ナカムラクリニック

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2019年

マクロファージ

2019.1.18

多細胞生物は単細胞の真核生物から進化したが、最初の多細胞生物は海綿動物などの二胚葉の生物である。
二胚葉というのは皮膚になる外胚葉と腸になる内胚葉のことだから、二胚葉生物というと皮膚と腸管しかないように思われるが、実際には、外胚葉と内胚葉のすきまに多くのマクロファージが存在し、生体防御を担っている。
三胚葉生物になると、これらの二胚葉に中胚葉が加わるが、これはマクロファージが進化したものである。
つまり、二胚葉生物といえども、すでに三つの構成要素から成り立っているということだ。
マクロファージは、体の中の「単細胞生物」そのものだ。そしてこの単細胞生物は非常に有能で、呼吸、えさ取り行動、消化、代謝、異物認識、生体防御など、一つの細胞ですべてを行なっている。買い物、料理、洗濯、子守など、何でもできるお母さんのようだ。
単細胞生物から多細胞生物に進化するにつれ、多細胞生物時代の名残をそのまま残したマクロファージから一部の特徴を強調する形で、様々な細胞群が生じた。
マクロファージ時代の貪食能を強調したのが顆粒球、接着分子を多様化し異物認識(免疫機能)を高めたのがリンパ球、傷をふさぐ性質に特化したのが血小板、酸素の運搬機能を洗練させたのが赤血球、組織を修復することを専門にしたのが線維細胞、収縮する細胞内骨格を発達させたのが筋細胞、血球の入れ物になったのが体腔上皮や血管内皮細胞である。
学校で習うのはせいぜい、「肝臓のクッパー細胞、脳のグリア細胞、肺の肺胞マクロファージ、腎臓のメサンギウム細胞、骨の破骨細胞、皮膚のランゲルハンス細胞はマクロファージが分化したもの」程度だが、決してそれだけではない。
二胚葉生物と三胚葉生物の違いは中胚葉の有無だが、「中胚葉に由来する細胞群はすべてマクロファージ由来である」と言った方が真相に近いだろう。

体の防御は主に顆粒球とリンパ球によって行われるが、これらはマクロファージが進化したものだ。
マクロファージはアドレナリン受容体、アセチルコリン受容体の両方を持ち、交感神経、副交感神経、いずれの自律神経の活性化でも働くようになっている。
マクロファージは交感神経緊張のときには分泌現象を抑制し、分化や増殖、遊走(炎症部位への移動)を行う。逆に副交感神経刺激によって、貪食や分泌を行う。
食事と排泄が、個体レベルでも細胞レベルでも副交感神経支配になっているというのは興味深いと思う。
ここには、単細胞生物から多細胞生物に進化してきた歴史がからんでいる。
多細胞生物の特徴は分業制だ。複数の細胞群が寄り集まって組織を構成し、それらが機能分担しているが、それぞれが好き勝手に動いているわけではない。
生物にとって必要なものは二つ、えさ取り行動と消化であるが、各組織はその目的に合わせて協調して動くようになっている。
酸素を取り込んで活動し、エネルギーを消費する働きを交感神経系が同調して行い、えさを吸収したり排泄したりしてエネルギーを蓄積する働きを副交感神経が同調して行なっている。
分業し、かつ、協調する。これが生物の歩んできた進化の道筋だった。
僕はここに、人間社会の進化そのものを見るような気がして、ミクロとマクロの相応を実に不思議に思う。
昔、NHKで『驚異の小宇宙・人体 THE UNIVERSE WITHIN』 という番組をやっていた。もう30年ほど前の番組だから、内容的には当然古びている。ただ、この番組のコンセプト、「体の中にこそ、宇宙があるのだ」というテーマは決して古びていない。
科学が解き明かす人体の精妙さを目の前にして、僕らは、ただ、感嘆の息をもらす。
そして、人為の卑小さを知る。
内なる宇宙の摂理にのっとった医療を実践したい、と常々思っているのだけれど、果たして今の自分にそれができているだろうか。

https://m.youtube.com/watch?v=jkw9vGY-0pA

自律神経と白血球

2019.1.17

NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬) という痛み止めがある。
痛み、発熱、炎症に対して著効する。誰でも一度は使ったことがあるぐらいメジャーな薬だ。
NSAIDsを使うと、交感神経の緊張状態が引き起こされる。どのような機序によってか。
まず、炎症とは、生化学の言葉では、プロスタグランジン(PG)の産生のことである。
細胞膜にあるアラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(COX)が作用して、PGが作られる。
NSAIDsはCOXの働きを阻害することでPGの産生を抑え、結果、痛み、発熱、炎症が抑えられるわけだ。
実はPGは、交感神経系刺激物質のカテコールアミン(CA;ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)の産生を抑制する働きがある。
つまり、NSAIDsを使えばPGが減少し、PGの減少によってCAが増加する。こうして、交感神経の緊張が引き起こされる。

交感神経系はほとんどあらゆる分泌現象に対して抑制作用を発揮するのだが、そもそも、人体において、分泌とは何か。
ざっくり言うと、分泌は摂食、消化、排泄という、副交感神経が支配する一連の流れに常に付随する現象だ。食べ物を口に入れて咀嚼する瞬間から、もう唾液の分泌が始まっているし、胃液、膵液、腸液など、様々な分泌が起こる。
しかし分泌が見られるのは、何も消化に限ったことではない。下垂体などの内分泌細胞がホルモンを分泌したり、白血球がサイトカインを分泌したり、ニューロンが神経伝達物質を分泌したりする。
これらは刺激に対して細胞内顆粒を放出する現象であり、細胞にとって一種の排泄行為である。
そう、分泌とは、本来排泄から進化したものだ。だから、今でもこの働きは副交感神経支配で起こっている。
そこで、交感神経が緊張し、副交感神経の働きが抑えられ、分泌が抑えられるとどうなるか。
神経刺激を伝達するための分泌が抑制されるため、知覚神経の働きがブロックされる。NSAIDsが鎮痛作用を発揮する機序の一つだ。
一方、交感神経の緊張は頻脈や高血圧を生じさせる。痛み止めを常用すれば、慢性的な疲労感にさいなまれるようになる。
そして、顆粒球の増多も出現する。過剰になった顆粒球は、胃や関節も含めた全身のあらゆる組織を破壊し始める。
たとえば潰瘍性大腸炎や関節リウマチは、発症の背景に交感神経の緊張があるんだけど、漫然とNSAIDsを使い続けると、交感神経がますます緊張し、病態は増悪し、難治化する。痛みを止めてくれるありがたい薬かと思いきや、実は病気の悪化の原因だという、何とも悲しいことが起こる。現代医学の薬にはこういう逆説がつきものだ。

NSAIDsの副作用として胃潰瘍は有名だが、この機序にもやはり交感神経が関係している。交感神経の緊張持続による血流障害と顆粒球増多による粘膜破壊、これがNSAIDs潰瘍の本態だ。
NSAIDsを処方するときには、胃酸抑制薬も合わせて処方されることが多い。しかしルーチンで処方しているだけであって、その本当の意味を知っている医者が果たしてどれくらいいるものか。
NSAIDsは交感神経緊張状態を引き起こす、と先ほど言った。
交感神経が緊張しているということは、「闘争か逃走か」の状態、つまりおちおち飯なんて食ってられる状況じゃないわけで、腸蠕動は抑制され、酸分泌は弱まり、食欲不振の状態になっている。
つまり、本来胃酸の分泌は落ちているはずなんだ。
そういう状況に、なぜ、胃酸抑制薬を処方するのだろう。安保徹先生はここに疑問を持った。
胃酸抑制薬なんて害悪だ、と言っているわけではない。むしろ、臨床で患者の声を聞いてみると、この薬を飲めば胃部不快感が確かに楽になっている。
「いわゆる胃酸抑制薬が胃潰瘍に効くのは、胃酸を抑制しているからではなく、顆粒球の胃粘膜浸潤を抑制するからではないか」と安保先生は考えた。
「胃潰瘍の酸原因説」を否定し、「胃潰瘍の顆粒球原因説」を唱え、海外論文に投稿した。2000年、この論文はアクセプトされ、世界中の消化器内科医から大きな反響があった。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11052321
副交感神経反応という現象がある。
交感神経緊張状態が続くと、体は「これではいけない」と思い、緊張を緩和しようとする。交感神経とは逆の、戻り反応のことだ。
胃潰瘍の患者では消化管機能が抑制されているが、このままその状態が続けば、飢餓状態になってしまう。そこで突然、副交感神経反応が起こり、空っぽの胃が蠕動運動を始め、胃酸や消化酵素を分泌する。そして、痛みを伴う。だから、ご飯を食べると痛みは治まる。
副交感神経反応自体は生体の治癒反応なのに、これを原因と見間違えたのが胃潰瘍の酸原因説だ。
「胃潰瘍の顆粒球原因説」は従来の説に疑問を呈する非常に説得力のある論文で、学会に一石を投じる形になったものの、結果的には無視されている。製薬会社が「胃酸抑制薬」という名称を変更したという話は聞かないし、医学部生は相変わらず胃潰瘍の原因は胃酸だと教わっている。
薬の安易な利用に警鐘を鳴らす安保先生の「自律神経による白血球支配」なんていう考え方は、製薬会社からすれば断じて容認するわけにはいかないだろう。

白血球の自律神経支配

2019.1.16

「白血球分画オーダーしてるけど、これ、どういうこと?」
上級医に尋ねられ、言葉につまった。どこから説明すればいいだろう。
とりあえず、ざっくりと答えを返す。
「顆粒球優位かリンパ球優位かが分かれば、交感神経緊張状態か副交感神経優位か分かりますし、それに、」
「いや、そういうの、いいからさ。医療費抑制のためにもね、こういうムダなオーダーをしちゃダメだよ」
「はい、わかりました」
文末が疑問形になっているのは単なる婉曲表現であって、本当にその理由を聞いてるわけじゃないんだ。
真面目に答えようとして損したな。
しかし、白血球分画の実施料は15点。つまり、150円だ。
たったの150円で非常に有益な情報が得られると僕は思っているんだけど、データの意味を知らない医者にとっては、確かにムダ以外の何物でもないだろうね。

自律神経には交感神経と副交感神経がある。
これらは互いに拮抗する働きをしていて、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキにたとえられる。
たとえば日中活動的に過ごすときには、交感神経が優位になっていて、心臓の機能を高め、呼吸を早くし、消化管の動きを抑制する。
副交感神経は夕方から夜にかけて、休んでいるときや食事をしているときに優位になって、心臓の働きや呼吸を穏やかにし、分泌現象を促進し消化管の蠕動運動を活発にする。
交感神経は「闘争か逃走か」を司る神経とも言われる。英語の「fight or flight」の訳で、誰が訳したのか知らないけど、うまい翻訳だと思う。
一方、副交感神経は「休息と消化」の神経と言われている。英語では「rest and digest」と脚韻を踏んでてシャレてるけど、和訳では韻も何もなくてつまらない笑
交感神経の刺激は、副腎の出すアドレナリンや交感神経自身の出すノルアドレナリンによって媒介されている。
一方、副交感神経の刺激を媒介するのはアセチルコリンである。
どの臓器にも交感神経、副交感神経が分布していてその機能を調整しているわけだけど、驚くべきことに、白血球さえ自律神経の支配を受けいている。
つまり、白血球の細胞膜上には交感神経の刺激を受け止めるためのアドレナリン受容体や、副交感神経の刺激を受け止めるためのアセチルコリン受容体があり、自律神経の支配を受けている。
この事実を発見したのが、安保徹先生だ。

白血球には大別すると顆粒球とリンパ球がある。顆粒球は細菌を貪食して処理し、リンパ球は抗体などを産生する。
顆粒球、リンパ球、いずれもマクロファージから分化した細胞である。
顆粒球は交感神経の支配下にあり、その膜状にはアドレナリン受容体がある。
リンパ球は副交感神経の支配下にあり、膜状にアセチルコリン受容体を持つ。
だから、ストレスなどで交感神経の過緊張が起こると顆粒球が増加し、その放出する活性酸素により組織障害が起こる。
逆に、休息や食事の過剰、つまり運動不足や肥満によって副交感神経が優位になりすぎるとリンパ球が増え、アレルギー体質になる。
つまり、白血球分画を見れば、顆粒球、リンパ球の比率が分かり、交感神経、副交感神経どちらが優位になっているかを判断できる。
おおよその正常値としては、顆粒球が60±5%、リンパ球が35±5%ぐらいだ。
たとえば顆粒球70%、リンパ球25%のような人は、交感神経が緊張状態にある。
症状としては、肩こり、腰痛、便秘、食欲不振、高血圧、痔、歯槽膿漏、不眠などがある。
逆に、顆粒球45%、リンパ球50%といった分画の人は、副交感神経が優位になっている。
鼻水、かゆみ、蕁麻疹、うつ、元気が出ない、アレルギー疾患などの症状がある可能性が高い。

自分の採血データを見て、顆粒球過多なら「最近ストレスが多すぎたせいだな」「薬の飲みすぎのせいだな」、リンパ球過多なら「運動不足のせいだろう」など、自分の生活を見直すきっかけになる。
白血球分画のこうした読み方は、すでにアメリカの検査会社でも取り入れられている。
安保先生の論文が説得力を持って受け入れられている証拠だろう。
残念ながら、本家の日本で「分画なんて調べるのはムダ」という医者ばかりなのだから、安保先生も泉下で残念に思っていることだろう。
http://www.brainimmune.com/autonomic-nervous-system-control-of-leukocyte-distribution-physiology-and-implications-for-common-human-diseases/

安保先生は生前、著書や講演などで一貫して薬の害を言い続けてきた。
「体にいい薬というのは、ありえない」これが、長年免疫を研究してきた安保先生の結論である。
そこらへんのオヤジが言っているのではなく、免疫学の世界的な権威が言うのだから、一部の人たちにとって、安保先生の存在は実に目障りだった。
不審者に研究室を荒らされるなど、先生は身の危険を感じていた。講演で冗談交じりに「私が死んだら、殺されたと思ってください」などと言っていた。
先生は二年ほど前に急死された。そのあたりの事情をネットで調べてみた限りでは、どうも他殺の線が濃い印象を受けるが、当然真相は分からない。
J・F・ケネディ、キング牧師、ジョン・レノンなど、「本当のこと」を言って殺された人は多い。安保先生もその一人なんじゃないかな。
他殺だったとすれば、「彼ら」は口封じに成功したと思っているかもしれない。でも、それは誤算だ。
安保先生が主張していたのは、自身の研究から導いた学問的事実であって、こういう事実を封印することなんて、できるはずがない。
ネットが情報のあり方を変えて以後、人々がどんどん事実を知るようになってきていて、この趨勢を止めることなんてできないと思う。
んだけど、僕が甘いかもな。
やっぱり既存の医師の権威は揺るぎ難く、製薬会社の宣伝力は力強くて、「本物」は人々に知られぬまま隠蔽され続けるのかもしれないな。

ナイアシン

2019.1.15

「先生、ナイアシンを飲み始めて2週間ほど経つんですけど、いい感じです。
冬のこの時期、毎年決まって、膝のこのあたりがカサカサになるんですけど、今、それがないんです。特に保湿しているわけでもないのに、潤ってます。
あと、私、夜寝ているときにトイレに起きちゃうんですけど、ナイアシンを飲み始めてから、それがなくなりました。
ナイアシンは睡眠の質を高めてくれる、って先生が言ってたから、そのおかげかな、って思います。確かに眠りの質もよくなりました。
あと、肩こりも何だか楽になりました」
連休明けの勤務。事務員から開口一番、このような喜びの声をもらった。
彼女は別段持病があるというわけでもないんだけど、ここで働くようになってからナイアシンのことを知り、試しに自分でも飲み始めてみたのだ。
文献から知識を得ることも大事だが、何よりも、こういうナマの声に接することが一番参考になる。
1日どれくらいの量を飲んでいるの?
「ソラレー社のナイアシン100㎎を1日3回です。
でね、先生、私、興味を持っていろいろインターネットでナイアシンのことを調べてみたら、怖い記述も見つけちゃって。
ナイアシンは肝臓によくない、っていうのを読んだんだけど、どうでしょうか。
私としてはお肌がきれいになったし、睡眠もよくなったから、続けたいと思っているんですけど」

そう、確かに、ナイアシンによって肝数値(AST、ALT)が軽度上昇することは普通に起こり得る。
しかし結論から言って、この軽度上昇を恐れてナイアシンを忌避するとすれば、それはまったくナンセンスだ。
心配ない。飲み続けてもらっていい。効果を実感しているなら、なおさらだ。
ナイアシンの肝臓への影響については、すでに十分な研究が行われている。
ここでオーソモレキュラー栄養療法の第一人者、ホッファーの論文を引用し、彼がナイアシンの肝臓への影響についてどのように考えていたのか、紹介しよう。
http://orthomolecular.org/library/jom/2003/pdf/2003-v18n0304-p144.pdf

肝機能検査に対するナイアシンの影響
ナイアシンやナイアシンアミドは、メチル基と結合する。つまり、体内で数少ないメチル基受容体として働いている。
従って、このビタミンの大量投与によって、メチル基欠乏が起こるというのは、筋の通った話だ。
別のメチル基受容体としては、ノルアドレナリンが挙げられる。ノルアドレナリンがメチル化すると、アドレナリンになる。
我々としては、ノルアドレナリンからアドレナリンの産生を抑えることによって、アドレノクロム(催幻覚物質)の産生を減らし、統合失調症の改善につなげたいと考えていた。
しかし、脂肪肝を生じる可能性を、我々は懸念していた。1942年、動物実験でナイアシンが肝臓にダメージを与えるという報告があったのだ。
しかしアルトシュールがこの動物実験を実際にやってみたところ、肝毒性は見られなかった。組織学的に調べても化学的に調べても、肝臓は至って正常だった。
我々はナイアシン治療を受けた患者に一連の検査を行ったが、肝臓へのダメージは存在しなかった。
ごくまれに、閉塞性黄疸を生じる患者があった。そういうときに私は、黄疸が軽快するまでナイアシンの投与を中止した。
中止したため、患者の一人では精神症状がぶり返したため、ナイアシンを再開したが、再び黄疸が生じることはなかった。
黄疸が生じることは極めてまれであり、私はこの20年、一例も見ていない。
しかし肝機能検査を行うと、ナイアシンやナイアシンアミドを服用している患者の一部で、数値の上昇が見られることがある。
これを見て、ほとんどの医師が「肝障害が進んでいる。ナイアシンは危険だ」と考えた。
パーソンズもそのように懸念していた医師の一人だったが、長らく研究と観察を続けた結果、最終的に「肝数値の上昇は、肝病変があることを意味しない」という結論に至った。
彼の結論は「ナイアシンには肝毒性はない」というものである。彼の考えは、1966年から1974年に行われたthe Coronary Drug Projectの結果を見て、確信に変わった。
この研究はナイアシンを服用する1100人を5年から8年追跡したものである。主席研究員のポール・カナーは、パーソンズに「ナイアシンに起因する異常は見られなかった」と語った。
パーソンズは以下のように結論した。
「肝数値の上昇は、上限値の2倍から3倍を超えているときにのみ、肝臓の異常を示している。肝機能を反映する酵素の軽度上昇は、ナイアシン治療の正常な反応であって、治療を中断する理由にはならない」
上昇した肝数値は、ナイアシンを継続して飲み続けていても正常値に戻るものだが、ただし徐放型ナイアシンを服用している場合は、肝数値の上昇はさらに大きくなる傾向がある、とパーソンズは指摘した。
私は肝炎のある患者に対しては、ナイアシンを高用量で投与しない。その理由は、それが有害だから、ではなく、もし何かが起こった場合にナイアシンのせいにされることが分かっているからだ。
カプッチは数十年にわたりナイアシンの研究を続けてきた。彼はレシチン1.2gを1日2回与えた患者では、肝数値の上昇がまったく見られないことを発見した。
マッカーティーはナイアシンによって生じるメチル基欠乏は、血中Sアデノシルメチオニン濃度を減らし、そのためにホモシステイン産生の増大につながるのではないかと唱えた。
この事態を避けるためには、ナイアシンと一緒にベタインのサプリを摂るといい、と彼は勧めた。
レシチンは安価で、手に入りやすい。レシチン、ベタイン、いずれもメチル基の供与体である。

徐放型ナイアシン(ナイアシンアミド、フラッシュフリーナイアシン)のほうが肝数値上昇への影響が大きい、というのは興味深い。
会社の健康診断などで、肝数値が高いと困る、ということであれば、健康診断の数日前からナイアシンの服用をいったん中止すればいいだろう。そうすれば数字はすぐに正常化する。
メーカー間の差異について、最近また「ナウのよりソラレーのナイアシンのほうがいいと思う」という声を聞いた。そろそろ切り替え時かなぁ。

奇跡のリンゴ

2019.1.14

オノ・ヨーコが東京からニューヨークに戻るため、空港のラウンジで飛行機を待っていたときのこと。
備え付けにある本の中からたまたま手に取った本が、リンゴ農家木村秋則氏の半生を綴った『奇跡のリンゴ』(石川拓治著)だった。
読み始めたら、止まらなくなった。
飛行機の搭乗時刻が迫ってきた。ラウンジの受付嬢が「そんなに興味を持たれたのであれば、どうぞお持ちください」と言ってくれ、その好意に甘えた。
一気に読了し、確信した。「この本は、革命だ。世界中の人々に読まれる価値がある」と。
一人の農家が十年間の苦労を経てリンゴの無農薬栽培に成功した、というのが話の大筋だが、それだけではない。
この本には、確かに、「哲学」がある。
無農薬、無施肥、無耕起、無除草という、四無。
農薬はいらない。肥料もいらないし、耕したり、雑草を抜いたりする必要さえない。
人為は、いらない。むしろ、人間が下手に手を加えるから、バランスが崩れてしまう。
リンゴに群がる虫は、憎むべき悪者ということになっている。しかし、虫たちは、自然のバランスを是正する有り難い存在なのだ。
人間が口にすべきでないような果物が実ったとき、虫たちは人に代わってそれらを食べてくれているのだ。
木村さんが栽培したリンゴは、腐らない。自然のままに育った果物というのは、本来、そういうものなのだ。
木村さんの農法は、リンゴだけに当てはまるものではない。他の農産物の栽培にも適応できるものだろう。
世界中に木村さんの農法が広まり、私たちが口にする食品すべてが、そういうふうに自然に育った農産物であるならば、、、
私たちの体は根本から変わり、この世から病気は消滅するだろう。世界は、はるかにすばらしい、住みよい場所になるだろう。

オノ・ヨーコはすぐに動いた。
出版社と著者に連絡をとった。翻訳され、世界中で読まれるべき本だと伝えた。
あのオノ・ヨーコが、英語版の出版に尽力してくれると言うのだから、出版社としては断る理由はない。
彼女はアメリカの出版社にも働きかけた。具体的に翻訳の作業も着々と進めた。
そうしていよいよ、アメリカの書店で英語版『Miracle Apples』が販売、となる直前。
不測の事態が起こった。

木村さんのケータイに、電話があった。「非通知の番号だ。誰だろう」と思いながら、電話を取った。
「もしもし、木村さんですか。ヨーコです」
「ヨーコって、どちらのヨーコさん?」
ちょっと前なら覚えちゃいるが、一年前だとチトわからねえなぁ、というわけでもないが笑、木村さん、聞き返した。
「オノ・ヨーコです。英語版の出版の件でお話がありまして」
そこで、以下のことを伝えた。
アメリカでの出版が中止になった。
出版の契約自体がご破算になったわけではないから、契約金などは翻訳者らに支払われる(それだけに、他の出版社に出版を持ちかけることはできない)。
ただ、とにかく、翻訳版がアメリカで出版・流通することはない。

巨大な力が動いている。
彼女はそう直感した。
様々な情報筋や探偵などを使って、背後の事情を調べた。
出版の差し止めに動いたのは、モンサント社だった。
そしてモンサント社のバックに控えるのは、ロックフェラーだ。
彼らにとって、この本は、ただの農家のサクセスストーリー、ではない。看過することのできない「危険思想」である。
こんな思想が世界に広まることは、断じて容認できない。芽は、小さなうちに摘んでおかねばならない。
そこで彼ら、本気で潰しにかかったのだ。
夫を殺された彼女には、彼らの恐ろしさが誰よりもよく分かっていた。
電話の最後に、言った。
「木村さん、アメリカには絶対来てはいけません。来たら、間違いなく殺されますよ」

警告を受けるまでもなく、身の危険は感じていた。
町を歩いていて、いきなり背後から羽交い締めされた。
「自然栽培をやめろ」そして、妻の名前、娘三人の名前を言い、「危害が及ぶのはお前だけだと思うなよ」
木村さん、そういう脅しに屈せずに、自然栽培の普及活動を続けた。
暴力に屈しないと見るや、今度は金で丸め込もうとしてきた。
高級ホテルの一室に招き入れられ、紳士が小切手を示す。驚くような金額が書かれている。
「アメリカのモンサント本社にご案内します。ファーストクラスの旅費はもちろん、当社が負担します。お越しになられれば、このお金はあなたのものです」
木村さん、その提案を断った。
それでも何とか懐柔しようと、押し問答が繰り返されたが、木村さんの答えは変わらなかった。
翻意の不可能を悟ったとき、紳士は血相を変えて言った。
「お前はどうしようもないバカだな」
木村さん、澄ました顔で答えた。
「そうです。私、バカです」
暴力にも金にも屈しない。それが木村秋則という人だ。

旧約聖書で知恵の実を象徴する果物はリンゴだが、木村さんが自然農業の本質的な知恵を獲得できたのもリンゴのおかげだった。
この本のすばらしさに気付いたオノ・ヨーコがThe Big Apple在住だというのもどこか暗示的で、リンゴをめぐって様々なものがつながっているようだ。
インターネットの時代である。本として出版できなくても、少しでも多くの人に知ってもらえたら、という思いで、翻訳版をネット上に全文公開することに踏み切った。
http://imaginepeace.com/miracleapples/

ジョン・レノンは本気で世界平和を願っていた。
その本気さが彼らの逆鱗に触れ、彼は殺されてしまった。
夫の無念は、彼女にそのまま引き継がれた。
85歳になってなお、彼女は彼らとの静かな戦いを続けている。

参考動画