ナカムラクリニック

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2019年11月24日

オスの生理2

2019.11.24

1962年京大霊長類研究所の杉山幸丸はハヌマンラングールの驚くべき行動を発見した。
ハヌマンラングールは1匹のボス猿が多数のメスを引き連れて、ハーレムを形成する。このボス猿に対して若いオスが挑み、追放に成功すると、新たなボスとしてハーレムを乗っ取る。そしてこのボス猿は、なんと、群れのメス猿が抱える乳児の首を噛み切って、皆殺しにしてしまう。
この「子殺し」の報告は、発表当初、学会の通説(「種の保存則」)に反するとして、相手にされなかった。しかしその後、ライオンや他の霊長類(30種類ほど)でも同様の行動が確認され、次第に認められるようになった。
ハヌマンラングールのこの残虐な行動は、一体どのように説明できるだろうか。そのためのキーワードのひとつが、プロラクチンである。

プロラクチンは脳下垂体から分泌されるホルモンで、母乳の生成を促したり、排卵を停止させ発情を抑制する作用がある。
通常ではほとんど分泌されないが、哺乳類のメスの妊娠時に分泌され、出産後も赤ん坊の乳首への吸引刺激によって分泌が継続される。
つまり、授乳中の子猿を抱える母猿ではプロラクチンの血中濃度が高く、発情が抑制されており、新たなオスを受け入れることはない。
ハヌマンラングールのボス猿が、次のボス猿に取って代わられるまでの平均期間は27か月である。新しいボス猿にとっては、将来他のオスに取って代わられるまでの間に自分の子をメスに産ませなければならない。ところが、プロラクチンの影響で、授乳中のメスは子猿が乳離れするまで発情しないのである。
そこで新たなボス猿にとって、先代のボス猿の血を引く子猿を殺し、できるだけ早くメス猿の発情を促すことが、自分の遺伝子を広げる適応的な戦略ということになる。

プロラクチンは当然人間にも見られ、女性のみならず男性にも存在する。
というか、前回の「賢者タイム」の話でいえば、射精後の男性では血中プロラクチン濃度が上昇している。つまり、発情が抑制され、非常に穏やかな気持ちになっている。
この状態のときに、女性から「ねぇ、もう一回!」などとさらなる発情を求められても、それはホルモンの生理に反したことである。むしろ不愉快を感じても不思議ではない。
授乳中のお母さんでプロラクチン濃度が高いのは当然のことである。女性は子供が乳離れするまでは、いわば「女賢者」になっている。
子供が乳離れすると(つまり、乳首への継続的刺激が終了すると)、女賢者モードも終了である。プロラクチン分泌が低下し、排卵が再開して発情が可能となり、次なる子供に備えることになる。

プロラクチンの生理作用という観点で見れば、性交後にもベッドの上でいちゃついている人間の男女は、動物界ではむしろ異端である。
犬科の生物では、オスには亀頭球という構造があって、交接後も長時間結合することが可能であるが、しつこいオスに対していらだったメスがオスを攻撃することがしばしばあるという。
野生では、性交のような無防備な状態は、短時間であることが好ましい。行為を終えれば、すぐに正気に戻って、日常に立ち返る、というのが生存上のメリットなのだろう。
しかし人間の場合、セックスは繁殖の意味合いだけではなくて、コミュニケーションの手段であったりする。
「ねぇ、もう一回」とねだられて、本音としては「勘弁してくれよ」であったとしても、「しょうがねえなぁ」ともう1ラウンド頑張ったりする^^;

「ちょっと待ってくれ。授乳中は発情が抑制されて、女賢者になっている、ということだが、それ、本当か?うちのかかあは、授乳中にも普通に俺とエッチしてたぞ」というお父さんもいるかもしれない。
「ボインは赤ちゃんが吸うためにあるんやで。お父ちゃんのもんとは違うのんやで」と月亭可朝が歌っているが、統計によると、産後1~1.5か月以内に13%のカップルがセックスを再開しているという。
つまり、赤ちゃんのためのボインを、横取りして吸ってしまうお父ちゃんがいる、ということだ^^;
そう、ここが他の霊長類にはない、人間の特殊性なんだ。
ヒトにおいては、授乳中でも発情して交尾が可能になったため(ただし妊娠確率は低い)、オスは子殺しをする必要がない。メスの進化による賜物だと考えられている。
だから人間においては、ハヌマンラングールのような悲劇は起こらない、はずなんだ。

しかし例外ずくめなのが人間である。
血のつながりはなくとも我が子のように愛情を注いで育てられるのが人間のすごいところだし、我が子を虐待の末に殺して逮捕された、というニュースが珍しくも何ともないところが、人間の恐ろしいところである。
神と悪魔、崇高な愛と野蛮な残虐さ、そういう両極端が同居するのが人間の精神である。
ただお固いことはさておき、今の僕には2ラウンド連チャンでやるのは、もうできません^^;

オスの生理1

2019.11.24

『生理をオープンに――大丸梅田店「生理バッジ」に批判も』という記事を読んだ。
なるほど、女性の月々のものが変にタブー視されているところは確かにあって、言われてみれば妙な話である。「体の自然なこと、それこそ生理現象なのだから、もっとオープンにできないか」そういう主張はわからなくもない。
しかしネット上では軽く炎上の様相を呈している。しかもこの「生理バッジ」を批判しているのは、当の女性のようだ。
大丸梅田店は僕もよく利用する。せっかくなので、この炎上の「出火元」に実際に行ってみた。

このマンガを見ると、大丸自身、批判は想定内のようで、ある種の炎上商法かもしれない。
しかしフロアスタッフの胸元を見たけど、僕の見た限り、誰も「生理中」のバッジはつけてなかったね^^

男と女は、同じ生き物のようでいて相当違うところがある。体も違えば、心も違うだろう。しかし少なくとも体の違いについては、解剖学、生理学などの学問がかなり解き明かしているところもある。
分かり合えないのが男女の常ではあるが、学問的知見が多少なりとも男女の摩擦解消に役立つのなら、知っておいて損はない。

個人的には、女性がわかっていないなと思うことのひとつとして、男性の”賢者タイム”を挙げたい。
仲睦まじくベッドの上でいたした後、まだ余韻の残る女が、男の股間を見て「まだ大きいね。もう一回、する?」なんて言いながら手を伸ばしてこようものなら、「おい、やめろ」と男がその手を冷たく払いのけたりする。
「さっきまであんなに激しく求めてくれたのに、、、」女は、男の打って変わった素っ気なさに拍子抜けする。

ありがちなすれ違いである。女性は、男性のこの豹変を理解しておいたほうがいい。
男性はオーガズムの後、性欲が急速に低下するもので、この状態は「賢者タイム」と呼ばれる。
この言葉はもちろんスラングで、医学的には不応期(male fractory period)という。
しかし個人的には、この正式な用語よりも「賢者タイム」のほうが実態をよく反映していて、しかもユーモアがあって、好きだな。
果てた後に、本来の理性的な自分が戻ってきて、それまでお世話になった風俗嬢に
「こんなはしたない仕事して」なんて急に説教を始める男もいたりする。

一体、この現象は何なのか?
理性をかなぐり捨てて感覚の世界に惑溺したかと思えば、夢から覚めたようにいつもの自分に戻る、この現象は?
男のこの矛盾を、科学はどのように説明しているのだろうか?

こんな研究がある。
若い男性被験者にいくつかの女性の写真を見せ、その魅力度を評価してもらう。その際、事前に女性の膣の匂いとよく似た化学物質(copulins)を嗅がせると、すべての女性の顔に対する評価が有意に上昇した。
https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/1474704916643328
どういうことか、わかりますか?
普段は理性的な男性、つまり、女性の美醜を冷静に判断する男性が、copulins を嗅ぐことで、ある意味、”吹っ飛んだ”。豹変したことで、女性の魅力の差異がかすんだ。
いうなれば、この研究は、賢者タイムの逆の現象、”やる気スイッチ”の存在を示している。

女性の膣から分泌されるこのフェロモンcopulinsは、sがついて複数形になっているが、これはcopulinsが5種類の揮発性脂肪酸の混合物だからだ。
copulinsの分泌は卵胞期に増加し、黄体期に減少する。copulinsに曝露した男性は、テストステロンの分泌が亢進し、女性の顔の美醜に対する分別が低下し、さらに協調性が低下する。つまり、やる気スイッチが”オン”になるわけだ。
これは人間のみならず、哺乳類全般に見られる現象のようだ。哺乳類の繁殖において、オスのほうがメスよりもコストが低く、かつ、メリットが大きいことは、多くの理論が示しているところである(異形配偶子理論、性淘汰理論、親の投資理論)。つまり、オスにとっては、排卵する女性を見抜き、それに応じて行動を変化させることが、自身の繁殖機会を最大化する上でメリットがある、ということだ。

閉経後の女性では、膣からのイソ酪酸の分泌が減少することが知られている。繁殖期を終えたメスにとっては、繁殖よりは個体の存続が優先事項である。オスの繁殖行動を惹起するフェロモンが出て自分にアプローチされることはむしろ不都合だから、これは理屈にかなったことだ。

しかし、上記研究で使われた「女性の膣に似た匂いの物質」って一体何なんだ^^;
男性を引きつける女性用フェロモンとして商品化されているようだけど、本当に効果があるのなら、世の男性は警戒すべきだね^^;

レビューに「吐物のような匂い」とあるから、香水としてはイマイチのようだ^^;

難しい理屈をこねなくても、「電気消して布団に入ってしまえば、女の顔なんてどれも同じものよ」という男性は昔から一定数いるもので、そういう心理を、科学が後から追いかけてるだけなんだよね。