ナカムラクリニック

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2018年12月25日

肩こり

2018.12.25

虚血後再灌流障害、という病態がある。
たとえば心筋梗塞のとき。
心臓の冠動脈に血栓がつまった。大変なことだ。病院に運ばれて、いろいろな救急処置を受ける。
血管がつまっているわけだから、つまりを除去するのが基本。
ただ、「それで万事解決、めでたしめでたし」といかないのが人体のやっかいなところ。
皮肉なことに、血流が再び改善したことによってフリーラジカルが発生し、細胞がダメージを受け、組織の破壊が起こる。
このあたりの機序は、この論文に詳しい。https://www.physiology.org/doi/abs/10.1152/ajpheart.1988.255.6.H1269
ざっと説明すると、
虚血後再灌流による微小血管損傷にはキサンチン酸化酵素と顆粒球が関与している。
虚血状態ではATPが分解されヒポキサンチンが生成される。低酸素ストレスによって、NADを還元するキサンチン脱水素酵素が酸素ラジカルを産生するキサンチン酸化酵素へと変換される。
再灌流が起こると酸素が組織に再び供給されるが、酸素はヒポキサンチンやキサンチン酸化酵素と反応し、スーパーオキシドアニオン(超酸化物)と過酸化水素が大量に発生する。
鉄の存在下では、スーパーオキシドアニオンと過酸化水素はハーバー・ワイス反応を経て、ヒドロキシラジカルになる。
これは非常に反応性が高く細胞毒性のあるラジカルであり、細胞膜の構成成分である脂質を酸化し、続いて、微小血管内皮に顆粒球を呼び込み活性化する物質が放出される。
この顆粒球がスーパーオキシドや様々なタンパク分解酵素を産生するため、血管内皮細胞の損傷がさらに進む。

虚血状態は組織にとっての一大事。
低酸素状態に何とか適応しようと、少ない酸素でやりくりしようとしているところに、いきなり再灌流が始まると、かえって不都合が生じてしまうという、何とも厄介な状態。
それが虚血後再灌流障害だ。
これは全然珍しくなくて、外科ではしょっちゅう出くわす病態だ。
消化管吻合術の術後とか、脳のクリッピング手術の術後とか。
いったん血流を止めて、しかるべき処置をして、血流再開、というパターンの手術では、まず間違いなく、虚血後再灌流障害が起こっている(それが症状として表面化するかどうかは別として)。

この病態は、実はもっと広く見られる現象なのではないか、と個人的に思っている。
肩コリがつらい。マッサージに行った。もんでもらっているときは、気持ちいい。楽になった、と思う。
でも翌日、妙にだるい。肩こりのだるさとは別の、妙な感覚が肩にただよっている。
こういうのはみなさん、経験があるのではないですか。
この現象は、マッサージ業界では「もみ返し」と言われている。
施術時の圧力で、筋膜や筋線維が痛むことが原因ということになっている。「だから、もみすぎはあまりよくないよ」と。
そう、下手にギューギュー押すだけのマッサージのせいで、筋線維が損傷するという面は確かにあるだろうが、それだけではないと思う。

肩コリとは何か。
ひとことで言えば、血流障害のことだ。虚血による筋肉のうずき。それを僕らは、コリと呼んでいる。
局所的に組織への血流が低下し、低酸素状態になると、そこでは副交感神経が優位になっている。つまり、その部分をある種の休眠状態にして、ストレスに耐えようとする。
そこに、マッサージによって急激に血流が改善すればどうなるか。
上記の虚血後再灌流によるメカニズムと同じことが起こる。
顆粒球が流入してラジカルを発生し、組織の破壊が起こる。
「もみ返し」はマッサージの圧力による組織損傷だけではなくて、体の内側で起こるラジカル生成も関与しているのではないか。

さらに、仮説をもう一つ。
この現代社会には食品添加物や農薬など、さまざまな毒物が身近にあふれているわけだが、水溶性の毒物は、体を一巡してダメージを与え、そのまま尿として排出される。
しかし脂溶性の毒物は、もっとたちが悪くて、そう簡単にはいかない。
排出しようにもなかなか出て行ってくれないものだから、かといって血中に流れていても困るので、体はそういう毒物を、ひとまず脂肪にとどめ置く。
ヒ素やカドミウムなどの重金属も脂肪に蓄積する。こうした重金属は、組織での電子や酸素を奪い、低酸素状態を引き起こす。ミトコンドリアの機能不全状態であり、副交感神経の過剰状態となる。
だから、妙にだるいような疲労感にさいなまれることになる。
こういう状態で、マッサージをすればどうなるか。
マッサージによって血流が改善し、脂肪内に蓄積していた重金属が一部、血中に溶出する。
結果、閉じ込めておいた毒性が再度経験されることになり、マッサージ後の不調感の一因となる。

ちなみに、意外に思われるかもしれないけど、ビタミンCの投与によって、血中の有害ミネラル濃度は一時的に上昇します。
なぜかって?
ビタミンCには有害ミネラルをデトックスする作用があるんだけど、その作用を発揮するには、脂肪の中に蓄積した重金属を一度は血中に溶かすプロセスが必要だから。
“Orthomolecular Medicine For Everyone”(Abram Hoffer著)という本の一節に、以下のような記述がある。
「ブリティッシュコロンビア大学のエリック・パターソン医師は、精神障害者の治療センターで顧問医師をしていたとき、ある患者が通常よりも鉛の血中濃度が10倍高いことに気付いた。パターソン医師は1日4000㎎のビタミンCを投与した。彼はすぐに回復するとは考えていなかった。翌年、その患者の血中鉛濃度はむしろ増加していた。しかしこれはビタミンCが体内に淀む鉛を動態化させているのかもしれないと考え、ビタミンCの投与を根気よく続けた。その翌年、鉛濃度は急激に下がっていた。そして年月が過ぎるにつれ、その濃度はほとんど検出できないほどになり、患者の行動は非常に改善した。」
これはすごい話だと思いませんか。
何がすごいって、血中の鉛濃度が普通の10倍も高い人だから、病気に鉛が関与していると考えるのは当然として、その治療のためにビタミンCの投与を開始したら、むしろ血中鉛濃度が上がってしまった。
ここで普通の医者ならあっさり方向転換するところ、根気よくビタミンCの投与を一年以上続けて、結果、ようやく鉛濃度が減少し、本当の回復を達成したっていう。
この話は、実に示唆的だと思う。
ビタミンCの投与は、長く続けることが重要だ、ということ。
即効性を期待して、効果がないやとすぐにあきらめては、もったいないですよー!

マッサージ自体は悪いことではないと思う。
ただ、マッサージによる血流改善によって、フリーラジカルが発生することを事前に認識しておけば、やるべきことは見えてくる。
抗酸化物質の摂取だ。
具体的には、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、セレンあたりを摂っておくといい。
そうすればマッサージ後の不調感を軽減することができる、はず。
はず、というのは、このあたりの考察は、病態機序から考えた僕の推測に過ぎなくて、そのあたりを検証したEBMは恐らく存在しないから。
でも、ビタミンは摂ってて体に悪いものではないから、みなさん、日々の健康管理にビタミンを活用しましょう。

クリスマス

2018.12.25

梅田に行ったんだけど、クリスマスということでいつにも増して混雑していた。
やはり、カップルがすごく多かったな。
クリスマスだから恋人と過ごさなきゃ、っていう、あの強迫観念めいたあせりは何だろう。
じいちゃんばあちゃんに聞いてみればわかるけど、僕らの祖父母世代にクリスマスを祝う習慣なんてなかった。
サンタクロースが屋根裏とか煙突から住居に侵入し、枕元に物品を不法投棄していくなんていう下品な言い伝えは、そもそも存在しなかったわけ。
電通かどこだかの広告戦略が見事に奏功して、クリスマスというイベントは日本人の風習に見事に食い込んだ。
まったく、日本全体が広告会社の宣伝にまんまと踊らされている。
酔狂の極みだな。

、、、というのが理性の言葉。
感情的には、うらやましいなぁ^^;
世間の雰囲気として、「恋人と過ごす日」というのが設定されているようなもので、そこに乗り遅れた自分としては、何だか負け組的な感情を禁じ得ないのよ。
家庭があれば、雰囲気に乗っかって、ケーキなりチキンなり食べて、家族でワイワイするのも楽しいだろうな。
眠る子供の枕元に、欲しがっていたおもちゃをそっと置いてやるのは、親としてもきっと楽しいことだろう。
そういう感情を思えば、クリスマスというイベントは、「広告戦略に踊らされている」、なんていう陰謀論めいた話よりも、「お祭り好きの日本人の感性にフィットしている」「何かにかこつけて楽しみたい」っていう、単純にそれだけのことのような気もする。

さて今年のイブの聖夜は、恋人なんてクソ喰らえとばかりに、野郎だけで過ごしました笑
いつもは東京の病院に勤務する大学時代の友人が、一時的に地元に帰っているということで、久しぶりに会った。
SNSとかメールで連絡は取り合ってたものの、実際に会うのは5年ぶりだった。

「大学病院で形成外科医として働いている。
君も知っているだろうが、大学病院の給料はひどい。しかも勤務時間は長い。時給に換算したら、千数百円っていうレベルだと思う。
そもそも大学病院の存在意義は、臨床、研究、教育だ。
自分の好きな研究やりつつ、ときどき学生や後輩の教育なんかもしつつ、片手間に臨床もやる、ぐらいの感じだから、臨床一本でガチでやっている市中病院より給料が低いのは、まぁ当然といえば当然なんだ。
俺も形成外科で『修行させてもらっている』ぐらいの意識だからね。実際、いろんなことを勉強させてもらっている。
だいたい、形成というのは隙間産業のようなところがあって、メジャー外科やマイナー外科のあいだを埋める立ち位置だ。
乳癌術後の乳房再建術とか、外科のフォローをすることもあれば、眼瞼下垂のように、眼科だか美容だか微妙なものもある。実質、保険のきく二重まぶた形成術のようなものだけど。
さらに、皮膚癌の除去術のように、皮膚科的なこともするし、骨切り伴う顎関節の矯正術なんていう、歯科だか整形だか微妙な領域のオペも手がける。自分がまさか、歯学部出身の歯医者さんと一緒に仕事をするとは思わなかったな。
そう、本当に様々な分野の人と手術ができて、いろんなことが勉強できる。だから、お金もらいながら勉強させてもらっているようなものだから、大学病院の給料が低いのは仕方ない。
でも、『仕方ない』で片付けては、生活できない。だから、当然バイトをしている。バイトのおかげで何とか生活が回っている感じだ。
今後の方針?
未定だけど、大学病院で骨を埋める気はないよ。
今のところ、手広く形成全般の勉強をしているが、一つの専門分野にしぼって、その道での大家を目指す、という生き方もあるだろうし、美容外科医として、一般のクリニックに就職という道もある。
たとえば性同一性障害に悩む人のために、陰茎形成術や造膣術というのがあるんだけど、この分野でトップを目指すなら、岡山大学で修行するのがいい」
え、チンチンとかマンマンって、作れるの?
「もちろん、作れる。
陰茎は、腕の皮膚を顕微鏡下で生きたまま移植する。陰核の神経とつなげば、性感を得ることも可能だ。
造膣術はいろいろな方法があるが、今の主流はラパロでS状結腸を使った膣形成だ」
そんなことができるのかぁ。ブラックジャックの世界やね。
「そう、ブラックジャック。俺が外科に行ったのも、そもそも医者になったのも、あの漫画の影響が大きいよ。
医学部受験の面接のときにも、医学部への志望理由を聞かれて、ブラックジャックに憧れたから、って答えたからね。
ところで君、開業したそうじゃないか。
これ、俺からの、ちょっとしたクリスマスプレゼントだ」

何これ?
「シーランド公国の爵位だ。今日から君は貴族だよ。Lord(卿)の称号を君に贈る」
何か変な宗教?笑
「いや、シーランド公国は実在する人工島だ。宗教とかじゃない。
ただ爵位どうのこうのっていうのは、まぁギャグだよ。クリニックの壁にでも飾ってくれ」

形成外科医としての技術を着々と高めながらも、ギャグセンスとか昔の彼のままで、楽しいクリスマス飲み会だった。
しかし、、、
シーランド公国の爵位とか、明治天皇の肖像とか、クリニックの雰囲気がどんどん異様になっていく笑
まともなものプレゼントしてくれる同級生がいないっていう^^;