ナカムラクリニック

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2019年11月14日

ヤマブシタケ

2019.11.14

フェニルアラニン→チロシン→ドーパ→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン
という流れがあって、さらにドーパミン以下のカテコラミンは、酸化されると、以下のようになる。
ドーパミン→ドーパノクロム
ノルアドレナリン→ノルアドレノクロム
アドレナリン→アドレノクロム
この○○クロムには催幻覚作用がある。
統合失調症の幻覚・妄想は、脳内でこれらの物質が産生されていることによるのではないか。これがホッファーの提唱した『アドレノクロム仮説』である。
ホッファーがこの説をひらめいたきっかけは、「幻覚を見るぜんそく患者」の話である。
現在では薬局に置いてある薬は、使用期限に配慮して古くなった薬は患者に出さないようにしているはずだが、当時はそういう管理がけっこうデタラメで、使用期限を大幅に過ぎた薬が処方されることもザラにあった。古くなったぜんそくの治療薬(アドレナリン含有製剤)を服用した患者が妙な幻覚を体験する、というのは、医者界隈では知られた話だった。ホッファーはここから着想を得た。「アドレナリンの酸化物こそ、幻覚物質ではないか。だとすれば、カテコラミンの酸化を防ぐことで統合失調症を改善できるのではないか」
もちろん近年の研究では、カテコラミンだけでなく、グルタミン酸、GABA(γアミノ酪酸)、アセチルコリン、セロトニンといった脳内物質の変化も、統合失調症の病理に関わっていることがわかっているが、ホッファーの着想は大筋で正しかった。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4032934/

上記のカスケードを見て、素朴に思った。そもそも、フェニルアラニンやチロシンを含有する食材の摂取を控えれば統合失調症が軽快することはないだろうか。
いや、しかしこれは違うな。
たとえば牛乳、肉、卵にはフェニルアラニンが多く含まれているが、これらの多食が統合失調症を増悪させることは考えにくい(ただ、牛乳の多飲は危うい印象だけど)。
チロシンはチーズや納豆に多く含まれるが、これらを多食しても、やはり特に問題は起こらないだろう。
研究によると、チロシンのサプリの大量摂取によって、なるほど確かに、ドーパミンやノルアドレナリンの血中濃度が上がったが、特に気分に問題はなかったという。

前回のブログで、キノコチロシナーゼ(mushroom tyrosinase)という言葉が出てきた。これは研究試薬としてよく用いられるものだけど、一般にキノコにはチロシナーゼが多いのだろうか。チロシナーゼを多く含む食品の摂取によって、ドーパミンの産生が亢進することはないか。キノコにチロシナーゼが多く含まれているとすると、キノコの多食で統合失調症が悪化する可能性は?
しかしこれは直感に反する。キノコといえばβグルカンが豊富で健康によいイメージである。実際、この線で調べてみたところ、ある種のキノコ(ヤマブシタケ)には、統合失調症を改善させる作用がある、との論文を見つけた。

『ヤマブシタケの生物活性物質により統合失調症が改善した』
https://www.longdom.org/open-access/recovery-from-schizophrenia-with-bioactive-substances-in-hericium-erinaceum-2469-9837-S1-003.pdf
著者らはヤマブシタケに抗認知症作用があることについては過去に報告していた。その機序としては、神経成長因子の誘導、細胞毒性物質(アミロイドβ)の抑制、酸化ストレスおよび小胞体ストレスによる神経細胞死の予防が挙げられる。
以下、ヤマブシタケが著効した統合失調症患者の症例報告である。
『54歳男性。
18歳で統合失調症の診断を受け、クロールプロマジン、ハロペリドールの服用を開始した。
20代は幻聴と妄想から、精神科への通院、入退院を繰り返した。
薬の副作用がひどく、唾液過多、発汗、頭痛、アカシジアの症状に悩まされた。
33歳時、陰性症状(無為自閉)が出現し、さらに水中毒(水の病的多飲による)も見られるようになった。
49歳時、幻聴、罪業妄想が悪化し、入院。退院後、薬の副作用の不快さから、服用している薬をすべてやめたところ、悪性症候群を発症した。
52歳時、2週に一度リスペリドン(37.5mg)の注射を開始。
9月8日クエチアピン200mgと眠前フルニトラゼパムを開始。症状軽快し、11月19日退院。
退院後、毎日午前11時頃に起きていたが、起きている間はずっと眠気が残存し、無気力のまま過ごした。』


こういう症例は、精神科に山ほど溢れている。統合失調症の、極めてありふれた経過だ。
しかし論文を読んでいて、精神科の勤務医時代の記憶が蘇って、胸が痛くなった。
治るわけもない薬を出さなきゃいけないつらさ。でもつらいのは僕だけじゃない。患者もつらい。副作用がきつくて、できれば薬をやめたい。でも薬をやめると、ひどい副作用が襲ってくる。患者は薬の罠にかかって、がんじがらめで動けない。
もう、一生飲み続けるしかない。
そんなときに上記患者、ヤマブシタケを飲み始めた。

『12月2日、アミロバン3399(ヤマブシタケ製剤)を1日6錠開始。
2週間後の12月16日、日中の眠気が著明に改善し、一日を活動的に過ごせるようになった。陰性症状がなくなった。彼の母は息子の軽快に驚いた。「この35年間、こんなに元気なこの子を見たことがない」と。
アミロバン3399を開始して1年後、服用している薬は、ミルタザピン(45mg)とゾピテン(5mg)である。
以後4年間、好調を維持している。』

ヤマブシタケ製剤という形でしっかり商品化されているところに、商売っ気を感じるが、試してみる価値はあると思う。サプリ(lion’s mane) として誰でも買えるから、興味のある人はネットで注文してみるといい。

しかし一番いいのは、普通にヤマブシタケを食べることじゃないかな。ヤマブシタケは、マツタケみたいにレアで貴重なキノコではない。シイタケとかマイタケ、シメジなんかと同じように、養殖栽培が可能で、スーパーで普通に売っている。
鍋物の季節だから、シイタケやマイタケなんかと一緒に、具材として使ってみるのもよさそうだ。

有機ゲルマニウムと美肌

2019.11.14

医者の仕事は、ざっと三通りに大別できる。臨床、研究、教育の三つだ。
『臨床』はベッドサイドあるいは診察室で患者を相手にする仕事。普通、特にことわりなく医者というときは、臨床医のことを指す。
細胞や動物を使っていろんな実験をしたり、というのは『研究』で、新しい医学的知見は多くの場合、ここから生み出されている。
『教育』は医学生や研修医、看護学生、ときには他学部の学生などに医学知識を教える仕事。

医者は、子供のときからそれなりに勉強して厳しい受験倍率をくぐり抜けてきているせいか、そもそも勉強することが苦じゃない人が多いんだ。
学ぶことが好き、というのは、医者にとって必須の素質だ。いや、正確には、学生のときに身につけたような大昔の知識でもやっていけないことはないんだけど、インターネットがあって医学的知識が医者の独占物じゃなくなった今の時代、勉強しない医者は患者に見放される可能性が高い。患者に見放されたって、勤務医なら問題なく生活していけるだろう。しかし古い知識でやっている開業医は、相当しんどい時代が来るような気がする。
医学の進歩とともに知識のアップデートが常に必要だから、医者は一生勉強なんよ^^;
そういう職業柄のせいか、人にものを教えるのが好き、という医者も多いと思う。
To teach is to learn.教えることと学ぶことは反対語のようでいて、実は同義語なんだ。こういう医者は大学病院に向いている。

僕は本来、性格的には大学病院向きだと思う。教えることが好きだし、黙々と試行錯誤する研究畑にも憧れる。
臨床現場は目の前の患者と一対一の真剣勝負で、やりがいはもちろんある。でも、そういうふうに一人一人の患者と向き合い治療に当たっても、僕個人ができることは限られている。それよりは、研究に従事して、何か画期的な方法論を編み出すほうが、多くの人を救えるのではないか。たとえば、ホッファーは臨床医であると同時に研究者でもあって、治験を通じてナイアシンの様々な有効性を発見した。彼の功績がどれほど多くの病める人を救ったことか。
しかし、教えることが好きといっても、今の医学部教育で行われているような、患者を救えない知識、それどころか有害無益な知識を広めることになんて、加担したくない。
研究がやりたいといっても、製薬会社の利益に貢献するだけの研究しかできないのなら、そんなのはごめんだ。
教育にせよ研究にせよ、本当に患者のためになることがしたい。

先日、浅井ゲルマニウム研究所の中村宜司さんの研究チームが、また新たな論文を出された。そう、僕がやりたいのは、こういう研究なんだ。
その新たな知見を世に提出することで、ひとつ、世の中が明るくなる。圧倒的な情報の洪水のなか、それはごくささやかな情報のひとつでしかないけれど、それでも、そのひとつ分だけ、世界がよくなる。
今から研究の道に進むのは難しいけど、せめて、そういう情報発信者ではありたいと思うんだな。

『有機ゲルマニウム化合物THGPはメラニン合成を抑制する』
https://www.mdpi.com/1422-0067/20/19/4785
有機ゲルマニウム化合物3-(三水酸化ゲルミル)プロパン酸(THGP)には様々な生物学的活性がある。以前我々は、THGPがcis-diol構造と複合体を形成することを報告した。L-3,4-二水酸化フェニルアラニン(L-DOPA;メラニンの前駆体)は自身のカテコール骨格のなかにcis-diol 構造を含んでおり、過剰なメラニン産生によって皮膚の黒ずみやシミが生じる。そのため、化粧品業界ではメラニン産生を抑制する物質の研究が精力的行われている。
本研究で我々は、キノコチロシナーゼ(チロシン分解酵素)とB16 4A5メラノーマ細胞を用いて、THGPがL-DOPAとの複合体形成を通じてメラニン合成を抑制するかどうかを調べた。
THGPがL-DOPAに作用する能力を1H-NMRによって分析し、THGP(およびコウジ酸)のメラニン合成に対する影響を調べた。
さらに、THGPの細胞毒性、チロシナーゼ活性、遺伝子発現に対する影響も調べた。
その結果、THGPはL-DOPA(cis-diol構造を持つメラニン前駆体)に作用していることがわかった。
さらに、THGPはメラニン合成を抑制し、コウジ酸と相乗作用すること、しかもチロシナーゼ活性や遺伝子発現には影響しないこともわかった。
これらの結果は、THGPがメラニン合成を阻害する有用な基質であること、また、THGPの効果はコウジ酸との併用で増強されることを示している。

一般の医学部教育でも、
フェニルアラニン→チロシン→L-DOPA→ドーパミン→ノルアドレナリン→アドレナリン
という代謝経路は学ぶ。
栄養療法を学んでいる人なら、このカスケードを見れば、ホッファーの功績を思い出す。つまり、「ドーパノクロムやアドレノクロム(ドーパミンやアドレナリンの酸化物)には催幻覚性があって、統合失調症の幻覚・妄想はこれらの物質の作用である。また、これらには細胞分裂抑制作用があるため、統合失調症患者はめったに癌にならない。ドーパミンやアドレナリンの酸化を防ぐために、ビタミンCを摂りましょう」
そういう文脈でこの代謝経路を見ることはあるけど、L-DOPAがシミの原因でウンヌン、という話はどちらかというと美容系の話で、僕にはなじみが薄いので、この論文は新鮮だった。
コウジ酸と有機ゲルマニウムの併用によって、L-DOPAの悪影響をブロックできるのなら、両者は美肌のためのみならず、統合失調症にも有効ではないか。
僕が研究者なら、こんなふうに、検証してみたい仮説はたくさんあるんだけどなぁ。