2019.11.25
60歳女性Aが早朝に腹痛を訴えて近医救急外来を受診。対応した当直医は、冷や汗を流す患者の痛がり方が尋常ではないと思った。
CTを撮ったところ、腹腔内に明らかな異常所見があった。Aに詳しく聞くと、盲腸の手術歴があることがわかった。
これを聞いた当直医は、腑に落ちた。虫垂炎の術後、小腸と卵管が癒着し、イレウスを起こし、そこから穿孔、反発性腹膜炎、という流れだな。
すぐに消化器外科に照会し、即日入院となった。BがAの主治医として、オペ(回盲部切除術、腹腔ドレナージ術)を行った。
Bは腕のいい外科医で、手術は無事に成功に終わった。しかし不幸だったのは、Bにビタミンに関する知識がまったく欠けていたことである。
もっとも、これは一人Bの責任とばかりは言い切れないだろう。現在の医学部においてビタミンの教育に割かれる授業時間など、ほとんどないに等しいのだから。
Aは手術後完全絶食で、高カロリー輸液の点滴が継続された。ビタミン剤の混入投与は行われなかった。
数日して嘔気・嘔吐が見られるようになり、便秘がちとなった。Bは上部内視鏡検査を実施したが、どこにも異常がなかった。
さらに数日後、病棟のナースがAの意識が消失していることに気付いた。すぐさま救命措置(人工呼吸器の装着、心臓マッサージ)が行われたが蘇生することなく、そのまま死亡した。
死因は脚気衝心、つまり、極度のビタミンB1欠乏に起因する急性心不全である。つまり、主治医Bのビタミンに関する無知が引き起こした悲劇だった。こういう医療ミスは病院においては日常茶飯事である。
テキトーな理由をつけて「この死亡はやむをえないことでした。私の力が及ばず申し訳ありません」とBが無念そうな表情をして謝れば、遺族は素人である。何も言い返せない。
しかしこの遺族は、どうしも納得できなかった。なぜ俺の妻は死んだんだ、なんで私のお母さんが死ななきゃいけなかったの。無念の遺族は、Aの入院から手術、手術から術後の経緯を、徹底的に調べあげた。
そしてついに、高カロリー輸液にビタミン剤を混入投与しなかったBの過失を発見し、損害賠償請求をするに至った(大阪地裁堺支部平成12年2月25日判決)。
現在の医学部教育は、製薬会社に完全に首根っこを押さえられている。
ビタミンで病気を治す栄養療法など、言語道断。薬が売れなくなってしまう治療法は極めて不都合である。
そんな治療法が医学部で教えられることがないよう、医師会や医学界に手をまわしている。
しかし現場で働く医者は、上記のように、栄養に関する無知が悲劇を招いたとしても「教育が悪いんです。医学部でビタミンのことを教えてもらわなかったので」と言い訳することはできない。
インターネットの普及によって、医学的知識がもはや医者の専有物ではなくなったし、西洋医学がいかにデタラメかということも広く知れわたるようになった。当の医者のなかにも、投薬一辺倒の医療に疑問を感じる人が出始めている。
医学部で教えてくれないのだから、医者はビタミンのことを自分で勉強するしかない。でないと本当に患者から見放されてしまうと思う。
(お医者さんの皆さん、「ビタミンについて自学自習したい」ということであれば、拙訳『オーソモレキュラー医学入門』の出番ですぞ!)
ビタミンB1についての知識は、精製糖質や精白した炭水化物が多食される現代において、ますます重要になっている。
隠れ脚気は相当数いるはずで、こういう人は要するに、甘いものをやめれば回復するはずだけど、B1を補給すればさらに回復が早いだろう。
僕は大学時代、山岳部に所属していた。そこである先輩から、こんな話を聞いた。
「ある男が山で遭難した。食糧の持ち合わせはなかったが、ただ、氷砂糖が一袋だけあった。空腹を氷砂糖で紛らわして救助を待っていたが、五日後に発見されたときには失明して半死半生の状態だった」
本当の話か、都市伝説か、わからない。
脚気で失明するというのは考えにくいから。ただ、話としてはおもしろいと思う。精製糖質の摂取は、その代謝プロセスでむしろビタミンやミネラルを奪う。つまり、マイナス栄養ということだ。
なまじっか氷砂糖をなめるよりは、何も食べずにじっと耐えてるほうがマシだった。

せっかく才能のある選手なのだから、誰かこの人に栄養の重要性を教えて、しっかり食事を管理してあげたほうがいい。
お菓子を多食する選手で、大成した人なんていないよ。
2019.11.25
B’zに『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』という長いタイトルの曲があるけど、上には上があるもので、BEGINの曲にこういうのがある。
『それでも暮らしは続くから 全てを 今 忘れてしまう為には 全てを 今 知っている事が条件で 僕にはとても無理だから 一つずつ忘れて行く為に 愛する人達と手を取り 分け合って せめて思い出さないように 暮らしを続けて行くのです』
なぜこういう話をするかというと、下の論文のタイトルをみて、何かそういうのを思い出したんだ。
『ビタミンD欠乏によって腸内細菌が変化し腸内でのビタミンB産生が低下する。その結果パントテン酸が欠乏することで、動脈硬化や自己免疫疾患と関係する”前炎症”状態となり、免疫系に悪影響が生じる』
英語タイトルも添えておこう。
”Vitamin D deficiency changes the intestinal microbiome reducing B vitamin production in the gut. The resulting lack of pantothenic acid adversely affects the immune system, producing a “pro-inflammatory” state associated with atherosclerosis and autoimmunity”
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306987716303504
タイトルのなかにそこそこ長いセンテンスが二つも入った論文は初めて見た。
「タイトル長すぎるやろ!」ってツッコミ待ちの雰囲気がある論文だけど、内容はおもしろいので、紹介しよう。
【要約】
【研究の目的】
ビタミンDの血中濃度が60~80 ng/mlだと通常の睡眠が促進される。しかしこの効果は2年ほどで弱まり、関節痛が増悪するが、なぜこういうことが起こるのか、という機序を調べることが、本研究の目的である。パントテン酸はコエンザイムA(補酵素A)になる。これはコルチゾルやアセチルコリンを産生する際に必要な補因子である。
1950年代に行われた研究から、パントテン酸欠乏、自己免疫性関節炎、不眠症の間には関連性があることが知られていた。
血中ビタミンB群には腸内細菌の産生由来のものと食品由来のものがあることが示されているが、腸内細菌叢こそがビタミンB群のメインソースである可能性がある。文献のレビューによると、パントテン酸は食品には含まれておらず、腸内細菌叢によってのみ、供給されるのである。
ビタミンD補充によって徐々に二次的パントテン酸欠乏が誘導される可能性を検証するために、B100(ビタミンB12とビオチン100㎎と葉酸400mcgを除くすべてのビタミンB群を100㎎)をビタミンDのサプリに加えた。
【方法】
神経系疾患の患者1000人以上にビタミンDとB100を勧めた。睡眠、神経痛の具合、神経学的症状、腹部症状を定期的に記録した。
【結果】
ビタミンDとB100を3か月続けると、睡眠が改善し、痛みが軽減し、腹部症状が解消した。こうした結果は、ビタミンDとB100を組み合わせて使うことで、ヒトの通常の腸内細菌叢を構成する4つの特異的菌種(アクチノバクテリア、バクテロイデス、ファーミキューテス、プロテオバクテリア)に好ましい腸内環境になったことを示している。
【仮定】
1)ビタミンDの血中濃度は季節によって変動し、それによって腸内細菌叢も変化する。このことが冬季の体重増加傾向に影響している。しかし、ビタミンD欠乏が年単位で持続すると、腸内環境が永続的に固定化してしまい、「健康腸内細菌4人組」をもはや取り戻すことはできない。
2)ヒトは自身の腸内細菌叢と常に共生的な関係を持っている。我々が彼らにビタミンDを供給し、彼らが我々にビタミンB群を供給する。
3) 正常な腸内細菌叢を構成する「健康腸内細菌4人組」は、彼ら自身が共生的でもある。つまり、それぞれの菌種が、「他の三菌種には作れないが、しかし生存に必要なビタミンB」を少なくとも一種類以上分泌している。
4)睡眠が改善し、体内の細胞修復が更新することで、体内に貯蔵されているパントテン酸の消費がますます亢進する。そのせいでコルチゾールの産生が低下し、関節痛が増悪したり、免疫系に対して広範囲の”前炎症”を引き起こす。
5)パントテン酸欠乏はアセチルコリンを減少させる。アセチルコリンは副交感神経系の神経伝達物質である。つまり、パントテン酸欠乏により副交感神経系の働きが弱まり、相対的に交感神経系が優位になって、高血圧、頻脈、不整脈などの高アドレナリン状態となり、これが心疾患や脳卒中などの原因となり得る。
「腸内細菌が僕らの腸に住んでいるのは、ビタミンDが欲しいからである。そして腸内細菌は、ビタミンDを得るお返しに、ビタミンB群を供給してくれる。実際、血中に存在するビタミンBのほとんどが食品由来ではなく、腸内細菌の産生物由来である」。
おもしろい仮説である。
以前のブログで、ある種の抗生剤によって中性脂肪が低下することを紹介したが、この現象の背景にあるのも腸内細菌だった。腸内細菌と脂質プロファイルは、決して無関係ではない。
一方、ビタミンDはコレステロールをもとに産生される。つまりビタミンDは、ざっくり、「脂質のようなもの」である。腸内細菌が何らかの形で関与していても不思議ではない。
ビタミンDが、ビタミンDとして作用する面は当然ある。
骨、小腸、腎臓などの細胞にはビタミンD受容体(VDR)があって、そこにビタミンDがリガンドとして作用してどうのこうの、という話はもちろんある。
ただ上記の論文が指摘しているのは、ビタミンDの働きはそれだけではなく、腸内細菌のエサとなって彼らを養い、ビタミンB群を作らせている、ということである。
うつ病患者にビタミンDが効くこともあれば、ビタミンB群が効くこともあるのは、こういう腸内細菌の働きが影響しているのかもしれない。
もうひとつ、興味深いと思った指摘は、上記の【仮定】4)。
「よく眠ると、かえって調子が悪くなる」という患者をときどき見る。たとえば、よく眠った翌日には、統合失調症の症状が悪化する、とか。
その理由がいまいち分からなかったけど、よく眠る→パントテン酸の消費亢進→交感神経興奮→炎症増悪、というメカニズムで説明がつくように思う。
あるいは、うつ病に対して断眠療法というアプローチがある。この機序も、眠らない→パントテン酸の消耗抑制→副交感神経優位→穏やか、ということかもしれない。