だけを飲んだ。何度口をつけても、確かにおいしかった。こんなにうまい焼酎があるのかと思った。
魔王や森伊蔵のような有名どころではなく、宮崎の焼酎だった。
僕は酒に詳しいほうではないけど、そんなに一般的な知名度はないと思う。少なくとも、僕はこのとき飲むまで知らなかった。
かといって、こういう東京の料亭に置いてあるくらいだから、すごくマイナーというわけでもない。
この焼酎の味は、僕のなかに強い印象を残した。
「あの澄んだ、透明な味。涼しい甘さ、とでもいうべき味は、他のどの酒にも似ていない。すばらしい酒だった」
あの酒は、なぜあんなにおいしかったのだろう。
酒のおいしさを構成する要素って、いろいろあると思う。
誰とどういう状況で飲むか、そのときの自分の体調はどうか、一杯目か何杯目か、つまみに何を食べるか、とか。
酒の味は、酒の味だけじゃない。味を決める変数は無数にあるんだな。
苫米地英人がこんな意味のことを言ってた。
「仕事で海外に行くことも多いが、どこのホテルに泊まるのであれ、バーで飲む酒はラフロイグと決めている。
どこの国であれ高級なバーなら、まず間違いなく置いてるし、その味をどう感じるかで、自分の体調のよしあしがつかめるから」
なるほど、これはちょっとした男のおしゃれだな。
ネットで簡単にものが買える時代である。
しようと思えば、あの焼酎を買うこともできるだろう。それも今すぐ、ワンタッチで。
しかし、買っていない。
なぜか。
僕は一人では酒を飲まない。誰かと一緒にいるときだけ、外に飲みに行ったときだけ、飲むことにしている。
だから、ネットで酒を買うというのは、自分のスタイルに反している。
というのが、自分のなかでの一応の理由なんだけど、本当のところは、「幻滅の錯覚」が怖いんだと思う^^;
やっぱ、幻滅って、決して気持ちのいいものじゃないからね。
2019.6.4
動物園で飼育されているネコ科動物(ライオン、トラ、ヒョウなど)は、つがいで飼っても繁殖しない。
なぜだろう。野生では普通に繁殖するのに、飼育下ではなぜ繁殖しないのだろう。
欧米の動物園関係者の誰しもがこの問題に悩んでいた。
ライオンは百獣の王、動物園の花形だ。病気や高齢で亡くなったり、動物園を新規開業するとなれば、次のライオンを補充しないといけない。
そうなれば、繁殖できないのだから、野生からわざわざ仕入れてこないといけない。
しかし野生のライオンをアフリカで生け捕りにし、ヨーロッパやアメリカまで運ぶのは、相当な手間と費用がかかる。
ネコ科動物をなんとか自前で繁殖できないものか。これは動物園関係者の長年の悲願だった。
ロンドン動物園に勤務するある動物研究者が、この問題に本気で取り組んだ。
なぜ飼育下では繁殖しないのか。狭いケージに閉じ込められ、思うように運動できないストレス、無数の人間の目にさらされるストレスなど、ストレスによる要因は大きいだろう。
しかしそれ以上に、給餌に問題があるのではないか、というのがこの研究者の直感だった。
そこでアフリカに向かい、野生のライオンの狩りの様子を詳細に調べた。
かみ殺されて横たわったシマウマに対して、ライオンはまず、腹部をかっさばく。そして最初に口にするのは、右側腹部の臓器、つまり肝臓である。
それからしばらく好みの臓器を選り分けつつ食べた後は、もう残りはいらない。食べ残しに砂をかけ、現場を去る。
この食べ残しは、ジャッカルやハイエナにとってのごちそうになる。
ライオンが現場を立ち去った後、研究者はジャッカルを追い払いつつ、すばやくシマウマの死体に駆け寄った。ライオンがどの臓器を好んで食べたかを調べるためである。
この研究こそが、世界中の動物園の歴史を変えた。つまり、ネコ科動物の繁殖に何が必要であるかを、解き明かすことになった。
動物園で飼育されているネコ科動物に、従来のように四肢の肉だけではなく、モツ(臓物)も与えるようにしたところ、見事、繁殖させることに成功した。
動物園で生まれた仔も、モツを与えることで適切に成長し、繁殖することがわかった。
この研究者のおかげで、ライオンの価格は大幅に低下し、動物園にライオンを提供することが比較的容易になった。
プライス博士はこの研究者から直接話を聞きながら、思った。
「なるほど、興味深い研究だ。しかし、我々に身近なネコを見ていても、同じことは観察されるようだ。
ネコが小鳥やネズミを殺す様子を観察するといい。ネコがまず食べるのは小動物のはらわたで、手足の筋肉を進んで食べることはないだろう。
彼らは本能で、何を食べるべきかを知っている」
研究者の話に触発されて、プライスはこんな実験をした。
身動きできぬよう固定したウサギのいるケージに、数匹のラットを入れる。ラットに餌は与えない。一晩たてばどうなるか。
哀れ、ウサギはラットにかじられることになる。プライスが注目したのは、ラットが特にウサギのどの部分を好んで食べたかである。
ラットは特に、ウサギの目と脳を食べ、血液を吸っていた。
この結果は、ラットがこれらの組織によって供給される栄養素を選り好んで食べていることを示していた。
動物は本能の声を聞くことができる。
しかし言葉を獲得した人間は、その知恵や理性が邪魔をして、もはや本能の声を聞くことができない。
でも赤ちゃんは別のようだ。かつて、こんな実験が行われた。
1920年代、ある小児科医が経営する孤児院で行われた実験。
対象は、離乳直後で、それまで食事をしたことのない赤ちゃん15人である。
子供は施設内で適切に育てられていたが、唯一風変わりなのが食事である。
食事の時間になると、子供たちには34品目の食事が供された。それぞれの食品は皿に盛りつけられており、いくつかのスプーンも用意された。
子供たちは幼すぎて何もわかっておらず、どれが食べ物かを理解する前であったため、皿やスプーンをかじる者さえあった。
飲み物は、水、牛乳、酸乳、オレンジジュース。野菜はビート、えんどう豆、人参、ほうれん草など。炭水化物は大麦、コーンミール、ライ麦パン。
たんぱく源として、内臓肉、鶏肉、牛肉、骨髄、脳、魚などが与えられた。
子供たちは、食べたいものを好きに選んで食べることができる。子供の食事の様子(食べたもの、残したもの)を保育士が詳細に記録した。
さて、子供に一番人気の食材は何か?
それは骨髄だった。脳もかなりの人気だった。
逆に不人気だったのは、野菜や果物である。
好き嫌いのままに食べさせては、栄養が偏ってしまうと思われるが、子供たちは健康に成長した。
この小児科医の研究により、本能的に求める食材さえあれば、子供はそれぞれの好みに従っていても、きちんと成長することが証明された形となった。
ただ、この研究は非常に強い反発を招いた。
人が栄養源として本能的に求めるものが、動物の骨髄や脳であるということは、人間の感情として受け入れ難いものがあったためだ。
この実験は1920年代に行われたもので、現在では人権の問題もあって、同様の実験を行うことはもはやできない。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1626509/
子供が野菜を嫌うのは、至極生理にかなったことなのだろう。
無理に食べさせるのはよくないのかもしれない。
出生前および出生後の成長プロセスでビタミンAが重要な役割を果たしていることを示すデータは無数にある。
体の形成期にビタミンAが欠乏すると損傷を受ける組織の一つは、目である。
このため、ビタミンB1が脚気ビタミン、ビタミンCが壊血病ビタミンと呼ばれるのと同様に、ビタミンAは眼球乾燥症ビタミン、と呼ばれていたほどである。
このビタミンは特に目に貯蔵され、眼組織のビタミンA濃度は哺乳類でおおよそ一定である。
眼組織(網膜、色素上皮、脈絡膜)の抽出物をビタミンA欠乏ラットに投与すると、著明な治療効果を発揮する。
ビタミンAは生殖にも重要だ。
これは男女ともに言えることで、男性ではレチノールは精子の産生に不可欠で、女性ではビタミンAがエストロゲン、プロゲステロンなどの生殖に直接的にかかわるホルモンの産生にかかわっている。
ビタミンAが重度に欠乏している女性ではそもそも妊娠しないが、軽度に欠乏している女性では、胎盤剥離や産後の乳汁分泌量低下のリスクが高いことがわかっている。
不妊に悩むカップルは、食生活を見直してみませんか。
かつて動物園で飼われ繁殖しなかったライオンと同じ食生活になっているとすれば、いつまでも子供に恵まれないだろう。
参考
“Nutrition and Physical Degeneration”(Weston Price著)