ナカムラクリニック

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2019年1月27日

シアナマイド

2019.1.27

アルコール依存症の激しい飲酒欲求に対して、ナイアシンが著効する。
ホッファー先生の成し遂げた大発見の一つである。
しかし栄養療法の存在を知らず、一般の病院を受診すればどうなるか。
恐らく、抗酒薬の処方を受けることになるだろう。

抗酒薬は、シアナマイドかノックビン(成分名:ジスルフィラム)が使われることが多い。
違いとしては、シアナマイドは液状で即効性があること、ノックビンは粉末で遅効性だがその分効果が長く続くことだ。
作用機序は同じようなもので、どちらもアルコール分解酵素(アルデヒド脱水素酵素)を阻害する。
酒が飲める人と飲めない人の違いは、アルデヒド脱水素酵素の活性の違いだから、この薬はまさに、体を強制的に「下戸」にする薬だ。
個人的な印象としては、ノックビンよりもシアナマイドが処方されることのほうが多いと思う。シアナマイドは1日1回服用だから、「禁酒の誓い」として毎朝これを飲み「今日も一日断酒、頑張るぞ」と、ちょっとした儀式的な意味合いを持たせることができる。そういう点が好まれて、ノックビンよりシアナマイドが多く使われているのかもしれない。
しかし意外なことに、シアナマイドはアメリカで販売されていない。ノックビンだけ。なぜなんだろうね。だから、シアナマイドの効能についての論文でアメリカ発のはほとんどない。

アルコールというのは、本来微生物の生み出した有害産物である。
しかし適量だと酩酊による快感を楽しむことができて、人との友好関係を深めるツールとして大昔から利用されてきた。
しかし長期間大量摂取すれば、体は大きなダメージを負う。
しかも失うのは健康だけじゃない。
家族や社会からの信頼、仕事、収入、財産、地位、名誉。アルコールは、全てを奪っていく。
「俺は病気だ」本人も自覚している。しかし、それでもなお、酒がやめられない。
涙を流しながら、酒をあおっている。
AA(断酒会)の場には、こういう「底つき体験」をした人がたくさんいて、僕は勤務医時代、彼らの体験談を聞いてきた。

彼らのほとんど全員が、何らかの形で抗酒薬を飲んでいた。
アルコール性肝硬変で、主治医から「このまま酒を続ければ、間違いなく死にます。命をとるか、酒をとるか、どうしますか」と迫られた結果、命を選択し、抗酒薬の服用を始める。
主治医の言っていることは間違っていないと思う。
ただ、この主治医先生、抗酒薬よりもベターなチョイスであるナイアシンの存在を知らないことに加えて、実は抗酒薬自体が肝臓にあまりよくないことも知らない。

論文を紹介しよう。
『シアナマイド関連性アルコール性肝障害〜一連の組織学的評価』というタイトル。https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1530-0277.1995.tb01616.x
要約をざっと訳すと、、
本論文は我々の知る限り、慢性的なアルコール使用とシアナマイドの服用、その両者の組み合わせによって引き起こされる肝疾患の組織病理学的な進行を追跡したものである。29人のアルコール依存症者(シアナマイドによる治療を受けながらも再飲酒してしまったことがある患者)に対して、肝生検を2回行い、標本を採取した。
シアナマイドは肝細胞内に擦りガラス様封入体(GGIs)を生じさせた。
GGIs病変が増加しているか減少しているかによって、患者群を2つに分けたところ、この振り分けはシアナマイドの投与期間および無投薬期間によって決まっていることが明らかになった。
第1群は14症例からなり、彼らはGGIsが2回目の生検標本でのみ見られたか、あるいは1回目に比べて2回目の生検標本でGGIsが増加していた人々である。
第2群は15症例からなり、彼らは1回目、2回目、いずれの生検標本でもGGIsが見られなかったか、あるいは2回目の生検標本で1回目よりGGIsが減少していた人々である。
第1群では、5症例(33%)が2回目の生検標本で好酸性体が増加していたが、第2群では増加は全く見られなかった。
門脈炎症の重症度は、第1群の10症例(71%)で増悪したが、第2群で悪化したのは2症例(13%)だけだった。線維化の進行具合については両群で違いは見られなかった。
これらの違いは、両群の1日のエタノール摂取量および再飲酒期間の長さによっては説明できない。シアナマイドで治療を受けたアルコール依存症者が再飲酒すると、シアナマイドとアルコールが相乗的に悪影響を及ぼし、GGIsの出現とともに、好酸性体や肝門脈炎症の増悪を引き起こすのである。

中島らもは抗酒薬を飲んでてもなお、酒を飲み続けた。
上記の論文によれば、アルコールとシアナマイドの相乗毒性が出て、肝臓には最悪の飲み方だった、ということになる。
こんな飲み方をしてしまうぐらいなら、抗酒薬はむしろ飲んではいけない。
そもそもシアナマイドは、アルコールという毒物の代謝能力を阻害するわけだけど、弱くなるのがアルコールに対してだけかというと、そんな保証はどこにもない。肝臓のデトックス能力自体を落としてしまう可能性もある。
中島らもと、この前亡くなった勝谷誠彦氏は共通点が多い。どっちも尼崎出身で、どっちも灘高で、どっちもうつ病で、どっちも酒で才能を潰して、そして致命的なことに、どっちもナイアシンのことを知らなかった。
ナイアシンで救える命がある。
シアナマイドより、まず、ナイアシンでしょうに。

NSAIDs

2019.1.27

『NSAIDs誘発性小腸障害におけるミトコンドリア障害』というタイトルの論文をご紹介します。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3045683/
要約をざっと訳します。
小腸内視鏡を使った近年の研究によって、NSAIDs(低用量アスピリンも含む)が高頻度で小腸への障害を引き起こすことが明らかになった。
NSAIDsによる小腸粘膜障害の機序には、腸内細菌、サイトカイン、胆汁など、様々な要因が関連している。
実験によって、NSAIDs誘発性小腸障害の発症には、ミトコンドリア障害およびシクロオキシゲナーゼ阻害が原因であることが示されている。
ミトコンドリアとは有機体のエネルギー産生において中心的役割を果たす小器官である。多くのNSAIDsは直接的にミトコンドリア障害を引き起こす。
NSAIDsによってミトコンドリアの膜に『ミトコンドリア透過性転移孔』と呼ばれる巨大なチャンネルが開き、これによって酸化的リン酸化の非共役化が起こる。
胆汁酸や腫瘍壊死因子αもこの透過性転移孔を開大させる。
透過性転移孔の開大によって、ミトコンドリア基質からシトクロームCが細胞質へ流出し、これを機に一連のカスケードを経て、細胞死に至る。
つまり、こうしたミトコンドリア障害は、粘膜のバリア機能を破壊し、小腸粘膜の透過性が亢進し、結果、NSAIDs誘発性小腸粘障害のプロセスが進行する。
NSAIDs誘発性小腸障害の予防や治療の有効な手立ては未だないため、今後のミトコンドリア研究の進展が待たれる。

NSAIDs誘発性小腸障害の予防?
簡単だよ。
使わなければいい。それだけの話じゃないか。
現代医学は、簡単な話をムダに複雑化させているだけだ。
「NSAIDsは頭痛や生理痛には手放せない薬。これなしでは私、やっていけない」っていうお母さんは、この薬をすごくいいものだと思っているかもしれない。
あるいは、たかが痛み止め、たかが解熱薬、と軽く考えているかもしれない。
でも甘く見てはいけないよ。
NSAIDsによってミトコンドリアが壊れ、結果、細胞が壊れてしまう。
この論文は小腸でそういうことが起こるって言ってるんだけど、同じことは全身の細胞で起こっている。
脳で同じことが起こればどうなるか。
たとえば子供がインフルエンザで寝込んでいる。親は寝込む子供が不憫で座視するに忍びない。病院に連れて行き、医者に何とか治してやって下さい、と懇願する。高熱を下げようと考えた医者は、NSAIDsを投与する。熱は見事に下がった。
しかし一時的な解熱と引き換えに払った代償は、あまりにも大きかった。
NSAIDsは脳細胞のミトコンドリアを破壊し、引き続いて脳細胞自身のアポトーシスを引き起こし、脳浮腫、やがて意識不明となり、死亡。
でも解熱薬が原因で死亡しただなんて、医者は絶対認めないだろう。

病態としては、ライ症候群による急性脳症そのものであって、つまり、解熱薬が誘因になっていると正しく解釈する医者もいる。良心的で、よく勉強している先生だ。こういう医者は、少なくとも患者を殺さない。
しかし不勉強な医者は、「インフルエンザウィルスによる急性脳症であって、解熱薬は症状に無関係だ」と強弁するだろう。
多くの医者がこんな具合なんだ。
だから、僕は、何度でも言う。
死にたくなかったら、病院に行ってはいけない。
地雷ドクターを引いたら、マジで人生が終わってしまうよ。
高熱で苦しむ我が子に何かしてやりたい親の気持ちはわかる。でも、そういうときでも、子供に生来備わった自然治癒力を信じる、ということができないものだろうか。
水分摂取して、布団にくるまって温かくして、たくさん汗をかくこと。
結局これに勝る治療法はないんだよ。