院長ブログ

薄毛治療2

2019.11.12

まずは論文の紹介から。
『AGAの病因モデル:DHT(ジヒドロテストロン)の逆説と回復因子の解明』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0306987717310411#b0115
「生涯のうち、男性の8割、女性の5割が薄毛に悩むという。しかしこれほど多くの人に見られる症状であるにもかかわらず、また、多くの研究がおこなわれているにもかかわらず、AGAの原因を説明する病理モデル、生物学的進行過程、生理的背景は、いまだ十分に解明されていない。
学会でコンセンサスがあることとしては、せいぜい、AGAには遺伝性があること、AGAにはジヒドロテストステロン(DHT)が関与していること、ぐらいである。そのDHTの働きにしても、AGAの発症に正確にどう関与しているのか、よくわかっていない。
なぜ、AGA傾向のある組織で、DHTが増加するのか?
どのような機序でDHTが毛包を縮小させるのか?
なぜ、AGAに関与するとされているDHTが、第二次性徴における体毛の発毛や顔の発毛に関与しているのか?
なぜ去勢(これによってアンドロゲン産生が95%減少する)によって脱毛の進行が止まるのか(しかも、止まるだけで完全に生えないのはなぜなのか)?
DHTとAGA発症に伴って見られる組織リモデリングには関係があるのか?
我々はDHTとAGAの関係にまつわるエビデンスを検証し、これらの問いに答える病理モデルを提案しようと試みた。
その仮説は、以下のようである。
(1)帽状腱膜から起こる慢性的な頭皮の緊張がAGA傾向のある組織に炎症を引き起こしている。
(2)この炎症の結果、AGA傾向のある組織にDHTが増加する。
(3)DHTは毛包を直接的に縮小させるわけではない。DHTは、皮膚鞘肥厚、毛包周囲線維形成、石灰化(AGA進行の背景にある三つの慢性的症状)を仲介する役割である。
この慢性的な三つの症状により、AGA傾向のある組織がリモデリングされていく。具体的には、毛包の成長スペースが狭小化し、酸素や栄養の供給が減少する。その結果、AGAに特徴的な毛包の縮小へと進行する。
線維化、石灰化(カルシウム沈着)、頭皮の慢性的緊張という三兆候をターゲットにすることで、AGAの回復を促進できる可能性がある。」

犬や猫を飼っている人にとって、去勢という言葉は比較的なじみのある言葉だろう。
しかし、この処置は通常、人間を対象には行われるものではない。
人間が去勢を行う例としては、、、
自分の肉体上の性別と性自認の不一致に悩む人が希望して行ったり、睾丸の悪性腫瘍除去術が結果的に去勢と同じ意味を持つことになったり、あるいは古代中国では皇帝に仕える宦官が行ったり、といったところである。
症例としてはそれほど多くない。しかしその多くない症例を詳細に調べた研究によると、
去勢によってAGAの進行が止まる(しかし、フサフサに戻るかと言ったらそういうわけでもない。ただ、進行が止まるだけ)ことが分かった。
この事実を突破口にして、AGA研究が進み、開発されたのがフィナステリドである。
DHTが薄毛に関与しているのであれば、薬でその産生を止めてやればいい。
テストステロンに5α還元酵素が作用することでDHTが産生されるが、5α還元酵素を阻害することでDHT産生を抑制する。これがフィナステリドの作用機序である。

この経緯をみれば、フィナステリドがどういう薬か、わかるだろう。要するに、男性を”宦官”にする薬である。
清の滅亡とともに宦官もいなくなったわけではない。この21世紀にも、自ら進んで薬剤性宦官になる男性が後を絶たないのである。
実際フィナステリドの服用を開始した男性では、性機能の低下が高頻度に見られる。「毛は生えたものの、女に興味がなくなった」となっては、本末転倒そのもの。現代日本に見られる「男性の草食化」の一因は、案外こういうところにもあるのではないか。

副作用の強い薬によってではなく、もっとマイルドに、食事によってDHTの産生を抑えることができないだろうか。
実は、DHTの産生を抑える食材が存在する。それは、カボチャの種である。

こんな論文がある。
『AGA男性の頭髪成長に対するパンプキンシードオイルの効果:プラセボ対照二重盲検』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4017725/
1日400mgのパンプキンシードオイルを24週間にわたって服用した群では、プラセボ群と比べて平均40%毛髪数の増加が見られた。
その他、エビデンスはないが、経験的に有効ではないかと言われている食材として、以下のものが挙げられる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3693613/
スペアミント、霊芝(5α還元酵素減少)、甘草(テストステロン減少)、芍薬(テストステロンをエストロゲンに変換)、緑茶(エピガロカテキンガレートが5α還元酵素を抑制)、ブラックコホシュ、チェストツリー、ノコギリヤシ
カッコ内は試験管レベル、動物実験レベルで確認された作用である。発毛のためには、少なくともおまじない以上には効果があるから試してみるといい。

さらに、血管のカルシウム沈着抑制となれば、なんといってもビタミンK2の出番である。
動脈硬化を回復させる栄養素として、以前の院長ブログでも紹介したことがある。
食品で摂取するのであれば、卵黄、レバー、バター(グラスフェッドが好ましい)、納豆を摂るといい。サプリで摂取するのも有効だろう。

漢方では、髪の毛は血余、すなわちエネルギーの余得の現れであり、逆に、ハゲは血虚、つまりエネルギーの低下である。卵とかレバーとか、K2の豊富な食材は、確かにエネルギーがわきそうな食材でもある。
漢方でアプローチするなら、八味地黄丸、牛車腎気丸あたりも有効だという。
何にせよ、安易に薬に頼らないことである。