精神科病院に勤務していた頃、精神科通院歴が全くない初診の患者に投薬治療を開始するのが、とても苦痛だった。通院歴20年以上で薬漬けになっているような人、もはや薬なしでは心身ともに立ち行かなくなっている人が相手なら、まだしも心は痛まない。「この人はもう仕方ない」と自分を納得させることができたから。しかし精神科の薬を飲んだことがない人に初めての薬を処方するのは、悩ましかった。自分の処方が、患者を薬地獄に突き落とすきっかけとなる…自分の手が汚れるようで、何とも恐ろしかった。
診断基準的には、どこからどう見ても、立派なうつ病。普通の精神科医なら”投薬”の一択。SSRIでいくかSNRIでいくかエビリファイでいくか、どの薬を使うかに関して細かい流儀の違いはあるだろう。しかし薬を使わないなんて、あり得ない。でも、僕は使いたくなかった。普通じゃないので(笑)
「心が薬で治っちゃったら、薬をやめられなくなるよ?しんどいときだけに飲む風邪薬じゃないんだよ?しかもいろんな副作用があるよ?薬を始める前に、まず食事を含めた生活習慣の改善から始めてみない?お助けになるサプリもあるよ」そう言ってあげたかった。でも、しがない勤務医である。雇われの身でありながら、出すぎた真似はできない。
開業して、自分の思うようなスタイルの医療ができるようになった。僕の開業を後押ししたのは、「オーソモレキュラーで多くの人を救いたい」という思いよりも、「人を薬で廃人にするような、こんな医療、もう勘弁してくれ」という良心の呵責のほうが大きかったと思う。患者に、何より自分に、嘘をつき続けることが、たまらなかった。
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