ナカムラクリニック

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2019年2月27日

ビタミンの消耗3

2019.2.27

アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬として病院で処方されるのはもちろん、ドラッグストアで誰でも気軽に買える。
「誰でも買えるということは、大した副作用がないからだろう」と思われるかもしれない。
ところが、全然そんなことはない。
アセトアミノフェンの過量服用で、普通に死ぬからね。
たとえばこんな文献。https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/30/6/30_6_690/_article/-char/ja/
40歳女性が、セデスを60錠(アセトアミノフェンで4.8g)をアルコールと一緒に飲み、急性肝不全で死亡したという症例報告。剖検で肝細胞の壊死が確認されている。
救急当直をしていれば、オーバードースによる自殺企図患者は全然珍しくない。特に若い女性に多い。
アセトアミノフェン中毒には、どのように対処すればいいのか?
まず、アセトアミノフェンの毒性は、グルタチオンを急激に消耗させる点にある。
グルタチオンは毒物、炎症、フリーラジカルなどから体を守る抗酸化物質で、欠乏すると身体的、精神的に様々な症状が出現する。
だから、救急で運ばれてきたアセトアミノフェン中毒患者には、グルタチオンを直接投与すればよさそうに思える。グルタチオンの静脈注射とかね。
しかしグルタチオンを直接投与しても肝細胞に取り込まれないため、実際に行われているのは、グルタチオンの前駆体のNAC(Nアセチルシステイン)の投与だ。

添加物や農薬、妙な薬など、毒物が身近にあふれている時代にあって、解毒物質としてグルタチオンの重要性はますます高まっている。
しかしグルタチオンの産生能力には遺伝性があって、それはGSTM1(グルタチオン・S-転移酵素 Mu1)という遺伝子によって規定されている。
この遺伝子の多様性によって、毒物に対する感受性に違いが生じる。
酒が飲めるか飲めないかを規定しているのがALDH2(アルデヒド脱水素酵素)であるように、アセトアミノフェンのような毒物に対する代謝能にも遺伝の影響があるわけだ。

健康を保つには、まず、毒物の摂取を避けることが基本。だから、解熱鎮痛薬とか安易に使わないことだ大切だ。
さらに、グルタチオンを増やして防御力を上げることも有効だろう。
どうすれば増やせるのか?
アブラナ科の植物(ブロッコリー、キャベツなど)やニンニクを食べたり、NACのサプリを摂るといい。
NACサプリの有効性を説く論文があったので紹介しよう。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17602868
『Nアセチルシステイン~システイン・グルタチオン欠乏のための安全な解毒剤』というタイトル。
要約
グルタチオン欠乏は多くの疾患と関係している。Nアセチルシステイン(NAC。システインの前駆体)の投与によって、細胞内のグルタチオンを補充することができる。
NACはアセトアミノフェン中毒の解毒薬として有名だが、これはシステイン・グルタチオン欠乏に対する安全かつ耐用性良好な物質として使うことができる。
HIV感染やCOPDのような感染症、遺伝子疾患、代謝障害など、グルタチオン欠乏に由来する広範囲の疾患の治療に際して、NACが奏功している。
NACを経口で投与した46のプラセボ対照試験のうち3分の2以上の試験で、患者のQOL、健康度の改善など、NACの有効性が示された。

ビタミンの消耗2

2019.2.27

ビタミンB群を消耗させる薬は本当に多くて、たとえばアスピリン、エストロゲン製剤(ピルやステロイドも含め)、利尿薬、抗てんかん薬(テグレトール、デパケンなど)、抗炎症薬(イブプロフェンなど)、抗パーキンソン病薬(カルビドパ、レボドパなど)など、無数にある。
ピルは月経痛や月経不順などの症状に使われるのはもちろんだけど、避妊のために使っている人も多い。
つまり、健康な人が飲むことが多い薬なわけで、こういう人は、まさか自分が薬剤性のビタミン欠乏に陥っているなんて思いもしない。
ピルが血中ビタミン濃度にどのように影響するかについて、以下のような論文があったので紹介しよう。

『経口避妊薬の使用~葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12に与える影響』https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21967158
要約
女性が経口避妊薬(OCs)を使用する一方で、無計画な妊娠も多いものであるから、OCsが葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12に与える潜在的影響について理解しておくことは重要である。
OCsが葉酸代謝に悪影響を与えることは先行する多くの研究が示しているところであるが、これらの研究の大半はOCsのエストロゲン含有量がはるかに高い時代に行われたものである。
さらに、潜在的な交絡因子についてコントロール群が設定されていないなど、これらの研究から得られた知見の解釈には問題があった。
最近のデータによると、現在使用されているOCsが葉酸代謝に悪影響を与えるという結論は、支持されていない。
しかしビタミンB6について、現在の低用量OCsがビタミンB6に悪影響を与えていることは、エビデンスを以って示されている。
OCs使用者では血中ピリドキサール5リン酸の濃度が低いことが認められているが、これは体内でビタミンB6の貯蔵量が減少していることを反映している可能性がある。
こういう女性がOCsの服用をやめ妊娠したときには、妊娠中にビタミンB6欠乏を呈する危険性がある。
ビタミンB12の状態については、OCsの使用による有意差がでなかった。しかし確定的結論を下すには、今後のさらなる研究が待たれる。

文献にあるように、「長らくピルを飲んできたけど、この人の子供なら、と思ってピルを飲むのをやめて、そして妊娠した」みたいなパターンはかなりやばい。
本人がビタミンB6の消耗を自覚していないからだ。
ピルの害についてさらにいうと、ピル服用者では血栓症のリスクが増加するというデータがある。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11301170
とあるテレビ局の30代の女性アナウンサーが脳梗塞を発症したというニュースを以前見たことがある。
食生活の乱れた中高年のオヤジが脳梗塞を発症する、というのならわかる。でも若い健康的な女性が脳梗塞になるなんて、普通は考えられない。
答えはひとつ。普通じゃないことをしていたんだよ。つまり、ピルを飲んでいたんだろうね。
薬が原因で病気になったのなら、当然打つべき手は、原因薬剤の中止だ。しかしいろいろな事情でピルをやめられない人もいるかもしれない。
そういう人はせめて、ビタミンB6あるいはB群のサプリを摂ろう。

抗てんかん薬を飲んでいる人では、血中に葉酸、ビタミンB12が少なく、ホモシステインが多い、と言われているが、てんかん薬の種類、成人か小児か、によって影響は異なるようだ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29341053
抗てんかん薬がまずいのは、ビタミンだけでなく、カルニチンの代謝にも影響を与える点だ。
『抗てんかん薬とカルニチン』という論文。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10904975
要約を訳す。
カルニチンはすべての哺乳類の組織にある非タンパク性窒素化合物である。その主な働きは、β酸化のためにミトコンドリアの膜を経由して長鎖脂肪酸を運び入れることである。
カルニチンの血中濃度は、食事からの吸収、肝臓における生合成、腎臓での再吸収によって調整されている。
カルニチンの濃度に変化があるということは、これらの機序のどこかに異常があるか、遺伝的に代謝に問題があるか、である。
抗てんかん薬の服用患者では血中カルニチン濃度が減少していることが報告されている。
バルプロ酸の単剤による治療なのか、あるいは他の抗てんかん薬と組み合わせての治療なのかということが大きく影響するが、その他の抗てんかん薬のなかでも特にカルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールは、服用患者の約21%でカルニチン欠乏を引き起こしていることが研究で示された。

ミトコンドリアというのは細胞内のエネルギー産生工場で、そこに脂肪酸を運び入れるときに必要なのがカルニチンだ。
だからカルニチンが欠乏すると、元気がなくなる。
最近の相撲界はモンゴル出身力士の勢いがすごくて、日本人力士はさっぱり振るわない。モンゴル人力士の強さの秘訣は羊肉ではないか、という指摘がある。
モンゴル人は牛肉、豚肉、鶏肉よりも、羊肉をはるかによく食べる。
カルニチンを豊富に含む羊肉がミトコンドリアのエネルギー産生能率を高めている可能性は、確かにあると思う。
それに、狭いケージの中に閉じ込められて遺伝子組み換え飼料を食わされ、ホルモン剤やら抗生剤やらわけのわからない注射をいっぱい打たれている牛、豚、鶏よりも、まだしも羊のほうが健康リスクは少ないだろう。
以前に書いたけど、てんかんに対しては薬よりもまず、ビタミンB6を試すべきだ。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4204538/
できれば薬はやめたいところだけど、いろんな事情でやめられない人は、カルニチンのサプリを摂ったり、羊肉を食べたりして、少しでも薬害の軽減に努めよう。

ビタミンの消耗1

2019.2.27

リウマトレックス(メトトレキサート)を処方するときにフォリアミン(葉酸)も一緒に出す、というのは普通の整形外科医もやっている。
単剤投与では葉酸の代謝が悪くなって、薬を飲み続けることができないからだ。いつもはビタミンを目の敵にしている製薬メーカーも、併用を勧めざるを得ない、といった格好だ。
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD000951.pub2/full?cookiesEnabled
しかしこれって、本来おかしな話なんだよね。
メトトレキサートはリウマチだけでなく、癌にも使われるんだけど、抗癌剤としては『葉酸代謝拮抗薬』に分類されている。
細胞分裂の際には葉酸が不可欠なところ、メトトレキサートは葉酸の活性を抑えることで、細胞増殖を抑制する。
だからメトトレキサートによって葉酸の代謝異常が起こるのは、副作用というか主作用であって、併用して葉酸を処方しているというのは、もはや、何をやっているのか意味不明だ。
ブレーキとアクセルを同時に踏むようなことをしたって、患者の体には負担がかかるだけ。もうかるのは製薬会社だけ、という仕組み。

メトトレキサート以外にも、ビタミンの消耗を促してしまう薬はないだろうか。
ほとんど無数にある、というのが僕の答えだ。
理想を言えば、薬は全部やめるのが一番いい。でもいろいろな事情から、簡単にやめるわけにはいかない人もいるだろう。
そういう人には、せめてビタミンの併用を勧めたい。薬の代謝プロセスで消耗したり阻害されたりするビタミンを補うことで、薬剤性の被害を最小限にとどめることができるはずだ。

たとえばコエンザイムQ10という抗酸化物質がある。
これは厳密にはビタミンではないが(体内で生合成できるので)、ビタミン類として扱われることが多い。
加齢につれて産生量が減少していくんだけど、ある種の薬の影響で消耗することも知られている。
代表的なのはコレステロール降下薬(スタチン)だ。
他に、βブロッカー(メトプロロール、プロプラノロール)、抗糖尿病薬(グリピジド、グリベンクラミドのような経口糖尿病治療薬)もCoQ10を低下させる。
コエンザイムQ10は、コレステロールを作るのと同じ酵素(HMG-CoA還元酵素)で作られる。
だから、スタチンの服用によってコレステロールが低下すると同時にコエンザイムQ10も減少するのは、ここでもやはり、副作用というよりも主作用であって、当然の話なのだ。
コエンザイムQ10は細胞のエネルギー代謝に必要なので、これが低下すると筋肉(横紋筋融解症)、脳神経(認知症)など、全身に様々な悪影響が出る。
あと、致命的な副作用ではないけど、頭髪が薄くなるよ。https://www.amjmed.com/article/S0002-9343(02)01135-X/fulltext
以前にもどこかに書いたけど、コレステロールを下げたいならナイアシンを勧めたい。
それでも何か事情があってスタチンを飲まざるを得ないという人は、コエンザイムQ10(100㎎~200㎎)を飲んで、消耗を補っておこう。

ビタミンB群を消耗させる薬は非常に多い。
たとえば胃酸抑制薬(オメプラゾール、ランソプラゾールなどのPPI)。
胃酸のおかげでタンパク質をアミノ酸に分解できるところ、胃酸の分泌を抑えるとどうなるか。
アミノ酸の供給が減るから、たとえば神経伝達物質の合成も低下し、気分、記憶、注意力などに影響が出る。
胃酸の分泌低下によって腸内のpHがアルカリに偏り、さらに未消化のタンパク質が増えることもあって、腸内細菌叢が悪化する。
ビタミン産生菌などの善玉菌が減り、悪玉菌(チアミナーゼなどのビタミン分解酵素を分泌するビタミン分解菌)が増殖し、血中ビタミンが減少する。
人体には微量の金属(ミネラル)が必要だが、食品中のミネラルは胃酸でイオン化することで吸収される。しかし胃酸抑制薬を飲むと、ミネラルの吸収が減少する。
たとえば亜鉛の吸収が落ちれば抗酸化力の低下から様々な慢性疾患にかかりやすくなり、鉄の吸収が落ちれば貧血になり、マグネシウムの吸収が落ちれば不安症や気分障害を発症しやすくなり、カルシウムの吸収が落ちれば骨粗鬆症になりやすくなる。
食品中のビタミンB12はタンパク質と結びついているが、胃酸分泌の低下によってタンパク質の消化力が落ち、同時にビタミンB12の吸収も低下する。ビタミンB12の低下によって大球性貧血を生じる。
つまり、まともな赤血球が作れなくなってしまう。酸素の運搬能力が低下して、易疲労性、記憶力低下、認知症、うつ病などの原因になる。
単に胃酸を抑えるだけで、ビタミンの減少のみならず、これだけの悪影響がある。
胃酸の抑制によって胃部不快感が軽減する、というのは、一時的・局所的には成立しているかもしれない。
でも長期的・全体的に見れば、結局収支はマイナスになっている。
要素還元主義的な医学で、本当の健康を取り戻すことなんてできるはずがない。