ナカムラクリニック

阪神・JR元町駅から徒歩5分の内科クリニックです

2019年5月8日

栄養と知能~講演会2

2019.5.8

保護者からの質問
・間食や夜食について、どうしても体に悪いお菓子になりがちなので、チョコなどどのくらいまでならいいですか。
また、おすすめの間食や夜食があれば教えてください。

カカオ100%のチョコって食べたことありますか?あれ、食べた人はわかると思うんですけど、全然おいしくないでしょ。
チョコレートのおいしさって、砂糖のおいしさなんだなって、逆にわかりますよね。
お菓子のチョイスとしては、チョコレートというのはベターだとは思います。
同じ砂糖の含有量のお菓子でも、チョコレートのほうが、まんじゅうとかケーキとかより虫歯になりにくい、っていう研究があります。
この理由としては、カカオに含まれているCBH(カカオ豆の殻成分)には抗菌作用があること、カカオ由来のマグネシウムなどの微量ミネラルの効果、カカオに含まれるテオブロミンの抗酸化作用など、いくつかの要因があります。
ただ、カカオの苦みと調和するだけの甘みをつけるために、大量の砂糖が使われているわけですから、チョコをどのくらいまでなら食べていい、とは言えません。
精製した白砂糖の理想の摂取量は、ゼロです。とらないのであれば、それに越したことはありません。
間食や夜食でおすすめということであれば、ナッツや、ジャコのような小魚をつまんでいればいい。
でも一番のおすすめは、夜食を必要とするような勉強スタイルをやめることです。夜には、遅くても10時には寝ましょう。
深夜まで勉強しているというのは、いかにも「勉強している」感があって、本人はそのこと自体に悦に入っていたり、はた目にはいかにも頑張っているように見えますけど、単に日中の勉強能率が悪いだけ、ということがけっこう多いです。
日中の能率を高めることを考えましょう。

・魚料理をあまり作らないのですが、何か学習に影響はありますか。

今日の講演にからめて言うと、魚をよく食べる原住民は多いです。
ポリネシアの原住民は魚、カニ、タコを上手に捕まえます。エスキモーにとって鮭は不可欠な食材です。
ただ、魚を食べない原住民もいます。
山岳民族とか、アフリカの内陸部に暮らす部族では、魚を食べません。というか、現代のように輸送・冷却保存の技術がない時代には、魚を食べる機会がありませんでした。
でもそういう部族も、しっかり健康を保っています。
そういう意味で、魚が健康に必須である、とは言えません。
ただ、やはり今日皆さんに紹介したように、「少なくとも週に一回魚を食べる子供はそうでない子供と比べて7歳時点でのIQが有意に高い」ということが研究で分かっています。
せっかく島国に住んでいて、良質な魚が手に入る環境にいるのですから、魚を食べないのはもったいない、とは思います。
なぜ魚料理をあまり作らないのですか。直接伺いたいところですが、何か理由があるのだと思います。魚をさばくのが苦手だ、とか。
「魚、特に遠海を泳ぐ大型魚(マグロ、太刀魚、さわらなど)には水銀が高濃度に含まれているから、子供の知能に悪影響がある」との懸念から、魚を控えている人がいるかもしれません。
これについては、後の論文で否定されています。
『魚由来の水銀は子供のIQを低下させない」(Joel Scwartz 2006)
魚をさばくのが苦手でないのであれば、遠慮なく魚を食べてください。

・ケトン食で頭脳のパフォーマンスを高める、という考え方についてはどのように思われますか。

これについては、学者の見解は割れています。
肯定的な研究としては、
『ケトン食は認知機能を高め、海馬とは別に前頭前皮質に生化学的効果がある』(A.Hernandez et al 2018)
『ケトン食は自閉症マウスの腸内細菌叢を改善する』(C.Newell et al 2016)
などがあります。一方、逆に否定的な研究としては、
『ケトン食はビオチン欠乏を引き起こす』(M.Yuasa et al 2013)
とか、他にもセンテナリアン(百寿者)や沖縄長寿者の研究では「長寿者ほど炭水化物をよく摂っている」というデータがあります。

個人的には、健康な子供に厳格な糖質制限をやらせるのは行き過ぎじゃないかなと思います。
砂糖菓子は論外として、「小麦は控える、お米はオッケー」、ぐらいのスタンスでいいんじゃないでしょうか。
というのは、患者の話を聞いていると、厳しい糖質制限をして、「最初は調子がいいけど、長期的にはあんまりよくない」、っていう人が多い印象です。
日本人の腸内細菌には、乳酸菌とか米のでんぷん質が好物の菌がいて、これが体に有用なビタミン(ビオチンなど)を作ってくれているようです。厳しい糖質制限をして、肌がガサガサになったのは、腸内細菌叢の変化によるビオチン産生の低下が関係している可能性があります。

・テストや入試などの前にとる食事のおすすめを教えてください。

記念日にこだわる人っているでしょ。特に女性で。誕生日とかクリスマスとか。
個人的には、僕そういうのイヤなんですね。
イヤっていうのは、僕が相手にやってあげることは問題ないんだけど、相手が記念日だけ大事にして、その他、何でもない364日をおろそかにするのは、どうなのかなっていう。
「今日は特別な日だから、特別上等な栄養肥料をあげよう」ではなく、毎日水をかえてあげるほうが、植物も喜ぶと思いませんか。
スペシャルな日に何かをしてあげる、ではない。何でもない毎日のなかで、コツコツと小さな愛情を注いであげる。
本当の成長は、そのようにしてもたらされると思います。
子供の食事には、そういう気の配り方をしましょう。
具体的にどのように食事に配慮してあげればいいか、そのヒントは今日の話のなかにあったと思います。参考にしてください。

何を食べるべきで、何を食べるべきでないか。
今日はいろいろとお話ししてきました。
今日の話、ちょっと重いのは、お母さんがもし、甘いものが大好きだった場合ですね。
子供って、親が言うことよりも親がすることを見て学ぶものですから、お母さんが口先では「甘いものはダメ」って言って、自分はムシャムシャ食べてたら、子供は「何だそれ」って思いますよね。
だから、今日の話って、重いと思います。
食事を変えるというのは、子供に食べさせるものを変えるだけじゃありません。
お母さんも含め、家族全員が変わることを求められます。きっと大変なことだと思います。
でもそれだけの価値は十二分にあります。
食べ物が変わると、体が変わります。
体が変わると、心が変わります。
心が変わると、人生が変わります。
「成績アップ」とか「IQアップ」とか、せこい話です。
そんな小さなことじゃない。人生が変わるんです。食べ物を変えるのは、それぐらいの大きな話です。
今日の話を参考に、ちょっとずつ変えてみてください。得るものはきっと大きいですよ。

栄養と知能~講演会1

2019.5.8

浜学園という塾がある。有名中学校への進学率の高さでもって鳴る塾で、関西では知らない人はいない。
たとえば灘中学校の定員は180人で、例年浜学園出身者が90人前後を占める。去年度に至っては102人と、過去最高の合格者数を記録した。
灘中生の半分は浜学園を経由しているわけで、驚異的な進学実績だ。
灘に合格するということは、そこらへんの私立中学に合格するということとはずいぶん意味が違う。
12歳時点では日本のトップレベルの頭のよさだといえるし、そのまま順調に成長すれば、国の科学技術や行政司法の中枢を担うエリートになる可能性も高い。

もっとも、蛇足ながら付け加えておくと、浜学園の全員が灘に行くようなエリートの卵かというと、そうではないけどね^^;
パッとしない成績の子ももちろんいる。
でも総じて、どの保護者さんも教育熱心で、子供の将来に強い期待をかけて、この塾に通わせている。

大変名誉なことに、縁あって小医がこの塾の保護者相手に、『栄養と知能』をテーマに講演することになった。
そして今、講演を無事終了し、自分のクリニックに帰ってきて、こうやって久々のブログの記事を書いている。
今回僕が話してきたことは簡単で、一行に要約できる。
「僕らの体は、食べたものからなる」
これだけ。
この単純な事実を、様々な科学的データをもとに、いろいろな表現で、手を変え品を変え、お伝えしてきた。

まず、ウェストン・プライス博士の『食生活と身体の退化』を紹介した。
原住民がいかに見事な歯をしていたか。それが、西洋文明の影響を受け、精製した砂糖や加工食品を食べるようになったせいで、あっという間に虫歯だらけになった。
プライスの残した写真には、圧倒的な説得力がある。「現代の食事には、何らかの間違いがある」ということを、見る者に雄弁に語りかける。
そして、食事の変化によって失われたのは、すばらしい歯だけではない。
彼らの健やかな肉体は病気がちになり、穏やかな性格は神経質になった。かつての平和だった村には、病人と犯罪が急増した。
逆の事例も示した。すっかり損なわれた健康も、食事の改善によって回復できること、また、栄養の改善が知能の向上に好影響を与えることを、プライスの臨床症例をもとに示した。

ルース・ハレル博士の研究を紹介した。
「知的障害児16人(IQ=17~70)にサプリ(8種類のミネラルと11種類のビタミン)あるいはプラセボを8か月にわたり投与した二重盲検。
最初の前半4カ月でサプリ投与群は平均IQで5.0~9.6の上昇を示した。
4カ月経過時点で、プラセボ群にもサプリを投与したところ、後半終了時には同群で平均IQが少なくとも10.2上昇していた。
前半・後半を通じてサプリ投与を受けた群では、後半4カ月でさらにIQが上昇していた。
知的障害児のなかにはダウン症児が4人いたが、うち3人でIQが10~25上昇した。
また、被験者のなかには、IQの向上のみならず、視力の回復や成長率の増加が見られた者もあった」
この研究を示し、なぜ効いたのか、その理由として、遺伝栄養性疾患(genetotrophic disease)の概念について説明した。

ビタミンがビタミンとしての活性を発揮するためには活性型になる必要があるけど、そこには酵素の働きが関与していることが多い。
そして酵素の働きは、遺伝の影響を強く受ける。
たとえばお酒を飲めない人は、アルコール分解酵素の働きが弱い人だ。
ある種の薬剤に対して少量で著効する人もいれば、大量に投与しても反応しない人もいる。ここにも酵素の働きの違いが関わっている。
ある種の栄養素(ビタミン、ミネラル、アミノ酸、脂肪酸など)に関して、酵素の働きが弱いため、正常な代謝のためにはその栄養素が多めに必要なのに、その供給が少ないせいで欠乏症をきたす。
これが遺伝栄養性疾患だ。
そして、ハレル博士の研究が示唆しているのは、知的障害は遺伝栄養性疾患ではないか、ということだ。
「サプリでIQが上昇する」
教育熱心なお母さんには、なかなか聞き捨てならないセリフだろう^^

サプリが成果を挙げた事例として、アメリカの刑務所で行われた研究を紹介した。
サプリの投与によって、刑務所の受刑者の反社会的行動(ケンカ、暴力など)が減少するかどうかを2週間にわたって調べた研究。
サプリ投与群ではプラセボ投与群に比べて、規律違反が35.1%減少した。
この研究を、学級崩壊や家庭内不和とからめて話した。
学級崩壊に対しては、問題児のカウンセリングを行うなど、話し合いによってその問題児の気持ちを理解しよう、というアプローチがとられるのが一般的だろう。
しかし成果は上がっているのだろうか?
カウンセリングがムダとは言わないけど、本質ではないと個人的には思う。
栄養面からのアプローチこそ、問題の核心を突く唯一の方法ではないか。
健康な食事をして、心身ともに満ち足りた人が、授業中にバカみたいに騒ぐというのは、考えにくいはずだ。

以前この院長ブログでも紹介した、ご飯食とパン食のどちらがよいのかを調べた研究『健康な小児における朝の主食のタイプが灰白質および認知機能に影響する』(Y.Taki et al 2010)を紹介した。
朝食にご飯を食べる子供では、パン食の子供に比べて、灰白質比が大きくIQも高かった、というのが概要だ。
その原因として論文の著者は、GI(グリセミック指数)の違いを挙げている。
ご飯はパンよりもGIが低いため血糖値の変動を起こしにくく、そのために認知機能に好影響を与えているのではないか、というのが著者の考えだ。
しかしそれだけではないのではないか、と僕は指摘した。
大手メーカーが製造するパンの原材料を見てみるといい。砂糖、ブドウ糖果糖液糖、植物油脂など、体に好ましくない成分が多く入っている。
精製した小麦だけでなく、過剰な糖質を摂取することになり、そのために代謝プロセスでビタミンB群が失われる。
ミトコンドリアでのエネルギー産生は、大幅に低下することになる。
つまり、パンは栄養になるどころか、マイナス栄養ではないか。
あともう一つ、朝食にパンを出すかご飯を出すか、というところに、お母さんの子供に対する姿勢が表れていることを指摘した。
朝食にご飯を炊くということは、それだけでは済まない。おかずを作らないといけない。「白米だけ食っとけ」ってテーブルに置かれたら、きついよね^^;
でもパンの場合は、目の前にパンだけ置かれて、「焼いてジャムつけて食っとけ」で案外成立してしまう。
つまり、毎日子供にご飯を炊いているお母さんというのは、おかずを作る手間をも惜しまないお母さんだ。
こういうお母さんは、食事面だけしっかりしているのではなく、他の面でも子育てに熱心な可能性が高い。
逆に、食事で手を抜くお母さんというのは、食事面でだけテキトーなのではなく、他の面でも子供に無関心な可能性が高い。
こういうお母さんの姿勢が、子供のIQに影響しているのではないか。

最後に、「頭を良くするもの、悪くするもの」をエビデンスを交えつつ紹介した。
頭を良くするものとしては、ビタミンD3、オメガ3系脂肪酸、ヨード、フォスフォチジルセリン、有機ゲルマニウム、イチョウを挙げた。
頭を悪くするものとして、フッ素、有害金属(鉛、水銀、ヒ素など)、人工甘味料(アスパルテーム等)、トランス脂肪酸を挙げた。

1時間の講演にしては盛り沢山の内容で、最後は駆け足になってしまった。
保護者から事前に頂いていた質問にも、答える時間がなかった。
稿を改めて、保護者からの質問に答えることにしよう。