ナカムラクリニック

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2019年12月

DHEA

2019.12.3

アメリカのドラマ『セックス アンド ザ シティ』の一場面。
DHEAのサプリを愛用するサマンサが、友人と一緒にアブダビに旅行に行った。
入国のとき、カバンのなかをチェックされて、管理官にDHEAのサプリを見咎められた。「申し訳ありませんが、お薬の持ち込みはちょっと、、」

DHEAは彼女にとって更年期障害を抑え、かつ、若さを保つ秘密兵器なのだから、ここで取り上げられてはかなわない。「ただのヤムイモから抽出した天然のサプリよ。薬っていう大げさなものじゃないわ」と頑張った。

しかし抵抗むなしく、没収となった。
上記のエピソードのなかに、DHEAという栄養素の何たるかが、ほとんど説明されている。

DHEA(dehydroepiandrosterone;デヒドロエピアンドロステロン)はコレステロールから産生されるホルモンの一種で、ここから男性ホルモンや女性ホルモンが作られる。つまり、性ホルモンを作るための前駆体だ。
以下のカスケードを供覧あれ。

左下の紫のところに、DHEAがあって、これが様々な酵素で代謝され、男性ホルモンや女性ホルモンになる。
コレステロールを出発点とした重要な中間代謝物だとわかるだろう。

セリフにあるように、DHEAのサプリはヤムイモを原料にして作られているから、大きな副作用もない。男女とも、加齢によってホルモン分泌が低下している人にとって、心強い味方になる。
サマンサはこのサプリに大いにハマっていて、朝食後の内服はもちろん、外用でDHEA入りのクリームまで使っている。
「私は今52歳だけど、あなたが50歳になる頃には、私は35歳くらいに見えるはずよ」と友人にも勧めたりする。
“若さの泉”たるサプリを没収された彼女。宿泊先のホテルのプールで、筋肉質のイケてる男たちを見た。不思議なことに、何も感じない。いつもの彼女なら、ムラムラと性的な欲求がうずくはずなのに。
性欲は男性ホルモン(テストステロン)のなせるわざである。DHEAの供給が断たれた彼女は、急速に”枯れて”しまったのだった。

DHEAの性欲への影響については、このような論文がある。
『閉経後女性の性欲に対するデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の急性効果』
https://www.liebertpub.com/doi/abs/10.1089/152460902753645290
【背景】
デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)の分泌は加齢に伴い低下することから、それを補充することで性機能を高めることができるかもしれない。
【方法】
DHEAの有効性を検証するため、性交可能な閉経後女性16人を被験者として、無作為化クロスオーバー二重盲検を行った。
被験者に実薬(DHEA 300 mg)あるいはプラセボを経口で飲ませ、その60分後にエロビデオを見せた。実験の前後で、血中DHEA硫酸塩(DHEAS)、主観的な生理的性反応、感情反応の変化を計測した。
【結果】
DHEASの血中濃度はDHEAを投与した女性16人全員で2~5倍増加していた。エロビデオを見たことで性欲がどうなったかについての主観的評価は、精神面、身体面の両方において、DHEA投与群が有意にスコアが高かった。さらに、DHEA投与群ではエロビデオを見ているときの幸福感が高かった。膣脈拍振幅(VPA)および膣血流量(VBV)が有意に増加していた。
【結論】
閉経後女性において、DHEAの投与によって性欲スコアが精神面、身体面の両方で有意に増加した。

上記のドラマではユーモラスに描かれていたけど、一般に女性の性欲低下は、本人にとって深刻かつ切実な悩みである。
パートナーが非常に盛んな男性で、しかし女性側がその要求に応じられない、となっては、大げさではなく「夫婦の危機」である。実際、性生活の不一致というのは、”婚姻を継続しがたい重大な事由”として裁判でも認められる。
オーソモレキュラー学会でDHEAについての講演を聞いたことがきっかけで、僕も自分の患者にDHEAをときどき勧めていた。
久しぶりにDHEAをネットで注文しようと思ったら、なんと、販売中止になっている。
去年11月に、厚労省から以下のようなお達しが出たためだ。
https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000180687

「厚生労働省において、脳機能の向上等を標ぼうして海外で販売されている医薬品やサプリメント等の食品について調査した結果、医療用医薬品に使用されている成分を含んでいることを標ぼうしているものが多数認められました。薬物依存等に関する研究を行っている団体の専門家の意見や厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会における議論を踏まえて検討した結果、別添の成分は、医師の処方せん又は指示によらない個人の自己使用によって健康被害や乱用につながるおそれが高いと考えられます。
そのため、平成 31 年1月1日から、別添の成分を含む、海外で販売されている医薬品や食品等については、海外からの入国者が国内滞在中の自己の治療のために携帯して輸入する場合を除いて、数量に関わらず、あらかじめ薬監証明の交付を受けない限り、一般の個人による輸入は認めないこととするので、御了知願います。」
どういうことかわかりますか?
要するに、
「サプリというか、ほぼ薬だから、もう売り買いするなよ」ということだ。
DHEAはこの規約に引っかかって、もう扱えなくなってしまった。
まぁ仕方ないよね。実際、副作用なしによく効くから、なんというか、「下手な薬よりも薬」だと思う。
でもそういうことを言い出せば、たいていのサプリは一般の薬よりも優秀だけど^^;

DHEAが扱えないのは残念なことだけど、性欲を高める方法は他にもいろいろある。
たとえば、アダプトゲン(ロディオラ、アシュワガンダなど)については以前の院長ブログで書いたけど、他にもヨヒンベ、ダミアナ、ムイラプアマ、サルサパリラなど、優れたハーブがたくさんある。
最近は女性用バイアグラなんていうのもあるけど、そういうのよりはまず、副作用の少ないハーブから試すべきだろう。

てんかんとビタミン

2019.12.2

西洋医学と栄養療法の間には、残念ながら不幸なすれ違いがあって、激しくいがみ合っている。
栄養療法陣営は「西洋医学は症状を無理やり抑え込むしか能がない。おまけにひどい副作用まであったりする」と批判し、西洋医学は「ろくにエビデンスもないニセ医学のくせに、患者の不安につけこんで高額な治療費を請求したりする」と批判する。
お互いが相容れない水と油のようなものかというと、別にそんなことないと思う。手を取り合って、仲良くやっていけるところもあるはずなんだ。

西洋医学の長所は、症状をすぐに軽減してくれるところ。
幻覚妄想状態で自傷(あるいは他害)の恐れのある統合失調症患者に抗精神病薬を投与したり、急性腹症に対して緊急手術を行ったりして、急場をしのぐ手段としては極めて優秀だ。
短所は、慢性疾患に弱いところ。長く飲み続けるメリットのある薬はほとんどない。逆に、副作用にからみとられて、かえって健康を損ねることも珍しくない。
栄養療法の長所は、症状の根本的な原因にアプローチして健康を取り戻せるところ。しかも副作用がない。
短所は、多くの場合、即効性がないこと。「バファリンを飲んだら頭痛がすぐ消えた」という具合に効くことはあまりない。じっくり取り組んでもらう必要がある。

西洋医学と栄養療法、お互いの強みを生かして、補い合えばいいんだ。
「西洋医学の薬を飲むか、栄養療法でいくか」の二択ではなく、両方使う手があってもいい。ビタミンやミネラルのサプリを使うことで、薬の必要量を軽減できることはよくある。薬を減らせれば、それだけ副作用も少なくなる。
もちろん究極的には、薬の使用量がゼロになることが望ましいが、栄養療法はそういう減薬・断薬の助けになるだろう。
たとえば、抗てんかん薬を飲んでいる患者。
ビタミンE(1日400 IU)を飲むといい。効果は数か月以内に現れる。けいれん発作の頻度が、ほとんどの患者で60%減少し、半数の患者では90%~100%減少した。
一緒にマグネシウムをとればもっと効く。バルプロ酸(デパケン)を飲んでいるのなら、カルニチンを補うのもいい。副作用が緩和されるだろう。

『バルプロ酸に起因する毒性治療におけるカルニチン』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19280426

『小児てんかん患者にアドオン療法としてDαトコフェロール酢酸(ビタミンE)を加えたプラセボ対照無作為化二重盲検』
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1528-1157.1989.tb05287.x
要約
「抗てんかん薬が効かない24人の小児てんかん患者(全身性強直性間代性発作およびその他のけいれんも含む)に対して、現在投与中の薬にDαトコフェロール酢酸(ビタミンE)を1日400 IUを加えたところ、12人中10人で症状が大幅に軽減した。これはプラセボ群とは有意に異なる結果だった。これは抗てんかん薬の血中濃度が上昇したことによるものではない。副作用は見られなかった。症状が改善した10人において、血中のビタミンE濃度が上昇していたが、改善しなかった2人およびプラセボ群では変化がなかった。その他の血算、生化学の検査結果では、臨床上有意な変化はなかった。」

西洋医学のお医者さん、栄養療法のお医者さん、まず、お互いが認め合うことが大事だ。
「抗てんかん薬、確かに効くね。すみやかにけいれんをとってくれる、ありがたいお薬だ」と栄養療法陣営は認める必要があるし、「ビタミンやミネラルで、確かに薬の使用量を軽減できるようだ」と西洋医学の先生も認めてくれないようでは、話が進まない。
栄養療法を開始した患者では、薬の使用量が減り、ついに薬を飲む必要がなくなる、という人も出てくることだろう。
そうなれば、患者は、患者ではなくなる。つまり、もう病院に来なくなる。
ビタミンやミネラルのサプリは薬じゃなくて食品扱いでネットとかで誰でも買えるから、自分で買って飲むようになるだろう。
病院経営という意味では、正直、ちょっと痛い。これは栄養療法陣営、西洋医学陣営、両方に言えることだろう。
でも、それでいいじゃないか。僕ら医者のプライオリティは、患者の回復にこそあったはずだ。
「医は算術」と揶揄されるようになって久しいが、ネットによって医学的知識が医者の独占物ではなくなったこの時代、そういう医療は通じなくなってくると思う。
結局、大きな流れとしては、みんな「医は仁術」に立ち返ることになるんじゃないかな。