2018.6.16
先週、天皇皇后両陛下が被災地を訪問したことがニュースになっていたけど、天皇陛下は3.11後、被災地に10回以上行っている。
最初の訪問は、震災発生から2ヶ月後のこと。ヘリコプターで現地入りしている。
すごいことだと思う。
当然、お付きの人は止めたはずだ。
「陛下、今被災地に行っては被曝の恐れがあります。どうか控えて下さい」と。
いや、俺が行くことで励まされる人があるなら今こそ行かねばならない、と、侍従の制止を振り切って、あえて訪問した。
ポーズだけのつもりなら、一回でいい。それで充分、形作りにはなっているから。
でも10回以上も行ったんだ。被災した人たちに対して、本当に心を痛めているからこそだろう。
実際に訪問した場所も、南相馬とか川内村とか、放射能レベルとしては一番危ない地域に、防護服もなしに普通に行っている。
陛下の真心は被災地の人たちに充分伝わったと思う。
ただ、僕としては陛下の体が心配だ。
真心はわかる。でもやっぱり無謀だ。
仮に行くにしても、ノーガードで行ってはいけない。
陛下の被災地入りに際して、侍医は事前にビタミンCの服用をすすめただろうか。恐らくしていないだろう。
ビタミンCに放射線からの防御作用があることは、栄養療法をやっている医師には常識的な知識だけど、一般的な医師は知らない。少なくとも、医学部で学ぶ知識ではない。
だから皇室の侍医も知らないだろう。
2012年2月、陛下は冠動脈のバイパス手術を受けた。
放射能と心疾患の因果関係をつい想像してしまうのは、僕の職業病かもしれない。
冠動脈の狭窄は、栄養療法の非常に得意とする分野で、ビタミンEやセレン、ビタミンC、ナイアシンの服用で狭窄はきれいに改善する。
皇室で栄養療法が採用されていたならば、冠動脈の手術なんて事態にはそもそもなっていないはずで、ということは、陛下はビタミンなんて飲んでいないんだろうな、と想像がつく。
今回の福島訪問中、皇后が発熱した、というニュースも気になった。現地入りする前に発熱していればさすがに公務は中止になったはずで、やはり現地入りして以後、症状が出たということだろう。
高校で化学を履修した人なら、周期表で縦に並ぶ元素は、化学的におおよそ似たような振る舞いをする、というのを習っただろう。
放射性物質として悪名高いセシウムは一族元素で、ナトリウムやカリウムと同族。もし内部被曝して体内にセシウムが入ると、最も影響が出やすいのは心臓だ。
活発にナトリウム・カリウムポンプが動いているところにセシウムがあると、間違えて心筋に取り込まれてしまう。セシウムを取り込んだ心筋細胞は、DNAが破壊されてしまう。
心臓の酸化が進んで、悪くすれば突然死もあり得る。
ストロンチウムは二族元素で、これはマグネシウムやカルシウムと同族。たとえば骨芽細胞が成長する際、血中のカルシウムを取り込むところで、ストロンチウムがあれば、細胞内にストロンチウムが取り込まれる。
取り込まれたストロンチウムは骨の中で、人体に影響の大きいベータ線を放出し続け、長期的な内部被曝をすることになる。
もんじゅや常陽は今のところ停止中だけど、高速増殖炉の近辺に住む人は体内のベリリウム濃度が高い、という話を聞いたことがある。
ベリリウム自体、中性子を放出する中性子線源だが、原子炉で中性子の反射材や減速材として用いられている。
被曝予防のためにヨード剤を、というのを震災後のニュースで見たことがある人もいるだろう。あれは要するに、放射性ヨウ素から身を守るために、非放射性ヨウ素の血中濃度を高めておこう、という発想だ。
ヨウ素は主に甲状腺で取り込まれるけど、甲状腺が非放射性ヨウ素で満たされていれば、放射性ヨウ素の取り込みが減る、という具合。
Thomas Levyの著書”Curing the Incurable”に、放射能に対してビタミンCおよびその他の抗酸化物質(ビタミンE、ベータカロチン、ビタミンB群、グルタチオンなど)がいかに効果的か、詳しい記述がある(p271-278)。
多くの研究論文が詳しく紹介されているが、乱暴に要約すると、
「放射線は細胞内のDNAを破壊し、活性酸素を発生させ、遺伝子変異、癌などの原因となるが、ビタミンCがフリーラジカルのスカベンジャーとして作用する。その用量は多ければ多いほど効果的である」といったところ。
別に難しい話じゃない。ビタミンCのサプリ多めに飲んどく。これだけで放射線対策できちゃう、って言ってるわけ。
やらなきゃ損でしょ。特に東日本に住んでる人とか、西日本在住の人でも、家の近くに原発のある人とかは、日々の健康管理のためにビタミンC飲んでおくといいよ。
1錠1000㎎の錠剤を毎日1錠でもいい。余裕があるなら、朝昼夕に各1錠とか。
わずか数百mg程度の摂取でも、全くとらない人に比べて、全般的死亡率が有意に低下したっていう統計があるよ。
皇室には、アルコール依存症をこじらせて亡くなった人もいる。ナイアシンなどの栄養療法をやれば、助けてあげられたのにな、と思う。
皇室は病院に関しては基本、東大びいきで、東大医学部の教授も陛下を含め皇室の健康管理を任されていることを誇りに思っている。
陛下の冠動脈手術をしたのは東大以外の先生だったけど、これは東大医学部にとっては屈辱的なことだったらしい。
それでも、栄養療法などという、彼らからすれば得体の知れない妙な健康法で陛下が健康を回復するよりは、まだしもマシだっただろう。
陛下を救ったのは、わけのわからないサプリではなく、全身麻酔下のオンビート手術という西洋医学の粋を結集したような技術だったわけで、彼らの面目はまだしも保たれたと思う。
別に医者のプライドがどうのこうのとか、全然医療の本質じゃないんだけどね。
患者にとってどういう治療がベストかって話なわけでさ。
周囲のいろんな人の思惑やプライドなんかも絡んでて、陛下のお耳に栄養療法なんて言葉が届くことはないだろう。
僕は国民の象徴じゃなくてよかったよかった^^;
2018.6.15
僕ら医者は、常に最悪の事態を想定して動きます。
そういうふうに教育されてきましたから。
たとえば、咳が2週間続いているなら、肺癌や結核を疑う。
背中の痛みを訴える人には、膵臓癌も考慮する。
もちろん、ほとんどの場合は杞憂です。
たいていは単なる風邪であったり、ただの腰痛です。
でも、最悪の事態を念頭に置いて患者を見る。
これが医者の基本スタイルです。
そうでなくてはいけないんです。
福島県で心筋梗塞や小児の甲状腺癌が多発しています。
様々な疫学調査が行われ、統計的に有意に増加していることが示されています。
当然、放射能による影響を疑わなくてはなりません。
チェルノブイリの原発事故のデータもありますから、これは想定外の事態ではなく、充分に予想のつくことではありました。
しかし、国はこれらの疾患の増加と放射能の因果関係を頑なに認めていません。
国は医学部教育において、常に最悪の事態を想定して診察せよ、という原則を僕らに教育してくれました。
しかし、こと原発事故に関しては、疾患に対する放射能の影響は無視せよ、と言わんばかりです。
放射能による疾患の増加は、僕ら医者の間でも半ばタブーのような格好です。
いつまで目をそらし続けないといけないのでしょうか。
国が、データとしてここまで明確な統計を突きつけられてなお、放射線が原因である可能性を否定し続けるのはなぜでしょうか。
我々はフクシマを経験しました。
普通の国家であれば、すっかり懲りて、『原発は割に合わない、もうやめよう』となるに違いありません。
それなのに、フクシマ以後も、新たに原発を建設しようとしている。
狂っている。
まともな人間の発想じゃない。
そう思いませんか。
要するに、政治なのだと思います。
日本はアメリカの植民地で、日本人はアメリカの奴隷なのだということが、この原発の一件からよく見えてきます。
日本はアメリカの意向に対して、NOと言えない。
今福島で増加している疾患が放射線の影響だと公式に認めては、原発を広めたいアメリカの思惑を阻害してしまう。
おそらくそれだけの話なのだと思います。
日本の政治家は、国民の健康を優先するよりも、宗主国のご機嫌伺いをしないといけない。
悲しいことですが、日本はそういう国なんです。
国は皆さんを守ってくれません。
皆さんは自分で自分を守らないといけません。
その守り方のひとつを、ここに供覧します。
福島で地震が起こる1年前、防衛医科大学および自衛隊が、こんな論文を発表しました。
『アスコルビン酸の事前投与は、大量放射線被曝したマウスの致死的消化管障害を防ぐ』
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrr/advpub/0/advpub_09078/_article/-char/en)
「放射線照射を受けたマウスについて、事前にビタミンC投与しておけば生存率が向上したが、事後的投与では全例死亡した」といった内容です。
本文には、「もし原発事故や放射能テロが発生し、放射線汚染地域にいる被害者を救出する際には、出動する隊員に直ちにビタミンCを経口投与させることが重要である」との記載があります。
偶然にも、フクシマの1年前に防医と自衛隊の共同研究が行われ、放射能に対するビタミンCの効用が確認されていたわけです。
そして、実際、その後被災地に駆けつけた自衛隊員は、この研究を踏まえ、ビタミンCを飲んでいました。隊員は無事に任務をこなすことができました。
しかし、、、本当に偶然でしょうか。
地震の1年前に、たまたま偶然、放射能対策の研究をしていたのでしょうか。
日本の諜報機関が事前に米軍の動向を察知し、近いうちに何らかの放射能攻撃の可能性がある、という情報を掴んでいたとすれば?
地震兵器(気象兵器をはじめ、以前は日本のマスコミでも普通に報じられていたのに、情報統制を敷かれたのか、今やその存在自体がマスコミで一切報道されなくなった)によって原発近辺で人工地震が引き起こされ、その放射能により国家的非常事態になることを想定していたとすれば?
この辺りは推測の域を出ません。
ただ、自衛隊員にビタミンCを飲ませる指示は極めて適切なものでした。
みなさんが放射能から自分を守る方法を、ここでもっと詳しく紹介しましょう。
『点滴療法研究会の公式声明』
内部被曝もしくは外部被曝の可能性のあるすべての人は、体内の抗酸化予備能を最大化するために、直ちに抗酸化栄養素を摂取すべきである。
ビタミンC 1-3g 1日3-4回
アルファリポ酸 100-200mg 1日2回
セレン 50-200μg 1日2回
ビタミンE 100-200mg 1日2回
上記に加え、基本的なビタミン、ミネラルも併用する。
福島で増加傾向にある疾患は心筋梗塞や小児甲状腺癌だけではないし、これらの疾患が増加しているのは福島県だけではありません。
茨城はじめ関東全体で増加しています。
国が放射能の影響を認めない以上、放射能に対しては自衛するしかありません。
今日の話が少しでもみなさんの役に立てば幸いです。
(参考:2018年4月29日国際オーソモレキュラー学会東京大会での柳澤厚生先生の講演)
2018.6.14
秀吉は尾張中村の生まれで、もう下層も下層、どん百姓の家で育ったんだけど、見事に天下人にまで成り上がった。
信長や家康はもともとの生まれも裕福で、いわばサラブレッドとして育ったわけだから、彼らが天下をとったってそれほど不思議じゃない。
でも群雄割拠の戦国時代に天下統一を果たしたのは、下層民出身の秀吉だった。
上司に取り入るのがうまかったとか、戦でいくつも功績をあげたからとか、運だけじゃなくてそれ相応に才能があったからこそ、それだけの出世ができたんだろうけど、それにしたって、どん底からトップに登りつめたっていう、こんなサクセスストーリーは前代未聞だろう。
しかし、天下人になったからとて、芸術に対する感性や教養のなさは、俗物そのもの。
そういうのって育ちがどうしても反映されるものだから。
たとえば当時は、絵画といえば水墨画に代表されるようなワビ、サビの恬淡とした趣きが尊ばれたところ、秀吉は金箔を張りまくる派手な屏風を描かせて、大坂城の内部を飾った。
茶道では、洗練された利休の茶室に真っ向から対抗して、内部に金箔をびっしり張り詰めた茶室を作ったりした。
信長は神仏を拝まず、逆に人々に自分を拝ませようとしたが、秀吉もこの例にならい、自分を神格化しようとした。
無知や傲慢もここまで振り切ればひとつの才能なのかもしれない。
利休は大坂船場の大豪商の家に生まれ育った。
裕福な家庭で、当時でき得る限りの様々な学問を修めた。無数の古今の書籍を学び、やがて当代一流の知識人に成長した。
一方、利休は、家業の手伝い通じて、金がいかに人を狂わせ、その欲望のために身を滅ぼすか、無数の実例を見てきた。
金にできること、できないことの違いがわかっていたし、そして金のもたらす快楽がいかにはかないものであるか、その虚しさを知り抜いていた。
利休の考案した茶室を見たことがありますか。
すごく狭い入り口で、腰を屈めて、赤ちゃんがハイハイするようなかっこうにならないと、入れない。
つまり、どんな権力者だって、利休の茶室に入るには、そういう不恰好な姿勢をとらざるを得ない。
「みんな同じ人間じゃないか。妙なおごりは捨てようよ」
入り口の構造からすでに、彼の思想、人間観が、メッセージとしてにじみ出てるんだな。
さて、人間のはかなさを知り尽くす利休が、どうした運命の巡り合わせか、浮世の栄華の頂点を極めた秀吉に仕えることになった。
内面世界を悟った賢者と、卑しさを寄せ集めたような俗物。
こんなに相容れない人間性があるだろうか、というぐらいに対極的な性格の二人である。
この二人が交わったとき、どういう化学反応が起こるのか、興味あると思いませんか。
最終的には、利休は秀吉に切腹を命じられ、それに従った。
利休の首は一条堀川沿いでさらし首にされた。
秀吉は利休に対峙すると、何とも言えない不安を感じるのだった。
こいつにはすべて見透かされている気がする。俺のつまらなさも、卑しさも。
なるほど、形の上では俺に恭順の意を示し、うやうやしく頭を下げたりする。
でも、内心では俺のことを見下しているに違いないんだ。『この成金の猿が』と。
「おい、利休」と秀吉が呼ぶ。「ちょっとこっち来い」
「はい、何でございましょうか」と、利休、低頭して答える。
「お前、俺のことどう思ってるんや?」
「太閤秀吉様にございます」
「そんなことは分かっとるわい!」大声出して、萎縮させて、再び尋ねる。
「で、お前は、俺のことをどう思ってるんや?」
利休、言葉につまって、沈黙するしかない。
困惑する利休を見て、秀吉、「もうええわ、あっち行け」
権威をかさにきて、そういうふうにいじめても、秀吉の気持ちは晴れない。
それどころか、秀吉はますます不快になるのだった。
利休は腰が低いだけの物言えぬ部下では決してなかった。
ここぞというときには、秀吉相手にも毅然として自分の意見を述べた。
天下統一を成し遂げた秀吉が、次に計画していたのが朝鮮出兵で、秀吉の周囲の武将は皆、太閤の意を察して何も言えなかったところ、利休は、「現時点で朝鮮に攻め込むことは得策ではありません」と秀吉に進言した。
その指摘がことごとく適切なものだから、秀吉としては聞き入れざるを得ない。それが一層秀吉を不愉快にさせるのだった。
利休は武将からの人望も厚かった。
保身を思って秀吉に諫言できない自分たちをさしおいて、一介の茶人である利休が天下人を恐れずズバッと自分の意見を言うのである。武将たちは利休の胆力に敬服した。
細川忠興(明智光秀の娘細川ガラシャの夫)なんかは利休をすごく尊敬していて、それをいぶかった福島正則が「たかが茶人に何を入れあげているんだ」とバカにしていたんだけど、忠興に誘われて利休の茶会に参加して、利休に恐れ入った。
「俺はこれまで、無数の戦で戦ってきたが、いかなる強敵にも怯んだことがない。だが、茶会で利休と対峙したとき、初めて恐怖のようなものを感じた」
秀吉に切腹を命じられたときには、前田利家や細川忠興らの大名が何とか利休の命を救おうと奔走したが、かなわなかった。
自分に媚びへつらう周囲の武将が、本当の意味で慕っているのは利休であることには、秀吉自身も充分気付いていた。
人望だけではない。芸術センスにおいても当代一流の利休に並ぶ者はなく、利休が認めた茶器には何万両という値段がつくのだった。
俺がどの茶器をほめたとて、土の塊以上の値段はつかないだろう。周囲からの人望、風流を愛でる心、豊かな教養、権力に物怖じしない胆力。
こいつは、俺の持ち合わせないものをすべて持っているかのようだ。
許せない。こいつだけは、許せない。
利休斬首の原因については諸説あって、定説はない。
でも、僕としては、秀吉の利休に対する嫉妬こそが背景であって、秀吉としては、いけ好かない利休に難癖つけて一発かますきっかけさえあれば、何でもよかったんじゃないかな。
利休を処罰した後、秀吉を諌める者はいなくなった。
朝鮮出兵を決行するも、失敗に終わった。
豊臣家の没落は、利休のような賢臣を殺してしまったことにあると思う。
ところで、利休の大成した茶道なんだけど、どんなお茶を使うか知っていますか。
番茶?ほうじ茶?違います。
抹茶です。
matchaといえば、今や外国でも通じるぐらいにメジャーになってきたけど、その成分が科学的に分析され、その効用についての研究が進んだのは比較的最近のことだ。
四月末の東京で行われたオーソモレキュラー医学会で、緑茶成分のテアニンについて研究している功刀浩先生が講演していて、興味深く聞いた。
テアニンには抗うつ作用、意欲改善作用のほか、統合失調症に対する有効性もある、とのことだった。
功刀先生いわく、
「マウス実験において、L-theaninの抗うつ作用および意欲改善作用については、有意差が出た。しかし、不安様行動を評価する試験においては、生理食塩水投与群と有意差がなかったことから、L-theaninに抗不安作用は認められなかった。」
茶をよく飲んだ秀吉ではあるが、利休に対する不安の念はくすぶり続けた。
抹茶に抗不安作用があれば、日本史は変わっていたかもしれないね。
2018.6.13
不眠を訴える人は多い。
「寝れないのなら、起きていればいいだけの話でしょ。
寝れないということは、体が眠りを欲してない、ということなんだからさ、そういうときは開き直ることだよ。
ベッドから起きだして、好きな音楽でも聞いて、気楽に過ごせばいい。それで自然に眠くなるのを待つといい」
というアドバイスは、半分当たり。半分間違い。
寝れない人は、その「寝れない」という状態自体に不安を感じがちで、その不安が焦りを呼んで、ますます眠れないという悪循環に陥っている。
「11時に布団に入ったのに、もう2時か。やばいなぁ。明日の朝、早いのに」という具合で、ベッドの中で延々苦しんでいる。
そういうときには、開き直るのも大事だ。
寝れないときはどう頑張っても寝れないもんだ、とベッドから起き上がって、「別に寝なくてもいいや」と腹をくくる。
それで翌日の準備なんかしてゴソゴソしてるうちに、不思議なもので、眠たくなってきて、布団に入ったら今度はちゃんと寝れた、みたいな経験のある人もいるだろう。
半分間違っている、というのは、このアドバイスは寝れない人の気持ちを全く分かっていない、とも言えるから。
「あのね、体的には疲れているんだよ。体はひしひしと休息を求めている。でも、体とは対照的に、頭のほうはすっかり冴えて眠らせてくれない、という感じなんだ。
だからさ、改めてベッドから起き上がって、何かしようだなんて、そんな気持ちにはとてもなれない」
気持ちの切り替えとか、そういう次元の話ではないよ、という訴えであって、こういう訴えにどう対処するかが、医療に期待されていることなんだな。
不眠に対する一般的な医学的アプローチはお決まりで、睡眠薬の投与。これしかない。
一番よく使われるのはベンゾジアゼピン系睡眠薬というタイプの薬で、はっきり言って、これは初めて飲む人にはすごく効きます。
不眠で苦しんでいる人の「すっかり冴えわたった頭」を、もう、問答無用で強制終了させてしまう、という感じだ。
なかには、眠りに落ちるときのこの強制スリープの感覚を嫌がる人もいる。
「奈落に突き落とされるような感じで、眠るというより意識を失う、という感覚に近い」という人もいる。
しかし、ほとんどの人は問題なく使い始める。少なくとも最初のうちは。
短期間の使用にとどめるだけならいいんだけど、ベンゾを長期的に使うと、後々、かなりやばいことになる。
それは、ベンゾには耐性と依存性があるからだ。
耐性というのは、昔なら効いたはずの量でも、その量では効かなくなることだ。体が薬に慣れてしまったせいで、同じ量ではもはや効かないから、量を増やさざるをえなくなる。
依存性とはその名の通り、「もうこれなしでは生きられない」という具合に、はまってしまうことだ。
たとえば、タバコは依存性はあるけど耐性はない。「一本吸っただけではものたりない」とか言いながら一気に二本三本のタバコを吸ってる人って見ないでしょ。
一本吸っただけで、きっちり満足できる。これはタバコに耐性がないからなんだね。
アルコールは耐性も依存性もある。初めて酒を飲んだときのことを思い出してごらん。
ちょっとの量飲んだだけなのに、かなり回ったでしょ。それに比べて、今どうですか。けっこう飲めるでしょ。それが耐性です。
ベンゾはアルコールに似たところがある。というか、ざっくり、「錠剤の形をしたアルコール」と形容してもそれほど間違いじゃない。
ベンゾは睡眠薬だけじゃなくて抗不安薬にも使われるけど、不安なときにお酒飲んで気持ちを紛らせてるような人、いますよね、抗不安薬の作用って実はあれと大差ありません。
「いや、昼間から酒飲んでる人と、あがり症に悩んで抗不安薬を飲んでるまじめな社会人を一緒にするな」と言われるかもしれないけど、そういう倫理的な意味ではなくて、生理学的な意味で、です。
つまり、ベンゾもアルコールも脳のGABA受容体に対して抑制的に作用する。交叉耐性という現象もある。
アルコール依存症者の離脱症状を抑えるのにベンゾを使うことがあるけど、こういう対処をする背景には、両者の相互作用がある。
医者もこういう点をわきまえているから、ベンゾと酒は一緒に飲まないように、と注意されるはずだ。
さて、このベンゾ、諸外国では処方できる期間に1か月とかの上限があるんだけど、日本は基本的に野放し。だから、十年二十年ベンゾを飲み続けているという人も、ざらにいる。
一度ベンゾにはまると、やめるのは相当に難しい。
長期的な副作用として、認知症とか癌とかいろいろあるけど、個人的に一番気の毒なのは、感情鈍麻だ。
人間としての感情、うれしいとか悔しいとか、楽しいとか悲しいとか、そういうのを感じられなくなってしまう。
ベンゾにはまる前は、そういう感情をありありと感じていたのが、長らくベンゾを飲み続けたことで、自分自身の感情をリアルに感じられなくなるんだな。感情を持つことなしに人生を生きるって、どんなに苦しいだろう。
こういうベンゾ依存に陥った人が一念発起して、「なんとか薬をやめたい」って思ったとする。で、そのことを主治医に話したとする。そうすると、先生、きっと困惑するだろう。
ベンゾの減薬、あるいは断薬がどれほど大変なことか、医者も知ってるからね。
そう、一般的な医学ではベンゾ依存の状態には打つ手がないのが実情だ。
ひどい話だね。処方しといて、はまってしまったら、「どうにもできません」、なわけで。
ただ、ありがたいことに、栄養療法にはベンゾをやめさせるためのプロトコルがある。
ビタミンCとナイアシンなどのビタミンを中心とした処方なんだけど、個人的にはアダプトゲン(ロディオラ、アシュワガンダなど)を併用すると非常に効果が高いと感じている。
ベンゾにはまってしまったら大変。
なので、初手が重要です。
不眠になったときには(というか不眠に限らず、何らかの体調不良を自覚したときには)、まず栄養療法を試してみてください。
不眠を訴える患者の話を聞きながら、さて、どのビタミンを使おうかな、と考えるのだけど、栄養療法のすばらしいのは(そして悩ましいのは)、選択肢の多さだ。
つまり、不眠に効くビタミンには複数あって、どれを使おうかというのが悩ましいところ。
患者が経済的に余裕があって「効くビタミンをとにかく一通り、全部出してほしい」というような人ならともかく、普通の人はあんまり多種類の錠剤を飲むのは嫌がるし経済的にも負担だと思うから、その人に特に効きそうな栄養を選ばないといけない。
単純にメラトニン出しといたらいいか、あるいはカスケードでその上流にある5HTPやトリプトファンを出すべきか。ビタミンB群やマグネシウムも補いたいし、日中にビタミンDを飲んでもらって、自前のメラトニン生成を促すのも手か。なんとなく話している感じがうつっぽいから、GABAを出すのもいいかもしれない。いや、アシュワガンダ、ギンコ、バレリアンとかのハーブ系のほうが向いてるかな。
こういう具合に、栄養療法では、打つ手がないのではなく、打つ手の多さという、ぜいたくな悩みに突き当たります。
もちろんサプリ出しといて終わり、ではなくて、食事指導も併せて行います。
具体的には、一度徹底的に糖質を控えてもらいます。
糖質じゃなくて脂質をエネルギー源にして体が動き始めると、ケトン体が生じます。断食してるお坊さんの脳波を調べるとα波が出てて、βエンドルフィンの血中濃度も上がってる。つまり、脂質代謝が優位になると、自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが整って、リラックス状態になる。
別に断食ほど極端な食事制限をする必要はないけど、糖質を減らしてかわりにたんぱく質や野菜を多めに摂ってみてください。
本当のことを言うと、サプリよりは食事改善のほうがむしろ本筋で、食べるものに気を使ってもらうだけで大半の不眠は改善します。
2018.6.12
「結婚なんてのは若いうちにしなきゃダメ。物事の分別がついたらできないんだから」というのは、樹木希林の言葉。
若さとはバカさのことで、そういうバカさの赴くままに突っ走らないと、結婚なんてできない、ということだろう。
これは名言というべきで、僕にはすごく重く響く。
「若いうちに結婚して、二十代の苦楽を一緒にともにする。年収も低いのに子供作ったりして、周囲のサポートも借りながら、何とかやっていく。三十代になって収入的にもそこそこ安定して、子供も大きくなってきて、家族としても安定していく、というのが一般的な流れだろう。いや、一般的かどうかは知らないが、少なくともそれが僕の流れだった。
結婚したい、と君は言う。しかしそれは本心だろうか。
つまり、君は自炊していて、食事を誰かに作ってもらう必要がないし、すでにそれなりの収入もあって、今の生活にそれなりに満足している。
自分の食べたいものを作ったり、自分の趣味に没頭できる時間もあって、今の生活、全然悪くないと思っている。
それが、結婚したらどうなる?自分の時間を、嫁や子供に捧げることになるだろう。本を読んだり、新たな知識を吸収して自分を成長させる楽しみを犠牲にして、代わりに、家族サービスや我が子の成長に喜びを見出すスタイルに変えていかないといけない。
すでに一人暮らしが長い君に、そういうことが果たして可能だろうか。
自分を成長させることに喜びを見出す人は、ある意味でずっとその人自身が子供なんだ。いや、誤解しないで欲しいんだけど、けなしているわけではないんだよ。自分のなかの内なる子供がちゃんと生きている、ということだ。
今後、君は年収的にはもっと安定していくだろう。
そして、皮肉なことだが、安定すればするほど、ますます結婚できなくなるだろう。
収入が増えるというのは、単に預金残高が増えていくということじゃない。それに伴って、自分に対する自信や誇りも大きくなる。それ自体はけっこうなことだが、困ったことに、そうして大きくなった自尊心に見合うだけの異性を見つけることは、ますます難しくなっていく。
つまりね、二十代の若い自分というのは、社会的には何者でもない存在だ。自分を安売りする、というわけでもないが、結婚という未知に飛び込む冒険をするのも楽しそうだなって自然と思うことができる。
でも、ある程度安定して、現状に満ち足りてしまうとどうなる?
どう考えたって、結婚なんて合わないよ。そんなリスクに飛び込むバクチなんて、できやしない。
パッとしない嫁と、大して可愛くもない子供に、自分の稼いだ金、自分の時間を彼らに吸収されて、自分の人生を生きられなくなってしまったら?
そんな茶番はまっぴらごめんだろう。
だからこそ君は、結婚に対してますます慎重になっていく」
「その洞察、けっこう当たってると思うけど、話はもっと簡単。出会いの場がないねん、単純に」
と杯をあおりながら笑いに紛らそうとしたけど、同級生の言葉が不気味な予言のようにも聞こえた。
結婚せんならそれはそれでええかもな、と思ってる自分があるのは確かで、やばい傾向かもしれんなぁ。