ナカムラクリニック

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2019年11月10日

小麦と皮膚疾患

2019.11.10

究極の二択「肌荒れ美人と美肌ブス、どちらを選ぶ?」をテーマに男性100人にインタビューしたところ、前者を選んだのは66人、後者は34人だったという。
理由として、前者は「肌荒れは治せても顔は治せないから」「肌荒れしてても美人ならそんなに気にならない気がする」
後者は「肌荒れした時点で美人とは言えない」「肌荒れ美人とキスしたことがあるが、ザラザラして痛かった」

『おぎやはぎのブステレビ』より。

「あっちゃんならどちらを選ぶ?」
うーん、難しいけど、後者かなぁ。美人もブスも、電気消して布団入っちゃえば同じだけど、肌触りは暗闇でもわかるからなぁ。
「ヘンタイ!」
え、なんで?

皮膚は健康状態を反映する鏡である。
望診などというといかにも東洋医学めいて聞こえるが、視診の重要性は西洋医学でも教えるところである。
たとえばチアノーゼを見れば循環不全を疑うし、黄疸を見ればビリルビンの代謝不全を疑う、というのは一般の内科医でも当たり前にやっていることだ。
しかし、残念ながら多くの皮膚科医は、対症療法の落とし穴にはまっている。
ニキビを見ればアクネ菌が悪さをしていると考え、外用薬でダラシンを、内服薬でミノマイシンを処方する。アトピー性皮膚炎にはステロイド外用薬、水虫には抗菌薬、といった感じで、対症療法のオンパレードである。
「皮膚に症状が出ているんだから、皮膚が悪いんだ」という固定概念から延々抜け出せない(そもそも抜け出す気もない)。

皮膚科臨床で見かけるほとんどの症状(肌荒れ、乾燥肌、ニキビ、アトピー性皮膚炎、口内炎、脱毛症、皮膚血管炎、黒色表皮腫、結節性紅斑、乾癬、白斑、ベーチェット病、皮膚筋炎、壊疽性膿皮症など)はすべて、小麦の除去によって軽快する。
皮膚科医が「治療」と称してやっていること(ステロイドや抗生剤の投与)は、症状を複雑化させるだけで、むしろ有害無益である。
何よりの治療は、そう、小麦を食べないことである。

「ちょっと待ってくれ、ベーチェット病とか難しい病気のことは知らないが、ニキビは青春の象徴、大人になるための通過儀礼みたいなものだろう。小麦どうのこうのは関係ないのでは?」
これは世間に最も広く流布している嘘のひとつである。
なるほど、西側諸国においてはティーンエイジャーのほとんど全員がニキビを経験している。それどころか、26歳以上の年齢でも50%が断続的にニキビに見舞われている。しかし、ニキビという現象がまったく見られない文化も存在する。
パプアニューギニアのキタヴァン島の住民、パラグアイのアチェ族、ブラジルのパラスバレー先住民、アフリカのバンツー族とズールー族、日本の沖縄の人々、カナダのイヌイット。これらの伝統的な食習慣を守っている人々では、ニキビはまったく存在しない。
なぜだろうか。遺伝的な特殊性(たとえばアクネ菌に対する免疫があるとか)のおかげでニキビが出ないのだろうか。
違う。遺伝ではなく、食事が原因であることを示すエビデンスがある。
たとえば沖縄の人々は、1980年代までは地元でとれた野菜、サツマイモ、大豆、豚、魚などを食べており、ニキビは事実上存在しなかった。しかし西洋食の導入によって、ニキビが若年者に特有の疫病のごとく広まった。
世界中の民族を観察して言えることは、ニキビと無縁の人々は、小麦、砂糖、乳製品をまったく(あるいはほとんど)摂取していない、ということである。
そう、ニキビははっきり、小麦に起因する”食原病”である。

小麦グルテンに対して起こった腸管での免疫反応が、そのまま腸管に症状として出ればセリアック病だが、それ以外の場所に現れたとき、無数の異なる病名で呼ばれることになる。ニキビもそのひとつ、ということだ。

こうした事実を踏まえれば、上記の「究極の二択」に対する最善の答えが見えてくる。
「肌荒れ美人を選び、小麦を食わせない」これが一番賢いチョイスだろう。
肌が荒れているということは、肌が荒れているだけではない。肌荒れは内臓の状態、特に腸の炎症を反映しているから、まず、その美人さんの食生活を徹底的に改善指導する。お菓子とかパンとか遠慮なく食ってるはずだから、そういうのをやめさせる。
そうすれば数週間で、美肌の美人をゲット、ということになるはずだけど、、、
美人はわがままなものだから、僕の言うことなんて聞かないだろうなぁ´-`

参考:『小麦は食べるな』(ウィリアム・デイビス著)

小麦と免疫

2019.11.10

腸と脳の相関が言われている。
「腸にいいことは脳にもいい」というのは、自分の臨床経験を振り返っても、間違っていないと思う。
この命題が真ならば、その対偶「脳に悪いことは腸にもよくない」も真だというのが、論理学の教えるところである。
逆「脳にいいことは、腸にもいい」も裏「腸に悪いことは、脳にもよくない」も成り立ちそうだ。だとすると、前提と帰結は同値、「腸と脳は、同じことで笑い、同じことで泣く、ワンセットのニコイチ」と言ってしまってもよさそうだ。

「脳こそが高等動物の高等たるゆえんの器官である」とする先生は、腸を原始的な器官として脳より一段下に見ている節がある。
ところが、これとは逆に、腸を脳よりも上位の器官だと見る先生もいる。
生物は、発生的には、まず、腸からできる。その点、脳はずいぶん後進の臓器で、つまり生物にとってのプライオリティは低い、とも言える。確かに、脳のない人間(無脳小児)はあり得ても、消化管(胃、小腸、大腸)のない人間は考えられない。
さらに、腸には無数の神経細胞が分布していて、脳からの指令がなくても、独自に活動を行うことができる。脳死の人にも胃腸の蠕動運動が見られるように。

おもしろい考え方だ。
しかしここでは、腸、脳、どちらが上という話はしない。
ただ、どちらも小麦の害をモロに受ける器官である。キーワードは、炎症である。

そう、小麦を食べると、腸に炎症が起こる。腸管免疫系がグルテン(特にαグリアジン)の処理に難渋し、混乱をきたす。
この混乱が、急性症状として出現する人がいる。腹痛や下痢を生じる人もいれば、急性アレルギー反応(ショック状態)、ぜんそく、じんましん、運動誘発性アレルギーなど、症状の出方には多様性がある。

こういうふうに小麦を食べてすぐに症状に現れる人は、むしろ幸せかもしれない。というのは、原因と結果の関係が極めてクリアだから、本人も「小麦が悪いんだ」とすぐに気付くことができる。小麦を口にしないよう心がけ、健康が保たれることになる。急性小麦病は、むしろ福音というべきだろう。

逆に、「自分は何を食べても大丈夫」と胃腸がなまじタフな人は、慢性症状として、もっとわかりにくい形で症状が出る。原因と結果の関係が不明瞭なだけに、小麦を延々食べ続ける。症状がどんどん悪化して、にっちもさっちも行かないところまで追い込まれてもなお、小麦が犯人とはつゆ疑わない。
たとえば橋本病(慢性甲状腺炎)。たとえば関節リウマチ。
小麦への曝露によって免疫系が混乱し、自己抗体が出現しているという点では、これらは同じ疾患、要するに、慢性小麦病である。しかし一般の内科医はそんなこと知らないから、チラージンとかリウマトレックス、ステロイドを処方している。
これらの薬、いつまで飲み続けるのか?死ぬまで、です。

人生の早い段階で急性小麦病を発症し、小麦はやめておこう、となった人と、人生の中終盤で慢性小麦病を発症し、しかも小麦が原因であることに気付かず薬を一生飲み続けることになった人。どちらが幸せか。
小麦を使ったおいしいものを食べれなくて食の楽しみを犠牲にしたとしても、健康の大切さ(あるいは病気の辛さ)を知る人は、前者を選ぶと思う。

健康面ばかりではない。美容的な意味でも、小麦は悪影響を与える。
たとえば、わかりやすい話、小麦を食べていると、ハゲます。
小麦由来の「けったいなタンパク質」が腸内に侵入すると、体はそれをあの手この手で封じ込めようとする。抗体を作って爆撃する、というのもその一つで、抗原の封じ込めを狙うが、多くの誤爆を生じる。
具体的にいうと、たとえばSLE(全身性エリテマトーデス)にかかると、腎臓や関節など、あちこちで自己免疫性の炎症が起こるが、毛包でも同様の炎症が起こっている。
炎症を起こした毛包では、毛を支える力が弱くなり、毛が抜けることになる。さらに、炎症の鎮火のためにカルシウムが流入して石灰化が起こり、頭皮はますます不毛地帯になっていく。
実際、自己免疫性疾患による脱毛部分には、腫瘍壊死因子、インターロイキン、インターフェロンなどの炎症性メディエーターが増加している。

「健康のために小麦をやめましょう」と言っても、健康な若者は聞こうとしない。健康のありがたみは、失って初めて気付くものだ。
こういう若者には、単刀直入に「小麦を食べたらハゲますよ」という。すると、彼らもドキッとする。健康よりも美容意識に訴えるほうがアピールするんだな。

『小麦は食べるな』にこんな症例が載っている。
ゴードンはパン屋の主人。冠動脈疾患のために来院したが、ぽっこり小麦腹の体形、高血圧、糖尿病予備軍レベルの血糖値、胃のむかつき、採血でsdLDL高値、そして抜け毛の症状があった。
すべての症状が、慢性的な小麦の悪影響を示唆していた。
抜け毛を気にするゴードンは皮膚科を受診していたが、医者にも原因はわからなかった。どんどん薄くなる頭部を悲しむあまり、抑うつ状態に陥り、抗うつ薬を服用するまでになった。
「抜け毛も含め、あなたの症状はすべて小麦が原因だ」と指摘されたが、パン屋の彼である。職業的な誇りもあって、小麦が悪いとは受け入れがたい。
しかし最終的には医者の辛抱強い説得に応じ、小麦抜き生活をすることを約束した。
効果はすぐに現れた。3週間以内に、ハゲていた部分から新たな毛が生えてきたことにゴードンは気付いた。続く2ヶ月、髪は抜けることなくどんどん成長し、かつてのフサフサの髪を取り戻すに至った。
さらに、好ましい変化はこれだけではなかった。体重は5.5kg減り、腹回りは5cmスリムになった。ときどき感じていた腹部の痛みが消え、糖尿病予備軍だった血糖値は正常値に戻った。sdLDLを再検査すると、67%低下していた。

本気で小麦をやめようとするのは結構大変で、やめようとして初めて、自分がいかに小麦依存症であるかに気付くだろう。しかし薄毛に悩む人は、トライする価値があると思う。
エビデンス不明の高額な育毛剤による「足し算」ではなく、まず、小麦をやめるという「引き算」のほうが、手っ取り早くて効果も着実だよ。

参考:『小麦は食べるな』(ウィリアム・デイビス著)