ナカムラクリニック

阪神・JR元町駅から徒歩5分の内科クリニックです

2019年

ヤマブシタケ

2019.11.14

フェニルアラニン→チロシン→ドーパ→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン
という流れがあって、さらにドーパミン以下のカテコラミンは、酸化されると、以下のようになる。
ドーパミン→ドーパノクロム
ノルアドレナリン→ノルアドレノクロム
アドレナリン→アドレノクロム
この○○クロムには催幻覚作用がある。
統合失調症の幻覚・妄想は、脳内でこれらの物質が産生されていることによるのではないか。これがホッファーの提唱した『アドレノクロム仮説』である。
ホッファーがこの説をひらめいたきっかけは、「幻覚を見るぜんそく患者」の話である。
現在では薬局に置いてある薬は、使用期限に配慮して古くなった薬は患者に出さないようにしているはずだが、当時はそういう管理がけっこうデタラメで、使用期限を大幅に過ぎた薬が処方されることもザラにあった。古くなったぜんそくの治療薬(アドレナリン含有製剤)を服用した患者が妙な幻覚を体験する、というのは、医者界隈では知られた話だった。ホッファーはここから着想を得た。「アドレナリンの酸化物こそ、幻覚物質ではないか。だとすれば、カテコラミンの酸化を防ぐことで統合失調症を改善できるのではないか」
もちろん近年の研究では、カテコラミンだけでなく、グルタミン酸、GABA(γアミノ酪酸)、アセチルコリン、セロトニンといった脳内物質の変化も、統合失調症の病理に関わっていることがわかっているが、ホッファーの着想は大筋で正しかった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4032934/

上記のカスケードを見て、素朴に思った。そもそも、フェニルアラニンやチロシンを含有する食材の摂取を控えれば統合失調症が軽快することはないだろうか。
いや、しかしこれは違うな。
たとえば牛乳、肉、卵にはフェニルアラニンが多く含まれているが、これらの多食が統合失調症を増悪させることは考えにくい(ただ、牛乳の多飲は危うい印象だけど)。
チロシンはチーズや納豆に多く含まれるが、これらを多食しても、やはり特に問題は起こらないだろう。
研究によると、チロシンのサプリの大量摂取によって、なるほど確かに、ドーパミンやノルアドレナリンの血中濃度が上がったが、特に気分に問題はなかったという。

前回のブログで、キノコチロシナーゼ(mushroom tyrosinase)という言葉が出てきた。これは研究試薬としてよく用いられるものだけど、一般にキノコにはチロシナーゼが多いのだろうか。チロシナーゼを多く含む食品の摂取によって、ドーパミンの産生が亢進することはないか。キノコにチロシナーゼが多く含まれているとすると、キノコの多食で統合失調症が悪化する可能性は?
しかしこれは直感に反する。キノコといえばβグルカンが豊富で健康によいイメージである。実際、この線で調べてみたところ、ある種のキノコ(ヤマブシタケ)には、統合失調症を改善させる作用がある、との論文を見つけた。

『ヤマブシタケの生物活性物質により統合失調症が改善した』
https://www.longdom.org/open-access/recovery-from-schizophrenia-with-bioactive-substances-in-hericium-erinaceum-2469-9837-S1-003.pdf
著者らはヤマブシタケに抗認知症作用があることについては過去に報告していた。その機序としては、神経成長因子の誘導、細胞毒性物質(アミロイドβ)の抑制、酸化ストレスおよび小胞体ストレスによる神経細胞死の予防が挙げられる。
以下、ヤマブシタケが著効した統合失調症患者の症例報告である。
『54歳男性。
18歳で統合失調症の診断を受け、クロールプロマジン、ハロペリドールの服用を開始した。
20代は幻聴と妄想から、精神科への通院、入退院を繰り返した。
薬の副作用がひどく、唾液過多、発汗、頭痛、アカシジアの症状に悩まされた。
33歳時、陰性症状(無為自閉)が出現し、さらに水中毒(水の病的多飲による)も見られるようになった。
49歳時、幻聴、罪業妄想が悪化し、入院。退院後、薬の副作用の不快さから、服用している薬をすべてやめたところ、悪性症候群を発症した。
52歳時、2週に一度リスペリドン(37.5mg)の注射を開始。
9月8日クエチアピン200mgと眠前フルニトラゼパムを開始。症状軽快し、11月19日退院。
退院後、毎日午前11時頃に起きていたが、起きている間はずっと眠気が残存し、無気力のまま過ごした。』


こういう症例は、精神科に山ほど溢れている。統合失調症の、極めてありふれた経過だ。
しかし論文を読んでいて、精神科の勤務医時代の記憶が蘇って、胸が痛くなった。
治るわけもない薬を出さなきゃいけないつらさ。でもつらいのは僕だけじゃない。患者もつらい。副作用がきつくて、できれば薬をやめたい。でも薬をやめると、ひどい副作用が襲ってくる。患者は薬の罠にかかって、がんじがらめで動けない。
もう、一生飲み続けるしかない。
そんなときに上記患者、ヤマブシタケを飲み始めた。

『12月2日、アミロバン3399(ヤマブシタケ製剤)を1日6錠開始。
2週間後の12月16日、日中の眠気が著明に改善し、一日を活動的に過ごせるようになった。陰性症状がなくなった。彼の母は息子の軽快に驚いた。「この35年間、こんなに元気なこの子を見たことがない」と。
アミロバン3399を開始して1年後、服用している薬は、ミルタザピン(45mg)とゾピテン(5mg)である。
以後4年間、好調を維持している。』

ヤマブシタケ製剤という形でしっかり商品化されているところに、商売っ気を感じるが、試してみる価値はあると思う。サプリ(lion’s mane) として誰でも買えるから、興味のある人はネットで注文してみるといい。

しかし一番いいのは、普通にヤマブシタケを食べることじゃないかな。ヤマブシタケは、マツタケみたいにレアで貴重なキノコではない。シイタケとかマイタケ、シメジなんかと同じように、養殖栽培が可能で、スーパーで普通に売っている。
鍋物の季節だから、シイタケやマイタケなんかと一緒に、具材として使ってみるのもよさそうだ。

有機ゲルマニウムと美肌

2019.11.14

医者の仕事は、ざっと三通りに大別できる。臨床、研究、教育の三つだ。
『臨床』はベッドサイドあるいは診察室で患者を相手にする仕事。普通、特にことわりなく医者というときは、臨床医のことを指す。
細胞や動物を使っていろんな実験をしたり、というのは『研究』で、新しい医学的知見は多くの場合、ここから生み出されている。
『教育』は医学生や研修医、看護学生、ときには他学部の学生などに医学知識を教える仕事。

医者は、子供のときからそれなりに勉強して厳しい受験倍率をくぐり抜けてきているせいか、そもそも勉強することが苦じゃない人が多いんだ。
学ぶことが好き、というのは、医者にとって必須の素質だ。いや、正確には、学生のときに身につけたような大昔の知識でもやっていけないことはないんだけど、インターネットがあって医学的知識が医者の独占物じゃなくなった今の時代、勉強しない医者は患者に見放される可能性が高い。患者に見放されたって、勤務医なら問題なく生活していけるだろう。しかし古い知識でやっている開業医は、相当しんどい時代が来るような気がする。
医学の進歩とともに知識のアップデートが常に必要だから、医者は一生勉強なんよ^^;
そういう職業柄のせいか、人にものを教えるのが好き、という医者も多いと思う。
To teach is to learn.教えることと学ぶことは反対語のようでいて、実は同義語なんだ。こういう医者は大学病院に向いている。

僕は本来、性格的には大学病院向きだと思う。教えることが好きだし、黙々と試行錯誤する研究畑にも憧れる。
臨床現場は目の前の患者と一対一の真剣勝負で、やりがいはもちろんある。でも、そういうふうに一人一人の患者と向き合い治療に当たっても、僕個人ができることは限られている。それよりは、研究に従事して、何か画期的な方法論を編み出すほうが、多くの人を救えるのではないか。たとえば、ホッファーは臨床医であると同時に研究者でもあって、治験を通じてナイアシンの様々な有効性を発見した。彼の功績がどれほど多くの病める人を救ったことか。
しかし、教えることが好きといっても、今の医学部教育で行われているような、患者を救えない知識、それどころか有害無益な知識を広めることになんて、加担したくない。
研究がやりたいといっても、製薬会社の利益に貢献するだけの研究しかできないのなら、そんなのはごめんだ。
教育にせよ研究にせよ、本当に患者のためになることがしたい。

先日、浅井ゲルマニウム研究所の中村宜司さんの研究チームが、また新たな論文を出された。そう、僕がやりたいのは、こういう研究なんだ。
その新たな知見を世に提出することで、ひとつ、世の中が明るくなる。圧倒的な情報の洪水のなか、それはごくささやかな情報のひとつでしかないけれど、それでも、そのひとつ分だけ、世界がよくなる。
今から研究の道に進むのは難しいけど、せめて、そういう情報発信者ではありたいと思うんだな。

『有機ゲルマニウム化合物THGPはメラニン合成を抑制する』
https://www.mdpi.com/1422-0067/20/19/4785
有機ゲルマニウム化合物3-(三水酸化ゲルミル)プロパン酸(THGP)には様々な生物学的活性がある。以前我々は、THGPがcis-diol構造と複合体を形成することを報告した。L-3,4-二水酸化フェニルアラニン(L-DOPA;メラニンの前駆体)は自身のカテコール骨格のなかにcis-diol 構造を含んでおり、過剰なメラニン産生によって皮膚の黒ずみやシミが生じる。そのため、化粧品業界ではメラニン産生を抑制する物質の研究が精力的行われている。
本研究で我々は、キノコチロシナーゼ(チロシン分解酵素)とB16 4A5メラノーマ細胞を用いて、THGPがL-DOPAとの複合体形成を通じてメラニン合成を抑制するかどうかを調べた。
THGPがL-DOPAに作用する能力を1H-NMRによって分析し、THGP(およびコウジ酸)のメラニン合成に対する影響を調べた。
さらに、THGPの細胞毒性、チロシナーゼ活性、遺伝子発現に対する影響も調べた。
その結果、THGPはL-DOPA(cis-diol構造を持つメラニン前駆体)に作用していることがわかった。
さらに、THGPはメラニン合成を抑制し、コウジ酸と相乗作用すること、しかもチロシナーゼ活性や遺伝子発現には影響しないこともわかった。
これらの結果は、THGPがメラニン合成を阻害する有用な基質であること、また、THGPの効果はコウジ酸との併用で増強されることを示している。

一般の医学部教育でも、
フェニルアラニン→チロシン→L-DOPA→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン
という代謝経路は学ぶ。
栄養療法を学んでいる人なら、このカスケードを見れば、ホッファーの功績を思い出す。つまり、「ドーパノクロムやアドレノクロム(ドーパミンやアドレナリンの酸化物)には催幻覚性があって、統合失調症の幻覚・妄想はこれらの物質の作用である。また、これらには細胞分裂抑制作用があるため、統合失調症患者はめったに癌にならない。ドーパミンやアドレナリンの酸化を防ぐために、ビタミンCを摂りましょう」
そういう文脈でこの代謝経路を見ることはあるけど、L-DOPAがシミの原因でウンヌン、という話はどちらかというと美容系の話で、僕にはなじみが薄いので、この論文は新鮮だった。
コウジ酸と有機ゲルマニウムの併用によって、L-DOPAの悪影響をブロックできるのなら、両者は美肌のためのみならず、統合失調症にも有効ではないか。
僕が研究者なら、こんなふうに、検証してみたい仮説はたくさんあるんだけどなぁ。

将棋ソフト

2019.11.13

毎日将棋のネット対局をしている。
勝ったり負けたりだが、終局後、気になる局面があればソフトで解析する。
たとえば、最近の対局からひとつ、こんな局面を紹介しよう。

最近僕は嬉野流をよく指すんだけど、相手も同じ嬉野流で、相嬉野流の展開になった将棋。画像は後手の僕が60手目5八銀と打ったところ。
ここで先手の投了となり、僕が勝たせてもらった。以後、同金なら同飛車成、6八合駒、6九銀で詰み。
しかし、同金以外の変化は読み切っていなかったので、この局面をソフト(やねうら王)に読ませてみた。
すると、なんと、後手の評価値が-330点。ほぼ互角ながら、僕のほうが若干不利と出た。
どういうことか、わかりますか?
僕は勝勢を意識していたし、相手も劣勢を自覚していた。だからこそ、投了したわけだ。
ところがソフトの読みは、むしろ逆。僕のほうがよくないという。
実際、この局面からソフト同士で対局させてみると、先手はまず7六歩と突いて玉の逃げ道をあけ、その後大熱戦となり、もつれにもつれた。
ようやく127手目に終局したが、結果は後手玉の詰み。
投了の局面から終局まで67手も続くわけだから、素人同士の対局ならまだまだ互角で勝敗不明だし、神のように強い者(ソフト)同士が指し継いだら勝敗が逆転した、ということだ。

将棋には序盤、中盤、終盤とある種の流れがあって、互いに頭の中を読み合って一局の将棋を紡いでいくわけだけど、そのプロセスで、対局者はお互いのことを信頼し合っている。
先を読むが、相手も同じように手を読んでいるはずだから、自分の頭の中にある局面と同じものを、相手も頭の中で見ているはずだ、という信頼である。
「こういうふうに間違えてくれたら都合がいいな」というスタンスでは、よほどの実力差がない限り、勝てない。逆に信頼が行き過ぎて「相手は強い人だから、この手はすでに読んでいるに違いない」と、相手が読み抜けているにもかかわらず、買いかぶってしまうこともある。
こういう対局者心理というのは、極めて人間的だと思う。
ネット対局ではなくてリアルの対局だとこのあたりはもっと露骨に出て、相手の駒を指す手つきがいかにも自信満々だと、すっかり読み切られている気持ちになる。ネット対局でも、時間の使い方でそういう雰囲気は感じる。
でもソフトにはそういう予断がない。淡々と局面の優劣を判断する。
手つきとか時間の使い方とか、そういうハッタリはソフトに当然通じないし、もっと言えば、一局の流れ、というのもソフトは見ていない。
人間同士の対局の場合、局面が一手ごとに変化して、対局者は互いに優勢や劣勢を感じている。一直線に押し切られる将棋もあれば、逆転につぐ逆転という将棋もある。
上記の将棋は僕が一方的に優勢な展開で、持ち時間も僕に余裕があったので、相手の人は僕を信頼して戦意喪失してしまった。評価値が乱高下するような逆転の連続の将棋なら、相手の人もまだまだ希望を捨てずに7六歩から玉を逃がす手を考えたと思う。

かつてコンピューター将棋の黎明期には、コンピューターの指し手を見て、人々は失笑したものだった。
それが次第に強くなり「ふむ、7級くらいの力はあるな」、もっと強くなって「まぁ強いね。有段者レベルだろう」
さらに強くなって、ついに2013年には公の場で初めてプロ棋士を破った。その後もソフトは強くなり続け、2017年には名人を破るに至った。
さらにソフトの進化はとどまるところを知らず、世界コンピューター将棋選手権では優勝ソフトが毎年のように入れ替わっている。
ソフトは、もはや人間には遠く及ばない異次元の強さを手に入れた。

こういう状況になると、どういうことが起こると思いますか?
ソフトが人間を評価するようになります。
かつて人間がヘボ将棋ソフトを上から目線で評価したように、今度はソフトが人間の指し手を評価するようになる。
この事態を「コンピューターに評価されるなど屈辱的で受け入れ難い」と否定的にとらえる人もいれば、「ソフトの正確無比な形勢判断のおかげで、客観的な評価が可能になった」と肯定的に受け入れる人もいるだろう。
個人的には、こんなに楽しい時代はないと思っている。
これまでは、素人には自分の将棋の検討なんて、不可能だった。ところが今や自分の対局をソフトで解析すれば、自分の手が好手だったのか悪手だったのか、悪手だったならどうすればよかったのか、すぐにわかる。ある程度の基礎があれば、あとはソフトを使った自学自習で強くなれる。プロ棋士よりも強いソフトを家庭教師に使えるのだから、極めて能率的だ。

ソフトの進化がもたらしたのは、それだけではない。
棋譜資料が残っている江戸時代の名人や、すでに物故した名人(大山、升田など)の棋力を、棋譜の解析によって、客観的なレーティングによって推定することができる。
客観的、というところが重要で、たとえば将棋ファンが知りたい次のような質問に対して、これまでは主観を排した答え以外は不可能だった。
「現在の将棋界で一番強いのは誰なのか」
「将棋の歴史上、一番強いのは誰なのか。やはり羽生なのか、それとも別の若手か、あるいは江戸時代の名人か」
「全盛期の羽生と全盛期の大山、一体どっちが強いのか」
「江戸時代の将棋の名人は、名前だけのものか、それとも本当に強かったのか」
この論文が、こうした問いに答えを与えている。
『将棋名人のレーティングと棋譜分析』
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=106492&item_no=1&attribute_id=1&file_no=1&page_id=13&block_id=8
2014年の論文だから、藤井聡太七段の名前はまだない。5年前の論文であるということを念頭において、という条件付きではあるが、、、
・勝敗の結果および棋譜内容からの推定によると、この20年で最強のプレイヤーは羽生である。
・羽生名人は、大山15世名人よりも、レーティングで約230点優れている。
など、おもしろい分析だと思った。

ソフトの出現によって、プロ棋士の威厳は地に落ちる、という悲観論があるが、逆じゃないかな。
ソフトがプロ棋士を正当に評価して、「やっぱりさすがだな。アマチュアとは別格だ」ということが、素人にわかりやすく伝わる可能性もあると思う。
いずれにせよ、技術の進化は止められないんだから、前向いていくしかないんだよね。

薄毛治療2

2019.11.12

まずは論文の紹介から。
『AGAの病因モデル:DHT(ジヒドロテストロン)の逆説と回復因子の解明』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306987717310411#b0115
「生涯のうち、男性の8割、女性の5割が薄毛に悩むという。しかしこれほど多くの人に見られる症状であるにもかかわらず、また、多くの研究がおこなわれているにもかかわらず、AGAの原因を説明する病理モデル、生物学的進行過程、生理的背景は、いまだ十分に解明されていない。
学会でコンセンサスがあることとしては、せいぜい、AGAには遺伝性があること、AGAにはジヒドロテストステロン(DHT)が関与していること、ぐらいである。そのDHTの働きにしても、AGAの発症に正確にどう関与しているのか、よくわかっていない。
なぜ、AGA傾向のある組織で、DHTが増加するのか?
どのような機序でDHTが毛包を縮小させるのか?
なぜ、AGAに関与するとされているDHTが、第二次性徴における体毛の発毛や顔の発毛に関与しているのか?
なぜ去勢(これによってアンドロゲン産生が95%減少する)によって脱毛の進行が止まるのか(しかも、止まるだけで完全に生えないのはなぜなのか)?
DHTとAGA発症に伴って見られる組織リモデリングには関係があるのか?
我々はDHTとAGAの関係にまつわるエビデンスを検証し、これらの問いに答える病理モデルを提案しようと試みた。
その仮説は、以下のようである。
(1)帽状腱膜から起こる慢性的な頭皮の緊張がAGA傾向のある組織に炎症を引き起こしている。
(2)この炎症の結果、AGA傾向のある組織にDHTが増加する。
(3)DHTは毛包を直接的に縮小させるわけではない。DHTは、皮膚鞘肥厚、毛包周囲線維形成、石灰化(AGA進行の背景にある三つの慢性的症状)を仲介する役割である。
この慢性的な三つの症状により、AGA傾向のある組織がリモデリングされていく。具体的には、毛包の成長スペースが狭小化し、酸素や栄養の供給が減少する。その結果、AGAに特徴的な毛包の縮小へと進行する。
線維化、石灰化(カルシウム沈着)、頭皮の慢性的緊張という三兆候をターゲットにすることで、AGAの回復を促進できる可能性がある。」

犬や猫を飼っている人にとって、去勢という言葉は比較的なじみのある言葉だろう。
しかし、この処置は通常、人間を対象には行われるものではない。
人間が去勢を行う例としては、、、
自分の肉体上の性別と性自認の不一致に悩む人が希望して行ったり、睾丸の悪性腫瘍除去術が結果的に去勢と同じ意味を持つことになったり、あるいは古代中国では皇帝に仕える宦官が行ったり、といったところである。
症例としてはそれほど多くない。しかしその多くない症例を詳細に調べた研究によると、
去勢によってAGAの進行が止まる(しかし、フサフサに戻るかと言ったらそういうわけでもない。ただ、進行が止まるだけ)ことが分かった。
この事実を突破口にして、AGA研究が進み、開発されたのがフィナステリドである。
DHTが薄毛に関与しているのであれば、薬でその産生を止めてやればいい。
テストステロンに5α還元酵素が作用することでDHTが産生されるが、5α還元酵素を阻害することでDHT産生を抑制する。これがフィナステリドの作用機序である。

この経緯をみれば、フィナステリドがどういう薬か、わかるだろう。要するに、男性を”宦官”にする薬である。
清の滅亡とともに宦官もいなくなったわけではない。この21世紀にも、自ら進んで薬剤性宦官になる男性が後を絶たないのである。
実際フィナステリドの服用を開始した男性では、性機能の低下が高頻度に見られる。「毛は生えたものの、女に興味がなくなった」となっては、本末転倒そのもの。現代日本に見られる「男性の草食化」の一因は、案外こういうところにもあるのではないか。

副作用の強い薬によってではなく、もっとマイルドに、食事によってDHTの産生を抑えることができないだろうか。
実は、DHTの産生を抑える食材が存在する。それは、カボチャの種である。

こんな論文がある。
『AGA男性の頭髪成長に対するパンプキンシードオイルの効果:プラセボ対照二重盲検』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4017725/
1日400mgのパンプキンシードオイルを24週間にわたって服用した群では、プラセボ群と比べて平均40%毛髪数の増加が見られた。
その他、エビデンスはないが、経験的に有効ではないかと言われている食材として、以下のものが挙げられる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3693613/
スペアミント、霊芝(5α還元酵素減少)、甘草(テストステロン減少)、芍薬(テストステロンをエストロゲンに変換)、緑茶(エピガロカテキンガレートが5α還元酵素を抑制)、ブラックコホシュ、チェストツリー、ノコギリヤシ
カッコ内は試験管レベル、動物実験レベルで確認された作用である。発毛のためには、少なくともおまじない以上には効果があるから試してみるといい。

さらに、血管のカルシウム沈着抑制となれば、なんといってもビタミンK2の出番である。
動脈硬化を回復させる栄養素として、以前の院長ブログでも紹介したことがある。
食品で摂取するのであれば、卵黄、レバー、バター(グラスフェッドが好ましい)、納豆を摂るといい。サプリで摂取するのも有効だろう。

漢方では、髪の毛は血余、すなわちエネルギーの余得の現れであり、逆に、ハゲは血虚、つまりエネルギーの低下である。卵とかレバーとか、K2の豊富な食材は、確かにエネルギーがわきそうな食材でもある。
漢方でアプローチするなら、八味地黄丸、牛車腎気丸あたりも有効だという。
何にせよ、安易に薬に頼らないことである。

薄毛治療

2019.11.11

これは麻生先生に分が悪くて、説得力ゼロ、と言われても仕方ない(´Д`)
ただ、AGAスキンクリニックのノウハウすべてが間違っているとは思わない。
内服(ミノキシジルとフィナステリド。女性にはミノキシジルとスピロノラクトン)と頭皮への注射(ミノキシジルと成長因子)が治療の柱だけど、効く人には確かに効く。
もちろん改善の具合にはばらつきがあって、「劇的に生えた」という人もいれば「まぁ多少増えたかな」程度の人まで、様々だ。

ミノキシジルの有効性を検証した研究は複数あるが、そのなかからいくつかを紹介しよう。
『AGA(男性型脱毛症)に対するメソセラピー(薬剤の局部注入療法)と5%ミノキシジルの局所塗布をダーモスコピーで評価した比較研究』
http://www.ijtrichology.com/article.asp?issn=0974-7753;year=2019;volume=11;issue=2;spage=58;epage=67;aulast=Gajjar
目的:AGAに対してメソセラピーと5%ミノキシジルの局所塗布、どちらが有効かつ安全であるかを比較することが本研究の目的である。
方法:49人のAGA男性を無作為に二つの群(メソセラピー群25人とミノキシジル塗布群24人)に振り分けた。
メソセラピー群の被験者は合計8回の局所注射を受け、ミノキシジル塗布群の被験者は4か月間1日2回ミノキシジルを塗布した。
結果は写真、ダーモスコピー、トリコスキャン(皮膚計測機器)、7点標準評価ツール、患者自己評価スコアによって一か月おきに評価した。
結論:メソセラピー群において、ミノキシジル塗布群よりも、治療前と治療後で毛幹の径が有意に大きくなった。
ただし、ダーモスコピー、トリコスキャン、患者自己評価スコアでは有意差がなかった。AGAにおいて、メソセラピーはミノキシジル塗布にまさる有意な改善はなかった。

わざわざ頭皮に注射しても、ミノキシジルを塗る以上の効果は特になかった、という結論。
薄毛治療のクリニックで行われるメソセラピーは一般に非常に高額である。上記はその意義を全否定する研究であり、なかなかに衝撃的だといえる。
逆に、効果があったとする研究もある。たとえば以下の論文。

『女性におけるAGA治療において2%ミノキシジル局所塗布と局所注射(メソセラピー)の比較研究』
https://pdfs.semanticscholar.org/6db0/79bde239ed48c27cdfb29b007de0f74972a4.pdf
結論:女性のAGA治療において、メソセラピーによるミノキシジルの局所注射は、局所塗布よりも有効である。

女性で薄毛に悩む人は多い。こういう人はたいてい食生活の偏り(甘いもの、小麦の多食)があるもので、食事の改善で大半が回復する。
しかしそういう知識は一般的ではないから、自分で治そうという発想がそもそもない。そこで他力本願、美容クリニックを訪れ、高額な治療費を払うことになる。
上記論文では、メソセラピーのほうが局所塗布より効果があった、とのこと。

『ミノキシジルの局所塗布で男性型脱毛症を治療する男性の長期フォロー』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/3549803
41人の男性型脱毛症の男性に、ミノキシジルの局部塗布を132週(2年9か月)にわたって続けてもらい、その効果を1インチ標的エリア頭髪計測法でフォローした。
2%ミノキシジル塗布群、3%ミノキシジル塗布群、プラセボ群に振り分け、1日2回局所に塗布した。
研究開始から12か月後、被験者全員3%ミノキシジルに切り替え、1日2回の塗布を1年間続けてもらった。その後、被験者を1日1回塗布群と1日2回塗布群に無作為に振り分け、残り9か月フォローした。
2年目時点以後、1日1回塗布に切り替えた群では、非うぶ毛(nonvellus hair)数は、ベースラインの1年目時点の平均291.2本から、235本(2年9か月時点)へと変化した。
1日2回塗布を継続した群では、非うぶ毛数がベースライン1年目の平均323本から335本(2年9か月時点)へと変化した。
非うぶ毛数が減った被験者は、どちらの群にもいたが、1日1回群のほうが1日2回群よりも減った本数が多かった。ただ、非うぶ毛数が最初のベースラインよりも減った人はいなかった。

ミノキシジルは効果があったよ、それも1日1回ではなくて1日2回の方がより効いたよ、という論文。
しかし一般に、「クスリはリスク」である。
薬には副作用がつきもので、それはミノキシジルも例外ではない。たとえば、以下のような症例報告がある。

『ミノキシジルの局所塗布は、非動脈性前部虚血性視神経症(NAION)の原因か』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5028441/
5%ミノキシジルの局所塗布でNAIONを生じたが、使用の中止により回復した症例報告。
ミノキシジルはもともとは降圧薬として研究・開発された薬である。
しかし治験中、被験者のなかに髪の毛が生えてきた人がいたことから、脱毛症治療薬として売り出されたという経緯がある。
だから循環器系への副作用(血圧低下、頻脈、浮腫など)は当然想定されるし、局所塗布ならかゆみや接触性皮膚炎なども起こり得る。
こうした副作用は医者のほうでもよく承知しているが、患者から「最近目がぼやけ視力が下がっています」と言われても、まさかミノキシジルが原因とは思いもよらない。
レアな副作用ではあるだろう。しかし、医者のほうで認識しておかないと、失明など最悪の事態を防げない。
ただの毛生え薬、という軽い認識では危険だ。