院長ブログ

ビタミンDと腸内細菌

2019.11.25

B’zに『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』という長いタイトルの曲があるけど、上には上があるもので、BEGINの曲にこういうのがある。
『それでも暮らしは続くから 全てを 今 忘れてしまう為には 全てを 今 知っている事が条件で 僕にはとても無理だから 一つずつ忘れて行く為に 愛する人達と手を取り 分け合って せめて思い出さないように 暮らしを続けて行くのです』
なぜこういう話をするかというと、下の論文のタイトルをみて、何かそういうのを思い出したんだ。

『ビタミンD欠乏によって腸内細菌が変化し腸内でのビタミンB産生が低下する。その結果パントテン酸が欠乏することで、動脈硬化や自己免疫疾患と関係する”前炎症”状態となり、免疫系に悪影響が生じる』
英語タイトルも添えておこう。
”Vitamin D deficiency changes the intestinal microbiome reducing B vitamin production in the gut. The resulting lack of pantothenic acid adversely affects the immune system, producing a “pro-inflammatory” state associated with atherosclerosis and autoimmunity”
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306987716303504
タイトルのなかにそこそこ長いセンテンスが二つも入った論文は初めて見た。
「タイトル長すぎるやろ!」ってツッコミ待ちの雰囲気がある論文だけど、内容はおもしろいので、紹介しよう。
【要約】
【研究の目的】
ビタミンDの血中濃度が60~80 ng/mlだと通常の睡眠が促進される。しかしこの効果は2年ほどで弱まり、関節痛が増悪するが、なぜこういうことが起こるのか、という機序を調べることが、本研究の目的である。パントテン酸はコエンザイムA(補酵素A)になる。これはコルチゾルやアセチルコリンを産生する際に必要な補因子である。
1950年代に行われた研究から、パントテン酸欠乏、自己免疫性関節炎、不眠症の間には関連性があることが知られていた。
血中ビタミンB群には腸内細菌の産生由来のものと食品由来のものがあることが示されているが、腸内細菌叢こそがビタミンB群のメインソースである可能性がある。文献のレビューによると、パントテン酸は食品には含まれておらず、腸内細菌叢によってのみ、供給されるのである。
ビタミンD補充によって徐々に二次的パントテン酸欠乏が誘導される可能性を検証するために、B100(ビタミンB12とビオチン100㎎と葉酸400mcgを除くすべてのビタミンB群を100㎎)をビタミンDのサプリに加えた。
【方法】
神経系疾患の患者1000人以上にビタミンDとB100を勧めた。睡眠、神経痛の具合、神経学的症状、腹部症状を定期的に記録した。
【結果】
ビタミンDとB100を3か月続けると、睡眠が改善し、痛みが軽減し、腹部症状が解消した。こうした結果は、ビタミンDとB100を組み合わせて使うことで、ヒトの通常の腸内細菌叢を構成する4つの特異的菌種(アクチノバクテリア、バクテロイデス、ファーミキューテス、プロテオバクテリア)に好ましい腸内環境になったことを示している。
【仮定】
1)ビタミンDの血中濃度は季節によって変動し、それによって腸内細菌叢も変化する。このことが冬季の体重増加傾向に影響している。しかし、ビタミンD欠乏が年単位で持続すると、腸内環境が永続的に固定化してしまい、「健康腸内細菌4人組」をもはや取り戻すことはできない。
2)ヒトは自身の腸内細菌叢と常に共生的な関係を持っている。我々が彼らにビタミンDを供給し、彼らが我々にビタミンB群を供給する。
3) 正常な腸内細菌叢を構成する「健康腸内細菌4人組」は、彼ら自身が共生的でもある。つまり、それぞれの菌種が、「他の三菌種には作れないが、しかし生存に必要なビタミンB」を少なくとも一種類以上分泌している。
4)睡眠が改善し、体内の細胞修復が更新することで、体内に貯蔵されているパントテン酸の消費がますます亢進する。そのせいでコルチゾールの産生が低下し、関節痛が増悪したり、免疫系に対して広範囲の”前炎症”を引き起こす。
5)パントテン酸欠乏はアセチルコリンを減少させる。アセチルコリンは副交感神経系の神経伝達物質である。つまり、パントテン酸欠乏により副交感神経系の働きが弱まり、相対的に交感神経系が優位になって、高血圧、頻脈、不整脈などの高アドレナリン状態となり、これが心疾患や脳卒中などの原因となり得る。

「腸内細菌が僕らの腸に住んでいるのは、ビタミンDが欲しいからである。そして腸内細菌は、ビタミンDを得るお返しに、ビタミンB群を供給してくれる。実際、血中に存在するビタミンBのほとんどが食品由来ではなく、腸内細菌の産生物由来である」。
おもしろい仮説である。
以前のブログで、ある種の抗生剤によって中性脂肪が低下することを紹介したが、この現象の背景にあるのも腸内細菌だった。腸内細菌と脂質プロファイルは、決して無関係ではない。
一方、ビタミンDはコレステロールをもとに産生される。つまりビタミンDは、ざっくり、「脂質のようなもの」である。腸内細菌が何らかの形で関与していても不思議ではない。

ビタミンDが、ビタミンDとして作用する面は当然ある。
骨、小腸、腎臓などの細胞にはビタミンD受容体(VDR)があって、そこにビタミンDがリガンドとして作用してどうのこうの、という話はもちろんある。
ただ上記の論文が指摘しているのは、ビタミンDの働きはそれだけではなく、腸内細菌のエサとなって彼らを養い、ビタミンB群を作らせている、ということである。
うつ病患者にビタミンDが効くこともあれば、ビタミンB群が効くこともあるのは、こういう腸内細菌の働きが影響しているのかもしれない。

もうひとつ、興味深いと思った指摘は、上記の【仮定】4)。
「よく眠ると、かえって調子が悪くなる」という患者をときどき見る。たとえば、よく眠った翌日には、統合失調症の症状が悪化する、とか。
その理由がいまいち分からなかったけど、よく眠る→パントテン酸の消費亢進→交感神経興奮→炎症増悪、というメカニズムで説明がつくように思う。
あるいは、うつ病に対して断眠療法というアプローチがある。この機序も、眠らない→パントテン酸の消耗抑制→副交感神経優位→穏やか、ということかもしれない。

天疱瘡とビタミンD

2019.8.27

天疱瘡という病気がある。
皮膚や粘膜にびらんを生じる病気で、自分の細胞の接着分子に対して抗体を作る自己免疫疾患だと言われている。
具体的には、こんな皮膚症状が生じる。

難病指定されてて日本全国で患者は6000人ほどと言われているけど、おそらく現場の皮膚科医としてはそんなにレアな疾患だというイメージはないと思う。
個人的にはポリクリで皮膚科を回ったときに見たことがあるのはもちろん、皮膚科が専門ではない僕でもときどき臨床で見るくらいだから、実数はもっと多いのではないか。

自己免疫疾患だから、治療はステロイドが基本。
症状の重症度と体重に応じたステロイドを投与するが、それで改善しなければ、ステロイドパルス療法として大量に投与する。
しかしステロイドは副作用の多い薬だ。
天疱瘡の症状は改善したものの、ステロイドの副作用で胃潰瘍になったりうつ病になるかもしれない。
感染症にかかりやすくなるし、長期に服用すれば骨粗鬆症にもなるだろう。
気になる症状がおさまったものの別の症状が現れては、一体治療なのか何なのか、よくわからない。
だから、副作用を抑えるための薬を投与しよう。
胃潰瘍の予防にPPI。骨粗鬆症の予防にビスフォスフォネート。
しかし、胃酸分泌を無理に抑えるとどうなるか。タンパク質の消化能力やミネラルイオンの吸収が低下する。腸内のpHが上がって悪玉菌優位の腸内細菌叢になる。
ビスフォスフォネートによって、むしろ骨折が増える。顎骨壊死が起こるかもしれない。
副作用を抑える薬がさらに別の副作用を起こして、もはや何がそもそもの病気で何が副作用なのか、わけがわからなくなる。西洋医学の対症療法によくある話だ。

天疱瘡に対してはステロイドを投与する、というのは、ガイドラインにしっかり書かれている。
しかしガイドラインには記載がないものの、天疱瘡にてきめんに効く治療法がある。ビタミンDの投与だ。
最近新たに開発された治療法、というわけではない。それどころか、すでに1930年代に著効することが知られていた。

医学というのは日進月歩で、年々進化していると皆さん思っているでしょう?
ある意味ではそうで、天疱瘡患者の血中に見られる抗デスモグレイン抗体がどうのこうの、みたいな科学的知見はどんどん増えている。
しかし、「誤った前提から出発する命題は、全て偽である」というのが論理学の教えるところだ。
現代西洋医学は、栄養の重要性を無視している。製薬会社の利益にならないビタミンなど、存在自体が完全に黙殺されている。
「抗デスモグレイン抗体がどうのこうの」的知識がいくら増えたところで、治療法はハナからステロイドありき、なんだ。
患者の利益にならない知見がどれだけ集積したところで、何の役にも立たない。

『天疱瘡はビタミンDによってコントロールできる』(1939年3月)
https://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/519153
要約
1932年Ludyは高用量のビオステロール(ビタミンD)と紫外線療法によって明らかに症状が改善した天疱瘡の症例を6例報告した。
彼の結果を参考にしてビオステロールの高用量治療を行った症例につき、報告する。

Ludyの報告は医療現場を大いに刺激したようで、その後あちこちで追試が行われ、ビタミンDの有効性が裏付けられた。
たとえば以下のような報告。
『皮膚科におけるビタミンD療法』(1941年1月)
https://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/519698
『高用量ビオステロールによる天疱瘡の治療』(1939年7月)
https://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/519242

1940年代の医者にとって「天疱瘡にはビタミンD」というのはもはや常識だった。
今の医者はそんなことをまったく知らない。患者の側から「天疱瘡にビタミンDが効くって聞いたんですけど」なんて言おうものなら、怪訝な顔をされるだろう。
時代が進むにつれて、医療が進歩するだって?とんでもない!
知識は、退歩する。医者のレベルは、低下する。
「昔はよかった」なんて懐古的になってるわけじゃないけど、こと医療に関しては、ビタミンに目を向けていた1930年代40年代のほうがはるかに患者にやさしい医療だった、ということは言えると思う。

ビタミンD3と冬眠

2019.4.17

植物は日光により光合成を行い、エネルギーを産生する。
動物はそうした植物を食べて、エネルギーを得る。いわば、間接的に太陽の恵みを食べている、という格好だ。
では動物にとって、日光には直接的な意味がないのか、といえば、全然そんなことはない。
人間を含め哺乳類も鳥類も爬虫類も両生類も、皆、直接的に太陽の恩恵にあずかっている。
その機序の一つは、ビタミンD3を介したものだ。

ビタミンD3は別名「日光ビタミン」とも言われるように、日の光に当たった皮膚で(ケモノでは体毛でも)生成される。
もう少し詳しくいうと、日光曝露によりコレステロールが7-デヒドロコレステロールに転換され、これが肝臓と腎臓で代謝を受けて、活性型のビタミンD3になる。
だから肝臓や腎臓の調子が悪いと活性型ビタミンD3の産生が障害される可能性があるんだけど、今はそういう難しいことはいい。
とりあえず、「お日さんを浴びた肌でビタミンD3が作られる」と理解しておこう。

生化学的には、D3はビタミンというよりはむしろホルモンだ。
コレステロールを材料にして生成されるプロセスが他のホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、テストステロン、コルチゾールなど)と共通しているし、分子式もよく似ている。
細胞の核にある核内受容体に作用して遺伝子発現に影響するところもホルモンと同じ。
そのあたりを踏まえれば、D3は「日光ホルモン」と呼んだほうが適切かもしれない。

病気との関連で言えば、血中D3濃度の低下と相関が見られる病気は多い。
多すぎて、ほとんどすべての病気ではないかと思えるほどだ。
あえて列挙すると、、、
代謝疾患(高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症、痛風、メタボリック症候群、頭痛、めまい、低血糖症、性腺機能低下症)
精神疾患(うつ病、統合失調症、双極性障害、強迫性障害、自閉症、学習障害、過食症、アルコール依存症)
消化器疾患(胃炎、胃潰瘍、過敏性腸症候群、クローン病、潰瘍性大腸炎)
呼吸器疾患(風邪、ぜんそく、結核、COPD)
筋骨格疾患(関節炎、ガングリオン、子供の成長痛、骨痛、足底筋膜炎、くる病、骨軟化症、骨棘、骨粗鬆症)
循環器疾患(心不全、心肥大、脳卒中、静脈瘤)
腎・泌尿器疾患(腎臓病、尿失禁)
皮膚疾患(水虫、爪水虫、ニキビ、フケ、乾癬、アトピー性皮膚炎、光線性角化症、日焼け、皮下嚢胞、古傷)
眼疾患(黄斑変性、近視・遠視、緑内障)
免疫系疾患(アレルギー、リウマチ、SLE、強皮症、1型糖尿病)
神経疾患(パーキンソン病、ALS、多発性硬化症、認知症)
産婦人科系疾患(月経前症候群、早産・死産、子癇、妊娠糖尿病)
その他、虫歯、各種の癌(特に前立腺癌、乳癌、直腸癌、白血病、膵臓癌など)、各種の感染症

ビタミンD3の欠乏と上記の病気がどのように関連しているのか。
この関連性を説明する仮説がある。以下に紹介しよう。

生命が発生してン十億年。生物は太陽の恩恵を巧みに利用する形で進化してきた。
だから、日光が生存に悪影響を及ぼすことは、本来あまりないはずなんだ(皮膚癌のリスクは煽られすぎだと思う)。
むしろ生物にとっての課題は、日光の乏しさに対していかに対処していくか、ということだった。
夏はいい。あふれる太陽と萌える緑。豊富な木の実や果実。
生い茂る植物を草食動物が食べ、その草食動物を肉食動物が食べる。
長時間にわたり惜しみなく注ぐ日光と豊富な食材が、生存を保証してくれている。
しかし冬になると、どうなるか。
短い日照時間と厳しい寒さで、植物は育たない。捕食行動をしようにも、そもそも食糧が存在しない。
困った。食えなくては、死んでしまう。どうすればいいだろうか。
そこで彼らは、冬眠という方法を編み出した。
厳しい冬の間は、下手に動くのは得策ではない。また温かい春が来るまで、いっそ眠り通してやろう。
クマ、リス、ハリネズミ、ハムスター、コウモリ、蛇、とかげ、亀、カエル、ワニ、フナ、メダカ、かぶとむし、てんとう虫など、多くの生物がこの戦略を採用した。
そして見事、厳しい冬を乗り切ることに成功した。

ところで、人間はどうだろうか。
温暖な赤道近辺に安住することをよしとせず、高緯度地域へ北上あるいは南下していった人間は、冬の寒さをどのように乗り切ったのだろうか。
ホモ・サピエンス(頭のいい人)を自称する人間である。動物の毛皮を着て、家を作り、火を使うなど、万物の霊長として、知恵を使って冬をしのいできた。
しかし人間も動物である。冬眠という越冬手段は、人間もあえてその気になれば、できなくもなかった。
たとえばこんな報告がある。
https://uk.reuters.com/article/uk-sweden-snow/swedish-man-survives-for-months-in-snowed-in-car-idUKTRE81H0JX20120218
(冬の二か月間、飲まず食わずのまま低体温(約31度)状態で過ごした男性)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/6197339.stm
(23日間飲まず食わずのまま低体温(約22度)状態で過ごした男性)
人間も他の動物と違わず、ある種の条件下では冬眠状態になることで急場をしのぐ。そういう本能がいまだに残っているようなんだ。
活動状態と冬眠状態、その切り替えを促すものは何だろう。
そのスイッチの一つこそ、日光ホルモン、ビタミンD3ではないか、という説がある。

夏、豊富な日光のもとでは、血中のD3濃度は高い。
D3は体にメッセージを送っている。
「食べ物はそこらへんにいくらでもあるよ」「夜は短く、昼は長い。日中は活動的に行きましょう」
だから、代謝が活発になる。エネルギーの消費モードだ。飢えを恐れる必要がないから、食欲はそんなにない。
一方、冬になるにつれて、日照時間が減少する。同時に、皮膚で合成されるビタミンD3が減少する。
これが、冬の到来を知らせるある種のシグナルになる。
「もうすぐ飢えと寒さの季節が来るよ」「エネルギーの無駄遣いは厳禁だ」「しっかり食べて、脂肪を蓄えておけ」
代謝を極力落とし、体を休眠へ誘う。エネルギーの節約モードだ。
食欲が亢進して、同時に活動量も低下することで、能率よく脂肪がたまる。

この「冬眠仮説」によって、上記に挙げたD3低下との関連が指摘されている疾患のほとんどがクリアに説明できる。
たとえば、うつ病というのは冬眠そのものだ。
D3低下は「活動量を下げろ。ムダにエネルギーを使うな」という警告なんだから、無気力で何をする気も起きず、ずっとウトウト布団で過ごしているというのは、実に合目的的な行動だと言える。

高脂血症は皮下脂肪のみならず、血中の脂質をも高めておこうとする反応だし、糖尿病も血中にグルコースとしてエネルギーを蓄えておこうとする反応だ。
また、血中のグルコースが高いこと、および血圧が高いことは、寒さから身を守るための適応でもある。
「水溶液の濃度が濃いほど、圧力が高いほど、凝固点が低下する」というのは理科の授業で習っただろう。
冬眠中に血液が凍っては一大事だから、高血糖、高血圧は、厳しい冬をしのぐための理にかなっている(そういえば、車のラジエーターの不凍液はエチレングリコールで、なめると甘いらしい)。

関節炎は冬に増悪することが多い。
D3低下による炎症(および痛み)の悪化は、「狩猟のために遠出なんてしてる場合じゃないぞ、家でじっとしておけ」というメッセージだ。
不必要に過剰な行動への牽制になり、エネルギーの消耗を防ぐことができる。

風邪が夏より冬に多いのはなぜか。
一般的な答えとしては、「空気が乾燥しているから」ということになっている。
そういう側面もあるかもしれないが、D3濃度の低下の影響は無視できないはずだ。
免疫賦活作用のあるD3が低下しているわけだから風邪をひきやすくなるのは当然だし、また、疲労感などの身体症状のため、活動量が低下する。
やはり、「家で寝とけ」ということだ。

ここまで説明すれば、D3のサプリメントがなぜ過食症やアルコール依存症(広義の『糖質欲求亢進症』)を改善する一助になるのか、もうお分かりだろう。
過食症の患者で、タンパク質(肉や魚)をドカ食いする人を見たことがない。例外なく、炭水化物(特に糖質)をむさぼり食っている。
D3不足が「冬が来るぞ。しっかり栄養を蓄えろ」というメッセージを送っているのだから、その声に従って、能率よく体重を増やせるものを食べているのだ。

僕がD3を勧めたある患者が、言っていた。
「先生、ビタミンD、すごい効いてます。食欲が落ちました。でもまったく食べれない、っていうわけじゃないです。ただ、自然と、『もういいかな』って感じになります。
あと、びっくりしたのが、私、昔左膝を痛めたことがあって、それ以来、走ることができなくなってたんだけど、その痛みがビタミンDを飲みだして数日で、不思議と消えました。
ビタミンDを始める以外他に何もしてないから、きっとこの効果だと思うんです」
その通り。D3には古傷を修復する作用もある。
これも「冬眠仮説」で説明がつく。
D3低下状態において、体は周囲を「冬」だと認識して、エネルギー節約モードになっている。そういう状態でケガをするとどうなるか。
組織の損傷に対して、完全に治癒させようとはしない。とりあえず、生存していくのに差し支えのない程度の突貫工事で、状況をやりくりしようとする。
食糧事情の切迫した冬なんだから、不測の事態に備えてエネルギーをケチらないといけない。根本からの修復は、またあたたかい季節が来てからで(血中D3濃度が上がってからで)いいだろう。
体はそういうふうに考えている。
しかし実際にあたたかい季節が来ても、現代日本に生きる若年女性はほとんど全員が「太陽はお肌の大敵」だと思っていて、日光に極力当たるまいとする。結果、血中D3濃度は「冬」のまま。それで古傷が延々治らない。
ところがD3を摂り始めたことで、ようやくこの患者に「春」が来た。
体もようやく重い腰を上げ、古傷の治療を開始し始めた、というわけだ。

傷がきれいに治らず、色素沈着してあとが残る、という人はいませんか?
そういう人の体は、乏しいD3濃度のせいで「冬」の節約モードにあるのかもしれない。
最近の医学は紫外線によるシミ、しわ、皮膚癌の危険性を言い過ぎる。
この説を真に受けて、太陽を悪魔のごとく忌避し、日焼け止めを塗りまくっている女性は多い。そのせいで血中D3濃度が低下して、女性たちは様々な病気にかかりやすくなっている。
皮膚科医の罪はとてつもなく大きいと思う。

D3をサプリとして摂るなら、どれくらい摂ればいいのか。
一般に言われる推奨量、600 IU程度でいいのか。もっと摂るべきか。
脂溶性ビタミンで摂り過ぎはよくないというが、大丈夫か。

長い文章になってしまった。
また後日に稿を改めます。

参考”The Miraculous Results of Vitamin D3″(Jeff Bowles著)

ビタミンD

2019.4.7

温かくなって、いい季節になってきた。
温かいことで、医学的にどんなメリットがあるか?
温かいから、薄着で外を歩くことができる。薄着だから皮膚の露出部分が多い分、日光によく当たる。日光が当たると、皮膚でビタミンDが生合成される。
ビタミンDはほとんど「万病に効く薬」と言ってしまいたいほど、心身にプラスの効果がある。

精神的には、抗うつ作用がある。冬季うつなんかは、ビタミンD欠乏性うつと呼ぶべきで、ビタミンD補充がテキメンに効く。一般の精神科ではルーチンで抗うつ薬が処方されているけど、ベターチョイスがなおざりにされているのは(というか医者がビタミンDにまったく目を向けていないのは)、悲しいことだね。
さらに、血中ビタミンD濃度の高い人ではアルツハイマー病になりにくい、というのが疫学の示すところだ。

骨の病気(骨粗鬆症、くる病、骨軟化症)にも効くから、若い女子諸君は紫外線を恐れるあまりに日光を過剰に避けるのはよくないよ。
シミはあるけど骨がタフで頭もしっかりしているおばあちゃんと、美肌だけど骨折で寝たきりで認知症のおばあちゃん、どっちになりたいですか。「綺麗になれたそれだけで命さえもいらないわ」ってテレサ・テンが歌ってるけど、常識的には、まず、キレイさよりも健康でしょう笑。
若いときに運動部で頑張っていた人は、高齢になっても骨粗鬆症になりにくいことが分かっている。運動による機械的刺激で骨がタフになったということもあるし、成長期の大事な時期にしっかり日光を受けることで、ビタミンDの生合成が促進され、骨が強くなっている。その貯金(貯骨)のおかげで、高齢になっても骨粗鬆症になりにくいわけだ。
ビタミンDが不足すると、副甲状腺機能が活性化し骨の脱灰が促進され、骨粗鬆症が進展する、という機序もある。

「サーファーに花粉症なし」という格言がある。
「夏にサーフィンするんだけど、その時期だけは花粉症が治る。食べ物とか特に気を使ってるわけじゃない。いつも通り、コンビニ弁当とかジャンクフードばっかり。でもなぜか、この時期だけは調子がいい」こういうサーファーがたくさんいる。
このメカニズムは?
海辺の強い日差しを浴びて、血中のビタミンD濃度が高まる。さらに、海水に含まれているミネラル(特にマグネシウム)が経皮吸収される。
ビタミンD、マグネシウム、いずれにも抗アレルギー作用がある。
マグネシウムが欠乏すると、IgE、炎症性サイトカイン、ヒスタミンが増加することが分かっている。いずれもアレルギーに関係するマーカーだ。
(『皮膚アレルギーにおけるマグネシウム』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17928798)
日照量と自己免疫疾患(1型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、SLEなど)の関係性についてのエビデンスは膨大で、ここにも当然ビタミンDが関与している。でも膠原病内科の医者で、患者にリウマトレックスじゃなくてビタミンDを投与している人を僕は見たことがない。これも悲しい現実だね。

1型糖尿病は免疫疾患だけど、2型糖尿病はどちらかというと生活習慣病だ。でも、2型糖尿病にもビタミンDが効く可能性が示唆されている。つまり、疫学では、血中ビタミンD濃度と2型糖尿病発症率の間に逆相関が見られた。

ビタミンDには抗癌作用がある。日光曝露量が少ないこと、血中ビタミンD濃度が低いことが、大腸癌と乳癌のリスク因子であることが分かっているし、逆に、ビタミンDのサプリを予防的に服用することで癌の発症率が低下する可能性がある。

腸内細菌の研究から、「腸脳相関」ということが言われ始めて、最近ではさらに、「腸脳皮膚相関」を唱える先生もいる。確かに、発生的には脳と皮膚はいずれも外胚葉由来。いわば共通のご先祖を持つ器官で、無関係ではない。
うつ病やアルツハイマー病というのは脳神経系の疾患で、それにビタミンDが効くということは、皮膚疾患にも効果があるのではないか、というのは理にかなった推測で、その通り。実際、アトピー性皮膚炎への有効性が示唆されている。
(『ビタミンD濃度とアトピー性皮膚炎に対するビタミンDサプリの効果』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30284328)
腸内に無数の細菌がいるように、皮膚にも無数の常在菌がいる。腸が荒れると皮膚が荒れるように、腸と皮膚の相関は確かにあるだろう。皮膚の免疫異常のアトピー性皮膚炎にビタミンDが有効だということは、腸の免疫異常(クローン病など)にビタミンDが有効だということも、やはり筋が通っている。
(『ビタミンDと炎症性腸疾患』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21419280)

「ほう、ビタミンDというのはそんなにいいのか。じゃ、ひとつ、自分も飲み始めようか」と思う人は、とりあえず5000 IUあたりから始めるといい。
何らかの不調があってその治療目的で飲む人は、症状次第だけど、25000 IUとかそれ以上の高用量を飲むのもありだけど、同時にマグネシウムとビタミンK2の服用を忘れないこと。
以下に関連論文を訳しておこう。
『ビタミンD欠乏時のマグネシウム補充』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28471760
要約
背景:ビタミンDとマグネシウムは医学で最も研究の進んでいるテーマのひとつであり、人間の健康および疾病に強く関わっている。多くの成人はビタミンD、マグネシウムともに欠乏しているが、医療従事者はそのことを認識していない。
課題:マグネシウムとビタミンDは体内のすべての臓器で利用されているため、不足するといくつかの慢性疾患を発症する可能性がある。栄養と病気の関連についての研究には互いに矛盾したものもあり、仮に栄養を充分に補充しても病状が回復しない可能性もある。サプリの使用は、現時点では、治療というよりもあくまで予防にすぎないと思われる。
データソース:ビタミンDとマグネシウムと各種疾患との関係性についての文献をPubMedで検索した。
結果:中年患者におけるビタミンDとマグネシウムの補充療法は、 非脊椎骨折、全死亡率、アルツハイマー病発症率を減少させた。
結論:一般的に血中ビタミンD濃度の正常値とされている範囲の下限値は、病気の予防にはまったくもって不十分である。疫学調査によると、世界中の全成人の75%が血中25(OH)D濃度が30 ng/mL以下である。近年、ビタミンD不足を意識する人が増えているため、ビタミンDをサプリで補うことが一般的になってきているが、マグネシウム欠乏はいまだ放置されたままである。慢性的なマグネシウム欠乏をスクリーニングで見つけることが難しい。なぜなら、一般的に正常とされている血中濃度だとしても、実際には中程度から重度のマグネシウム欠乏である可能性を否定できないからだ。現在、ヒトにおける体内の全マグネシウム量を正確に評価する計測法は存在しない。マグネシウムはビタミンDの代謝に必須であり、ビタミンDを高用量で摂取すると重度のマグネシウム欠乏を引き起こすことがある。ビタミンD投与による治療を行う際には、充分量のマグネシウムをも併せて補うことが重要である。