2019.8.19
暑い日が続いている。
レジャー日和だからと海や山などに遊びに行って楽しんだものの、肌が日焼けし過ぎて、ヒリヒリする痛みに苦しんでいる人もいるだろう。
そういうとき、みなさんならどうしますか?
市販のローションやクリームにもいい商品があるかもしれない。
民間療法だけど、アロエにも一定の効果があるだろう。
しかし、ローヤルゼリーが効くことは、あまり知られていないと思う。
『熱傷および日焼けに対するに蜂関連製品の潜在的治療特性』
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584917304458
熱傷は皮膚組織に深刻なダメージを与え、その局所のみならず全身にも影響する。
ハチミツやプロポリスなどの蜂関連製品は、皮膚局所に塗布すると抗菌作用があり、治癒を促進することが知られている。
同様の治療効果を持つ蜂関連製品として、ローヤルゼリー、蜂の繭、蜜蝋の有効性を調べるために、64匹のマウス(SKH-1)を使って実験を行った。
半数のマウスに8 MEDの紫外線を照射し、重度の日焼けを起こした。残りの半数に対して、60℃に熱した金属棒を使って第2度の熱傷を起こした。
治療の効果を見るための評価項目として、皮膚の潤い、経皮的水分喪失、皮膚の弾性、皮膚の厚み、抗酸化力(アスコルビン酸、尿酸、グルタチオン)と酸化ストレスを調べ、さらに病理組織像も調べた。
結果、ローヤルゼリー、蜂の繭、蜜蝋のすべてが、熱傷の瘢痕組織の見た目を改善する作用があり、特にローヤルゼリーと蜂の繭には、有意な治療効果があった。
さらに、こんな論文もある。
『デフェンシン1(蜂由来の抗菌ペプチド)の再上皮化促進作用(in vitroおよびin vivo)』
https://www.nature.com/articles/s41598-017-07494-0
ローヤルゼリーは創傷治癒の治療薬として利用されている。ローヤルゼリーには、抗菌作用、抗炎症作用、免疫調整作用など様々な効果がある。ローヤルゼリーのなかに含まれるどの成分がどの作用を担っているのか、抗菌作用についてはわかっているものの、創傷治癒作用についてはわかっていない。
本研究において、角化細胞にローヤルゼリー抽出物を加えるとマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)の産生が高まることを我々は示した。
さらに、ローヤルゼリーの存在下では、角化細胞の移動と創傷閉鎖の割合が有意に上昇した。MMP9の産生は、プロテアーゼKで処理をすると大幅に減少したが、加熱しても安定なままであった。このことは、活性化にかかわる因子にはタンパク質的な性質があることを示唆している。
MMP9産生を誘導する因子を特定するために、C18逆相高速液体クロマトグラフィー(C18 RP-HPLC)を使って、ローヤルゼリー抽出物を分画化した。刺激活性を示す部分に、デフェンシン1(蜂由来の抗菌ペプチド)が存在することを我々は突き止めた。
デフェンシン1が角化細胞からのMMP9分泌を刺激し、角化細胞の移動と創傷閉鎖を促進した。さらにデフェンシン1は、非感染性の創傷において、再上皮化と創傷閉鎖を促進した。これらのデータは、デフェンシン1が角化細胞の移動とMMP9分泌を促進することで創傷の閉鎖に貢献していることを示している。
百聞は一見にしかず、で、論文を長々読むよりも、論文のリンク先に載っている写真を見るといい。比較してみれば、ローヤルゼリーがいかに有効かわかる。

上記2つの論文から、ローヤルゼリーがネズミの日焼けや熱傷、創傷に対して有効だということがわかる。
しかし、このローヤルゼリー、人間にも効くのだろうか。
マウスで効いたのだから、おそらくは人間にも効くはず。しかし推測の域を出ない。
はっきり「人間にも効く」というためには、RCTをやるのが一番説得力がある。
しかし人間に無理にヤケドを負わせてローヤルゼリー群とプラセボ群とを比較して、という実験は、倫理的に許されない。
そこで、個人的な症例報告ということになるが、僕自身の話をしよう。
忘れもしない。
今年の正月のことだ。
実家に帰省した僕に、姉が「毎日の仕事で疲れているだろうから」とお灸をしてくれた。
手のツボで、合谷(ごうこく)というのを知っていますか?親指と人差し指の間にあるツボだ。
姉がここにお灸を据えてくれた。
市販のせんねん灸を使ったんだけど、あるミスがあった。もぐさと皮膚をさえぎるパットが外れていて、それに気付かず、皮膚ともぐさが直接に触れ合う形になった。
ムチャクチャに熱かったけど、「これがお灸というものだろう」と思って熱いのを我慢したせいで、大ヤケドを負うことになった。
受傷直後の写真は撮ってないんだけど、受傷から1週間経ったときの画像がこういう具合。

面積は狭いけど、表皮だけではなく真皮まで到達している。重症度で言えば、深遠性2度熱傷か、あるいは3度熱傷、といったところだろう。
一応救急医学の教科書的な知識では、治療期間としては、2度熱傷ならば3週間ほど、3度熱傷なら自然治癒せず拘縮瘢痕が残る、と言われている。
「深いヤケドだけど、狭いし、放っておいたら勝手に治るだろう」と楽観視していたから、患部に特に何を塗るでもなく、自然の経過に任せていた。
すると、表面の傷口はふさがったものの、傷が傷として残ったまま。
これは受傷から3ヶ月経ったときの写真。完全にスカーとして定着していることがわかるだろう。

きれいに治らず、瘢痕化するとは思っていなかった。見通しが甘かった。
こんなふうに瘢痕化したら、基本的にはもう戻らない。
若いときにヤンチャをしていて、手の甲なんかにタバコの火を押し付けた、いわゆる「根性焼き」のある人がいるものだけど、あの跡は消えない。
それと同じことだ。
3ヶ月だろうと3年だろうと、一生この瘢痕は残るだろう。
あえて形成外科に相談に行けば、リザベンの内服とかステロイド注射を勧められるだろうが、効果は限定的だ。最終手段として、手術でケロイド化した部分をごっそり切除して、表皮を上手に縫い合わせる、という方法もないわけではないけど、そんな荒療治はできれば避けたい。
ある文献で、ローヤルゼリーが熱傷に効果的、ということを知った。
自分のこの傷にも効くだろうか。
僕の傷は、もはや「熱傷」というには時間が経ち過ぎている。「熱傷の瘢痕化」あるいは「瘢痕化した熱傷」とでも言うべきで、こんな傷に有効かどうかはまったく未知数だけど、もう他に何も手段がないんだ。
何ら期待せず、ちょっとした人体実験のつもりで試してみた。
まず、塗る前に写真を撮った。受傷から6ヶ月が経っている。
上記の3ヶ月時点での写真と、大して変わっていない。
よーし、これを初期値として、どれだけ回復するか(あるいは回復しないか)、ひとつ、見極めてやろう。

ネットで生ローヤルゼリーを注文し、傷の箇所を覆うように塗った。
塗ると数十分で、乾く。ハチミツみたいにベタつくこともない。
こういうのを毎朝続けた。
塗り続けて1週間。
スカーのナマナマしいピンク色が、少し色あせた感じがする。

さらに根気よく塗り続けて、もう2週間。
表皮の引きつれが、何か良くなってる気がする。

さらに塗り続けて2週間。
瘢痕、というより、シミ、みたいな感じに近くなった。

自分の体でする実験だから、ひいき目にならないよう、客観視するように努めて、傷の変化を追ってきたけど、当初の写真と比較すれば効果は明らかだ。
ローヤルゼリー、僕には効いた。すばらしく効いた。
もちろん当然の反論として、「経時的な変化で自然軽快していた可能性は排除できないよ。放っておいたって治ったかもしれないでしょ。だから、ローヤルゼリーによってスカーが軽快したとは言えないはず」と言われれば、まったくその通り。
対照実験ではないのだから、このあたりがエンピリックな報告の限界でもある。
しかし、美容が専門の先生なら誰でも知っていることだけど、スカーの治療は形成外科医泣かせなんだ。つまり形成外科医は、スカーが「放っておいたら治る」なんてことがあり得ないことを知っている。
瘢痕化した傷に悩んでいる人は、ダメもとでローヤルゼリーを試してみませんか?
症状を完全にとるのは難しいとしても、僕のように軽快する可能性はゼロではないと思うよ。
2019.8.18
明石公園で行われた『タイフェア明石2019』に行ってきた。
タイ料理の屋台や雑貨屋が多く出店してるだけでなく、タイにちなんだ催し物が盛りだくさんのイベントだ。
なかでも目玉は、えび(僕の小学校の同級生で、元プロボクサー)とボクシングをしてダウンを奪えばタイ旅行をゲットできる、というイベントだ。
明石公園のど真ん中、明石城のふもとに、本物のリングが用意されている。

タイフェアの救護係として、また、ボクシングのリングドクターとして、本来なら土曜日勤務のところを休診にして、明石に来たのだ。
後述するようにボクシングが熱戦だったのはもちろんだが、うれしい誤算は、他のイベントも予想外におもしろかったことだ。
いや、より正確には、「催し物を受動的に楽しむのではなく、催し物に能動的に参加する側に回ることになり、結果、ものすごく楽しめた」という感じだ。
まず、会場に到着して早々、運営の人から「タイ・コスプレに参加しませんか?」と誘われた。こういう誘いには、ひとまず乗っかることにしている。二つ返事で引き受けた。
こうして、白衣ではなく、タイの警察服を着て救護テントに詰めるという、思いがけないスタートとなった。

ちゃっかりリングにも上がって、お披露目もしてきた。
「体格とか肌の焼け具合とか、白衣を着る職業には見えない。むしろ、タイ人警察官と言われたほうがしっくり来る」とのお褒めの言葉を頂いた。コップンカー(^人^)

退屈してるんじゃないかと気を遣ってくれたのか、えびが「ミット打ちのイベントに参加しなよ」と声をかけてくれた。
もうどんな誘いにでも乗ってやろうという気持ちだった。
ムエタイのミット打ちのため、今日2度目のリングに。

なんやかんやしてる間に、次第に日が傾き光に赤やオレンジの色合いが混じりだしたころ、本日のメインイベントが始まった。
もうね、無茶な企画なんだ。
4人の猛者が本気でえびを倒しにくる。1人あたり、3ラウンド(1ラウンド2分)を戦う。1人なら何とかなったとしても、それを4人もだよ?体力が持たないって。
「いや、去年は誰も俺からダウンを奪えなかった。今年もいける」
同級生だからわかるんだけど、もう僕らの年齢というのは、体力的には下り坂だ。
日々の健康維持とか体作りを心がけない限り、いや、心がけていたとしても、体力は衰えていく。肉体のピークはとっくに過ぎている。ほんまに大丈夫なん?
「まぁ今年ダウンとられたら、来年はちょっと考えるわ」
試合前、笑いながらそんなことを言っていた。

1人目。
体がでかい。リーチも長い。えびはスーパーフライ級で、階級としては軽いほうだから、両者を並べてみれば階級の差は明らかだ。
実際、苦しい試合になった。リーチの長さを生かして戦う挑戦者に、スピードと手数で勝負するタイプのえびはとてもやりにくそうだった。
かろうじてダウンは免れたものの、3ラウンドを戦って体力の消耗は大きかった。
この1人を抑えればいいんじゃない。あと3人を相手にしないといけないんだ。
さすがのえびも、今度ばかりはダメなんじゃないかと思った。
2人目、3人目。
試合巧者とはこういうことをいうのだろう。えびの上手さが出て、経験の浅い若手相手に、横綱相撲の風格があった。
2人目の挑戦者に対しては、KOすることもできただろうが、えびはそういう勝ち方はしない。「最後まで打ってこい」とばかりにむしろ相手のパンチを受けて、なおかつ、勝ちきる、という試合だった。
3人目に対しても、体格でまさる挑戦者に対して、むしろ相手の得意なボディの打ち合いで応じた。正統なボクシングスタイルで攻めれば、もっと楽に勝てただろうに。
こういうえびの試合展開を、僕はやきもきしながら見ていた。
挑戦者に敬意を表して、相手の全力を受け切って、勝っている。
勝ち方に性格が出ている。紳士そのものだ。しかし、それでは最後まで体力が持たない。
最後の4人目。
この人も元世界ランカーだ。階級はえびと同じだが、最高ランクはえびよりも上だ。
リングそばでスパーリングをしている様子を見た。動きのキレが、これまでの挑戦者と異次元だ。
体力の消耗が激しい今のえびが、果たしてこの人から逃げ切れるだろうか。いよいよKOされるのではないか。僕は、ほとんど胸が痛いような気持ちだった。

とんでもない試合になった。熱戦も熱戦。
双方とも、元世界ランカー。つまり今は現役を引いている。
しかし双方とも、かつては世界チャンピオンを狙う位置にいたし、第一線を退いた今なお、その誇りを失っていない。ハイレベルな2人が繰り広げる駆け引きと、ぶつかり合い。
意地と意地が、リング上で、激しく火花を散らしていた。
解説者が思わず見入ってしまい、言葉が出てこない場面さえあった。
会場全体が、熱狂を秘めた沈黙、といった雰囲気で、リング上の2人を見つめている。
僕は何かしゃべると泣いてしまいそうだったので、横で一緒に見ているごうちゃんに何も話せなかった。途中から「どっちが勝っても負けてもいい、とにかくすばらしい試合だ」という気持ちになって、そういう思いで試合の行方を見守った。
すべての試合が終わった。
誰もえびからダウンを奪えなかった。
つまり、どの挑戦者もタイ旅行をゲットできなかったわけだけど、そんなことはどうでもいい(挑戦者の誰一人として、「タイ旅行に行きたいから」という理由で戦っている人はいない)。
僕は感動した。プレーを通じて人を感動させることができる人のことをプロというのなら、えびはまだまだプロのボクサーだな。
また来年もこの企画をやるのは、僕の心臓に悪いから、もう勘弁してほしいんだけど、きっとまたやるんだろうなぁ^^;
2019.8.12
きっとCBDオイルが効くだろう、と思われる患者に、現物の瓶を示しつつ、「これは大麻から抽出したオイルで、」なんて説明すると、
え、大麻?!、と血相を変える人がいる。
違法な薬物を扱っているんじゃないか、とでも言いたいようだ。
なるほど確かに、日本には大麻取締法という法律がある。
しかし1948年に制定されたこの法律が禁止しているのは、あくまで、花穂と葉の利用だけである。
具体的には、こうある。
「第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(Cannnabis sativa L.)及びその製品をいう。
ただし大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く」
条文を読めば、茎やタネはこの法律の守備範囲外、ということがわかるだろう。
実際、大麻由来の製品は、僕らの身近にありふれている。
七味唐辛子の「七つの味」の一つは、麻の実で、これはその名の通り、大麻の種そのものだ。
インコのエサにこだわる人にとって、麻の実はなじみ深いものだろう。
麻の実は漢方では麻子仁という。この言葉を聞いてピンときた人は、便秘で麻子仁丸を飲んだことがある人だ。
麻の茎は線維として非常に有用だ。麻紐(ジュート)としてそこらへんの百均に売っているし、丈夫な麻布は敷物(リネン)、服、バッグなどに加工されている。
さらに、麻は日本の文化にも密接にかかわっていて、たとえば神社の注連縄や神道の儀式にも使われている。
大麻は漢方薬に用いられる生薬の一つでもある。
神農本草経という古い中国の書物があって、365種類の薬物を上品(じょうほん)、中品(ちゅうほん)、下品(げほん)の三つに分類している。
上品は無毒で長期服用が可能な養命薬、中品は毒にもなり得る薬、下品は毒が強く長期服用が不可能な治療薬である。
大麻はこの三つのうち、どこに分類されていると思いますか。
なんと、上品です。毎日摂取してもまったく問題ない、というのが神農本草経の教えるところだ。
それどころか、「諸臓器の慢性病や障害を治し、内臓機能の働きを整える。血液循環をよくし体を温める。過量摂取すると狂ったように走り出す。長期服用によって脳の働きが良くなり、体が軽くなる」と記載されている。
日本で古来から使われてきた大麻草が、なぜ法律で取り締まられているのか。
1948年といえば、まだ日本がGHQの占領下にあった時代である。
日本の国草ともいえる大麻を禁止することで、日本の文化を破壊することを狙ったのだろうか(精神的な意味合い)。
あるいは、すでに戦前から様々な疾患に対する有用性が示されていた大麻を禁止して、代わりに西洋医学の薬を広めることが目的だったのか(製薬利権の確保)。
このあたりの事情については、深い考察をした良著がすでにたくさんあるので、僕はあえて踏み込まないようにしよう。
ただ、僕は現場の一臨床医として、目の前の患者をどう助けられるか、ということだけを考えている。
その治療手段が病態の根治をもたらすものであり(対症療法ではなく)、かつ、法律に違反するものではないのなら、使わない手はないと思う。
要するに僕は、「効くものなら何でも使いたい」。単純に現場主義なんだ。
大麻には大麻特有の成分として100種類以上の化合物が特定されているが、特に重要なのは、THC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)だ。
大麻の印象が悪いのは、大麻を吸ってラリってる人がいる、みたいなイメージがあるからだろう。
なるほど確かに、大麻には酩酊成分がある。THCがその本態だ。
一方、様々な薬効はCBDによるものだ。だからこそ、「CBDオイル」なわけだ。
このオイルに含まれているCBDは、茎あるいはタネから抽出したものだ。これなら法律に抵触しない。
THCは花穂、葉に多く含まれている(特に上方の枝ほど、先端部ほど多い)が、この部分の使用は法律で禁止されているため、徹底的に除去されている。
そうでないと、それこそ大麻取締法違反になってしまうわけだから、日本で購入可能などのメーカーのCBDオイルも、この点は厳格に守っている(と思う)。
さて、僕もCBDオイルを現場で使用し始めて以来、患者から様々な反応を得ている。
ある症例を報告しよう(プライバシーに関する詳細は変えてある)。
2歳時に自閉症の診断を受けた22歳男性。
「自傷行為を何とかして欲しい」という母親に連れられて来院した。
幼少時から自分のこぶしで自分の顔や頭を殴ってしまう。それも一回二回じゃない。延々殴り続ける。
母が本人の手を抑えていると、やむ。しかし外すと、再び始まる。
母がつきっきりで手を抑えていないといけないことになるが、これではとても日常生活が成り立たない。
そこで、肘関節が曲がらないよう、両腕は簡易着脱式のギプスで固定されている。
これをつけていれば、腕が曲がらない。だから当然、自分の顔を殴れない。
しかし母としては、我が子にこんなことをするのが申し訳ない。「何かの罪人じゃないんだから。少しでも長く、外してすごせる時間が増えれば」と思っている。
実際外してみて、大丈夫なときもある。食事や入浴などのときは、比較的落ち着いていることが多い。
しかし本人が強いストレスを感じたときや、母の気を引きたいときなど、強く自分の顔を叩く。
母と子は、ほぼ20年間、こういう生活を送ってきた。
母子家庭。親族の協力は得られない。
母としては、いいと言われることは何でもやった。
ABA(応用行動分析)法という、自閉症児などの異常行動を適正化する訓練を行った。
「自閉症の原因はワクチン接種による水銀だ」との説を聞いて、高額なサプリを買ったこともある。
どれもパッとしない。自傷は止まらない。
でも希望は捨てない。情報収集は怠らない。そういうなかで僕のブログを見たことを機に、来院した。
どうしたものだろうか。
僕を頼って来てくれたのはうれしいが、僕もこのような症例は初めてだ。答えはない。手探りでやっていくしかない。
自閉症の原因がワクチン由来の水銀だとすると、栄養療法的アプローチが奏功する可能性はあるはずだ。
食事指導とあわせて、ビタミンCの高用量摂取、亜鉛、セレンなどの有用ミネラルの供給によって、重金属のデトックスを促してみよう。
さらに、有機ゲルマニウムも併用しよう(自閉症児を対象とした研究で大幅に改善した症例があることは、過去のブログで紹介した)。
一か月後。「少しよくなったような気がします。外せる時間が少し、長くなりました」
確かに改善傾向ではある。しかし腕のギプスは相変わらず。
「あせることはない。一か月二か月ではなく、もっと長期的に見ていくことだ。あの研究でも有機ゲルマニウムを1年2年飲んで、改善したのだから」
そう思っていたが、CBDオイルのことを知り、この患者にも勧めた。
当てずっぽうに勧めたのではない。たとえばこの論文を読めば、自閉症患者にはぜひともCBDオイルを勧めたくなる。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6287295/
一か月後。来院した母親の顔から、笑顔がこぼれている。
「先生、見てください。この子の腕。ギプスがないです」
これには驚いた。「もうなしでいけるんですか」
「ときどきは出ます。でも、止めればやめてくれるので、もうつけていません」
ビタミンCやマルチミネラル、有機ゲルマニウムを地道に摂り続けた成果がいよいよ出たのか、それともCBDオイルのおかげか。
前者か、後者か、あるいはその両方か。
これは研究ではなく、臨床だから、正確な答えは出ない。
しかし個人的には、CBDオイルが劇的な効果を発揮したのだと感じている。
2019.8.11
甲子園で高校球児たちが、暑い夏をさらに熱くする戦いを繰り広げている。
スポーツニュースで、「5季連続甲子園出場の3人が中心。智弁和歌山が挑む”負けられない夏”」というのを見た。
甲子園に5季連続出場、というのがどういうことか、わかりますか。
甲子園に出場するには、1年生、2年生の夏、春、3年生の夏と、合計5回のチャンスがあって、この5回全てに出場する。これが、5季連続出場、ということだ。
言うまでもなく、これは非常に難しいことだ。
まず、チームが強くないといけない。甲子園に出場するためには、都道府県代表になることが当然の必要条件だ。
さらに、1年生のときからチームのスタメンでないといけない。野球部員だけどスタンドで応援している、というのではもちろん出場としてカウントされない。
この、5季連続出場を成し遂げたことのある選手は、甲子園の歴史上、これまで9人いる。
その一人は、清原和博だ。
こういう、甲子園の歴代記録がからむ文脈になると、清原の名前がしょっちゅう出てくる。
たとえば高校時代に甲子園で打ったホームランの個人記録(春夏通算)。
1位は清原の13本、2位は桑田真澄の6本(同数で元木大介)、4位は香川伸行の5本、5位が松井秀喜の4本と続く。
13本というのは図抜けている。空前の記録であり、恐らく絶後だろう。
清原和博の『告白』を読んだ。
どんなふうにしてこの天才バッターが育ったのか、少年時代にまでさかのぼって、話が語られる。
子供の頃から体が大きく、すでに小学校の時点で才能の片鱗を見せていたし、地獄のように厳しいPL学園野球部で1年生からレギュラーだった。
そして天才のそばには、常に別の天才がいた。
清原の同級生に桑田がいて、巨人時代には松井がチームメイトだった。
『告白』のなかに、松井をどう見ていたのかの記述がある。
「きついトレーニングをして、パサパサのささみを食べて、いいと思うことは何でもやって。僕は何が欲しくてそれをやったのか。
やっぱり、ファンの声援だったと思う。
今でも覚えているのは2000年、その年も前半戦は下半身のケガでほとんど出れなくて、二軍生活を送っていました。7月7日、代打で復帰したんですが、その時にすごい拍手をもらいました。
高校時代に甲子園でも対戦した中山裕章からホームランを打ったんですが、あのときの割れんばかりの声援は今でも忘れません。巨人に来てよかった、と思いました。
巨人に来てからずっと勝負弱かった僕が、この年から勝負強さを取り戻せたんですけど、それはケガをしている間に考える時間があって、松井敬遠、清原勝負ということに対する気持ちを整理できたからだと思う。
それまでは松井が敬遠されるたびに、自分の感情をコントロールできなくて凡打していましたが、「松井を援護射撃するんだ」という気持ちになれました。
後から考えれば、それまで松井のことをライバルとして意識していましたし、どこかコンプレックスのようなものがあったのかもしれません。
松井は年々進化していましたし、技術もすごいんですけど、一番の僕との違いはメンタルの強さだったと思います。
いつも同じように球場に来て、同じように球場を去っていく。そういう姿に「こいつすごいな」と思っていました。
たとえば大チャンスに打てなくてチームが負けても、淡々としているんです。
松井とはロッカーが近かったのでわかったんですけど、あいつはホームランを打った日もまるっきり打てなかった日も、同じように淡々と着替えて、同じようにスパイクを磨いて帰っていくんです。感情を見せないんです。
僕なんかはチャンスで打てなかった日は、ベンチからロッカーに戻って、椅子に座ったまま30分は動けませんでした。
松井は悔しくなかったんじゃなくて、感情をうまくコントロールできる人間なんだと思います。僕とは根本的に違うんです。
だから松井は松井。年齢にかかわらず、彼には彼のすごさがあると自分の中で認めたんです。そしたら、それからはあまり意識しなくなったというか、解放されました。
イチローや松井というのは、球場にたとえお客さんが一人もいなくても同じパフォーマンスを出せるタイプの選手だと思います。
僕は逆に、ファンの人たちとの一体感がないと力を発揮できなかった」
18歳の夏、甲子園歴代最多の通算13本塁打目を放ったバットは、栄光の象徴として、甲子園歴史館に飾られていたが、2016年の事件を境に撤去された。
PLの4番、西武の4番、巨人の4番として活躍した天才が、他の天才、桑田や松井をどのような思いで見ていたのか。また、このスラッガーがどんなふうに身を持ち崩していったのか。
過去の栄光、家族、すべてを失った男が、インタビュワーの質問に、心の底から素直に答えているようだ。
マスコミに変に持ち上げられて、「番長」とか囃し立てられて、本人もサービス精神があるものだからそれに乗っかる。それが全国に放送されて、本人の実態と離れた虚像がますます拡散する。本当はものすごく繊細な人なのにね。
この人は、そういうサービス精神ゆえに、自滅してしまったんじゃないかな。
その点桑田は、サービス精神がない、といえば冷たいようだけど、変にマスコミ報道に惑わされず、淡々と自分の仕事をする。成功するべくして成功するタイプだ。
個人的には、ソツのない桑田よりも、清原みたいな破滅型の天才のほうに魅かれるんだよなぁ。
2019.8.10
先月オーソモレキュラー学会に行くために久しぶりに新幹線乗ったら、降車時に運転手が英語でアナウンスしてた。いつから始まった習慣なのかね。しかし、その英語がびっくりするぐらいヘタクソだった。ああいう、全力のカタカナ英語風発音は久しぶりに聞いた。ついフフってなったけど、近くに座ってた外人も失笑してた。
日本人としては恥ずかしいけど、観光で来てる外人にとっては案外こういう英語は旅情を感じるポイントのひとつかもしれない。昔タイに旅行に行って飛行機から降りるとき、パイロットの英語がひどいタイ語なまりの英語で、そういうところに、僕はすごく「旅」を感じたから。
「学会で東京に行くんだけどさ、具体的には田町に行きたいんだけど、どう行くのが早い?新幹線で東京駅まで行って乗り換え?」と聞いたら、「いや、品川で山手線に乗り換え」と即座に返ってきた。さすが、東京在住だけあるなぁ。
「いや、その質問は超イージーだよ。あつしが電車のことわかってなさ過ぎるだけだね。山手線の内回りと外回りもわかってないでしょ」
あー、それ、確かにわからない。大阪にも環状線があって、内回りだ外回りだ言ってるけど、意味がわからない。
「まずね、日本では道路、鉄道、いずれも左側通行だってこと、わかる?」
あー、言われてみれば確かに!道路は知ってたけど、線路も左側通行やね。それは知らんかったわ。
「でね、次にその左側通行の道路なり線路なりが、輪っかを描いているところを想像してみなよ。外側を走ってる電車は時計回りに、内側を走ってる電車は反時計回りに動いていることがイメージできるでしょ」
あー、なるほど。よくわかった。それなりに長く生きてきたつもりだけど、こんな基本的なこと、今まで知らなかったとはなぁ。環状線の内回り外回り。義務教育で教えてもいいぐらいの話だね。
ところで、環状線の大阪駅から新今宮駅まで行くには、内回り、外回り、どっちが早い?
「うーん、微妙だね。それほど変わらないんじゃないかな。大阪のことは詳しくないから、ネットで調べてよ」
閑話休題。
オーソモレキュラー学会の話をしよう。とある演者が、PQQについて話していた。
PQQって聞いたことありますか?
「環太平洋パートナーシップ協定のこと?」それはTPPだね。
「バーベキューのこと?」それをいうならBBQだね。
「6Pチーズで有名な?」それはQBBだね。
そうではなくて、、、
PQQというのは、ピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone)の略称だ。
PQQについては、文献で何度か読んだことはあったけど、誰かの講演を聞くのは初めてのことだった。
PQQは細菌の脱水素酵素の研究中に、酸化還元反応に関与する補酵素として発見された。哺乳類では生合成されないが、ヒトやラットの各組織には微量のPQQが存在する。これは食事から摂取したPQQが全身に取り込まれるためだ。
ある栄養素が重要かどうかは、その栄養素を抜いた食事をとらせてみて、どういう影響が出るかを観察すればわかるものだ。
ラットでそれをやってみた。すると、PQQを抜いたエサを与えられたラットでは、成長障害、免疫異常、生殖障害など、様々な不調が現れた。
写真で比較すると、その影響は明らかだった。普通食のコントロール群に比べ、PQQ欠乏食のラットは、小柄で、毛並みの色ツヤが悪く、いかにも病弱な様子だった。
PQQの効用として、成長促進作用、抗糖尿病作用、抗酸化作用、神経保護作用などが確認されている。これらの効用の背景には、PQQがミトコンドリアの活性を高める可能性が言われている。
体内で生合成できず、食事性に摂取するしかない必須の微量栄養素。これはビタミンの定義だ。
そういう意味ではPQQはビタミンに他ならないのだが、現在のところ、学者間でのコンセンサスはない。しかし近いうちに、公式にビタミンの一種として認められる日が来るかもしれない。
講演を聞きながら漠然と思った。
成長促進作用があるということは、僕みたいに筋トレをしている人にとっては、筋トレの能率を高めてくれる可能性はないかな。
ミトコンドリアのエネルギー産生能率を高めるということは、アスリートの運動能力を高める可能性もあるな。
PQQのある食事とない食事で、あれだけマウスの色ツヤが違うということは、美容にかなり効く可能性があるな。
欠乏すると不妊になるということは、現在不妊症に悩むカップルにとって、有効な治療法となる可能性はないかな。
発見されて以後まだ歴史の浅い物質だけに、今後の実力は大部分未知数で、ひょっとしたらものすごい有効な栄養素かもしれない。
ナイアシンやビタミンCぐらい効くとすれば、栄養療法の世界にとっては、ちょっとした事件だろう。
そう思って、ネットでPQQをいくつか買ってみた。親しい人に手渡して「モニターになってよ。後で使った感想、教えて」
で、きのう、使用者本人から話を聞いた。
「すごいよ、これ。ほら、見て、私の肌。2週間前よりきれいになったと思わない?(う、うん、きれいになった、、かも)もうね、化粧の乗りが全然違う。明らかに肌のツヤがよくなった」
他の変化は?
「他は、ちょっとよくわからない。もともと別に病気もないし、元気だから。ただ、私が一番変化を感じたのは、肌の調子。これは本当に、劇的によくなったと思う」
女性にとって「肌がきれいになる」というのは、たとえば「風邪をひきにくくなる」とか「疲れにくくなる」なんかよりも、はるかにうれしいことだろう。
ちなみに、使ったのはこのメーカーのもの。

コエンザイムQ10やNAC、グルタチオンが入っているから、PQQ単独の効果とは言いにくい。他の栄養素がもたらす抗酸化作用やミトコンドリアの賦活作用などが、PQQの効果と相乗的に効いた可能性は、普通にあるだろう。
誰しもに効くとは限らないが、美肌を目指す人は一度試してみる価値はあるだろう。